『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 三神の忍耐と知恵」（その５－１）
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 三神の忍耐と知恵」（その５－１）（２８９－２９８頁）
引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）
「六章 神の現実 三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」
「六章 神の現実 三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１２９頁）
〔この定式の詳述〕
この定式の詳述については、『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」（その２－１）－１で行っていますので、参照してください（２０１８年５月２１日論述分）。
註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学 神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。
「三十節 神的愛の完全性 三神の忍耐と知恵」（その５－１）
終末論的限界の下で、われわれは、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯して、神の本質の区別を包括した単一性における、全き自由の神の愛の完全性として理解された「神の忍耐と知恵」について「引き続いて考察すべく前進」していかなければならない。言い換えれば、神の本質の区別を包括した単一性における、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における起源的な第一の存在の仕方である父（創造主、啓示者）、父が子として自分を自分から「区別」した（「切り離し」た、「分離」したということでは決してない）第二の存在の仕方である子（和解主、啓示）、「父ト子ヨリ出ズル御霊」、「父なる神と子なる神の愛の霊」に基づく完全な共存的な関係・交わり（それ故にこの交わりの中で、「父は子の父」、「言葉の語り手」、啓示者であり、「子は父の子」、「語り手の言葉」、啓示）としての第三の存在の仕方である聖霊（救済主、啓示されてあること、それ故に「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性は、聖霊自身の業であり啓示の主観的可能性である、それ故に信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰には、神のその都度の自由な恵みの決断による起源的な第一の形態の神の言葉・啓示、と、聖霊の注ぎによる信仰の出来事・聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事を必要とするのである）なる神の愛の行為の出来事について、「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「三位相互内在性」における「自由の中で愛する者としての神ご自身」について、「引き続いて考察すべく前進」していかなければならない。バルトが、「それぞれ独立した姿と相互の関連性を持った二つの表現」によって「神の愛の完全性」を「理解しようとする」と言う時には、また「その単純さは同時に満ち溢れそのものであり、その満ち溢れは同時に単純さそのものであるところの神の本質」と言う時には、神の本質の区別を包括した単一性、神の本質の区別と単一性、その総体性ということを言っているのである。ここで注意すべきことは、バルトの「独立」、「満ち溢れ」、「区別」、「差異」という概念は、決して「切り離し」、「分離」、分離した姿、分離した「満ち溢れ」ということを意味していないということである。したがって、バルトは、今回の「神の忍耐と知恵」についての考察においても、次のように言うのである――われわれは、「聖書の啓示を通して指し示された線上」で、神の本質の区別を包括した単一性において「神は恵み深く、聖くあり給うということ（≪「神の恵みと神聖性」≫）を……最初に語った。それから、神はあわれみ深く、義しいということ（≪「神のあわれみと義」≫）を語った」、この時、「第三の命題」、すなわち「神は忍耐強く、知恵に富み給う」ということ（≪「神の忍耐と知恵」≫）が「後に続かなければならない」、と。したがってまた、バルトは、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」におけるように、恣意的独善的嗜好的にある一面（部分）を抽象し固定した、すなわちある一面（ある部分）を拡大鏡にかけて全体化した「いかなる命題をも最後的な言葉、主要命題、あるいは原理たらしめ」ることなく、「一つの命題から他の命題へと前進してゆくということ」によって、換言すればあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて絶えず繰り返し信仰の認識としての「神認識」（啓示認識・啓示信仰）を「成長」（豊富化・深化）させられていくことによって、「神ご自身の豊かさを……賛美しなければならない」、と言うのである。したがってまた、われわれは、「この第三の命題のところで暫時的に立ちとどまる時」、「この命題をもってしても決して最後のことを語ったのではないことをよく知っているのであり」、「ただ……まさに神と直面してこそ、神の無限性に等しいことを為そうと欲することができない（≪神とは全く異なる≫）人間的な道の上にいること」を認識し自覚しているのである。「既に、はっきりと言葉に出して述べられているいくつかの聖書の言明を念頭に置いて、……われわれが神の恵みとあわれみについて語った後、今やまた神の本質の特別な完全性としての神の忍耐の完全性に注意を向けるべき必然性が成り立っている」。「出エジプト三四・六、ヨエル二・一三、ヨナ四・二、ネヘミヤ九・一七、詩篇八六・一五、一〇三・八、一四五・八」においては、「さまざまな順序で、しかし明らかに定式的な言い方となったある必然性をもって」、「三つのもの、ヤハウェの恵み、あわれみ、忍耐（あるいは寛大さ）が、通常は主の『大いなるまこと』という概念によって総括的に補充されながら、イスラエルの中で啓示され、イスラエルに対して働きかけ給う神の本質の特徴と呼ばれているのである」。
