本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−５）−１（３３７−３５１頁）　――了――

次回から『教会教義学　神論�T／３　六章　�~の現実（下）』「三十一節　神の自由の様々な完全性」へ

引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）

「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」
「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１２９頁）

〔この定式の詳述〕
　この定式の詳述については、『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−１）−１で行っていますので、参照してください（２０１８年５月２１日論述分）。

註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。

「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−５）−１
　神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における「神の知恵」は、「まことにこの神の知恵であるが故に」、「神の忍耐」は、「明らかに預言者的な人格の性格をもって登場してくることができるし、登場してこなければならない」のであるが、それは、「神の知恵が呼ばわり、説教し、語ることが内容的に明らかに（ほとんど同じ言葉でまた預言者の説教でもあり得るような）よく知られた悔改め（≪正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰り≫）と裁きの説教、同時にまた救いを告げる説教以外の何ものでもないということから由来してくるのである」。神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における「知恵」を「捕らえる者には命の木である」というその「知恵」が「力を奮う」のは、その同じ知恵によって、「万物が造られ、支えられている限りにおいてである」から、「神ご自身の説教」としての神の「知恵の、悔改めと裁きの説教、救いを宣べ伝える説教が（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）受け取られること（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰される≫）によって……まこととなる」のである。このような訳で、「神の自己説明、神ご自身の知恵の説明」が、「ついでにまた世界を説明しているということの中で、力強い（神ご自身の知恵の）説明だけが存在するということ」――このことは、「それ自身で独立したいかなる世界説明なるものも決して存在しないということ」を示している。何故ならば、それは、「主があなたの信頼する者であり、あなたの足を守って、わなに捕らわれさせられないからである（箴言三・二六）」からであり、神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における「神の知恵」が、「神の永遠的な（すべてのそのほかの業と比べて遥かに抜きん出た）業として、神を証しする最初の証言として、そのようにしてすべてのそのほかのみ手の業の創造の証人、名匠、喜び楽しむ仲間として、神と等置されている」からであり、「神のすべての業」は、「それの側としても……神の知恵を神の最初の、起源的な業として証しする証人（≪自己証明≫）である」からである。「それは、明らかに例えば一七節」――すなわち「わたしは、わたしを愛する者を愛する、わたしをせつに求める者は、わたしに出会う」ということが「強調されるためである」、また「それは、わたしを得る者は命を得、主から恵みを得る……（三五節）」ということが「強調されるためである」。このような神の「知恵の先行」性と「後続する警告」（例えば、三六節――「わたしを失う者は自分の命をそこなう、すべてわたしを憎む者は死を愛する者である」、すなわち「その知恵を聞かず、それに対して耳を傾けない者、その者はまさにそれと共にすべての地盤を足元から失うことになる」）の「強調」である。「主を恐れることは知識のはじめである、愚かな者は知恵と教訓を軽んじる（箴言一・七）」、「主を恐れることは知恵のもとである、聖なる者を知ることは悟りである（箴言九・一〇以下）」。このような訳で、「神的な知恵は、創造の意味および根拠であり、その限りそこで人間が（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、それ故にそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言を、その第三の形態の全く人間的な教会の宣教あるいはその思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、自らが正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰りに向かう生を≫）生きることができる地盤と場所の意味である」、「すべての生きることができるということ、すべての生きる技能、すべての生の明知は、……人間が（≪先行する起源的な≫）神の知恵を聞き、取り上げ、その限り（≪正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰りを通して≫）自分自身知恵のある者となることから成り立っている」。このような訳で、「神をおそれること」は、「世の創造、保持、支配の中で働く神的な知恵に相対して」、先行する起源的な神の「知恵が、同時に神聖であり義しくあるということ……を通して規定されている」ということに対するわれわれの認識・自覚・「態度から成り立っている」。言い換えれば、「この知恵」が、「人間に対する神の忍耐の意味であり、根拠であるということを通して規定されている」ということに対するわれわれの認識・自覚・「態度から成り立っている」。したがって、「この主を恐れることが知恵のはじまりである時」、「神の知恵」は、「明らかに抽象的な世界原理とは全く違った何かであり、この知恵を認識すること」――すなわちあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を介した先行する起源的な「神の知恵に対応する人間の知恵」は、「特定の世界説明を抽象的に取り上げ受け取ることとは全く違った何ものかである」。