本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　二神のあわれみと義」（その５−３）−１（２４１−２５７頁）

引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）

「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」
「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１２９頁）

〔この定式の詳述〕
　この定式の詳述については、>『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−１）−１で行っていますので、参照してください（２０１８年５月２１日論述分）。

註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。

「三十節　神的愛の完全性　二神のあわれみと義」（その５−３）−１
　神の本質の単一性と区別、神の本質の区別を包括した単一性、その神の本質の総体性において、「聖書の中で神と呼ばれている方」（イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現されたキリストにあっての神）は、「徹頭徹尾、審判者であり」、「神の啓示は……神の意志を義として告げ知らせ、すべての不義から区別する律法であり」、「神の行為（≪全き自由の神の存在としての神の愛の行為の出来事≫）は……この律法を実行に移すことである」。この点で、「新約聖書は、……旧約聖書とちがってはいない」。「また、新約の奉仕も、『義を宣言する務め』（�Uコリント三・九）である」。また、新約聖書においても「『人をそれぞれの仕業に応じて、公平に裁く方を、父と』（�Tペテロ）呼ぶ」。「また、新約聖書の中で宣べられているイエス・キリストの座も、……善であれ悪であれ、自分の行ったことに応じて、それぞれ報いを受けるところの裁きの座である（�Uコリント五・一〇、ローマ一四・一〇）」。「また、新約聖書の中でも、恐れおののいて自分の救いの達成に努めなければならない。何故ならば、『あなたがたのうちに働きかけて、その願いを起こさせ、かつ実現に至らせるのは』（ピリピ二・一二−一三）神だからである」。また、新約聖書において、「まさに（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて授与された≫）イエス・キリストを信じる信仰（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）……の中でこそ、その信仰に対してご自身を啓示された方に対する責任の中で生きる」――「おおよそ、持っている人は与えられていよいよ豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられるであろう（マタイ一三・一二）」。神の本質の単一性と区別、神の本質の区別を包括した単一性、その神の本質の総体性において、「神がその義の中で、事実寛大ナ父であるということは、義ナル裁判官であることをやめ給うことを意味」しない。
　したがって、このことは、「時折、ルターに対して語られなければならないであろう」。しかし、このことは、「とりわけA・リッチュルに対して語れなければならない」。何故ならば、リッチュルは、神の本質の単一性と区別、神の本質の区別を包括した単一性、その神の本質の総体性という事柄を認識し自覚しないで、「神の義」を、「人間を救いへと導く……部分的には旧い契約の敬虔で誠実な信者たちに対して確証され、部分的には（その中で神の支配がその救いのために完成される）教会のために待望される神的指導の首尾一貫性へと解消してしまった」からである、「換言すれば、神の義の中でただ『キリストの教会が成立し、その完成に向かって導かれる特有な成果の標準』だけを見てとろう」としたからである、「さらに言い換えるならば、神の義を結局そのまま恵みと同一視」してしまったからである。この場合、第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教における、その思惟と語りにおける「先ず第一義的に優位に立つ原理・規準・法廷・審判者・支配者が、先行する起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）から、後続する第三の形態に属する全く人間的な教会（その成員）に移行してしまうことになる、すなわち人間・リッチュルの恣意性独断性へ解体されることになる。したがって、その神は、人間自身が対象化したに過ぎない「存在者レベルでの神」に、その神の名と呼びかけによる救いや平和の企てとなる。神の本質の単一性と区別、神の本質の区別を包括した単一性、その神の本質の総体性において、「確かに神の義は神の恵みと同一である」が、その区別において「まさに神の義としてこそ、それは、神の恵み」なのである。同様に、「Fr・ニッチが、神の義に対して」、「アリストテレスに従って『法を傷つけたり、不公平になることなしに、個々の事情を酌量する裁判官の温和さ』の意味を与えようとした時、そのことは（≪聖書的啓示証言における神の義の≫）意味内容を緩和させてしまうこと」になるのである。この「ニッチによれば、神は、……ご自身を支配し、もともと自分にとって固有である神聖性から由来する標準を、契約の民が特別にいたわりを必要としている事情を考慮しつつ『歯には歯を』もって報いず、温和な裁判官および主権者として恵みをして支配させる主および贖う者である」。