カール・バルト（その生涯と神学の総体像）

カール・バルト『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−６（１２１−１３４頁）

「六章　�~の現実（下）　三十一節　神の自由の様々な完全性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の自由の神性は、神ご自身の中で、またそのすべてのみ業の中で、ひとりでいまし、不変であり、永遠であられるということ、まさにそれと共にまた遍在され、全能であり、栄光に満ちた方であり給うということ、から成り立っており、そのことの中で真であることが確証される（この定式の詳述については、２０１８年１２月２８日の記事で行っています）。（３頁）

註：客観的な対象として存在している、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）で論じています、参考にしてください。

「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−６
　ご自身の中での神としての、またわれわれのための神としての、神の本質全体の神の単一性と遍在、神の不変性と全能、神の永遠性と栄光という区別を包括した単一性（「単一性と区別」）における「神の不変性」は、「神の自由の完全性（下記の【注１】を参照）として理解されることを欲している」。このことは、キリストにあっての「神が、その（≪神とは全く異なる≫）被造物の領域の中で起こった背反行為に対してぶつけ給うあの抵抗」（判定、裁き）は（下記の【注２】を参照）、「ただ単に」、「受動的な抵抗であるだけではないということ」、「神は、（≪ご自身の中での神として≫）ご自身の中で」、「また（≪われわれのための神として≫）世界の創造主および主として」、ただ単に、「そのみ座の高所にいまして」、それ故に「世界の過ちと苦悩から遠く離れて、ご自分に等しくあり続け給う（≪ご自身の中での神としてだけあり続け給う≫）ということから成り立っているのではないということ」を意味している。「（その啓示と和解の中で、出来事となって起こるところの）罪に対し神が逆らい給う抵抗のみ業」は、「神がその際、現にあるところのものであり続け給うことによって」、「神がそのことの中で」、「父なる名の内三位一的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」におけるご自身の中での神として「神ご自身の本質の中ででも可能でなく、（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――啓示者・創造主、父なる神の子としてのイエス・キリスト自身――啓示・和解主、愛に基づく父と子の交わりとしての聖霊――啓示されてあること・救済主なる神の存在としての全き自由の神の愛の行為の出来事全体におけるわれわれのための神として≫）その創造のみ業の中ででも欲せられなかった」「被造物の背反と破滅という前提のもとででも、世界との接触と交わりを保ち給う限り」、「新しい業、さらに引き続いての神的充実のみなぎり溢れである」。キリストにあっての神は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）の中でにおいて、「罪深い人間の神、その審き主、救い主であり給うことができる」。その「完成」（『バルトとの対話』）、「救贖」、「終末」は、復活されたキリストの再臨を待たなければならないが、神の側の真実としてあるイエス・キリストにおいて成就・完了された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済は、平和を包括している。その救済は、『平和に関するバルトの書簡』に即して言えば、「この世の神との和解」、「人間相互間の和解を直接その内に包含している和解」、神の側の真実としてある「神ご自身によって、イエス・キリストの歴史（≪『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、「イエス・キリストにおける啓示の時間」、「実在の成就された時間」、「時間の主の時間」、「本来的な実在としてのイエス・キリストの新しい時間」――ここに、「まことの現在」、「まことの過去と未来が存在する」≫）において、その生涯と死において、すでに完成され（≪成就・完了され≫）、死人からの復活においてすでに啓示されているような、和解」である、換言すれば「われわれ人間によって初めて完成されねばならないような和解ではなくて、（≪神の側の真実としてある≫）神ご自身によって確立された和解」である（≪『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、「成就と執行」、「永遠的実在」としてある和解である≫）、イエス・キリストにおいては、すなわち「神自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」イエス・キリストにおける神の愛（『ローマ書』）においては、「神と人間が、しかしまた人間とその隣人