カール・バルト（その生涯と神学の総体像）

カール・バルト『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−１１（１４０−１５２頁）

「六章　�~の現実（下）　三十一節　神の自由の様々な完全性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の自由の神性は、神ご自身の中で、またそのすべてのみ業の中で、ひとりでいまし、不変であり、永遠であられるということ、まさにそれと共にまた遍在され、全能であり、栄光に満ちた方であり給うということ、から成り立っており、そのことの中で真であることが確証される（この定式の詳述については、２０１８年１２月２８日の記事で行っています）。（３頁）

註：客観的な対象として存在している、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）で論じています、参考にしてください。

「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−１１
　「昔の神学全体」は、「当然の権利をもって」、「言葉の受肉」（その存在の仕方における言葉の受肉であって、その存在の本質である神性の受肉ではない）、「イエス・キリストの神人性」が、「それとして……人間の性質を神の言葉との単一性の中へと取り上げることから成り立っているからといって」、「決して神的内部での何らかの変化を意味するのではなく」、「また……神的な性質がほかの性質に変わる（≪神性の「減少」・「放棄」・喪失、神性の人間性化≫）ことあるいはほかの性質と混ざり合うこと（≪神性と人間性との混淆・混合≫）を意味することは決してできないということを強調した」。しかし、「昔の神学全体」のその強調は、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動）――すなわち「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方である父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である神の子、そのキリストにあっての神の自己啓示・自己顕現としての「啓示の実在」そのもの、啓示・和解、そのキリストにあっての神の起源的な第一の形態の神の言葉自身、そのキリストにあっての神の全き自由の神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事、「神の神性において（≪「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異の下において≫）、神の神性と共に、ただちにまた神の人間性もわれわれに出会う」（『神の人間性』）「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト自身、そしてこの啓示は啓示に固有な証明能力を・キリストの霊である聖霊（聖霊は、愛に基づく父と子の交わりとしての第三の存在の仕方である）の証しの力を・起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動を・人間的主観に神の恵みの出来事を実現させることができる神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」を持っているという＜総体的・全体的＞な認識に依るものではなかった（下記の【注】を参照）。

【注】
　神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会における「権威」・「自由」は、あくまでも「直接的な、絶対的な、内容的な」イエス・キリストのまことの＜神性＞――「権威」性と、「直接的な、絶対的な、内容的な」イエス・キリストのまことの＜人間性＞――「自由」性とによって賦与され装備された「権威」と「自由」を持つところの第二の形態の神の言葉である聖書（聖書的啓示証言）の「権威」・「自由」に基礎づけられている「間接的・相対的・形式的な」「権威」・「自由」として、徹頭徹尾、「限界づけ」られている。言い換えれば、第二の形態の神の言葉である預言者および使徒たちと「イエス・キリストとの出会いの直接性」における「直接的、絶対的、内容的な」「権威」と、「自由」――すなわち「イエスの弟子たちがキリストの後に従う随従」は、直接的な唯一回的特別なそれであるから、「繰り返され得ないもの」である。第二の形態の神の言葉である預言者および使徒たちと第一の形態である主なるイエス・キリストとの関係は、「啓示そのものが一回的であるのと同じように、一回的な関係」である。したがって、「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）における第三の形態の神の言葉である全く人間的な「教会・その成員の現実存在」と、そうした第二の形態の神の言葉における「預言者および使徒たちの現実存在」とは、本質的に同一ではない、本質的に等価ではない。本質的に同一化することはできない。第三の形態の神の言葉である全く人間的な「教会・その成員の現実存在」を、第一の形態の神の言葉および具体的には第二の形態の神の言葉に「先行」させることはできない。