２２－１５『教会教義学 神論Ⅰ／３ 六章 神の現実（下）』「三十一節 神の自由の様々な完全性 二 神の不変性と全能」
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／３ 六章 神の現実（下）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／３ 六章 神の現実（下）』「三十一節 神の自由の様々な完全性 二 神の不変性と全能」２２－１５（１５９－１６９頁）
「六章 神の現実（下） 三十一節 神の自由の様々な完全性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
神の自由の神性は、神ご自身の中で、またそのすべてのみ業の中で、ひとりでいまし、不変であり、永遠であられるということ、まさにそれと共にまた遍在され、全能であり、栄光に満ちた方であり給うということ、から成り立っており、そのことの中で真であることが確証される（この定式の詳述については、２０１８年１２月２８日の記事で行っています）。（３頁）
註：客観的な対象として存在している、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学 神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）で論じています、参考にしてください。
「三十一節 神の自由の様々な完全性 二 神の不変性と全能」２２－１５
われわれは、前回、イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現されたキリストにあっての神の不変性と全能という神の本質の区別を包括した単一性における「神の全能」（下記の【注】を参照）について、「一般的な意味での」、「何かある一つの力」や「力それ自身」や「全能と取り組んでいるのではなく」、キリストにあっての「神の力と、そのようにして、その限り」、その神の「全能と実在の力と取り組まなければならない（≪が故に、それと取り組む≫）という確認（≪第一の確認≫）でもってはじめ」た。
【注】
「最も単純な形において神の啓示の実在を問う新約聖書の答え」によれば、イエス・キリストにおいて啓示されたキリストにあっての神は、先ず以てご自身の中での神として・それからまたわれわれのための神として、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における三つの存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動）、すなわち起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――啓示者・言葉の語り手・創造主、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――啓示・語り手の言葉（起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのもの）・和解主、愛に基づく父と子の交わりである第三の存在の仕方である聖霊（この交わりの中で、「父は子の父」・「言葉の語り手」であり、「子は父の子・語り手の言葉である」、ここに「神は愛」・「愛は神」であることの根拠がある、このように「愛は神にとって、最高の法則であり」、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第三の存在の仕方において「最後的な実在である」、神の自由・主権がそうであったように愛も、キリストにあっての「神においてのみ実在であり真理である」）・啓示されてあること・それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）・救済主なる神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事＜全体＞である。
