本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　二神のあわれみと義」（その５−５）−２（２７３−２８８頁）

「三十節　神的愛の完全性　二神のあわれみと義」（その５−５）−２
（４）われわれ人間のために・われわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、イエス・キリストが「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」・完了）、換言すれば神の本質の区別を包括した単一性（イエス・キリストの死と復活の出来事における十字架の死）において、「神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けた」、換言すれば「明らかに主格的属格として理解されるべき」、それ故に明らかに神の側の真実としてある「イエス・キリストが信ずる信仰」として理解されるべき、それ故に「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものとして理解されるべき、「ローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等の（≪ギリシャ語原典の≫）『イエス・キリスト＜の＞信仰』」――このようなわれわれのための神としての、すなわち全き自由の神の存在としての神の愛の行為の出来事としての、「ゴルゴタの十字架」・「十字架の死」・「聖金曜日において、われわれのために味方となって割って入られたのが（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方として≫）神のみ子であり、神ご自身であられたが故に」、「この代理行為は、実際に効果を発揮することができたのである」。この場合、先の（２）で述べたように、その存在の本質である「キリストの神性」が「啓示と和解を生じさせる」という点に一切合切があるのであって、「赦す神」は、たとえその人がまことの人間であったとしても人間に内在することはないのである。すなわち「キリストの神性」における「そのような代理行為と共に、義なる神とわれわれとの和解」、それ故に「神の義の勝利」、それ故にそれに基づいた「神に対するわれわれ自身の義」は、「出来事となることができたのである」。したがって、『ローマ書新解』で、次のように述べられているのである――「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」。「ただ神、われわれの創造主（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である創造主としての父なる神≫）、主だけが、われわれに対する保証を引き受けて下さることができ、われわれの代わりをしてくださることができ、われわれの罪の結果としての永遠の死をわれわれに代わって、その永遠の死が最後的に耐え忍ばれると同時に克服され、それ故にわれわれによってはもはや耐え忍ぶ必要がないような仕方で、耐え忍ぶことがおできになったのである」。キリストにあっての神とは全く異なる「いかなる被造物も、いかなる他の人間も、そのことをすることができなかったのである」・できないのである。ただ、「神ご自身のみ子」（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した神の子、すなわち和解主としての子なる神≫）だけが、「そのことをすることができたのである」。ここには、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、次のような関係と構造・秩序性がある――「創造された世界」における「神の愛」（単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方における神の存在としての全き自由の神の愛の行為の出来事）と「われわれの世界」における「イエス・キリストの事実の中における神の愛」（（単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方における神の存在としての全き自由の神の愛の行為の出来事）との間には差異がある。すなわち、後者の神の愛は、「まさしく神に対し罪を犯し、負い目を負うことになった人間の失われた世界に対する神の愛」である。したがって、「和解ないし啓示」は、「創造の継続」や「創造の完成」ではない。この意味は、「和解ないし啓示」は、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の存在の仕方の「失われない差異性」における神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストの「新しい神の業」であるということである。それは、「神的な愛の力」・「和解の力」である。このような訳で、イエス・キリストは、和解主として、創造主のあとに続いて、神の第二の存在の仕方において「第二の神的行為（≪啓示・和解の行為≫）を遂行」したのである。この神の存在の仕方の差異性における「創造と和解のこの順序」に、「キリスト論的に、父と子の順序、父（≪啓示者、言葉の語り手≫）と言葉（≪啓示、語り手の言葉、起源的な第一の形態の神の言葉≫）の順序」が対応しており、 「和解主としてのイエス・キリスト」は、創造主としての父に先行することはできないのである。