本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−３）−２（３１２−３２７頁）

「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−３）−２
　われわれは、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性において「神が忍耐強くあり給うということ」を、「そのみ言葉の中で忍耐強くあり給い」、「われわれがなお神の言葉を聞くことがゆるされることによって」、「自分たちの現実存在を神の前に台無しにし」・「自分で正しいものとすることができない」ところのわれわれのために、「場所と時間を公に」「保持し給うということに基づいて、進んで受け取り、事実として認めなければならない」。また、われわれは、そのことを、「（ほかならぬ神ご自身であるところの）その言葉の中で、忍耐強くあることが、換言すればわれわれのために、すなわち信仰のために場所と時間を持つことができ給うということに基づいて、われわれ自身に向かって語らせなければならない（≪何故ならば、キリストの啓示自身が、啓示に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証の力を、起源的な第一の形態の神言葉自身の出来事の自己運動を、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいた信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の授与能力を持っているから≫）」。われわれが、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて「神の言葉を信じるならば、その時」、「われわれにとって神の忍耐の可能性は疑わしいものであることはできず」、また「われわれにとって神の忍耐の実在は疑わしいものであることができない」のである、換言すればわれわれにとって神の忍耐は、神の側の真実としてある、客観的な現実性としてある、永遠的実在としてあるそれである。神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「神の言葉を信じる信仰の中」においては、換言すれば神の側の真実としてある主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」、すなイエス・キリストが信ずる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである「イエス・キリストを信じる信仰」の中においては、「最終的に、本来的に、忍耐のない神、あるいは忍耐のない、その対象を焼き尽くす愛についての考え方は場所を占めることはできない」のである。したがって、「神の忍耐についての聖書的証言の中心と真理がまだわれわれに向かって語られていないか、あるいはわれわれによってまだ聞かれていなかったところでだけ場所を持つことができる」ところの、「部分的には神がご自分と遊び、また部分的にはさらにもっと多くわれわれを相手に自ら遊ばれるであろう遊びについての考え方も場所を占めることはできない」のである、「プロメティウス的反抗の可能性についての考え方も場所を占めることができない」のである。聖書的証言における真理は、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性の中において、「われわれは確かに神の忍耐に値しなかったし、神の忍耐は、確かにわれわれに対して下される裁きと刑罰の中ででも働いている」という点にある。この「神の忍耐」は、「忍耐強くあることができないということを意味していない」し、「神は忍耐強くない、あるいは部分的にだけしか忍耐強くないということを意味していない」。キリストにあっての神は、「神の言葉」は、「忍耐強くあることができるし、事実、忍耐強くあり給うということに対する根拠であり、そのみ言葉の中で（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストの中で≫）、神はまたわれわれに対しても、そのことをうけ合い給う」。したがって、神は、「そのみ言葉の中で、……われわれが神に対して（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）信仰の中で栄誉を帰し」、「神の忍耐と可能性と現実性をまこととして認めることを待ち給う」。神は、「そのみ言葉の中で神の忍耐を啓示されるとするならば、その時、神は、忍耐そのものの可能性および現実性であり給」う。したがって、「不寛容な神へと通じる道も、彼の方で、神に相対して忍耐を失ってもよいと厚かましくも考える人間のプロメティウス的な道も断ち切られている」。われわれは「神の永遠の怒りと裁きを身に受けるべく無限に罪の負債を負うているのであるが」、われわれが、その「裁きと苦しみ」を、それから免れることができるところの「罪なくして受け給うたキリストの苦しみ……との交わりとその苦しみの影の中で」、「身に受けることがゆるされるということ」は、「われわれに及んでくる裁きと刑罰を忍耐強く身に受け、それらをして」、「その中で、われわれ自身を神（そのみ子の中でわれわれの問題をご自分のものとし給うた神）に捧げることがゆるされる信仰へと立ち帰るべき十分な理由である」、すなわち神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）へと立ち帰るべき十分な理由である。