前述した第一の確認は、「われわれを直ちに」、次のような「第二の確認へと導く」――キリストにあっての「神の力」は、「単に（≪可視的で神的な≫）自然的（≪物質的・物理的≫）な可能性（≪「potentia」≫）としてではなく」、「常に同時に」、人間的理性や人間的欲求やによって対象化された道徳や法とは無限の質的差異を持った不可視的で神的な精神的（≪観念的・論理的――観念という概念については、下記の【注１】を参照≫）な「道徳的・法的な可能性（≪「potestas」≫）として……理解されなければならない」（ここで、吉永は、physischを「物体的」と翻訳しているが、バルトが論じ伝えたい概念＜像＞を得るためには、今まで教会教義学を論じてきたことに即して言えば、可視的で神的な「自然的な可能性」という概念である。それ故に、「道徳的・法的な可能性」も、不可視的で神的な精神的・観念的・論理的な「道徳的・法的な可能性」ということになる――この不可視的で神的な精神的・観念的・論理的な「道徳的・法的な可能性」については、下記の【注２】を参照）。言い換えれば、「神の力」は、「どこにおいても決して正しさに対して先行せず」、「常に、いたるところ正しさと共に進む」、それ故に「神の力」――すなわち「まことの力」は、「それ自身で、（≪神の側の真実としてある≫）正義の力である」。このことは、例えば『教義学要綱』に即して言えば、全き自由の神のその都度の全き自由の恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）に信頼し固執し固着して生きる「（中略）キリスト者は、政治生活において（≪神の側の真実としてある≫）神の正義が人間によって誤認され・蹂躙される場合にも、神の正義は、……天地の一切の力が与えられているイエスの苦しみのゆえに、優越しているということを確信している。悪しき矮小なピラトが、結局は無駄骨折をするというように、配慮がなされているのである。その場合、キリスト者が、どうして、ピラト（≪どのようなそれであれ、観念的な「道徳的な諸原理や理念」に対してと同じように、人間的理性や人間的欲求やによって対象化された観念の共同性を本質とする政治的形態、国家形態、法的政治的国家、支配体制≫）のともがらと成ることができようか」という思惟と語りになる。言い換えれば、キリストにあっての「神の力」は、「自分自身の中で、神的人格（≪「失われない差異性」における神的な三つの存在の仕方、その働きと業・行為の出来事全体≫）の愛と自由の中で基礎づけられた（≪「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性における、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の≫）神聖性、義、知恵の力である」。神は徹頭徹尾真実な方であるから、「神が事実上なし得ること……を、神はまた正当ニなし給う」、それ故に「また神は、正当ニなすことができないことを、事実上もおできにならない」。「すべてのことは、……逆にも言われなければならない」――人間的理性や人間的欲求やによって対象化され客体化された道徳や法とは無限の質的差異を持ったキリストにあっての「神の（≪不可視的で神的な精神的・観念的・論理的な≫）道徳的・法的な可能性は、常にまた、神の自然的（≪可視的で神的な物質的・物理的≫）な可能性である」。キリストにあっての「神のpotestasはpotentiaに満ちている」。キリストにあっての「神の（≪「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性における、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の≫）神聖性、義、知恵は、（≪「神の不変性と全能」という神の本質の区別を包括した単一性における≫）全能である」、すなわちそれは、「神的人格（≪「失われない差異性」における神的な三つの存在の仕方、その働きと業・行為の出来事全体≫）の愛と自由の中で基礎づけられ」ている。このように、神は徹頭徹尾真実な方であるから、「神が正当ニなし得ること……を、神は、事実上なし得る」、「また神は、事実上なし得ないであろうどのことをも、正当ニなすことができない」。われわれは、「神の力」が、人間的理性や人間的欲求やが対象化し客体化した「一般的な意味での」「何かある一つの力」や「力それ自身」や「全能」ではなく、神と人間との無限の質的差異の下での神の側の真実としてある「神の力である時」、「神のpotentiaはあらゆる事情の下でpotestasであるという命題」を引き寄せる。「神ノpotestas力（≪すなわちまことの力≫）ハ、神ノ権限オヨビ普遍的ナ支配――独立シテ、最高ニ絶対的ニ、スベテノ被造物ニ対シテ、ソレラニ関スル明確ナ決定カラシテ、決メテユク神ノ権限オヨビ普遍的ナ支配――ノコトデアル。