本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性　　一　神の単一性と遍在」（その６−２）（１６−３３頁）

「三十一節　神の自由の様々な完全性　　一　神の単一性と遍在」（その６−２）−３
　「『一神教』は周知のように」、「最も原始的な宗教の密教的な秘義」であり、「主観的な自己意識、人間的個人そのものの自由の要望と支配要求の映像であるか、あるいは二重の反省の中で、世界の様々な力の、すなわち自然あるいは精神の、運命あるいは理性の、欲望あるいは義務の映像であるか、それともさらに具体的に、世界のこれら諸力……のさまざまな名目上のうちのひとつである」。吉本隆明は、『アフリカ的段階について　史観の拡張』で、世界のどの地域にもあてはまる未明の社会に普遍的にあった「風俗や生活」について、次のように述べている――大和朝廷の側から神話の形で書かれた支配の歴史である『古事記』や『日本書紀』の初期神話には、場所と時間が特定できない記述、すなわち日本列島のどの地域・地勢・自然風土なのか場所が特定できない記述や、世代的継承・親子関係や兄弟姉妹関係と関わりのない無時間的な「ひとり神」の概念の記述がある、例えば初代天皇の神武天皇・「カムヤマトいわれひこ」は、「地名を名前とする日本列島に特徴的な呼称」であるが、その祖先神である「ヒコなぎさたけうがやふきあえずのみこと」（「波うち際に建てた産屋の屋根を葺くのが間にあわないうちに生まれた」）は、「日本語の人名とは思われない名称を持った」その場所を特定できないものである、このように人類は、経済的基盤を農耕に置いた農耕社会の段階において「男・女神」を要請したが、自然生を主とした狩猟採取の原始社会（アフリカ的あるいは縄文的段階）においては、「無＜性＞神」としての「独神」という幻想性・観念しかなかった。このようなことは、未明の社会の有力な人物の場合には、世界普遍的にあり得た。「しかし、人は、イスラム教の危険、その誘惑的な思慮深さは、（≪イスラム教が、≫）結局ただ（そのほかの異教と比較して）より大きな原始的な素朴さ（≪換言すれば、「多種多様な弁証法に気づかない」ところの、形而上学的一面的固定的抽象的に「ひとつのものを他のものに対して優先させる」「唯一のもの」、「人間的な生と生の営みの理論的および実践的な原理を形作っている唯一のもの」、換言すれば「自然の中に」あるいは「精神の中に」、「運命の中に」あるいは「理性の中に」、「欲望の中に」あるいは「義務の中に」、「唯一のもの……を見てとる」認識の在り方における「一神教」、「神認識としての独一無比性の理念の絶対化」という原始的な素朴さ≫）」、すなわち「神の代わりに唯一の者、唯一のものを神として宣べ伝える際のより大きな原始的な素朴さから成り立っているということを見逃してはならない」。バルトは、仏教等の他の宗教的世界の神話や思弁や歴史的事実に即して、新約聖書の受肉および神人性についても、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』では、次のように述べている――「（中略）確かに受肉は中心的にして重要なものではあるが……新約聖書の本来的内容であるというふうには言ってはならないのである。（中略）それはおよそ（≪仏教等の≫）すべての他の宗教世界の神話や思弁の中にも見出されるものである。（中略）人は、聖書が語っている受肉を、ただ聖書からのみ、換言すれば＜イエス・キリストの名＞からのみ……理解することができる。……神人性それ自体もまた新約聖書の内容ではない（≪何故ならば、農耕を経済的基盤とした人類史のアジア的段階の日本の農耕社会において、天皇を含めて非農耕民は、神人と呼ばれていたから≫）。新約聖書の内容とは、ただ＜イエス・キリストの名＞だけであり、その＜イエス・キリストの名＞がたしかにまた、そしてとりわけ、彼の神人性の真理をその名に含んでいるのである。ただまったく＜この名＞だけが、（≪神の側の真実としてある、それ故に永遠的実在としてある≫）啓示の客観的現実を言いあらわしている」。因みに、ヘーゲルは、『歴史哲学講義』で、世界史的・人類史的段階に即して「一を原理する哲学」について、次のように述べている――「（≪人類史におけるアジア的段階の≫）中国の哲学と（≪人類史における古典古代的、ギリシャ・ローマ的段階の≫）エレア哲学と（≪人類史における西欧的段階の≫）スピノザの哲学が、おなじ一を原理とするといっても、肝心なのは一の内容がどうなのかです。一が抽象的な一か具体的な一か、精神的な一に達するほど具体的にとらえられているかどうか、そこに根本的なちがいがあるので、それを無視して三つの哲学を同列にあつかうのは、みずから、抽象的な一しか知らないこと、哲学の関心がどこにあるかを知らないまま哲学について判断をくだしていることを、証明するようなものです」。
