本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　二神のあわれみと義」（その５−１）−２（２１６−２３０頁）

「三十節　神的愛の完全性　二神のあわれみと義」（その５−１）−２
　「われわれは、ローマ九・一六で、出エジプト三三・一九（≪「わたしは恵もうとする者を恵み、憐れもうとする者を憐れむ」≫）」からの引用と直接結び付けながら、『それは（≪神の自由な選びは≫）人間の意志や努力によるのではなく、ただ神のあわれみによる』と記されているのを読む」。「また、そのすぐ後、ローマ九・一八で、『神はご自分が憐れみたいと思う者を憐れみ』と記されているのを読む」。「その線上で、……ローマ一一・三二（≪「神はすべての人を憐れむために、すべての人を不従順の中に閉じ込めたのである」≫）も理解されなければならない」。ここで「すべての人」（下記の【注】参照）とは、「かつては神の民でなかったが、今は神の民であり、憐れみを受けなかったが、今は憐れみを受けている（�Tペテロ二・一〇）」民のことであって、「まさに神のあわれみとしてこそ」、そのことは、「必然的に選ぶ恵みであり、そのようなものとして、神を愛する者たち（出エジプト二〇・六）と神を畏れる者たち（詩篇一〇三・一三、ルカ一・五〇）に対して啓示され、力を発揮する」。したがって、そのことは、「いかなる人間的な罪と負い目も、その間に入って妨害することはできず」、それ故に「まさに人間的な罪と負い目こそが力強い神のあわれみの契機となるという仕方で、啓示され、力を発揮する」。「ルカ一・七八以下で、神のあわれみによって『日の光が上からわたしたちに臨み、暗黒と死の陰とに住む者を照らし、わたしたちの足を平和の道に導くであろう』と言われている時」、このことは、「『わたしたちの神のあわれみの心』の自由と力によるということが述べられている」。「�Tペテロ一・三で、「豊かなあわれみにより神は、『イエス・キリストを死人の中から甦らせ、それによりわたしたちを新たに生まれさせて生ける望みを抱かせ』と述べられている」。また「テトス三・五で、神の慈悲が現れた時、わたしたちの行った義の業によってではなく、神ご自身のあわれみよって、再生の洗いを受け、聖霊により新たにされて、わたしたちは救われた（≪何故ならば、聖霊の注ぎによる、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）の授与を、人間的主観に実現された神の恵みの出来事を意味しているから≫）のであると述べられている時」、そのことで、「神のあわれみの心」の「自由と力」のことが述べられている。また、「エペソ二・四以下で、罪過によって死んでいたわたしたちを、キリストと共に生かしと述べられている時」、そのことは、「神のあわれみの心」の「自由と力」のことが述べられている。また、「詩篇七八・三七で、『彼らの心は神に向かって堅実でなく、神の契約に真実でなかった。しかし、神はあわれみに富まれるので、彼らの不義をゆるして滅ぼさず』と述べられている時」、そのことで、「神のあわれみの心」の「自由と力」のことが述べられている。また、「イザヤ五四・七−一〇で」、「『わたしはしばしばあなたを捨てたけれども、大いなるあわれみをもってあなたを集める。あふれる憤りをもって、しばしばわが顔を隠したけれども、永久の慈しみをもって、あなたを憐れむ』とあなたをあがなう主は言われる。『……山は移り、丘は動いても、わが慈しみはあなたから移ることなく、平安を与えるわが契約は動くことはない』とあなたを憐れまれる主は言われる」と述べられている時」、そのことで、「神のあわれみの心」の「自由と力」のことが述べられている。「人は、これらすべての、またそれと似た命題において、賓辞をあくまで主辞からして、そして主辞をこれらの賓辞の中で、理解しなければならない」、区別を包括した単一性の中で理解しなければならない。したがって、「神が怒り給うことによって、ただ単に怒り給うだけでなく」、「神の怒りを惹き起こす者のために、ご自分の怒りに対して限界を置き、その者たちを憐れみ給うということを」、「そしてその憐れみこそ」が、「その怒りが人を殺すまさにそのところで、人を生かし、生まれ変わらせ、照らし出す」「神の憐憫であるということ」――このことが、「神の憐みの秘義であり、同時に神の憐みの単純な啓示された実在である」。

【注】パウロの語る「すべての人」においては、「放棄される危険の全くない選ばれた者とか、選ばれる約束も一切ないほど放棄された者が存在するという考えは、はっきりと排除」されている。したがってこれは、イエス・キリストにある時における「威嚇」である。しかし、われわれは、イエス・キリストにおいて与えられた「約束」によって、この「威嚇から解放」されている。すなわち、神の側の真実としてある、「イエス・キリスト＜の＞信仰」の属格の主格的属格においては、すなわち「イエス・キリストが信ずる信仰による神の義」においては、この威嚇は、止揚された威嚇、克服された威嚇である。何故ならば、「すべての人」を救うために、「罪なきただ一人の選ばれた」イエス・キリストが、神の「怒りを正しい怒りとして引き受けて下さったが故」に、われわれは「イエス・キリストにあって死なないで、生きるであろう」という「約束」が与えられているからである。神は「すべての人をあわれむために、すべての人を不従順の中に閉じ込め」たについては、神の自由な恵みの選びにおいてということであるから、「罪の増し加わったところには、恵みもますます満ちあふれた」と言うことができる。したがって、このことは、パウロも述べているように、造悪説の是認を決して意味していない。