本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−２）−１（２９８−３１２頁）

引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）

「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」
「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１２９頁）

〔この定式の詳述〕
　この定式の詳述については、『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−１）−１で行っていますので、参照してください（２０１８年５月２１日論述分）。

註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。

「三十節　神的愛の完全性　三神の忍耐と知恵」（その５−２）−１
　「神の忍耐という概念」は、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」、「神の忍耐と知恵」という神の本質の区別を包括した単一性において（バルト自身の言葉で言えば、「神の本質の単一性と区別」において、あるいは「失われない差異性」を包括した「失われない単一性」において、）「それ自身能動的に、力強く、動的に理解されるべき＜神のあわれみ＞という概念の拡大、説明、強化である」、ちょうどイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された神は、「失われない差異性」の中で三つの存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動）において「三度別様」に父（創造主、啓示者、言葉の語り手、イエス・キリストの父）、子（和解主、啓示、語り手の言葉、起源的な第一の形態の神の言葉、父が子として自分を自分から区別した父の子）、聖霊（救済主、啓示されてあること、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」、換言すればキリスト教に固有な類・歴史性、その関係と構造・秩序性、愛に基づく父と子の交わりである聖霊）なる神であって、その存在は、「失われない単一性」を本質とする「一神」・「一人の同一の神」であるように、すなわち決して分離された「三神」・「三つの対象」・「三つの神的我」ではないように。すなわち、「神のあわれみという概念」が、神の「忍耐という概念によってなされる拡大、説明、強化」は、キリストにあっての神が、神とは全く異なる「被造物……実在の事柄」を、先ず以てその「被造物を実在として認め」、それ故にその「被造物の実在を取り除くのではなくて承認しつつ」、その「被造物のために弁護し、尽力するという仕方で」、「ご自分の事柄と為し給うということから成り立っている」、ちょうどイエスキリストの死と復活の出来事における十字架の死が、換言すれば主格的属格として理解されたギリシャ語原典の「イエス・キリストの信仰」、すなわちイエス・キリストが信ずる信仰による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものが、イエス・キリストにおけるわれわれ人間のために・われわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰・死を「唯一回なし遂げ給うた」「律法の成就」が、この「インマヌエルの出来事」が、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、キリストにあっての神は「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない罪によって暗くなり・破れた姿」の「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪・混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としているように。このように、キリストにあっての神は、「被造物自身に味方しつつ……ご自分に対して厳しい態度をとり給う」、「被造物自身のために……苦しみ給う」、「被造物自身のために……ご自分のみ子を犠牲とし給うた」。したがって、このような「被造物自身のためにということ」において、われわれのための神としての「神のあわれみ」は、「その対象を、突き倒し、圧倒し、除去するというような仕方で支配するのではないということを意味している」。したがってまた、キリストにあっての神は、「被造物を根絶し、無き者にしてしまうような仕方で、被造物の代わりに割って入り給うのではい」。「神が被造物の困窮を肺腑に徹する仕方で受け止め給うということ」は、「神の永遠の愛が場所と時間の中で存在している被造物と出会い給う出会い」は、「神が被造物のためにそのように割って入られるということ」は、「被造物の生を排除せず、むしろ自分自身の中に含み入れている……それであるから、神の和解を与える意志は、同時に神の創造者としての意志と行為の保持であるというように理解されなければならない」のである――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イ エス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等のギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」（『福音と律法』）。因みに、「創造された世界」における「神の愛」と「われわれの世界」における「イエス・キリストの事実の中における神の愛」との間には差異性がある。すなわち、後者の神の愛は、「まさしく神に対し罪を犯し、負い目を負うことになった人間の失われた世界に対する神の愛」である。すなわち、「和解ないし啓示」は、「創造の継続」や「創造の完成」ではないのであって、「和解ないし啓示」は、神の存在の仕方（性質、働き、業、行為）の差異性における第二の存在の仕方であるイエス・キリストの「新しい神の業」、「神的な愛の力」、「和解の力」なのである。