『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 二神のあわれみと義」（その５－４）－２
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 二神のあわれみと義」（その５－４）－２（２５８－２７３頁）
「三十節 神的愛の完全性 二神のあわれみと義」（その５－４）－２
「イエス・キリストの死の意味」は、次の点にある――それは、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストが、「イスラエルのために、われわれのために」、不信仰・無神性・真実の罪であるところの、神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もというイスラエルの、われわれの「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」・完了）というところにある。言い換えれば、それは、イスラエルやわれわれからは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」の「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合、共働、協働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。それは、「そのところで、神の断罪し、処罰する義が容赦なくほとばしり出、人間の罪、罪人としての人間、罪深いイスラエルを実際に打ちたたき、それに突き当たったということである」。したがって、「そこのところで」、「イスラエルやわれわれの身にではなく」、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子（起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した神の子）、まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストの身に起こったことを通して」、「イスラエルやわれわれによって傷つけられた神の義が実際に啓示されたのであり、その神の義の要求が実際に満たされたのであり」、「しかもそのことは」、「イスラエルの身やわれわれの身に起こったのではなく」、「イスラエルの＜ために＞、われわれの＜ために＞、起こったのであり」、それ故に「そこでイスラエルやわれわれの故に苦しまれたことは、イスラエルの＜ために＞、われわれの＜ために＞苦しまれたのである」。「すなわち、神の怒りは、われわれが受けるに値した者であり、それによってわれわれは滅び失せなければならなかったし、とっくの昔に滅び失せていたであろうが」、「その神の怒り」を、イエス・キリスト自らが、「われわれの代わりに、……担われ苦しまれたのである」。「何故ならば、十字架上で神の怒りを身に受け・苦しまれた方が、神ご自身のみ子以外の方ではなく」、「そのようにして、その方が、（≪聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、まことの神にしてまことの人間として、その全き≫）自由なあわれみの中で取り上げられた（ご自身と人間的な性質との）単一性の中で永遠の神ご自身であられたが故に、聖金曜日に語られた否はあれほど恐ろしいものであり、まさにそれ故にこそ、（≪神の本質の区別を包括した単一性において、≫）その＜否＞の中に……また既に神の義の復活日の＜然り＞が隠されているからである」。「この事柄について」、「新約聖書」は、「特に（≪イエス・キリストの死と復活の出来事における「聖金曜日」・「ゴルゴタの十字架」・「十字架の死」・≫）受難の出来事」に向かっている「福音書」は、また「キリストの十字架あるいは血あるいは犠牲へのすべてのその言及を持った書簡」は、また「あれほど中心的な仕方で支配している『屠られた小羊』の姿を持った黙示録も、……語っている」のである。
そのことと共に、「この出来事がどのように理解されるべきであるかについてのはっきりと言葉に出しての説明も欠けてはいないのである」。われわれは、「ヨハネ三・一六から出発することができる」――「それによれば、神は、この世を『その独り子を賜ったほどに』愛されたのであり」、「ローマ八・三二ではもっとはっきりと、もっと強く……『わたしたちすべての者のために死に渡された』ほどに愛されたのである」。全き自由の「神の愛（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）は、われわれに対するその啓示（≪イエス・キリストにおける死と復活の出来事≫）と実証（≪自己証明≫）の中で、実にこの形態、この道をとったのである」、ご自身の中での神がわれわれのための神として、この形態、この道を意志し決断したのである。「テトス二・一四」によれば、「彼、大いなる神、わたしたちの救い主キリスト・イエスは、わたしたちのためにご自身をささげられた」（「ガラテヤ二・二〇参照」）。