しかし、神の起源的な第一の存在の仕方である父と神の第二の存在の仕方である子は、共に「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」における存在の仕方であるから、その従属的な関係は、存在の本質の差異性を意味しているのではなく、存在の仕方の差異性を意味しているのである。「第二の神的行為（≪啓示・和解の行為≫）を遂行」したイエス・キリストが、「神的な愛の力」・「和解の力」として、「われわれを代理して下さることができたのは」、「彼が、神のみ子（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として、自分を自分から区別した神の第二の存在の仕方である神の子≫）として人間となられ（≪ナザレのイエスという人間の歴史的形態、イエス・キリストの名をとられ≫）、人間であられたことによって、あのひとりの人間としての（≪あのひとりのまことの人間としての≫）その人間存在の中で、同時にわれわれすべての者の頭および代表者であり、それ故にただ単に（≪まことの神として≫）神のみ名においてわれわれに向かって語るというだけでなく、またわれわれの名において、われわれの肉を持つ肉として、神に向かって語る自由と力を持っておられたからである」。「われわれが（≪存在の仕方としての「言葉」の受肉であって、存在の本質としての「神性」の受肉ではないところの≫）肉となった神の言葉としてのイエス・キリストに聞く時、われわれは、神ご自身のみ子の血が天に向かって神に叫ぶことによって、われわれと共にまた神ご自身もお聞きになることを聞くのである」。キリストにあっての神は、「この肉となったご自身の言葉の中」で、「神の義が満たされたということ」を、「人間の罪の結果（≪永遠の死≫）が担われ、贖われ」、「それと共に」、「その者のためにイエス・キリストが代理してくださった」ところの「人間から取り去られたということ」を聞かれるのである、「このイエス・キリストの中にある人間にとって、もはや罪に定められることはない（ローマ八・一）ということ」を聞かれるのである、「そのことによってわれわれが神に対して義とされ、それ故にそれが神ご自身の言葉であることが確かである限り、同時にわれわれに対する無罪判決である言葉」を聞かれるのである。そして、「われわれの側でもこの言葉を聞くことが許されることによって、神が、イエス・キリスト」、すなわち「肉となったご自身の言葉の中で、ご自分に向かってお語りになったことが、われわれにも語れることによって、われわれは、われわれに対するこの無罪判決を聞くのである」。このように「神的対話」の「言葉」が、「またわれわれにも語られるということに、すべてがかかっている」のである。したがって、「この言葉がわれわれに語られ、われわれがそれを聞く時」、われわれは、「われわれに対して客観的にいかなる裁きももはや存在せず」、それ故に「われわれはもはや何も恐れる必要がないということ」を聞くのである。何故ならば、「神が厳密に義なる方であり給わないからでなく」、また「われわれが神の裁きに値しなかったからではなく」、「神が一度ですべてにわたって、力を奮う仕方で全く厳密に義なる方であられ、しかもまさに自分のあわれみの標準に従って、それであるからご自分のみ子を捧げ給う中でこそ、義なる方であられたからである」。したがって、神のあわれみと義という神の本質の区別を包括した単一性における義なる神の「裁きを、自分だけで、自分自身の中で生きている人間として、永遠にわたって恐れなければならないであろう」われわれは、「神がご自身に向かって語られ、それによってわれわれが神の前に義とされた言葉、われわれの無罪判決の言葉」を、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「われわれが自分に語らせ、自分で聞く」という「そういう仕方でだけ」「神を恐れなければならない」のである、「そういう仕方でだけ」「神の裁きを、それが（恐れられることを）欲している仕方で恐れ」なければならないのである。
　このような訳で、わたしは、「『わたしを愛し、わたしのためにご自身を捧げられた神のみ子を信じる信仰によって生きる』（ガラテヤ二・二〇）ことに、すべてがかかっているのである」（吉永正義の翻訳――下記の【注】を参照）、「『あなたはどのようにして、神の前に、義となるのですか。ただ、イエス・キリストを信ずる、まことの信仰によるだけであります。かくして、（≪人間の側の≫）わたしの良心が、わたしが、神の戒めに対して、甚だしく罪を犯し、そのいましめのどの一つをも守りことがなく、いつまでも、あらゆる悪に向かう傾向があるといって、わたしを責めたとしても、神は、（≪神の側の真実として、神の本質の区別を包括した単一性において、≫）わたしに、何も自分の功績がなくても、ただ＜恵みによって＞、あたかも、わたしが、何の罪を犯したこともなく持ったこともなく、キリストが、自ら、わたしのために果たして下さった、すべての完全な服従を、完全に行ったものであるかのように、わたしが、これらの＜恵み＞を、（≪われわれ人間は「自分が……つまり『自分の理性や力によっては』……全く信じることができないことを知っており、それを告白」せざるを得ない者であるから、また「神に敵対し神に服従しない」われわれ人間は「肉であって、それ故に神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を一切持っていない」ということを告白せざるを得ない者であるから、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる≫）信ずる心をもって、受けさえすれば、わたしに、＜完全な償いと義と聖＞とを、与え、わたしのものとして下さるのであります』（ハイデルベルク信仰問答書問六〇、竹森満佐一訳）」（下記の【注】を参照――ここでも、吉永の悪しき保守性の貌が前景に出ている。