本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−５）−２（３３７−３５１頁）　――了――

「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−５）−２
　「われわれは、ここで、「マタイ一一・一六−一九」にある「『今の時代』」は、「その禁欲的な生活の故に洗礼者ヨハネのことが気に入らなくて、『あれは悪霊につかれている』と言うように、イエスのことも、その禁欲的ではない生活の故に気に入らなくて、『あれは食をむさぼる者、大酒を飲む者、また取税人、罪人の仲間だ』と言う」。したがって、「まことの知恵」は、「常に……『今の時代』が期待し、望んでいたのとは違って」いるが故に、それ故に「広場で失望した子供たちが、『わたしたちが笛を吹いたのにあなたたちは踊ってくれなかった。弔いの歌を歌ったのみ、胸を打ってくれなかった』と嘆くのと同じように、『今の時代』は苦情を言う権利があると信じているのである」。したがってまた、まことの「知恵の代表者たち」（≪「洗礼者ヨハネおよびイエス・キリストという名」≫）は、そうした「苦情と直面して」、その苦情と迎合したり同化したり混合したりするのではなく、まことの「知恵の代表者として断固としてしなければならないことをすることによって、知恵は正しいとされ、その業の中で、換言すればまさに知恵の代表者たちがそのような者として断固としてしなければならないことの中で、自分自身の正しいことを証明するということが起こるのである」。何故ならば、まことの「知恵の代表者たち（≪「洗礼者ヨハネおよびイエス・キリストという名」≫）が、（≪その≫）知恵に対して……断固として従い続ける限り、（≪その≫）知恵の代表たちの業は、……（≪その≫）知恵自身の業であるからである」。まことの「知恵（≪神の知恵≫）が、その業の中で、その業を通して、自分自身の正しいことを証明することによって、……知恵のある者たち（≪「洗礼者ヨハネおよびイエス・キリストという名」≫）は、正しいことが証明されるのである」。バルトは、このことを念頭に置いて、次のように述べていることは明らかである――日本に引き寄せて言えばカトリック教会や日本基督教団等の時流や時勢に流された社会的政治的実践の在り方のように、人間的な意味においてさえ革命の過渡的な課題（上からのあるいは下からの構造改革を含めて、人間の法的政治的な、すなわち観念的な相対的部分的過渡的な解放、最低綱領）および究極的な課題（観念の共同性を本質とする国家の無化を伴う、個体的自己としての全人間の社会的な、すなわち現実的な究極的総体的永続的な解放、最高綱領）を明確に提起することなく（明確に提起でき得ていないまま）、時流や時勢に流されて、人間的な「世界の救いを、何かある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求め」るようなことはすべきではないのである、すなわち神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会は、「私たちの主であり、救い主であるイエス・キリストを、いっさいのものにまさって恐れ、かつ、愛すること、神を、大きな問題においても、小さな問題においても、彼がかってあり、いまあり、やがてあり給う権威のままに肯定し、是認すること、私たちの個人的、社会的生活を敢えて律して、すべての善きものを神から、神からすべての善きものを期待」するべきなのである、「不毛な反抗や反論を避けて」、「西でも東でも等しく通用し、西でも東でもひとしく稀であり、人々に好まれぬ福音に、無償の恩寵によって、素直に止まる」べきなのである（『共産主義世界における福音の宣教　ハーメルとバルト』）、だからと言ってわれわれは「平和を維持するためにできる限りのことをしなければならないが」、「このことは（≪われわれは≫）平和主義者でなければならないということを意味しない。平和主義は一つの（≪「すべての主義のように」≫）絶対主義（≪何故ならば、戦争の元凶である民族国家の問題を後景へと退けた、換言すればそれを第一義化・前提化した宗教に過ぎないから≫）だ」、「われわれは（≪キリストにあっての≫）神には服従するが、一つの原理や理念にはしない、したがってわれわれは（≪世界が経済の世界性と民族国家の一国性を単位として動いている限り、すなわち戦争の元凶である民族国家が存在している限り≫）最後の手段のために戦争の可能性はあけておかなければならない」、したがって「（≪相対的な意味で自由および直接民主制と武装永世中立の≫）スイスをナチズムからまもるために私は軍隊に参加」し、「両国を区分しているライン河にかかっている橋を護衛」するために、「もしもドイツのキリスト者の友人の一人が、その橋を爆破しようとしたら、私は射殺しなければならなかったであろう」（『バルトとの対話』）、「福音が純粋ニ教エラレ、聖礼典が正シク執行サレルということ」が為されないままに、礼拝改革・社会的政治的実践・キリスト教教育とか、教会と国家および社会との関係とか、国際間の教会的な相互理解というような領域で、「何か真剣なことを企て遂行してゆくことができると考える」べきではない、「宣教の規準」・原理・法廷・審判者・支配者を、神の言葉の第二の形態としての最初の直接的な第一の預言者および使徒たちのイエス・キリストについての「言葉・証言・宣教・説教」である聖書と同時に、「最上の仕方で基礎づけられ、熟慮に熟慮を重ねられた人間的な判断」あるいは「哲学、道徳、政治」、ある「国家形態や文化的傾向」、ある社会機構や経済機構、擬制民主主義としての議会制民主主義を媒介とした観念の共同性を本質とする国家の言語である法的政策的言語等々に置くべきではない、「特定の人種、民族、国民、国家の特性、利益と折り合」おうとすべきではない（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）、と。