この「イエス・キリストと結ばれている関連性」の中で「われわれが苦しむことがゆるされる関連性」は、「われわれの苦しみをわれわれの全現実存在の賜物全体と共に、実際に『益となる』（ローマ八・二八）ために役立たせるべき十分な理由である」。「この関連性の中で、……われわれの身に……事実突き当たって来る最も悪しく、苛酷な……逃れきることのできない時間的な死も、また来たらんとしている万物の終わりも」、「ただ単に耐えられ得るというだけでなく」、「そのわれわれにとって耐え難い実在の中で、それらすべてのことは、（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間≫）イエス・キリストによってわれわれのために耐えられたのである」から、「イエス・キリストを通してわれわれのために獲得された永遠の生命の約束である」。したがって、「この約束をつかむこと、……確実なものとしてこの約束をもって、既にこの時間の中で生きることがゆるされるということ、そのことが、神の言葉を（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において≫）信じるということを意味している。『教会教義学　神の言葉�T／１．２』においては、次のように述べられている――聖書によれば、愛に基づく父と子の交わりである聖霊は、われわれ人間の「救済主」であるが、「救済主」であるだけでなく、その存在の本質である単一性・神性・永遠性において、「子とともに、子の霊として、また和解者」でもあり、また、「父および子とともに創造主なる神」でもある。新約聖書 の「イエスは主である」という「証言」は、単一性・神性・永遠性を本質とするイエスを、「事実の承認」として、「思惟の初め」として語っている。したがって、この「イエスは主である」、「子を通しての父を、父を通 しての子」を信じるこの信仰、神との出会いであるイエスとの出会い、「信仰の出来事」は、聖霊の注ぎによるのである。この信仰の出来事は、新約聖書において、「啓示の出来事の中での主観的側面」、「聖霊の注ぎ」による人間的主観に実現された神の恵みの出来事、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）の主観的現実化のことである。救済を「信仰の中で持つこと」は、「約束として持つ」ことである。「われわれはわれわれの未来の存在を信じる。われわれは死の谷のさ中にあって、永遠の生命を信じる」。「この未来性の中で、われわれは永遠の生命を持ち所有する」。この「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である。新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」、「満たされた人」は、「召されていること、和解されていること、 義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」の啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである。ここで、「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」、すなわちわれわれ人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実として、客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。このところからして、「イザヤ五四・八、詩篇三〇・六は全く正しいのである」。「神のあふれる憤りは、ただしばらくのことである。この神の憤りの瞬間を、われわれは身に受け、経験しなければならないことはない。その瞬間は、実際、イエスが『わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか』（マルコ一五・三四）と大声で叫ばれたあの瞬間である」。「まさにこの瞬間こそが、その全くの闇の中で、既に……それが鳴り響くと共に死んだ者たちが朽ちない身体でよみがえるはずの最後のラッパが響き渡るもう一つ別の瞬間のすべての性質を持っているのではなかろうか」。このことは、「当時でさえも、ただ認識され、告白され、証しされ、宣べ伝えることができた」だけである（『説教集』「主を見た時　ヨハネ」）。その「瞬間こそ、いずれにしても事実、神の永遠のあわれみ」であり、それに「生涯続く恩寵が対応している」。したがって、「もしもわれわれがキリストと苦難を共にするならば、またキリストと栄光を共にするであろう（ローマ八・一七）」。「もしもわれわれがこの希望をもってキリストと共に苦しむならば」、「そしてわれわれがこの希望をもってイエス・キリストと共に苦しまなければならないということ」、まさにこのことを「神の言葉が語っている」とわれわれが「啓示と信仰の出来事」に基づいて信じる時、「その時、われわれは、忍耐をもって苦しむことができるし、苦しむことがゆるされるし、苦しまなければならない」のである。
