『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 二神のあわれみと義」（その５－４）－１
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 二神のあわれみと義」（その５－４）－１（２５８－２７３頁）
引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）
「六章 神の現実 三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」
「六章 神の現実 三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１２９頁）
〔この定式の詳述〕
この定式の詳述については、『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」（その２－１）－１で行っていますので、参照してください（２０１８年５月２１日論述分）。
註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学 神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。
「三十節 神的愛の完全性 二神のあわれみと義」（その５－４）－１
前回述べられていたように、神は、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、起源的な第一の形態の神の言葉、神の子（その神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した神の子）「イエス・キリスト（≪その全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の中でご自分にふさわしいことを啓示し給い、イエス・キリスト（≪その全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の中でそのことを為し給う」。「すなわち、神は、イエス・キリストの中で、ご自分が選ばれ、召された者たちに味方して、彼らの義が汚れた衣のようなものであるにもかかわらず、またそういうものであることによって、ご自分の義（≪神の側の真実としてある、「律法の成就」・完了である主格的属格としての「イエス・キリストが信じる信仰」としての「神の義、神の子の義、神自身の義」そのもの≫）を啓示し、実証し給う」。「また、群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを見て、深く憐れまれ（マタイ九・三六）」給う。「イエス・キリストの招きは、悔い改めへの招きであり、そのようにして信仰への招きであり、そのようにして天国への招きであり、同時に、心の貧しい人たち、悲しんでいる人たち、義に飢え渇いている人たち、義のために迫害されてきた人たち等々に祝福を与えることである」、「イエス・キリストは、父のみもとにいる罪人の弁護人（Ⅰヨハネ二・一）であり給う。イエス・キリストは、『いつも生きていて彼らのために執り成しておられるので』、彼によって神に来る人々を、完全に救い給う（へブル七・二五、ローマ八・三四）」――ギリシャ語原典の主格的属格として理解された「イエス・キリスト＜の＞信仰」における「律法の成就」・完了であるイエス・キリストは、すなわち「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものであるイエス・キリストは、「私たちの義となられた（Ⅰコリント一・三〇）」。この「彼を信じる信仰、（≪主格的属格として理解されたギリシャ語原典の属格の≫）イエス・キリスト＜ノ＞信仰（≪神の側の真実としてある「イエス・キリストが信じる信仰」≫）は、義なる神が不敬虔な者を義とし給うところの定めであり、(≪神の側の真実として、主格的属格として理解された「イエス・キリスト＜の＞信仰」、すなわち「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである≫) 彼を信じる信仰こそ、……神が不敬虔な者に義としてそれを帰し給うところの、その中で不敬虔な者がまことに義なる者であるところの信仰である」（下記の【注】を参照。文脈から言って、またバルトの思惟と語りの一貫性から言って、本当は井上良雄が翻訳しているように、私は、「彼（イエス・キリスト）が信じる信仰」となっているに違いないと確信する。したがって、吉永が訳したように、「彼を信じる信仰」となっているとするならば、その意味内容は、主格的属格として理解された「神の義、神の子の義、神自身の義」そのものである「イエス・キリストを信じる信仰」と理解しなければならないのである。われわれは、主格的属格として「イエス・キリストが信ずる信仰」と翻訳した『福音と律法』の翻訳書の井上良雄以外の翻訳者や神学者や牧師たちが、自然神学を、自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指す近代主義的プロテスタント主義に強いられて、神だけでなく人間も・人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという人間的契機の＜直接性＞を保存させるために、換言すれば旧来訳聖書や新共同訳聖書の訳に無理矢理合わせるために、それ故にバルト自身の思惟と語りを正直に誠実に翻訳し伝えるのではなく、故意に１８０度捻じ曲げて目的格的属格として「イエス・キリストを信じる信仰」と翻訳している場面によく出会うのである。したがって、われわれは、この事柄に関しては、十分な注意を必要とするのである――「教授でない者も、牧師でない者も、彼らの教授や牧師の神学が悪しき神学でなく、良き神学であるということに対して、共同の責任を負っている」）。「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう（マタイ一一・二八）」。
