『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 三神の忍耐と知恵」（その５－２）－２
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 三神の忍耐と知恵」（その５－２）－２（２９８－３１２頁）
「三十節 神的愛の完全性 三神の忍耐と知恵」（その５－２）－２
「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性における「神の忍耐についての聖書的な証言の決定的な要素」は、キリストにあっての「神が、へブル一・三によれば、その力ある言葉をもって万物を保っておられる（≪被造物に場所と時間を与えて保っておられる≫）ということである」。すなわち、被造物に場所と時間を与えて保たせる力は、換言すれば被造物に場所と時間を与えて保たせ「可視」化させ「現実」化させるのは、常にイエス・キリストの「その力ある言葉」であって、それは、われわれ人間の側でのわれわれ人間の側からする「悔改めおよび立ち帰り」の可視化、現実化にはないのである、換言すればわれわれ人間の側でのわれわれ人間の側からする「悔改めおよび立ち帰り」の可視化、現実化という人間的「契機」の＜直接性＞にはないのである。何故ならば、われわれ人間の可視性、現実性は、もともとわれわれ人間は、教会論的なキリスト教的人間であれ、「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」し、また神に敵対し神に服従しないわれわれ人間は、「肉であって、それゆえ神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力」を一切持っていないし、常にキリストにあっての神から遠ざかり遠ざかり続け、キリストにあっての神に背き背き続け、罪を新たな罪を犯し犯し続けており、「イスラエルのところで典型的に明らか」であるように、「その最後の言葉、結局、イスラエルが悔改めないことであるであろうあちこち揺れ動くこと」にあるからである。「われわれの側から語られるこの最後の言葉に対しては、神の側で事実ただ、（≪「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性において≫）怒りの裁きだけが対応することができるであろうし、事実また対応するのである」。したがって、「このわれわれの最後の言葉（≪力なき言葉≫）の手段によっては、神は、決して万物を保つことはおできにならないであろう」、決して万物に場所と時間を与えて「保つことはおできにならないであろう」。神は、その不幸の中にある罪深い人間を決して保つことはおできにならないであろう」、決して万物に場所と時間を与えて「保つことはおできにならないであろう」。「力ある言葉」は、「へブル一・二によれば、……神がこれらの日の終わりに、すなわち先祖たちと預言者たちの日の終わりにわれわれに語られ」、神は、「み子、イエス・キリスト」を「万物の相続者と定め、その方によってまた……もろもろの世界を造られ、神の栄光の輝きであり、神の本質の真の姿であるところの」「み子、イエス・キリスト」の「言葉である」、すなわち教会の宣教における「先ず第一義的に優位に立つ原理」・規準・法廷・審判者・支配者としての起源的な第一の形態の神の言葉である。この「み子、イエス・キリスト」の「言葉によって、み子、イエス・キリストの中で」、キリストにあっての「神は、万物を支え、また万物を力強く保ち給う」、万物に場所と時間を与えて「万物を力強く保ち給う」。「イザヤ五五・一〇以下」。「われわれは、ノアの物語と取り組んだ際」、「明らかにそこで（≪ご自身の中での≫）神ご自身にとって（≪われわれのための神としての≫）場所が存在するために、換言すれば永遠（≪神の時間≫）のために時間（≪人間の時間≫）が存在するために」、「神は被造物に対してそれの場所（≪場所と時間≫）を、……与え給うということを暗示した」。「この意味と根拠こそ」が、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性における「神の忍耐の不屈な、決定的な力……である」。「神の忍耐の実施」が、あの目的のないふさわしくない残酷な遊びと区別される理性（≪人間的な理性ではなく神的な理性≫）であり、同時にまた力である」。何故ならば、「神の言葉は、無益な仕方で人間に語られたのではないし、神のみ子は無益な仕方で人間となられたのではない」からである。なお、「……区別される理性（≪人間的な理性ではなく神的な理性≫）」は、次のような理性ではない――すなわち、無限と有限との統一としての「究極的同一性」における「神の理性」は、「人間の理性」が神を思惟する理性から、「神の理性」としての「人間の理性」が神を思惟する理性に転化され、それ故に「人間の理性の思惟」は、「神の理性の思惟」と等価性を持つことになるのであるが、それ故にまたこの事態は人間の神化・神の人間化、人間の側からする神と人間との無限の質的差異の揚棄を意味することになるのであるが、そのようなヘーゲル的な「人間の理性」のことではない（『ヘーゲル』）。すなわち、「……区別される理性」は、「人間の理性」のことではなく、あくまでも「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異（『ローマ書』）の下における「神の理性」のことである。