すなわち、それは、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認もという人間の無神性・不信仰・真実の罪の一切は、イエス・キリストの死と復活の出来事において止揚され克服されたそれであるということである。また、それは、その神の恵の出来事を人間的主観に実現するために、イエス・キリストは、われわれ人間に対して、「イエスは主なり」と告白し、イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固着する霊を授与されるということである。したがって、バルトは次のように語るのである――マルコ福音書の「信じます。不信仰な私を、お助け下さい」、「信じます。信仰のないわたしをお助け下さい」、「私たちが神に向かって語る。 『ああ……！』というこの小さな嘆息」、それは、「すべての祈りの源」なのである。「そこにはただ、神の子の全く素直な赦しがあるだけである。あなたが祈れない時、この赦しを用いるのが、あなたの為すべきことである」。これは、まさしくあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）であって、不信が包括され止揚され克服された信である、すなわち信と不信が架橋された信である（『カール・バルト著作集３』「神の恵の選び」）。バルトは、『証人としてのキリスト者』で、次のように述べている――われわれは、「心を頑固にし（≪キリストの≫）福音を認めない人間」や「異教徒」に対して、「恵みから語り、恵みについて語るという以外のこと」を為すことはできない。すなわち、われわれがそうした人々に呼びかけることができるのは、（１）「私がその人をその中に置くことによってではなく」、（２）イエス・キリスト（≪啓示・和解、神の子、まことの神にしてまことの人間、起源的な第一の形態の神の言葉、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方≫）が、すでにその人をその中に（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性、神の側の真実としてある完了・成就された個体的自己ととしての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和の中に≫）置いてい給うことによってである」。したがって、われわれは、「キリストにあるものとしての人間のために、努力し得るにすぎない」。

　このような訳で、「神はあわれみ深くあり給うと告白する時」、われわれは、「徹頭徹尾、ただ神の事実的な現実（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて認識し得るところの、全き自由の父・子・聖霊なる神の愛の行為の出来事、その神の存在≫）を承認することが問題であり得るだけであるということによく注意せよ」。何故ならば、われわれは、その「告白を証明するために」、「神はイエス・キリストの名において、そのように」、それ故に「決してそれ以外の仕方ではなく」、「われわれに（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）ご自身を認識すべく与え給うたという事実以外に」、「力を奮わ」しめることはできないからである。この「イエス・キリストの名の中でのほかに」、「神のあわれみの現実を認識」することはできないし、それ故にこの「イエス・キリストの名の中でのほかに」、「われわれは、神のあわれみの現実を認識したい」とは思わないのである。現存する西欧的危機の課題を自覚したミシェル・フーコーが「私に興味があるのは、（≪アジア的なものでもなく、アジアの小さな島国の日本的なものでもなく、≫）西欧の合理性の歴史とその限界です」と述べたように、現存する社会構成・支配構成・文明的文化的構成に不可避的に強いられて西欧的危機の課題とアジア的な日本的特殊性の課題とを構造として扱わなければならないキリスト者としての私が志向し目指すべきことは、徹頭徹尾先ず以て、聖書的啓示証言における「イエス・キリストの名」を尋ね求めることにあるだろうし、イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執して生き抜いていくことにあるだろうし、「イエス・キリストの名」を起源とするキリスト教に固有な類・歴史性に信頼し固執し連帯していくことにあるだろう。したがって、私は、純粋な人間学としてのヘーゲルやフォイエルバッハやマルクスや吉本や太宰や賢治等には興味はあるが、宗教一般としてのキリスト教にも、人間学との混淆・混合・協働にも、イエスを「ただの人」と規定し・イエスに本来的な人間存在の在り方を見る八木誠一（『イエス』）・「キリスト教と禅仏教との救済構造における一致を説く」八木（関田寛雄『「断片」の神学　実践神学の諸問題』）のような八木的キリスト教（哲学的神学）にも、宗教的多元主義にも興味はない。何故ならば、キリスト者としてのわれわれは、徹頭徹尾先ず以て、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、イエス・キリストにおける死と復活の出来事、完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストの名」――この「一つの事柄に仕えなければならないのであって、ひとつの党派（≪ある教派、ある思想傾向、ある社会構成・支配構成・文明的文化的構成、ある学派、ある社会的政治的な言説や実践≫）に仕えなければならないことはない……、一つの事柄に対して自分の立場を区別しなければならないのであって、別な一つの党派に対して自分の立場を区別しなければならないわけではない……」（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）からである、思想的な問題に引き寄せて言えば「対立する双方に真理があるというような俗説が、世界史的に流布され、流通している」中で、自らの立場において、両者を包括し「止揚しなければならないということが思想的な問題である」（吉本隆明『思想の基準をめぐって』）からである。