したがって、第三の形態の神の言葉である全く人間的な「教会・その成員の現実存在」は、その「教会・その成員の現実存在」に「宣教を義務づけている」ところの、具体的にはそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）における第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言（最初の直接的な第一の啓示の「概念の実在」）を、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストにあっての神を・＜純粋＞なキリストの福音を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（その復活に包括されたその死による「律法の成就」・完了そのものとしてのイエス・キリストにおいては、福音と律法は決して二元論的に対立してはいないのであって、それ故に律法はキリストの福音を内容とする福音の形式である、すなわちすべての人々が＜純粋＞なキリストにあっての神を・＜純粋＞なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えにある）を志向し目指さなければならないのである、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指さなければならないのである。

　「確カニ肉ヲトッテ顕ワレ給ウタ神ハ、以前ニアッタトコロノモノデアリ続ケ給イ、同時ニ以前モタナカッタモノヲ取リ給ウタ。ソノ際、ソノ神的ナ性質ガ人間的ナ性質ニ変エラレタノデナク、人間的ナ特性ガ神性ニ、アルイハ神ノ特性ガ人間性ニ移サレタノデナク、ムシロワレワレノ人間的ナ性質ガ神ノ神性（≪存在の本質≫）ト位格（≪存在の仕方≫）ノ一致ノ中デ（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるイエス・キリストの中で≫）、一ツニ結合サレル中デ（≪区別を包括した単一性の中で≫）、ソノコトハ起コッタノデアル」（ポラーヌス）。（≪≫）のように理解すれば「そのことは正しい」。「しかし、ここではもっと強く、もっと積極的に……人間となる（≪その存在の仕方における言葉の受肉であって、その存在の本質である神性の受肉ではない、それ故にそれは、神性の「減少」・「放棄」・喪失ではない≫）ということ」は、「ただ単に、（≪ご自身の中での神としての≫）神の不変な性質……の制限や問題化を意味しないだけでなく」、「まさに……（≪われわれのための神としての、すなわちその全き自由の神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事全体としての≫）創造主、和解主、救済主であり給う神の中で、ただ神がまさに……イエス・キリストの神人性の中で啓示され、現臨し、行動なさる神であるということの故に、そのことに基づいて、（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を通して≫）われわれが認識する完全性の中でのその〔神の不変な性質の〕啓示であるということが言われなければならない」。『教会教義学　神の言葉�T／１・２』、『カール・バルト著作集３　神の恵みの選び』および『福音と律法』に即して言えば、「予定説」は、「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間「イエス・キリストにある救いの自由な表現そのもの」である。「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方である復活に包括された「十字架のイエス・キリストこそが、神に選ばれたお方」である、それ故にわれわれはあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「神の選びをイエス・キリストの復活において認識し、神の放棄をイエス・キリストの十字架において認識することができる」。「真に罪なき、従順なお方イエス・キリスト自ら」が、「われわれ人間に代って」、「見捨てられた人間となり、その罰を引き受け給うた」――このインマヌエルの出来事は、イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現されたキリストにあっての神が、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿の人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合・協働・共働≫）されぬように、（≪あくまでも神の側の真実として≫）統一し給うたということを内容」としている。このことは、われわれに対して、あくまでも神の側の真実としてある主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」（ローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等）――「イエス・キリストが信じる信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」、「律法の成就」・完了、イエス・キリストにおいて成就・完了された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済（平和は、この救済に包括されている）ということについて自己認識・自己理解・自己規定させる、また先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神と人間との無限の質的差異の下で、それ故にあくまでも神の側の真実からする、神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