が平和的」なのであり、「敵としてではなく、忠実な同伴者、仲間として、共にある」のである、イエス・キリストにおいて平和は、「神ご自身が世界史のまっただ中に創造し見えるものとして下さった（≪「永遠的実在」としてある≫）現実性」である、「この贈り物はただ、われわれがこれを受けとることを待っている」、それ故にわれわれが「この事実に向かって、眼と耳を閉ざして生きているということが、悲惨」なのである、そうした中で、われわれは「平和は戦争より善いものであるということをくりかえし断言せねばならない」が、「それらのことは究極的に何の助けをももたらさない」ことは「明白」である（何故ならば、現存する世界には、自国の利害を先ず以て優先し保守・保持することを第一義とする、そして一部国家支配上層の意思によって動員できる軍隊組織・国軍を持っている民族国家が存在し、世界は、経済の世界性とそうした戦争の元凶ともなる民族国家の一国性を単位として動いているからである）、このような訳で、世界が必要としている革命的認識は、「世界の救い」は、「ある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内」にはないのであるから、「世界はイエス・キリストにおける神の愛によってすでに解放された世界である」ということに感謝をもって信頼し固執し固着するところにあるのである、と。したがって、教会の宣教における思惟と語りは、このことに集中しなければならないのである。
　「神が現にあるところのものであり給い、永遠の平和であり給うならば、その時、確かにそのことでもって、神の中には何の罪もないということについて」、「同時にまた、神は罪に対する対立、しかも積極的な対立、しかも無限に立ちまさった積極的な対立の中にい給うということ、罪は神の中で（そのようなわけでまたわれわれの罪として神からして）はじめから否定され、反駁され、克服されているということについて決定が下されているのである」。そしてまた、「神が世界の創造主および主であるとするならば、その時、そのことでもって確かに罪はまた被造物の内部ででもただ不可能な、換言すれば神の保持する恵みを通して拒絶された可能性であることができるだけであるということについて決定が下されているのである」。「同時にまた、罪はそれが現実となることによって、創造主にとって、その被造物の滅びおよび災いとして、直接、切実な問題であり、罪はそのような被造物の創造主としての神にとって、まさに耐えられないものであり、罪の反駁と克服は事実、神の最も固有な事柄であるということについて決定が下されているのである」。「人間が罪を犯したという新奇な事実よりも、……その本質において罪に逆らい給う神のみ業の中で明らかとなり、また力を発揮する……（……永遠からして、世の創造以来あられたのと同じ方として、（≪すなわち「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、その働き・業・行為において、全き自由の神の存在としての全き自由の神の愛の行為の出来事、イエス・キリストにおいて≫）新たにご自身を実証し給う）神的なあわれみと神的な怒りはさらにもっと新しいのである」（下記の【注２】を参照）。このような訳で、「その限り、神がアブラハムの中でイスラエルを、またイスラエルの中ですべての民を、（≪神的なあわれみと神的な怒りという区別を包括した単一性において≫）あわれみ給うことによって、新しい何かが起きるのである」。「神は、被造物に対して、（被造物がそれに対して罪を犯した）神の保持する恵みに対して、この新しい（それを恵みとして新しく確認し、説明する）形式を与えることを義務として負い給わない。神がそのような義務を被造物に対して負い給わないのは、ちょうど神が被造物に対しても、ご自分に対しても、被造物を創造することを義務として負い給わなかったのと同様である」。言い換ええれば、キリストにあっての神が、「まさに罪深い被造物を引き受けようと欲せられ、繰り返し引き受け給うということ」は、常に全き自由の神の全き「自由な措定であったし、今も自由な措定である」――このような訳で、「新約聖書の中で、それは正しくも『新しい創造』と呼ばれている」。そのような自由の措定として「神はそのことを為し給うたし、為し給うのであるから」、われわれは、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、神が、「罪深い人間の神、審き主、救い主であることを欲し、救い主であり給うということの中で」、「新しい神の本質の充実を、神の恵みの深さを認識しなければならない……」。

【注１】「神の自由」という概念は、その積極的側面を「強調」しつつ、その積極的側面と消極的側面との総体構造（区別を包括した単一性）において定義しなければならない。すなわち、それは、「自己自身である神の自由」（≪ご自身の中での神としての神の自由≫）としての「自存性の概念（≪自由の概念の積極的側面≫）」と「神とは違うもの（≪神とは全く異なるわれわれ人間の自己意識・思惟・理性≫）によって為されるすべての条件づけからの神の自由」（≪われわれのための神としての神の自由≫）としての「独立性の概念（≪自由の概念の消極的側面≫）」との総体的構造（総体性）において定義しなければならないのである。