　このような訳で、人間的理性や人間的欲求やによって現実化され対象化された「独一無比性の理念の絶対化に対して」、「ちょうど（≪戦争の元凶である民族国家の問題を後景へと退けた平和主義への妄信を含めて、また擬制民主主義でしかない議会制民主義下における国家の言語である法的政策的言語への妄信を含めて、またある特定の人種・民族の利益への妄信的な加担やある特定の「国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制」への妄信的な加担等≫）すべてのそのほかの絶対化に対して用心」しなければならないように、「用心」しなければならない、また「イスラム教とキリスト教を、あたかもそれらは少なくとも『一神教』という点で（≪一面で≫）共通なものを持っているかのように、（≪固定化して≫）一緒に並べることは、思慮のなさ（≪思想のなさ≫）を意味している」ということに注意しなければならない。イエス・キリストにおいて自己啓示された神の本質の区別を包括した単一性（「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」、「失われない単一性」の中での三つの存在の仕方において三度別様に父、子、聖霊なる神である「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「一神」・「一人の同一なる神」という神の本質の単一性と区別、神の本質の全体性・総体性）における「失われない差異性」、「相違性」こそが、「両者を分かっているもの」なのである。神の言葉の第二の形態である聖書的啓示証言におけるこの三位一体の神、それ故にこの聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯した神の言葉の第三の形態に属する教会の宣教、その一つの機能としての教義学、その思惟と語りにおける三位一体論は、「神論の決定的に重要な構成要素」であり、「啓示の認識原理」である。

　さて、人間は、人間によって「待ち焦がれ崇拝された単純性の中に、まことの神性を見て取る」試みをする、また「直接的な自己神化から間接的な自己神化へと移行しつつ」、人間によって「その都度崇拝された世界の力にその同じ単純性を帰し」、それ故に「あれらの世界の力のうちのどれか一つの力の中に単純性を、その限り神的なものを見て取る」試みをする、ちょうど他在であって自在・対他的であって対自的である人間の自由な自己意識・理性・思惟の類的活動の成果の頂に想定される精神（学・哲学）は、思惟に思惟を重ねて具体的普遍の頂へと高次化し自然から超出した精神であるから、その頂を極めた精神（学・哲学）は、「精神自体としては神と全く同一である」というように、あるいは世界史は自由の原理・自由の理念を認識し自覚した西欧近代を頂点とする世界普遍性へと向かうところの、自由の原理・自由の理念を認識し自覚していく世界精神の自己展開過程であるというように。それに対してマルクスは、『資本論』「第２版の後書」で、「私の弁証法的方法は、ヘーゲルの方法とちがっているのみならず、その正反対である」、理性的なものは現実的であり、本質は現象しなければならないから、現象とは、人間の自己意識・理性・思惟によって反省的に認識され自覚され対象化された現実性、すなわち本質を媒介させた反省概念としての現実性であるとした「ヘーゲルにとっては、思惟過程が現実的なるものの造物主であって、現実的なるものは、思惟過程の外的現象を成すにほかならないのである。しかも彼は、思惟過程を、理念という名称のもとに独立の主体に転化するのである。私においては、逆に、理念的なものは、人間の頭脳に転移し翻訳された物質的なものにほかならない」と述べている。観念の共同性（共同幻想、幻想的な共同的形態）を本質とする第一義化・価値化された政治的近代国家は、自然神学の段階あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階にある共同宗教としてのキリスト教の最後的形態なのである。「われわれが、単純なものの理念を、実際に、すべてのその複雑さからの抽象の中で、それ自身だけで、ただ単純に存在している本質として考えようとする仕方で、終わりまで考え抜くとする」と、人間的理性や人間的欲求やによって現実化され対象化された神としての「その単純なもの」は、われわれの「複雑な此岸全体を、ただそれ自身で独立して存在している世界として」理解することができるだけであるところの、あるいは「それとも単なる仮象として……理解することができるだけである」ところの、「全く不動な仕方で自分自身の中に憩うており、いかなる声も、行動も、他者への働きかけも、他者との関係づけもなすことができない彼岸的なもの」であると言うことができる。したがって、それは、「此岸の主人として理解することができない彼岸的なものである」。