神ハ権限ヲ持チ給ウ。……ソノ権限ノ基礎ハタダ、神性ノ卓越性デアル（ペトルス・ファン・マストリヒト）」。「神が、あの陶器師がなすようになすことがおできになる時（エレミヤ一八・六、ローマ九・二〇以下）、この神がおできになるということは、そのものに陶器が属しているものが持つ全能である」――「彼にとって、自分の物を自分がしたいようにするのは当たり前である（マタイ二〇・一五）」、「すべての魂はわたしのものである（エゼキエル一八・四）」、「わたしたちは主のものなのである（ローマ一四・八）」、「主はあなたを生み、あなたを造り、あなたを堅く立てられたあなたの父ではないか。……主の分はその民であって、ヤコブはその定められた嗣業である（申命記三二・六、九」」。このような訳で、「神の力の支配」は、「それが（全くの正しさであるところの）神の正しさの中に基礎づけられており、まさに神がその力を自由（下記の【注３】を参照）に処理されることでもって、（全くの正しさであるところの）神の正しさが打ち立てられるが故に、当然その力を主張してよいし・主張しなければならない方が自由に処理されることである」――「力ヲ得ルモノハイズレモコノ力ノ源カラ得ルノデアッテ、ソレ以外ノトコロカラ得ルノデハナイ、ローマ一三・一、コロサイ一・一六、ヤコブ四・一二」（ペトルス・ファン・マストリヒト）。
【注１】
ここで観念とは、吉本隆明の『思想の基準をめぐって』等々に即して言えば、次のようになる――人間の固有性について、「根源的にそして単純に答えられるべき」だとして、（１）「脳髄が脳髄について考える」個体の内部過程と、（２）「生理過程から、対象の形や色や全体像が構成され、＜この対象は茶碗だ＞とか＜この対象は茶碗だ＞とか了解される個体の知覚作用を例にとって次のように述べている―――（１）の認識が成立するためには、「生理（自然）過程」の「信号、反応、刺激、伝播という自体的な識知」、すなわち自然的過程・「生理過程の＜変容＞」と、脳髄が脳髄を生理（自然）過程の外部から認識する「対象的識知」の過程が必要である、（２）の認識が成立するためにも、まず「対象物から眼に到達する光作用」に対して、「生理過程として網膜の背後にある色彩・明暗・形態を弁別できる「諸神経の刺激の継続と強弱」・「刺激の質量」の度合という「自体的な識知」・「生理過程の＜変容＞」と同時に、そうした「対象物からうけとる神経刺激という生理過程の外部に出て、対象物を全体的に構成し了解する対象的認識の過程」が必要である。これら（１）と（２）における後者の対象的認識の過程は、生理（自然）過程にとっては絶対的な自己矛盾であるから、人間に固有な「心的領域」あるいは「観念」という概念を疎外する以外に、そのような自己矛盾を止揚し克服することはできない。ここで、疎外とは疎外の止揚である。したがって、「生理学が＜観念＞という概念と命名を拒否」しても、「＜観念＞という言葉でいいあらわされるものと、おなじ実体を想定せざるを得ない」、そうでなければその生理（自然）過程の絶対的な自己矛盾を止揚し克服することはできない。このように、「人間は、対象を再構成し、了解するところまでやらなければ、対象物にたいして、どう行動するか、どう行動しないかさえできない」。この吉本は、『共同幻想論』において、人間の身体・肉体と精神・意識を介して全自然（自己の身体、性としての他者の身体、宇宙を含めた外界としての自然）との普遍的で実践的な相互規定的な対象的活動を行い歴史を形成していく現存する社会における人間の三つの存在様式――この存在様式における観念としての個体の自己幻想（例えば、文学作品、文学論を生み出す）、観念としての個体の対幻想（例えば、男女の関係意識、家族の関係意識、家族論を生み出す）、共同的な観念的形態としての個体の共同幻想（例えば、法意識、政治意識、国家論を生み出す、この共同幻想は観念の共同性を本質としており身体を持たないから、それを自己還帰させることができない場合には、その第一義性・価値性を、それを疎外し表現したこちら側の主体に取り戻し置くことはできずに、常に、向こう側に移行させていくことになる、それ故にそれは、それ自体の自己増殖と自己展開の過程を持つことになる、それ故にまたそれを疎外し表現したこちら側の主体の方が、それの支配の下に置かれることになる）の相互関係と内部構造を明確化せれば、人間の全幻想領域を統一的に・全体的に・総体的に把握することができると述べている。この場合、その考え方は、「非常にヘーゲル的ではないかという批判」に晒される。