このガラテヤ２・２０のギリシャ語原典の「神の御子の信じる信仰」の属格について、バルト自身は、キリストにあっての神（あるいはその神学、その教会の宣教）とその現にあるがままのただの人間（その人間学、その人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍――下記の【注】を参照）との混淆・混合・協働・共働を志向し目指す近代主義的プロテスタント主義（あるいは自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教）が必然的に切望するところの旧来訳聖書や新共同訳聖書の目的格的属格理解とは１８０度全く違って、ここでも神の側の真実としてある主格的属格として理解して、『福音と律法』で次のように述べている――「私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく＞、（≪その受難、死と復活の出来事における十字架の死という形態、道を通って、主格的属格という形態、道を通って≫）神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）」。聖書の「この『与える』あるいは『ご自身をささげる』ということに」ついては、「ガラテヤ四・四、ローマ八・三によれば、また特に第四福音書において好んで、神のみ子が『遣わされること』、神的な『遣わされること』あるいは『派遣』という概念においてまとめられ」ている。この「神のみ子が『遣わされる』ということ」は、「人間の世に向けられた神的な愛を遂行しつつ、神のみ子（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した神のみ子≫）が、父とみ子の自由な意志に基づいて捧げられることを意味している」。何故ならば、「啓示と和解を生じさせる」神、「赦す神」は、たとえその人がまことの人間であっても人間には内在していないからである、換言すればキリストの存在の本質であるキリストの「神性」が、「赦す神」として「啓示と和解を生じさせる」からである。すなわち、神は、「ご自分のみ子を捧げられるあるいは遣わされることの中で、何事かを課されたのであり、み子は、この派遣を引き受けられることの中で、ご自分が捧げられることの中で、ご自分に対して何事かを課されたのであり」、「神は愛し給うことによって、ご自分に対して厳しい仕方で出会われ、ご自分に対して最後のもの、最高のものを要求され、身に加えられた」のである。「『神はご自身のみ子を惜しまなかった』（ローマ八・三二）、キリストは富んでおられたのに、われわれのために貧しくなられた（Ⅱコリント八・九）、『キリストは、神と等しくあることを固守すべきこととは思わず、かえっておのれを空しう』（ピリピ二・六以下）」された――このことは、「ピリピ二・七によれば」、「キリストが『おのれを空しくし』て、ご自分の神性の本質を捨てられたわけではないが」、「しかし確かにご自分の神性の形、ご自分の主としての形を完全に放棄され、われわれ自身の形、われわれ人間の形、すなわち『僕の形』をとられ、他の人間と完全に等しい姿になられ、その有様は人と異ならなかったということである」、すなわち単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方として、可視的な「人間の歴史的形態」をとり、「イエス・キリストの名」を持ったということである。したがって、受肉、「神が人間となる」、「僕の姿」、「自分を空しくすること、受難、 卑下」は、その存在の本質としての「神性の放棄」や「神性の減少」を意味するのではなく、「神的姿の隠蔽」、「覆い隠し」を意味しているのである。イエス・キリストにおいて神は、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」。したがってまた、イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、「イエス・キリストの名」、すなわちその第二の存在の仕方において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示なのである。このような訳で、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰は、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性である「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）、「啓示と信仰の出来事」を必要とするのである。「人間の代わりとなられ」たキリストは、「われわれすべての人間と同様に、『女から生まれ』給うた」ということは、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「彼、神のみ子（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した神の子≫）、神ご自身にとっても、『律法の下に生まれ給うた』ということを意味している」、「換言すれば神の忠実さと人間の不忠実さの間で生じる必然的な葛藤の中に入り給うたということを意味している」。