カール・バルト（その生涯と神学の総体像）

『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−１６

「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−１６
　「必然的な純化」へと導く「第三の確認」は、次の点から成り立っている――すなわち、キリストにあっての「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性における「神の全能を言い表す告白」（「神についての一つの言明」）は、「神の恵みと神聖性」・「神のあわれみと義」・「神の忍耐と知恵」、「神の単一性と遍在」・「神の永遠性と栄光」という神の本質の区別を包括した単一性における「神についてのすべての言明と同じように」、可視的な「啓示の実在」そのものである「ナザレのイエスという人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」（聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における、その第二の存在の仕方、その働きと業・行為、その子なる神の存在としての全き神の全き自由の愛の行為の出来事）において、その「存在の本質」である「失われない単一性」・神性・永遠性の認識と信仰（信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰）を要求する啓示であるから、キリストにあっての神の「その自己啓示によれば、神が（≪その「失われない差異性」における三つの存在の仕方における≫）事実的なみ業の中でなし給うたし・なすし・なすであろうことに対して視線を向けているが、……内容的にはただこの業を確かめ記述するだけでは尽くされてしまわない言明をしているという確認から成り立っている」。その「業そのもの」が、「神の全能」（「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における三つの存在の仕方である父・子・聖霊なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体）と、それ故に「神の本質といわば全く重なり合い」（換言すれば、「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神とその神のわれわれのための神としてのその存在の仕方における神との区別を放棄・消失・解消させてしまった、「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性におけるその区別を放棄・消失・解消させてしまった）、それ故に「神の全能は、まさに神の全能の活動（≪われわれのための神としてのその存在の仕方における神の全能の活動≫）以上でも以下でもなく、また神の全能の活動（≪われわれのための神としてのその存在の仕方における神の全能の活動≫）は、それとして（≪「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性におけるその区別を放棄・消失・解消させてしまった≫）、神的な全能であるといった具合ではないのである」。キリストにあっての神は、「確かにまさに、（そのただ中でご自身を啓示し給うた）そのみ業（≪その「失われない差異性」における三つの存在の仕方≫）の中で、効果的に働き給う方」である。したがって、ご自身の中での神としての、それからまたその神のわれわれのための神としてのその存在の仕方における「神の全能は、その神の活動の力であり、まさにその業を遂行されたし・遂行されるし・遂行されるであろう方の活動の中での力」――すなわち可視的な「啓示の実在」そのものである「イエス・キリストの名」・「彼のみ業（≪聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「失われない差異性」における第二の存在の仕方、啓示者である父なる神の子としての啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉≫）のただ中で、現にあるところのものとして啓示された方の活動の中での力」であり、「それ故に、われわれは、その方がわれわれには知られていない何か別な業あるいはその神的存在そのものの中で」、「イスラエルの牧者および教会の主以外の者であるのではないかと恐れる必要がないし、またそのようなことを望んではならないし、またどのような意味ででもそのようなことを期待することはできないということである」。「しかし、……（≪「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性におけるわれわれのための神としてのその存在の仕方における≫）神の全能」（「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における三つの存在の仕方である父・子・聖霊なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体）は、それ故に「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての「神の本質」は、「神が事実為し給うことの中で、換言すればその全能（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の、その三つの存在の仕方、すなわち父・子・聖霊なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体≫）の活動の中で、……消失」するという考えは拒否されなければならない、それ故にその存在の仕方における「その全能の活動と等置させることができるという考えは拒否されなければならない」。