【注】私は『教会教義学 神論』のドイツ語原典を持っていないのでこの箇所の確認をしていないが(もちろん、私の住んでいる市にある旧帝国大学の図書館に行けばドイツ語原典の著作が揃っていて確認することはできるのだが、まだ確認をしていない)、首尾一貫したバルト自身のその思惟と語り、その原理、その概念構成から言って、この箇所も、本当は井上良雄が翻訳しているように主格的属格として「イエス・キリストが信じる信仰」となっているに違いない、と私は確信する。私がこのように考える根拠は、井上良雄だけが、ローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等にあるギリシャ語原典の「イエス・キリスト＜の＞信仰」の属格を、バルト自身が「イエス・キリストが信じる信仰」というように、主格的属格として理解していることを、徹頭徹尾、正直に誠実に翻訳し解説（訳注）ているからである。したがって、われわれは、バルトの諸著作にあるギリシャ語原典の「イエス・キリスト＜の＞信仰」を、目的格的属格として翻訳し説明しているバルトの翻訳書や解説書に対しては、十分な注意を必要とするのである。何故ならば、ギリシャ語原典の「イエス・キリスト＜の＞信仰」の属格を、目的格的属格として理解するということは、近代主義的プロテスタント主義等が決して手離すことはしないところの、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという、自然神学の段階、自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に停滞し循環することを・停滞し循環し続けることを意味するからである。それに対して、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したバルト自身は、そのような段階を、原理的に根本的包括的に包括し止揚し克服して、＜非＞自然神学の段階へ、＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階へと移行するために、「イエス・キリスト＜の＞信仰」の属格を、主格的属格として理解したのである。何故ならば、バルト自身は、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、具体的にはその第二の形態の聖書的啓示証言のそれに信頼し固執し連帯し、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、すなわち神の子、起源的な第一の形態の神の言葉、啓示・和解、福音、完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和そのもの、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト（その死と復活の出来事）――この「一つの事柄に仕えなければならないのであって、ひとつの党派（≪教派、学派、思想傾向、多元主義、ある社会的政治的な言説や実践等々≫）に仕えなければならないことはない……、一つの事柄に対して自分の立場を区別しなければならないのであって、別な一つの党派に対して自分の立場を区別しなければならないわけではない……」（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）という自分の立場で、そういう一切の党派性を包括し止揚し克服しようとしたからである。このことは、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯した神学における思想の問題であり、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したバルトの神学的な決断と態度を言い表している。吉本隆明も、二元主義的なあるいは多元主義的な立場を批判して、次のように述べている――「対立する双方に真理があるというような俗説が、世界史的に流布され、流通している」中で、「自らの立場」において、「両者を包括し止揚しなければならない」ということが「思想的な問題」である（『思想の基準をめぐって』）、「なぜならば、思想は物質ではなく外化された観念である」からである、この「観念（≪思想≫）の運動は、観念（≪思想≫）によってしか埋葬され」ないから、「甲の観念（≪思想≫）は、乙の観念（≪思想≫）がそれを包括し止揚することによってしか、いいかえれば甲の観念（≪思想≫）を生かして袋に入れること（≪否定的に媒介すること≫）によってしか滅びないからである」（『カール・マルクス』）。
バルト自身は、首尾一貫した、その思惟と語り、その原理、その概念構成において、次のように述べている――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！ 神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のために なし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の『イエス・キリストの信仰』は、明らかに＜主格的属格＞として理解されるべきものである）」（『福音と律法』）・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、（≪客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在として」、全く≫）現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが（≪客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在」として、全く≫）現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」（『福音と律法』）、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を与えられた「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」（『ローマ書新解』）。
われわれは、神の本質の単一性と区別、神の本質の区別を包括した単一性、神の本質のその総体性から、「裁きの概念と必然的に結合」している「神の義の概念」を、すなわち「神の義の概念から、……善と悪についての、報償と刑罰についての決断という考え方」を「簡単にはぎ取ってしまった……一直線的な思惟の仕方に陥らないよう警告が与え」られている。「神の義の何かある放棄あるいは緩和は言うまでもなく問題となり得ないのであって、ここでは神の義そのもの、その本質とその厳格さ全体の中での神の義そのものが問題でなければならない」のであって、「その神の義は、われわれの罪と悲惨の中での慰めと助け、われわれの罪の赦しの約束と遂行であるが故に、まさにそれ故にこそ、われわれが神の義をまことにイエス・キリストの中で（≪その死と復活の出来事の中で、その全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在の中で≫）認識すべく持つ時に、一つの考察が場所を得てこなければならない。それは、その中で（神の義についての近代的な解釈に反対しつつ）どうしても神の義の、各人ニ彼ノモノヲ帰属セシメル正義としての性質が力を奮わなければならない一つの考察である」――神の本質の区別を包括した単一性において「神の義は、裁く義である。したがって、無罪放免すると共に有罪の判決を下す……義である」、「報償を与えると共に刑罰を加える義である」。