カール・バルト（その生涯と神学の総体像）

『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−２（９４−１０２頁）

「三十一節　神の自由の様々な完全性　二　神の不変性と全能」２２−２
　「神の不変性」の概念について、「古プロテスタント主義の正統主義」は、「上手に物事を処理することができなかった」。しかし、正統主義は、われわれに、「神の自存性（≪自由≫）の概念を一般的に考察するに当たって考えた」次のような「聖書の箇所を思い出させた」――「わたしは、有って有る者」（出エジプト三・一四）、「神は人のように偽ることはなく、また人の子のように悔いることもない。言ったことで、行わないことがあろうか、語ったことで、しとげないことがあろうか」（民数二三・一九）、「主なるわたしは変わることがない」（マラキ三・六）、「あなたはいにしえ、地の基をすえられました。天もまたあなたのみ手のわざです。これらは滅びるでしょう。しかしあなたは長らえられます。これらはみな衣のように古びるでしょう。あなたがこれらを上着のように替えられると、これらは過ぎ去ります。しかしあなたは変わることなく、あなたのよわいは終わることがありません」（詩篇一〇二・二六以下）、「あらゆる良い贈り物、あらゆる完全な賜物は、上から、光の父から下って来る。父には、変化とか回転の影とかいうものはない」（ヘブル一・一七）、「神がアブラハムに対して約束されたとき、『さして誓うのに、ご自分よりも上のものがないので』、ご自分をさして誓われ、誓いによって保証された『それは、偽ることのあり得ない神に立てられた二つの不変の事柄によって、前におかれている望を捕えようとして世をのがれてきたわたしたちが、力強い励ましを受けるためである。この望みは、わたしたちにとって、いわばたましいを完全にし不動にする錨であり』、かつ『幕の内』にはいり行かせるものである。その幕の内に、（≪完全性、自存性、愛の中で、隠蔽性・秘義性・不把握性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における第二の存在の仕方、すなわちご自身の中での神としては神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父が子として自分を自分から区別した父の子としてのイエス・キリスト自身、またわれわれのための神としては啓示者・言葉の語り手・創造主である父なる神の子としての啓示・語り手の言葉・和解主であるイエス・キリスト、この≫）イエスは、……わたしたちのためにさきがけとなって、はいられたのである」（ヘブル六・一三以下）。「ポラーヌス」は、神の本質の区別を包括した単一性を念頭に置いたこれらの聖句に即して語ることをしないで、イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現における「神の『不変性』を、次のように説明し基礎づけている」――すなわち、「神の自由、愛、生命に反対する……抗争の中で、神の『変わらない性質』について語」っている、換言すれば「本質ソレ自体、単純ニシテ最モ完全ナ運動、無限ニシテ知ルベカラザルコト……この意味で変ワルコトノナイ……第一原因ト第一動因という概念を展開させている」、「神ハ、ゴ自身ノ外ニアル何モノニヨッテモ動カサレタリ、変エラレルコトはアリ給ワナイ。（中略）マタ神ハ、内的ナ源泉カラシテ動カサレタリ、変エラレルコトモアリ給ワナイ。（中略）……神ノ中ニ様々ナ事物カラノ構成ガアルト判断スルコトヲ神ノ絶対的ナ単純性、不変性、最高ノ完全性ガユルサナイ。ソレデアルカラ神ハゴ自身ノ中デ少シモ変化シ得ルモノデハナク、ムシロ完全ナ、変化シナイ方トシテ存在シツツ、ホカノスベテノモノニ対シテ運動ノ原因デアリ給ウ。ソレ故ニ、神ハ全キ方トシテ、不変デアリ給ウ」というように。それに対して、「アウグスティヌス」の、「神が休み給うことと働き給うことの関係」についての論述は、「はるかに事柄（≪聖書的啓示証言のそれ≫）に近づいていた……」。