「神の言葉は、（≪全き自由のご自身の中での≫）神ご自身の故に、そのようにして神の意志の中に含まれつつ、人間の故に（≪全き自由のわれわれのための神の存在としての神の愛の行為の出来事において≫）、まさにそのようにしてこそ意味深く、力を発揮する仕方で語られたのである」、「神の子は（≪ご自身の中での≫）神ご自身である（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として、自分を自分から区別した第二の存在の仕方である、まことの神にしてまことの人間である≫）が故に、……そのようにして再び神の意志の中に含まれつつ、人間の故に（≪われわれのための神として≫）、そのようにして再び意味深く力を発揮する仕方で人間となられたのである」。「このことが、（≪全き自由のご自身の中での≫）神の故に、そのようにしてまた人間の故に（≪全き自由のわれわれのための神の存在としての神の愛の行為の出来事において≫）起こったことによって、人間の現実存在はその罪深さにもかかわらず、その罪深さの中で、神ご自身を通して（≪神の側の真実としてある、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である主格的属格として理解された「イエス・キリストが信ずる信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」を通して≫）神の前に義とされたのである」、それ故に「人間に対してその現実存在を与え、その現実存在に対して場所と時間を与える神の忍耐は、基礎づけられ、力強いものとなったのである」。聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が子として自分を自分から区別した神の第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト、啓示・和解、語り手の言葉、起源的な第一の形態の「神の言葉は、神の口から出るが故に」、すなわち聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方、父、啓示者、言葉の語り手から出るが故に、神の側の真実として先行する「神の言葉はまたわれわれの悔い改めていない悔改めからも空しく戻ることがあり得ないが故に」、換言すればわれわれの「表向きだけの悔い改め」を徹頭徹尾見透かし・徹頭徹尾そのような悔改めに左右されることがないが故に（何故ならば、起源的な第一の形態の神の言葉自身、啓示自身が、啓示に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証の力を、神の言葉自身の出来事の自己運動を、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を与える力を、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の、すなわちキリスト教に固有な類・歴史性の関係と構造・秩序性を持っているからである、それ故にわれわれの神の言葉に対する奉仕は、あの「神への愛」と・「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」、純粋なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請、すなわち純粋なキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えにある）、「神は忍耐強くあり給う」。「それ故に、神は、われわれに対し場所と時間を与え給う」、「正確にとるならば、場所と時間を（≪われわれのための神として≫）そのみ言葉に対して、それ故に（≪ご自身の中での神としての≫）ご自分に対して与え給う」。「神が時間（≪「実在の時間」としての「啓示の時間」、「イエス・キリストの時間」≫）を持ち給う」、「そして、神が、われわれのために時間（≪「実在の時間」としての「啓示の時間」、「イエス・キリストの時間」≫）を持ち給うということ」が、「われわれに相対しての神の行為全体（≪全き自由の神の存在としての神の愛の行為の出来事としての、父――創造主・啓示者、子――和解主・啓示、聖霊――救済主・啓示されてあること、すなわち「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性≫）を忍耐の実施として特徴づけていることである」。このような訳で、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性において、「この忍耐の実施に、神の処罰と同様神のいたわりが、神が殺すことと同様神が（≪われわれのための神として≫）割って入られることが、神が打つことと同様神が癒されることが含まれている」のである。これらすべてのことは、「神の言葉の啓示の進行と奉仕の中で起こる」のである。「イスラエル」は、これらすべてのことを通して「神の言葉の中で教育される」。このことは、神が、「繰り返し、イスラエルのために時間を持ち給うということを意味している」。「イスラエルが、神の言葉を聞くための時間を持つということ」は、すなわちイスラエルが、「神の言葉の故に、神の言葉の力を通して生きるための時間を持つということ」は、「（それはただしるしとして、ただ暫時的に示されているだけであるが）まさに……イスラエルが、その教訓を受け取るところの悔改める態度と悔改めない態度の間の……躓きとなる交代の中で示される」。