　「�Tコリント一−二章」の脈絡から言えば、パウロは、「あの�Tコリント一・一八−三一全体でもって」、「パウロが彼らのところに行き、（≪キリストにあっての≫）『神の証し』を宣べ伝えた時に、『すぐれた言葉や知恵を用いないで』（二・一）、『巧みな知恵の言葉によらなかった』（四節）ということ」を「基礎づけようとしている」のである、それ故にパウロは、「人間的な知恵の吹奏にしたがって踊り、その弔いの声の指示にしたがって胸を打って悲しむことができなかった」。このパウロは、「ただ主だけを誇らなければならない者として誇り」、それ故に「同時に人間的な知恵をも誇ることによって彼ら（≪「『この世の』子ら」≫）に気に入られようとすることはできなかった」のである。パウロは、キリストにあっての「『神の証し』を、ただ実際それが語るままの形で為すことができた」。すなわち、パウロは、「弱くかつ恐れ、ひどく不安な仕方で」（三節）「彼らの所に行った時、イエス・キリスト、しかも（≪「成就された時間」であるキリストの復活に包括された≫）十字架につけられたキリスト以外のことは、何も知ることはゆるされなかった（二節）。彼の言葉は、ただ一つの基礎づけだけを持つことができた。そして、その基礎づけを彼の言葉は持っていた。それは、『霊と力との証明』（四節）である。「それは、……知恵（≪「まことの知恵」、「神の知恵」≫）がそれ自身の業を通して証明される」それであって、「人間の業が、神の知恵そのものをして、留保なしに、何の削除も付け加えもなしに、知恵自身が語ろうと欲していることを語らせるために、人間が自分自身を道具として完全に神の知恵に従わせることから成り立っているところで起こるところの」それである。このことが「起こるところ、そこでは、……そのことが有効に力を発揮することについて何人も心を煩わす必要がなく、……またそれの有効な力の働きは、何かそのほかの証明の力の働きによって置き換えられたり、補充されることさえできない（≪神の側の全き自由の中での≫）『霊と力との証明』が為される」。「このこと以外のことは、起こることはできなかったし、起こることがゆるされなかった。何故ならば、もしもパウロがそれ（≪あの「啓示と信仰の出来事」≫）とは別な証明を、ただついでにだけでもしようとしていたならば、コリントにおけるキリスト信者たちの信仰は信仰として（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰として≫）初めから生じなかったであろうからである（≪換言すれば、人間自身の自己意識・理性・思惟の類的活動が対象化した「存在者レベルでの神への信仰」しか生じなかったであろうからである、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという無神性・不信仰・真実の罪しか生じなかったであろうからである≫）」。この神の言葉の第二の形態に属する使徒・パウロは、「人間の知恵に自分を基づかせることはできず、ただ神の知恵の自己証明の中での神の力にだけ自分を基づかせることができた」（それ故に、この第二の形態を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教える第三の形態に属する教会も、近代以降の宗教的形態であるところの、例えば人間の部分でしかない科学を全体化し絶対化する科学＜主義＞あるいは歴史＜主義＞等に自分を基づかせることはできないのであって、「ただ神の知恵の自己証明の中での神の力にだけ自分を基づかせることができ」なければならないのである）。パウロは、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）に自分を基づかせることができたのである（このような訳で、日本基督教団立東京神学大学の実践神学者の小泉健が恣意的独善的「わがまま勝手に」述べているように、ルドルフ・ボーレンの「神律的相互関係」という人間学的神学の概念に依拠して、人間の側から、直線的に、無媒介的に、「聖霊が説教者に言葉を与え、語ることへと導く。説教者は聖霊の言葉を伝え、聖霊の言葉に導く」と、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第三の存在の仕方である聖霊やその聖霊の言葉を実体化することはできないのである）。そのパウロは、「ただ一つの業」――すなわち「成就された時間」であるキリストの復活に包括された「十字架につけられたキリストの宣教を通してだけ」、「この基礎づけへと……来ることができた（五節）」。「まさに、この宣教でもって、パウロは、知恵を語る。換言すれば円熟している者（≪「十字架の言葉を、信仰をもって取り上げ受け取る者」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を受け取る者≫）の間で、知恵を語る」のである。「彼らは、愚か者ではない。彼らは、広場に座っているあの嘆き悲しむ子供たちではない」。「彼らの身に霊と力の証明」は、まことの「知恵に満ちていること……の中で力強く働いた」。