　「神の中で、知恵」が「忍耐」に対して関係している関係性は、「ちょうど神聖性が恵みに対して、また義があわれみに対して関係している」関係性と同じように、神の本質の区別を包括した単一性（「神の本質の単一性と区別」）におけるそれである。「これらすべての概念」が、「神の愛の特徴を記述し言い表している」、全き自由の完全な神の愛の行為の出来事としての神の存在を記述し言い表している、全き自由の完全な神の存在としての神の愛の行為の出来事を記述し言い表している。しかし、ご自身の中での神における「神聖性、義、知恵」の概念は、「神の愛」を、われわれのための神における「恵み、あわれみ、忍耐」の概念「よりももっと明確に、神の自由な愛、それと共に特徴的に神的な愛として「記述し言い表している」。「神が、ご自身において、またそのすべての働きにおいて、恵み深くあり、まさにそれと共に神聖であり、あわれみ深くあり、まさにそれと共に義しく、忍耐強くあり、まさにそれと共に知恵に富み給うということ」から、全き自由の完全性の「神の愛の神性は成り立っている」し、「またそのことの中で、（≪全き自由の完全性の≫）神の愛の神性は確認されるのである」。このような訳で、「聖書そのもの」は、「同じ事柄を、その都度……神の隠れた一つの本質の中で区別されたほかの側面からも（≪神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性において≫）考察し見通してゆくようにと導くのである」。「まさに、神の恵みの深さと尊厳さを知る認識（≪「単なる知識」ではないあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「認識」、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）こそが、神の神聖性」を、「神のあわれみの深さと尊厳さの認識こそが、神の義」を、「特別に考察することを呼び求めていた」のである。何故ならば、それらの概念は、神の本質の区別を包括した単一性（「神の本質の単一性と区別」）におけるそれだからである。したがって、「次節（≪三十一節≫）において」、「神の愛よりも神の自由の特徴が表示され言い表されている概念でもって記述をはじめ」たとしても、神の本質の区別を包括した単一性（「神の本質の単一性と区別」）において「同じ経験をする」ことになるのである。すなわち、「まさに神的自由の完全さの深さと尊厳さを知る認識こそ」が、「それを通して神的自由が逆に神的愛の自由として定義される完全性を特別に考察することを呼び求める」ことになるのである。『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、聖書でイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された神は、「失われない差異性」の中で「三つの存在の仕方」（性質、働き、業、行為、行動）において「三度別様」に父、子、聖霊なる神であって、その「存在」は「失われない単一性」・神性・永遠性を「本質」とする「一神」、「一人の同一なる神」である。したがって、「三神」、「三の対象」、「三つの神的我」ではなく、「失われない差異性」の中で父、子、聖霊の三つの存在の仕方の、「失われない単一性」・神性・永遠性を「存在の本質」とする「一人の同一なる神」、すなわち「三位一体の神」である。したがってまた、「失われない単一性」・神性・永遠性を「存在の本質」とする神の完全さ・自由さは、「失われない差異性」の中で父、子、聖霊の「三つの存在の仕方」の完全さ・自由さである。「われわれに出会う神」である父、子、聖霊の「三つの存在の仕方」は、「啓示者（≪言葉の語り手≫）、啓示（≪語り手の言葉、起源的な第一の形態の神の言葉≫）、啓示されてあること（≪それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性≫）」、「神の聖（≪隠蔽≫）、あわれみ（≪顕現≫）、愛（≪隠蔽と顕現との愛に基づく交わり≫）」、「聖金曜日、復活日、聖霊降誕日」、「創造主なる神、和解主なる神、救済者なる神」に対応している。この神は、「隠蔽」と「顕現」において、またその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて 「人間に対して自己を伝達」する。このように、キリストにあっての「神が、現にあり給うすべてのもので特別にあり給い、特別な事柄としてあり給い、神の一つの本質の尽くされることのない富の中で、新しく、一つ一つ違った仕方であり給うということ、それであるから神が、現にあり給うすべてのことの中で、また繰り返し特別に、特別な事柄として、新しく、一つ一つ違った仕方で考察され認識されることを欲し給うということが、まさに（≪キリストにあっての≫）神認識の特別な点であり、また（≪キリストにあっての≫）神ご自身の特別な点である」。
　このような訳で、「神的な愛の完全性の関連性の中で、また神の忍耐の深さと尊厳さも、神の知恵が特別に考察されることを呼び求めてやまないのである」。「神がその力強いみ言葉を通して、万物を担っておられるということ」は、それ故にわれわれが、先行するイエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し固着するという仕方で、正しく悔改め、キリストにあっての神へと立ち帰ることを、神が忍耐強く待ちつつ万物に場所と時間を与えておられるということは、「神の忍耐の深さであり尊厳さである」。このことの中で、「神の忍耐」は、神の本質の区別を包括した単一性において、「神の恵みおよびあわれみと一つであるばかりでなく、また神の神聖性および義とも一つである」。「この事柄についての聖書的証言の中心のところで明らかになるところの神の忍耐の秘義こそが、そのようなものとして、神の中で……特別に考察されることを求めてやまない特別のものである」。この「神の忍耐の深さおよび尊厳さとしての神の言葉は、確かに、神の永遠からして言葉に出して語られ、そのようなものとして受け取られなければならない……神の意志である」。