神の存在としての完全で全き自由の神の愛の行為の出来事としての「その啓示の中で、イスラエルに対して聖なる方および義なる方として働きかける方が、ただそのような方だけ」が、「世界原理であり」、「まさに、われわれが、この聖なる方および義なる方の前で、その方との契約の中で生きる（そのことが、この契約を結び、実行に移す中で啓示された方の本質に対応しているように、われわれがまさにそのようにして唯一の可能な生を生きることができるように、この聖なる方および義なる方の前で、その方との契約の中で生きる）ことを学ぶために場所と地盤が与えられているという……認識だけが、実際の世界説明であるということについて決定が下されている」のである、換言すればただ主イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し固着するという正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰りのために、それ故に「世、歴史、社会」は「その中でキリストが生まれ、死に、甦られたところの世、歴史、社会」であるということを承認し確認するために、それ故に「自然の光の中でではなく、恵みの光の中で、それ自身で閉じられ、かくまわれた世俗性は存在せず、ただ神の言葉、福音、神の要求、判定（≪「裁き」≫）、祝福によって問いに付され、ただ暫時的にだけ、ただ限界の中でだけ、それ自身の法則性とそれ自身の神々に委ねられた世俗性があるだけであるということを承認し確認するために、それ故に起源的な第一の形態の神の言葉、啓示・和解、「啓示の実在」そのものであるイエス・キリストは、人間のその類・歴史性とその個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡せ、「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受け取ることができる」場所であることを承認し確認するために、また教会の宣教における福音が、「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞にすぎ」ない「神秘主義へと変わって行く」ことが見渡せる場所であることを承認し確認するために、「場所と地盤が与えられているという……認識だけが、実際の世界説明であるということについて決定が下されている」のである。『教会教義学　神の言葉�T／１・２』では、次のように言われている――「存在するものそのもの」、「その純然たる造られた存在」に依拠したアウグスティヌスの「造ラレタモノヲトオシテ、知解サレタ創造主ヲ認識シテ、私タチハ三位一体ナル神ヲ知解スルヨウニシナケレバナラナイ、ソノ跡ハフサワシイカタチデ被造物ノウチニ顕レテイルノデアル」という自然神学の段階に停滞したところでの語り方に対して、バルトは、そのような三位一体の跡は、「世界に対して超越する創造神（≪「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異の下にある創造神≫）の跡」として理解することはできない、と述べている。すなわち、アウグスティヌスの言うそれは、ただ単なる人間の自己意識・理性・思惟の類的活動によって対象化された人間自身の自己認識・自己理解・自己規定、意味的世界、物語り、人間自身の「内在的に理解」された「宇宙の諸規定・人間的な現実存在の諸規定」、「単なる宇宙論や人間論」でしかない。したがって、そのような三位一体論は、人間自身に基づく「人間の世界理解の、最後的には人間の自己理解」、「神話」、自然神学の段階で停滞と循環を繰り返す神の人間化あるいは人間の神化の試み、人間学的神学あるいは哲学的神学の試みのそれである。したがって、ここでは、「人間にとって自分自身からして近づくことができ」「認識可能な神的知恵という表象は断ち切られる」（「ヨブ記二八章」、「箴言八章」）のである。信仰の新式としての神認識（啓示認識・啓示信仰）には、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」が必要なのである。神の「知恵はどこに見いだされるか。悟りのある所はどこか。人はそこに至る道を知らない。また生ける者の地でそれを獲ることができない。……（ヨブ二八・七以下）」、「一言で言えば、人間は神的な知恵を、そのほかすべてのものを、最後に、結局、人間が持つことができるような仕方で持つことはできない」のである。「『神はこれに至る道を悟っておられる。彼はそのある所を知っておられる。彼は地の果てまでもみそなわし、天が下をみきわめられるからだ』（ヨブ記二八・二〇以下）。……そして人に言われた。『見よ、主を恐れることは知恵である……』（二八節）」。これらのことから、「旧約聖書の中で、まさに神の測りがたい（≪神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における神の≫）知恵を指し示す指示」が、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教における「偶像崇拝」というものは、「全く不可能」であり、「全く愚かであるであることの証明として引き合いに出されている時」、「何故そのように為されているのかがよく理解できるものとならなければならなし、ただそのところからしてだけそのことはよく理解できるものとなることができる」。そこのところにおいては、人類史のそれぞれの段階のところで人間自身が対象化したところの「存在者レベルでの神」はもちろんのこと、近代以降の宗教的形態である人間にとって部分でしかない科学を全体化し絶対化する科学＜主義＞もあるいは歴史＜主義＞も、人間にとって部分でしかない経済を全体化し絶対化する経済決定論も、現存する自由主義国家であれ社会主義国家であれ国家を第一義化・価値化する国家＜主義＞も、人類史における西欧近代的段階やアジア的段階を第一義化・価値化する西欧＜主義＞あるいはアジア＜主義＞等々も、それらはすべて「偶像崇拝」に過ぎないということをよく理解することができるのである。「もしも（≪神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における≫）神の知恵」が、それ故に「神ご自身」が、「人間にとって、（≪神とは異なる被造物的な≫）世界において（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づかないでも、それ故にわれわれ人間の自己意識・思惟・「理性や力」・意志力・感情力・修行力によって≫）認識可能であるとするならば」、「もしも人間に対して、大水、海、渕、死が……ヨブ記二八章によれば語らないことを語るとすれば、もしもヨブ記二八章によれば人間に隠されていることがすべての生けるものの目の前で覆い隠されていないとしたらならば」、「神をすべての種類の偶像の中で崇めること」が「自然的な神認識の＜正当＞な業」、「＜必然的＞な業」となってしまうのであるが、その場合にはわれわれは、そのような神と人間との無限の質的差異の揚棄に対して、それ故に人間の神化あるいは神の人間化に対して、あるいは神学の人間学化に対して、カトリック主義キリスト教に対して、近代主義的プロテスタント主義的キリスト教に対して＜否＞を突き付けることができなくなってしまうのである、総括的に言えばその場合にはわれわれは、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返すキリスト教に対して＜否＞を突き付けることができなくなってしまうのである。