しかし、「神が、事実温和さをして支配させ給うということ……については、神の忍耐の観点の下で語られなければならないであろう」が、教会の宣教・「神学は方法論的には、ほかの学問のもとで何も学ぶことはない」し、「われわれが哲学的(≪法的等、すなわち人間学的≫)用語を使うという事実にも拘らず、神学は哲学的(≪法的等、すなわち人間学的≫)試みが終わるところから始まる」(『バルトとの対話』)のであるから、「アリストテレスからはここで何も引き出すものはない」と言わなければならない。言い換えれば、「聖書的な記述の中では」、「神の義について、……個々の事情を酌量するとか、そのように神の義をその温和さによって限界づける（≪「緩和させる」≫）とか、（≪その比較衡量において≫）神は『義よりも恵み』を優先させるとかいうことについてはどこにも語られておらず、むしろいたるところ、神は義をして無条件的に義たらしめ、不義をして同じように無条件的に不義であらしめ、それに従って、（一方の側に向かっても他方の側に向かっても……小指一本ほども撤回することなしに）裁き、報い、罰し給うことについて語られている」のである。したがって、「ただこのこと」を、「人が……（≪「限界づけ」たり、「緩和させ」たりすることなく、徹頭徹尾≫）無制限に力を奮わせる時にだけ」、「人は、神の義は事実神の愛の規定であることが何を意味するかということ」を、「その裁きの中で受け取られるものが神の恵みであることが何を意味するかということを理解する」ことができる、ちょうどイエス・キリストにおける死（神の放棄、律法、裁き、罪、死）と復活（神の選び、福音、恵み、義、生命）の出来事において、われわれは、生来人間は、神の「恵みに敵対」し、「神の恵みによって生きようとしないが故」に、「このことこそ、第一に恵みが解放しなくてはならない人間の危急」であったということを認識し理解することができるように。このことを理解するためには、「その恵みの中で受け取られることが裁きであるということが理解されなければならない」、ちょうど「福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」ように、すなわち「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫）へのキリストの十字架でもって終わる古い世」・古い時間は、復活（「成就された時間」・新しい世の初まり）へと向かっているように（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）。キリストにあっての「神は、まさにそのあわれみの中で罪を赦し給うことによって、裁き給う」。したがって、バルトは、『福音と律法』で次のように述べている――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪（≪「回避」≫）に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性（≪神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという不信仰・無神性・真実の罪≫）を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等のギリシャ語原典の『イエス・キリスト＜の＞信仰』の属格は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」。「パウロは、ローマ一・一六以下で、福音を、その中で神の義が啓示されるが故に、すべて信じる者（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を授与された者≫）にとって、救いを得させる神の力と呼んでいる。それも非本来的な、弱められた、制限された神の義ではなく、(人間のあらゆる不信心と不義とに対して同時に示される怒りの啓示についての)一八節以下が示しているように、無条件的な、それ故に回避できない、また曲げることのできない、徹頭徹尾各人ニ彼ノモノヲ帰属サセル義として理解されるべき永遠の神の義が啓示されるが故に」そうである。したがって、「〔神の義という〕概念を「堅くとって離さない」でいた「正統主義の神学者たち……の犯した過ち」は、「彼らが、聖書の指示に従って」、神の本質の区別を包括した単一性における「神の義の概念」の下で、「神のあわれみを理解せず、理解できるものとしなかった」点にあるのである。「まさに、イエス・キリストが、罪人たちを価なしに義とする恵みの根拠として、その血による贖いの供え物にあらかじめ定められているということは、ローマ三・二四以下で二度強調されているように、神の義を示すためであった」、「神の一つの、正しい意志を実現させるためであった」、キリストにあっての「神自らが義となり、さらに神ご自身が義となることによって（≪それ故に、「イエス・キリスト＜の＞信仰」の属格は、主格的属格として理解されるべきものである。それ故にまた、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、すなわち起源的な第一の形態の神の言葉、具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれと、聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいて、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を授与された≫）イエスを信じる者を義とされる（ローマ三・二六）ためである」。