故にキリストにあっての神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の�~の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）に向かっての人間の用意が存在する」ということについて自己認識・自己理解・自己規定させる、それ故にわれわれがイエス・キリストをのみ信ずるということ、イエス・キリストにのみ感謝を持って信頼し固執し固着するということに関して、直接的な第一次的な契機はわれわれ人間には全く何もないということについて自己認識・自己理解・自己規定させる、それ故にまた「生来人間は、神の恵みに敵対し、神の恵みによって生きようとしないが故」に、「このことこそ、第一に恵みが解放しなくてはならない人間の危急であった」ということについて自己認識・自己理解・自己規定させる。このような訳で、「われわれが本当に神の啓示を認識する時」、換言すれば恣意的独断的にではなく、イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現されたキリストにあっての神の啓示を、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を終末論的限界の下で与えられる時に、「われわれは初めて」、「神に対する人間的反抗」、「神の敵」、「神に相対して、自分の力を誇り、まさにそのことの中でこそ罪深い堕落した人間として自分自身」について、すなわち総括的に言えば神だけでなく人間も――人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという、あの「神への愛」――「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」という連関を志向し目指さないところの、無神性・不信仰・真実の罪のただ中にある自分自身について、「またそのような人間の『世』」について自己認識・自己理解・自己規定させる。このように、われわれ人間は、「そのままでは恵みを受け取る状態にはない」し、また「自分でそのような状態にすることもできない」のであるから、「もし人がその恵みを受け取り得たとすれば、そのこと自体が恵みなのである」。すなわち「私たちの召命・義認・聖化」は、人間的契機の＜直接性＞・＜第一次性＞において「私たち自身の中に生起」するのではなく、徹頭徹尾全面的に、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で、「イエス・キリストの御業」として、「私たちのため」に、「私たち自身の中に生起」するのである。このような訳で、「われわれ人間の更新を可能とするのは、今日に至るまで罪人の手に渡され・十字架につけられ・死んで甦られ給うたイエス・キリストにある「復活の力」だけなのである。

　イエス・キリストは、「神のかたちであられたが（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質としていたが≫）、神と等しくあることを固守すべき事とは思わず」、神と人間との無限の質的差異の下においてその第二の存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動）として「僕のかたち（≪まことの人間の姿≫）をとり、（≪そのような仕方で≫）人間と等しい姿で歩かれ、その有様は人と異ならなかったことによって、おのれをむなしうされ、死に至るまで、しかも十字架の死に至るまで従順であられたことによって、おのれを低くされた（ピリピ二・五以下）」――第二の形態の神の言葉（最初の直接的な第一の啓示の「概念の実在」、聖書的啓示証言）である「パウロによったこの記述……によれば」、「あたかもイエス・キリストはそれらすべてのことでもって、ご自分の神性（≪存在の本質≫）を放棄され・失われあるいは減らしてしまわれたということを言おうとすることがパウロの意図でなかったということは、全く明らかである」。まことの神にしてまことの人間イエス・キリストは、「神のかたちでありつつ、……それらすべてのことを為し給うた」のである、「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方（性質・働き・業・行為・行動）、その全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事としての全き自由の神の存在であり給うたのである。したがって、「おのれをむなしうしてということ」は、「このイエスの神的存在（≪存在の本質≫）のことを指して言っているのではなく」、「イエスは、その神と等しい存在」（存在の本質）を、その全き自由において「ご自分の唯一の排他独占的な可能性として見做されたり・取り扱われなかったということ」、「神と等しくのみあること」が、それ故に神とは全く異なる「被造物とただ違っているだけでいること」が、イエスにとって「必然的であるのではなかったということを指して言っているのである」、換言すれば「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおける神の自己啓示は、その「失われない差異性」における存在の仕方であるナザレのイエスという「人間の歴史的形態、イエス・キリストの名」において、その存在の本質である「失われない単一性」・神性・永遠性の信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を要求する啓示であるということを言っているのである。