この場合、イスラエルが「その教訓を受け取るところの悔改めない態度」は、「われわれが、……決定的には」、「決して人間の優れた性質と関わるのではなく」、「聖にして義なる神の意志および本質と関わらなければならない」のであるから、われわれ「人間は、ただ神によって聖化され、義とされた者としてその教訓」に、それ故に「そのしるしを立てることにあずかることができるのであり」、「神の言葉なしにはそのしるし、悔改めと立ち帰りのしるしも立てることができず・立てないであろうということ」、「それであるから、それとしてそれ自身からしてはいかなる時間も持たず、神の忍耐の対象であることができず、神の忍耐の対象となることはないであろうということ」を想起させるのである。また、「イスラエルが、それらすべてにおいて神から時間を与えられ持つようになるということ」、「神の言葉を聞くべき時間」、すなわち「神の言葉の故に、神の言葉の力によって時間を与えられ持つようになるということ」は、「（それは再びただしるしとして、ただ暫時的にだけであるが）……神がイスラエルに対しその教訓を与えるところの、恵みと裁きの、いたわることと罰を下すことの、救い出すことと滅ぼすことの、同じように躓きとなる交代の中で示される」。この場合もまた、「見たところ決定的に、裁き、罰を下すこと、滅ぼすことの方が優位を占めているように見える事実」は、「このしるしの中で聞かれるべきものは神の言葉（それ故に神が人間のために時間を持ち給う神の言葉）であり、それであるからこの機会に、人間と語ろうとする神の意志の中に含まれて、……人間自身も、常に新しく時間を与えられて持つようになり、繰り返し与えられて持つようになることは、人間の目には常にただ奇跡として映じることができるだけであるということを指し示している」のである。このようにして、「まさにこの交代を通して特徴づけられ、曖昧さのないものとされた神の語りを通して、人間は、神からして時間を与えられ、それ故にまた時間を持っている」のである。このように、われわれ人間は、われわれ人間の側から・われわれ人間が為す「悔改めと立ち帰りの力によってではなく」、神の側の真実としての「神の忍耐の力によって生きるのである」。「この力を見、聞き、味わい、認識することは、（≪主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」、イエス・キリストが信ずる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである≫）イエス・キリストを信じることを意味している」のである、すなわち主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」、イエス・キリストが信ずる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものであるイエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し「固着」するということを意味しているのである。「人間に対して忍耐を及ぼし、それ故に人間に対して場所と時間を与えることが神にとって報いられることであった正しい悔改めの実にまで来」る可能性は、「イエス・キリストの中以外にはどこにも」ないのである、それ故にその「正しい悔改め」の結実は、「イエス・キリストの中以外にはどこにおいても起こったことはない」のである・「イエス・キリストの中以外にはどこにおいても起こ」らないのである、ちょうど先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神と人間との無限の質的差異の下で、それ故にあくまでも神の側の真実からする、神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、起源的な第一の形態の神の言葉、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって（≪信仰の認識としての≫）神認識（≪啓示認識・啓示信仰≫）に向かっての人間の用意が存在する」ように。何故ならば、イエス・キリストこそが、すなわち「ただ一人の、直接的な、まことの聞き手であり従順である方が、神の言葉（≪「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給う」≫）に対して、人間的な肉の中で為し給うた完全な服従の中で」、換言すれば「全く端的に、信じ給うた」という仕方で「神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けた」ところの「完全な服従の中で」、「正しい悔改め」を結実させたからである。この「イエス・キリストの故に、（ローマ三・二五以下で述べられているように）……『今までに犯された罪を、神は忍耐をもってみのがしておられ』、またすべてのそのほかの時間は、イエス・キリストの時間に相対しては過ぎ去った時間、古い世なのであるが、その過ぎ去った時代全体にわたる神の忍耐は、報いられるものであった」のである。それらの「時代の故に、またそこで起こった罪の故に、神は、イエス・キリストにあってその義を示された」、このことを「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性において、逆に言うこともできる――神は、「イエス・キリストにあっての神の義を示すために」、それらの「時代にあって忍耐を実行されたのであり」、それらの「時代にとって罪を見のがすことが、裁き、罰、滅び失せることは決してないわけではないが、それらすべての中で、それらすべてと共に」、「神の忍耐が、その被造物に相対しての神的な存在とゆるしを与えることが存在したのである」、と。