その批判に対して、吉本は、次のように答えている――「しかし、僕には前提がある。そういう幻想領域を扱うときには、幻想領域を幻想領域の内部構造として扱う場合には、下部構造、（≪すなわち≫）経済的な諸範疇というものは大体しりぞけることができるんだというそういう前提があるんです。（≪したがって、≫）しりぞけるということは、無視するということではないんです。しりぞけますと、ある一つの反映とか模写じゃなくて、ある構造を介して幻想の問題に関係してくるというところまでしりぞけることができるという前提があるんです」。「はっきりさせるために逆にいいますと、経済的範疇を取り扱う場合には幻想領域は捨象することができるわけです」。「幻想的範疇をその構造において取り扱う場合には、少なくとも反映とか模写じゃなくて、ある構造を介して関係があるというところまで経済的範疇は退けることができる。そこまでしりぞくという前提があるんですよ。だから僕にいわせれば、決してヘーゲル主義ではないんです……」。例えば、国家の本質の問題について言えば、次のように言うことができる――近代市民社会の中において、具体的に私人として、「私利・私意」に基づく利己主義的な私的他者との対立・争いの生活、利害共同性との対立・争いの生活と、一方であたかもそうした対立・争いのない観念的な法的政治的共同性（共同幻想としての国家）によって統一された公的共同性の一員（公民）としての生活との二重の生活を強いられるのである。こうした中で、市民は、市民社会の共同的な観念的疎外態である国家の側からする＜国家試験＞を受けて合格すれば「官僚になれる資格を持っている」のであるが、「このことは、……（≪すべての市民に開かれているわけではないから、≫）もともと市民に市民的な権利がないことを象徴しているに過ぎない」のである。「マルクスによれば、官僚政治は、市民社会を内容とし、市民社会の外にある国家の形式＜主義＞であり、それをひとつの集合としてみた時、＜国家意識＞であり、＜国家意志＞であり、＜国家権力＞であり、それは、＜実在＞の国家と並んだ＜幻想＞の国家である」。擬制民主主義でしかない議会制民主主義の下で、「立法権は、国家が市民社会を（≪憲法に基づいた法的≫）普遍性によって組織しようとする権力（≪この意味でまた立法権は、憲法を覆う権力≫）である……」。法制的中枢としてある「憲法は、立法権に法律を与えるから、……立法権の外に……法の外にある。この憲法の性格は、共同的な観念としての政治的国家（≪共同幻想としての国家、国家の内的本質≫）と現存する経済社会構成によって規定される現実の非政治的国家（≪＜非＞共同幻想としての国家、経済的国家、国家の外的本質≫）の間をつなぐ調整弁の役割を持つものである」（『カール・マルクス』）。したがって、観念の共同性（共同幻想）を本質とする国家の考察においては、国家の内的本質と外的本質という二重構造を考慮しなければ錯誤に陥ることになる。すなわち、第一に、社会福祉、道路・交通・通信・上下水道・ガス・電気・学校・病院・公園等の産業や生活関連の社会資本の整備を行う国家の「社会機能」があるが、そうした経済社会構成（経済的基盤）に対応する「経済的国家」が、外的本質としての国家である。第二に、先に述べたように、本当は歴史的批判的な調査・解明によって＜原＞日本・＜原＞日本人にまで時間を遡ることができれば相対化されてしまうところの、天皇族がその当時の人類史のアジア的段階における尖端的な中国の農耕技術や政治制度や儒教思想・仏教思想等々等を占有するという仕方で支配を構成した千数百年の時間性しか持たな天皇制国家が、天皇制的な宗教、儀礼、法、制度等の中に、接ぎ木的にそれ以前にあった最下層の共同幻想である自然規定、風俗・習慣、心性、文化等を包摂し重層的に時間累積させているように、観念の共同性を本質とする「共同幻想としての国家」が、共同的な宗教、法、国家へと馳せ下る内的本質としての国家である。この国家の本質としての二重構造に基づいて、ある地域性を有した地域的国家が存在する。そして、本質的に共同幻想（共同観念、共同意識）と逆立する共同幻想はないから、全ての共同幻想は、共同体の個々の成員に対して逆立して権力に転化する。このような訳で、また人間は理性的にだけ生きているわけではないから、またその方法・企ては、現存する大多数の被支配としての一般大衆・一般市民・一般国民のその像とその課題を絶えず繰り返し繰り込んでいくという思想を持たないから、J・ハーバーマス（『事実性と妥当性』）の、「脱中心化された公共的意識」により百人百様の分裂と動態化を惹起させた西欧社会の中で、近代主義的法概念の再構成によって、法制的な共同体の統括力の回復を試みようとしたその方法・企ては、そのために憲法を法制的中枢とする法体系の中での、生得的に有する自然権である自由・平等（理性としての個人、自由な自己意識の対自性、その主体的な関わり方）と国民主権（自己意識の対他性、意思における普遍妥当的な相互承認と相互制約による共同性）との内的連関付け、すなわち「討議によって産出されるコミュニケーション的権力」を目指すその方法と企ては、成功しないことは明らかである。