しかし、完全な「神的愛の神性」は、「神がまさにその愛の中で自由（≪自存≫）であり」、それ故に神の本質の区別を包括した単一性における「まさにその恵み、あわれみ、忍耐の中で神聖で、義しく、知恵に富み給うということから成り立っており、そのこと中で確証される」のであり、イエス・キリストにおいて自己啓示された三位一体の神は、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」（『ローマ書』）神と人間との無限の質的差異の下で、ご自身の中での神であると同時にわれわれのための神でもあるのである。「正統主義の神論が……陥ったところの弁証法」は、人間的理性や人間的欲求やによって現実化され対象化され客体化された「最も単純ナ実体の概念に基づかせている限り」において、「ちょうど後になってシュライエルマッヘルとヘーゲルの神論が……陥ったところの弁証法」と同じである。シュライエルマッヘルによれば、唯名論的に「われわれが神（その方の本質は、彼によれば、原因性の中で尽されてしまう……神）に帰するすべての性質（≪「差異性」・「相違性」としての「多数性」と「個別性」≫）は、（≪聖書的啓示証言によれば、神の自由、自存性は、父、子、聖霊なる神の愛、すなわち神の愛の行為の出来事としての神の存在の自由であり、「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の神的な自由の完全性および神的な愛の完全性は、その「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする「失われない差異性」における父、子、聖霊なる神という三つの存在の仕方、性質、働き、業、行為、行動の神的な自由の完全性および神的な愛の完全性であるにも拘らず、シュライエルマッヘルのそれは、≫）神の中での特別なものを言い表しておらず」、「ただ宗教的な自己意識の様々な段階において、絶対依存の感情を神に関連づける際の関連の付け方における特別なことを言い表している」（≪人間によって対象化され客体化された人間の自己意識・自己感情の類的本質、人間の思惟能力・感情能力の無限性である≫）とされるのである。このような訳で、その哲学は「本質的にキリスト教の正統的教義と一致」し、それ故に「キリスト教のもろもろの根本真理」は、その「哲学によって維持され保管されることになる」（『ヘーゲル』）とされるヘーゲル哲学の行き着く果ては、人間の神化あるいは神の人間化である。ヘーゲル哲学において神・啓示は、「意識に対して存在するものすべてのものが、意識にとって一つの対象となる時のような仕方において」現われる。したがって、ヘーゲルにおけるその神・啓示は、人間自身の自己意識・理性・思惟が「捕えた虜囚」でしかないものである。何故ならば、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異を「わがまま勝手に」恣意的独善的に止揚し捨象してしまったヘーゲル哲学は、「人間の自己運動を神のそれと取り違えるという混淆」のただ中で、「神の自由を認識していない……事態」のただ中で、現存しているからである。「われわれは、シュライエルマッハー以外の他の人々の所で（≪「骨肉にまで受け入れた西欧近代のただ中を現存するところの、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」人間学的神学あるいは哲学的神学あるいは土俗的神学の領域で、ブルトマン、モルトマン、ルドルフ・ボーレン、エーバーハルト・ユンゲル、ベルトルート・クラッパート、パンネンベルク、大木英夫、滝沢克己、八木誠一、北森嘉蔵、寺園喜基、喜多川信、佐藤司郎、小泉健等々学業的学問的に神学する神学者たちおよび時流や時勢に流されて説教する牧師たち・神父たちならびに大衆受けを狙いメディアに流されて著述するキリスト教的著述家たち、佐藤優、富岡幸一郎等々」ほとんどの人々の所で≫）、……〔この〕ヘーゲルの強力な痕跡に遭遇するであろう」（『ヘーゲル』）。キリストにあっての「神は確かに単純であり給う」。また、キリストにあっての「神の救済は、確かに複雑さからの救済でもある」。しかし、「この人間が救い出されるべき人間の複雑さには、人間によって（≪人間的理性や人間的欲求やによって対象化され客体化された、人間の想像能力・感情能力・思惟能力・表象能力の類的本質としての≫）絶対化された単純さの理念も含まれているのである」。したがって、その人間自身が対象化し客体化した「単純性の理念」は、キリストにあっての神としての単純なものではないから、「決して人を救う単純なものではない」のである、「ちょうど、（≪人間自身が対象化し客体化した≫）独一無比なるものの理念がそうでないのと同じように、それは、人を救う神的なものではない」のである。