したがって、「イエス・キリストを信じること」は、神の側の真実において＜媒介的＞に理解すべきなのであって、旧来訳聖書や新共同訳聖書等々のようにあるいは近代主義的プロテスタント主義的キリスト教的な信仰・神学・教会の宣教のように、すなわち総括的に言えば自然的な信仰・神学・教会の宣教のように、直に人間の側からする人間的契機の＜直接性＞において理解すべきではないのである（何故ならば、正直に誠実に告白すれば、われわれ人間は、教会論的なキリスト教的人間であれ、「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」からである、また日々瞬間瞬間神に敵対し神に服従しないわれわれ人間は、「肉であって、それゆえ神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力」を一切持ってはいないからでる――「イエス・キリストを信じること」は、「世界の救いを何かある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求め」ようとしないで、「私たちの主であり、救い主であるイエス・キリストを、いっさいのものにまさって恐れ、かつ、愛すること、神を、大きな問題においても、小さな問題においても、彼がかってあり、いまあり、やがてあり給う権威のままに肯定し、是認すること、私たちの個人的、社会的生活を敢えて律して、すべての善きものを神から、神からすべての善きものを期待」することである、キリストの「福音に、無償の恩寵によって、素直に止まる」ことである、「不毛な反抗や反論を避けて」、「西でも東でも等しく通用し、西でも東でもひとしく稀であり、人々に好まれぬ福音に、無償の恩寵によって、素直に止まる」ことである、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したところで純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求めつつ「かつて語った説教の一貫した繰り返しが、（ある状況下において、その状況に抗するそれとして）おのずから（≪社会的政治的な≫）実践に、決断に、行動になって行った」という信仰・神学・教会の宣教の在り方において実存することである。この時には、「人間の公私の生活においては、絶えず新たな支配が行われるような仕組みになっている」から、「国家は支配であり、文化は支配」であるから、それ故に先ず以て社会構成・支配構成・文明的文化的構成の過渡的課題と究極的課題を明確にしつつ（≪「問題を明確に提起しつつ」≫）、「どのような国家形態にも、どのような文化傾向にも、無条件に『然り』とは言わぬ」のである。したがって、そうでない時には、「西の獅子に全力をあげて抵抗」することはできないし、「東の獅子にも抵抗」することはできないのである、「また事実、抵抗しない」のである（下記の【注】を参照）。
【注】バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』において、「時間」概念について論じている。
先ず第一に、ハイデッガーとアウグスティヌスの時間概念に対して、次のように批判を加えている――ハイデッガーは、「時間から対象性をはぎとって、時間を人間の現実存在の存在形式として理解」した。すなわち、自分の意志とは全く無関係に不可避な歴史的現存性（被企投性・現前性・被制作性）に投げ出された個体的自己が、「自分の最も固有なぬきん出た存在可能性に向かおうとする『先行的な決意性』」（企投性）によって時間化する時、自分自身の時間、自分自身の現在・過去・未来を創造し持つことができる。すなわち、個体的自己が「自分自身を実現してゆく」現存性に意識的意志的自覚的に生きようとする時、時間を創造し持つことができる。自然時間でもなく、歴史的時間でもなく、内在的な個体的自己の現存性に固有な時間を創造し持つことができる。このことは、時間を、「被造物的――人間的現実存在の規定」、「被造物である人間存在の自己規定として理解している」こと、すなわち人間的な現実存在は時間性であること（時間化）、その時間性が存在を規定すること（存在了解）を意味する。アウグスティヌスは、『神の国』では神は「時間ノ創造者マタ決定者と呼んでいる」が、しかし『告白』では「過去、現在、未来は精神の中にあって、ほかのどこにあるのでもない」と述べている。バルトは、アウグスティヌスの後者の理解の仕方の中に、自然神学的な時間認識と時間概念を見たのである。
第二に、アウグスティヌスやハイデッガーにおいては、「自分で時間を創造する」ことによって「時間」を持つ。しかし、そのような彼らの時間概念における時間は、聖書においては「『失われた』時間」、「否定された時間」、「否定的判決の時間」、「われわれ人間の失われた非本来的な古い時間」であり、永遠的実在としての「神の時間」、「実在の時間」である「イエス・キリストにおける啓示の時間」、すなわちイエス・キリストの現臨の出来事、「われわれのための神の時間」、イエス・キリストの受難と死および復活（成就された時間）から「『攻撃』された時間」である。それに対して、「永遠的実在」として「神の時間」、「実在の時間」である「イエス・キリストにおける啓示の時間」、「時間の主の時間」は、「問題に満ちた非本来的な失われたわれわれの時間」（人間の個体史・自己史、人間の類の歴史・人類史）の中で、「実在の成就された時間」（「キリストの復活の四〇日」）である。ここに、「まことの現在」まことの「過去と未来が存在する」し、「神の言葉」がある。