この「円熟した者たち、信者たち」が、「成就された時間」であるキリストの復活に包括された「十字架の言葉を聞くことによって……聞くところのこと」は、「確かに（≪人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍における≫）この世の知恵ではない」。「それはまた、この世をしばらく支配しているこの世の（≪滅び行く≫）支配者たちの……知恵でもない（六節）」。すなわち、「パウロがただ（≪「成就された時間」であるキリストの復活に包括された≫）十字架の言葉でもって語り、彼らが（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）聞くところのもの」は、ご自身の中での「神ご自身の知恵である」、「まことの知恵」である。それは、「この奥義の中」で、すなわち単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのもの、啓示の客観的現実性、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストの十字架の奥義の中」で、換言すれば「成就された時間」であるキリストの復活に包括された「イエス・キリストの十字架の奥義の中」で、「＜世に対しては＞隠されていると共に＜信者に対しては＞（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で≫）顕わされている神の知恵、……である」、「神がわたしたちの受ける栄光のために世のはじまらぬ先からあらかじめ定めておかれた神の知恵である（七節）」。言い換えれば、それは、「成就された時間」であるキリストの復活に包括された「イエス・キリストの十字架の中で、イエス・キリストがわれわれに対して知恵とされたことによって、事実、既にわれわれの栄光のために役立ったし、またさらに役立つであろう神の知恵である」。何故ならば、それは、「そのことの中でわれわれは今、ここで既に」、「ソロモンの栄光全体のいくばくかがわれわれ自身の身に現実となり、可視的となり」、「すべての喜びと楽しみをもってソロモンの神殿と宮殿の中に生きるからである」。このことは、「われわれが、キリストの甦りを通して、主にあっての、甦られた方にあっての存在としての、神からしての存在を受け取ったということ」、「キリストが神の子供としてのわれわれに対して神によって義とされ（≪イエス・キリストは、主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである≫）、われわれ自身が（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）信仰（≪信仰の認識としてのキリストにあっての神についての認識、啓示認識・啓示信仰≫）の中で賢くなり、賢くあることがゆるされるということである」。「この知恵」は、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「信仰なし」の「この世のすべての人間的な知恵に対して……閉ざされ、疎遠である……」。人間が時間累積させてきたこの世の尖端的な知恵（知識）を集約した社会構成、支配構成、文化構成、その「支配者たちの知恵」（知識）に対しても、閉ざされ、疎遠である」。したがって、「これらの者」は、「明らかに自分たちの恥をさらしたのである。何故ならば、イエス・キリストを拒否し殺すことに、彼らもまた（ローマの権力と国家秩序によって代表されて）あずかったからである」。「もしも彼らが、神の知恵を、神の知恵が証されてはじめてというのではなく、その起源的な実在そのものの中で存在し語っていたところで聞いていたならば」、すなわち単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在に仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストの「ところで聞いていたならば」、「もしも彼らが、それが使徒の言葉の形態（≪それ自身が聖霊に業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における第二の形態の神の言葉、聖書的啓示証言≫）の中ではじめて為されるのではなく」、「肉となった言葉そのもの（≪「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、神の子、啓示・和解、「啓示の実在」そのもの、イエス・キリスト自身≫）を通して為されたところで霊と力の証明に対して心を開いていたならば、『彼らは栄光の主を十字架につけはしなかったであろう』（八節）」。その時には、「彼らは、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）その方の栄光、神的な知恵の栄光を、そのようなものとして見て取るのに十分な知恵を持ったであろう」。このような訳で、そうしなかった「彼らこそが、最後的に、イエス・キリストを十字架につけたのである」。したがって、「パウロにとって」は、キリストにあっての「『神の証し』を為す際」において、「何らかの人間的な知恵の願いと期待、使嗾（しそう）と嘆きの歌を問い」、キリストにあっての「『神の証し』に対して」、神の側の真実としてある「成就された時間」であるキリストの復活に包括されたキリストの「十字架の言葉としてのその形態」を与えようとする契機のみがあるのであって、それとは異なる「別な形態を与えようとする契機はあり得ないのである」。