このように、イエス・キリストは、和解主として、創造主のあとに続いて、神の第二の存在の仕方（性質、働き、業、行為）において「第二の神的行為を遂行」したのである。この神の存在の仕方における「失われない差異性」（区別）における「創造と和解のこの順序」に、「キリスト論的に、父と子の順序、父（≪啓示者、言葉の語り手≫）と言葉（≪啓示、語り手の言葉、起源的な第一の形態の神の言葉≫）の順序」が対応しており、「和解主としてのイエス・キリスト」は、創造主・父に先行することはできないのである。しかし、父と子のその存在は、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質としているから、その存在の仕方における従属的な関係は、「存在の本質」の差異性を意味しているのではなく、「存在の仕方」の差異性を意味しているだけなのである（「教会教義学　神の言葉�T／１・２」）。このような訳で、「われわれの神が造られたもの、そのものを神はまた保持し、遅かれ早かれ、恵みをもって管理しようと欲し給う」。神の側の真実として、神の本質の区別を包括した単一性におけるキリストにあっての神の「恵み」は、「自然に対する徹底的な裁きを意味する」、「自然の徹底的な変化と更新を意味している」。しかし、キリストにあっての神の「恵み」は、自己身体、性としての他者身体、天然自然、自然の一部である身体を持った個体的自己としての人間に生来的に備わっている人間の理性や意志、人間存在の三様式において「人間のつくる観念と現実の成果」としての、自然史の一部である人類史の自然史的過程とそれを出自とする観念諸形態としての非有機的身体（人間化された自然である人間的自然）、「自然の一大破滅、終焉を意味してはいないのである」。あくまでもこの限りにおいてであるが、総括的に言えば自然神学の段階に属するあるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に属するそれとして「しばしば危険な仕方で用いられることがあり、確かにもともと危険な意図を持っていた」「トマス・アクィナスの……恵ミハ自然ヲ廃止セズ（破壊セズ）、ムシロ（前提トシテオリ、マタ）完成スル」というその言葉は「正しいとされなければならない」。「神のあわれみはまさにそのような形でこそ、それが、その目標と終着にくるためには滅ぼし、殺さなければならない場合と比べて、もっと力強いのである」。「よく理解せよ。神のあわれみの対象として、それであるから神の義の下で、被造物が神と出会う出会い、すなわち神ご自身が割って入られること」によって、被造物が「十分、厳格にその成果を上げる」ことの中で、「生きることがゆるされる」のである、「滅び失せなければならないことなしに」、「場所と時間」を与えられているのである。このように、神と人間の間の「関係は、極めて明確な活動の関係である」。この関係の中で、「神の意志であることが、被造物の身に対して起こるところの＜神――被造物＞関係である」。「まさに……神が、その全き自由、力、活動の中で、神が造られたものを保持し給う（そこで被造物は（≪場所と時間を与えられ≫）生きることがゆるされる）そういう方として、被造物に対し働きかけ給うということが、被造物の身に神の意志（≪神の恵みの決断・態度≫）として起こる」ことが、「神の忍耐である」。
　この神の「忍耐も、力強い神存在であって、決して何らかの仕方で無力となった神存在ではないということ」は、「神の啓示についての聖書の証言に、この特別な観点の下で個々の点にわたって従ってゆく時、直ちに明らかになってこなければならない」。
　「われわれは、カインの物語ではじめることにする（創世四・一−一七）」。「エバは、『主によってひとりの人を得た』。最初の誕生、その偉大さの中で、しかしまた最初の人間の堕落によって脅かされた姿全体の中で、カインが生まれてくる」。この「最初の人間の堕落によって脅かされた姿全体」のことについて、「顕著なことであるが」、「カインの名」ではなく、「彼の弟の名アベルが語っているのである」。「カインもまた（≪弟アベルと同じように神の≫）恵みを尋ね求めた。しかし、……（≪カインは≫）後で激しく燃え出た嫉妬心がそのことを示しているように、神を自分のものとするために、神の恵みを求めたのである」。神をさえ「自分のもの」としたいというカインの（われわれ人間の）「嫉妬心」が、カインをして「神の恵みを求め」させたのである。したがって、カインは、「恵みを見出さない」のである、「彼の門口には、罪が待ち伏せており、そのようにして彼は、恵みを求めつつ、しかも自分から恵みを拒否するが故に、罪に対して治める主人」となり得ないのである。神の「恵みに対する憎悪」は、「弟に対する憎悪として、弟を殺害することの中で」、自分にある神に対する「嫉妬心」と「神を自分のものとするために」「自分から恵みを拒否する」「無責任さの中で」「明らかにされる」のである。「『知りません。わたしが弟の番人でしょうか』。しかし、彼が神の前に隠そうとすること……は神の前で隠れてはいないのである。『あなたは何をしたのです。あなたの弟の血の声が土の中からわたしに叫んでいます』。そのようにしてカインはのろわれて、この土地を離れるであろう。土地はもはや彼のために実を結ばないであろう。『あなたはのろわれて、地上の放浪者となるでしょう』。これが、被造物とその神との出会いである」。「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性における「神の神聖性と義は、この物語の中で力を奮う……」。しかしまた、「神の神聖性と義」は、「違った姿を持つ」。ただ「神の神聖性と義」の中でだけ、「カイン自身」が、「彼の上に下された判決に対して答えることができる絶望」は、「違った姿を持つ」。「この絶望の中で、カイン」は、「わたしの罪は重くて負いきれません」と「認識し告白する」。この時、カインは、「神の恵み」を、神の側の真実としてある「神の恵みとして願い求められることを欲している通りの仕方で」、「願い求めたのである」。何故ならば、「この物語についてのはっきりとした記述によれば、いずれにしてもカインは、そこで、主の恵みを見出したからである」。したがって、カインは、「『わたしを見つける人は誰でもわたしを殺すでしょう』」と「絶望の中で……そう考える」。「しかし、主は、彼に答え給う、『いや、そうではない。誰でもカインを殺す者は七倍の復讐を受けるでしょう。