したがって、「おのれをむなしうしてということ」は、「積極的にはまさに……イエス」は、「その神のかたち（≪存在の本質≫）を損なうことなしに」、われわれのための神としてその第二の存在の仕方として「僕のかたちをとり、人間と等しい有様で歩くことができたし、歩くことを欲し給うたということ、それであるからイエスは、世界の内部で神としては知られず（≪その存在の本質は隠されたままで≫）、その神的な栄光は世界に対して隠されていたということを言おうとしているのである」。このことは、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』に即して言えば、次のように言うことができる――「人々は人の子（あるいはわたし）は誰であると言っているか」（マタイ一六・一三）と聞かれ、第二の形態の神の言葉である使徒「ペテロ（教会の信仰告白）」は「あなたは生ける神の子キリストです」と答えた、「メシヤの名」に対する「『人の子』というイエスの自己称号」は、「（覆いをとるのではなくて）覆い隠す働きをする要素として、理解する方がよい」、「逆に使徒行伝一〇・三六でケリグマが直ちに、すべての者の主なるイエス・キリストという主張で始められている時、それはメシヤの秘義を解き明かしつつ述べている」というように理解した方がいい、受肉・「神が人間となる」・「僕の姿」・「自分を空しくすること、受難、卑下」は、その存在の本質としての「神性の放棄」・「神性の減少」・神性の喪失を意味するのではなく、「神的姿の隠蔽」・「覆い隠し」を意味している、また『福音と律法』に即して言えば、次のように言うことができる――キリストの福音の内容は、全き自由の神の存在としての全き自由の神の全き自由の愛の行為の出来事によって、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストご自身が、われわれ人間のために・われわれ人間に代わって・われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、「唯一回なし遂げ給うた」 （「律法の成就」・完了）ところにある。しかし、「すべての大学社会の神学（≪者≫）、何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの神学」者は、換言すれば聖書的啓示証言によればそれ自身が聖霊の業であり唯一の啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）に信頼し固執し連帯しない人間学と神学との混淆神学・混合神学・折衷神学を志向し目指す人間学的神学者である八木誠一は、『イエス』で、恣意的独断的に、「イエスは別段自分を超人間的存在として自覚していたわけではなく、『人の子』語句でもって人間存在の根底を語り続けた」「ただの人であり、ただの人として自らを自覚し、ただの人の真実のあり方を告げた」とイエスの一面だけを拡大鏡にかけて全体化して（イエスの一面だけを抽象し固定化して）述べ、イエスに本来的な人間存在の在り方・範型を見、滝沢克己と同じように、イエス・キリストの存在の本質である「神性」を揚棄するだけでなく、それ故にさらにはイエス・キリストの存在の仕方（性質・働き・業・行為・行動）」も揚棄してしまって、滝沢克己のインマヌエル論に同調していたのである（一九八二年の南山大学主催滝沢講演後討論会）。八木と同じように、それ自身が聖霊の業であり唯一の啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）に信頼し固執し連帯しない人間学と神学との混淆神学・混合神学・折衷神学――すなわちバルトの『ローマ書』に依拠して言えば、第二の形態の神の言葉である「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異という事柄を止揚し捨象させた神学、すなわち総括的に言えば自然神学の段階で停滞と循環を繰り返す神学、フォイエルバッハの言葉を借りれば「人間的理性や人間的欲求やによって規定された神」についての神学、マルクスの言葉を借りればその最後的形態が政治的近代国家である共同宗教としてのキリスト教における神についての神学、ハイデッガーの言葉を借りれば「存在者レベルの神」についての神学を志向し目指す哲学的神学者の滝沢克己は、『カール・バルト研究』で、次のように述べている――「もはやいかなるキリスト者も、『聖書』や『イエス・キリスト』という名を記憶している人たちさえも、もはやこの地上のどこにも残っていないとしても、それでもなお、『神われらとともに』という事実（Faktum）にわたしたちが堅く結びつけられているということそのことは、神において永遠に決定されていることなのだ」というこの滝沢の思惟と語りにおける（ただの人間としての彼の自由な自己意識・理性・思惟が対象化した）「神」、「インマヌエルの事実」の概念 は、バルトとは違って、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストの名ではないので、未だ区別や分節化が為されていない未分化のままの総合や自然や宇宙の概念と呼んでもいいものである、哲学的神学者の滝沢は、人類史のアジア的段階における自然を内面の原理としたために、マルクスのように自然とは呼ばずに、「根本的事実」、「インマヌエルの事実」と呼んだのである、このように述べる哲学的神学者の滝沢は、「イエスの肉体に於いてインマヌエルの事実が始めて生成した」とするバルトに対して、その人間イエスの出来事、「イエス自身の言葉と行為」（バルト言い方では存在の仕方、性質・業・働き・行為・行動）は、彼の自由な自己意識・理性・思惟が・彼の人間的欲求（神学と哲学・キリスト教と仏教の対話等のそれ）が対象化したその源泉である人類史のアジア的段階における自然原理――すなわち「神われらとともにいます」という「根本的事実」、「インマヌエルの事実」から生成された「生ける徴」であって、第一次的なものではないから、バルトの「錯覚」でしかないと言うのである。