したがって、『福音と律法』および『ローマ書新解』では次のように言われている――「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」・「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」、「われわれは、われわれの（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である主格的属格としての「イエス・キリストの信仰」としての神の義そのものである≫）主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」。パウロが、ローマ三・「二八節で信仰による義をはっきりと言葉に出して行いによる義と区別した後で、三一節において、そのことは律法を無効にする」ことでは「断じて」なく、「かえってそれによって律法を確立するのであると述べている時」――このことは、「決して首尾一貫性を欠いた後からつけた留保ではなく、むしろまさに（≪神の本質の区別を包括した単一性において≫）罪を赦す恵みそのものの最も首尾一貫した説明である」、ちょうど神の本質の区別を包括した単一性において律法は、福音を内容とする福音の形式であるように。「また、ちょうど恵みのあの根拠を造り出すものが神の無条件的に正しい裁判官としての主権の行使であるように、（≪われわれ人間にある様々な欲求・欲望のために、「神の恩寵」を「嫌悪し回避」しようとしているということを、また「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」ということを、すなわち自分の理性や悟性や感情や意志や自然を内面の原理とした修行等々によっては「全く信じることができない」ということを認識させられ自覚させられている≫）信じる罪人（ローマ四・五によれば、不信心な者）に対して帰せられるものは、また無条件的な現実の義である」。したがって、「この帰することは、（≪「『大赦』ということではなくて、」≫）この罪人に対して義が事実与えられるようになり、したがって正しく、まことに帰せられなければならないということに基づいて起こる」のである。「H・クレーマーが正しくも述べているように、（≪信じる罪人としてのローマ四・五の≫）不信心な者は、神のみ手の前で救われているのではなくて、神のみ手（≪恵み≫）を通して、しかもその正しいみ手（≪義≫）を通して、救われている」のである、神の本質の区別を包括した単一性において救われているのである。このような訳で、「福音と律法の真理性」の内容は、聖性・秘義生・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストご自身が、われわれ人間のために・われわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」・「律法の完成」・完了）という出来事にある。すなわち、この神の側の真実としてのみあるインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、神と人間との無限の質的差異の下で、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」のわれわれ「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。したがって、ここで、分離・対立においてではなく、また同一性においてではなく、あくまでも神の本質の区別を包括した単一性において律法は、キリストの福音を内容とする福音の形式である。すなわち、ここで、それは、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教における、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（神の命令・要求・要請、福音を内容とする福音の形式としての律法、すべての人々が純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）である。

　キリストにあっての「神は、（≪その本質の区別を包括した単一性において≫）あわれみ深くあることによって、少しもその義を放棄し」給わない、「まさに神は、あわれみ深くあることによって、正しくあり給う」。われわれの「罪を赦す（≪あわれみ深き神の≫）恵みこそが、どの観点から見ても、すなわち神の意志の中でのその基礎づけにおいても、イエス・キリストの死の中でのその遂行においても、それが信じる者に向けられる適用の中においても、徹頭徹尾」、このキリストにあっての「正しい神（≪義なる神≫）の存在証明」である。「神が無知な時代を見過ごしにされる（使徒行伝一七・三〇）ということ」また「ローマ三・二六で言及されている忍耐」は、「罪を是認されるとかあるいはそれを大目に見てそのままにしておくということを少しも意味してはいない」。すなわち、「ローマ三章において」、「その中で神が裁きつつ罪に相対して立ち向かう」「神の義の証明……として表示されているもの」は、「使徒行伝一七・三〇以下では、神が死人からのイエス・キリストの復活を通して、すべての者に信仰を提供された日が明け初めるたこととして記述されている」。