すなわち、このパウロにとっては、「あくまでも霊と力の証明ということで、人間のすべての愚かさに対して、神的な知恵が自ら自分を証明すること」（啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰による自己証明、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性、キリスト教に固有な類・歴史性における自己証明）――このことが、「この言葉を宣べ伝えることの中で出来事となって起こるし、繰り返し出来事となって起こるであろう神的な知恵の自己証明でもって、決着がつけられなければならないのである」。このような訳で、「まさに（≪「成就された時間」であるキリストの復活に包括されたキリストの≫）十字架の言葉こそが、救われる者にとっては神の力となる。（≪キリストにあっての≫）神は、ご自分を愛する者たちのために、目がまだ見ず、耳がまだ聞かず、人の心に思い浮かびもしなかったことを『備えられた』（九節）」。それは、「文脈全体によれば疑いもなく、……（≪「成就された時間」であるキリストの復活に包括された≫）キリストの十字架の秘義の開示、そのようにしてわれわれの未来の、しかしそれでいて結局既に現在の栄光のために、神によって永遠の昔からわれわれに定められ、割り当てられ、与えようとされていた神の知恵そのものの開示である」。「まさに、……その永遠的――具体的形態の中」におけるこの「神の知恵こそ」が、「目がまだ見ず、耳がまだ聞かず、人の心に思い浮かびもしなかったことである」。キリストにあっての神は、「まさにそれを、……霊を通してわれわれに啓示されたのである」、「それを神は、御霊によってわたしたちに啓示してくださったのである（一〇節）」、その関係と構造・秩序性における「神の言葉の三形態」――すなわちキリスト教に固有な類・歴史性は、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性である、その起源的な第一の形態の神の言葉・「啓示の実在」そのもの（これは、教会の宣教における、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者である）は、啓示に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証しの力を、出来事の自己運動を、あの「啓示と信仰の出来事」に基づく信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の授与能力を持っている。

　このような訳で、「人は、……新約聖書の脈絡の中」においても、「神の知恵」は、「あのソロモン的な管理あるいは裁判官の知恵……であることが分かるのである」。したがって、「それは、……その知恵の故に、ただ主だけを誇り、もはや彼ら自身の人間的な知恵を誇ることができないことを、自分の身に受け取るほどその知恵を愛する知恵のある者に対しては、知恵を与える」のである。この時、「神の知恵」（「まことの知恵」、知恵の実在そのもの）は、私たち人間の、その類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡せ、また「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受け取ることができる」それである、また神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教における福音が、「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞にすぎ」ない、あるいは人間実存のまた社会的政治的実践（奉仕）の範型に過ぎない「神秘主義へと変わって行く」ことが見渡せるそれである。したがってまた、「神の知恵」は、人間的理性や人間的欲求からするあるいは人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求からする「自分自身の知恵」を、「知恵だと思い込ん」で、その「自分自身の知恵」を「適用し貫徹させつつ、まことの神の知恵を殺すことをも躊躇」しない「行動へと駆り立てられる愚か者に対しては、愚かさを与える」のである。「まことの知恵、神の知恵そのものこそが、……為すことができ、実際に為すように、生きた仕方で、自分自身とその正しさを証明しつつ姿を現すところの知恵のある者たちに対しては、知恵を与える」のである。「しかし、旧約聖書の模範と違って、……むしろそれを明らかに説明しつつ」、「（その名はイエス・キリストであるところの）神の秘義についての新約聖書の記述の中で、神の知恵」は、「ソロモン的な判断の中で」、第一に、「ただそれだけが主権的な仕方で知り、決定し、自由に処理することによって、裁判官であり」、第二に、「それ自身が拒けられ、殺された知恵であると共にまた永遠に生きる知恵であることによって、訴える反訴の対象であり」、第三に、「それが（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、「啓示の実在」そのもの、起源的な第一の形態の神の言葉、主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」＝イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの、神の側の真実としてある完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和そのもの、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストの死と復活の出来事にのみ感謝をもって信頼し固執する≫）知恵のある者たちに対しては自分自身を与え、（≪そうではない≫）愚か者たちに対しては自分自身を拒否することによって、判決の執行である」。