【注２】二元論的にでは決してなく、キリストの福音を内容とするその福音の形式としての律法を論じた、すなわち区別を包括した単一性における福音と律法を論じた『福音と律法』および『ローマ書新解』で、バルトは、次のように述べている――（ア）キリストにあっての「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。（≪人間論的な自然的人間はもちろんのこと、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、≫）われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！（≪われわれ人間は、人間の「自主性」・「自己主張」・「自己義認の欲求」を手放し放棄することはできない。すなわち、聖書的啓示証言によれば、それ故に信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰によれば、われわれ人間は、「無神性」・「不信仰」・「真実の罪」のただ中に存在している≫）神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、啓示者である父なる神の子としての啓示、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間≫）イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、われわれのためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の「イエス・キリストの信仰」は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）（≪ギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」の属格の「の」は、「イエス・キリストを信じる信仰」――目的格的属格として・すなわち神と人間との混合・共働・協働として理解されるべきものではなく、あくまでも神の側の真実としてある「イエス・キリストが信ずる信仰」――主格的属格として理解されるべきものである≫）、（イ）「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、（≪あくまでも神の側の真実としてある≫）神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、 現実ではない。……部分的にも現実ではない」。何故ならば、『福音主義神学入門』や『教会教義学　神の言葉』にもあるように、神とは全く異なるただの人間である教会論的なキリスト教的人間であれ、「神に敵対し服従しない」われわれ人間は、また「肉であって、それゆえに神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を持っていない」からである、そのようなわれわれ人間は「『自分の理性や力によっては』全く信じることはできない」からである、このような訳で「そのことが現実であるのは、ただ、（≪あくまでも神の側の真実として、≫）われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」、（ウ）「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」（『福音と律法』）、（エ）「われわれは、われわれの主としての（≪あくまでも神の側の真実としてある「律法の成就」・完了そのものとしての≫）イエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」（『ローマ書新解』）。

　われわれは、神の側の真実としてあるキリストにあっての神の救いの時間性、救済史、「救いの歴史そのもののほとんどすべてに」、その存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動、全き自由の神の存在としての全き自由の神の愛の行為の出来事において、）「不変なるものの一般的な概念とは終始折り合えない」「実際の特有な姿」・「特有性」があることを、「換言すれば創造主としてのその存在と行為から区別し……（≪引き立たせ≫）給うところの特有性」があることを、換言すれば「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方（性質・働き・業・行為・行動、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在）であるイエス・キリストの父（父なる神、啓示者、創造主）のその存在と行為（起源的な第一の存在の仕方のそれ）から区別された（父が子として自分を自分から区別した）子としてのイエス・キリスト自身（子なる神、啓示、和解主）のその存在と行為（第二の存在の仕方のそれ、性質・働き・業・行為・行動、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在）が、「それと共にその神的な本質」があることを、「見過ごしたり、消し去ってしまうならば、聖書の神を、……（≪神の不変性と全能という神の本質の区別を包括した単一性における≫）神の不変性を理解することはできない」。