さて、われわれは、第三の命題の「神の忍耐のしるしということで、特に何を見て取り学ばなければならないかを問うとする」時、「まず原則的に……この第三の命題においても（≪全き自由の神の愛の行為の出来事としてのイエス・キリストにおける啓示とは独立した≫）愛の一般的な概念からしての演繹が問題ではあり得ないということを明らかに」しなければならない。何故ならば、「われわれは、既に、一般的な意味での愛」は、「必ずしも恵みという性格を持たなければならないことはなく」、また「必ずしもあわれみという性格を持たなければならないことないということをみた」からである。「われわれは今、こう続けて言わなければならない」――「一般的な意味での愛は、また必ずしも忍耐という性格を持たなければならないことはない、と」。一般的な意味での「愛」は、自己愛の外化として、「最高に忠実なもの、最高に深く、火のように激しく、同時に最高に忍耐のないものであることができる」、「自分の対象を直ちに持とうと欲することができる、あるいは質的に量的にあるきまった仕方で持とうと欲することができる」、「自分の対象を食い尽くすことができる」、それ故に「もしも愛がそのことができない時、復讐として滅ぼし尽くそうと欲することができる」。自然の一部である個体的自己としての人間の類の時間累積、自然史の一部である人類史の自然史的過程である経済社会構成の拡大・高度化、科学や技術の進歩・発達、その知識の増大・高度化、生活の利便性の向上は、愛憎の悲劇や惨劇を生み落とす人間にある情念の世界を発達させることはできなかった、人間にある喜怒哀楽の感情を発達させることはできなかった、それは、最初には身体的な肺病の病を生み落とし、現在は正常と異常との境界を行き来する精神の病を生み落とした。また、「一般的な意味での恵みも……あわれみも、終始（≪自分が望んではいない何らかの外在的な内在的な障壁に遭遇する時、必ずや≫）忍耐のない仕方で振舞うことが……事実できるのである」そういう振る舞いを事実するのである。したがって、われわれが、「もしも……愛、恵み、あわれみは、必然的にまた……忍耐強いということを認識し語ろうと思うならば」、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」（それに類する教会の宣教）におけるような「何かある一つの想像上の神の愛、恵み、あわれみではなく」、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在、「イエス・キリストの中で示された啓示の中での神の愛、恵み、あわれみのことを」思惟し語っていなければならないのである。「この身を向けること」（下記の【注】を参照）は、「イエス・キリストの中で啓示された」「全き自由の……神の本質の中に含まれているが故に、それに基づいて、われわれは、神の愛は恵み深い愛であると言うのである」。「さらに……被造物は、それとして罪深い被造物としてのその定めの中で、窮乏、困窮、不幸の中に身を置いているが故に」、「そのような被造物に対して神が身を向け給うこと」は、「そのような被造物に対して無条件的に立ち勝った者が身を向け給うことであるが故に」、「神の恵み」は、「神がその窮乏と困窮の中にあるその被造物のことを引き受けられ、神がそのような窮乏と困窮をご自分のものとし、ご自分の問題として取り上げ給うことによって、そのような窮乏と困窮に参与される」ことを、「必然的に」内包しているということをみた。「神がそのことを為し給うということは、神は、その本質の中にそのことを為すことが含まれているところの方であり給うということ」――このことが、「イエス・キリストの中で啓示された神の恵みを、あわれみ深い恵みとする」のである。このような訳で、「われわれの命題」は、「徹頭徹尾、……イエス・キリストの中で啓示された神は恵みとあわれみの中で愛し給う、という事実的な具体的な必然性に基づいている」のである。「今さらに一歩進んで、神の愛は、必然的に忍耐の性質を持っていると言う時」、「忍耐は、一人の者が他の者に対して、特定の意図をもって場所と時間を与えるところで、一人の者が他の者をして」回心を「待ちもうけつつ為すがままにまかせるところで存在する」。このことを、キリストにあっての「神が……為し給うということ、換言すればそのような計画に従って場所と時間を許容するということ、そのように（≪回心を≫）待ちもうけつつ為すがままに任せるということが、神の本質の中にあるということ、否、そのこと自体が徹頭徹尾神の本質であるということ」、このように「神が現にあり給うところのすべてはまた、神が忍耐強くあり給うということの中に含まれており、そのことでもって語られていること」は、「前に述べられたすべてのことと同じように、決して自明的なことではな」いし、概念的運動の「結果として出てくることではない」のである。あくまでも啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」を必要とするのである。