カール・バルト（その生涯と神学の総体像）

『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−１２（１４０−１５２頁）

「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−１２
　キリストにあっての「神は、被造物（≪神とは異なる、宇宙を含めた全自然、その一部である人間、世界≫）ではあり給わない」、「神は罪ではあり給わない」、「神は死ではあり給わない」、神は「同時に単一性と多様性（≪区別を包括した単一性、「単一性と区別」≫）の中であり給う」。「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神――キリストにあっての神は、先ず以て「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」における起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父であり、この父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身であり、愛に基づくこの父と子の交わり――すなわち「父は子の父」・「言葉の語り手であり」、「子は父の子」・「語り手の言葉」としての第三の存在の仕方である聖霊であるから、ご自身の中での神として「一人の方自身は、自由の中で愛する方である」、それからわれわれのための神としての「外に向かって」の「失われない差異性」における三つの存在の仕方における多様性は、換言すれば「外に向かって」の父（啓示者、創造主）、子（啓示、和解主）、聖霊（啓示されてあること、救済主）なる全き自由の神としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体の多様性は、「神の完全性、神の生の完全性である」。「ここでは、ただ完全性だけが問題となってくる。何故ならば、神が現にあり給うところのもの」は、「神が現に完全性であり給うという理由で、完全であるからである」。神は、存在的にも、認識的にも、内在的にも、外在的にも、「完全性であり給うが故に、完全性であり給うことの中で、完全である」。「ただ神だけが完全性を持ち給う」方として、すなわち神は「完全性をご自分に固有なものとして持ち給う」が故に、「自由」がそうであるように「完全性」は「神の中にその本質と現実存在を持っているが故に」、「完全性であり給うことの中で、完全である」。イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された三位一体の神が、「父（≪創造主、啓示者≫）、子（≪和解主、啓示≫）、聖霊（≪救済主、啓示されてあること≫）であり給うことによって、換言すれば全き自由の神のその都度の全き自由の決断という全き自由の中で愛し給うことによって（≪「自己自身である神の自由」――すなわちご自身の中での神としての神の自由としての「自存性」と、われわれのための神としての神の自由――すなわち神とは全く異なるわれわれ人間の自己意識・思惟・理性によって為される「すべての条件づけからの神の自由」としての「独立性」との総体性・全体性における全き自由の神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体によって≫）、神にとってすべての完全性が本質的に固有である」。このような訳で、われわれは、イエス・キリストにおける神の自己「啓示に基づいて神について語る時」には、換言すればわれわれのための神としての「外に向かって」のイエス・キリストの父（起源的な第一の存在の仕方、創造主、言葉の語り手、啓示者、全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事としての神の存在）、子としてのイエス・キリスト自身（父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方、和解主、語り手の言葉、啓示、全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事としての神の存在）、「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊（愛に基づく父と子の交わりである第三の存在の仕方、救済主、啓示されてあること、全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事としての神の存在）という「失われない差異性」について語る時には、同時的に、「失われない単一性」・神性・永遠性としての「神の本質について語る」のである。

　さて、「人は、ピリピ人への手紙（≪フィリピの信徒への手紙≫）二章に従いながら、さらにもっと多くのことを語らなければならない」――「その箇所は、イエス・キリストのあの自己譲渡の記述の後に続いて」、「それ故に、神は彼を高く引き上げ、すべての名にまさる名を彼に賜った。それは、イエスの御名によって、天上のもの、地上のもの、地下のものなど、あらゆるものがひざをかがめ、また、あらゆる舌が、『イエス・キリストは主である』と告白して、栄光を父なる神に帰するためである」、と述べている。「人はよく注意せよ。