このような自然神学の段階あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階にある混合神学・混合宣教におけるそれぞれの立場の差異、主義の差異、思想傾向の差異、行動様式の差異等は、ちょうどキリスト教的平和主義が戦争の元凶である民族国家を前提としている（それ故に、結局は一部国家支配上層の意思によって動員できる巨大な強力な軍事組織である国軍を有する民族国家に包摂されてしまっている）のと同じように、またそれがちょうど政治的近代国家の法的政策的な言語を前提しているように（それ故に、結局は政治的近代国家の法的政策的な言語に包摂されてしまっている）のと同じように、ただ自然神学の段階あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で多種多様な停滞と循環を繰り返しているだけであることを意味している。このことは、「日本製品を売らない、買わない」という感情的な日本製品の「排斥と排除」を志向し目指した最近の韓国の社会的運動に引き寄せて言えば、韓国における感情的な「日本製品不買運動が実は『日本製』（≪YAMAHA、武藤工業の印刷機、ブラザー工業のミシン、パイロット≫）によって成り立っていることが次々と露呈した」のと同じである、換言すれば結局は感情的な「日本製品不買運動」は、韓国社会が日本製品に包囲された段階で停滞と循環を繰り返していたことと、日本の製品に包摂されて成立していたことと同じである。したがって、韓国における感情的な「日本製品不買運動」は、経済の世界性と先ず以て自国の利害を最優先する民族国家の一国性を単位として動いている現実的な世界に引き寄せて言えば、経済の世界性において規模が巨大な中国市場や米国市場とは違い規模が狭小な韓国市場で「アサヒビールとユニクロ」にほんの少しの微々たる打撃を与えることができただけと言うことができる（ヤフーニュース、JIJI.COM時事通信社「金融財政ビジネス」、ジャーナリスト・崔碩栄、９／２３）。
　そしてまた、イエスが「おのれを低くする」ということの「意味および目標」は、「イエス」自らが、神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もというわれわれ人間の無神性・不信仰・真実の罪（『福音と律法』）のただ中にあるわれわれ「人間が……為さなければならないところのことを為し給うたという」点に、「換言すればイエスが、死に至るまで従順であられたという」点に、「いや、そのことを超えて、その従順の中で」、「この（イエスによっては犯されなかった）矛盾の呪いと罰を（≪その復活に包括された≫）十字架の死に至るまでご自分の身に負われたという」点にある。「その際、ただひとつのことだけが、換言すれば（≪われわれのための神としての≫）神が人間の存在と運命に対してご自分を犠牲にされること」、「その中で神ご自身がこの人間の存在と運命をそのようにご自分のものとなし給うので」、「その神存在」は、「神ご自身の眼以外のすべての眼には、徹頭徹尾見てとれなくなってしまう」ところで、「ご自分を犠牲にされるということだけが問題であることができる」、それ故にその際、キリストにあっての「神が、被造物と異なるその相違性」は、「既に、人間的な僕のかたちをとることでもって、死の中でのその自然的な終焉（≪精神・意識を内在させる身体・肉体の死≫）の中で、そしてまさに十字架上での犯罪人の死としての死のその中で、神ご自身の眼以外のすべての眼には見えなくなってしまった」という点にある――「彼ノ神性ハシバラクノ間、イワバ隠レテイテ、ソノ力ヲ表ワサナカッタ。ソノ神性ハシバラクノ間、隠レタママデアッタ。換言スレバ、真理ハ顕ワサレナカッタ（カルヴァン）」。「何人もここでは」、「父以外にみ子を知らない」、み子の存在の本質である神性はわれわれ人間に対して隠されたままである。「しかし、このことは、み子は、み子であることを、それ故に父と共にまことの神であることをやめ給うたという意味ではない」、何故ならば「神の自由」（下記の【注】を参照）において、子は、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した子（第二の存在の仕方）だからである、全き自由のキリストにあっての神は、区別を包括した単一性（「単一性と区別」）において、子は父が子として自分を自分から区別した子（第二の存在の仕方）であり、聖霊（第三の存在の仕方）は愛に基づく父と子の交わりであるように、「神の自由」において「別なものであり給うことができる」からである。したがって、近代主義的プロテスタント主義的キリスト教的宣教や神学が「キリストのまことの神性の告白を信用しない場合」、それは「視覚的錯覚」（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）、人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍に依拠しているからである。