　人が、「神の単一性」を、神の本質の区別を包括した単一性（神の本質の単一性と区別、神の本質の全体性・総体性）においてではなく、「単一性の神性にしてしまうところで起こること」は、「いずれにしても実際には、神の戯画である」。したがって、われわれが、「もしこれらの戯画のところで終わりたくないならば、われわれは、（≪ご自身の中での神としての≫）ひとりの、唯一の、単純な神について語る時に、（≪われわれのための神としての≫）愛であり給う神（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――啓示者・創造主、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――啓示・和解主、愛に基づく父と子の交わりとしての第三の存在の仕方である聖霊――啓示されたること・救済主なる神の愛の行為の出来事としての神の存在あるいは神の存在としての父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事≫）について語っていることを想起することなしに、神の単一性を（≪完全な≫）神の自由（≪神の自存性≫）の第一の規定として終わりまで考え抜くことはできない」のである。「失われない単一性」と「失われない差異性」という神の本質の区別を包括した単一性における「神の単一性の認識」は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）であって、「いかなる意味においても、人間的な予感と空想の結果ではなく、それは、神によって導き入れられた（≪神の側の真実としてある、先行するキリストにあっての神の側からする≫）神と人間との出会いの結果である」。「神の単一性の認識」は、「人間的な汝に対してわれ（≪三位一体の神としてのわれ≫）……が出会い、人間的な汝の現実存在の現実に、規定になった出来事（≪聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事、啓示・和解の出来事≫）……から出てくる人間的な結果である」、換言すれば啓示自身が持っている啓示の固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる人間的な直観と概念（≪聖霊の注ぎにより、その聖霊によって更新された感性や理性を介してのそれ≫）を用いての人間が人間的に所有する人間的な神の把握、信仰としての神認識、啓示認識・啓示信仰、三位一体の神であるキリストにあっての神に対する「人間的な応答である」、すなわち主イエス・キリストにのみ感謝を持って信頼し固執し固着するという応答である、「それは、そのもとに人間が置かれる神の約束」を「承認し確認することである」。また「それは、人間に対して与えられ、人間によって受け取られる神の命令（≪あのそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における「先ず第一義的に優位に立つ原理」としての起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその第二の形態である最初の直接的な第一の聖書的啓示証言を、その宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストにあっての神・純粋なキリストの福音を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」、すなわちキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、純粋なキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え――このことが、『福音と律法』によれば、「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、 教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」なのである≫）に対する服従である」（ここで注意すべきことは、聖霊によって更新された精神であれ、それは聖霊ではないということである。「聖霊は、人間精神と同一ではない」・それ故に「人間が聖霊を受けることを許され、持つことが許される場合、（中略）そのことによって、決して聖霊が人間精神の一形姿であるなどという誤解が、生じてはならない」（『教義学要綱』）のである。ここでも、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異は徹頭徹尾貫徹されなければならないのである）。