【注２】
例えば『教義学要綱』に即して言えば、次のような思惟と語りとなるだろう――「（中略）キリスト者は、政治生活において神の正義が人間によって誤認され・蹂躙される場合にも、（≪神の側の真実としてある≫）神の正義は、……天地の一切の力が与えられているイエスの苦しみのゆえに、優越しているということを確信している。悪しき矮小なピラトが、結局は無駄骨折をするというように、配慮がなされているのである。その場合、キリスト者が、どうして、ピラト（≪人間的理性や人間的欲求やによって対象化された観念の共同性を本質とする政治的形態、国家形態、法的政治的国家、支配体制≫）のともがらと成ることができようか」。したがって、このように認識し自覚したキリスト者は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられている信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）に生きるキリスト者は、◎「世界の救いを何かある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求めようとしないで、私たちの主であり、救い主であるイエス・キリストを、いっさいのものにまさって恐れ、かつ、愛すること、神を、大きな問題においても、小さな問題においても、彼がかってあり、いまあり、やがてあり給う権威のままに肯定し、是認すること、私たちの個人的、社会的生活を敢えて律して、すべての善きものを神から、神からすべての善きものを期待する」であろう、◎また「不毛な反抗や反論を避けて」・「西でも東でも等しく通用し、西でも東でもひとしく稀であり、人々に好まれぬ福音に、無償の恩寵によって、素直に止ま」り、「西の獅子」、すなわち「われわれが最も激しく非難する全体的、非人間的強制にしても、遠い昔から西方の自称（≪恣意的にしか自由であり得ない≫）自由社会や（≪国家だけが自由である≫）自由国家にもほかの形で出没した」・出没している（『バルト自伝』）その観念の共同性を本質とする「観念の共同的形態」である国家に第一義性・価値性を置く自由主義国家にも、同じく「東の獅子」、すなわち現実的な社会に第一義性・価値性を置くのではなく、観念の共同性を本質とする「観念の共同的形態」である国家に第一義性・価値性を置く表向きだけの社会主義国家にも「全力をあげて抵抗」するであろう（『共産主義世界における福音の宣教 ハーメルとバルト』）、「人間の公私の生活においては、絶えず新たな支配が行われるような仕組みになって」おり、「国家は支配であり、文化は支配」であるから、「どのような国家形態にも、どのような文化傾向にも、無条件に『然り』とは言わない」であろう（『啓示・教会・神学』）、「特定の人種、民族、国民、国家の特性、利益と折り合おう」とは決してしないであろう（『教会教義学 神の言葉』）、しかし「われわれは平和を維持するためにできる限りのことをしなければならない」が、「このことは、われわれは平和主義者でなければならないということを意味しない」、何故ならば、現存する世界が経済の世界性と共に一部国家支配上層の意思によって動員できる巨大で強力な軍事組織を持つ戦争の元凶である民族国家の一国性を単位として動いて入る以上、世界的なそれではないにしても地域的なそれであれ、常にいつでもどこでも戦争や紛争が起こる可能性があるからである。このような現存する世界の動きを直視しようとしない「平和主義は、一つの絶対主義」でしかないのである、宗教的形態の一つでしかないのである（ちょうど、部分でしかない史実を全体化する歴史＜主義＞が、部分でしかない科学を全体化する科学＜主義＞が、部分でしかない経済的範疇を全体化する経済＜主義＞（経済決定論）が、ただ単なる宗教としての絶対主義として、近代における宗教的形態のそれでしかないように）。