まことの神にしてまことの人間イエス・キリストは、「この葛藤」を、「ご自分のものと為し給うた」、「ご自分の中で耐え貫き給うた」、「両方の側からしてこの葛藤に参与された」、「両方の側からしてこの葛藤を身に受け給うた」、すなわち「ただ単に人間によって侮辱された神としてだけでなく、また神によって死の脅かしを受け、神の裁きによって死に陥った人間として、この葛藤を身に受け給うた」。このように、「キリストが本当にわれわれと等しいようになられた」のであるが、このことは、必然的に、神に「逆らうことができ」ない、「罪を犯すことができ」ない、「罪を知り給わなかった(Ⅱコリント五・二一、ヨハネ八・四六、へブル四・一五)」「彼が、『罪の肉』（ローマ八・三）と等しいようになられ、人間の立場、すなわち(≪「神に逆らう者として、神の前に立つことができず、滅び失せなければならなかった」人間、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという不信仰・無神性・真実のただ中を生きる≫)人間の状態と状況に参与されたということ」を意味している、人間の「罪の中に入ることがおできになったのである」、「入り給うたのである」。言い換えれば、人間論的な自然的人間の、教会論的なキリスト教人間の、すべての人間の、その現にあるがままの「神の前に全く義とされない(ローマ三・二〇)、徹頭徹尾ただ罪だけが見出されることができる」「人間存在、肉にある存在の中に入り込むことがおできになったのである」、「入り給うたのである」。このようにして、キリストにあっての神は、「み子に『肉の体』(コロサイ一・二二)をとらせ、その限りみ子を『わたしたちの罪のために罪とする』(Ⅱコリント五・二一)ことがおできになったのである」、すなわちその第二の存在に仕方であるみ子（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した神の子≫）を「神ご自身の怒りの対象であり、神の断罪と処罰の対象とすることがおできになったのである」。「まさにこのことこそ、実際に起こったことである」(「ピリピ二・八」、「Ⅰペテロ三・一八」、「ローマ五・六」、「われわれ神の敵である者が立たなければならないところに、今やイエス・キリストにあっての神ご自身が立ち給う(ローマ五・一〇)」、「そして、今や、われわれの身に起こらなければならないはずのことが、イエス・キリストご自身の身に起こるのである。すなわち、肉において罪が罰せられる(ローマ八・三)ということが起こるのである」、「Ⅰペテロ二・二四」、「Ⅰペテロ三・一八、ローマ六・一〇」、「聖書に『木にかけられる者は、すべて呪われる』(ガラテヤ三・一三)と書かれてあるように、キリストは、われわれのために呪いとなってくださったのである」、これらすべてのことは、「われわれがもはや罪に定められることがない(ローマ八・一)ためであり、われわれ律法の下にある者が贖い出される(ガラテヤ四・五)」ためであり、すなわち「律法の呪いから贖い出される(ガラテヤ三・一三)ためであり、われわれが神の怒りから救われ、罪を免れ、キリストの傷によって癒され(Ⅰペテロ二・二四)、すべての不法から贖い出される(テトス二・一四)ためである」)。このことが、「神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたという」出来事、すなわち「イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うた」出来事、すなわち「彼は全く端的に、信じ給うた（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の「イエス・キリストの信仰」は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」という出来事の中で、「神がわれわれに『その罪過の責任を負わせることをなさらない』(Ⅱコリント五・一九)ということが、ただ単に可能となったばかりでなく、(≪神の側の真実として、≫)必然的なことに、とりわけ(≪客観的に≫)現実のこと」(永遠的実在)となったのである。「イエス・キリストは、ご自分の血によってわれわれを義として下さり(ローマ五・九)、義に生きる自由を与えて下さり(ローマ六・一六以下、Ⅰペテロ二・二四)、われわれは、……『彼にあって神の義となった』(Ⅱコリント五・二一)のである。これが、聖金曜日の出来事の恐ろしさと、まさにその恐ろしさの中でこそ解き放つ解放と慰めについての新約聖書の証言である」――「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」（『ローマ書新解』）。『福音と律法』に引き寄せて言えば、「福音と律法の真理性」における福音を内容とする福音の形式としての律法は、イエス・キリストにおいて完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和である「恩寵への召喚」のことである。