私自身正直にまさにそうであると告白する者であるが、「神に敵対し神に服従しない」われわれ人間は、一般信徒であれ、神学者であれ、牧師・神父であれ、誰であれ、「肉であって、それゆえに神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を一切持っていない」（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）のであるから、キリストにあっての神を、その生来的に備わった現にあるがままの「『自分の理性や力（≪思惟能力、感情能力、想像能力、表象能力、意志力、自然を原理とした修行等々≫）によっては』全く信じることはできない」（『福音主義神学入門』）のである、ましてやすべての領域での様々な事柄の裸形化を加速させている情報科学や情報技術が高度に発達した高度情報社会の下ではなおさらそうなのである。このような訳で、「失われない単一性」（三位一体の神の存在の本質）と「失われない差異性」（三位一体の神の存在の本質の性質、存在の仕方、働き、業、行為、行動）という神の本質の区別を包括した単一性における「神の単一性の認識」は、「一神教にとっては躓きで、汎神論にとっては愚かなこと」であるが、「すべての汎神論の勝手な前提を粉砕する」と同時に、「またすべての一神教の勝手な前提を粉砕する」のである。何故ならば、その神の本質の区別を包括した単一性における「神の単一性の認識にとっては、単一性そのものが問題ではなく、徹頭徹尾（≪キリストにあっての≫）神が問題であるからであり、それは、……ただ（≪キリストにあっての≫）神の愛（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「失われない差異性」における三つの存在の仕方、イエス・キリストの父――啓示者・創造主、子としてのイエス・キリスト自身――啓示・和解主、愛に基づく父と子の交わりである聖霊――啓示されてあること・救済主なる神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）にだけ、すべてを負うており、責任があることを知っており、まさにこの負うていることと責任性の中でこそ、一つのもの、独一無比なるもの、単純なるものの認識であるからである」。

　イエス・キリストにおいて自己啓示された「神が、ご自身を、先ず第一に、比較を絶したもの、そのようにして独一無比なるものとして」、「それと共に、現実にいます、実在の神として啓示されるのは、……神の愛の中においてである」、すなわち「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「失われない差異性」における三つの存在の仕方、イエス・キリストの父――啓示者・創造主、子としてのイエス・キリスト自身――啓示・和解主、愛に基づく父と子の交わりである聖霊――啓示されてあること・救済主なる神の愛の行為の出来事としての神の存在においてである、換言すればそのような神の存在としての神の愛の行為の出来事においてである。この「神的な啓示」は、「選びとしての性格を持っている」、換言すれば神は、「人間に対して」、「ご自身を神として啓示するために、生来的に神の「恵みに敵対」し、 「神の恵みによって生きようとしないが故」に、「このことこそ、第一に恵みが解放しなくてはならない危急」のただ中にある「人間を選ばれ」、「それと同時に、……神として啓示されるために、ご自身を選び給う（≪イエス・キリストこそが、「神に選ばれたお方」である≫）という（≪前述した≫）あの二重のことを指し示した」。総括的に言えば、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性における」その第二の存在の仕方である「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神ご自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。また、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、「福音書の中ではすべてのことが受難（≪十字架・死≫）の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活（≪「律法の成就」・完了、「成就された時間」としてのキリストの復活≫）の歴史に向かって進んでいる」。すなわち、「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫へのキリストの十字架でもって終わる古い世」は、復活（≪主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――イエス・キリストが信ずる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの、律法の成就」・完了、「成就された時間」としてのキリストの復活≫）へと向かっている。このキリストの復活・成就された時間は、「新しい世」のはじまりである。