　このような訳で、キリストにあっての「神は、新約聖書に従っても、……唯一の知恵深き方（ローマ一六・二七、�Tテモテ一・一七）であり給う」。神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という区別を包括した単一性における「神の知恵が、神の神聖性および義」と、「神の知恵を認識すること」――すなわち「人間的に知恵のある者となること」、それ故にあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「人間が信仰（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、神の知恵を認識すること≫）にまで来ること」と「一致するという仕方」で、「神は唯一の知恵深き方であり給う」。したがって、「パウロは、エペソ三・八以下で（コロサイ一・二五以下を参照）彼の使徒職の意味について」、「永遠の昔から神、万物の創造主の中に隠された奥義の『秩序』を明らかにするという委任が与えられた。それは、天上にある『もろもろの支配と権威』に対して、教会を通して『神のさまざまな知恵』が、われわれの主、キリスト・イエスの中で実現された神的な予定に適った仕方（≪それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性、キリスト教に固有な類・歴史性という仕方≫）で知られるようになるためである」というように「述べることができた」。このことに「対応しつつ、パウロは、既にエペソ一・七以下」で、「神は、キリストの血によるあがない、すなわち罪過の赦しの中で実現されたその恵みの富を、あらゆる知恵と悟りをもって、私たちに与えて、大いならしめ給うた。それは、神が、私たちに……天にあるもの地にあるものすべてに、キリストにあって、その頭（代償、総括、中心、存続）を与えることから成り立っているみ旨の奥義を知らせることによってである」、と語っている、ちょうど先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神と人間との無限の質的差異の下で、それ故にあくまでも神の側の真実からする、神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の�~の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、「啓示の実在」そのもの、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識に向かっての人間の用意が存在する」と言わなければならないように、すなわち先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意という「人間の局面」は、「全くただキリスト論的局面だけである」と言わなければならないように。そのことに「対応しつつ、パウロは、既にエペソ一・一七以下で（コロサイ一・九を参照せよ）こう祈った」――「どうか、わたしたちの主イエス・キリストの神、栄光の父が、知恵と啓示との霊をあなたがたに賜って（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）神を認めさせ（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を与え≫）、あなたがたの心の目を明らかにしてくださるように、そして、あなたがたが神に召されていただいている望みがどんなものであるか……を、あなたがたが知るように、と祈っている」。このことに対応して、「パウロは、彼らに向かって、……『賢くない者のようにではなく、賢い者のように』（エペソ五・一五）歩くよう要望している」、これとの「平行記事であるコロサイ四・五によれば『そとの人に対して賢く行動するよう』要望している」。「パウロは、自分自身の課題を、キリストを栄光の希望として宣べ伝え、それと共に『彼らがキリストにあって全き者として立つようになるため、（≪イエス・キリストを、起源的な第一の形態の神言葉を、「啓示の実在」そのものを、「コロサイ人への手紙およびエペソ人への手紙の中」で、「全く明瞭にイエス・キリストと同一である言われている」ところの「まことの知恵」・「神の知恵」を、「知恵の実在」そのものを、自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方でまことの知恵、神の知恵を得、≫）知恵を尽くしてすべての人を訓戒し、またすべての人を教えること』であると理解している（コロサイ一・二八）」。イエス・キリストと同一である「まことの知恵」・「神の知恵」が言われている時、「まさに……（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）信仰をもって願い求めるべき知恵の標準」――すなわち「疑いからの自由」が、「信仰の基本規定として」、それ故に「真理を願い求める正しい祈りの基本的規定として述べられている……」。