「イエス・キリストの名」は、「イスラエルが待ち望」み、「教会」が想起することがゆるされ・想起すべき「総内容」である。また、「言うまでもなく、（≪「イエス・キリストの名」は、≫）聖書の中でも同様に、神のあわれみの現実の総内容である」。したがって、われわれは、この「イエス・キリストの名」から、「何ものにも打ち負かされない確実さをもって、神はあわれみ深くあり給うということを引き出すことができる」。この「イエス・キリストの名」の「認識と告白」は、「われわれが、神の言葉と霊を通して」、換言すれば啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」――すなわちイエス・キリストにおける啓示の出来事（具体的には聖書的啓示証言のそれ）と聖霊の注ぎによる信仰の出来事、聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵の出来事に基づいて、この「イエス・キリストの名に結びつけられているということ、しかも（み言葉と霊を通してわれわれに証しされる）その啓示（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）の中で、啓示と共に、直ちにあわれみの啓示がわれわれの目の前に立ち、立ち続け」、この「イエス・キリストの名を通して、神によって……反抗も反駁もできない仕方で慰められるような具合に結びつけられるということに基づいたそれである。言い換えれば、「ただ単に（≪神とは異なる≫）われわれの被造物性、ただ単にその徹底した依存性の中での（≪神とは異なる≫）われわれの現実存在の……不幸ばかりでなく、実にまた（≪神とは異なる≫）このわれわれの不幸の不幸、すなわち（≪神とは異なる≫）われわれが徹頭徹尾依存している方（≪キリストにあっての神≫）に対する反逆と反抗（≪神の恵に敵対し、神の恵によって生きようとしない反逆と反抗、神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認もという不信仰・無神性・真実の罪としての反逆と反抗≫）」が、「＜神ご自身＞の参与、＜神＞の痛み、＜神＞の苦しみ、したがって＜神＞の助け、＜神ご自身＞の尽力の対象であるということによって慰められるのである」。「われわれが、イエス・キリストにあっての神のあわれみを認識するならば」、「その時、そのことは」、キリストにあっての「神はあわれみ深くあり給うが故に」、「われわれによって経験されるべきあるいはわれわれに関して自分で担うべき苦しみの中で」、「神的な苦しみは、ただ単にわれわれから取り去られているだけでなく、むしろそれをわれわれが担おうとすることは僭越行為として、根本において傲慢な悲劇として禁じられている」ということを意味している。何故ならば、「われわれがまさに神に対して罪人であり、負債を負った者であるということ、（何をもってしても償うことができない）神に相対して罪人であり、負債を負った者であるということがわれわれの不幸の不幸である時、すべての嘆きは何の役」にも立たないからである、その嘆きは「弱すぎるし、……常に無力で、最後的に不真実である」からである。キリストにあっての「神が嘆かなければならないところで、嘆くための権利がただ神だけの権利であるところで、誰が嘆くことがゆるされるであろうか」。「われわれが苦しむと思っているところ、嘆くことがゆるされ嘆くべきだと思っているところ」において問題は、「われわれの心が問題ではない」のであって、「神の心が問題」なのである。「われわれの心によって」、「神の心が傷つけられた」ということが問題である。「まさにわれわれの罪と負い目の困窮」が、神の「自由の中で取り上げられ、神ご自身の中にある」、「そのところではじめて、ただそのところでだけ」、その困窮は「現実の困窮である」、困窮の困窮である、それ故に究極的包括的総体的永遠的な助けとなる、救いとなる。このことが、「神のあわれみである」。「この神のあわれみの前で、われわれは沈黙しなければならない」。「このねばならない」は、そうすることが「ゆるされるということである」。何故ならば、「われわれが、われわれの不幸を、まさにわれわれの罪と負い目の本来的な不幸を、自分で担い、われわれ自身を告訴し、裁き、純化し、そこからまたわれわれの罪と負い目の結果についてもう一度嘆かなければならないと考えるということが、結局第三の決定的な段階でのわれわれの不幸であるからである。まさにそのことでもって、神の恵に対する抵抗として、……われわれの罪がはじめてその本来性にまで来るし、それははじめて望みのないほど罪深いものとなるし、すべてのその結果は、そこではじめて逃れる道のないほど苦痛なものとなる。まさにそのことと共に、今や……神のあわれみとしての神の恵が、イエス・キリスト（≪神の側の真実としてある、ローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等の主格的属格としての「イエス・キリスト＜の＞信仰」、「律法の成就」・完了、イエス・キリストの死と復活の出来事≫）が、すべての民に及ぶべき大いなる喜びとして、人間の現実存在の中に介入する」。