何故ならば、「神はまた」、神の本質の区別を包括した単一性において「神の愛がその被造物を焼き尽くすであろうような仕方ででも、恵み深くあわれみに富み給うこともできる」からである、「被造物に対してもはやいかなる場所も時間も許容されず」、「被造物から場所と時間を取り上げ給い、被造物の堕落した、それによって混乱させられた現実存在を回収し、除去し、被造物の転倒し堕落した意志を滅ぼし尽くし、ただ神ご自身の善き意志だけを実在する唯一のものとして、新たにすべてのそのほかの意志の代わりに登場させるという仕方で、ご自分の身に負われることもできる」からである。このような、「愛された者をこの存在様式へと連れ戻すであろう愛よりももっと徹底した愛があるであろうか」。「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給う」――「この神的怒りの業としての永遠の死こそ、実際神ご自身の中での被造物の永遠の休息、永遠の平和ではないであろうか」。「人は、すべての時代と国々に異教的な神秘主義および表向きキリスト教的な神秘主義と言われているものが神の愛、恵み、あわれみについて語っていること」、「その決定的な、最高命題の中で語っていることを聞くがよい」――「神秘主義は、おそらく……遅くともわれわれが今立っているこの地点（≪前述した地点≫）で向きを変えて、神の愛、恵み、あわれみについてのその教えの要点として、本来的に、最後的に救う言葉として神の忍耐のなさについての教えを宣べ伝えなければならないであろうし、事実宣べ伝えるであろう」、神秘主義は、「遅くともこのところ（≪前述したところ≫）で、まさにすべての神秘主義に対する（またキリスト教的神認識のすべての神秘主義的な曲解に対する）本来的な躓きが、調停できない仕方で明らかとなるであろう」。バルトは、次のように述べている――単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストの死と復活の出来事における「十字架の死」、「律法の成就」、主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」（ローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等）、「イエス・キリストが信ずる信仰」、その「イエス・キリストが信ずる信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものであるイエス・キリストにおけるインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」の「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪・混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。『教義学要綱』では、次のように言われている――「『神がそこでわれわれに出会い給うその恵みの御言葉は、イエス・キリストと呼ばれる。すなわち、神の子にして人の子、真の神にして真の人、インマヌエル、この一つなる方におけるわれらと共なる神である』と、答えうるにすぎない。キリスト教信仰は、この『インマヌエル』との出会いである。イエス・キリストとの出会いであり、イエス・キリストにおける神の活ける御言葉との出会いである。われわれが聖書を神の御言葉と呼ぶ場合……、われわれは、それによって、聖書を、この神の唯一の御言葉についての（イエス・キリストについての、神のキリストであり永遠にわれわれの主にして王なるイスラエルから出たこの人についての）預言者・使徒の証しとして、考えているのである。そして、われわれがそのことを告白する場合、われわれが教会の宣べ伝えを神の御言葉と敢て呼ぶ場合、それによってイエス・キリストの宣べ伝えが理解されていなくてはならない」。
【注】「身をかがめること」、「身を屈するとか身分を落として卑下するという形で遂行される身を向けること」、「より高い者が、より低い者に向かって身を向けること」は、「ギリシャ語の恵みの意味の中に、またラテン語の恵みの意味の中に、……ドイツ語の恵みの意味の中に含まれている」。この「身を向けることの中に」、「特に（その中でこの言葉が現れている）旧約聖書的な脈絡がそのことを明らかにしているように」、「神がよき業として人間に対してなし給うすべてのこと、神のまこと、神の忠実さ、神の義、神のあわれみ、神の契約（ダニエル九・四）、あるいはあの使徒の挨拶の言葉によれば、神の平和が含まれている」。「それらすべては、まず第一に、基本的に、神の恵みである」。恵み（「神的な賜物……の総内容」――すなわち「啓示者である父に関わる創造、啓示そのものである子に関わる和解、啓示されてあるものである聖霊に関わる救済」、父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在）は、「確かにきわめて『超自然的な賜物』でもあるが」、それを「与える方自身が」、すなわちご自身の中での「神ご自身が、（≪神の側の真実として≫）自分自身を賜物とすることによって、自分自身、（≪われわれのための神として、神とは異なる≫）他者との交わりの中に赴き」、それ故に「自分自身を他者に相対して愛する者として示し給う限り」、先行してわれわれのための神が「ご自身と……被造物の間に直接交わりを造り出し、保ってゆくこと」であるから、「そのような賜物なのである」。「神が恵みを与え給うことの原型は、神の言葉の受肉（言葉の受肉であって、その神性の受肉ではない）、神と人間がイエス・キリストにあって一つであることである」。単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神ご自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。