『教会教義学　神の言葉�T／１・２』では、次のように言われている――「福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」・すなわち、「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫）へのキリストの十字架でもって終わる古い世」・古い時間は、復活（完了・「成就された時間」）へと向かっている・このキリストの復活（完了・「成就された時間」）は、「新しい世」のはじまりである・換言すれば、「攻撃され」、「否定的判決を受けた」「われわれ人間の失われた非本来的な古い時間」（古い世）は、完了・「成就された」「本来的な実在としてのイエス・キリストの新しい時間」（新しい世）であるキリストの復活における神の「勝利の行為」によって包括され止揚され克服されて「そこにある」・すなわち、その勝利の行為は、「敗北者もまた依然としてそこにいるところの勝利の行為」である・したがって、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられるこの「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である・新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」、「満たされた人」は、「召されていること、和解されていること、義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」の啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである・ここで、「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」（われわれ人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍）にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実として、それ故に客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。また『平和に関するバルトの書簡』では、次のように言われている――平和の概念は包括的な救済概念と同じである。その救済概念は、「この世の神との和解」、「人間相互間の和解を直接その内に包含している和解」である・「神ご自身によって、イエス・キリストの歴史において、その生涯と死において」、すでに完了・成就された、「死人からの復活においてすでに啓示されているような、和解」である・したがって、われわれ人間によって初めて「完成されねばならないような和解」ではなくて、神の側の真実としてある「神ご自身によって確立された和解」である・「イエス・キリストにおいては、神と人間が、しかしまた人間とその隣人が平和的」なのであり、「敵としてではなく、忠実な同伴者、仲間として、共にある」のである・「イエス・キリストにおいて平和」は、「神ご自身が、世界史のまっただ中に創造し見えるものとして下さった現実性」である・「この贈り物は、ただ、われわれがこれを受けとることを待っている」・したがって、われわれが「この事実に向かって、眼と耳を閉ざして生きているということが、悲惨」なのである・そうした中で、われわれは「平和は戦争より善いものであるということを」くりかえし「断言せねば」ならないが、「それらのことは究極的に何の助けをももたらさない」ことは「明白」である（何故ならば、戦争の元凶である一部支配上層の意思によって動員できる巨大で強力な軍事部門を持つ民族国家が存在するからである、世界は経済の世界性とそのような民族国家の一国性を単位として動いているからである）・したがって、世界が必要としている革命的認識は、「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性に信頼し固執し連帯したキリスト教会（その成員、キリスト者）においては、「世界はイエス・キリストにおける神の愛によってすでに解放された世界である」ことに信頼し固執して、「世界の救いを何かある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求めようとしない」ところにあるのである・換言すれば、「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性に信頼し固執し連帯したキリスト教会（キリスト者）は、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、教会の宣教における、その思惟と語りにおける、その実践における原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法）を志向し目指していくところにあるのである、「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していくところにあるのである・この時、「かつて語った（≪キリストの福音についての≫）説教の一貫した繰り返しが、（ある状況下において、その状況に抗するそれとして）おのずから実践に、決断に、行動になって」行くだろう（『バルトの生涯』）、それ故にこの時には、日本基督教団の戦争責任の告白にあるような、すなわちイエス・キリストをのみ主・頭とする教会・教団形成を志向し目指すことをしないで、「まさに国（≪戦争の元凶である一部支配上層の意思によって動員することができる軍事部門を持つ民族国家、私利・私意を精神とする個別的私的現実的な市民社会の観念的法的政治的な共同的疎外態である政治的近代国家≫）を愛する故にこそ、キリスト者の良心的判断によって、祖国の歩みに対し正しい判断をなすべきでありました」というような、身近な大多数の被支配としての一般民衆、一般市民、一般国民の観点を捨象してしまった、また教団指導層の責任の所在の観点を捨象してしまった、全く思慮なき告白などはしないであろう。