『それにもかかわらず』ではなく、また『それから』でもなく、まさに『それ故に』、今や、神のみ力をもってのイエス・キリストの高揚について」、すなわちその「失われない差異性」における第二の存在の仕方としての「僕のかたちの中に隠された神のかたち（≪その存在の本質としての「失われない単一性」・神性・永遠性≫）の啓示について語られている」、イエス・キリストは「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間である、それ故にこの「イエス・キリストにおける神の愛は、神自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。このような訳で、「イエス・キリストの中で神のあの自己犠牲と隠れが……出来事となって起こったが故に、すなわちイエス・キリストがおのれをむなしうし・おのれを低くされたが故に、その啓示の中で明らかとなるように主の名は彼のものなのである」。「そして、主の名の担い手としてイエス・キリストは、すべての被造物のもとで、神に栄光（下記の【注１】を参照）を帰し給い」、「また……すべての被造物」は、「その主の名を承認しつつ、……神の栄光を帰さなければならないのである」。「すべて重荷を負うて苦労している者は、わたしのもとに来なさい。あなたがたを休ませてあげよう。……なぜなら、わたしのくびきは負いやすく、わたしの荷は軽いからである（マタイ一一・二八）」――「このことは、あの自由を持つこと、あの自己犠牲と隠れをなすことができるということ」、「それだけでなく、あの自由を実際に用いること」、それ故に「あの自己犠牲を実際に遂行するということ」、「まさに顕サレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間として「あの隠れの中に実際におもむくこと」は、「ただ単に神の本質に矛盾しないばかりでなく、むしろ（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方という区別を包括した単一性におけるそれとして≫）神の本質にとってまさに本質的であるということを意味している」。「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方である「イエス・キリストがおのれをむなしくされることの意味と目標」は、「イエス・キリストがおのれを低くされるということである」――この「おのれを低くされることの中で、イエス・キリストは神として隠れてい給う」。『教会教義学　神の言葉�T／１・２』に即して言えば、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおける受肉・「神が人間となる」・「僕の姿」・「自分を空しくすること、受難、卑下」は、その「神性の放棄」・「神性の減少」・神性の喪失を意味するのではなく、「神的姿の隠蔽」・「覆い隠し」を意味している。したがって、「まさにこのおのれを低くされることの中で、イエス・キリストは、実際にまことの神であり給う」。したがってまた、「このおのれをむなしうすることと低くすることが、イエス・キリストの神存在を問題化するといった具合では決してないのである」。「むしろ、まさにこのおのれをむなしうすることと低くすることこそが、イエス・キリストのまことの神存在を啓示するのである」、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方（性質、業、働き、行為、行動）としての神存在を啓示するのである、全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事としての全き自由の神の存在を啓示するのである。キリストにあっての神は、「まさに受肉を通してこそ、そのまことに変わらない本質」を、「われわれが、受肉（≪その存在の本質としての神性の受肉ではなく、その存在の仕方としての言葉の受肉≫）に基づいて、それからまた創造者、和解者、救済者としてのその行為の中ででも再認識し、……確認されているのを見出すことが許される完全性の中での自由な愛として啓示された」のである。「神は、ただ単に、このへりくだりの・ゴルゴタの十字架の背後の何処かの高所でだけ、現にあるところのものである神ではあり給わない」。そうではなくて、イエス・キリストは聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の�~の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるから、「ゴルゴタの十字架（≪「神の謙遜さ」≫）こそが、それ自体その神的な高所であり、その神性の故に必然的なすべての『高挙』は、換言すればイエス・キリストがあり給うことの啓示」は、「まさに高所にいます（≪ご自身の中での神としての≫）神は、み子の中で完全に（≪われわれのための神として≫）われわれのところにまで身をおとすことができ、身をおとそうとされ、事実身をおとし給う方であり、まさにこの自由な愛こそが、ひとりのまことの神ご自身であるということを啓示することができるだけ」なのである（下記の【注２】を参照）。したがって、「そのような啓示に必然的に応答する天上と地上におけるすべての崇拝」は、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「ただそのことを確認することができるだけ」なのである。