ここでは、「神と人間の間の第三のものは発生しなかった」。ここでの「恵みの秘義（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰としてだけ認識可能なそれ≫）と本質」は、次の点にある――「二つのものが、（徹頭徹尾第一のものの意志と力を通して）直接一つのものとなり、神と人間の間のあの直接的な『平和』、パウロが『恵み』という言葉と関連させて、……その内容的な定義として、……しばしば名指すのを常としている『平和』が樹立されるという」点にある。ご自身の中での神として「恵み深い神」と、われわれのための神として「恵み深くあり給う」神との間には、中間的な領域としての恵みについてのグノーシス主義的に受け取られた考え方が介在することは許されない」（聖書でイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された神は、「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「三位相互内在性」として、「失われない差異性の中」で三つの存在の仕方、性質・働き・業・行為・行動において「三度別様」に父、子、聖霊なる神であって、その存在は「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「一神」、「一人の同一なる神」である。したがって、「三神」、「三の対象」、「三つの神的我」ではなく、父、子、聖霊の三つの存在の仕方の、単一性・神性・永遠性を存在の本質とする「一人の同一なる神」、すなわち「三位一体」の神なのである。したがってまた、単一性・神性・永遠性を本質とする神の完全さ・自由さは、父、子、聖霊の三つの存在の仕方の完全さ・自由さなのである。「われわれに出会う神」である父、子、聖霊の三つの存在の仕方は、「啓示者、啓示、啓示されてあること」、「神の聖（≪隠蔽、隠れ≫）、あわれみ（≪顕現、顕われ≫）、愛（≪父と子の愛に基づく交わりである聖霊≫）、「聖金曜日、復活日、聖霊降誕日」、「創造主なる神、和解主なる神、救済者なる神」の三つの存在の仕方に対応している。この神は、「隠蔽」と「顕現」において、またその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「人間に対して自己を伝達」、啓示するのである。バルトは、この「三度別様」の「三つ」を、「他との関係なしにそれ自身で存在している」近代的な「個体」と区別させるために、「人格の名で呼ぶことを避け」て、「存在の仕方」、「存在の様態」と呼んだのである）。「ここではすべてのことは直接性に」、それ故に「神の存在と行為が実際に神の本質的ナ独自ノ性質として、換言すれば神ご自身として、すなわち神ご自身（≪ご自身の中での神、その存在≫）であり、自分自身を確証（≪自己認識・自己理解・自己規定≫）することによって（≪われわれのための神、その存在として≫）恵み深くあり給う方として、理解されるということによってもってかかっている」。したがって、「旧約聖書と新約聖書の中で、……力を込めて神を指し示しつつ、『わたしの』、『あなたの』、あるいは『彼の』恵みについて語られているのである」。したがってまた、「聖書的な人間は、ただ単に『あなたの恵みにしたがって、わたしをお救いください』（詩篇一〇九・二六）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを覚えてください』（詩篇一〇六・四）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを生かしてください』（詩篇一一九・八八）、『あなたの恵みを聞かせてください』（詩篇一四三・八）等々について語られているだけでなく、ほとんどのところで直接、単純に、『わたしに対し恵み深く＜あってください＞』と言われている」。「それに対して、わたしの知る限り、わたしに恵みを＜与えてください＞という言い方はどこにも出てこない」。このような訳で、「使徒たちがその教会に対して臨んでいるすべてのことは、よく知られている挨拶の言葉でもって総括」することができる――すなわち、「恵みがあなたがたにあるように」。したがって、「神の言葉は、使徒行伝一四・三、二〇・三二によれば、単純に『恵みの言葉』」と呼ぶことができる。「パウロにおいては、恵み、彼自身の回心、彼の使徒職とその行使、それと共に福音の宣教は、一つのまとまった全体を形作っている」――「神の恵みによって、わたしは今日あるを得ているのである。そして、わたしに賜った神の恵みは無駄にならず、むしろ、わたしは彼らの中の誰よりも多く働いてきた。しかしそれは、私自身ではなく、わたしと共にあった神の恵みである（Ⅰコリント一五・一〇）。なお、ローマ一・五を参照せよ」、「まさに恵みこそが、包括的に、神が現にあるところの方として、（≪われわれのための神として≫）われわれに身を向け給う際の向け方を特徴的に言い表している」。