　前述した「神の義の証明……として表示されているもの」は、「神がどこにいる人間も、みな悔い改めなければならないことを宣べ伝えるためであり、それに対応しつつ、神が（詩篇九六・一三によれば）義をもって、この世界を裁くためにその日（それは信仰の日である）を定められた」ということである。われわれは、「ここのところで、旧約聖書へと視線を向けることができるし、向けなければならない」。「例えば、イザヤ一・二四以下で、同じ無条件性をもって、まさにエルサレムに対する神の恵み深い行為について、こう言われている」――「このゆえに、主、万軍の主、イスラエルの全能者は言われる、『ああ、わたしはわが敵にむかって憤りをもたらし、わがあだにむかって恨みをはらす。わたしはまた、わが手をあなたに向け、あなたのかすを灰汁で溶かすように溶かし去り、あなたの混ざり物をすべて取り除く。こうして、あなたの裁き人をもとのとおりに、あなたの議官を初めのとおりに回復する。その後あなたは正義の都、忠信の町ととなえられる』。シオンは公平をもってあがなわれ、そのうちの悔い改める者は、正義をもってあがなわれる。しかし、そむく者と罪びととは共に滅ぼされ、主を捨てる者は滅びうせる」。この預言者は、「まさにそのことが起こることによってこそ、……神の言葉をこの状況（≪当時の状況≫）の中へと語りかけているのである」。「そして、主のこの日は、……必然的に裁きの日として記述されなければならないが故に、それだけ恵みの日、救いの日でなくなるのではなく」、「そのようにしてこそ、すなわち（≪神の本質の区別を包括した単一性において≫）神がご自分の義を人間に対して主張され、新しい義、ご自分の義を、人々の間に打ち立て給うことによってこそ、……必然的に意味している驚愕の中で、驚愕をもってこそ、神はあわれみ深く人々に対して行動し給う」のである。したがって、「マタイ三・二および四・一七で洗礼者ヨハネがなし、同じ言葉でイエスがなされたように、まさに悔い改めへの呼びかけとして宣べ伝えられなければならないのでないものは、罪の赦しおよび救済の国としての近づきつつある神の国ではないであろう」、「また、この宣べ伝えが律法と預言者の解消として、あるいは……その使信のもっとも小さな部分においてでも、その使信の解消として理解されるところでは、またその宣べ伝えに、パリサイ人や律法学者の義よりも勝っている（マタイ五・一七−二〇）義（≪神の義そのものとしての主格的属格としての「イエス・キリスト＜の＞信仰」――このイエス・キリストこそが、われわれ人間のために・われわれ人間に代わって、人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰、すなわち死を「唯一回なし遂げ給うた」、「律法の成就」者・「律法の完成」者である≫）が対応していないところでは、神の国の宣べ伝えは聞かれていないし、このみ国には入っていないであろう」。「まさに神の義と天国の義をイスラエルは絶えず繰り返して見誤ったのである（ローマ一〇・三）。神の義の啓示の日が明け初めたことによって、イエス・キリストの出現の中で、福音の宣べ伝えの中で、福音の宣べ伝えと共に、天国が近づいたことによって、まさに悔い改めこそが、イスラエルがしなければならない一つのことである」。「われわれがマルコ一・一五およびその並行記事において、『悔い改めて＜福音を信ぜよ＞』ということを読む時、この付け加えられた表現の中で、同様に断固として」、神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという不信仰・無神性・真実の罪に対する、またわれわれ人間は「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」ということに対する、またわれわれ人間にある「神の恩寵への嫌悪と回避」ということに対する認識と自覚における「悔い改めが信仰として、信仰が悔い改めとして注釈されている」。「なお、……まさに信仰においては、ただ神の啓示された義を認識しそれに服従することだけが問題であり得るのである（�Uペテロ一・一）」――「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」（『ローマ書新解』）。「何故ならば、まさに神が人間と契約を結ばれ、人間に対して、その罪が赦され、永遠の生命が確実であると確約されるということが、旧約および新約聖書によれば、神の義の証明および実証であり、まさにそれこそが、人間の側での悔い改めと服従を必然的なものにする」からである。このような訳で、「まさに神の愛、恵み、あわれみこそが、まさに（≪「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給う」ということを、イエス・キリストが、主格的属格としての「イエス・キリスト＜の＞信仰」という仕方で、「全く端的に、信じ給うた」、この≫）イエス・キリストこそが、旧約および新約聖書の証言によれば、神の義の証明であり、実証である」。したがって、「まさに……ただそのようにしてだけ」、それ故にあの「啓示と信仰の出来事」に基づいてだけ、「神の愛、恵み、あわれみは認識され、経験され、受け取られることができる」、「イエス・キリストが神の義として、信じられることができる」。