この時、その信仰は、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉を、自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、「主よ、私は信じます。私の不信仰を助け下さい」というこの願いの中でのみ、その願いと共に、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストにあっての神、純粋なキリストの福音、まことの知恵としての神の知恵を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（キリストの福音を内容と福音の形式としての律法、神の命令・要求・要望）――すなわち「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」、すべての人々が現実的に純粋なキリストにあっての神・純粋なキリストの福音を所有することができるために為すキリストにあっての神・キリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指すであろう、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指すであろう。「『知恵のある者に知恵を』というこの規則」は、「ここでも貫徹されている」。何故ならば、「ソロモンも、まさに知恵を願い求めるためには、既に自分自身知恵ある者でなければならなかったし」、「イエスご自身について、ルカ二・四〇および五二で、ただ単に知恵を受けられたとか知恵あるものとなられたと記されているのではなく、むしろ『ますます』知恵が『加わり』、背丈も伸び、そして神と人から愛されたと記されている」からである。このように、神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という区別を包括した単一性における「知恵は、明らかに……これらすべての新約聖書の脈絡においても、（≪神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という区別を包括した単一性における≫）恵みとあわれみの中で、（≪われわれのための神として、≫）人間に身を向けられる神、その愛の中での神、……またその自由の中での神、その全き愛の中での、……また全き自由の中での神」――この神「ご自身以外のものではないのである」。

　「人は、……知恵の概念がただ正典の比較的制限された部分の中でだけ言葉に出して語られているという事実と直面して」、「人が、……歴史的に」、「イスラエルがもっと以前のヘレニズムと出会った出会いに対応していることである」、また「新約聖書の教会がいわゆる知識主義（グノーシス）を準備しつつあった哲学的および宗教的な時代の運動と接触し、＜対決＞するようになる中で必要となり現実的となったと説明しようとする時」、われわれは、「別にそれに反対を唱えるべきことは何もないのである」。しかし、「人は、その時、……次のこと……によく注意しなければならない」――すなわち人は、その「対決」は、「どんなに徹底して……＜批判的な仕方＞で経過をたどっていったか」ということに、「よく注意しなければならない」、また「どんなに完全に（……概念的に取り上げられ）事柄が、使徒の証言の中で同化され」てしまうとか、「それとしてのキリストの使信を薄めてしまうとか変化させてしまう」とかということはなしに、「それを強調し、尖鋭化しつつ、そのほかの概念と直観との関連性の中に取り入れられ、この関連性の中で、（私は、そのような関連性が破砕されたり、あるいは妨害されているただ一つの箇所も知らない）生かし用いられているかということに、よく注意しなければならない」、自然神学的な混淆・混合・協働・共働・折衷への志向性は起こらなかったということに、「よく注意しなければならない」。したがって、部分でしかない科学を全体化し絶対化した近代以降の宗教的形態である科学＜主義＞と同じように、「啓示を問おうとしない」で人間精神の自己理解を＜第一義＞として「聖書の中でも神話を問うこと」をする歴史＜主義＞の陥穽に陥ってしまわないように、よく注意しなければならない、ちょうど「新約聖書の釈義に役立つ新しい哲学的な鍵」を前期ハイデッガーの哲学原理に見出した人間学と神学の混合を志向し目指した人間学的神学者・ブルトマンが、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉とその第二の形態であるイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」（聖書的啓示証言、新約聖書の使信）を「わがまま勝手に」揚棄してしまって、ブルトマンの自己意識・理性・思惟の類的活動において自己理解され対象化された「存在者レベルでの神」・その啓示・その使信を第一次的なものとし、それ故にこの第一次的なものに従事する限りにおいて聖書的啓示証言、新約聖書の使信は第二次的なものとしてのみ真とされ重要なものとされてしまったように、そしてそこにおいてイエス・キリストの十字架も、イエス・キリストの死人からの甦り・復活も、「ケーリュグマと信仰の認識基礎命題ではなく」、「単なる説明文に過ぎないもの」とされてしまったように、換言すれば「他のすべてのものを基礎づけ、制約し、支配するキリストの出来事としてのキリストの出来事（≪それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのもの≫）」を、イエス・キリストについての「（新約聖書の）使信」、すなわち聖書的啓示証言から取り去ってしまったように（『ルドルフ・ブルトマン』）。