そして主は、カインを見つける者が、誰も彼を打ち殺すことがないように、彼に一つのしるしをつけられた。カインは、主の前を去って、エデンの東、ノドの地に住んだ。カインはその妻を知った。彼女は身ごもってエノクを産んだ』」。ここで、われわれは、「殺人者が、死をもって報いられるべきではないということの中に、その先端を持つこの物語の中で、神の＜忍耐＞について語られているということを見る」。人間的な被害者の側の感情の問題は残されたままの仕方でではあるが（何故ならば、神の側の真実として、その「殺人」に対する罰、「復讐」は、神が為し給うことであるから）、「殺人者カインは、生きることがゆるされたのである」。したがって、「それは、何もカインが自分からそれができたからではなく、神がそのように欲し給い、そのことを起こらせ給うたからである」、「カインが死に値しなかったからではなく、神がカインの当然値した死を欲し給わなかったからである」、「神の怒りと呪いはカインの身に突き当たり、カインはそれを身に受けて負わなければならない」から、「カインが神の怒りと呪いの下に立っていなかったからではな」く、神が、「カインも殺されてはならない」ことを、「欲し給い、そのことを起こらせ給うたからである」。このような訳で、「神がカインに刻印されたしるしは、疑いもなく、カインが恵みを軽蔑したことから生じた罪のしるしであり、殺人のしるしである」、換言すれば自分にある神に対する「嫉妬心」と「神を自分のものとするために」為すところの神の恵みに対する「嫌悪と憎悪」から生じた、神の恵みに対する「拒否」から生じた「罪のしるしであり、殺人のしるしである」。しかし、この同じ「しるし」は、神の本質の区別を包括した単一性における、「神から彼に与えられた保護のしるし」、「それによってヤハウェがご自身を、この殺人者の復讐者および救助者として宣言し給うところの、また（聖書の中でここで初めて出てくることであるが）自ら罪深い人間と言わば親交を結び給うところの、契約のしるしである」。このような仕方で、常に、「神は、聖にして義であり給う」、「神は、神の前で自分の生を台無しにしてしまった者」を、「そのみ言葉を与え、この人間の主としてのご自分の人格的存在のしるしを与えつつ」、「その者を引き続いて生かしめ給う」。このように、「神は、聖にして義であり給う」故に、「カインに逆らう者は、……聖にして義なる神ご自身に味方するのではなく、逆らうのであり、その者は、神の重い裁きを受けなければならない」のである。このようにして、神の本質の区別を包括した単一性における「神の忍耐の中で、全能な恵み深い、あわれみ深い、まさにそのようにして聖にして義なる神の存在が勝利を収めるのである」。われわれは、このバルトの聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯した思惟と語りに、バルト自身が、制度としての死刑に反対する根拠を見出していたということを知ることができる、バーゼル刑務所での説教奉仕をしていた根拠を知ることができる。
　因みに、われわれの人間に存在する「嫉妬」について、文芸批評家の吉本隆明が、太宰治の『走れメロス』について、道徳の教科書として採用されるような単なる友情物語ではなく、最後の方の三行（このように、単なる友情物語に終わらせないところに、太宰治のすごさがある。人間は、理性だけで、意志だけで、良心だけで、友情だけで生きているわけではない）――すなわち「少女」（われわれ人間）の「嫉妬」に注意を向けさせたように、人間論的な自然的人間であろうが、教会論的なキリスト教的人間であろうが、聖職者や牧師や医師や教師や大学教授や官僚・政治家や法律家や警察官や誰であろうが、われわれ人間には「嫉妬心」が強烈・強力に存在するのである。太宰は、『駆込み訴え』においても、このわれわれ人間にあるどうしようもなく払拭できずに存在する「嫉妬」・「ジェラシィ」（「悪徳」）について扱っており、太宰によれば、イスカリオテのユダのイエス・キリストに対する裏切りは、イエス・キリストに対するユダの「純粋な愛の貪欲」（「嫉妬」・「ジェラシィ」、「悪徳」）によるのである、すなわちまさにイエス・キリストを「自分のもの」としたいというユダの（われわれ人間の）「純粋な愛の貪欲」（「嫉妬」・「ジェラシィ」、「悪徳」）によるのである。また、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』における汽車の中で一緒になった「女の子とばかり談（はな）している」カムパネルラに対するジョバンニの嫉妬は、太宰の言葉で言えば、ジョバンニのカムパネルラを「自分のもの」としたいという「純粋な愛の貪欲」（「嫉妬」・「ジェラシィ」、「悪徳」）なのである。このように、自然史の一部である人類史の自然史的過程における経済社会構成が拡大・高度化し、科学・技術が進歩・発達し、その知識が発達・増大し、生活の利便性の向上し、人間の感覚部分が発達したとしても、このような人間の理性や意志では抑えきれない内在的な「純粋な愛の貪欲」（「嫉妬」・「ジェラシィ」、「悪徳」）等の部分が発達し最後的には払拭されるということはないのである。したがって、太宰の書いたイスカリオテのユダの裏切り行為は、外化されたユダの内在的なイエスを「自分のもの」としたいという「純粋な愛の貪欲」（「嫉妬」・「ジェラシィ」、「悪徳」）である。
　「われわれはこれと同じ事情をノアの物語、創世記六−九章の中に見出す」。この「物語」は、「人間と共にすべての生物」を「絶滅する神の裁きについて……語っている」。この「物語」は、「�Tペテロ三・二〇において、神の忍耐のしるしの下に置かれている時に、……正しく理解されている」と言うことができる、「また、それ自身の脈絡と起源的な意味」においても、「正しく理解されている」と言うことができる。