「しかし、旧約聖書は、それの前提からして、全く首尾一貫して、すべての偶像崇拝は愚かであると語るのである」、「よく理解せよ。それは、罪であるというのではなく、愚かさの形態の中での罪、人生についての弁えないものの業、世界のことに通暁した知恵のある者の業ではなく、まさに愚か者の業、換言すればまさにそこで人間が存在できる唯一の可能な（≪人間、人間の類の時間の中での≫）地盤および場所を全く逸している者、世界の創造者、保持者、主としての神の認識を全く逸している者の業」、すなわち「彼らが神認識の場所を、（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を与えられる場所であるあの「啓示と信仰の出来事」に置かないで、≫）（ちょうど人が金あるいは青銅の場所を山の中に見出すことができるように）見出すと思っているが故に（≪換言すれば人間の自己意識・思惟・「理性や力」・意志力・感情力・修行力によって見出すと思っているが故に≫）、主としての神の認識を全く逸している者の業であると語っている」。彼らは、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）についての認識と自覚を持たないのである、持とうとしないのである。「……だれが、主の霊を導き、その相談役となって主に教えたか。主はだれと相談して悟りを得たか。だれが主に公義の道を教え、知恵を教え、悟りの道を示したか。見よ、もろもろの国民は、おけの一しずくのように、はかりの上のちりのように思われる（イザヤ四〇・一二以下）」、「それで、あなたがたは神をだれとくらべ、どんな像と比較しようとするのか（一八節）」。「まさにこのところからして」、「神は、存在するすべてのものの、この誤ることのない、完全な創造者、保持者、主であり給うが故に、異教的な工人とかじ屋の業に立ち帰ることはあり得ない。まさにそれだからこそ、神の偶像は存在しないのである」。「神の知恵を認識する場所、神の知恵が実際に存在し、神をおそれるおそれの中で認識される場所」は、「（人がその証言をその脈絡の中で、そのはっきりと言葉に出しての言明の中で、尊重する時）既に旧約聖書の証言に従っても」、「そこで神がご自身を（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）世界の創造主、保持者、主として認識すべく与え給う場所である」。「それは、まさにイスラエルに対する（≪神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における≫）神の聖にして義なる、恵み深く、あわれみ深い行為（≪完全な全き自由の神の存在としての神の愛の行為の出来事≫）である」。

　「神の本質の単一性と区別」における、すなわち神の本質の区別を包括した単一性における神の「恵みおよび神聖性、あわれみおよび義の概念を超えて語らなければならない」ところの、それらの「概念を特別に説明しつつ知恵という概念が語らなければならないこと」は、キリストにあっての「神は、（あれらのほかの概念が語っている）行為の中で」、換言すればあれらのほかの概念が語っている完全な全き自由の神の存在としての神の愛の行為の出来事の中で、「自ら時間をとり、またその際われわれに対しても（≪正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰りへの≫）時間を与え、それであるから」、「われわれのための神の時間」（イエス・キリストにおける神の現臨の出来事、イエス・キリストにおける神の自己啓示の時間、イエス・キリストの受難と死および「成就された時間」であるキリスト復活）として、すなわち「世界の創造主、保持者、主として、われわれに対し（≪正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰りへの≫）地盤と場所を与え給う時」、「決してご自分の忍耐の奴隷であり給わないということである」。このような訳で、「神に忍耐を行使するよう促すもの」は、「神の神聖にして、正しい意志、恵み深い、あわれみ深い思い」であり、それ故にあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「われわれに対してこの思いを啓示し、われわれを悔改めへと導き、そのようにしてわれわれ自身の生を意味深いものとされる神の意志である」。神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性における「神の忍耐のこの思い」が、「神の知恵である」、「神の本質（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神のそれ≫）と神のみ業（≪その三位一体の神の「失われない差異性」の中での父、子、聖霊という三つの存在の仕方、性質、業と行為、働きにおけるそれ≫）の知恵である」、「そして、神のみ業の知恵として正しく理解された世の知恵、造られた宇宙の哲学であり、人間的現実存在の哲学である」。「この哲学」は、存在の類比を通した「宇宙あるいは人間の本質から読みだされることはできず」、「ただ神ご自身の言葉を通して」、すなわちあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を介した啓示の類比・信仰の類比・関係の類比を通して、「神ご自身の言葉として聞かれることができるだけである」。ここにおいては、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異の認識と自覚が存在しているのである。「それは、確かに神の言葉を通して、神の言葉として、宇宙およびわれわれ自身の現実存在の正しい哲学である」。したがって、それは、人間の肉体的身体的および精神的意識的な普遍的で実践的な全自然との相互規定的な対象的活動による個体的自己の成果の世代的総和、人類史的成果のその肯定的側面および否定的側面をも正直に受け取ることができるのである。「ここからして、直ちにまた神の知恵についての証言が、旧約聖書においても新約聖書においても分割された証言ではなくて統一的な証言であるということが明らかに見て取れるといってよい……」。「ここからして、コロサイ二・三で、……キリストと称する神の秘義（≪「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神」、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリスト≫）のうちに、『知恵と知識と宝が、いっさい隠されている』と言われており、�Tコリント一・三〇で、『義と聖とあがない』と並んで特に強調されつつ、まさにイエス・キリストは、わたしたちの知恵となったと言われているのを読む時」、「イエス・キリストは、神の忍耐の意味であるということ」が「われわれが神の忍耐の完全性を詳論した際、事実そこで結論にまで来たところの帰結であった」。