この段落にある記述からも分かるように、バルトの思惟と語りは、決して歴史を無視してはいないし、だからと言って歴史＜主義＞的（宗教）でもないのである。このことは、バルトの次のような発言を見ればよく理解できることである――「（中略）確かに受肉は中心的にして重要なものではあるが……新約聖書の本来的内容であるというふうには言ってはならないのである。（中略）それはおよそすべての他の宗教世界の神話や思弁の中にも見出されるものである。（中略）人は、聖書が語っている受肉を、ただ聖書からのみ、換言すればイエス・キリストの名からのみ……理解することができる。……神人性（≪農耕を経済的基盤とした人類史のアジア的段階においては天皇を含めて非農耕民は神人と呼ばれた≫）それ自体もまた新約聖書の内容ではない。新約聖書の内容とは、ただイエス・キリストの名だけであり、そのイエス・キリストの名がたしかにまた、そしてとりわけ、彼の神人性の真理をその名に含んでいるのである。ただまったくこの名だけが、啓示の客観的現実を言いあらわしている」（『教会教義学 神の言葉�T／１・２』吉永正義訳、新教出版社）、「（中略）この（新約聖書の）使信（≪第二の形態の神の言葉、最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、啓示の「概念の実在」≫）が、まさにイエス・キリスト（≪起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのもの≫）についての使信（≪第二の形態の神の言葉≫）として、神と人間との間に起った出来事を内容としていることが確かであり、また、この使信が、その形式において、この出来事についての人間による証言（≪第二の形態の神の言葉、最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた人間が人間的に所有する人間の言語を用いた啓示の「概念の実在」≫）であることも確かであるかぎり、われわれがこの使信の人間学的内容にも問いかけることは可能であり、またそうしなければならないことは明瞭である。（≪しかし、「先ず第一義的に優位に立つ」≫）他のすべてのものを基礎づけ、制約し、支配するキリストの出来事としてのキリストの出来事（≪起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのもの≫）を、この証言（≪その第二の形態の聖書的啓示証言≫）から取り去って、その結果、（≪起源的な第一の形態の神の言葉、「啓示の実在」そのものを取り去った≫）この証言を、そこでは第二次的なもの、あの第一次的なもの（≪ハイデッガーの哲学的原理、「容易に修得しえない」「先行的理解と言語」によって対象化された人間の自己意識・理性・思惟の類的活動において対象化した「存在者レベルでの神」・その啓示・その使信≫）に従事することにおいてのみ真であり、重要であるものに形式変換し、転釈するという場合、その使信をゆがめ、切りちぢめることにならざるをえない……」（『ルドルフ・ブルトマン』）、「神話にはいろいろな解釈の仕方があります。比較神話学のように、他の周辺地域の神話との共通点や相違点をくらべていく考え方もありますし、神話なるものはすべて古代における祭式祭儀というものの物語化であるという考え方もあります。また神話のこの部分は歴史的＜事実＞であり、この部分はでっち上げであるというより分け方というやり方もあります。そのどの方法をとっている場合でも、この説がいいということは、いまのところ残念ながら断定できません。プロ野球で三割の打率があれば相当の打者だということになるのと同じように、神話乃至古代史の研究において、打率三割ならばまったく優秀な研究者であるとわたしはおもっています。じぶんでそれ以上の打率があるとおもっているやつはバカだとかんがえたほうがいいとおもいます」（吉本隆明『敗北の構造』「南島論」）。

　このような訳で、「人が、そのような歴史的な問いに対してどのような立場をとるにしても、知恵についての教説が、新約正典の中で、ちょうどそれが旧約正典の中でそうであるように、使徒の言葉の欠かすことのできない本質的な構成要素となったということは確かである」。「�Tコリント一−二章なしのパウロは、パウロでないであろう。そのようにしてまた、コロサイへの手紙およびエペソへの手紙全体の内容」は、「まことの知恵」、すなわち「神の知恵」――「この石を取り除いてしまおうとするならば、直ちに崩壊してしまうであろう」。「イエス・キリスト、われわれの義、聖、救いは、またわれわれの知恵であり給う。（≪知恵自身、啓示自身、それ自身が持っている固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、それ自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）そのようにしてイエス・キリストを信じる信仰は、また（≪その≫）神の知恵を通して教えられることでもある」。「ヨハネ福音書は、この〔知恵という〕概念そのものを、……用いることを避けたのであるが」、「そのことは、内容的に見て、……ヨハネ福音書の証言であると言ってよいであろう」。