このような訳で、われわれが、その神の本質の区別を包括した単一性について認識し自覚しないで、「イエス・キリストの中における神の義を、人間的な罪の悲惨さに対する慰めと助けとして、この罪の赦しの約束と遂行として見そして理解する」する理解の仕方（部分を抽象する、部分を拡大鏡にかけて全体化する思惟と理解の仕方）に「陥らないように警告が与えられ」ているのである。「神の義の概念から、裁きの概念と必然的結び合わされている……善と悪についての、報償と刑罰についての決断という考え方を、簡単にはぎ取ってしまった……一直線的な思惟の仕方」を為し、神の本質の区別を包括した単一性について認識し自覚しなかった「正統主義は、……（≪神の本質の区別を包括した単一性において≫）神の義が神のあわれみと一つであるという単一性をあいまいにしてしまった」のである。したがって、われわれは、「神の義を、（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、まことの神にしてまことの人間、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）イエス・キリスト（≪その死と復活の出来事≫）の中で啓示された神の義として、必然的に神の愛と恵みの一規定として理解されなければならないが故に」、「まず第一に神のあわれみとの単一性の中で見そして理解しようと試みてきたのである」。このような訳で、「各人ニ各人ノモノヲ帰属セシメル正義としての神の義の性質は、……さし当たってまず後退しなければならなかった」のであるが、「しかし、（≪われわれは、≫）神の義が現実の義、すなわちイエス・キリスト（≪その死と復活の出来事≫）の中で啓示された神の本質的な義であるならば、……神の義は、処罰し断罪する義であるということも可視的とならなければならない」ということについて認識し自覚していたのである。何故ならば、「確かに、そのようなものとしても、それは、神のあわれみ、恵み、愛である」からである。すなわち、「あわれみ、恵み、愛として、神の義は、また処罰し、断罪する義でもあるのである。そうでないとしたら、（≪神の本質の区別を包括した単一性において≫）神の義と神の神聖性が一つである単一性は、曖昧なものとされてしまうであろう」。「われわれは、まさに神のあわれみをこそ、換言すれば神の義は神のあわれみであるというルターの認識をこそ」、「今また、（われわれが回避した）正統主義をあの誤謬へと導いていった関心事を追い求めることによって（≪否定的に媒介することによって≫）、いっそう深く理解しなければならない」。「明瞭に一歩前進するようわれわれを強いる」関心事は、「聖書の証言であり、しかもまさに聖書のキリスト証言である」。「われわれは、確かに既にこれまでいろいろな仕方で、福音と律法が一つである（≪律法は、区別を包括した単一性において、福音を内容とする福音の形式である≫）こと、信仰の悔い改めの性質を指し示してきた」。したがって、われわれは、「神がご自分の義の中で救助の手をさしのべられたイスラエルの困窮と貧しさを、自分の罪と神からの離反を認識し告白しなければならない民の困窮と貧しさとして理解した」のである。われわれは、「神の救う義を、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）信仰の中でつかむこと」によって、「人間が、ただ神の中で・神と共に生きるためには、神の前に消え失せなければならない」ということを認識させられるのである。何故ならば、「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのために彼の死を欲し給う」のであるが、「しかし（≪人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ≫）誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！」であろうからである。
「われわれは、ここで、……神殿の奉献に際して語られた」「各人ノモノヲ各人ニ帰セシメル正義を祈り求める」「ソロモンの祈りでもって始めることができる」――「神殿において義が語られ、また神の裁きが期待される……ことが起こる時、（ソロモンはこう祈る）『あなたは天で聞いて行い、あなたの僕らを裁き、悪人を罰して、その行いの報いをその頭に帰し、義人を義として、その義にしたがって、その人に報いてください』（Ⅰ列王八・三一以下）」。「義なる神は、明らかにまた（≪ご自身の中での神として≫）ご自分のあわれみの中で、悪人を罰し、その行いの報いをその頭に帰し給う方であり、そのことを為し給う」。ご自身の中での神として「神の忠実さが終わりを持たず」、「神の忠実さがイスラエルの不実によって取り去られること」はできず、「あくまでも神の忠実さは、イスラエルの不実と衝突するということは否定されていないのである」。この時、「その限り出来事として起こること」は、「まさに神の義の断罪し、処罰する働きである」。しかし、そうであるからと言って、「神の義はあわれみをやめる」ことはないのである。神の本質の区別を包括した単一性において、「神のあわれみは義であることをやめないのであり、神の義は、神の聖なる本質であり、人間的な不服従と衝突しつつ、そのようなものとして自分を証明することをやめないのである。神は、この衝突そのものの中でも、（≪ご自身の中での神として≫）ご自分にふさわしいところの方であり、ご自分にふさわしいことを為し給う」。このことは、「必然的に、……神が（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた≫）信仰の服従を見出し給うところでは、無罪放免と報償を意味するのと同じように」、「神が（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づかない≫）不服従を見出し給うところでは、断罪と処罰を意味するのである」。したがって、ある教会の牧師が、WEB上でバルトの「『神の人間性』に見る後期バルトの神観」について論じ、「バルトが語る＜神の人間性＞とは」、「たとえ人間が」「神を神とすることを止めて自らを神とし、神の敵として歩み始めたとしても、神は人間と関わりを持つことを決して拒まれないで、あくまでも苦難の中にうめいている人間と苦しみを共にすることを選ばれたということ」であると語った時、神の本質の区別を包括した単一性の認識を欠いたところで、根本的な誤謬に普遍性と組織性の後光をかぶせ語っていたのである。バルト自身は、こう述べている――「＜神の神性＞において、また神の神性と共に、ただちにまた神の人間性もわれわれに出会う」・「神が神であるということがいまだに決定的となっていないような人は、今神の人間性について真実な言葉としてさらに何か言われようとも、決してそれを理解しないであろう」（『神の人間性』）。