三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事であるそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における第三の形態に属する全く人間的な「キリスト教会が、神（≪キリストにあっての神≫）と呼ぶところの方にとっては、忍耐のなさではなく、忍耐強くあり給うことが必然的に固有である」。したがって、ここで「必然性は、……事実的な、具体的な必然性である」。何故ならば、「一般的な概念の論理」からは、「神が忍耐を持ち給わないということの方が結論として出てき得る」からである。このような訳で、「われわれはまさに……聖書を通して事実的に、具体的に証しされているイエス・キリストにあっての神の事実的、具体的な啓示を（≪換言すれば、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を）、われわれの神認識の純粋な源泉であり、必然的な条件と見做す時にだけ、……神は必然的に忍耐強くあり給うということについて語ることができる」のである、ちょうど神と人間との無限の質的差異は「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」（『ローマ書』）と聖書的啓示証言を通して思惟し語ることができるように。したがって、「もしもわれわれが、教会の中で、それであるからイエス・キリストにあっての教会の基礎および存在から思惟し語るならば」、「その時、われわれが為す舵の取り方ははじめから」、「神は忍耐強くあり給う」という方向へと「方向づけられている」のであって、「神秘主義が望」み「実際に取っている神の忍耐のなさについての教えの方向」へと「方向づけられている」のではないのである。何故ならば、キリストにあっての神は、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「まさに忍耐強い神として、ご自身を認識すべく与え給うからである」、「神の愛、恵み、あわれみが出来事となって起こるところの具体的な関係の中で、神の愛は、見過ごすべくもなく忍耐として特徴づけられているとわれわれが言わなければならないような仕方で、ご自分を認識すべく与え給う」からである。したがって、われわれは、「神の愛」を、「忍耐強い」・「忍耐」という「性格の中でだけ神的な愛、恵み、あわれみとして認識することができ」、それ故に「神の忍耐こそ」が、「われわれにとって事実まさに」、キリストにあっての「神的なもの」と「見かけだけの神的なもの、悪霊的なもの」の「間を区別する……特徴的な目印となるということの中に」、キリストにあっての「神の愛」は、「その特徴を持っている」のである。この思惟と語りの差異は、総括的に言えば、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞に停滞する思惟と語りと、＜非＞自然神学あるいは＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞へと移行したバルトの思惟と語りとの差異である。このような事情の下で、人間の神化・神の人間化の原理を発見した「人間の時代」（『ヘーゲル』）を自覚した近代以降の近代主義的プロテスタント主義的キリスト教における、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求も、人間的契機の＜直接性＞も、近代的な人間の感覚と知識を内容とした経験的普遍も、人間学も、キリストにあっての啓示とは独立させたその現にあるがままの人間の人間性・理性・意志性・応答責任性・決断能力等もということを志向し目指す自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞に停滞し循環している人々（神学者、牧師、キリスト教的著述家、それに類する人々）は、バルトを１８０度捻じ曲げて思惟し発言するのである。特に、例えばパンネンベルクがそうである（下記の【注】を参照）。「私は、福音宣教から独立し、それと接触しない、『自己決定の権利』を国家に与えている、いまわしいルター派の教説をこれまで決して承認しようとはしなかった。（中略）私の神学的思惟は、神の主権と、キリスト教の使信全体の終末論的性格と、キリスト教会の唯一の課題としての純粋な福音の宣教の強調に中心があり、またそれにこれまで中心をおいてきた。現実の人間を考慮しない（『神はすべてであって人間は無である！』）抽象的な超越神、現代にとっての意義を伴わない抽象的な終末の待望、この超越的な神にのみに専念し、深淵によって国家や社会から分離された同様に抽象的な教会――それらすべては私の頭に存在したものではなくて、私の本を読んだ多くの人々の頭のなかに、また特に私についての評論をしたり、一冊の本を書いたりした人々（≪根本的な誤謬に普遍性や組織性の後光をかぶせて語る神学者、牧師、キリスト教的著述家、それに類する人々、総括的に言えば自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指す人々≫）の頭のなかにのみ存在していたのである」（『バルト自伝』）。
【注】ベルトールト・クラッパートは、『バルト＝ボンヘッファーの線で』において、パンネンベルクが、バルトの神学的前提である「啓示実証主義」は、「極めて主観的な経験に基づく啓示の主観的要求」であり、「啓示の主観主義」であると批判していることを報告している。この批判を、喜田川信の『歴史を導く神 ――バルトとモルトマン』におけるパンネンベルク論を絡めて考えれば、次のように言うことができる。
◎先ず以て私たちは、この「啓示実証主義」者バルトという認識や概念が、バルト自身の思惟や語り、すなわちバルト自身の「頭に存在したものではなくて」、あくまでもバルトについての「評論」を「書いたりした人々（≪神学者、牧師、キリスト教的著述家、それに類する人々≫）の頭のなかにのみ存在していた」悪意ある造語である、ということに注意をする必要がある。このような「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」批判の仕方は、近代以降における宗教の形態は「科学主義」であるが、人間にとって部分でしかない科学や理性等を全体化する「科学主義」・「理性主義」（絶対主義）と混合させたキリスト教的自然神学的な思惟と語りのそれでしかない、ということに注意をする必要がある。