何故ならば、前述したように、ご自身の中での神としての、それからまたわれわれのための神としてのキリストにあっての神は、「決して……ただ（≪そのわれわれのための神としてのその存在の仕方において≫）現に為すところのことを事実為し給うということの中でだけ神であるとか、神の全能はただそのことの中でだけ全能であるということではない」からである。「神的愛の完全性」としての「神の恵みと神聖性」・「神のあわれみと義」・「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性（換言すれば「神の本質の単一性と区別」）が問題であるように、「神の自由の様々な完全性」としての「神の単一性と遍在」・「神の不変性と全能」・「神の永遠性と栄光」という神の本質の区別を包括した単一性（換言すれば「神の本質の単一性と区別」が問題である。「創造、和解、救済は、神の全能の業……まさに実際に神の全能の業（≪性質・働き・行為・行動・活動、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における三つの存在の仕方、父・子・聖霊なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体≫）である」、キリストにあっての神は、この存在の仕方における「み業の中で全能であり給う」。キリストにあっての神は、「忠実にこの業とご自身を結びつけ給うたことによって、神」は、われわれのための神としてその存在の仕方において「そのみ業（≪その存在の仕方≫）の中で全能でありつつ、同時また」、「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神として「ご自身の中でも全能であることをやめ給わない」。キリストにあっての神は、この神の本質の区別を包括した単一性における「全能」を、その存在の仕方における「業の故に失ってしまわれはしなかったのである」、「ちょうど資本――まさにこの企てに投資され、その限りもはやその所有者が自由に処理できなくなった資本――のように」、すなわち「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性におけるわれわれのための神としてのその存在の仕方における神の全能（「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の、その三つの存在の仕方、すなわち父・子・聖霊なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体）の業は、「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての神の全能とわれわれのための神としてのその存在の仕方における神の全能という神の本質の区別を包括した単一性ということを放棄・解消・消失させはしないのである、すなわちその一方自体だけの自己運動の過程を持たないのである。このような訳で、キリストにあっての「神の愛」は、ご自身の中での神としての「神が、（≪われわれのための神として≫）その（≪存在の仕方において≫）み業を為しつつわれわれに身を向けたもう神の愛」であり、「その中で、神がご自分をわれわれの神となし給う神の愛」である。また、キリストにあっての「神の愛」は、「われわれにとっての愛として、その力と真理」を、「それが自由（≪上述した【注】を参照≫）な愛であり、あくまで自由な愛であり続けるということ」、「神は、ご自身をわれわれと結びつけることができるものとして、またその方がご自分をわれわれと結びつけること（下記の【注１】を参照）は、まさに……神はそれ以前に拘束されてい給わず、主であり給い、われわれに合わせてご自分を低くし給うことによって、主であることをやめ給わず、……まさにそこで主であり、主であり続け給う高所から、われわれに合わせてご自分を低くし給うた（下記の【注２】を参照）という理由で」、「神の恵みと神聖性」・「神のあわれみと義」・「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性における「助けに満ちた恵み、あわれみ、忍耐であるところの方としてご自分をわれわれと結びつけられたし、結びつけ給うということの中に、持っている」。キリストにあっての「神は、全き仕方でわれわれの神であり給う」、「しかし、神は、ただ単に（≪われわれのための神として≫）われわれの神でだけあるのではないということの中で（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての神であるということの中で≫）、全くわれわれの神であり給う」。