したがってまた、「鋼のように固く神の義に向かって方向づけられ、基礎づけられていない」「すべてのその他の種類の信仰」、また「これらの事柄において全く明確な旧約および新約聖書の証言によれば」、「それとしてそれの側で人間の義でないようなすべての敬虔性」は、換言すれば「律法の成就」者・「律法の完成」者である先行するまことの神にしてまことの人間イエス・キリストにあっての神の義として神の義の側で人間の義でないようなすべての敬虔生は、「真剣さを、また信頼を、それからまた喜びを、欠かなければならないであろう」。「何故ならば、そのような敬虔性は、明らかに、その方の啓示が、聖書の中で、教会の存在、根拠、実体として宣べ伝えられている神とは違った神を対象として持っているからである」、キリストにあっての「神は、この契約を立て、守られることでもってこそ、ご自分の行為をすべての恣意と偶然性から、すべての無秩序から、すべての不正から、区別されるからである」、「まさにそれでもって、神は、最高の意味で義しいことを、換言すれば神がご自身に対し義しくあり給うこと、神としてご自分に相応する神としてふさわしいことを為し給うからである」。「神は、まさに（≪われわれのための神として≫）神がわれわれに対して忠実であることの中で、全く（≪ご自身の中での神として≫）ご自分であり、自分自身に対して忠実であり給うのである」。したがって、「信仰においては、（≪キリストにあっての神が、われわれのための神として≫）われわれに対して忠実であることの中で、（≪ご自身の中での神として≫）ご自身に忠実であり給う神に、全面的な信頼を寄せることが大切」なのである。「それであるから」、「信仰と義」は、「これら二つの概念が現れている最初の聖書の箇所（創世一五・六）の中で、一つの内的に必然的な解消することのできない関連の中に立っている」、「聖書的信仰」は、「悔い改めと服従、信仰の従順（ローマ一・五、一六・二六）、キリストに従順であること（�Uコリント一〇・五）、（≪啓示の≫）真理に従うこと（�Tペテロ一・二二）、回心と服従することである」、「信仰は、その啓示の中に、その生命を持っているものが神の義であるということの中に、その真剣さ、……その信頼と喜びを持っている」。「信仰に対して」、「天は神の義を宣べ伝える（詩篇五〇・六、八五・一一、九七・六）」、「恵みのみ業」・神の義が「降り注ぐ（ホセア一〇・一二、イザヤ四五・八）」。「信仰は、神の義（≪恵みのみ業≫）を永遠の義（詩篇一一一・三、一一二・三、イザヤ五一・六）として知る」。「信仰は、自分の神を、その国を堅くする者（イザヤ九・七）として、自分の民と、公平と義の中で契りを結ぶ者（ホセア二・一九）として、……義の上衣（≪救いの衣、恵みの晴れ着≫）をまとわせる者（イザヤ六一・一〇）として、知っているのであって、それ以外の神を知らない」。「信仰は、ヤハウェご自身を『われらの義』（エレミヤ二三・六、三三・一六）。なお詩篇四・二参照」と呼ぶ」。「それであるから、信仰は、神の義（≪恵みのみ業≫）の中で導かれること（詩篇五・九）、神の義（≪恵みのみ業≫）によって救われること（詩篇三一・二）、聞き届けられること（詩篇一四三・一一）、（≪恵みのみ業によって≫）困難から救い出されること（詩篇一四三・一一）、神の顔を見ること（詩篇一七・一五）、義の門を通って入ることがゆるされること（詩篇一一八・一九）を願い求めるのである」。「人間が神との契約の中で正しいものとなること、神がその義の中で、人間に語りかけ、働きかけ、義を与え給うことに基づいて、人間が、神の前に正しさを持つ者となるということが、神ご自身の義である」、「さらに、ご自身の義の中でご自身を啓示し、語りかけ、働きかけられる神を信じる信仰」は、「悔い改めと服従の性格」を持つ。したがって、「信仰は、……ヨブの口を通して（ヨブ二七・六、二九・一四）だけでなく……その義を誇る」、「箴言によれば、信仰は、人の義が、道をまっすぐにし（一一・五）、確かな報いであり（一一・一八）、罪のない者を守り（一三・六）、民を保ち（一四・三四）、死を免れさせる（一〇・二）ことを知っている」。このような訳で、「もしも信仰が、神の義がこのように与えられることを」、それ故に「自分自身の義として神の義を真剣に受け取らないならば、どうして信仰は、神の義（≪恵みのみ業≫）を宣べ伝えることになるであろうか（詩篇二二・三一、三五・二八、七一・一五等々）」、キリスト教に固有な類・歴史性に信頼し固執し連帯することができるであろうか。「コノ瞑想ハ、ワレワレノスベテノ思惟ヲ神ノ唯一ノ義ヘト集中サセルノニ役立ツ。ソレハ（中略）ヒタスラ、ワレワレニ約束サレタ救イヲモタラソウトシテイル神ノ意志ニ心ノ目ヲ注グタメデアル。ワレワレガ確実ニ救イを与エラレルタメニハ、ワレワレ自身ノ思慮深サニモ、勤勉サニモ、徳ニモ、頼ッテハナラズ、マタ誰カノ力ヤ人々ノ援助ニモヨリスガッテハナラズ、ムシロコノヒトツノコトガワレワレニ示サレテイナケレバナラナイ。ソレハスナワチ、神ハ義ナル方デアリ、ソレ故、神カラ見放サレルコトハアリ得ナイトイウコトデアル。……（≪神の本質の区別を包括した単一性において≫）＜神ノイツクシミトアワレミ＞に頼ルト同様、＜神ノ義＞ニ頼ッテ憩ウコトホド、安全ナコトハナイ。ナゼナラ思慮深サを欠イテ自ラ用心スルコトガデキナイ者、不正ニヨッテ罰セラレル者、用心スベキ不正ニ関シテ十分注意深ク聡明デナイ者、結局コノ世ノ子ラニヨッテ術策ニヨリ、マタ欺瞞ニヨッテ打チ負カサレタ者、ソレラノ者モ、タダヒトツ、神ノ義ヘノ信頼ニオイテユルギナク立ツナラバ、ドンナ場合ニモ滅ボサレルコトハナイデアロウカラデアル。（中略）」（ポラーヌス）。