　さて、「シュライエルマッハー」は、神の側の「神的な自己伝達」と人間の側の「そのような自己伝達に対して秩序づけ規定する原理」としての「世界」とを分離して、「神的な知恵」は、「世界を、（救いの中で実証される）神的な自己伝達に対して、秩序づけ、規定する原理である」、と述べた。しかし、聖書的啓示証言に即して言えば、「すべてのものは、これ（≪神の言≫）によってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった（ヨハネ一・三）」のであるから、「正しく表現されるならば、この命題」は、「神的な知恵」は、「世界を自分自身に対して秩序づけ、規定する神的な自己伝達である」、と「述べられなければならない……」。言い換えれば、正しい世界認識を得るためには、われわれ人間は、先ず以て啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の自己運動、われわれ人間の思惟と語りの原理・規準・法廷・審判者・支配者としてのそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には、その第二の形態の神の言葉である直接的な最初の第一の聖書的啓示証言のそれ）、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を必要とする、次にその啓示認識・啓示信仰を介した啓示の類比・信仰の類比・関係の類比を通して世界を認識することを必要とする、と言わなければならない。

　「旧約聖書」は、「神ご自身によって知恵を賦与され、そのようにして地上において神ご自身の知恵を写し出し宣べ伝える者に任命された最高の知恵のある人間」について、「ソロモン王の姿の中で知っている」。「神はソロモンに非常に多くの知恵と悟りを授け、また海べの砂原のように広い心を授けられた。ソロモンの知恵は東の人々の知恵とエジプトのすべての知恵にまさった。彼はすべての人よりも賢く、……その名声は周囲のすべての国々に聞えた。彼はまた箴言三千を説いた。またその歌は一千五首あった。（中略）諸国の人々はソロモンの知恵を聞くためにきた。地の諸王はソロモンの知恵を聞いて人をつかわした（�T列王四・二九以下）」。「われわれは、�T列王一〇・一以下で、シバの女王がソロモンの名声を聞き、難問をもってソロモンを試みようとはるばるたずねてきた次第を読む」。ソロモン王は「主を愛し」（�T列王三・三）、「ソロモンが、『あなたに何を与えようか、求めなさい』という神の申し出に対して、ただ知恵を求め、決して長命を求めず、また富を求めず、また自分の敵の命をも求めなかったので、神はソロモンが求めなかったものをも与え給うた（�T列王三・四以下）」。このことを、神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会（われわれ成員）に引き寄せて言えば、われわれは、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、啓示・和解、「啓示の実在」そのものを、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言のそれ、その最初の直接的な第一の預言者および使徒たちのイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、すなわち啓示の「概念の実在」を、われわれの思惟と語りの原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下でそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」――すなわち純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神をすべての人々が現実的に所有することができるために為すキリストの福音、キリストにあっての神の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指していくことを命令、要求、要請されていると言うことができる、イエス・キリストをのみ主・頭として「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していくことを命令、要求、要請されていると言うことができる。そのようにして、「ソロモン知恵」は、「彼の富の中で、彼の宮殿と彼によって建てられた神殿の栄光の中で、彼の王国の地上的な輝き全体の中で、可視的となるのである」。ここで、「直ちに、既に箴言の中でわれわれに出会った関連性」――すなわち、「知恵ある人間が、愚か者と違って、彼の現実存在と宇宙全体を、それらが神によって創造され保持されていることに対応する仕方で、それ故に意味深い仕方で、それ故に約束に満ちた救いに役立つ仕方で用いる術を知っている限り」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられた「知恵」は、「生きる技術のことであるということ」を、われわれは知るのである。「自分の現実存在と宇宙をこのように用いる人間は、この地上で生きることができるし、生きるであろう」。「まさに、列王記上の話からして、諸書の知恵の教えの記述を超えて」、その「知恵」は、第一に、「そのような（≪終末論的限界を認識し自覚した≫）人間的な知恵は、人間自身に固有な、人間によって実現されるべき可能性ではなく、神の賜物……であるということである」、すなわち「そのような神的な奇蹟および恵みの賜物（≪ちょうど、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰が、聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいた賜物であるように≫）として、人間的――地上的な場所においても類例のない、すべてのそのほかのものを眼色なからしめる形態と栄光を持つために祈り求めなければならず、神が特別に身を向け、顧みて下さることである神の賜物であるということである」。