このことは、「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性におけるわれわれのための神としての「神の全能」を、「われわれが……その（≪存在の仕方における≫）み業の中で認識し敬うことによって」、「われわれによってこの神の業の中で愛されほめたたえられるべきものである」「神の全能」として受け取らなければならないということを意味している同時に、「この業の中で神のものである全能（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての神の全能≫）として受け取らなければならないということをも意味している」。「ただその時にだけ」、われわれは、「神の全能をそのみ業の中で、正しく、換言すれば神的な全能として、認識し敬うであろう」、「神の全能に対して……神の業としてでない仕方ででも理解されることができるであろう実在を言い表す名前でしかないのではないかという嫌疑から全く自由であり純粋である恐れと信頼を向けるであろう」。「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての神の全能とわれわれのための神としてのその存在の仕方における神の全能という神の本質の区別を包括した単一性――この「神的全能の活動の中で、すなわち創造、和解、救済の中で確証され実証される神の全能を正しく理解するために」は、ご自身の中での神としての、それからまたその神のわれわれのための神としてのその存在の仕方における「神の全能は、（≪それ故に≫）そのまま神の全能の活動そのもの（≪その神の「失われない差異性」における三つの存在の仕方、働きと業・活動≫）であるのではないということ（≪「何故ならば、そうでなれば神は、神とは異なる実在によって拘束されてしまうことになるであろう」し、「そのような実在の中でいわば消滅してしまうであろう」からである≫）」、「確かに神が、（≪われわれのための神としてのその存在の仕方において、神とは全く異なる≫）その実在を愛の中で引き受け、それとご自分を結びつけ給うことによって（上述した【注】を参照）、また（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神として≫）ご自身の中で神であり・全能であることをやめることなしに、……徹頭徹尾その実在のためにも、またわれわれのためにも……その（≪存在の仕方における≫）全能の活動の中で」、「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての神の全能とわれわれのための神としてのその存在の仕方における神の全能という神の本質の区別を包括した単一性において「神であり・全能であるために、神の全能は、神の（≪その存在の仕方における≫）全能の働きとなるということを見て取ることにすべてがよってもってかかっている」。したがって、われわれは、「神的愛の完全性」としての「神の恵みと神聖性」・「神のあわれみと義」・「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性における「恵み、あわれみ、忍耐の勾配」を、「その中で神が、（≪この神は、ご自身の中での神として、それからまたわれわれのための神としても、全き自由の神であるから≫）そのことを必要とすることなしに、またそのことでもって何かを失うことなしに、（≪ご自身の中での神として≫）ご自分をわれわれの全能の神となし、神の全能を（≪その存在の仕方における≫）全能の活動としてわれわれに向け・役立たしめ給う勾配を見て取ることが大切である」。もしもそうではないとしたならば、「その時、どうしてわれわれは、神の全能を、神的全能として認識し・讃美することができるであろうか」、「その時、どうしてわれわれは、それが神的全能として当然値したし、要求している恐れと信頼を、神の全能に対して向けてゆくことができるであろうか」。このような訳で、「実にすべてのことが、神が（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての≫）ご自身の中で全能なるものとして認識されることによってもってかかっている」。ご自身の中での神としての、それからまたわれわれのための神としてのその存在の仕方における「神の全能は、確かに創造主、和解主、救済主としてのその（≪存在の仕方における≫）全能の活動の中で、神の啓示に基づいて認識されるが、しかしまさに（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての≫）神の全能として認識され、その限りまた神の（≪その存在の仕方における≫）全能の活動として＜区別＞されるということ」――このことは、「まさに（≪その神のその存在の仕方における≫）そのみ業の中で、われわれに対して現臨され、その啓示を通して知らされる全能の神を崇めるため、換言すればその神性を崇め」、「神的愛」としての「神の愛の自由を崇めるためにこそ、（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神としての≫）神の全能がその全能の活動（≪われわれのための神としてのその存在の仕方における父・子・聖霊なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体≫）とも＜区別＞されるということに、すべてがよってもってかかっている」。

【注１】