第三に、アウグスティヌスやハイデッガーには、永遠的実在としての神の時間、イエス・キリストにおける啓示の時間、実在の時間についての認識が欠けている。「『神はご自身を啓示し給う』という命題」は、「『神はわれわれのための時間を持ち給う』という命題」と同じ意味である。このイエス・キリストにおける啓示の時間、われわれのための神の時間は、神の側の真実としてあるから、「啓示そのものによって教えられなければ」、すなわちあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）によって教えられなければ、その一部分でさえ認識することはできないのである。したがって、われわれは、イエス・キリストの死と復活の出来事を「神の啓示として理解」する時初めて、イエス・キリストの現臨の出来事、イエス・キリストにおける啓示の時間は、「われわれだけでわれわれの時間（≪人間の個体的自己としての時間、現存性、個体史・自己史、人間の類としての時間、歴史性、歴史・人類史≫）を持っていた時」に生起した「われわれのための神の時間」であることを認識し理解することができるのである。
第四に、イエス・キリストの現臨の出来事、イエス・キリストにおける啓示の時間、「われわれのための神の時間」は、イエス・キリストの受難と死および復活――「成就された時間（キリスト復活の四〇日）」であり、その「待望の旧約聖書的時間」、その「想起の新約聖書的時間」、その「出来事についての証しの時間」である。すなわち、その「成就の待望」と「成就の想起」を持った「成就された時間、啓示の時間」、「啓示についての旧約聖書的および新約聖書的証言の時間」は、「神ご自身の時間」、「実在の時間」である。「成就された時間」（キリストの復活の四〇日）の以前とは、先ず「出来事として起こっている特定の歴史の時間」、「旧約聖書の時間」、「啓示の待望についての証言の時間」のことである。また「想起の時間」は、新約聖書における啓示証言の時間、新約聖書の時間、使徒の時間であり、「既に出来事として起こった啓示から……由来していた歴史」のことであり、「成就された時間」（キリスト復活の四〇日）と切り離せない仕方で結びついている時間のことである。新約聖書における啓示証言の時間、新約聖書の時間、使徒の時間の後に続く時間は、「成就された時間」（キリスト復活の四〇日）に属した「新約聖書の信仰」におけ「想起の時間」、「聖霊降臨日のあとの時代」である。したがって、「キリストの死」とともに終わる「まことの過去」は、「成就された時間」（キリスト復活の四〇日）を待望する形においてあるのである。また、まことの「未来」は、キリストの復活（成就された時間）とともに初まり、ただキリストの復活を想起する形においてのみあるのである。さて、「旧約聖書的な待望の時間」と「新約聖書的な想起の時間」との間の「成就された時間」とは、「イエスがご自分〔の生きていること〕をお示しになった」復活の「あの四〇日（使徒行伝一・三）」のことである。「新約聖書の証人たち」は、この「キリスト復活の四〇日（成就された時間）」をおぼえる想起において、「キリストの死」と「キリストの生涯」を想起する時、「光を得」たのである。彼らは「甦えりの証人」である。そして彼らは、「既に来た方」、イエス・キリストは「またこれから来たり給う方」であることを語るのである、「復活したキリスト」の「再臨」について語るのである。「新約聖書の信仰」は、「想起の時間」である「聖霊降臨日のあとの時代」である。したがって、この「想起の時間」、聖霊降臨日以降の時間は、「成就された時間」（キリスト復活の四〇日）ではない。しかし、その「想起の時間」は、「甦えられた方」、復活のイエスをおぼえる「想起の時間」として、必然的に「甦えられた方を待ち望む待望の時間」、復活したキリストの再臨、終末、完成、救贖を待望する時間であり、そのようにしてそれは、「成就された時間」（キリスト復活の四〇日）に参与するのである。ここで、「すべての以前と以後においても」「同一の方であり給う」イエス・キリストにおいて、未来（復活したキリストの再臨、終末、完成、救贖）を考えること・待望することは過去（「成就された時間」、「キリスト復活の四〇日」）を考えること・想起することであり、過去（「成就された時間」、「キリスト復活の四〇日」）を考えること・想起することは未来（復活したキリストの再臨、終末、完成、救贖）を考えること・待望することであると同時に、「成就された時間」の前の「過去」を考えることでもあるのである。
第五に、「罪におちた人間によって惹き起こされて生じた」われわれが知り持っている時間、「罪にそまった時間」、「『失われた』時間」、「否定された時間」、「否定的判決の時間」、「われわれ人間の失われた非本来的な古い時間」、「われわれの時間」と「神によって造られた時間」とは同一ではなく、両者には無限の質的差異があるのであり、それ故に両者を同一視したり混淆したり混合したり共働・協働化したりすることは許されないのである、ちょうど総括的に言えば自然神学の段階において「神学と一般の学問との対話を目論見」、「終末論的」な『将来的なものの力』としての「御霊」の概念によって「終末論」と「歴史」とを結び付けようとし、「特殊と普遍」・「救済史と普遍史」とを交叉させようとし、ヘーゲルのように自由を原理とする西欧近代を頂点と見、神学的な三段階的進歩史観において救済史を構想したモルトマンのように混淆したり混合したり共働・協働化したりすることは許されないのである。すなわち、「神によって造られた時間」、永遠的実在としての「イエス・キリストにおける啓示の時間」、「実在の時間」は、＜常に＞、人間が人間的に所有する人間の時間、「われわれの時間」、個体史・自己史、歴史・人類史の＜彼岸・外＞にあるのである。言い換えれば、神の時間、イエス・キリストにおける啓示の時間、永遠の時間、人間の歴史の時間とは無限の質的差異を持った＜超＞歴史の時間は、＜常に＞、われわれ人間の時間、「われわれの時間」、人間の歴史の＜彼岸・外＞にあるところの完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和の時間である。それは、神の側の真実としてある、それ故に永遠的実在としてある、客観的現実性としてある救済史の時間である、全き自由の、父（創造主・啓示者）、子（和解主・啓示）、聖霊（救済主・啓示されてあること）なる神の存在としての神の愛の行為の出来事の時間である。