事実、パンネンベルクは、「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性を全く後継へと退けた上で、人間にとって部分でしかない理性を全体化（絶対主義）する立場から、イエス・キリストの復活を理性的合理的に歴史的現実として根拠づけるために、言語を介して人間によって対象化された後期ユダヤ教の黙示文学の復活信仰伝承の歴史性とイエス・キリストの復活伝承を第一次的なものとして持ち出すのである。すなわち、パンネンベルクにおけるその伝承は対象化された人間の理性・思惟であり、その「伝承の連鎖」は 人間の理性・思惟によって対象化された伝承の歴史性であるのであるが、パンネンベルクは、それらを第一次的なものとして持ち出すのである。このような認識方法と概念構成においてパンネンベルクは、バルトに対して、自らが「啓示の主観主義」者そのものであるにも拘わらず、バルトに対してバルトは「啓示の主観主義」だと悪意ある皮相的な批判を為したのである。まさしく、そのパンネンベルクの思惟と語りにおける原理・認識方法と概念構成は、フォイエルバッハやマルクスやハイデッガーが原理的に根本的包括的に批判したところの、人間自身が恣意的独善的嗜好的に対象化したに過ぎない「存在者レベルでの神への信仰」、偶像信仰、その偶像神の名と呼び掛けによる救いと平和の企てとして、宗教批判の対象そのもののそれに過ぎないものなのである。それに対して、バルト自身は、キリストの復活の出来事を、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯して、すなわち客観的に存在している「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性に信頼し固執し連帯して、その起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を原理・規準・法廷・審判者・支配者として、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて認識し信仰しようとするのである。このことがパンネンベルクには認識し理解することができないのである。パンネンベルクの批判が皮相的であるのは、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教を、バルト自身が彼の信仰・神学・教会の宣教におけるその原理・その認識方法と概念構成それ自体において、原理的に根本的包括的に止揚し克服して、＜非＞自然神学あるいは＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞へと移行したということを認識し理解することができずに、それ故にパンネンベルクの批判は旧態依然として自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞に停滞したままの批判でしかないからである。思想にとっての批判は、バルトを批判する時には、バルトの＜非＞自然神学あるいは＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞を、原理的に根本的包括的に止揚し克服して次の＜段階＞へと移行できるものでなければならないのである。このような訳で、パンネンベルク自身が、「啓示の主観的要求」、「啓示の主観主義」という自分自身の言葉によって復讐されなければならないのである。人間自身が恣意的独善的嗜好的に対象化したに過ぎない宗教としての・共同宗教としてのキリスト教の「神の啓示の内容は、（≪神と人間との無限の質的差異の下におけるキリストにあっての≫）神としての神から発生したのではなくて、人間的理性や人間的欲求やによって規定された神から発生した……。（中略）こうして、この対象に即してもまた、『神学の秘密は人間学以外の何物でもない！』……」（ L ・フォイエルバッハ『キリスト教の本質』）のである。
◎パンネンベルクは、「〔道端の〕石さえも語るのであるから」、直接的に「人間が神について語るというのはまったく自明のことなのである」。「他の諸宗教をフォイエルバッハ流に説明し、キリスト教は例外だとするようなやり口の（バルトの）戦術」は、「結局のところキリスト教神学それ自身を台無しにしてしまう」。「無神論的宗教批判との対決は、人間論のレベルと哲学的論証によって為されなければならない」、と大見得を切って述べたことも、クラッパートは報告している。私は、この質の悪い皮相的で悪意に満ちた批判しかできない神学者パンネンベルクにただ呆れ驚くばかりであった。その理由は、次の点にある。第一に、バルト自身は、「他の諸宗教をフォイエルバッハ流に説明し、キリスト教は例外だ」ということを全く述べてはいないのである。すなわち、バルト自身は、他の諸宗教を対象としているのではなくて、結局は人間自身が恣意的独善的嗜好的に対象化したに過ぎない「存在者レベルでの神への信仰」を志向し目指すキリスト教的自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教というものは、フォイエルバッハやマルクスやハイデッガーの原理的な根本的包括的な宗教批判の対象そのものであるとして認識し自覚し論じているのである。第二に、バルト自身は、キリスト論的に一致しているか一致していないかという「異端」性の問題は、他人事ではなく、全キリスト教・全キリスト教会・全キリスト者の「信仰の〔一つの〕可能性」として存在しているということ、「教会の外の可能性ではなく、……教会の内部での可能性」として存在しているということを語っているのである。