「それがほかならぬ神の意志であるが故に、感謝をもって、服従の中で承認されるべき意志である」。「そのみ言葉の中で語られた神の意志は、それ自身においても、その啓示の中ででも」、「われわれが神の忍耐の尊厳さと深さ」を、「神がそのみ子の中で決議され遂行されたこと」を、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」――この「神の言葉の力の中で認識すること（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）がゆるされる時」には、換言すれば「神の愛の生と支配の認識全体においては」、「われわれが見えるようになることが問題である」から、すなわち「知解」することができるようになることが問題であるから、「神の言葉としての神の本質の中に、それがただ単に真理……であるだけでなく、また知恵であり、それがそれ自身で意味深くあり」、終末論的限界の下においてではあれ「（それを聞く）われわれにとってもそれ自身で意味深いものとして自分を啓示するということが含まれている」のである。「神の知恵」は、神が、「単に意志し給うというだけでなく」、「ご自分が意志されることを知っておられるということ」、また「ただ単にご自分が意志されることを知っておられるというだけでなく」、「何故それを意志し、何のためにそれを意志するかを知り給うということ」、それ故に「それの何故と何のためにが神ご自身の考え、神の計画、神の意図であることだけを意志し給うということ」である。したがって、キリストにあっての神の中にのみ、「光がある」のである。「まさに、神の言葉が神の知恵であるが故に、そのような訳でまた神の言葉の力が神の知恵の力であるが故に、神の忍耐は知恵に富み、神の忍耐を感謝をもって承認すること」は、「同時に神の知恵を承認し、伏し拝むことであり」、「われわれの眼が……開かれることであり」、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「まことの神認識が基礎づけられること」なのである。したがってまた、「被造物が、（≪キリストにあっての啓示から独立して≫）自分自身から」、換言すれば被造物が、キリストにあっての「神とその啓示なしに、知恵に富み、意味深く、計画にかなっているとみなすところのことは、偶然的であり、恣意的である」のである、換言すればそれは、「無意味さ、無計画さ、理不尽さ」としてのそれでしかないのである。「神の言葉」は、「神の忍耐の根拠として、決して偶然的ではないし、また恣意的でもない」し、「光として闇の中に輝く」のである。したがって、われわれが、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて「神の言葉を聞くならば」、「われわれは、神の理性、考え、計画、意図を聞くのである」、それ故に「偶然と恣意の闇は退散するのである」。このような訳で、われわれが、「われわれの現実存在を、神の言葉の啓示に基づいて、神の言葉の啓示によって、ひとりの方、イエス・キリストの故に、われわれにゆるされたものとして受け取るならば」、「われわれの現実存在を脅かしており、特徴づけている刑罰と裁きをわれわれがイエス・キリストと交わりを持つために必然的な、救いに役立つものとして受け取るならば」、「この受け取ることは、道理を聞き分けることを意味している」のである。「われわれの現実存在を神の忍耐の贈り物として受け取るように命じるまさにその神の言葉こそ」が、すなわち「まさにイエス・キリストこそが、それ自身の中で、（≪神の秩序ある≫）理性、意味、計画である」。したがって、「もしもわれわれが神の忍耐の秩序を受け入れることを拒むならば」、「われわれはすべての理性、すべての意味、すべての計画を……はじき出し拒否することになるであろう」、「われわれは闇の中に沈んでしまうことになるであろう」。
　「何故、神は恵み深く、あわれみ深くあり給うのであろうか」。「その答えは、神は、知恵に富み、何故・何のために恵み深くあるかを知り給」うからである――「まさにこのことこそ」が、われわれが「それを承認しつつ」、「闇から逃れ出、まさに光へと」、「われわれにこれまで閉ざされていた……（≪神の秩序ある≫）理性の光へと導かれる」、「それ自身で（≪神の秩序ある≫）意味深い、計画に合った事実……である……」。その完全さにおいて、キリストにあっての神は、「秩序の神であり給う」。したがって、キリストにあっての「神は、恵み深く、あわれみ深くあることによって」、「決して神聖性と義を放棄し給わないのと同様」に、「決して無思慮さや思惟上の過失を犯し給わない」のである。「まさに、（≪ご自身の中での神として≫）神ご自身の中で、また（≪われわれのための神として≫）そのすべての業の中で恵み深くあわれみ深くあり給うということ」が、「それ自身で神の秩序であり、神の知恵の秩序である」。したがって、「もしも神が知恵に富み給わないならば」、「神は恵み深くなく」「恵みのない者であり」、「あわれみ深くなく」「あわれみのない者であり」、「あるいはただ……（≪神と人間との間の無限の質的差異が揚棄された下で≫）被造物が恵み深くあわれみ深くあるであろう……弱さと効果のなさの中でだけ、恵み深く、あわれみ深くある」だけであり、「恵み深く、あわれみ深くある」だけの者である。しかし、キリストにあっての神は、「知恵に富み給うが故に、恵み深く、あわれみ深くあり給う」。「この線は、神の完全な神聖性と義の方向に向けても引かれなければならない」。「何故神は神性で義であり給うのか。