「高く、神的である」という言明は、「イエス・キリストの中で出来事となって起こった神の自己犠牲と隠れを承認し・確認することから、すなわちゴルゴタの十字架の上で示された神の謙遜さに対する讃美、崇拝、感謝の行為から成り立っていなければならない」、「何故ならば、その謙虚さこそ、その中で神がご自身を啓示され、また……ただそれを（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において≫）承認することの中でだけ、神がその被造物によって崇められるようになるところのものだからである」、「イエス・キリストがおのれをむなしうし、おのれを低くされたが故に、イエス・キリストの名はそのようなへりくだりを実行に移す……ことの中でこそ、この神的な栄光を勝利に導き・明らかにし給うた神の名であるが……故にのみ、イエス・キリストの名は『すべての名にまさる名』であり、神ご自身の栄誉の名であるからである」。「ピリピ二・五以下の聖句の実際的な意味」は、「全くただ、……その中で、教会の中において互いに人を自分よりすぐれた者とし、おのおの自分のことばかりでなく、他人のことも考え、『イエス・キリストの名にあって』現実であるところのことを教会の中で考えている謙虚さを持つようにという使徒の奨励を強調することに役立つということである」。「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」は、あの「神への愛」と「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」という連関の中で、すべての人々が＜純粋＞なキリストの福音を現実的に所有することができるために為す＜純粋＞なキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えにある、イエス・キリストをのみ主・頭とするイエス・キリストの「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指すところにある。説教と聖礼典としての教会の宣教（説教者）にとってわたしの前にいるすべての人々に対して「語らなければならない」「彼ら自身に関する真理」は、「神がすでになした」「わたしの前にいるこの人々のために、キリストは死に、甦られた」――「神われらと共に」ということである（『説教の本質と実際』）。「その『イエス・キリストにあって』現実であることこそ、まさにあの神的へりくだり、あのおのれをむなしうし、おのれを低くすることである」。すなわち、それは、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もというベクトルにおいて恣意的独善的な「自己表現としての宣教」を企てる点にあるのではない。「そのようなへりくだり、おのれをむなしうすること、低くすることの中で、キリストはキリストであり、神は神であり給い」、それ故に「またキリスト信者は（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）キリスト信者であることができるのである」。したがって、「そのようなへりくだり、おのれをむなしうし、低くすることに向けられていない思いは、それがそのほかの点でどんなに高く、意味深くあろうと、キリストを、それと共に神を、通り過ごしていくのであり」、それ故にそれは、「非キリスト教的な思いである……」。第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会の宣教におけるわれわれは、「心を頑固にし福音を認めない人間」や「異教徒」に対して、「恵みから語り、恵みについて語るという以外のことを為すことはできない」、すなわち「われわれがそうした人々に呼びかけることができるのは」、われわれ・「私がその人をその中に置くことによってではなく」、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、起源的な第一の存在の仕方である父なる神の子としての啓示、それ自身に固有な証明能力を持つ「啓示の実在」そのもの、啓示・和解、それ自身に出来事の自己運動を持つ起源的な第一の形態の神の言葉（信仰の認識としての神認識、すなわち啓示認識・啓示信仰は、全き自由の神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる）、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストがすでにその人をその中に置いてい給うことによってである」、それ故にわれわれは「キリストにあるものとしての人間のために、努力し得るにすぎない」（『証人としてのキリスト者』）。この場合、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという神と人間との混淆・混合・協働・共働における混合宣教はあり得ない。何故ならば、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』に即して言えば、教会の宣教、その思惟と語り、その一つの機能としての神学――それらが、「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項であって、われわれ人間の決定事項ではない」からである、それ故に教会の宣教、その思惟と語り、神学の在り方は、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』（≪マルコ九・二四≫）というこの人間的態度に対し神が応じて下さるということに基づいて成立している」からである。

【注１】