「何故ならば、神が、人間を造ったのを悔いて、……人間と共にすべての生物を、地のおもてから拭い去ろうとされたということがこの物語の内容ではなく、むしろ神がその怒りのただ中にあって、ひとりの人間ノアを見出され、その裁きのただ中でひとりの人間ノアを救い出されるということ、ここでもまたノア自身が優れていたからではなく、彼が神の前に恵みを得た（創世六・七）が故に、ノアが『神の前に正しい人である』（七・一）と認められたが故に、認められたことによって、神がノアを救い出されるということがこの物語の内容であるからである」、ちょうど信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）が、先ず以てわれわれ人間の「理性や力によって」ではなく、先ず以て神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」、すなわち啓示（具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）と聖霊の注ぎによる信仰の出来事、聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいて与えられるように、またちょうど先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の＜神との人間の＞和解」であり、あくまでも神の側の真実からする永遠の神の人間との架橋であり、永遠の神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の�~の第二の存在の仕方、起源的な第一の形態の神の言葉、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって（≪正しい悔改めとキリストにあっての神への立ち帰りを伴った≫）神認識に向かっての人間の用意が存在する」ように。このような訳で、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性において「神が、その神聖性と義の故に、人類とすべての生物を滅ぼし尽くされることによって、同時にこの人類の引き続いての存続に対して、またすべてのそのほかの生物の後に続く世代に対して、配慮し給い」、それ故に「地上のすべての肉なるものが死に絶えた大いなる絶滅の後、救い出されたノアの供え物を受け入れ、ノアに向かって、『わたしはもはや二度と人の故に地をのろわない、……わたしは、このたびしたように、もう二度と、すべての生きものを滅ぼさない』（創世八・二一。なお九・一一を参照せよ）と約束されるということ」が、「この物語の内容である」。「神はもう二度と、すべての生きものを滅ぼし給わず、『地のある限り、種まきの時も、刈入れの時も、暑さも寒さも、夏冬も、昼も夜もやむことはないであろう』」。そしてここで、「『わたしと地との間の契約のしるし』（創世九・一二）として、雲の中ににじ」が、すなわち「創世記九・一六によれば、ただ単に人間が見ることがゆるされるだけでなく、この契約を思い起こすために、神ご自身が見ようとされるにじ」が、「置かれるのである」。「ここでもまた、カインの物語におけるのと同じように」、「人間の心に思いはかることが、幼い時から、いつも悪い事ばかりであるという事実にもかかわらず、まさにそのような事実と直面して」、「場所」と「時間」という「ある種の抽象の中でただ生きることだけがと人は言いたくなるくらいなのであるが」、「とにかく人間が生きることとその保持」が、「地上で人間に与えられた場所」が、「時間と季節の必要な交代の中で人間にゆるされた存在」が、「問題である」。「しかし、まさにこの抽象の中でこそ、この物語は、それだけ明瞭に」、神が、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性において「確かに罰し給い、殺し給う」のであるが、「罰し、殺しつつも、常にまた、場所（≪場所と時間≫）を与え給うということが、＜また＞神の行為と本質に含まれており、そのことがまたその神聖性と義を、神の神聖性と義としているところのことであるということを語っている」のである。ここでもまた、「確かに過ちによって台無しにされた」「被造物も問題であるが」、「本質的には、その被造物とまだ手を切ってしまわれず、その被造物と引き続いて共存し、……その被造物に対し働きかけることを欲し給う神」ご自身が、「そのようにして、その被造物に対して生命を与えることによって、その被造物との関係の中でこれから先も（≪ご自身の中での神として≫）自らあり、（≪われわれのための神として、すなわち父――創造主・啓示者、子――和解主・啓示、聖霊――救済主・啓示されてあることという全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在として≫）為そうと欲し給うことに対して自ら場所（≪場所と時間≫）を造り出し給う神ご自身が問題である」。キリストにあっての「神が、人間と結ばれた契約の歴史全体（≪神の側の真実としてある永遠的実在としての神の時間、イエス・キリストの時間、救済史全体は、「常に」、人間の時間、歴史、人類史全体の「外」・「彼岸」にある≫）」は、「この契約の中で起こること」は、「とりわけイエス・キリストの中でのすべてのこれらの契約のすべての約束の成就」は、また神の本質の区別を包括した単一性において「ノアの契約が結ばれ、守られたということ」、そのようにして「繰り返し忠実に守られるということによってもってかかっている……」のである。キリストにあっての「神の恵みとあわれみとは、（≪神の本質の区別を包括した単一性における≫）神の忍耐が存在するということ、罪深い被造物に対してこのように場所（≪場所と時間≫）を与えるということ、神が引き続いて（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」、すなわちキリスト教に固有な類・歴史性の関係と構造・秩序性、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」を通して≫）被造物と語り、被造物に対して働きかけるために、自ら場所（≪場所と時間≫）を造り出し給うということによってもってかかっている……」のである。キリストにあっての「神は、カインのしるしとノアのしるしをわれわれに与えようと欲し給うたのであるから」、キリストにあっての「神が忍耐強くあり給うということこそ、生ける神の全能の神存在であると言うべき」である。したがって、われわれは、その「神の全能なる神存在を、……あがめなければならないであろう」。