神の本質の区別を包括した単一性において、「どうしても次のような具合である」――「それを取って食べると、きっと死ぬであろう（創世二・一七）」、「この律法の言葉を守り行わない者はのろわれる（申命二七・二六）」、「あなたは悪しきことを喜ばれる神ではない。悪人はあなたのもとに身を寄せることはできない。（≪神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求も、と≫）高ぶる者はあなたの目の前に立つことはできない。あなたはすべて悪を行う者を憎まれる。あなたは偽りをいう者を滅ぼされる。主は血を流す者と、人をだます者を忌み嫌われる（詩篇五・四以下）」、「主のみ顔は悪を行う者に向かい、その記憶を地から断ち滅ぼされる（詩篇三四・一七）」。このように、神の本質の区別を包括した単一性において、「罪深いイスラエルに対して、また他の諸民族の不敬虔に対しても為される律法と預言者の脅かし全体は、そしてこの脅かしを実際に実行する出来事についてのすべての報告は、また聖書の中に書かれておりその厳格さと容赦のなさ全体の中で、神の啓示についての、そのようにして神の本質についての、聖書の証言の不可欠な構成要素を形成している」のである。「罪の報酬はローマ六・二三にしたがっても死である」ように、また「『王の婚礼に礼服をつけてこない人（マタイ二二・一三）』、『役に立たない僕として、自分に委託されたタレントを、それを用いて仕事をする代わりに、地の中に隠しておいた人（マタイ二五・三〇）』は、福音書にしたがっても外の暗いところに追い出されて、そこで泣き叫んだり、歯がみをするであろう」ように、「ここでは、……特別に旧約聖書的な関心事が問題なのではない」。「葉のほかに何もつけていないいちじくの木は、イエスによって呪われ、枯れるのである」、「思慮の浅いおとめたちは、婚礼の部屋の閉じられた戸の前に立たされ、『わたしはあなたがたを知らない』という言葉を聞かなければならない（マタイ二五・一一以下）」のである、「そして、人の子をば、その最も小さい兄弟の中で、食べさせず、飲ませず、宿を貸さず、着せず、尋ねなかった人々に向かっては、『呪われた者どもよ、わたしを離れて、悪魔とその使いたちのために用意されている永遠の火に入ってしまえ（マタイ二五・四一以下）』と語られる」のである。「われわれは、Ⅱテサロニケ一・六以下ではっきりと、『あなたがたを悩ます者には患難をもって報いて下さるのが、神にとって正しいこと……である。それは、主イエスが炎の中で力ある天使たちを率いて天から現れる時に実現する。その時、主は神を認めない者たちや、わたしたちの主イエスの福音に聞き従わない者たちに報復し、そして、彼らの主のみ顔とその栄光から退けられて、永遠の滅びに至る刑罰を受けるであろう。その日に、イエスは下ってこられ、聖徒たちの中であがめられるであろう……』と語られているのを読む」。このように「黙示録も語っている」。「確かに、旧約および新約聖書は、イスラエルを、また教会を、（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた≫）信仰へと呼び召している。それと共に、まさに神の義（≪ローマ３・２２およびガラテヤ２・１６等によれば、ギリシャ語原典の「イエス・キリストの信仰」の属格の主格的属格として理解された「神の義、神の子の義、神自身の義」≫）のこの働きに際して救われることに信頼するよう呼び召している」。「旧約および新約聖書は、隠さないで、……はっきりと言葉に出して、そのことを指し示している」――このことが、「旧約および新約聖書が、彼らを信仰へと呼び招く際の力強い強調点である」。すなわち、神の本質の区別を包括した単一性ににおいて、「神の義の働き」は、それ故に「神のあわれみの働き」は、「またわれわれは信仰なしには確かに逃れられないであろう神の裁きであり、われわれがただ信仰を通してだけ保持されている奈落であり、われわれがただ信仰の中でだけそれから守られているところの滅び……でもある……」、その現にあるがままの「われわれが（≪不信仰で罪と穢れに満ち満ちた≫）自分からしては当然のこととしてそれに値した滅び、それから自分では逃れることのできないところの滅び、それからわれわれはただ、（このことが、言うまでもなく信仰において問題なのであるが）もはや自分からして生きることに頼らず、また自分自身をもはや自分からして生きることに頼らせられず」、「むしろ神が、自分たちのために生きて下さるということの中に感謝と共に自分を見出す者として、認識し、行動するということを通してだけ、救い出されるところの滅びでもある」――「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」。「人はよく理解せよ」――あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた悔い改めを伴う「信仰の中で、われわれは」、「無償で赦しを与え・報いを与える」「神の義をつかむのである」、それ故に「もう一度後ろを振り返り、結局また永遠の罰と死の現実を、あるいはただ可能性だけでもさらに考慮に入れようとする者は、あるいはそのような者を相手に遊ぼうとする者は、ロトの妻の不信仰であるだろう」。「何故ならば、そのことは、決して真剣な考慮ではなく、軽率な遊びであるであろうからである」。「人間をば、信仰を中断させ、彼の救いについての」、イエス・キリスト（その死と復活の出来事）における「神の啓示の中で既に下されている決断を、（≪恣意的独善的に≫）再び括弧に入れ、……両方の道の終わりのところで、こちらでは永遠の栄光が、あちらでは永遠の炎が明らかになってくる分かれ道のところに置くようにと導く者は、常にただ偽りのキリスト教的真剣さであることができるだけである」。このような「左右均衡の中で、すべての異教的な終末論は思惟する。しかし、聖書は、決してそのような二つの道をわれわれの眼前に置きはしないのである」。『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』では、次のように言われている――聖書によれば、聖霊は、われわれ人間の「救済主」（われわれ人間的主観に対して、神の恵みの出来事を実現させる救済主、信仰の認識としての神認識を、啓示認識・啓示信仰を授与する救済主）である。しかし、聖霊は、「救済主」であるだけでなく、その存在の本質である単一性・神性・永遠性において、「子とともに、子の霊として、また和解者」でもあり、また、「父および子とともに創造主なる神」でもあるのである。新約聖書の「イエスは主である」という「証言」は、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストを、「事実の承認」として・「思惟の初め」として語っている。したがって、この「イエスは主である」・「子を通しての父を、父を通しての子」を信じるこの信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、キリストにあっての神との出会いであるイエスとの出会い、この「信仰の出来事」は、聖霊の注ぎによるのである。