その「知恵」は、「第二に、特に……それとしてソロモン個人の現実存在の中にその意味と目的を持っている学問あるいは世の賢さではないということである」。「�T列王三・七以下によれば」、「わが神、主よ、あなたはこのしもべを、わたしの父ダビデに代って王とならせられました。しかし、わたしは小さい子供であって、出入りすることを知りません。かつ、しもべはあなたが選ばれた、あなたの……おびただしい民の中におります。それ故、聞きわける心をしもべに与え、あなたの民をさばかせ、わたしに善悪をわきまえることを得させてください。だれが、あなたのこの大いなる民をさばくことができましょう」、と述べられている。このような訳で、「ソロモン的な知恵」は、「決して私的な意味での知恵ではなく」、「公の役職を果たす上での……王の知恵、支配の知恵である」。それは、「有能な裁判官を秀でた者にしている善と悪を区別する賜物、……正義と平和を民の間に打ちたてるために、民の支配者が必要としている標準を所有することから成り立っている」。その「標準」を、「（�T列王三・一六以下）あの祈りとあの祈りが聞き届けられることに直接続いているソロモンの裁きについての顕著な物語が明らかにしてくれる」――「ソロモンの裁きの座の前に現れた二人の遊女のうちどの女が生きている子供の母親であろうか」。その「答え」は、「善と悪を区別する賜物」としての「正義と平和を民の間に打ちたてるため」の「標準」に基づいた「ソロモンの判決によれば」、「その子供を所有することを断念したいと願った母親」の方にある。したがって、その「母親に対して、現に生きている子供が与えられる」。したがってまた、「その子供を自分のものとすることができないくらいなら」、「その子供の生命をなくさせたいと思った女は正しくないのである」。この物語は、「実際に神の民がこのソロモン的な知恵の判断の中で裁かれている」ことを意味している。すなわち、「二人の母親、換言すれば二つの民が……隠されているのであり」、「生きた希望を持つ民と死んだ希望を持つ民が分けられなければならない」。どの神の民が前者のそれであり、どの神の民が後者のそれであるのかという問いに対する「神的な答え」は、「イスラエルの歴史全体を首尾一貫して貫き通っている導きの糸」であって、「死んだ希望を持つ民こそが、絶えず自分たちは生きた希望を持っている民（≪「神の民」≫）と（≪「偽りの仕方で」≫）主張して」いる民であるという点にある、神の側の真実としては「実際に生きた希望の民であり」ながら、「それでいてその生きた希望を自分の所有として証明することのできない民（≪「神の民」≫）」であるという点にある。言い換えれば、その民は、その神の答えによれば、そのような神の「民こそが、ひそかに自分だけで確信しつつ（≪自己認識・自己理解・自己規定しつつ≫）、その主張において直接反駁されずに、神のまことの民であると言いふらしてゆくために、繰り返し自分（≪その人間的な恣意的独善的嗜好的な自主性・自己主張・自己義認の欲求≫）を打ちたてようとしている」民である、換言すればあの「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言のそれ）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として認識し自覚することなく、それとは独立して「繰り返し自分を打ちたてようとしている」民である、換言すれば神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという不信仰・無神性・真実の罪を志向し目指す民である、換言すればあの純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（純粋なキリストにあっての神の告白・証し・宣べ伝え）を志向し目指さない民である、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指さない教会である。キリストにあっての「神は、何が善であり、何が悪であるかを知り給う。そして、神によって知恵を与えられたソロモン王は、そのことをはっきりと言葉に出して語る」。したがって、ソロモン王は、「両方の民の間に脅かしを置く。そこでは、生きた希望も死んだ希望とならなければならない。イスラエルにとって徹頭徹尾望みが絶えてしまうであろう」。「まさに、この恐ろしい決断の脅かし、まさに生きた子供に突き付けられた剣、イスラエルの生きた希望を脅かしている絶滅」は、「結局ただ、その民の中で正と不正を、それであるからその民の中で二つの民の間の区別を明るみに出そうとするソロモン的な手段でしかないのである」。何故ならば、「死んだ希望を持つ民が、（その民が偽りの仕方で主張していたし、今なお主張している）生きた希望が絶えてゆくのを無関心に傍観しているということが示されるからである」。それに対して、「生きた希望の民」は、「この脅かしと直面して、ただ一つのことをしようとする」――すなわち、「ただその希望に生き、生き続け」ようとする。「希望そのものの生命を断念するよりは、むしろ（≪神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという仕方における≫）自分の正しい主張を、救いの経験すべてを断念したいと思う民」、「神に背くよりはむしろ地獄を選びたいと思う民」、「母親の愛（子供の中で自分自身を愛さず、むしろ子供の中で子供を愛する母親の愛）の民」――「まさにこの民こそ」が、「ソロモン的な判決の中で正しいとされるのであり」、それ故に「そのような民」に、「ソロモン的な支配の中で突き付けられた剣と直面して、生きた希望に対する権利を事実持っており」、それ故に「その希望」は、「そのような民に……事実属しており」、「自分の希望を永遠に失ってしまうことがない民として示される」のである。このことが、「神の民の真中で支配し、この標準を知っており、適用するところのソロモン的な知恵である」、「生きた子供を正しい母親を問う問いとして、また生きた希望を神の正しい民を問う問いとして知っており、適用するところのソロモン的な知恵である」。この「ソロモン的な知恵」は、「その者にとって神への生きた希望」が、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もということを志向し目指す「自分自身よりも大事であるということの中で」生きる民こそが、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方において父、子、聖霊なる神である三位一体の神の「まことの民として示され、そのことに照らして認識させられるであろうということを知っているし、そのことに照らして決定する。