われわれは、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、敗北者である「われわれ人間の失われた非本来的な古い時間」は、神の側の真実としてある、それ故に客観的現実性としてある、「成就と執行」としてある、「永遠的実在」としてある、「本来的な実在としてのイエス・キリストの新しい時間」（≪「律法の成就」・完了、「成就された時間」としてのキリストの復活≫）における神の「勝利の行為」によって包括され止揚され克服されて「そこにある」ことを、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）において認識し信仰することができる。それと同時に、復活したキリストの再臨、終末、完成までの聖霊の時代においては、その勝利の行為は、「敗北者もまた依然としてそこにいるところの勝利の行為」であることを、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）において認識し信仰することができる。その復活に包括された「十字架（≪の死≫）のイエス・キリストこそ」が、換言すれば「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性における」その第二の存在の仕方、性質、働き、業、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠さサレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストこそが、「神に選ばれたお方」である。したがって、「予定説」は、「イエス・キリストにある救いの自由な表現そのもの」である、すなわち「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」におけるその第二の存在の仕方である「真に罪なき、従順なお方」まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト自らが、その完全に自由な自存的な神の愛の行為の出来事としての神の存在において、われわれ人間に代って、「見捨てられた人間となり、その罰を引き受け給うた」のである。したがって、「私たちの召命・義認・聖化」は、われわれ人間の生来的な自然的な「理性や力」の直接性において「私たち自身の中に生起する」のではなく、徹頭徹尾全面的に神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「イエス・キリストの御業」として「私たちのために、私たち自身の中に生起する」のである。したがってまた、われわれは、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「神の選び」を「イエス・キリストの復活において認識」し・信仰し・承認し・確認し、「神の放棄をイエス・キリストの十字架において認識」し・信仰し・承認し・確認することができるのである。このような訳で、それとしての「二重の選びの＜原理＞あるいは＜理念＞から、神的な独一無比性の認識が生じてくるのではない」のである。「神的な独一無比性」は、「旧約および新約聖書の証言によれば、神の啓示の中で出来事として起こった選びとして、……まさに出来事として起こった二重の選びの実在でもって与えられ、また遂行される」のである。「この出来事そのものの中で」、「神の愛」は、「比較を絶した姿……の中で（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「失われない差異性」における三つの存在の仕方、イエス・キリストの父――啓示者・創造主、子としてのイエス・キリスト自身――啓示・和解主、愛に基づく父と子の交わりである聖霊――啓示されてあること・救済主なる神の愛の行為の出来事としての神の存在の中で、換言すればそのような神の存在としての神の愛の行為の出来事の中で≫）、自分を啓示するし、働きかける」、「あの二重の選び」は「遂行される」のである。
　「（中略）自分の民とされた神が、……あなたにこれらの事を示したのは、主こそ神であって、ほかに神のないことを知らせるためであった。（中略）主はあなたの先祖たちを愛されたので、その後の子孫を選び、大いなる力をもって、みずからあなたをエジプトから導き出し、……これを嗣業としてあなたに与えようとされること、今日見るとおりである。それゆえ、あなたは、きょう知って、心にとめなければならない。上は天、下は地において、主こそ神にいまし、ほかに神のないことを。あなたは、きょう、わたしが命じる主の定めと命令とを守らなければならない。