　さて、「ヨナ書」は、「忍耐のない神は、事実、小さな、人間的な、弱い、最後的には偽りの神であろうということ」、「まさに忍耐強い神こそが、偉大な、神的な、強い、まことの神であるということ」を、「明瞭に示している」。「最初の部分（一−二章）では、預言者として派遣されることに対するヨナ自身の不服従、この不服従に対する処罰」、「二・三以下で、讃美の歌の中でヨナ自身によって懇願され、既に前もって讃美されているように」、「彼が恵みと奇跡によって魚の腹から救出されることが述べられている」。それに対して、「三−四章では見たところ預言者の服従が記されている」。「しかし、それから、あの理解を絶した仕方で神の忍耐の対象であった……人間」ヨナが、「その神の忍耐のあまりにも悪い解釈者として……姿を現し」、「神がニネベの人々の悔改めを考慮されて、その町を破壊することを思いとどまれた事実と直面しての預言者の姿が出てくる」。すなわち、「神に向かって語られた人間」ヨナの苦情、「わたしはあなたが恵み深い神、あわれみあり、怒ることおそく、いつくしみ豊かで、災いをおもいかえされることを、知っていました」という苦情を神に向かって語る預言者ヨナの姿が出てくる。この預言者ヨナ、「まさに死から救出された者は、全く生きることが厭になって、切羽詰まった調子で、（まさに二章では懇願し、讃美も歌った彼が）今や忍耐を失って、実に神の忍耐のなさを自分の身に呼び下しつつ」、「それで主よ、どうぞ今わたしの命を取って下さい。わたしにとっては、生きるよりも死ぬ方がましだからです」、と「祈ってもよいと考えるのである」。それで、ヨナは、「四・五以下で、しかつめらしい道化芝居の形で、全体をもう一度繰り返すのである」。すなわち、ヨナは、「今や町の成り行きを見極めようとして町の東の方に座し、……神の怒りが下されるのを待つ間必要な日陰を彼に与えてくれるとうごま」を「非常に喜ぶのである」、「愛した」のである。「しかし、神は、小さな裁きとして一匹の虫を送り給う。その虫はとうごまをかんだので、それは枯れ、ヨナは願っていなかった太陽の熱を身に感じて弱りはて、二度目に死を、それであるから忍耐のない神を、願うようになる」。ここで、「とうごまの故に」、「わたしは怒りのあまり狂い死にそうです」という「そのような嘆きの中で自らを正しいと考える忍耐のない預言者」の姿と「忍耐強い神」の姿とが現れ出てくる。われわれは、その「忍耐強い神」の「最後の言葉として、「わたしは一二万あまりの、左右をわきまえない人々と、あまたの家畜とのいるこの大きな町ニネベを、惜しまないでいられようか」という「問いを聞くのである」。われわれは、この「物語を通して、明らかに神が誰であり、何であり給うか、誰でなく、何であり給うかについて教えられるのである」。何故ならば、われわれは、「忍耐強い神」の行為ではなくて、「忍耐のない神の行為を願うヨナの忍耐のない願いが何らかの仕方で聞き届けられたことについて」、「何も聞かないからである」。ここで、われわれは、「ヨナ自身、あの一二万の左右をわきまえない人々およびあの町に住むすべてのほかの人々と共に、またそこにいるあまたの家畜と共に滅ぼされずに」、「彼があの者たちもろとも自分に対しても拒否した生命を保つことができたように見える」。このような訳で、「忍耐強い神」の「忍耐の言葉こそ」が、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性において「ニネベにとって、また……幸いなことに彼自身にとっても、この書物の中で読まれなければならない最後の言葉である」。「この書物は、まさにこのような仕方でこそ、この町および預言者に対して下される刑罰の裁きのどんな記述よりももっと力強く、神の全能の、聖なる、義しい神存在を宣べ伝えて」いると言うことができる。
　しかし、「神は、（≪あの神の本質の区別を包括した単一性において、≫）忍耐を行使することによって、その支配権を手放し給わない」のである。したがって、「神が罪深い人間に対して場所（≪場所と時間≫）を与え給うとすれば、そのことは、ニネベの人々のところで既に起こった悔改めと立ち帰りを念頭に置いて起こる」のである、神に対する「正しい悔改め」と主なる神に「立ち帰り」ことを念頭に置いて起こるのである。「この前提の下で」、「エゼキエル一八・二一以下が理解されなければならない」――「……主なる神は言われる。わたしは悪人の死を好むであろうか。むしろ彼がそのおこないを離れて（≪総括的に言えば、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の要求もという無神性・不信仰・真実の罪を、「神の恩寵への嫌悪と回避」を悔改めて主なる神に立ち帰り≫）生きることを好んでいるではないか」。「あるいは神の忍耐の行使は、人間の将来の悔改めと立ち帰りを目標にし意図しつつ起こる」のである。このことについては、パウロが、「ローマ二・四で、心を頑なにしたユダヤ人に向かって、あなたは神の慈愛と忍耐と寛容との富を軽んじるのかと問うている時語っているように見える」――「それとも、神の慈愛（≪新共同訳では「神の憐み」≫）があなたを悔改めに導くことを知らないのか」、先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の＜神との人間の＞和解」であり、あくまでも神の側の真実からする永遠の神の人間との架橋であり、永遠の神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の�~の第二の存在の仕方、起源的な第一の形態の神の言葉、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識に向かっての人間の用意が存在する」ということを知らないのか、換言すれば啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられるイエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し「固着」するという「正しい悔改め」と主なる神に「立ち帰ること」を伴った信仰の認識としての神認識、すなわち啓示認識・啓示信仰、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性を知らないのか。このことについては、「ローマ九・二二以下でも語られている」、また「�Uペテロ三・九でも語られている」――「ある人々がおそいと思っているように、主は約束の実行をおそくしておられるのではない。