まさに、それだからこそ、生きた希望は、その民にとっていつまでも残り、耐えることがないであろう」。そのような民は、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』に引き寄せて言えば、神の側の真実としてある「救済」（平和）を、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「信仰の中で持」っている。この救済を信仰の中で持つということは、神の側の真実としてある「約束として持つ」ということである。神の側の真実として、「われわれはわれわれの未来の存在を信じる。われわれは死の谷のさ中にあって、永遠の生命を信じる」。近代以降の宗教的形態である科学主義や歴史主義に依存してではなく、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）における神の側の真実としてある「この未来性の中で、われわれは永遠の生命を持ち所有する」。この「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である。新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」、「満たされた人」（啓示の出来事と聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事、信仰の出来事に出会った人）は、「召されていること、和解されていること、義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」という啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである。ここで、「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」（人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍）にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実としてある「成就と執行」、客観的現実性、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。

　「このソロモン的な知恵の中で」、「このソロモン的な知恵そのものとして」、「『ソロモンにまさる者』（マタイ一二・四二）――すなわちイエス・キリストが、神の民のただ中に立ち給う」。単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、神の側の真実としてある主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」（イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの）、神の側の真実としてある完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和そのもの、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストが、「神の民のただ中に立ち給う」。「ここでは、まことにただ単に剣が突き付けられるだけでなく、剣が振り下ろされなければならない」、「ここでは、ほかならぬ裁判官自身」が、「自分の人格の中で、同時に殺された子供、イスラエルの無に帰した希望と、子供を奪われたまことの母親、希望をなくしたイスラエルであることを耐え忍び、そのことを身に受けたのである」。何故ならば、それは、イエス・キリストこそが、「まさにこの犠牲として捧げられたものとして（十字架につけられ、しかし三日目に死人の中から甦られた方として）」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰――この「信仰の中で、それ自身の故に愛されることを欲しており、しかしまた信じる者たち、換言すればあの子供たちのようにただ子供が生き、子供が現にあるところの者であり、あり続けることだけを肯定し、ただそのことだけをかたくとって離さず、ただそのことだけを切に願ってやまないすべての者たち」、「まさにこの切なる願いの故に義とされるすべての者たちに属している生ける希望であるためである」。このことが、「その民の王としてのイエス・キリストの行為である」、すなわち「裁判としてあの脅かしを語り、遂行し」、「同時にその脅かしの遂行を自らの身に受けなければならない母親として、また子供として、繰り返し、（≪主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである≫）彼を信じる信仰を問い（≪あの純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」に根拠づけられた「神の賛美」としての「隣人愛」を志向し目指し、イエス・キリストをのみ主・頭とするイエス・キリストの教会を、「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指し≫）、彼を信じる者を正しいとして選び分か」つことが「その民の王としてのイエス・キリストの行為である」。このような訳で、「われわれすべてにとって、もしもわれわれがわれわれの義を受け、神の民として明らかになることを欲するならば、ただ（≪主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである≫）彼を信じる信仰だけが残っている」。神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという「自分自身を堅くとって離さないというよりも、（≪「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」われわれすべての人間にとっては、≫）その対象としての（≪主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである≫）彼を堅くとって離さない信仰だけが残っている」、ただ単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し固着するという信仰だけが残っている。