そうすれば、あなたとあなたの後の子孫はさいわいを得、あなたの神、主が永久にあなたに賜る地において、長く命を保つことができるであろう」（「申命四・三二−四〇」）――この「神の愛の行為を思い起こす想起に、……申命記五・一以下での十の誡命の繰り返しが基礎づけられている」のであるが、「その十の誡命のうちの第一のもの、『あなたはわたしのほかに何ものをも神としてはならない』は、はっきりと言葉に出して、『わたしはあなたの神、主であって、（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」におけるその起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――啓示者・創造主として、その完全に自由な自存的な神の存在としての神の愛の行為の出来事において≫）あなたをエジプトの地、奴隷の家から導き出したものである』ということでもって基礎づけられている」、また「『イスラエルよ聞け。われわれの神、主は、唯一の主である。あなたは心をつくし、精神をつくし、力をつくして、あなたの神、主を愛さなければならない』（申命六・四）という言い方でもって基礎づけられている」。このことは、「ただ単に申命記的な構成であるだけではないということは、出エジプト二〇章をみれば解る」ように、「ヤハウェがイスラエルに与え給うことの現実の中で、イスラエルにとって力を奮う生の真理として直ちに明らかである……最高の力を持つ真理の宣べ伝え以外の何も意味していない」のである。このように、このキリストにあっての神は、「はじめからして……まさにこの神が現にあり、語り、為し給うことの中で、……独一無比なる方である。その方の存在と行為（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」におけるその存在の仕方、すなわちその方の愛の行為の出来事としてのその方の存在≫）を示すことが、それとして、その独一無比性の証明である」。「『あなたはわたしのほかに、なにものをも神としてはならない』という命令」、「またそもそも旧約聖書的な『一神教』」は、「出エジプト二〇・五、三四・一四において、それからまた繰り返して、例えばエゼキエル二三章において、苦痛なほど詳細にわたって、ユダとイスラエルによって犯された姦淫の描写でもって基礎づけ」られている「神のねたみ」、「ホセア一−三章で、その民の不真実をゆるし、克服する神の真実を思い起こす想起によって驚くべき仕方で深められ、凌駕される神のねたみについて語られている」「この背景のもとでだけ、理解できるものとなる」。したがって、「旧約聖書の一神教は、数字の１の曖昧な魔法とは、あるいは人間的な自己意識、世界意識の主観的および客観的一元論とは何のかかわりもないのである」。「旧約聖書的一神教」は、「この一元論と戦うのである」、すなわち「そのような（≪結局は「堕落した被造物」・偶像に過ぎない相対的な≫）一元論の隠れた弁証法（≪結局は「堕落した被造物」・偶像に依拠した党派的な二元論、多元論、あるいは二元主義、多元主義≫）を暴露し裁くのである」。このような訳で、「旧約聖書的な一神教」は、「その正反対のものに変化し得る」「主義とか思想体系……でではなく」、「それは、その独一無比性の中で神的現実そのものである」。「それだからこそ、そのようにして、旧約聖書的一神教は、力を持っているのである」。「この力」は、「持続的な反抗と堕落の長い歴史」の積み重ねを持つ「イスラエル自身にも拘らず、繰り返し新しい選びと分離の中で、唯一の神の名としてのヤハウェの名のもとに保つ具体的な力」、神の本質の区別を包括した単一性における「神の神聖性、義、知恵が、事実勝利をおさめる神的恵み、あわれみ、忍耐の力である。旧約聖書的一神教は、この民を結びつける力である」。この「結びつける力」は、「理念が結びつけるように結びつけるのではなく、（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）神ご自身が結びつけ給うように……結びつける力である」。「旧約聖書の神は、イスラエルに対して働きかけるその愛の中で……神的な、（≪それ故に≫）すべての被造物的な独一無比性に相対して独一無比の独一無比性を持ち給い」、それ故に「イスラエルが神認識と礼拝の中で何かそれに対応するものを捧げ、提供し、与えなければならないことはなしに、ご自身において独一無比であられ」、それ故に「イスラエルの神認識と礼拝は、（≪先行するあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる後続するそれとして≫）自分自身を、ただその方の現実存在と働きかけの後に続く神的な賜物として、その限りその方の命令に対する服従として、理解することができるだけである神であり給う」。したがって、旧約聖書的一神教は、被造物的な独一無比性――すなわち人間の想像能力・感情能力・思惟能力・表象能力によって規定された「一の原理」ではないし、ヘーゲルが『歴史哲学講義』で述べているような、アジア的段階の中国の哲学、ギリシャ的段階のエレア哲学、西欧的段階のスピノザの哲学という人類史的段階の差異性におけるような被造物的な「一の原理」ではないのである。