この信仰の出来事は、新約聖書において、「啓示の出来事の中での主観的側面」、「聖霊の注ぎ」による人間的主観に実現された神の恵みの出来事、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の授与の出来事のことである。この出来事において、われわれ人間は、イエス・キリストにおいて完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和を認識することができるのであり、われわれ人間のそのあるがままの現実存在を認識（自己認識・自己理解・自己規定）させられるのである、ちょうどイエス・キリスト（その死と復活の出来事）における啓示の出来事において、生来人間は、神の「恵みに敵対」し、「神の恵みによって生きようとしないが故」に、「このことこそ、第一に恵みが解放しなくてはならない人間の危急」であったということを、われわれ人間は自己認識させられるように、換言すればわれわれが「本当に神の啓示を認識する時、われわれは初めて」、「神に対する人間的反抗」、「神の敵」、「神に相対して、自分の力を誇り、まさにそのことの中でこそ罪深い堕落した人間」としての自分自身を、またそのような人間の「世」（時間）を自己認識させられるように。「成就された時間」である「本来的な実在としてのイエス・キリストの新しい時間」であるキリストの復活における「神の勝利の行為」は、終末、復活したキリストの再臨、完成までは、「敗北者もまた依然としてそこにいるところの勝利の行為」であるから、イエス・キリストにあっての救済を「信仰の中で持つ」ことは、「約束として持つ」ことである。「われわれはわれわれの未来の存在を信じる。われわれは死の谷のさ中にあって、永遠の生命を信じる」。「この未来性の中で、われわれは永遠の生命を持ち所有する」。この「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である。新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」・「満たされた人」は、「召されていること、和解されていること、義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」の啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである。ここで、「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」（われわれ人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍）にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実として、それ故に客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。「われわれは、この呼び招きを通して、はっきりと、われわれのために生きて下さり、われわれのために生きるご自分の命を通して、われわれを救って下さる神へと呼び召されているのである」。しかし、「まさに必然的に信仰へと呼び招く招きに属している」ところの「神の義の断罪し、処罰する働きを指し示す指し示し」は、「われわれのために生き給う神の生を、それ故に裁きからのわれわれの救い」を、「われわれには値しなかったこと、われわれにふさわしくないことが（≪われわれの身に≫）及ぶところの神のあわれみとして理解すべきであるということ」を「指し示そうとする」のである――「これが、事柄の一つの否定的な側面である」。何故ならば、われわれ人間の側において「われわれがわれわれの存在、行為、態度の中で値したこと、われわれにふさわしいことは、常に神の義のあの断罪し処罰する働き（≪の対象≫）であるし、常にそのようなものである」からである、人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、その現にあるがままの人間存在としての「われわれは、われわれの存在、行為、態度の中で、常に神の忠実さとぶつかるあの軋轢の中に自分を見出しているからである」、見出すからである、神は神である神の側の「神の忠実さがわれわれに出会う時、それに対して（≪その現にあるがままの人間存在としての≫）われわれの側から、われわれの存在、行為、態度として持ち出すところのものは、常に不忠実である」からである、われわれは、「神の忠実さがわれわれに出会う時」、「常に思慮の浅いおとめ、役に立たない僕として、常に実を結ばないいちじくの木として、不平を言い、心を頑なにした、偶像崇拝するイスラエルの民として」、われわれの「正体を暴露され」「明らかに」されるからである――「すべての人間は神の前で義とされない（ローマ三・二〇）」、「主は人の悪が地にはびこり、すべてその心に思いはかることが、いつも悪い事ばかりであるのを見られた（創世六・五）。これは、ノアの洪水の前に為された確認」であるが、「しかしノアの洪水の後でも（創世八・二一）繰り返されており、しかもはっきり言葉に出して、今度はさらに引き続いての神的な刑罰を思いとどまることの前提として繰り返されている確認である」。「主は天から人の子を見おろして、賢い者、神をたずね求める者があるかないかを見られた。彼らはみな迷い、みな等しく腐れた。善を行う者はない、ひとりもない（詩篇一四・二－三）」。「信仰が、まことの信仰として」、「人間をその全き滅びに陥った状態の中で見出し、人間を死から救い出し、そのようにして生命へと移し入れ給う方として神を賛美するために」は、全き「自由な神のあわれみに対して栄誉を帰するようになるために」は、「全き服従の信仰の中で」、「人間に対して何も負ってはおらず、むしろその方に対して人間がすべてを負っているところの」キリストにあっての神に「結ばれ続けているために」は、「人間が救い出され、その上に人間が保持されているところの深淵を想起することが必要である」。「まさにあわれみ深い神をほめたたえるこの讃美こそ」が、「まことの生ける神に対する、全く明らかな、全くふさわしい讃美であるためには」、その讃美は、「それとしてその神の義に対しても、捧げられなければならない」。神の本質の区別を包括した単一性からして、「神のあわれみは、もしそれがまた神の義でもないならば、神のあわれみではないであろう」、「それは、救う（≪不信仰・無神性・真実の罪のただ中を、「罪と汚れ」のただ中を生きるわれわれ人間の救いを生じさせる≫）神的なあわれみではないであろう」。また、神の本質の区別を包括した単一性からして、「もしもわれわれが、まさに神のあわれみの中でまた神の義を讃美するのでないならば、神のあわれみを讃美してはいないであろう」。
「……ここで考察されるべき、神の啓示の中でと神の本質の中で、前もって与えられている（神のあわれみの深さ、力、能力を問うすべての問いに対する）答え」は、「信仰の中でつかまれるべき神のあわれみ」が、「どの程度まで」「神の裁く義であり、それによって神のあわれみとして、すなわち神的な、それと共に永遠の現実の助けを与え、勝利を収めるあわれみとして認識可能であるのか」という点にある。イエス・キリストにおける「神の啓示」は、「まさに神の断罪し、処罰する義そのものが、それとして神のあわれみの深さ、力、能力である」という認識をわれわれに与える――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給う のである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！ 神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等（≪ギリシャ語原典≫）の『イエス・キリスト＜の＞の信仰』（≪の属格≫）は、明らかに（≪徹頭徹尾、神の側の真実としてある≫）主格的属格として理解されるべきものである）」（『福音と律法』）。ここのところで、われわれは、「この使信の中心のところにいるのである」。したがって、「もしもわれわれが、神が……ご自分の義の故に怒り、断罪し、処罰する神であり給うということを全く真剣に受け取ることを……しないならば、われわれは、この使信をただ聞き逃すことができるだけであり」、それ故にこの使信を「理解」することはできないのである。神の本質の区別を包括した単一性において、「神は、ただ単にそのような方ではあり給わないが、……そのような方でもあり給う」、それ故に「もしも神がそのような方であり給わないならば、神」は、われわれが「その方のところへと」、「われわれが（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた、悔い改めを介した≫）信仰へと呼び出される時に召し出されるところのわれわれのために生きておられる神ではないであろう」、それ故にまた「われわれが真剣に、その方にしがみつき、その方を固く取って離そうとしないならば」、また「われわれが、われわれのためにその方を通してその方ご自身の中で起こっており、われわれに対して提供されている救いを受け取ろうと欲するならば」、また「われわれが、実際に信仰の中で前方（≪キリストの再臨、終末、完成≫）を見、後方を見ようと欲しないならば」、われわれは、「まさに……神はまた怒り、断罪し、処罰し給うということがないことを願ったり、そのことを看過したり」、その「認識を弱めることによって、そのことを回避しようと欲することは許されないのである」。「ただ万人を憐み、万人万物を解する神様ばかりが、われわれを憐んで下さる」、「神さまは万人を＜裁いて＞、万人を＜赦され＞」、「最後の日にやって来て」、「……われわれに、御手を伸ばされる。その時こそ何もかも合点が行く！……誰も彼も合点が行く」、「主よ、汝の王国の来たらんことを」（ドストエフスキー『罪と罰』）――「われわれが神を本当に愛するならば、われわれは、神をまた怒り、断罪し、処罰し給うことの中でも愛さなければならない」のである、換言すればそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、第三の形態に属する全く人間的な教会のわれわれの宣教、われわれの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストの福音、＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」を志向し目指していかなければならないのである、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していかなければならないのである。このような訳で、神の本質の区別を包括した単一性において、「われわれに対する神の愛（≪神の恵みとあわれみ≫）を、また神が怒り、断罪し、処罰し給うこと自体の中でも見、感じ、認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）しなければならない」のである。何故ならば、「まさに神的な愛」が、それ故に「神の恵みとあわれみ」が、「必然的にまた自余の聖書全体の意味また意図でもあるとして認識されなければならない際の明瞭さと同じ明瞭さをもって証しされるところでこそ」、「まさに神の恵みとあわれみが一度ですべてにわたって力を奮う仕方で出来事となったところでこそ」、「換言すればイエス・キリストの中で出来事（区別を包括した単一性における死と復活の出来事）となったところでこそ」、「神の恵みとあわれみは、新約聖書の誤解の余地を残さない証言そのものによれば、神的な怒りの行為、裁きの行為、処罰の行為として、われわれに出会う」からである（引用した『福音と律法』を参照）。しかし、神の本質の区別を包括した単一性において、「イエス・キリストの死人からの甦りも出来事となる限り、ただ単にそのようなものとしてだけではない」、すなわち「神的な怒りの行為、裁きの行為、処罰の行為として」だけではない。この限り、「そこで起こることは、（≪ご自身の中での≫）神のみ心にかなうこと、神的な無罪放免、神的な報償の行為の中での神の義である」。ここで「一瞬たりとも忘れられてはならない」「甦られた方はほかならぬ十字架につけられたイエス・キリストであるということ」は、神の本質の区別を包括した単一性において、「復活日（≪成就された時間、「あの四〇日（使徒行伝一・三）」≫）の神的な『然り』」は、「復活日の神的な然りがそれから切り離されることができないところの」、「それなしでは復活日の神的な然りは決して神的な然り、無罪放免、報償を与える神的な義ではないところの」、「神的な否を前提として持っているということを意味」しているのである。
このことは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』では、次のように言われている――◎「新約聖書の証人たち」は、このキリスト復活の４０日をおぼえる想起において、「キリストの死」と「キリストの生涯」を想起する時、「光を得た」のである。彼らは「甦えりの証人」である。そして彼らは、「既に来た方」イエス・キリストは「またこれから来たり給う方」であることを語るのである。「新約聖書の信仰」は、「想起の時間」である「聖霊降臨日のあとの時代」である。したがって、この「想起の時間」、聖霊降臨日以降の時間は、「成就された時間」（キリスト復活の４０日）ではない。しかし、その「想起の時間」は、「甦えられた方」、復活のイエスをおぼえる「想起の時間」として、必然的に「甦えられた方を待ち望む待望の時間」、復活したキリストの再臨、完成、終末、救贖を待望する時間であり、そのようにしてそれは、「成就された時間」（キリスト復活の４０日）に参与する。