アウグスティヌスは、「神の不変な神存在は、安息と運動の対立の彼岸に立っていること、それであるからそのうちの一方が神的なものであるとして、それほど神的でない他方と対立させ漁夫の利が占めらてはならないということ、神の運動を強調するために神の安息が否定されてはならず、神の安息を強調するために、神の運動が否定されてはならない」（総括的に言えば、神の本質の区別を包括した単一性）という点について認識し自覚していた、「人ガ、（≪ご自身の中での神としての≫）神ノ（≪ご自身の中での神としての≫）以前ノ休息ト（≪われわれのための神としての≫）後ニナッテノ働キニツイテ語ル時……、コノ『以前ノ』と『後ニナッテ』ハ、タダ造ラレタ事物――以前ニハ存在シナカッタガ後ニナッテ存在スルヨウニナッタ造ラレタ事物――ニ対シテ適用サレル。シカシ、神ノ中デハ以前ノ目的ハ後ニツヅク、ソレト違ッタ目的ニヨッテ変エラレ、抹消サレルコトハナイ。ムシロ同ジヒトツノ永遠的ナ、変ワルコトノナイ意志ニヨッテ神ハ、創造サレタ事物ニ関シテ、次ノヨウニ取リハカライ給ウタ。スナワチ、以前ニハ、ソレラガ存在シナカッタ限リ、ソレラハ存在セズ、後ニナッテソレラガ存在シ始メタ時ニ、ソレラハ存在スルヨウニト、取リハカライ給ウタ」、というように。しかし、このように述べるアウグスティヌスが、「両者の間の関係」を、「神ご自身に対しての、ご自身の中での神に対しての以前と以後のない安息を帰してゆくために」、われわれのための神としての「外に向かっての神の働きにだけ制限しようとしている」点については「気をつけるべき」である。このような論述に対して、「あれらの聖句の中で証されている神の不変性」は、「決して抽象的な安息ではなく」、「生ける神、ただ単に（≪われわれのための神として≫）外に向かって生ける神（≪イエス・キリストの父――啓示者、創造主、子としてのイエス・キリスト自身――啓示・和解、愛に基づく父と子の交わりとしての聖霊――啓示されてあること・救済主≫）であるだけでなく、また確かに、先ず第一に、（≪「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「神の＜内＞三位一体的父の名」・「三位相互＜内在性＞」におけるご自身の中での神としての≫）ご自身の中で生ける神、（≪起源的な第一の存在の仕方である≫）父（≪この父が子として自分を自分から区別した子としての第二の存在の仕方であるイエス・キリスト自身、愛に基づく父と子の交わりである聖霊・「父なる神と子なる神の愛の霊」、この聖霊はその交わりの中で「父は子の父」、「言葉の語り手」・啓示者であり、「子は父の子」、「語り手の言葉」・啓示である、ここに「神は愛」・「愛は神」であることの根拠がある――「愛は、神にとって最高の法則であり、最後的な実在である」、愛は自由がそうであったように、「神ご自身においてのみ、実在であり真理である」≫）、（そのような方として天と地の創造者である）全能者に固有な安息、中絶されない連続性、変わらない姿、『不変性』である」。このことこそ、「I・A・ドルナーが『神の不変性という教義的概念の正しい理解について』……の中で、神論全体にとって啓発的な仕方で明らかにしたことである」、「どれほど多くの有益な刺激をわたしがドルナーに負うているかは、この分節を読むに当たって、慧眼な読者は直ちに見て取るであろう」。
　しかし、われわれにとって問題は、「多かれ少なかれ首尾一貫してそのようなものとして理解された不変なるものの中に認識することが問題なのではなく」、キリストにあっての「神を、（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）『不変である』として認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）することが問題であり、賓辞が主辞を通して規定されることに」、その「主辞がその（≪イエス・キリストにおける神の≫）自己啓示（≪起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言≫）を通して規定されることに従わなければならない」という洞察が問題であるから、それ故に人間の自由な自己意識・理性・思惟あるいは欲求によって「勝手に選ばれた主辞を勝手に選ばれた賓辞を通して規定してはならないという洞察と共に立ちもすれば倒れもする」のである、ちょうど「福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」、「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫）へのキリストの十字架でもって終わる古い世」・時間は、復活へと向かっている、このキリストの復活（成就された時間）は、「新しい世」・時間のはじまりであるというイエス・キリストの生誕・死と復活の宣教における「福音の歴史の正しい考察」は、イエス・キリストにおける神の「啓示（≪神の時間≫）は歴史（≪人間の時間≫）の賓辞ではない」、「歴史（≪人間の時間≫）が啓示（≪神の時間≫）の賓辞である」という認識と自覚によって「立ちもすれば倒れもする」ように。
　さて、「もしもポラーヌスが語っているように、神が、……その単純性・無限性・全く完全性によって……純粋ニ不動ナモノであるとるすならば」、「最高の非本来性の中で、あるいは……最も重大な矛盾の中でだけ」、「世の創造主および主としての神について、神の現実の業としての和解および啓示の業について、み子の受肉、代理、また仲保者としての務めについて、またそのことに基礎づけられつつ、父としての神およびその子らとしての信者たちについて、聖霊の賜物について、祈りについて、われわれに与えられた永遠の生命の約束について語られ得ることになるであろう」。したがって、「その時には、（≪「それらすべてを、排他的に敬虔な感情の興奮として解釈しようとする解決」という≫）シュライエルマッヘルの解決」に与しなければならなくなるであろう、「また、経験な感情の興奮があまり意味深いものとして示されなかった場合には、無神論的な解決」に与しなければならなくなるであろう。何故ならば、「純粋ニ不動ナモノは、死である」からである。したがって、「純粋ニ不動ナモノが神である時には、死が神である」、換言すればその時には、「死が絶対的に措定され、最初にして最後のもの、本来的なものとして宣言されることになる」、「死は限界を持たず、全能であり、それ故に死の克服者は存在せず、われわれにとって死にうち勝つ希望は存在しないことになる」、「死そのものは、万物の主である。そして死が神である時、神は死んでいる」。この時、「宗教のすべての慰めとすべての警告は、よりよい知識に逆らう偽善となり、退屈な坊主の戯言となる」。「まさにこのところで、福音主義教会の正統主義の神学も、ルターとカルヴァンの後一〇〇年経つか経たないうちに、この不動ナルモノと共に異教的な……何の希望も持たない者たちの神概念を取り上げ、自分のものにしよう」としていることに「全く気づかず、それと共にただ単に教会と神学の新プロテスタント的な崩壊に対して、具体的には（≪人間の神化あるいは神の人間化の原理を発見したヘーゲルの強力な痕跡を持った人間学的神学者、総括的には自然神学者の≫）シュライエルマッヘルと（≪そのようなキリスト教を根本的包括的に原理的に批判した≫）フォイエルバッハの人間学的取り組みに対して準備したばかりでなく、それを超えて近代の原始的な不信仰（≪近代主義的プロテスタント主義的キリスト教、その信仰・神学・教会の宣教、総括的に自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教≫）に対しても準備しているのを見なければならないことは、まことに憂慮すべきことである」。何故ならば、そうした坊主の戯言は、「……古代の、またすべての後代の異教徒たちと一致して、死の最後的現実……を言おうとしているだけだからである」。
　このような訳で、「不変的なものそれ自体が神であるといった事情ではまさにない」ということが重要である。すなわち、ご自身の中での神としての、それからわれわれのための神としての、「神的愛の完全性」における「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という、また「神の自由の様々な完全性」における「神の単一性と遍在」、「神の不変性と全能」、「神の永遠性と栄光」という神の本質全体の区別を包括した単一性の認識と自覚が重要である。