第三に、バルト自身は、キリスト教における啓示認識・啓示信仰の根拠は、「教会の存在」、「教会がなす行為の基礎」、「教会の主」である単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕サレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにあるということを語っているのである、換言すれば啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証の力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性にあるということを語っているのである。第四に、バルト自身は、あくまでも神の側の真実としてある、信と不信、キリスト者と非キリスト者、知と非知とが架橋されたところの、主格的属格として理解された「イエス・キリストの信仰」（イエス・キリストの十字架の死と復活の出来事における十字架の死、律法の成就・完了、「イエス・キリストが信ずる信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの）において、キリストの福音が、個体的自己としての全人間・全世界・全人類に対して完全に開かれているところで語っているのである。したがって、バルト自身の場合は、パンネンベルクのように大見得を切って声高に「無神論的宗教批判との対決は、人間論のレベルと哲学的論証によって為さ」なければならないと言わなくてもいいのである。このようなことも認識し自覚もできないパンネンベルクが、「人間論のレベルと哲学的論証によって」「無神論的宗教批判との対決」ができるわけがないのである。むしろここでもパンネンベルクは、その自分自身の言葉によって復讐されなければならないのである、ちょうど前期ハイデッガーの哲学原理に依拠したブルマンが、その神学の原理・その認識方法と概念構成を、前期と後期との総体性における後期ハイデッガーから、原理的に根本的包括的に批判されたように。「『今日まさにこのマールブルク（≪ブルトマン、その学派≫）では、無理やり模造された敬虔さと結びついて、弁証法の見せかけがとくに肥大している』が、それよりは『むしろ無神論という安っぽい非難を受け入れた方がよい』、『いわゆる存在者レベルでの神への信仰は、結局のところ神を見失うことではなかろうか』」（木田元『ハイデッガーの思想』）。
われわれは、「神の忍耐」を「次のように定義する」――すなわち、「神の忍耐」は、神の本質の区別を包括した単一性における「その本質の中に含まれており、その存在と行為を成り立たせている」ところの、神とは全く異なる「他者に対して」「ご自身の恵みとあわれみの故に、ご自身の神聖性と義を主張しつつ、それ自身の現実存在のために場所と時間を許し」、「それと共に……そのそれ自身の現実存在をご自分の現実存在と並ぶ実存たらしめ」、それ故に「ご自分の意志を（≪神とは全く異なる≫）他者に対して、神がその者をこの他者として取り除いたり破壊したりせず、むしろそのものに伴い、耐え忍び、（≪回心を待ちもうけつつ≫）為すがままに任せるような仕方で、遂行してゆこうとする意志」のことである。「ポラーヌスは、（≪関心がある方は邦訳２９６の引用文を参照：彼が定義した≫）神の忍耐（≪神の人間に対する「怒リヲ制止スル」意志≫）という概念の傍らに、神の慈悲深さ（≪神の「怒リニオイテサエモ、……アワレミヲ覚エ……給う意志」≫）という概念を並べて置いた」。このような「正統主義的な定義からしていずれにしても……（≪神の本質の区別を包括した単一性において≫）神が忍耐強くあり給う時、決して神の恵みとあわれみを実行に移す点での神の弱さが問題ではないということを読み取ることができる」のである。すなわち、「神が神聖であり、義しいということについては、何も論難したり、変更したりする余地はない」し、それ故に「そのことが……神との出会いの中での人間にとって意味していることから、何も削除されてはならない」のである。したがって、「この出会いの中での（≪キリストにあっての≫）神の怒りが燃え、この出会いにおいて人間の側での完全な回心（≪ただ「律法の成就」、「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し固着すること≫）を必要としていることは、あくまで変わらない」のである。もっと言えば、人間論的な自然的人間にしても、教会論的なキリスト教的人間にしても、その現にあるがままの人間存在である「人間の公私の生活においては、絶えず新たな支配が行われるような仕組みになっている」し、「国家は支配であり、文化は支配」であるから、「世界の救いを何かある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求め」ようとしないで、「私たちの主であり、救い主であるイエス・キリストを、いっさいのものにまさって恐れ、かつ、愛すること、神を、大きな問題においても、小さな問題においても、彼がかってあり、いまあり、やがてあり給う権威のままに肯定し、是認すること、（≪全く思慮なき明確な過渡的・究極的課題の提起なき政治的実践を含めて≫）私たちの個人的、社会的生活を敢えて律して、すべての善きものを神から、神からすべての善きものを期待するべき」であるという、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる啓示認識・啓示信仰に依拠した決断と態度を「必要としていることは、あくまで変わらない」のである。イエス・キリストにおける客観的現実性としての・「永遠的実在としての」包括的な救済概念（われわれ人間によって初めて「完成させなければならないような和解」ではなく、神の側の真実としてあるキリストにあっての「神ご自身によって確立された和解」）は、平和の概念と同じであるから、そして「この贈り物（≪神の側の真実として、イエス・キリストにおいては、客観的現実性として、「永遠的実在として」、「神と人間」が、「また人間とその隣人が平和的なのであり」、「敵としてではなく、忠実な同伴者、仲間として、共にある」≫）は、ただわれわれがこれを受け取ることを待っている」にもかかわらず、われわれが「この事実に向かって、眼と耳を閉ざして生きているということが悲惨」なのであるから、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し固着することを「必要としていることは、あくまで変わらない」のである。