ここで、「すべての以前と以後においても」「同一の方であり給う」イエス・キリストにおいて、未来（復活したキリストの再臨、完成、終末、救贖）を考えること・すなわち待望することは過去（キリストの復活の４０日）を考えること・すなわち想起することであり、過去（キリスト復活の４０日）を考えること・すなわち想起することは未来（復活したキリストの再臨、完成、終末、救贖）を考えること・すなわち待望することであると同時に、「成就された時間」（キリスト復活の４０日）の前の過去を考えることでもあるのである。◎また、「福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」。すなわち、「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫）へのキリストの十字架でもって終わる古い世」・時間は、復活へと向かっている」。「イエス・キリストの時間」・「時間の主の時間」は、「問題に満ちた非本来的な失われたわれわれの時間」・世の中で、「実在の成就された時間」（キリストの復活）であり、ここに、「まことの現在」、「まことの過去と未来が存在する」し、起源的な第一の形態の「神の言葉」がある。このような訳で、敗北者である「われわれ人間の失われた非本来的な古い時間」・世は、神の側の真実としてのみある、それ故に客観的現実性としてある、「成就と執行」としてある、「永遠的実在」としてある完了・成就された「イエス・キリストの時間」、「新しい世」・時間のはじまりであるキリストの復活における「神の勝利の行為」によって包括され止揚され・克服されて「そこにある」。したがって、このキリストの復活における「神の勝利の行為」は、キリストの再臨、完成、終末までは、「敗北者もまた依然としてそこにいるところの勝利の行為」なのである。
さて、「聖金曜日の出来事は、神的な＜否＞の出来事である」。この「神的な否の出来事」は、神の本質の区別を包括した単一性において、「神的な然りの前提である神的な否」の出来事であり、「神的な否として神的な然りを既に自分の中に含ん」でいるのであるが、それだからといって、「少しも劣らずはっきりと神的な否として聞かれ、理解されることを欲するところの神的な否、裁きそのもの……として聞かれ、理解されることを欲するところの神的な否の出来事である」。逆に言えば、「聖金曜日の出来事は、その永遠の炎をもって燃えている火こそ、光、その輝きの中であの旧約聖書的な裁きの脅かしと裁きの行為の本当の恐ろしさも実際に可視的な光となるところの裁きである」。この時、「人が、聖金曜日の恐ろしさを見、理解したならば、すべての時代と地域におけるイスラエルの運命を、それだけ独立させてみることができないということ、ここではいかなる独立的な火も独立的な光を広げないということ、すべてのことは、たとえそれ自体それがどれほど恐ろしいものであるかのように見え、また事実そのような恐ろしいものであろうと、聖金曜日に起こった無限に多くの恐ろしいことの反映でしかない」ということである。「この出来事の火の光は、もっと遠くにまで及んでいる」。「イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給たこと」、すなわち十字架の死という「聖金曜日の出来事」は、「裁きである」――この「真剣さ」と比較衡量するならば、「われわれが世の初め以来、諸民族の上に、また個々の人間の上に起こっているすべてのその他の裁き」は、「より僅かな真剣さしか、しかも再び無限により僅かな真剣さしか持たないところの裁きである」、「何千、何百万もの人々の上に起こったし、起こっているし、起こるであろう大いなる自然の大災害と歴史上の大災害から、われわれすべての者が、早晩、健康、財産、生きる可能性の欠乏という点で、自分自身のあるいは他人の愚かさと悪意の結果として、結局またわれわれ自身の死の全く独一無比の形態において、それぞれ身に受けなければならないことに至るまで、すべてのその他の裁き」は、「より僅かな真剣さしか、しかも再び無限により僅かな真剣さしか持たないところの裁きである」。したがって、「病気と困窮ということでもって、個人ひとりびとりの内的、外的な不幸ということでもって、諸民族の生における戦争、飢え、暴政、革命ということでもって、最後に制止し難い仕方ですべての者とすべてのことの上に広げられていく死体の覆いということでもって意味されているところのこと」は、「聖金曜日の出来事のところで」、「それのまことの恐ろしさの中で」、「初めて、……明らかとなるのである」（先に引用している『福音と律法』を参照）。言い換えれば、イエス・キリストにおける啓示とは「独立させて見」られたところの、人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍からするそのような病気、困窮、不幸、戦争、飢え、暴政、革命、死ということでもって意味されているところのことは、それらのことを、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる啓示認識・啓示信仰に依拠してイエス・キリストの死と復活の出来事における「聖金曜日の出来事のところで」・「それのまことの恐ろしさの中で」見る時、「すなわち聖金曜日の出来事と一緒に見る時」、「初めて」、その本来的な意味において「明らかとなるのである」、本来的な意味において理解することができるのである。その時には、「それらすべてのこと」は、「それ自身として重みを持っていないが」、しかしイエス・キリストの死と復活の出来事における聖金曜日の出来事と一緒に見る時、「確かに重みを持つようになる」のである。その時には、「それらすべてのこと」は、「ゴルゴタの十字架」の場所からして、すなわち「苦しみと死の持つ無限の重みが実際に担われ・身に負われたその場所からして」、「換言すればわれわれの苦しみと死は……それの徴として、……もはや見逃すことのできない一つの証言となるところの、イエス・キリストが苦しみと死の持つ無限の重みを担われ・身に負われたその場所からして」のみ重みを持つようになるということを認識する時には、また「同時に……それらすべてのことは、まさにもはやあの苦しみと死の、イエス・キリストの受難の、イエス・キリストが神の永遠の怒りを身に受けて下さることの＜一つの徴＞以上のものではないといことに対して感謝するようになる時」には、それらすべてのことは「必然的に違った」重みを持つようになるであろう。何故ならば、イエス・キリストの死と復活の出来事における「ゴルゴタの十字架」の場所は、個体的自己としての人間の、その人間の類の、その時間（その現存性と歴史性）のすべての罪が、「すべてのイスラエルの罪が、全人類のすべての罪が、われわれの罪とわれわれの罪の一つ一つが、事実、神的な怒りと神的な報復の対象となったということ」が、イエス・キリストの死と復活の出来事における「聖金曜日の恐ろしさであり、神的な否だからである」――このことを、「よく理解せよ」。