　『福音と律法』に即して言えば、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避に対する神の答えである刑罰（死）」を、「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」・完了）――このインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めずに、何ら価値や力や資格もない罪によって暗くなり・破れた姿の人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも（≪それは神の側の真実としてあるものとして、それ故にそれと人間理性や人間的欲求やによって対象化され客体化された人間的なものすべて・すべての「存在者レベルでの神」・すべての偶像と≫）混淆（≪混合・協働・共働あるいは折衷≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。

【注２】
　『教会教義学』の「神言葉」および「神論」に即して言えば、「身をかがめること」、「身を屈するとか身分を落として卑下するという形で遂行される身を向けること」、すなわち「より高い者が、より低い者に向かって身を向けること」は、「ギリシャ語の恵みの意味の中に、またラテン語の恵みの意味の中に、……ドイツ語の恵みの意味の中に含まれている」。この「身を向けることの中に」、「特に（その中でこの言葉が現れている）旧約聖書的な脈絡がそのことを明らかにしているように」、「神が（≪われわれのための神としてのその存在の仕方における≫）よき業として人間に対してなし給うすべてのこと、神のまこと、神の忠実さ、神の義、神のあわれみ、神の契約（ダニエル九・四）、あるいはあの使徒の挨拶の言葉によれば、神の平和が含まれている」。「それらすべては、まず第一に、基本的に、神の恵みである」。「恵み（「神的な賜物」）……の総内容」――すなわち「啓示者である父に関わる創造、啓示そのものである子に関わる和解、啓示されてあるものである聖霊に関わる救済」、父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事全体としての神の存在）は、「確かにきわめて『超自然的な賜物』でもあるが」、それを「与える方自身が」、すなわちご自身の中での神としての「神ご自身が、（≪神の側の真実として≫）自分自身を賜物とすることによって、自分自身、（≪われわれのための神としてのその存在の仕方において、神とは異なる≫）他者との交わりの中に赴き」、それ故に「自分自身を他者に相対して愛する者として示し給う限り」、先行してわれわれのための神がその存在の仕方において「ご自身と……被造物の間に直接交わりを造り出し、保ってゆくこと」であるから、「そのような賜物なのである」。「神が恵みを与え給うことの原型は、神の言葉の受肉（≪その言葉の受肉であって、その神性の受肉ではない≫）、神と人間がイエス・キリストにあって一つであることである」。「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間「イエス・キリストにおける神の愛は、神自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。ここでは、「神と人間の間の第三のものは発生しなかった」。ここでの「恵みの秘義（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰としてだけ認識可能なそれ≫）と本質」は、次の点にある――「二つのものが、（徹頭徹尾第一のものの意志と力を通して）直接一つのものとなり、神と人間の間のあの直接的な『平和』、パウロが『恵み』という言葉と関連させて、……その内容的な定義として、……しばしば名指すのを常としている『平和』が樹立されるという」点にある。ご自身の中での神として「恵み深い神」と、われわれのための神としてのその存在の仕方において「恵み深くあり給う」神との間には、中間的な領域としての恵みについてのグノーシス主義的に受け取られた考え方が介在することは許されない」のである。「ここではすべてのことは直接性に」、それ故に「神の存在と行為が実際に神の本質的ナ独自ノ性質として、換言すれば神ご自身として、すなわち神ご自身（≪ご自身の中での神、その存在≫）であり、自分自身を確証（≪自己認識・自己理解・自己規定≫）することによって（≪われわれのための神、その存在として、その存在の仕方において≫）恵み深くあり給う方として、理解されるということによってもってかかっている」。したがって、「旧約聖書と新約聖書の中で、……力を込めて神を指し示しつつ、『わたしの』、『あなたの』、あるいは『彼の』恵みについて語られているのである」。したがってまた、「聖書的な人間は、ただ単に『あなたの恵みにしたがって、わたしをお救いください』（詩篇一〇九・二六）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを覚えてください』（詩篇一〇六・四）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを生かしてください』（詩篇一一九・八八）、『あなたの恵みを聞かせてください』（詩篇一四三・八）等々について語られているだけでなく、ほとんどのところで直接、単純に、『わたしに対し恵み深くあってください』と言われている」。