したがって、恩寵が「告知」・「証し」・「宣教」される時、「私は私のものではなく、私の真実なる救い主イエス・キリストのものだ」、イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執せよ、という福音の形式である律法が建てられるのである。何故ならば、この神の本質の区別を包括した単一性における福音を内容とする福音の形式としての律法（キリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）がなければ、われわれ人間は、現実的にキリストの福音を所有することができないからである。この意味において、律法は、本来的には「生命に導くべきもの」・「神の恩寵を証しするもの」という事実において、福音を内容とする福音の形式なのである。したがって、この意味において神の律法（神の人間に対する命令・要求・要請）は、人間論的な自然的人間にしても、教会論的なキリスト教的人間にしても、誰にしても、その現にあるがままの人間存在としてのわれわれ人間は、日々瞬間瞬間キリストにあっての神から遠ざかり遠ざかり続けている・罪を新たな罪を犯し続けている不信仰で罪と穢れに満ち満ちたただの人間でしかないのであるから、われわれ人間の「『理性や力によって』全く信じることができない」のであるから、換言すればこれらのことをイエス・キリストにおける啓示によって認識し自覚させられているのであるから、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストの人間的側面をさえも模倣することはできないし、神の側の真実としてある主格的属格としてのイエス・キリストが信じたように信ずるということもできないのである、換言すればその人間的側面の模倣ということでもないのである。したがって、われわれ人間は、「福音の中核」であるイエス・キリストが、「律法を満たし・すべての誡めを遵守し給うたという事実(≪「律法の成就」の事実≫)」から考えなければならないから、キリストの福音に対する素直な感謝の応答、キリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指していくことを命令・要求・要請されているのである。それは、ア）神の側の真実としてある主格的属格としての「イエス・キリストの信仰」による「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものにのみ感謝をもって信頼し固着すること、すなわちその「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものとしての「十字架につけられ甦り給うたイエス・キリスト」にのみ感謝をもって信頼し固着すること、そのキリストの福音の告白と証しと宣べ伝えにある。イ）「われわれには絶対に実現出来ぬイエスの代理的な信仰を、承認し受け入れる」ということにある。ウ）「われわれの生命がキリストと共に保管されている」ことを承認し受け入れるということにある――これらアからウまでの事柄が、「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」なのである。この時には、時流や時勢に流された現存する教会のように声高にキリスト者は可視性を重んじた身体的な社会的実践(行動)や政治的実践(行動)が必要であると叫ばなくても、バルトのように、それが社会的な事柄であれ・政治的な事柄であれ、「かつて語った(≪キリストの福音の≫)説教の一貫した繰り返しが、(ある状況に抗するそれとして)おのずから(≪心的に、神学的に、思想的に、身体的に、その総体において、≫)実践に、決断に、行動になって行」くのである。
【注】神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もということで、人間学、われわれ人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍を前景化すれば、必然的に、キリストの神性、イエス・キリストの死と復活の出来事におけるキリストの復活は後景化させられるあるいは否定される、すなわちキリストの人間性、受難・十字架の死までのキリストだけが抽象されていくことになる、すなわちキリストの人間性、受難・十字架の死までのキリストが拡大鏡にかけられて全体化されていくことになる。何故ならば、例えば、バルトが「主を見た時、ヨハネ」の説教で述べているように、イエスの復活の出来事は、「どのようにして……起こりえたか、また起こったか、……私はあなたがたと同じように、その理由を知らない。（≪人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍に依拠して考えれば、人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間、誰であれ、≫）それは人が信じないようなことだと言う以外に、単純な言い方はほかに存在しない。