旧来訳聖書や新共同訳聖書等の訳を温存させ、それに無理矢理合わせるために、バルト自身の信仰・神学・教会の宣教における首尾一貫した思惟と語り、その原理、その方法と概念構成を正直に誠実に翻訳し伝えるのではなく、故意に１８０度捻じ曲げて「イエス・キリスト＜を＞信じる信仰」というように目的格的属格として翻訳し解説している）。

【注】ここにあるハイデルベルク信仰問答書の翻訳の仕方からして、竹森は、まさにギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」の属格を目的格的属格として理解する「新正統主義の聖書神学者」（Wikipediaによる）であり、また「東京神学大学の学長を務めた」「新正統主義の聖書神学者」（Wikipediaによる）であるが、そしてWikipediaによればカール・バルトも「弁証法神学や危機神学」や「新正統主義」に属するとされているのであるが、しかしバルト自身の信仰・神学・教会の宣教におけるその原理、その思惟と語り、その方法と概念構成から言えば、バルト自身は首尾一貫して主格的属格としてギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」の属格を理解する立場に立脚することにおいて、吉永や竹森とは１８０度理解の仕方が違うのである、すなわち吉永や竹森とは全く違うのである。ここで全く違うと言うのは、原理的に根本的包括的に全く違うという意味であるが、それは、Wikipediaにあるように竹森が自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に属する「新正統主義」者であるとするならば、バルト自身の信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞は、その自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞を、バルト自身が、バルト自身の信仰・神学・教会の宣教におけるその原理、その思惟と語り、その方法と概念構成において、原理的に根本的包括的に止揚し克服して、＜非＞自然神学あるいは＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞へと移行したところの信仰・神学・教会の宣教であるということである。したがって、バルトは「弁証法神学や危機神学」に属すとか・「新正統主義」に属するとかという規定の仕方は、まさに「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」、形而上学的な一面的固定的相対的抽象的な学問的学業的神学が恣意的独善的に命名したに過ぎないそれなのである、原理的でない・根本的包括的でない規定の仕方なのである。したがって、信仰・神学・教会の宣教における思想の問題から言えば、何の役にも立たない規定の仕方なのである。したがって、私は、機会があれば、いつか近いうちに「原理的に根本的包括的に言って、バルトは新正統主義に属さない」ということを論じてみたいと考えている。
　さて、「ハイデルベルク信仰問答書の全訳です」という楠原博行訳の資料によれば、「問：６０どのようにしてあなたは神の前に義となるのですか、答：イエス・キリストへの、まことの信仰によるだけです」となっていて、それに「ローマ３・２１以下、２４以下、２８、ガラテヤ２・１６、エペソ（エフェソ）２・８以下、ピリピ（フィリピ）３・９」という＜注＞が付されている。人間の神化・神の人間化の原理を発見した「人間の時代」（『ヘーゲル』）を自覚した近代以降の近代主義的プロテスタント主義的キリスト教の目的格的属格理解は、極めて意識的なそれであるから、それ故に近代主義的プロテスタント主義的キリスト教は、目的格的属格理解を温存させたのであり・温存させ続けているのであり、それ故にまたそれは、それを決して手離さないし手離すことはできないのである。したがって、近代主義的プロテスタント主義的キリスト教は、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求も、人間的契機の＜直接性＞も、近代的な人間の感覚と知識を内容とした経験的普遍も、人間学も、キリストにあっての啓示だけでなくその現にあるがままの人間の人間性・理性・意志性・応答責任性・決断能力等もという自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教を前景化して志向し目指すのである。