まさにそれと共に何故恵み深くあわれみ深くあり給うのか」――ここでもまた、ご自身の中での神として「神ご自身の中での知恵の『だから』が存在する」。「神の神聖性は強情と何の関わりもないし、神の義は暴政と何の関わりもない。また、神の恵みと神聖性の一致、そしてあわれみと義の一致」は、「人があれほどしばしば語ったように」「『逆説』と何か関りがあるわけではない」。「そうではなくて、われわれがそれらすべての中で確かに出会う秘義は、神ご自身の中で持ち給う」、神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性あるいは「神の本質の単一性と区別」における、ご自身の中での神としての神の秩序ある「理性と意味の秘義、神の知恵の秘義である」。このような訳で、「もしも神が知恵に満ちてい給わないならば」、「恵み深く、あわれみ深くあり給わないように」、「神聖で、義しくあり給わないであろう」、「ましてや一致の中で（≪神の本質の区別を包括した単一性におけるその「単一性」の中で、神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という≫）それら両方のものであり給ないであろう」。言い換えれば、神の恵みと神聖性、神のあわれみと義、神の忍耐と知恵という神の本質の区別を包括した単一性において、キリストにあっての「神は、知恵に満ちてい給うが故に、知恵に満ちてい給うことによって、神聖にして義であり給う」、それと共に忍耐強く、「恵み深く、あわれみ深くあり給う」。このような、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は、キリストにあっての神の「理性、意味、秩序の認識に基づいている」から、「信頼」と「解放を意味する」。何故ならば、「信頼」と「解放」は、ただ神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられるキリストにあっての神の「理性、意味、秩序の認識を通してだけあるのであって、決して混乱、偶然、恣意の直観を通して存在するのではないからである」。「人は、もう一度、徹頭徹尾、すべてのことは、われわれが神を知恵として認識するということによってもってかかっているということを言わなければならない……」。キリストにあっての「神は、そのすべての行為が、神によって意志されたものとして、また神によって考え抜かれたものとして、起源的な正しさと完全性の中で考え抜かれ、それ故に意味深い、まさにそれと共に信頼に値する、解放する行為である限り、知恵に富み給う。（≪われわれのための神として≫）その業の中での神の行為について（≪父、子、聖霊という神の存在としての全き自由の完全な神の愛の行為の出来事について≫）、そして（≪ご自身の中での神としての「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互＜内在性＞」という≫）その内的な行為、神の神存在の固有な現実性について、神は知恵に富み、神の中に知恵があり、神の中にまことの知恵があるということが言われなければならない。神はご自身知恵であり給う」。「神の全能の知が神の知恵の知であるということ」は、「本当のことである」。「しかし、ここで、神の知恵は神の愛の意味であり、神の理性（≪人間の人間的な理性ではない。下記の【注】を参照≫）であるということが、まず第一にそれ自身で見てとられなければならない。ただそのようにしてだけ、そこから、神の知恵はまた全能の認識と知識の規定として理解」することができる。また、「神の知恵は、神的な、それ故に隠された知恵として、すべての人間的な認識と知識にまさるということだけを語ることができる」ということも、「本当である」。しかし、「神の知恵」は、「すべての神的な完全性の場合と同じように、神の自己啓示の内容であり、それ故に（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）信仰の対象であり、その限り結局また（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）人間的な認識（≪人間の直観と言語を介した人間が人間的に所有する人間の信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）の対象であるということについて何ら事情を変えるものではない」のである。

【注】ヘーゲルにとって、思惟に思惟を重ねて具体的普遍の頂へと高次化する思惟は、自然から超出した精神であるから、その頂・頂点を極めた「精神は、また精神自体としては神と全く同一である」。これを支えているものが、無限と有限との統一としての「究極的同一性」である。言い換えれば、神と人間との無限の質的差異の揚棄であり、人間の神化あるいは神の人間化の原理の発見である。したがって、この「究極的同一性」において、「神の理性」のその属格理解における理性は、人間の理性が神を思惟する理性から、神の理性が思惟する理性に転化され、人間の理性の思惟は、神の理性の思惟と等価性を持つことになるのである。「われわれは、シュライエルマッハー以外の他の人々（≪ブルトマン、ブルンナー、モルトマン、滝沢克己、八木誠一、カトリック主義的キリスト教、近代主義的プロテスタント主義的キリスト教等々≫）の所でも、……このヘーゲルの強力な痕跡（≪自然神学の段階、自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階における思惟と語りの痕跡≫）に遭遇するであろう」（『ヘーゲル』）。