したがって、「すべてのイスラエルの罪が、全人類のすべての罪が、われわれの罪とわれわれの罪の一つ一つが、事実、神的な怒りと神的な報復の対象となった」のはイエス・キリストの死と復活の出来事における「ゴルゴタの十字架」の場所においてであって、「金の小牛を刻んだ後での大いなる殺戮において」ではないし、「コラの一味の没落において」ではないし、「ペリシテ人によるサウルの敗北と自殺において」ではないし、「ダビデがアブサロムによって苦しまなければならないことにおいて」ではないし、「サマリヤの、そしてイスラエルの滅亡において」ではないし、「バビロンの民の捕囚において」ではないし、「紀元七〇年における神殿礼拝とユダヤ国家の究極的な消滅においてでもない」のである。「歴史的形態における苦しむ『神の僕』」は、それが「預言者のそれであれ、民族全体のそれであれ、民族の王のそれであれ、あるいは同時にそれらすべてのものであれ」、全自然や全人間とは全く異なるところの、「全く他なる者の代理者である」。「イスラエルにおいて本当に苦しむ者、神の怒りと裁きを身に受ける者」は、「それとしてイスラエルそれ自身」ではなく、「それは、その方を待望することの中にイスラエルが自分の存在の意味を持っているところの方、その唯一の受苦日を苦しみ給うイスラエルのメシヤである」、「イスラエルではなく、その方が、本当に苦しむ者であり給う」。イスラエルは、「ゴルゴタにおける神の怒り実際の引き裂き、打ちたたくこと、殺すことの反響と余波として苦しむのである」。このことから、「ある人々が、あらゆる時代において、ユダヤ人に対して為したこと、また今日もユダヤ人に対して為しうることすべての無限の空しさ預言されることのできる成果のなさは成り立っている」。「それらは、まさにただキリストが十字架につけられことの徴を、それと共に神の現実の裁きの徴を、もう一度立てることができるだけなのである」。言い換えれば、「神の現実の裁き」は、「キリストが十字架につけられること、全くただキリストが十字架につけられることだけ」なのである。したがって、この十字架の出来事は、「イスラエルに対するすべてのその他の裁き」が、「またこの世とわれわれ人間に対するすべてのその他の裁き」も、その出来事を「予表することができたし、模写することができるだけであるところの現実」であり、このことが「この出来事の恐ろしい点である」。「すべての旧約聖書の裁きと脅かしと裁きの行為の本来的な実体」が、すなわち「人間のすべての不信心と不義（≪神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという不信仰・無神性・真実の罪）≫）に対する神の怒りの啓示が（それがなければ、啓示は神の啓示ではないであろう）、そのところで出来事となったということ」が、「キリストが十字架につけられたことの恐ろしさである」。「何故ならば、人間の罪が、そして人間の罪と共に罪深い人間が、神の怒りと裁きの対象となったということ」を、「人は、本来的に、厳格な意味で、ただこの出来事（≪神の本質の区別を包括した単一性――すなわちイエス・キリストの死と復活の出来事における「聖金曜日」・「ゴルゴタの十字架」・「十字架の死」≫）を念頭においてだけ言うことができるからである」。個体的自己としての人間、その人間の類、その現存性、その歴史性が、「世界史、またすべての個人の生の歴史」が、「緩やかにしのび込んでくる、あるいは突然入り込んでくるあらゆる種類の困窮、災難と大災害について、苦しみと死について報告することができるすべてのこと（黙示録一五－一六章に出てくる神の怒りの鉢を注ぎ尽くすこと）」――それらすべてのことは、「まだあるいはもはや神の裁きそのものではないということについて、人がはっきりと分かってくることを通して」、その「事実の真剣さ」は、「緩和されるのではなく、むしろその時初めて……正しい光の中に入れられ、そのことでもって初めてそれは本当の真剣さとなるのである」。これらの「すべての苦しみと死」は、「イスラエルが、すべてのことにも拘らず、繰り返しそこにあったし、繰り返しそこにあるであろうのと正確に同じように」、「当然に値した終焉ではなかったし、終焉ではないのである」から、「常にわれわれはそこにいたし、常にわれわれは再びそこにいるのである」。「なお依然として、繰り返しそれらの時間と場所が存在するのであり、われわれは、他の人々の上にあるいはわれわれ自身の上に襲いかかるもっと難渋な出来事に対して、それらを看過することが、あらゆる種類の解釈を加えることによって、とりわけそれらを忘れてしまうことによって、距離をとることができるのである」、ちょうど『証人としてのキリスト者』で、バルトが最終的に離脱した宗教的社会主義における「そこでの人間の困窮と人間に対する助けとが、聖書が理解しているほどには、真剣に理解されておらず、深く理解されていなかった」ように。何故ならば、悔い改めを伴うあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる啓示認識・啓示信仰におけるイエス・キリストの死と復活の出来事における「聖金曜日」・「ゴルゴタの十字架」・「十字架の死」（それ故に「われわれが」、黙示録一五・一にある「しるし」としての≫）われわれの身に起こることの中で、神の怒り＜そのもの＞を耐えなければならないという考え方は、われわれにとって、幸いなことに正しくないのである」）を後景へと退けた仕方で、「もし万一われわれが、われわれの身に起こることの中で、本来的に、究極的に、実質的に、神の怒りおよび裁きと関わらなければならないとしたら、われわれはそのことを純粋に物理的に耐えること」ができないからである。「正しいこと、換言すればこの事柄全体の聖書の意味にただそれだけが適っていること」は、「ハイデルバルク教理問答書、問い一四に書かれている」ところの、「被造物に過ぎない者が罪に対する神の永遠の怒りの重荷を担うことできません」という点にある。何故ならば、「神の真にほとばしり出る、報復する、打ちたたく怒りを前にしては、被造物は滅び失せる」だけだからである、「神のまことの裁きは、（≪被造物としての≫）われわれは終わりであるということを意味するであろう」からである。しかし、「周知のように、（中略）イスラエルがその都度終わりではなかったし、終わりではないであろうように、われわれも終わりではない。周知のように、われわれは、なお依然として、繰り返し時間と場所を持っているのである」。このような訳で、「われわれに時々突き当たったところのこと」は、「たとえそれがわれわれの心をどんなに深く傷つけるものであろうとも」、「まだ神のまことの裁きであることはできなかったし、あるいはもはや神のまことの裁きであることはできなかったのである」。すなわち「それは、ただそれの＜徴＞であることができるだけであり、ただそれについての真剣な＜証言＞であることができるだけである」。人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリスト（≪その死と復活の出来事≫）の人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」。