したがって、「この新しい業」（和解の業）は、「世界の創造および保持の領域の内部で、またこの保持の業が続いて進んでいることによって起こる……として理解することはできない」ところのキリストにあっての神の「特別な業」、すなわち「その中で神はもう一度自分自身を凌駕し給い、神は今こそはじめて、まさに神的自己を凌駕し給うことの中でこそ、いわば後方に向かって創造者なる神として認識されることができる特別な業である……」――それ故にそれは、創造の「あの業と簡単にそのまま合致せず、またただ単に（シュライエルマッヘルがそのことを欲したように）あの業の継続およびクライマックスとして」理解することはできない。このことについて、バルトは、『教会教義学　神の言葉�T』で次のように述べている――「創造された世界」における「神の愛」と「われわれの世界」における「イエス・キリストの事実の中における神の愛」との間には差異がある、すなわち後者の神の愛は、「まさしく神に対し罪を犯し、負い目を負うことになった人間の失われた世界に対する神の愛」である、すなわち「和解ないし啓示」は、「創造の継続」や「創造の完成」ではない、この意味は「和解ないし啓示」は、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるイエス・キリストの「新しい神の業」であるということである、それは「神的な愛の力」・「和解の力」である、このイエス・キリストは、和解主として、三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父・創造主のあとに続いて、第二の存在の仕方において「第二の神的行為を遂行」（全き自由の神の存在としての全き自由の神の愛の行為の出来事を遂行）したのである、この「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の存在の仕方の「失われない差異性」における「創造と和解のこの順序」に、「キリスト論的に、父と子の順序、父（≪啓示者、言葉の語り手、創造主≫）と子（≪啓示、語り手の言葉――起源的な第一の形態の神の言葉、和解主≫）の順序」が対応しており、「和解主としてのイエス・キリスト」は、「創造主としての父」に先行することはできないのである、しかし父と子は共に「失われない単一性」・神性・永遠性をその存在の本質としているから、その従属的な関係は、その存在の本質の差異性を意味しているのではなく、その存在の仕方の差異性を意味しているのである、このことは、父なる神としての起源的な第一の存在の仕方の中での一人の神（「失われない単一性」・神性・永遠性としての存在の本質とする神）、父が子として自分を自分から区別した子なる神としての第二の存在の仕方の中での一人の神（「失われない単一性」・神性・永遠性としての存在の本質とする神）、愛に基づく父と子の交わりである聖霊なる神としての第三の存在の仕方の中での一人の神（「失われない単一性」・神性・永遠性としての存在の本質とする神）、という神の「存在の本質」（「失われない単一性」）とその神のわれわれ人間へと向かう「三つの存在の仕方」（その性質、業、働き、行為、行動の「失われない差異性」）における全き神の自由を意味している、「創造が無からの創造であるように、和解は死人の甦り」である、われわれは「創造主なる神に生命を負うているように、和解主なる神に永遠の生命を負うている」、と。「われわれと創造者としての神の存在および行為の間には」、「罪」、「それを通してわれわれがその被造物としてのわれわれの現実存在と創造者としてのあの方との交わりを台無にし（前段の【注２】の（ア）を参照）、それによってわれわれがあの方を間違った仕方で認識するようになった堕罪が立っている」。「世界の創造者および主」は、「初め」、「起源」、「万物のまことの存在の原理ではあり給わない」。したがって、「もしもわれわれがこの原理（≪自然神学の段階、自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階において、人間の自己意識・理性・思惟によって対象化されたに過ぎない、あるいは人間的欲求によって対象化されたに過ぎない「存在者レベルでの神」≫）を神とみなすならば、われわれは、自分たちが神から堕落したものであることを忘れてしまい、偶像を打ちたてることによってさらにわれわれの堕罪を繰り返し確認することになるであろう」。「世界の創造者および主」は、前述したように、「まさに神から背いたわれわれの堕罪の中でこそ、われわれを引き受け、それと共にその創造そのものでもって為したのと比べてそれ以上のことを、すなわち創造の業を確認しつつそのほかの何か（≪和解の業≫）をわれわれに対して為し給う方であり、ただそのような方であり給う」。