キリストにあっての「神の怒り」は、神とは異なる「外から課せられた規定、形式、限界ではなく」、「神ご自身が（またご自分の怒りに対しても主であり給う神ご自身）によって神が知り、意志し給うことの故に置かれた規定、形式、限界（≪このことは、「神の力強さ」の放棄や減少を意味しない。すなわち「神が、ご自身を抑制されることは、ただ神が常に力強く行動され、存在される際の特定の形式である」≫）を持っているということの中で、神の怒り」であり、「聖なる、義しい怒りである」。このことの中で、「人間の側では、……（≪神の本質の区別を包括した単一性における≫）神と、神の恵みおよびあわれみと、神の神聖性および義と、神の怒りと関わらなければならない」ということ、それ故に「おそらく特定の意味でそれらすべてが帰せられなければならないであろう悪霊と関わるのではないということ」、それ故に「神と人間が出会う出会いにおける人間の分は滅亡すること、死ではなく」、「むしろ回心であり、まさにそのためにこそ人間から場所、時間、現実存在が取り去られず」、それらが「人間に与えられ、また人間に許容されているということが示されるのである」。このことからも、神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会の「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が教会自身と世に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」は、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、教会の宣教、その一つの機能としての神学、その思惟と語りの原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられことを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストの福音、＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請）、すなわちすべての人々が純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えにあるのである、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指すことにあるのである。そのような仕方で、「神が、ご自身を抑制されること」は、神は、その存在の本質においてもその存在の仕方においても、＜常に＞力強く行動し存在し給うのであるから、「ただ神が常に力強く行動され、存在される際の特定の形式」なのである。このような訳で、「神は、（≪神の本質の区別を包括した単一性における≫）その忍耐において、その恵みとあわれみにおけるのと比べて、また（その中で神は恵み深く、あわれみに富み給う）聖にして義なる怒りの中にある時と比べて、力強さにおいて劣ることはあり給わない」のである。「神は、ご自身を抑制されることによって、何か（≪キリストにあっての神は、不信仰・無心性・真実の罪のただ中を生きるその現にあるがままの現実的な人間存在、「神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給う」ということ≫）を撤回されることはない」のである（したがって、イエス・キリストは、神の側の真実として、われわれ人間のために・われわれ人間に代わって、その死と復活の出来事における十字架の死において、律法を成就された）。「神がその恵みとあわれみの中で忍耐強くあるということ」、それ故に「その聖にして義しい怒りの中ででも忍耐強くあり給うということを正しく理解するならば、まさにそのことこそが、その神的栄光全体の余すところのないほとばしり出なのである」。「ポラーヌスが、神の忍耐は、苦シミツツ蒙ムルコトを意味していないという時、彼は正しい」。しかし、「われわれは、それに対して」、神とは異なる「外から神に課せられた、神の尊厳さを減退させる苦シミツツ蒙ムルコトではないということを付け加える」。何故ならば、「新約聖書の言葉、忍耐の中ではっきりと表現されているように、神がご自身を抑制される時、またご自身を抑制し給うということも、（≪全き自由のご自身の中での神としての≫）神の尊厳さの行為として理解されなければならない」からである。「わが名のために、わたしは怒りをおそくする。わが誉のために、わたしはこれをおさえて、あなたを断ち滅ぼすことをしない（イザヤ四八・九）」。「この事柄を表現する別の新約聖書的概念」は、「神の意志は、偉大な、強い、厳格な、勝利に満ちた意志であるということを……語っている」（ギリシャ語原典とドイツ語訳の概念の差異性について述べられている、邦訳２９７頁参照）。「神の意志」は、神の本質の区別を包括した単一性において、「恵み深い、あわれみ深い意志として、そのような偉大な、強い、厳格な、勝利に満ちた意志である」。したがって、それは、神とは異なる相手（被造物、人間）の「回心」を「待ち」、「自由にさせておく意志である」。したがってまた、この神とは異なる相手（被造物、人間）の「回心」を「待ち」、「自由にさせておく」ということは、「神的尊厳さの特別の形式として理解されなければならない」のである。このことは、「神のあわれみがそのように理解されなければならないのと同じである」。