　「神は、（ドイツ語はここで、ほかの国語が持っていない表現能力を持っているのであるが）ただ単に主であり給うだけでなく、そのような方として栄光に満ちてい給い、他方すべての栄光は主なる神の栄光であるという認識（≪「栄光」と「主」との総体性・全体性においてイエス・キリストは栄光の主であるという認識≫）を遂行しなければならない」。「われわれは、ここで、まさにこの概念でもってはじめなければならない……」。聖書的啓示証言「�Tコリント二・八、ヤコブ二・一によれば、イエス・キリスト」は、「＜栄光＞（≪聖、全能、永遠、力、善、あわれみ、義、遍在、知恵等≫）の＜主＞であり給う」――「そのような方として、認識され承認され」ている、すなわち聖書的啓示証言からすれば、主と栄光とを切り離して認識する「切り離し」は存在しない。

【注２】
　「身をかがめること」、「身を屈するとか身分を落として卑下するという形で遂行される身を向けること」、「より高い者が、より低い者に向かって身を向けること」は、「ギリシャ語の恵みの意味の中に、またラテン語の恵みの意味の中に、……ドイツ語の恵みの意味の中に含まれている」。この「身を向けることの中に」、「特に（その中でこの言葉が現れている）旧約聖書的な脈絡がそのことを明らかにしているように」、「神がよき業として人間に対してなし給うすべてのこと、神のまこと、神の忠実さ、神の義、神のあわれみ、神の契約（ダニエル九・四）、あるいはあの使徒の挨拶の言葉によれば、神の平和が含まれている」。「それらすべては、まず第一に、基本的に、神の恵みである」。恵み（「神的な賜物……の総内容」）――すなわち「啓示者である父に関わる創造、啓示そのものである子に関わる和解、啓示されてあるものである聖霊に関わる救済」、父、子、聖霊なる全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事としての全き自由の神の存在）は、「確かにきわめて『超自然的な賜物』でもあるが」、それを「与える方自身が」、すなわちご自身の中での「神ご自身が、（≪神の側の真実として≫）自分自身を賜物とすることによって、自分自身、（≪われわれのための神として、「外に向かって」、神とは異なる≫）他者との交わりの中に赴き」、それ故に「自分自身を他者に相対して愛する者として示し給う限り」、われわれのための神が＜先行して＞「ご自身と……被造物の間に直接交わりを造り出し、保ってゆくこと」であるから、「そのような賜物なのである」。「神が恵みを与え給うことの原型」は、「神の言葉の受肉、神と人間がイエス・キリストにあって一つであることである」。単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神ご自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。ここでは、「神と人間の間の第三のものは発生しなかった」。ここでの「恵みの秘義（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰としてだけ認識可能なそれ≫）と本質」は、次の点にある――「二つのものが、（徹頭徹尾第一のものの意志と力を通して）直接一つのものとなり、神と人間の間のあの直接的な『平和』、パウロが『恵み』という言葉と関連させて、……その内容的な定義として、……しばしば名指すのを常としている『平和』が樹立されるという」点にある。ご自身の中での神としての「恵み深い神」と、われわれのための神としての「恵み深くあり給う」神との間には、中間的な領域としての恵みについてのグノーシス主義的に受け取られた考え方が介在することは許されない」。「ここではすべてのことは直接性に」、それ故に「神の存在と行為が実際に神の本質的ナ独自ノ性質として、換言すれば神ご自身として、すなわち（≪ご自身の中での神としての≫）神ご自身であり、自分自身を確証（≪自己認識・自己理解・自己規定≫）することによって（≪われわれのための神として≫）恵み深くあり給う方として、理解されるということによってもってかかっている」。したがって、「旧約聖書と新約聖書の中で、……力を込めて神を指し示しつつ、『わたしの』、『あなたの』、あるいは『彼の』恵みについて語られているのである」。したがってまた、「聖書的な人間は、ただ単に『あなたの恵みにしたがって、わたしをお救いください』（詩篇一〇九・二六）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを覚えてください』（詩篇一〇六・四）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを生かしてください』（詩篇一一九・八八）、『あなたの恵みを聞かせてください』（詩篇一四三・八）等々について語られているだけでなく、ほとんどのところで直接、単純に、『わたしに対し恵み深くあってください』と言われている」。「それに対して、わたしの知る限り、わたしに恵みを与えてくださいという言い方はどこにも出てこない」。このような訳で、「使徒たちがその教会に対して臨んでいるすべてのことは、よく知られている挨拶の言葉でもって総括」することができる――すなわち、「恵みがあなたがたにあるように」。したがって、「神の言葉は、使徒行伝一四・三、二〇・三二によれば、単純に『恵みの言葉』」と呼ぶことができる。「パウロにおいては、恵み、彼自身の回心、彼の使徒職とその行使、それと共に福音の宣教は、一つのまとまった全体を形作っている」――「神の恵みによって、わたしは今日あるを得ているのである。そして、わたしに賜った神の恵みは無駄にならず、むしろ、わたしは彼らの中の誰よりも多く働いてきた。しかしそれは、私自身ではなく、わたしと共にあった神の恵みである（�Tコリント一五・一〇）。なお、ローマ一・五を参照せよ」、「まさに恵みこそが、包括的に、神が現にあるところの方として、（≪われわれのための神として≫）われわれに身を向け給う際の向け方を特徴的に言い表している」。