このような訳で、＜非＞自然神学、＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞に移行したバルト自身は、その信仰・神学・教会の宣教におけるその思惟と語り、その原理・その方法と概念構成において、ギリシャ語原典の「イエス・キリスト＜ノ＞信仰」の属格を主格的属格として理解する首尾一貫した立場を、『福音と律法』で次のように述べている――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の「イエス・キリスト＜ノ＞信仰」（≪ギリシャ語原典ピスティス イエスー クリストゥーの属格≫）は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく＞、（≪その受難、死と復活の出来事における十字架の死という形態、道を通って、主格的属格という形態、道を通って≫）神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」（井上良雄訳）。ローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等の「イエス・キリスト＜ノ＞信仰」（≪ギリシャ語原典ピスティス イエスー クリストゥーの属格≫）は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」という首尾一貫した立場に立脚するバルト自身は、吉永らが翻訳しているように、問：「あなたはどのようにして、神の前に、義となるのですか、答：目的格的属格として理解された「ただ、＜イエス・キリストを信ずる＞、まことの信仰によるだけであります』、「＜イエス・キリストへの＞、まことの信仰によるだけです」というようには決して思惟し語り論じないことは確実である、と私は確信を持って言うことができる。したがって、バルト自身は、ハイデルベルク信仰問答問６０を、問：「あなたはどのようにして、神の前に、義となるのですか」、答：神の側の真実としてある主格的属格として理解された「ただ、＜イエス・キリストが信ずる＞、まことの信仰によるだけであります」、と思惟し語り論じていることは明確で確実なことなのである。

　このような訳で、バルト自身は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」（『ローマ書新解』）というイエス・キリストにのみ感謝を持って信頼し固執する「信仰が、われわれの中で目覚め、再び眠り込むことがなく、……生きて、再び死ぬことがないということ」――「このこと」が、「神の義の勝利であり」、それ故に「神の前でのわれわれ自身の現実の義であり」、「正しい、ただそれだけがわれわれに要求され、ただそれだけがわれわれに可能な、神への恐れを正しく捧げることである」、と述べているのである。したがって、バルトは、『福音と律法』において、罪の本質は神だけでなくわれわれ人間もというわれわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求（すなわち不信仰・無神性・真実の罪）にあるのであって、「余りに性急に、余りに熱心に、念頭に置いて来た」「性的リビドー」（「『死んでいる』罪の成果の一部」）にあるのではない、と述べているのであり、また『キリスト者の自由』で律法と福音を対立させ、まずは「罪人を怖れさせ、その罪を暴露して、痛悔し且つ回心させるためには、誡めを説教すべきである」、しかしそれだけではいけないので、その次に「他の言、すなわち恩恵の呼びかけを説教して、信仰を教えるべき」である、「かようなときにはじめて他の言、すなわち神からの約束の告知が現われて、そして語る」、「さらばキリストを信じなさい」、「あなたが信じるならこれを得られるし、信じないなら得られない」というようにギリシャ語原典の「イエス・キリストの信仰」を目的格的属格として理解したルターに強烈に存在したところの、われわれ人間が「律法に対して全体的に不従順であるという事実」におけるわれわれ人間に生ずる「生の不安」は、イエス・キリストの死と復活の出来事の故に、「克服された……慰められた……癒された不安、望みと喜びの確かな岸によって取りかこまれた不安にすぎない」、と述べているのである。われわれが「イエス・キリストを念頭に置くならば、まさにこのような裁きの恐れはもはや神への恐れと呼ぶことはできない」のであって、われわれは、「ただ（≪神のあわれみと義という神の本質の区別を包括した単一性において、すなわちイエス・キリストの死と復活の出来事における≫）ゴルゴタの十字架において正しく遂行され、われわれの無罪判決で終わった＜裁き＞の中でのみ、本当に神を恐れるのである」、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求も、人間的契機の＜直接性＞も、近代的な人間の感覚と知識を内容とした経験的普遍も、人間学も、キリストにあっての啓示だけでなくその現にあるがままの人間の人間性・理性・意志性・応答責任性・決断能力等もという、キリストにあっての神から日々瞬間瞬間遠ざかり遠ざかり続けている、罪を新たな罪を犯し続けている、われわれ人間の不信仰・無神性・真実の罪を認識させられ自覚させられるのである。「このことが、われわれの側から見ても、われわれのために神のみ子が割って入られる代理行為の成果である」。