キリストにあっての神は、「神の忍耐」の在り方は、「被造物の存在、行為、運命の傍らに、無関心な態度で離れて立つということ……はあり得ない」。キリストにあっての神が、個体的自己としての全人間を、「多くの者を、彼ら自身の道を行かせ給うとすれば」、「彼らにその自由を与え、彼らに繰り返し時間（とその時間の中での食物）を与え、すべてのことの中で繰り返し彼らを待っておられるとすれば（≪彼らの正しい悔改めと神への立ち帰りを待っておられるとすれば≫）」、神は、「そのことを、……神がひとりの方、ご自身のひとり子の中で、既に彼ら被造物に追いつかれ、彼、ひとり子の中で神ご自身の道を、神の自由の中で、神の時間の中で、既に彼らと共に進み行かれ」、これからも「彼らと共に終わりまで進み行かれるということに基づいて為し給う」。キリストにあっての神は、そのことを、「神がご自身を彼らすべての者に対して与え給うたひとりの方の中で既に神のみ手の中にあるということに基づいて為し給う」。すなわち、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』によれば、次のような仕方で為し給う――イエス・キリストが、われわれ人間に対して、その人間性と共に神性を付与され装備された聖書および聖書を宣教における原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方において宣教を為す教会の宣教を通して「同時的となる時と所」、「『神われらと共に』が神ご自身によって（すなわち、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて）われわれに語られるところ」においては、換言すれば神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）の出来事が起こるところにおいては、「われわれは神の支配のもとに入る」ことを承認し確認する、それ故にわれわれは、われわれ人間の「世、歴史、社会を、その中でキリストが生まれ、死に、甦られたところの世、歴史、社会」として承認し確認する、それ故にわれわれは、「自然の光の中でではなく、恵みの光の中で、それ自身で閉じられ、かくまわれた世俗性は存在せず、ただ神の言葉、福音、神の要求、判定、祝福によって問いに付され、ただ暫時的にだけ、ただ限界の中でだけ、それ自身の法則性とそれ自身の神々に委ねられた世俗性があるだけである」ことを承認し確認する、それ故にわれわれは、自然的な信仰・神学・教会の宣教における福音が、「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞にすぎ」ない「神秘主義へと変わって行く」ことが見渡せることを承認し確認するのである、われわれ人間の、その類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡すことができるのである、それ故にわれわれは、「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受け取ることができる」ことを承認し確認するのである。キリストにあっての神は、前述したことを、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト、この「ひとりの方」が、個体的自己としての全人間、「彼らすべてのために立ち、彼らすべてのために既に悔改め」、「神が彼らすべてから期待される＜正しい悔改め＞を為されたということに基づいて為し給う」。キリストにあっての神は、「このひとりの方の故に」、個体的自己としての全人間、「多くの者に対して忍耐を示し給うたのである」。「このひとりの方の故に」、個体的自己としての全人間、「多くの者にとって、場所と時間が存在するのである」。したがって、「最終的にはまさに（≪われわれ人間の恣意的独善的な≫）正しくない悔改めでもって、場所と時間を持つことに値したとか、値するであろうとか、値することができるといった具合ではない」のである。したがってまた、「当然のことながら、……（≪われわれ人間がわれわれ人間の恣意的独善的な≫）悔い改めのない態度の中に居座るために、場所と時間が与えられているのではない」のである。このような訳で、「それは、彼らが、……彼らに対してあのひとりの方の正しい悔改めによって造り与えられた生を」、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて「自分のものとするための場所と時間を持つためである。換言すれば彼らの主・頭であるイエス・キリストの中で、「彼らの悔改めが正しいとされ、その方の中で彼らが神によって受け入れられた方を（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）信じるための場所と時間を持つためである」。