ただ、ひとりも滅びることなく、すべての者が悔改めに至ることを望み、あなたがたに対してながく忍耐しておられるのである」。「この意味で、パウロは、�Tテモテ一・一六で、……後に神のあわれみによって信仰の模範とされた自身のことを、イエス・キリストの忍耐の対象として言い表した」。「このしるしの中に」、「士師記二・一一−二二」の「記述が立っている」――「その記述によれば……イスラエルの堕落の後、神の怒りとイスラエルがその敵の手に引き渡されることが続き、そのような不幸の後、イスラエルがその神に新しく呼び求めることが続き、この呼び求めることに神の新しい助けと救助の行為が、この助けと救助の行為の後、……また繰り返し新しい堕落、新しい怒りと新しく敵の手に引き渡されることが続いたのである」。「このところで、……人が、……しばしば、（≪「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性における神のあわれみとしての被造物に場所と時間を与え保持されるところの≫）神の忍耐についての……だらしのない、ふさわしくない考え方を持つ……問題が現れてくる」。すなわち、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性において「人間をいたわり、それであるから人間に時間と生命をゆるすことが神にとって報いられることであった」という「本当の人間的な悔改め」に対する認識と自覚を持たないところの「神の忍耐についての……だらしのない、ふさわしくない考え方を持つ……問題が現れてくる」。現実の事実として、「大洪水の後、人類は以前より少しでもよくなったであろうか」、「彼らの悔改めの行為は、すべて、あの士師の時代におけるイスラエルの人々の助けを求める叫びにあまりにもよく似ているのではないであろうか」、「イザヤ六五・一以下で書かれていることに対してまことの例外があるであろうか」――「わたしはわたしを求めなかった者に問われることを喜び、わたしを尋ねなかった者に見いだされることを喜んだ。わたしはわが名を呼ばなかった国民に言った、『わたしはここにいる、わたしはここにいる』と。よからぬ道に歩み、自分の思いに従うそむける民に、わたしはひねもす手を伸べて招いた。この民はまのあたり常にわたしを怒らせ、園の中で犠牲をささげ、かわらの上で香をたき、墓場にすわり、ひそかな所にやどり、豚の肉を食らい、憎むべき物の、あつものをその器に盛って、言う、『あなたはそこに立って、わたしに近づいてはならない。わたしはあなたと区別されたものだから』と。これらはわが鼻の煙、ひねもす燃える火である。見よ、この事はわが前にしるされた、『わたしは黙っていないで報いを返す。そうだ、わたしはかれらのふところに、彼らの不義と、彼らの先祖たちの不義とを共に報い返す。彼らが山の上で香をたき、丘の上でわたしをそしったゆえ、わたしは彼らのさきのわざを量って、そのふところに返す』と主は言われる」。このように、「どこで、またいつ、既に起こった悔改めも、期待された悔改めも、思い違いとして示されなかったためしがあるであろうか」。バルト自身は、キリスト教界における自らの戦前戦後の体験の思想化を介して、次のように述べている――「六〇〇万人のユダヤ人が殺され……ありとあらゆる恐怖と困窮が人間を襲い、しかもすべてはちょうど風が……花の上を吹くように来て、また去って行った。……草や花はしばらく身を曲げる。しかし風が静まれば、また身を起こす。……ある近代劇（≪何度も書いているところの近代主義的プロテスタント主義的キリスト教的な神学者、牧師、著述家たちが、総括的に言えば自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指す神学者、牧師、著述家たちが≫）が『私たちはまた逃げおおせた』という言葉でこれを言い直しているように」（『バルト神学入門』）、また第二次世界大戦後において「私は教会のなかに、破滅に急ぎつつあった一九三三年当時と同じ構造、党派、支配的傾向を見出した」・「公然たる信条主義や教権主義、およびいろいろ賑やかな姿で現われている典礼主義への興味によってよびおこされた関心」を見出した・「私は、前よりももっと明瞭に人間――キリスト者もまた、そしてキリスト者こそ！―がもともと頑なであり、容易に悔改め（≪あの「正しい悔改め」と主なる神に「立ち帰る」こと≫）に導かれえないということを認識したのである」（『バルト自伝』）。わが日本のわが日本基督教団ではどうであったであろうか・どうであろうか？――私たちは、その典型例を、イエス・キリストにのみ信頼し固執し固着しなかったことを悔改め主なる神に立ち帰ることを告白し表明するのではなく、「まさに（≪戦争の元凶である≫）国（≪民族国家≫）を愛する故にこそ、キリスト者の良心的判断によって、祖国（≪民族国家≫）の歩みに対し正しい判断をなすべきでありました」と告白したところの１９６７年に発表された「第２次世界大戦下における日本基督教団の戦争責任についての告白」と、現存する世界が経済の世界性と民族国家（戦争の元凶）の一国性を単位として動いているということを認識し自覚しないで、それ故にそのことを念頭に置かずに、それ故にまた「平和を求める」（換言すれば戦争を廃絶する）ために民族国家を如何にして始末するか・如何にしたら始末できるのかという構想も持たずに、それ故にまた「戦争責任の告白」から今までの間、信仰・神学・教会の宣教における思想の問題において何の深化も豊富化も為されないままに２０１５年に発表された「戦後７０年にあたって平和を求める祈り」に見出すことができる（このことについては、「キリスト教界時評」の「新年を迎えて考えたこと――教条主義化した１９６７年「日本基督教団戦争責任の告白」＜再考＞について」という詳述した私のホームページの記事を参照してください）。すなわち、総括的に言えば、それら「戦争責任の告白」や「平和を求める祈り」は、共に、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に属するものなのである、また国家の言語である法的政策的な言語と関わる人間学的領域におけるその水準も、結局は現存する民族国家・政治的近代国家にすべて包摂されてしまう水準のものなのである、換言すればそれらは表向き反体制的な言語を駆使しているのであるが、それらはその原理およびその認識方法と概念構成において、自らが批判する対象である体制を包括し止揚して超え出ることはでき得ない水準のものなのである、ちょうど同じ体制の枠組みの下で上からの構造改革に対して下からの構造改革を為そうとする構造改革主義者たちと同じように。