すなわち、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、「それを通して（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を通して≫）われわれが、われわれの頭であり代理者であり給うイエス・キリストへと呼び集められ、その（≪イエス・キリストをのみ主・頭とする≫）教会へと呼び集められる神の啓示、換言すればそれを通して（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を通して≫）われわれが、信仰の中での神へのこの恐れへと目覚ましめられ召され、この信仰の中に保たれる神の啓示である」。しかし、「この神の啓示」は、「神の義」と「神のあわれみ」という、イエス・キリストの死と復活という神の本質の区別を包括した単一性における「死人の中からのイエス・キリストの甦り」・復活、「換言すれば永遠の死を身に受けることによって、それを克服し給わなければならなかった方が、十字架上で永遠の死を身に負い給うたということ……の確証としての死人の中からのイエス・キリストの甦り」・復活である、換言すれば「神がご自分のみ子を、それ故にご自身を（≪何故ならば、神の第二の存在の仕方であるみ子は、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方・啓示者である父が、子として、自分を自分から区別したところの神の子・啓示であるから≫）裁きの下に置くことによって、裁きの目標、終わりであらねばならなかったということの確証としての死人の中からのイエス・キリストの甦り」・復活である。「死をこのように克服するものとして、また裁きをこのように合法的に終了させることとして、イエス・キリストの甦り」・復活は、「同時に神のみ子としてのイエス・キリストの啓示であり、また神のあわれみと一つである単一性の中での神の義の啓示であり」、「またイエス・キリスト中で執行された義（≪神の側の真実としてある、主格的属格として理解された「イエス・キリストの信仰」、「イエス・キリストが信ずる信仰」、「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの≫）によってわれわれが救われることとしての信仰の啓示である」、換言すればわれわれが、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を通して「わたしたちは、わたしたちの主イエス・キリストを死人の中から甦らせた方を信じる。主は、わたしたちの罪過のために死に渡され、わたしたちが義とされるために、甦らされた」イエス・キリストにのみ感謝を持って信頼し固執し「固着」することが許されるということの啓示である。このように、「ローマ四・二四以下は理解されなければならない」――「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」のである。言い換えれば、「われわれの義が啓示されるために、主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」、すなわちイエス・キリストが信ずる信仰によって「神の義が勝利を収めた」のである。「罪と何のかかわりもない方を、神はわたしたちのために罪となさいました。わたしたちはその方によって神の義を得ることができたのです」（�Uコリント五・二一）。このようにして「われわれ自身が、……神の義を得られた」ということが「啓示されるために、主は甦らされたのである」。われわれは、「われわれのために味方となって割って入ってくださった神ご自身である」イエス・キリストが「頭であり給う体の肢体であるが故」に、われわれは、「神の義となったのである」。したがって、われわれが、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「そのような者であることを受け入れるということ」、「イエス・キリストを神として、しかもわれわれに味方して下さる神として承認するということ」――このことが、「イエス・キリストを信じる信仰であり、それ故にわれわれから求められている正しい神への恐れである」。もう一度述べれば、人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、「肉であって、それ故に神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を一切持っていない」、「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」われわれ人間が、「イエス・キリストを信じる」ということは、全く「信仰のないわたし」・「不信仰なわたし」を正直に告白し、「主よ、わたしの不信仰をお助け下さい」と願いつつ、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、神の側の真実としてある＜主格的属格＞として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」（すなわち「イエス・キリストが信ずる信仰」）による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものであるイエス・キリストにのみ感謝を持って信頼し固執し「固着」するということである。