したがって、「われわれは神（≪イエス・キリストにおいて啓示されたキリストにあっての神、起源的な第一の形態の神の言葉、その第二の形態の神の言葉としてのその最初の直接的な第一の啓示の「概念の実在」である書的啓示証言≫）には服従するが、（≪人間的理性や人間的欲求やによって対象化され客体化されたあらゆる種類の≫）一つの原理や理念には服従しないのである。したがってまた、われわれは最後の手段のために、（≪世界が、経済の世界性と一部国家支配上層の意思によって動員できる巨大で強力な軍事組織を持ち自国の利害を第一義的に最優先する民族国家の一国性を単位として動いている限り、≫）戦争の可能性はあけておかなければならない」というように認識し自覚するであろう、それ故にこのようにキリスト者として認識し自覚する限り、バルトに関して言えば、その当時現存した国家の形態としてはナチスドイツと比較考量した場合にあくまでも相対的に評価できるであろう自由および直接民主制と武装永世中立を標榜する「スイスをナチズムからまもるために私は軍隊に参加」し、「両国を区分しているライン河にかかっている橋を護衛」するために、「もしもドイツのキリスト者の友人の一人が、その橋を爆破しようとしたら、私は射殺しなければならなかったであろう」と思惟し語り行動するであろう（『バルトとの対話』）。
２０１９年５月の「YAHOO！ ニュース」に、次のような記事が載っていた。先ず以て私も、戦争を肯定する者では決してないし、強く平和を切望する者である。しかし、私は、苛酷な「私利・私意」に基づく利己主義的な私的他者との対立・争いの生活や利害共同性との対立・争いの生活のある現存する近代市民社会の現実の中で、平和＜主義＞やエコロジー（その極限に措定されるものは天然自然＜主義＞でしかない）や絆・感謝・恩返し等々大衆受けする、マス・メディア受けする表向きだけの単なるきれいごとだけを主張しようとする者とは違い、私に出来得る限り、身近な生活や世界の動きにおける現存する現実を直視したいと考える者である――下記の「YAHOO！ ニュース」にあった記事の内容は、身近な生活や世界の動きにおける現存する現実を直視する時、上記の現存した現実を生きたバルトの思惟と語りと行動や下記の現存する現実を生きている女性兵士の発言と実践の＜重さ＞を引き寄せることができる（それ故に、特に日本の「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論で終わるところの」「すべての大学者の神学」者やそれに類するキリスト教的著述家、教会・教団の指導層には、その思惟と語りと行動の＜重さ＞を引き寄せることができないと言うことができる）。これは、２０１９年「５月１４日、イスラエルの占領地ゴラン高原にある軍の歩兵部隊ギバティ旅団の宿営地で、兵役で同旅団に所属するイスラエル市民権を持つ日本人女性、清水真優軍曹（２１）が時事通信の取材に応じた」記事である、◎「清水さんは父親が日本人で、母親がイスラエル人（ユダヤ人）。ユダヤ人の母親から生まれた人は、ユダヤ人とみなされる。イスラエルの兵役は、ユダヤ人市民の義務となっており、心身に問題がある場合など一部の例外を除き、１８歳になった段階で男女とも２、３年前後にわたって軍務に服する」・「清水さんの場合、対テロ作戦を主要任務とするギバティ旅団の戦闘部隊に加わる初の女性で、これは日本人であろうとなかろうと異例のケース」である、◎「ギバティ旅団は対テロ作戦を任務としています。困難な任務を伴う部隊に、どのような気持ちで参加しているのですか」：「ギバティ旅団には、（医療要員としての訓練を受けた後）２０１８年１月から参加しています。兵役では、何か自分にとって素晴らしいことをしたいと思ってきました。内に秘めた何かです。以前から、最前線に行きたいと思っていました。そこで何が起きているのか知りたかったからです。もし交戦があるなら、参加してベストを尽くしたい、これが自分の選択肢だと認識していました。もし私が最前線にいれば、ほかの兵士に治療を施し、共に戦う機会を得ることができる」、◎「訓練はどのような感じですか」：「私は医療要員ですが、同時に戦闘要員でもあります。体力トレーニングは欠かせません。銃火器の使い方の取得、戦闘訓練、ゲリラ作戦の演習などです。入隊してすぐ、射撃の指導を集中的に受けました。同僚たちと一緒に訓練することで、次第に自信がついてきて、それで実際に作戦に赴くようになるという流れです。訓練の中には、非常に厳しい内容も含まれています。