何故ならば、それは、次のような理由によるのである――先ず以てイエス・キリストをのみ主・頭とするイエス・キリストの教会として、イエス・キリストをのみ主・頭として思惟し語り行動しなかったことに対する正しい悔改めと主なる神への立ち帰りが告白され表明されないままに、「まさに（≪戦争の元凶である≫）国（≪民族国家≫）を愛する故にこそ、キリスト者の良心的判断によって、祖国（≪民族国家≫）の歩みに対し正しい判断をなすべきでありました」と、平和のために（すなわち戦争を廃絶すために）戦争の元凶である民族国家を如何にして始末するか・如何にしたら始末できるのかという構想を持たずに思慮なき矛盾に満ちた告白をしているからである。さらに、教会のあるいは教団の指導層（特に、知に属する牧師や神学者や著述家）が、聖書的啓示証言を通してそれぞれ自らの戦争体験を自省することによって、自らの敗北の在り方を、表明すべきであったにもかかわらず、誰も、わたしの知る限り表明を為していないからである。因みに、キリスト教界の彼らとは違って、知に属する人間学的領域の詩人・文芸批評家・思想家の吉本隆明は、自らの戦争体験を真剣に誠実に自省することによって（思想化することによって）、「国家の政策を、知識人が（≪法的制度的政策的言語を介して≫）あらゆるこじつけを駆使して合理化し、それを（≪被支配としての大多数の≫）大衆が、知的に模倣し、行動では国家以上に国家を推進」し、支配（民族国家、政治的国家）に直通し、支配の暴政や暴挙を天然自然の災害と同じように受け入れ、自分たちを戦争へと駆り立て家族や親族や友人を死に追いやって行く大衆の存在様式を把握できなかった点に置いたのである。また、世界をトータルに把握できる「世界認識の方法」を持っていなかった点に置いたのである。また、現在被支配としての大多数の大衆が情報科学や情報技術の高度化による高度情報社会下で知的大衆へと変容したとは言え、すべての知（知に関わる人々、知識人）は、「支配の制度」がある限り、すべての知（知に関わる人々、知識人）の自立の根拠である思想にとっての普遍的な価値基準であるところの、社会構成・支配構成・文明的文化的構成の時代水準と共に変容する生まれ育てられ成長し働き婚姻し子を産み育て老いて死んでいくという社会的存在の自然基底としての大衆原像（それ故に知識人も、現在的な知的大衆も、この時代と共に変容する大衆原像としての生活者大衆を出自とするのであるが、時代によって変容する大衆像、その大衆的課題）に置くことが必要であったにもかかわらず、被支配としての大多数の大衆（庶民）が出征時に町内会の見送りを受けて「＜家＞からでてゆくとき、元気で御奉公してまいります」と挨拶する「紋切型」の重たさの意味を把握できる知と非知とを架橋する往還思想の構成を為さなかった点に置いたのである。吉本とは違った言い方であるが、イエス・キリストにのみ、それ故に聖書的啓示証言におけるそれにのみ信頼し固執し連帯した＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階へと移行した牧師であり神学者であり信仰・神学・教会の宣教における思想家であるバルト自身は、次のように述べている――「私が神学者として、そしてまた政治家（≪人間存在の三様式において不可避的に政治に関わる者≫）としても、語るべき最後の言葉は、＜恩寵＞といった概念ではなく、一つの名前、イエス・キリストなのです。この方こそ恩寵であり、この方こそ、この世と教会とそしてまた神学との彼岸にある、究極のものなのです……。私が私の長い生涯において努力してきたことは、いよいよ力をこめて、この名を強調し、そして、＜そこにこそ！＞と語ることでした。この名前以外のいかなる名前にも、救いはありません。そこにこそ、恩寵があります。そこには仕事と闘いへと向かうはげましがあり、共同体と仲間の人たちとの交わりへと向かうはげましがあります。そこには、弱く愚かであった私がその生涯において試みたすべてのことがあります」（『バルトの生涯』）、「教会の存在と現状が、……（≪キリストの≫）福音から考え・行動し・処理されているということを語っていないならば、教会の説教も福音宣教も虚しいものとなるであろう。教会みずからが、……その行為と態度によって、自己の内なる（≪人間存在の三様式において不可避的に関わらざるを得ない≫）政治をこの使信に合わせてゆくこと（≪自己の内なる政治の過渡的課題と、その無化という究極的課題≫）を全然考えないとしたならば、どうして世は、王とその御国の使信を信ずるであろうか」（『キリスト者共同体と市民共同体』）、「キリスト者は、（≪人間存在の三様式において不可避的に関わらざるを得ない≫）政治生活において神の正義が人間によって誤認され・蹂躙される場合にも、神の正義は、……天地の一切の力が与えられているイエスの苦しみのゆえに、優越しているということを確信している。悪しき矮小なピラトが、結局は無駄骨折をするというように、配慮がなされているのである。その場合、キリスト者が、どうして、ピラト（≪一切の国家――民族国家、政治的国家≫）のともがらと成ることができようか」（『教義学要綱』）。このような訳で、日本基督教団の１９６７年に発表された戦争責任の告白と２０１５年に発表された「平和を求める祈り」は、ただ単に表向きは戦争責任を告白し平和を求める祈りであるが、その内容と実践は、実質的に吉本のような正しい戦責についての告白とそれを念頭に置いた平和（戦争の廃絶）への希求のベクトルとは全く逆向きになっていると言うことができるのである。すなわち、それは、最後的には、空論に終わる以外にはない水準のものなのである。