しかし、バルトが『教会教義学　神の言葉�T／１・２』で述べているように、近代主義的プロテスタント主義的キリスト教（その信仰、その神学、その教会の宣教）にとっては、近代的な人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍との混合からして、人間学との混合からして、「視覚的錯覚」からして、必然的に、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間（ナザレのイエスという人間の歴史的形態、「イエス・キリストの名」をとったところのまことの人間）「イエス・キリストの永遠のまことの神性の告白を信用しない」のである、「信用」できないのである。バルトは、このようなイエス・キリストにおける神の自己啓示から独立させた人間の側からする、すなわち人間の恣意性独善性からする、神と人間との、あるいは神学と人間学との混淆・混合・協働・共働論を、自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に属するものとして規定するのである。そのような自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞から、原理的に根本的包括的に＜非＞自然神学、＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の＜段階＞へと移行しバルトは、人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、その現にあるがままの人間存在を凝視して、次のように告白するのである――「『もちろん福音をわたしは聞く、だがわたくしには信仰が欠けている』その通り――一体信仰が欠けていない人があるであろうか。一体誰が信じることができるであろうか。自分は信仰を『持っている』、自分には信仰は欠けていない。自分は信じることが『できる』と主張しようとするなら、その人が信じていないことは確かであろう。（中略）信じる者は、自分が――つまり『自分の理性や力によっては』――全く信じることができないことを知っており、それを告白する。聖霊によって召され、光を受け、それゆえ自分で自分を理解せず（中略）頭をもたげて来る不信仰に直面しつつ（中略）『わたくしは信じる』とかれが言うのは、『主よ、わたくしの不信仰をお助け下さい』という願いの中でのみ〔マルコ九・二四〕、その願いと共にのみであろう」（『福音主義神学入門』）・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」（『福音と律法』）。その現にあるがままの人間存在であるわれわれ人間における信仰の認識としての神認識、すなわち啓示認識・啓示信仰は、あくまでも啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」――起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその人間性と共に神性を賦与され装備された神の言葉の第二の形態の聖書的啓示証言のそれ（下記の【注】を参照）・啓示の出来事、と、聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事・信仰の出来事、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である・それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性に基づいて、終末論的限界の下で与えられるものなのである。それに対して、自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階においては、バルトが述べているように、例えば和解に関して言えば、「赦す神」が人間に内在しなければならないことになり、その認識自体が形而上学的な「思弁でしかないもの」なのである。そのような認識の仕方においては、イエス・キリストは、「下からの半神」、「超人」、人間の「最深の本質」・「最高の理想」、キリスト教的実存の範型、キリスト教的な社会的奉仕活動や政治的実践の範型等の単なる「空虚な概念」でしかなくなってしまうのである、人間自身が恣意的独善的嗜好的に対象化したに過ぎない「存在者レベルでの神」（偶像）、その神（偶像）の名と呼びかけによる救いと平和の企てにしか過ぎないものになってしまうのである。言い換えれば、フォイエルバッハやマルクスやハイデッガーが原理的に根本的包括的に批判し揶揄した人間的理性や人間的欲求によって規定された宗教としてのキリスト教、その最後的形態が政治的近代国家である共同宗教としてのキリスト教でしかなくなってしまうのである。ここにおける「イエス・キリストを信じる信仰」は、まさに自然神学におけるそれとして、自然的な信仰・神学・教会の宣教におけるそれとして、必然的に、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求も、人間的契機の＜直接性＞も、近代的な人間の感覚と知識を内容とした経験的普遍も、人間学も、キリストにあっての啓示だけでなくその現にあるがままの人間の人間性・理性・意志性・応答責任性・決断能力等もという、自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指すことになるのである。したがって、それらは、いつも、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わ」（『ルートヴィッヒ・フォイエルバッハ』）ってしまうのである。