このような「再び彼を信じる信仰の中で、……われわれが（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）信じるが故に、信じることによって、まさに自分で造り出そうと欲することができないこと、われわれの義認とわれわれが神のまことの民に属している所属性、そのようにして時間（≪人間の有限の時間≫）の中での、また（≪神の側の真実としてある、「成就された時間」である「キリストの復活」、イエス・キリストの時間、神の時間において≫）永遠にわたっての生命の約束が残っている」。「われわれが自分自身を（≪「自分の理性や力」、感情力、意志力、修行力を介した≫）信仰にあってイエス・キリストに服従させることによって」ではなくて、「むしろイエス・キリストが、（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）ご自分をわれわれの信仰の対象としてわれわれに与えることによって」、「ご自身をわれわれの下に置き給うことによって」、「まことに彼は、『神に立てられて、わたしたちの知恵』（�Tコリント一・三〇）となり、われわれに対して（彼の故にわれわれに示された）神の忍耐の下で、（彼の故にわれわれにゆるされた）時間（≪われわれ人間に与えられた時間と場所≫）の中で、この忍耐の意味で、そのようにしてわれわれの時間（≪われわれ人間に与えられた時間と場所≫）の意味であり給う」。

　われわれは前述したことに依拠して、「�Tコリント一・一八−二・一〇の脈絡全体」を読まなければならない。「十字架の言葉は、滅び行く者には愚かであるが、救いにあずかるわたしたちには神の力である（一八節）」。ここで、十字架の言葉が滅びゆく者には「愚かである」のは、「彼らが、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）あの方を信じる信仰なしに」、それ故に「神に属することなしに」、「その甦りの知らせを伴った、あるいは……伴わないイエス・キリストの死の知らせの中で」、その中で「イエス・キリストの甦りの知らせを伴って伝えられる時にこそ」、「いよいよもって……ただ（≪神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという、あるいは啓示とは独立した人間の思惟と語りもという、あるいは人間の側からする神との混淆・混合・共働・協働もという≫）人間的な生が無意味であることの……確証についての知らせだけ」を「聞くこと」になるからである、「あるいは……まさに（≪そのような≫）人間的な生の……無意味さこそがそれとして人間的生のまことの意味であるという背理の宣言だけを聞くこと」になるからである、換言すれば自然神学における人間的生を、自然的な信仰・神学・教会の宣教における人間的生を、その極限に想定されるヘーゲルの哲学原理における人間的生を聞くことになるからである。その場合、不可避的に次のような志向性を持つことになる――「ドストエフスキーの書いた（≪『カラマーゾフの兄弟』の≫）あの大審問官は、神と人間に対して、疑いもなく善意をいだいていたのであるが、彼が神と人間に仕えようと願ったのは、ただ彼の善意（≪彼の自己意識・理性・思惟の類的活動が対象化した「存在者レベルでの神」・偶像、その神・偶像の名と呼び掛けによる恣意的独善的嗜好的な救いや平和の企て、彼の人間的理性や人間的欲求によるそれ≫）によってに過ぎなかった。したがって、彼の奉仕は、（≪人間に対してだけでなく、神と人間との無限の質的差異の下における神は神である神に対する≫）最も洗練された（≪人間の側からする、人間の支配の側からする≫）支配行為に過ぎなかったのである。神と人間についての独断的な観念に基づく独断的に考え出された（≪例えば観念の共同性を本質とする国家の法的政策的言語を介した、あるいは戦争の元凶である民族国家を介した≫）救いの計画と救いの方法（≪あるいは平和の計画と平和の方法≫）が支配するところ、そのようなところでは、その意図がたとえどのように心から善いものであり、敬虔なものであっても、神に対しても人間に対しても、真に奉仕が行われることはないであろう。また（≪「ヘーゲルの強力な痕跡」を持った自然神学の段階に停滞した、あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に停滞した、カトリック主義的なキリスト教あるいは近代主義的プロテスタント主義的なキリスト教等々≫）そのようなところには、（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕わされた神こそが隠された神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストをのみ主・頭とする≫）教会は存在しないのである。そのような救いの計画と救いの方法の独断性が、神に余りに僅かしか信頼せず、人間に余りに多く信頼するという点に現われるということは、疑いない」（『啓示・教会・神学』）。そのような人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍に第一義性を置いて思惟し語る「彼らは、（≪十字架につけられたキリストの復活のことを聞くと≫）使徒行伝一七・三二に記されているように、（≪ある者はあざ笑い、≫）ある者は退屈を感じ、ある者は憤慨して、この馬鹿馬鹿しい知らせから顔をそむけるのである」。しかし、そのような「彼らは、そのようにしてまさにそのような判決を下すことによってこそ、既に（≪自らが≫）判決を下されていて、死んだ子供の母親としての正体を暴露され見透かされていることを知らない」のである。彼らがそのような判決を下すことによって、彼らには、「わたしは知者の知恵を滅ぼし、賢い者の賢さをむなしいものにする（�Tコリント一・一九節、イザヤ二九・一四）」ということが起こったのである。このような訳で、「彼らの知恵は決済され、片づけられ、全く用をなさなくなったということが、……彼らがあの知らせを愚かなものとみなすということでもって、明らかにされ証明されるのである」。「知恵にある人はどこにいる。学者はどこにいる。この世の論客はどこにいる（�Tコリント一・二〇a）」。「そのようなものは一人もいない。まさに、あの知らせによれば、神が為し給うたことでもって、神は、世にあって自分が知恵であると言い」、「それでいて（≪神とは異なる≫）知恵でないすべての者を、タブラ・ラサ〔感覚的経験以前の心の状態――バルトは、イギリス経験論のロックの「白紙」説の言葉を比喩として使っている、それ故にここでバルトは、経験論が正しいということを言っているのではない、もちろん観念論が正しいといことも言っているのではない〕とされ……一掃されたのである。『神はこの世の知恵を、愚かにされた』（二〇節b）」のである。