毎日実弾や銃を使って。実際にけが人が出てしまうこともあります。足の骨を折ったり、熱中症になったり。そんな時は、医療要員の私が実際に措置を施します」、◎「どのように大変な訓練を乗り越えていったのですか」：「突き詰めれば、能力というより精神の部分が大事なのだと思います。訓練を完遂したいと本当に思っていましたし、必要とされる場所で治療を施す役回りに立ちたいと本当に望んでいました。克服できたのは、体がどうだったかというよりも、心の問題だったと思います」、◎「医療要員でも、通常の戦闘要員と同じ力量が求められるのですか」：「交戦や作戦には自信を持って臨む必要があります。私は戦闘要員でもなければなりません。ほかの兵士が私を守るのと同じく、私もほかの兵士を守る必要があります。自分より若い兵士に武器の使い方を教えることもあります」、◎「これまでどのような作戦に参加しましたか」：「医療隊員はあらゆる作戦で必要になります。（中略）シリアとの境界線近くや、境界を超えての作戦もありました」、「作戦はどの程度の頻度で行われているのですか」：「だいたい毎週、何らかの作戦に従事しています。比較的平穏な時もありますが、逆に毎日ということもありました」、◎「作戦中、危険を感じたことはありませんか」：「通常、作戦は夜の暗闇の中で行われるのですが、展開先の場所に長く滞在しすぎてしまい、夜が明けてしまったことがあります。そこを（敵対勢力に）見つかって、ものが飛んできたりしたのですが、何とか切り抜けることができました」、◎「作戦で達成感を得られるのはどういう時ですか」：「戦闘要員としては、（軍がテロリストとみなす対象者の）追跡中、『これは不正義との戦いで、テロは許せない。何としても拘束しなければいけない』という気持ちになり、非常に重要なことを行っているという満たされた感覚になります。医療要員としては、何か起きた時、誰よりもその人に近くにいるわけで、自分が最初に治療を施せる立場にあります。これは特別なことで、だから自分はここにいるのだという感覚を得ることができます」、◎「軍に入る以前から、救急隊などで活動経験があったのですか」：「特になかったです。（ギバティ旅団に）配属される前の訓練で救急分野の活動に参加し、病院でも訓練を行い、医療隊員としての経験を積みました。軍を去った後も、ボランティアとして活動を続けたいと思います」、◎「軍を去った後、という話が出ました。１１月には兵役の期間満了になると聞いていますが、その後、どのようなキャリアを考えているのですか」：「実は司令官から兵役を延長しないかという話を受けていて、『検討します』と返答しています。将来は医学の道に進みたいです。兵役を通じ、救命分野に恋をしてしまいました。傷ついて、力を失ってしまった人を助ける人間になりたいです。軍では（医療要員として）非常に人道的な仕事ができ、傷ついた人々を救うことができるんだと知りました。兵役が終わったら、医学を学ぶために大学に入りたいです」、◎「２１歳といえば、日本で暮らす同世代の人たちは大学に行くなど、平和な生活をエンジョイしています。軍に身を置くあなたは、その人たちとのギャップについてどう考えますか」：「私が兵役に就くのは以前から明白でした。そう思いつつ、イスラエルで育ちました。みな、この時期には軍隊に行きます。この国の人々は、軍なくして生きることはできません。軍が（≪様々な要因で利害が対立するアラブ諸国やテロ集団から≫）われわれを守っており、イスラエルで人々が平和で平穏に暮らすには軍が必要です。兵役は『自分の順番が回ってきたんだ。私の時間をささげなければならないし、時間をささげる以上、ベストを尽くさないといけない』という感じです」。
ここで、日本のある牧師の阪神・淡路大震災における正義漢ぶった行動について書いておこう。この近代市民社会においては、私的個人は、何らかの職業に就き、さまざまな風貌・自己資質・生活・感情・嗜好・社会的地位・富・思想・行動・意志・恣意性を持ってしか生きられないにも拘らず、換言すれば「社会的存在の客観的現実性」としての私利・私意を精神とする個別的私的現実的生活の場である近代市民社会においては、「人間はたかだか無数にちがった境涯にばらまかれた知識や貧富や地位やらのちがいとして存在し、このちがいによってさまざまにちがったかんがえをもち、幻想をうみだしているだけ」であり、私利・私意を精神とする個別的私的現実的生活の場である近代市民社会においては、私人としては「プロレタリアートもある場面でブルジョワジーであり、ブルジョワジーもある場面でプロレタリアートである」（吉本隆明『自立の思想的拠点』。