事実、当時でさえも、解き明かすことは愚か、書き記すことや説明することはできなかった」からである、「イエスの復活は、徹頭徹尾神の業であって、そのようなものとして、最高度に良くなされたが、しかし最高度に理解し難いもの」だからである、したがって「当時でさえも、ただ認識（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて啓示認識・啓示信仰≫）され、告白され、証しされ、宣べ伝えることができた」だけだからである。いずれにしても、神の本質の区別を包括した単一性において、イエス・キリストにおける死と復活の出来事を理解しない限りは、次のことは理解できないのである――「福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」、すなわち「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫）へのキリストの十字架でもって終わる古い世」・時間は、復活へと向かっている、ということは理解できないのである。また、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストを信じないならば、換言すればあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「キリストの永遠のまことの神性の告白」を信用し信じないならば、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）に信頼し固執し連帯して純粋なキリストの福音を、キリストにあっての神を志向し目指すのではなく、必然的に、人間自身が対象化したに過ぎない「存在者レベルでの神」（ハイデッガー）を志向し目指す、それ故に「空虚な概念」でしかない「下からの半神」・「超人」・「最深の本質」・「最高の理想」・キリスト教的実存の範型・社会的政治的実践の範型としてのイエス・キリストを志向し目指すことになってしまうだろう。そして、そのようにして時流や時勢に即自的に流された現存する教会が向かう先は、例えば日本基督教団の戦争責任の告白にある「あの戦争に同調すべきではありませんでした。まさに国を愛する故にこそ、キリスト者の良心的判断によって、祖国の歩みに対し正しい判断をなすべきでありました」というような可視性を重んじただけの矛盾した思慮なき身体的な社会的政治的実践でしかないであろう、換言すれば経済の世界性と戦争の元凶である民族国家（一部支配上層の意思によって動員できる強大で強力な軍事組織を持つ民族国家）の一国性を単位として動いている世界においてそのことも認識し自覚しないで、また政治的近代国家が経済的基盤を資本主義（高度消費資本主義）に置く現実的な私利・私意を精神とする利己主義的な個別的私的な近代市民社会の諸矛盾・諸利害の対立の観念的法的政治的な共同的疎外態（共同的形態）でしかないということも認識し自覚しないで、「まさに国を愛する故にこそ、キリスト者の良心的判断によって、祖国の歩みに対し正しい判断をなす」というような可視性を重んじただけの矛盾した思慮なき身体的な社会的政治的実践でしかないであろう。ここで言われている「良心的判断」にしても、往相的観点と還相的観点という思想の往還を生きた親鸞に引き寄せて言えば、聖職者、宗教者、大学知識人、医者、警察、教員、法律家、国民全体の奉仕者である政治家や官僚、善人、誰であろうと、現実的な戦争とか愛憎問題とか利害対立とかの不可避な 「機縁」さえあれば、自分が意志しなくとも、人一人だけでなく多数の人を殺し得るという究極的観点（還相的観点）を構造化することができなければ、恣意的独善的に抽象され固定され全体化された「良心的判断」という自己欺瞞に満ちた市民的観点・市民的常識（往相的観点）は空論に終わるしかないであろう。
前述したような訳で、「『古正統主義』」が、「いかに大胆不敵な洞察に富んだ仕方で」、「すべてのその不十分さにもかかわらず」、「まさに新約聖書のこの中心を念頭に置いて語る術を心得ていたかを思い出すためにも」、次のような「ポラーヌスの言葉を用いて述べられるべきである」――「神ノ義、怒リ、脅カシノドノヨウナ例モ、キリストノ中デソレラガ現ニアルホド、際立ッテオリ、苛酷デ、恐ルベキモノハナイ。ナゼナラバスベテノ人間ハアダムニオイテ罪ヲ犯シタタメ、神ノ義ハ、神ノ最高ノ、カツマタ無限ノ威厳ニ対シテ犯サレタトイウコトガ、当然、最高ノ、カツマタ無限ノ、スナワチ魂ト肉体ノ永遠ノ、罰ニヨッテ償ワレ、罪ト罰ガ相応シタモノデアルコトヲ要求シテヤマナイカラデアル。コノ義ハ、ドウシテモ満タサレナケレバナラナイ。トコロガ人間ノウチ誰ヒトリトシテ、永遠ニ、絶対ニ、ソレヲ満タスコトハデキナイ。ソノヨウニシテソノママデハ人類ガ滅ビテシマウノデ、神ノ独リ子ガゴ自身ヲ、父ガ独リ子ニ与エ給ウタ者タチノ保証人トサレタノデアル。ソレデ独リ子ハゴ自身ヲ空シクサレタ……(ピリピ二・一七以下)。ソレ故ニ神ノミ子ハ人トナリ、選バレタ者タチノタメニゴ自身ヲ保証人トシテ立テ給ウタ。神ハ選バレタ者タチガ永遠ニ身ニ受ケルベキ罰ヲコノ保証人ノ身ニ移シ、選バレタ者タチニ対スル神ノ怒リヲ彼ノ中ヘト注ギ給ウタ」。