前述したことを『福音と律法』に即して言えば、次のように言うことができる――イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、われわれのためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の『イエス・キリストの信仰』は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」、主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――神の側の真実としてある、それ故に「成就と執行」・「永遠的実在」としてある、「イエス・キリストが信ずる信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの（『ローマ書新解』）、「律法の成就」・完了そのもの（――このイエス・キリストにおいては、律法と福音は二元論的に対立しておらず、単一性と区別において、すなわち区別を包括した単一性において律法は、キリストの福音を内容とする福音の形式である、すなわち律法は、あの「神への愛」と「神への愛」を根拠とする「神の賛美」としての「隣人愛」という連関における＜純粋＞なキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えである）、成就・完了された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済（ここで平和の概念は、救済の概念に包括されているそれである、すなわちそれは、「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」である）として理解されるべきものである。したがって、さらに『福音と律法』に即して言えば、次のように言うことができる――「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく（≪私は目的格的属格として理解された「イエス・キリストを信じる信仰」によって生きるのではなく≫）、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ（≪主格的属格として理解された「イエス・キリストが信ずる信仰」によって生きるのだ≫）＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）」、換言すれば主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――神の側の真実としてある、それ故に「成就と執行」・「永遠的実在」としてある、「イエス・キリストが信ずる信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの（『ローマ書新解』）、「律法の成就」・完了そのものであるイエス・キリストに、すなわちあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰に生きるということである、徹頭徹尾このイエス・キリストにのみ感謝を持って信頼し固執し固着して生きるということである、何故ならばあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を通して、われわれ人間は、「『自分の理性や力（≪人間の感情・意志・霊性・自然を内面の原理とした修行等≫）によっては』全く信じることができないこと」（『福音主義神学入門』）を知らされ・そのことを告白せざるを得ないからである、「神に敵対し神に服従しない」われわれ人間は、「肉であって、それ故に神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を持っていない」（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）からである、「（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」、「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」。このような訳で、イエスの「おのれをむなしうすることとおのれを低くすること」は、「その神存在の放棄および喪失と何の関り」もないのである。したがって、八木誠一の恣意的独断的なイエスの「＜ただの人＞」化は、あの「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）における聖書的啓示証言（起源的な第一の形態の神の言葉、すなわち「啓示の実在」そのものの最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、すなわち啓示の「概念の実在」、聖書的啓示証言）に信頼し固執し連帯するキリスト教に固有な立場からする、（内在的な外在的なそれを含めた）信と不信、キリスト教と非キリスト教の架橋（包括し止揚する）という課題を扱う信仰・神学・宣教における＜思想＞ではなく、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」（『ルートヴィッヒ・フォイエルバッハ』）として、形而上学的な抽象化・一面化・固定化に過ぎないものであると言うことができるのである。

【注】
　完全な「神の自由」は、ご自身の中での神としての「自存性の概念（≪自由の概念の積極的側面≫）」とわれわれのための神としての「神とは違うものによって為されるすべての条件づけからの神の自由」としての「独立性の概念（≪自由の概念の消極的側面≫）」との総体的構造（総体性、全体性）におけるそれである。