　さて、キリストにあっての神は、逆に、「その怒りを『悔い』られるばかりでなく」、「その好意と善意をも『悔い』給う……のではないであろうか」。何故ならば、「いかに多くの死が、事実すべてのことにかかわらず、イスラエルの身に起こる」からである、「新約聖書によれば、全人類の、……全世界の、一大破滅が、……最後的な大破滅が、『天地が滅びること』（マタイ二四・三五）が明らかになってくるように見える」からである。そして、それらのことはまた、「イザヤ五四・八」――「『……あふれる憤りをもって、しばしばわが顔を隠したけれども、とこしえのいつくしみをもって、あなたをあわれむ』とあなたをあがなわれる主は言われる」や、「詩篇三〇・五」――「その怒りはただつかのまで、その恵みはいのちの限り長いからである。夜はよもすがら泣き悲しんでも、朝と共に喜びが来る」とは「逆」になっているように「見える」からである。「人は、まさに（≪「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性における≫）神の忍耐についての聖書的な証言を固くとって離さないでいる時こそ」、「全くの真剣さをもって」、「一体、神は、忍耐強くあり給うことができるのか、……本当に忍耐強くあり給うのであろうか」という「問いの各々に対して」、「人が、直ちに聖書から答えを聞こうとしないならば」、換言すれば「聖書的な答えから立てないならば」、人は、「この問いに対して否定的に答える以外にほとんど道はない」のである、「人間的な悔改めおよび立ち帰りとして表向き神の忍耐の意味および目標でなければならないことを念頭に置いて」、神の忍耐を、「決して永遠的な」それとしてではなく、それ故に「神の暫時的な、……見かけだけの態度として」「理解」する以外に道はないのである。この時、神の忍耐は、ご自身の中での「神の本質的な、内的な存在と本質ではなく」、われわれのための「神の外ニ向カッテノ働キ」として理解されなければならなくなり、そしてそのためにはご自身の中での神として「内ニ向カッテ」の「神の本質的な姿の中では、結局、神の短気さが対応しなければならず、それであるからまた結局（≪われわれのための神としての≫）外ニ向カッテノ働キも神の怒りを含んだ罰と絶滅する行為が対応しなければならず」、「正しい者と正しくない者が、神を敬う者と神を敬わない者が、悔改める者と悔改めない者が、（≪信と不信が、キリスト者と非キリスト者が、≫）（≪神に側の真実において架橋されて≫）等しく存在し続けることができない怒リノ日が対応しなければならない」ことになってしまう。この時においても、「なお神は愛として理解されるべきであるとするならば、その時には」、「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性を後景へと退けてしまうことになるから、神の愛は、ただ「徹底的に短気な、その対象を焼き尽くす愛として理解されなければならない」ことになる。しかし、「それと共に、神の本来的な本質の啓示が、聖書によれば、（≪「神の恵みと神聖性」、「神のあわれみと義」という神の本質の区別を包括した単一性における、神の忍耐と短気さ、柔和さと苛酷さにおいて、そして人間の悔改めと新しい堕落の中で≫）繰り返し引き延ばされるということは何と顕著なことであろう」。したがって、あの純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」は、キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法（神の命令・要求・要請）、すなわち「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、（≪起源的な第一の形態のイエス・キリストにのみ、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言のそれにのみ信頼し固執し連帯すべき第三の形態に属する全く人間的な≫）教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」、すなわち純粋なキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えにあるのである。教会論的なキリスト教的人間であれ、「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」のであるから、また神に敵対し神に服従しないわれわれ人間は、「肉であって、それゆえ神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力」を一切持っていないのであるから、また神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてのみ信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は与えられるのであるから、われわれは、「心を頑固にし福音を認めない人間」や「異教徒」に対して、「恵みから語り、恵みについて語るという以外のこと」を為すことはできないのであり、われわれがそうした人々に呼びかけることができるのは、「私がその人をその中に置くことによってではなく」、あくまでも単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方（性質、働き、業と行為――神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉）、まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストがすでにその人をその中（≪神の側の真実としてある、客観的現実性としてある、「永遠的実在」としてある、完了・成就された個体的自己として全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和の中≫）に置いてい給うことによって」であり、それ故にわれわれは、「キリストにあるものとしての人間のために、努力し得るにすぎない」のである（『証人としてのキリスト者』）。ここにおいては、自然的な信仰・神学・教会の宣教におけるような、神だけなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという神との共働・協働・混合・混淆を志向し目指すことはあり得ないであろう。ここにおいては、ただ、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（イエス・キリスト、具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とした、イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し固着して為す奉仕だけがあるだろう。