したがって、「たとえ世の知恵が、それ自身でどのようであれ、また何であれ、あの知らせによれば、神が為し給うたことと直面すれば、それは、……それが現にあると主張しているものは、生きるにあたっての巧みさ、世界の知恵ではなく、実際はその正反対のものである」。ここにおいては、「『自分の知恵によって』自分自身で知恵だと思っているものを適用しつつ、世は、神を、……神の知恵が存在し・行動し・自己啓示したところで認めるに至らなかった」。それに対して、キリストにあっての神は、「まさにあの宣教の愚かさだと思われているものを通して、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識において、啓示認識・啓示信仰において≫）信じる者を救うこと（二一節）」を、「ユダヤ人には躓かせるもの、ギリシャ人には愚かなものであるが、召された者にとっては、ユダヤ人にもギリシャ人にも、神の力、……神の知恵である（≪「成就された時間」であるキリストの復活に包括された≫）十字架につけられたキリストの宣教を通して（二三節以下）信じる者を、よしとされたのである」。「まさに、この神の愚かさと思われているものこそ」が、「ちょうどソロモンがすべての人間よりも賢かったように」、神とは異なる「人よりも……はるかに賢く」、「まさに、この神の弱さと思われているものこそ」が、神とは異なる「人よりも強いのである（二五節）」。「まさにそれだからこそ」、神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会において、「人間的に見て、知恵ある者が多くはなく、権力ある者も多くはなく、身分の高い者も多くはないということは、教会にとって決して悪い兆候ではない」のである。バルトは、『啓示・教会・神学』で、次のように述べている――「教会は、（≪起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言のそれを自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）人間が神に聞くというこの一事によって――神が人間に語り給うゆえに聞き、神が人間に語り給うこと（≪起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言のそれ≫）を聞くというこの一事によって、基礎づけられ、支えられているのである。（中略）このことが起こるところ、そこではたとえ二人三人の集まりであっても、またこの二人三人が決して選り抜きの人でなくても、また高い水準にさえ達していなくても、またむしろ人間の屑に属する者であるようなことがあっても、教会は存在する」、それ故にそうでない場合は、「どのような大群衆をその中に擁し、どのように優れた個人をその中に擁していても教会は存在しない。またそれが、もっとも豊かな生命を示し、国家と社会において、どのように尊敬されようとも教会は存在しない」、と。このバルトの発言の正しさは、例えば日本のカトリックや日本基督教団の社会的政治的実践の在り方に引き寄せて検証してみれば明らかなことである。キリストにあっての神は、「まさにあの知らせが愚かであると思われていることに対応しつつ」、「賢いと思われている者をはずかしめるために、この世で愚かと思われている者を選び、強いと思われている者をはずかしめるために、この世で弱いと思われている者を選び、有力と思われている者を無力とするために、この世で身分の低い者や軽んじられている者、無きの等しいと思われている者を選ばれたのである」。「それは、だれ一人、神の前で誇ることがないようにするためである（二六−二九）。……この神からして……キリスト者は、イエス・キリストにあっての自分の存在を持っている。『あなたがたがキリスト・イエスにあるのは、神によるのである』」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰によるのである。「キリスト者は、自分の存在を、死人の中からのイエス・キリストの甦り（≪成就された時間≫）の力を通して持っている」。何故ならば、『福音と律法』によれば、われわれ人間の更新を可能とするのは、換言すればわれわれ人間の「浄化・聖化・更新の原理」は、「今日に至るまで罪人の手に渡され・十字架につけられ・死んで甦られ給うた」イエス・キリストにある「復活の力」だけだからである。「まさに、それだからこそ、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰に生きる≫）キリスト信者は、明らかに、一方において、イエス・キリストの中で起こった神的行為の愚かさ、弱さ、軽んじられている姿と思われているものにあずかっている」のであるが、他方で、「それだからこそ、キリスト信者はまた」、「結局はただ、その事実的な愚かさを暴露された（事実的な愚かさの「判決」が下された）『人間的な知恵』」に対する「実際の神的な知恵の勝利にあずかるのである」。「彼らに対して、まさに（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である≫）イエス・キリスト、（≪「成就された時間」であるキリストの復活に包括された≫）十字架につけられた方……こそ」が、「その甦りを通して、神ご自身によって（ちょうど義と聖とあがないとなられたように）」、「特に知恵となられたのである（三〇節）」。「それは、彼らの身に、エレミヤ九・二三以下の言葉が成就するためである」、「『誇る者は主を誇れ』と書いてあるとおりになるためである」（�Tコリント一・三一）、「その個所のもっと正確な本文」には、「知恵ある人はその知恵を誇ってはならない。力ある人はその力を誇ってはならない。富める者はその富を誇ってはならない。誇る者はこれを誇りとせよ。すなわち、さとくあって、わたしを知っていること、わたしが主であって、地に、いつくしみと公平と正義を行っている者であることを知ることがそれである。わたしはこれらの事を喜ぶ、と主は言われる」（エレミヤ九・二三以下）とある。このように「主を誇るところの者」は、「自分の知恵、この世の人間的な知恵を誇ることができない」。何故ならば、「第一に、彼は、既に別な、まことの、神の知恵を誇ることがゆるされており、もはや（≪神の知恵とは異なる≫）彼自身の知恵、人間的な知恵を入れるべき余地を持っていないから」である、「第二に、彼が、そこで誇ることがゆるされる神の知恵によって、人間的な知恵は、彼にとって知恵でも何でもないものとして」、換言すれば「彼の目にも徹頭徹尾恥ずべき愚かさとして、仮面がはがされてしまったから」である、「第三に、彼は、神的な知恵との連帯性を、それが愚かさと思われるという点においても、換言すれば神的な知恵が世から受けなければならない判断に関しても、避けようとすることはできないから」である。