「それに対して、わたしの知る限り、わたしに恵みを＜与えてください＞という言い方はどこにも出てこない」。このような訳で、「使徒たちがその教会に対して臨んでいるすべてのことは、よく知られている挨拶の言葉でもって総括」することができる――すなわち、全き自由な神の全き自由の「恵みがあなたがたにあるように」。したがって、「神の言葉は、使徒行伝一四・三、二〇・三二によれば、単純に『恵みの言葉』」と呼ぶことができる。「パウロにおいては、恵み、彼自身の回心、彼の使徒職とその行使、それと共に福音の宣教は、一つのまとまった全体を形作っている」――「神の恵みによって、わたしは今日あるを得ているのである。そして、わたしに賜った神の恵みは無駄にならず、むしろ、わたしは彼らの中の誰よりも多く働いてきた。しかしそれは、私自身ではなく、わたしと共にあった神の恵みである（�Tコリント一五・一〇）。なお、ローマ一・五を参照せよ」、「まさに恵みこそが、包括的に、神が現にあるところの方として、（≪われわれのための神としてのその存在の仕方において≫）われわれに身を向け給う際の向け方を特徴的に言い表している」。
　受肉・「神が人間となる」・「僕の姿」・「自分を空しくすること、受難、卑下」は、「神性の放棄」や「神性の減少」を意味するのではなく、「神的姿の隠蔽・覆い隠し」を意味している。したがって、「メシヤの名」に対する「『人の子』というイエスの自己称号」は、「（覆いをとるのではなくて）覆い隠す働きをする要素として、理解する方がよい」、「逆に使徒行伝一〇・三六でケリグマが直ちに、すべての者の主なるイエス・キリストという主張で始められている時、それはメシヤの秘義を解き明かしつつ述べていると いうように理解した方がよい」。

　これはかつて論じたことであるが、まさに「神は自由で、尊厳で、絶対主権的であり給う」。このような訳で、キリストにあっての「神は、（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――啓示者・言葉の語り手・創造主なる神、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――啓示・語り手の言葉・和解主なる神、愛に基づく父と子の交わりとしての第三の存在の仕方である聖霊――啓示されてあること・「神の言葉の三形態」の関係と構造、秩序性・救済主なる神という仕方で≫）遍在でありつつ（≪単一性として≫）ひとりの方であり、全能でありつつ不変であり、栄光に満ちつつ永遠であり給う」。したがって、「神の自由（上述した【注】を参照）は、……（≪父・子・聖霊なる≫）神の愛（≪その神の愛の行為の出来事全体としての神の存在≫）の自由である」。「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の神的な自由の完全性および神的な愛の完全性は、「失われない差異性」における父・子・聖霊なる神という三つの存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動、活動）の神的な自由の完全性および神的な愛の完全性でもあるのである。「われわれは、神の遍在、全能、栄光について語ることによって、神の自由から……新たに神の愛を、そしてこの関連性の中でそれと共に神の神性を見る」のである。キリストにあっての「神が、まさにその単一性の中で遍在し、まさにその不変性の中で全能であり、まさにその永遠性の中で栄光に満ち給うということから、神の自由の神性は確証される」のである。「事情がそのようであるということが、神の自由のすべての完全性が神的であることの標準である」。われわれは、ここで、「神の本質についての一般的な理念と直面しつつ問うのではなく、（≪最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、啓示の「概念の実在」、なわち第二の形態の神の言葉である≫）聖書的な啓示証言と直面しつつ」、「どのような規定のもとで、ここで証されている神の愛は、神の自由の中で出来事となって起こり現実となるのか、それ故にそれに基づいて、……その神の愛を、神の本質の規定として理解することがゆるされ理解しなければならないのか」、と「問う」のである。「単一性、不変性、永遠性という系列（≪三位一体の神の存在の本質、「失われない単一性」≫）は、この第一の問いに答えようとするのである」。それと同時に、「第二に、われわれは、……再び聖書的啓示証言と直面しつつ」、「われわれに証されている神の愛」は、「それが、神の自由の中で出来事となって起こり現実となる限り、それ故にわれわれがそれに基づいてこれらの愛の規定を神的本質として理解することがゆるされ理解しなければならない限り」、「どのような規定のもとに立っているのか」、と「問う」のである。「この問いに対しては、遍在、全能、栄光という第二の系列（≪三位一体の神の「失われない差異性」における三つの存在の仕方、「失われない差異性」≫）が答えている」のである。「これらの問い」は、「われわれが、同一の源泉を堅くとりながら、ここでもあそこでも同じひとりの神、その自由の中で愛し給う方について、それ故に神についての聖書的な証言の内容として、既に……われわれが取り組んだその同じ自由と同じ愛について語らなければならないことが確かである限り」、「別な問いではあり得ない」のである。