この「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、その存在と行為――「この第二のことを見て取る認識の中で、認識と共に」、われわれは、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方、その存在と行為――その「第一のことを認識するのであり」、「この特別なことの中で、特別なことと共に、一般的なことを認識するのであって、決してそれとは逆ではない」。何故ならば、イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された神は、それとしては、聖性・秘義性・隠蔽性（それ故に、われわれ人間は神の不把握性のただ中にある）を本質としており、われわれ人間が信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を与えられるためには、全き自由の神のその都度の自由な恵みの決断に基づく、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、啓示者である父なる神の子としての啓示、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストの出来事と、愛に基づく父と子の交わりである聖霊の注ぎを必要とするからである。したがって、前段の【注２】の（ア）の「堕罪の特殊性に対応しつつ神からしての特別なことが、そしてまさにこのものの中でこそ、現実に不変なるものが問題である」。

　「救いの歴史の主体および主としての神のこの特別なこと」は、人間的な側面からする史実史（Historie）ではない「神的な側面」からする創世記の「歴史物語（≪Geschichte、「古潭」、「原歴史」、「史実以前の歴史」≫）によれば、既に堕罪の直後にはじまった神と人間の間の……交わりにまでくるということの中で明らかになって来る」（下記の【注３】を参照）――「創世記一−二章で描写されている神の一般的な語りは、そこで終わりを告げる」、「今や神」は、「園の中を（創世三・八以下）神のみ前から無力にも身を隠そうとした人間に向かって語りかけ、その逃げ口上を聞き」、それの「逃げ口上としての正体を暴露し給う」、「その存在の新しい秩序を告げ給う。すなわちその呪いを、しかし直ちにその約束を告げ給う」――この「人間との明瞭な交わりの形から、それ以後、被造物と関係を持ち続け給う（≪起源的な第一の存在の仕方である≫）創造主の存在と行為（≪全き自由の神の存在としての全き自由な神の愛の行為の出来事≫）は成り立っている」。「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする神は、「全世界の創造主および保持者」として、「今や、この新しい現実の中でご自身を啓示し、行動し給う」、「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方である父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方において、すなわち啓示者である父なる神の子としての啓示、イエス・キリスト自身において、「この新しい現実の中でご自身を啓示し、行動し給う」。「神の栄光、またその被造物に対するその愛の栄光」における「創世記三章の神」は、「創世記一−二章の神よりも」、「明らかに……より明瞭な仕方でいますが故により生き生きといまし給い、（≪ご自身の中での神とわれわれのための神という区別を包括した単一性におけるわれわれのための神として≫）今や被造物に向かって前よりももっと親密な仕方で身を向け給う」。「単なる創造以外の別な何か、創造以上のさらに大きな何かが今や出来事（≪三位一体の神の第二の存在の仕方における和解の出来事≫）となって起こったのである」。このイエス・キリストにおける和解の出来事の中で、「今やはじめて……創造主と創造の栄光が示されるのである」。したがって、「人は、神が人間との間に持ち給うこの明瞭な交わりを、創造主と被造物の間の関係の一般的な真理の絵に蒸発させてしまうことは、……許されないのである」。何故ならば、「まさにあの交わりの特別な真理（≪和解ないし啓示の真理≫）の中でこそ」、「創造主と被造物の間の関係の一般的な真理」が「配慮され保持されているからである」。したがって、「われわれが、この一般的な真理を認識しようと思うならば、われわれがその中で生きることを望むならば、われわれはこの現実的に理解されるべき交わりの中で、現に生きなければならない」、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰に生きなければならない、「国家的、政治的、経済的また道徳的な諸原理や体制」ではない、またある「文化」や「人種」や「民族」や「国民」ではない、またある宗教的権力ではない、ある特定の人間ではない、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方における「神的な愛の力」、「和解の力」である「イエス・キリストの名」にのみ感謝をもって信頼し固執し固着して生きなければならない。