【注】神の言葉の第二形態の聖書的啓示証言は、起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリストによって直接的に唯一回的特別に召され任命された預言者および使徒たちのイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」である、換言すれば客観的な直接的な最初の起源的な第一の形態（すなわち「啓示の実在」そのもの）――この啓示の「＜概念＞の実在」である、換言すればその人間性と共に神性を賦与され装備された、それ故に「直接的、絶対的な、内容的な」「権威」と「自由」を賦与され装備された神の言葉の第二の形態である、すなわちそのような啓示の「＜概念＞の実在」である、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、神の言葉の第二の形態である聖書（啓示の「＜概念＞の実在」、啓示の概念の客観的現実性）は、「先ず第一義的に優位に立つ原理」・規準・法廷・審判者・支配者としての起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト（「啓示の実在」そのもの、啓示の客観的現実性）と共に、教会の宣教における「原理」・規準・法廷・審判者・支配者である。

　前述したように、「イエス・キリストが、ご自身の甦りの中で、われわれに（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）この信仰を啓示して下さり、その甦りの力（≪「復活の力」≫）によって、神へのこの恐れをわれわれの中に目覚めさせ保持して下さるならば、まさにそのことでもって、われわれのために割って入られるイエス・キリストの代理行為は、それ故に神の義は、……その中で神がわれわれ罪人に対して、いささかもご自分を譲り渡すことなしに（≪神とは全く異なる人間と混合・共働・協働・「混淆されぬように」≫）、一度ですべてにわたって力を奮う仕方で身を向けて下さった愛、恵み、あわれみとして」、「まさに神がその忠実さをわれわれに対して示して下さることによって、先ず第一に、（≪ご自身の中での神として≫）自分に対して忠実であり給うということの中でこそ、（≪われわれのための神として、われわれの≫）時間の中で、また永遠にわたって、力強い、神の忠実さとして、効果を発揮しつつ働くのである」。このことから、われわれは、「イスラエルに対する神の脅かしと裁きとして」、「また教会に対しても世においても間断なく遂行される神の裁きとして」、「またひとりびとりの個人の人間生活を絶えず神の裁きとして」、「すべてのものが向かっている死において最後的に脅かし突き当たってくるところのものが、まことに振り返り見られなければならない」。「聖書全体によれば」、われわれは、「事実、そのような裁きの下に置かれているということ」、すなわち「ゴルゴタの十字架の上で遂行され、神ご自身の心において、裁き手であると同時に裁かれた者として遂行し身に負うた神の裁き」の下に置かれているということ、「神の民が、すなわち旧約聖書においては隠された意味において、新約聖書においては顕わされた意味において、イスラエルが、イエス・キリストの教会が、神の裁きから事実身を引いておらず、おおっぴらにひそかに、直接的にか間接的にか、すべての時代を通して、繰り返し神の裁きに服させられているということである」。「再び、聖書全体によれば、神のみ子のあの苦しみと」、「イスラエルの上に、教会の上に、この世の上に、われわれ自身の上に起こる」その徴としての「多くの苦しみとの間には、疑いもなく、一つの内的な、本質的な関連性が成り立っている」。神のあわれみと義という神の本質の区別を包括した単一性における「啓示された神の義を、永遠の死の克服および裁きの終了（≪神の側の真実としてある、イエス・キリストの死と復活の出来事における十字架の死による、「イエス・キリストが信ずる信仰」による、すなわち「神の義、神の子の義、神自身の義」による「律法の成就」・完了≫）の啓示とみなして、それによりすがることが許されるし、よりすがらなければならない神への恐れ」は、われわれが、「常に、神はイスラエルにおいても、教会においても、世においても、われわれ自身の生活においても、ご自分が侮られることをお許しにならず、人間は彼が蒔いたものを刈り取らなければならない（ガラテヤ六・七以下）ということについての証人、しかも自覚的な、公然たる、正直な証人でなければならないということ」を「内に含んでいる」のである。「われわれは、まさにイエス・キリストにおいてなされた罪深い人間のために割って入られる神の代理行為の効力について考える時、ここに成り立っている関連性を最もよく見るのである」。われわれは、「この神の代理行為の効力」が、「罪人が裁きから救われることから成り立っており」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「信仰の中で、罪人がこの自分の救いをつかむことが許され、罪人が自分の救いを自覚し喜ぶことが許され、罪人が自分の救い主としての神のみ子に栄誉を帰することが許され、罪人が自分の信頼全体をみ子に置くことが許される信仰が啓示されることから成り立っているということを見た」。