それ故に、マルクスは『資本論』「第１版序文」で、「私の立場は、経済的な社会構造の発展を自然史的過程として理解しようとするものであって、決して個人を社会的諸関係に責任あるものとしようとするものではない。個人は、主観的にはどんなに諸関係を超越していると考えていても、社会的には畢竟その造出物にほかならないものであるからである」と述べたのである）であるにも拘らず、阪神・淡路大震災の時、こういうことを認識し自覚しないままある牧師が、吉本に電話して、次のようなことをわざわざ「得々としゃべった」のである――「武器を持って神戸市役所かどこかに押しかけて行って、被災者の住めるような建物をすぐにつくってくれと、職員（≪――関田寛雄が『「断片」の神学』において批判していた「後任牧師の選任」基準を「外国留学」と「学位」においているような教会は全く論外であるが、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会における奉仕者としての召命ということも、それが本当にキリストにあっての神による召命によるものであるのかどうかということは、徹頭徹尾キリストにあっての「神ご自身の決定事項であって人間の決定事項ではない」のであるから、それを人間の恣意性独断性に解消されてはならず、それ故に聖書的啓示証言におけるキリストにあっての神に対に対する「主よ、私は信じます。私の不信仰を助けてください」という祈りと共に、前述したような現存する近代市民社会の中で、それ故に武器を持って公務員としての職員を脅した教会の奉仕者としての牧師もたまたま教会の奉仕者としての牧師という職業を選択しただけであるのと同じように、その住民全体の＜奉仕者＞としての地方公務員としての職員もたまたま住民全体の＜奉仕者＞としての地方公務員としての職業を選択しただけであるにも拘らず、その住民全体の＜奉仕者＞としての地方公務員としての一般職員――≫）を（≪武器を持って≫）脅かした」ことを、すなわちそうした「じぶんがやったことを得々としゃべるわけです。ぼくは、ははぁ、戦前とちっとも変っていないやと思いながら聞いていた……。（中略）正義のために脅かしたのだと得々としゃべることは、ぼくらが戦争中に『お国のために』といわれたのとまったくおなじことで、そんなの、ちっともよくない」、「日本というか、あるいはアジアの特質かもしれません。ラジカルな人ほど、ほかの分野の人に対してじぶんを押し付けがちです。そういう傾向がとても強い」、と。
ここまで書けば、バルトやイスラエル女性兵士の思惟・語り・行動と前述した重要な事柄の認識と自覚を欠いたこの日本の牧師とのその思惟・語り・行動の＜質＞の差異およびその思惟・語り・行動の＜重さ＞の差異をよく理解できるであろう。もっと言えば、前者と日本のプロテスタントの指導層あるいはカトリックの指導層のその＜戦責告白＞や＜平和への祈り＞あるいは「抗議声明」等における思惟・語り・行動とのその＜質＞の差異およびその＜重さ＞の差異をよく理解できるであろう。
【注３】
聖書的啓示証言によれば、「神の自由」という概念は、「自己自身である神の自由」（ご自身の中での神の自由）としての「自存性の概念（≪自由の概念の積極的側面≫）」（全被造物、全宇宙、全自然、その一部としての人間とは全く異なるところの、ご自身の中での神として自己還帰する対自的であって対他的な・自在であって他在な全き自由、それからまたその神のわれわれのための神としてのその存在の仕方における全き自由）と「神とは違うもの（≪具体的には神とは全く異なる被造物、人間、人間的理性や人間的欲求≫）によって為されるすべての条件づけからの神の自由」（「一切の外的被制約性から」の神の自由）としての「独立性の概念（≪自由の概念の消極的側面≫）」との総体性（全体性）において定義しなければならないものである。このような訳で、われわれは、啓示には、啓示自身が持っている啓示の固有な証明能力が、キリストの霊である聖霊の証しの力が、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動が、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を与えることができる授与能力があると言わなければならないのである（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）