【注３】バルトは、歴史的事実や人間の自己意識・理性・思惟を軽視したり否定したりしているわけでは決してない。ただ、バルトは、例えば信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）には聖霊によって更新された理性が必要である、イエス・キリストにおける啓示の出来事が必要である、その啓示はその啓示自身に固有な証明能力を持っているということを語っているのである、それ故に人間論や人間学的な哲学原理・認識論・世界観にはそういう能力は全くない――教会の一つの機能としての「神学は方法論的には、ほかの学問のもとで何も学ぶことはない」、「われわれが哲学的用語をつかうという事実にもかかわらず、神学は哲学的試みが終わるところから始まる」、それ故に、教会の宣教が、その思惟と語りが、「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項なのであって、われわれ人間の決定事項ではない」、それ故に教会の一つの機能である教義学の在り方は、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの人間的態度に対し神が応じて下さるということに基づいて成立している」、ということを語っているのである。また、このバルトは、例えば次のように歴史＜主義＞を批判しているのである――「歴史主義」は、「人間精神が生み出したものを問題とする限り、啓示を問おうとしないで、人間精神の自己理解を第一義として聖書の中でも神話を問う」ことをする、しかし「啓示の証言としての聖書の理解」と、「神話の証言としての聖書の理解」は、「相互排除の関係」にある、それ故に聖書記事を「歴史物語」とみなし、聖書記事の「一般的な歴史性（Geschitlichkeit）を問題化すること」は、「証言としての聖書の実体を攻撃しない」が、聖書記事を「神話として受けとること」は、「証言としての聖書の実体を攻撃する」ことになる、何故ならば啓示（イエス・キリストにおける啓示の時間、われわれのための神の時間）は、人間の類の時間、人間の「歴史の枠に、はめ込まれてしまうような歴史的出来事（≪「イエス・キリストにおける啓示の時間から『攻撃』された」、われわれ人間の「失われた非本来的な」人間の類の時間の出来事≫）ではない」からである。このバルトは聖書の受肉と神人性についても、次のように述べている――「確かに受肉は中心的にして重要なものではあるが……新約聖書の本来的内容であるというふうには言ってはならないのである。（中略）それはおよそすべての他の宗教世界の神話や思弁の中にも見出されるものである。（中略）人は、聖書が語っている受肉を、ただ聖書からのみ、換言すればイエス・キリストの名からのみ……理解することができる。……神人性それ自体もまた新約聖書の内容ではない（≪何故ならば、人類史の経済的基盤を農耕に置いたアジア的段階の日本において非農耕民は、天皇を含めて神人と呼ばれていたから≫）。新約聖書の内容とは、ただイエス・キリストの名（≪人間の歴史的形態≫）だけであり、そのイエス・ キリストの名がたしかにまた、そしてとりわけ、彼の神人性の真理をその名に含んでいるのである。 ただまったくこの名だけが、啓示の客観的現実（≪イエス・キリストは、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間である。啓示者である父なる神の子としての啓示、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのもの≫）を言いあらわしている」（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）。また、文芸批評家で思想家の吉本隆明は、歴史主義から対象的になり距離を取って、次のように述べている――「ぼくは、マタイ伝の象徴している思想内容にくらべたら、史実性はあまり問題にならない ……。（中略）日本でいえば荒井献さんでもいいし、田川健三さんでもいいんですが、歴史的イエスをどこまで限定できるかとか、できないとか、そういう立証のしかたや歴史観があるわけでしょう。ぼくはいまでもそれほどの重要性があるとはおもってないんです。それからそれがほんとうに、そういうふうに実証できているともおもえないところがあります」（『信の構造２――全キリスト教論集成』）、「神話にはいろいろな解釈の仕方があります。比較神話学のように、他の周辺地域の神話との共通点や相違点をくらべていく考え方もありますし、神話なるものはすべて古代における祭式祭儀というものの物語化であるという考え方もあります。また神話のこの部分は歴史的＜事実＞であり、この部分はでっち上げであるというより分け方というやり方もあります。そのどの方法をとっている場合でも、この説がいいということは、いまのところ残念ながら断定できません。プロ野球で三割の打率があれば相当の打者だということになるのと同じように、神話乃至古代史の研究において、打率三割ならばまったく優秀な研究者であるとわたしはおもっています。じぶんでそれ以上の打率があるとおもっているやつはバカだとかんがえたほうがいいとおもいます」（『敗北の構造』「南島論」）。