この「われわれのための神の代理行為の効力」は、われわれが先行する「神のみ子との一致と交わりの中へと取り上げられ」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「信仰の中で、われわれの頭であり代表者であられる神のみ子とのこの一致と交わりの中にある者として、み子の体に属する一員として、生きることが許されるということと共に、立ちもすれば倒れもするのである」。「神のみ子とのこの一致と交わりの賜物として、また実証として」、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「信仰は、われわれに与えられる神との和解であり、神の義である」。このような訳で、「イエス・キリストが神の裁きを身に受けて下さったのと同じ仕方で、われわれも神の裁きを身に受けるのではない」。何故ならば、「われわれが値した永遠の死は、全くただ一人、イエス・キリストだけが身に受けて下さった」からである。したがって、「われわれの十字架」は、「断罪し、処罰する神の義がそのところで満足させられたゴルゴタの十字架ではない」。われわれは、「そこで、われわれ自身の功績なしに、またそれに逆らって義ということを見なければ」、それ故に「われわれも自分の十字架を身に負い、われわれ自身を神の裁きの徴の下に置かなければ」、「ゴルゴタの十字架においてわれわれのために勝利して下さった神の義を信じることはできないのである」。言い換えれば、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられるこのような信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を通して、われわれは初めて、われわれ人間の「神に対する人間的反抗」、「罪深い堕落した人間」、そのような「人間の世」・時間について、自己認識し自己理解し自己規定できるのである。このように、「神の義を信じる」ためには、あの「啓示と信仰の出来事」を必要とするのである。あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「信仰は、イエス・キリストの中で、自分の側でも、永遠の死に対して勝利する信仰であり、……裁きの目標（≪刑罰、永遠の死≫）と終わり（≪神の側の真実としてある、イエス・キリストの死と復活の出来事における十字架の死による、「イエス・キリストが信ずる信仰」による、すなわち「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものによる「律法の成就」・完了≫）のところに立っている信仰である」。したがって、この「信仰は、……神が人間のために味方として割って入り、人間の問題を自らみ手に取り上げて下さり、人間に代わって解決して下さったということで、必然的なことおよび自明的なこととなった」ことの中で、そのことを為された「神に対して身をかがめることの中で生きるのである」、イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執し「固着」することの中で生きるのである。したがってまた、人間の側の「信仰それ自身が、人間の問題を解決したのではない。そのことの徴として、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）信じる人間の生は、神の裁きの影の中で経過していかなければならない。ここでは、徴と影以上のことについて、人は語ることは許されない」のである。「実際の効果を伴って起こった」「神の裁きそのもの」は、「その現実性の中で、全くただ、ゴルゴタの十字架で起こったことだけである」から、「イスラエル、教会、この世、われわれの身に突き当たってくるすべてのことの中で、神の裁きの実現についての（≪「イスラエルであり、教会であり、この世であり、われわれ自身の生である」「ゴルゴタの環境の中における、その痕跡、徴としての」≫）告知と後からの痛みが問題である」。したがって、「わたしたちを愛して下さった方によって、わたしたちは、これらすべてのことにおいて勝ち得て余りがある（ローマ八・三七）」から、「信仰の必然的な訓練」として、「キリストの十字架と並んで、その傍らにわれわれの十字架があり、キリストの苦しみの傍らにわれわれの苦しみがあり、キリストの死の傍らにわれわれの死があるのである」。「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」（『福音と律法』）。したがって、「もしも（≪神の本質の区別を包括した単一性における、すなわちイエス・キリストの死と復活の出来事における≫）キリストの十字架が甦りの光の中に立っていないとしたら、影は落ちないであろう。もしもわれわれが、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）死人の中からのイエス・キリストの甦りによって生ける望みへと生まれ変わらせられ（�Tペテロ一・三）ないならば、われわれは苦しまなければならないことはないであろう」。