したがって、「ヨハネ福音書は、……信仰と認識を並べ、互いに結びつけたのである」。あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられるところの、信仰の認識とは神認識のことである、啓示認識とは啓示信仰のことである。バルトは、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』で、「単なる知識」と「認識」との差異性について、次のように述べている――バルトは、「単なる知識」と「認識」――すなわち「信仰」とを厳密に区別している。「全く特定の領域」で、「ある特定の状況において」、「ある特定の人間」が、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、すなわち神の自己啓示と聖霊の注ぎを通して、「神の言葉」を聞き・認識し・信仰し・語る責任ある証人となる場合、換言すればインマヌエルの出来事が惹き起された場合、その「出来事」・その「確証」（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）は、「単なる知識」ではなくその啓示に感謝をもって信頼し固執し固着する「認識」――すなわち信仰である、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰である。その時、初めて、神の言葉は、われわれ人間に対して「実在」となり、またわれわれ人間も人間的にそれを「実在として理解」することができる。したがって、人間学的なただ「単なる知識」に過ぎないある理念・ある概念の実体化、「最高存在」、「最モ完全ナ存在」としての神概念、啓示概念は、「啓示の実在」そのもの、その最初の直接的な第一の啓示の「概念の実在」を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で与えられるところの認識、信仰、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰ではないのである。神の言葉は、「人間の現実存在の内部」、人間の感覚と知識を内容とする経験普遍、人間の感情や理性や意志や実存、人間論や人間学的な哲学原理・認識論・世界観の中にはないのである。何故ならば、神に敵対し神に服従しないわれわれ人間は、「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」われわれ人間は、「肉であって、それゆえに神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力」を一切持ってはいないからである。したがって、神の言葉は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、またその隠蔽と顕現において、終末論的限界の下で「われわれのところに来」るのである。したがってまた、神の言葉が「人間によって信じられる……出来事」――すなわち信仰の出来事は、決して「人間自身の業」ではなく、徹頭徹尾起源的な第一の形態の「神言葉自身」の出来事の自己運動、啓示の出来事と「聖霊の注出」による「信仰の出来事」おいてのみ可能となるのである。すなわち、「言葉を与える主」は、同時に「信仰を与える主」である。このような訳で、「啓示の実在」そのものの最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」としての聖書の中で証しされている教会の宣教の課題であるイエス・キリストの死と復活の出来事の宣べ伝えを目指すことのない自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞している「単なる知識」における形而上学的な教会の宣教、その一つの機能としての形而上学的な教義学は、「それがどんなに考え深い才知豊かな、また首尾一貫した仕方のもの」であっても、その教義学は「教義学としては非学問的」なのである、それ故にその場合、教会の宣教における福音も、「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞にすぎ」ない「神秘主義へと変わって行く」ことになるのである。したがって、神の言葉の第二の形態である預言者および使徒たちの最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」（聖書的啓示証言）を、自らのその宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、それに連帯する神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会にとっては、神の側の真実としてある、神の側からする、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」――すなわちキリスト教に固有な類・歴史性の関係と構造・秩序性に対して信頼し固執することが、また神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識――すなわち啓示認識・啓示信仰に対して信頼し固執することが、また啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動に対して信頼し固執することが肝要なことなのである。