イエス・キリスト――「このひとりの方の中で、神の熱心があのように強く燃え、その目標にまで来るので」、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言におけるそれ）を、われわれ教会の宣教における、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請――すなわちすべての人々がキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）を志向し目指すところで、「その方の中で一つに集められ」、「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指し、そのようにして「彼らの歩み」は、起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリストの「足跡に（≪聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯することを通して≫）続いて従うことであり」、「彼らの自由」は、全き自由のイエス・キリストの「自由を承認することであり」、「彼らの時間」は、イエス・キリストの「時間にあずかることであり」、「その上で彼ら」がイエス・キリストをのみ主・頭としてイエス・キリストと「同時的となるであろう（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた≫）信仰の道の上にある時に」、イエス・キリストの中で「既に目標にまで導かれ到達することができるのである」。バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、次のように述べている――聖書によれば、愛に基づく父と子の交わりである聖霊は、われわれ人間の「救済主」である。しかし、聖霊は、「救済主」であるだけでなく、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第三の存在の仕方において、「子とともに、子の霊として、また和解者」でもあり、また「父および子とともに創造主なる神」でもある。新約聖書の「イエスは主である」という「証言」は、単一性・神性・永遠性を本質とするイエス・キリストを、「事実の承認」として、「思惟の初め」として語っている。したがって、この「イエスは主である」、「子を通しての父を、父を通しての子」を信じるこの「信仰」、この神との出会いであるイエスとの出会い、すなわち神のその都度の恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づく「信仰の出来事」は、聖霊の注ぎによるのである。この信仰の出来事は、新約聖書において、「啓示の出来事の中での主観的側面」、「聖霊の注ぎ」による人間的主観に実現された神の恵みの出来事、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の主観的現実化のことである。このような訳で、われわれは、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて神の側の真実としてあるイエス・キリストにおける完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和を認識し信仰することができるのである。われわれが、救済を「信仰の中で持つ」ことは、「約束として持つ」ことである。「われわれはわれわれの未来の存在を信じる。われわれは死の谷のさ中にあって、永遠の生命を信じる」。「この未来性の中で、われわれは永遠の生命を持ち所有する」。この「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である。新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」、「満たされた人」は、「召されていること、和解されていること、 義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」の啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである。ここで、「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」（人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍）にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実として、それ故に客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。
この神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づく「信仰の道を進み行くこと……こそ、神の忍耐が、彼らに対して、為すべき余地を残し、また実際に贈り与えることである」。したがって、このような仕方でキリストにあっての「神が待ち給うことこそが、被造物に対しての決定的な行為であり、働きであるということを見てとるためには」、主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」――イエス・キリストが信じる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである「イエス・キリストを信じるよう多くの者が神の忍耐を通して召されている」ところの「信仰の対象」――すなわちまさに単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神」、まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストを考えさえすればよいのである」。