言い換えれば、「イエス・キリスト」ご自身が、「恵みに対するこの抵抗を、（そこで現れ、勝利に満ちた恵みとして、すなわちわれわれの罪と負い目が神ご自身を通して取り除かれる王的な除去として）ご自身を通して打ち砕き給うことと共に、大いなる喜びとして、人間の現実存在の中に介入する」――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答え をわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イ エス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の「イエス・キリスト＜の＞信仰」は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」（『福音と律法』）。「われわれの罪と負い目は、それが神の心の中にあることによって、もはやわれわれのものではない」。このような訳で、キリストにあっての「神が、それらを身に受けて苦しまれることによって、それを苦しみをもって身に受けなければならないこと、それの刑罰は、われわれから取り去られ」たが故に、「われわれ自身の苦しみは、ただ神が苦しみ給うことを、思い出す想起であることができるだけ」なのである。この時、「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される（『ローマ書新解』）。したがって、『証人としてのキリスト者』でバルトは、最終的に離脱した宗教的社会主義に加担した体験を思想化して、「そこでの人間の困窮と人間に対する助けとが、聖書が理解しているほどには、真剣に理解されておらず、深く理解されて」いなかったと内省して述べている。

　全き「自由の中で、……また力をもって、あわれみ深い神（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「永遠のみ子」、イエス・キリスト≫）は、われわれの代わりに行動し給う」。何故ならば、「われわれの罪と負債」は、「決して神の罪と負債ではなく、また神の罪と負債とならなければならない」ものではないからである、あくまでもわれわれ人間自身のそれであるからである。事情がこのようであるが故に、信仰は、「われわれがもともとは値しなかったことがわれわれの身に起こるところの神の恵と選び」を、換言すれば神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて授与される信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を信じる信仰である。全き「自由の中で、……また力をもって」というのは、キリストにあっての「神は、われわれの罪と負債を、ご自身の罪と負債となし、それと共に、現にわれわれから取り除き給うたからである」。したがって、「信仰は、喜びであり感謝である」、「それ故に……ただ前方を望み見ることができるだけである確信である」。救済を「信仰の中で持つ」ことは、「約束として持つ」ことである。「われわれは、われわれの未来の存在を信じる。われわれは死の谷のさ中にあって、永遠の生命を信じる」・「この未来性の中で、われわれは永遠の生命を持ち所有する」・この「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である・新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」、「満たされた人」は、「召されていること、和解されていること、義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」の啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである・ここで、「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」（われわれ人間の感覚と知識を内容とした経験的普遍）にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実として、それ故に客観的現実性として、「成就と執行」として、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。全き「自由の中で、力をもって」、「謙遜な、しかし強い信仰を呼び覚ましつつ」、イエス・キリストは「われわれの代わりに歩み入り給うた」。何故ならば、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質する三位一体の神の第二の存在の仕方である「その方は、神の永遠のみ子であり、彼の中で（≪その存在の仕方の中で≫）、神ご自身の中で（≪その存在の本質の中で≫）、あわれみ深くあり給うということが啓示されたからであり」、「まさに（≪第二の存在の仕方において≫）この代わりとなるということこそ、神ご自身の中での最も内的なことと本来的なこと」、すなわち「喜びと感謝の中で誉を帰さなければならない神性の本質」（存在の本質としての神性）であるからである。「われわれが、しなければならず、することがゆるされるということ」――このことは、「神のあわれみの光に照らされてこそ、新たに分けられない（≪分離できない≫）唯一のこととして現れてくる」、区別を包括した単一性として現れてくる。「愛に対して愛をもって答えることを、神の福音はゆるし、律法は命じる」のである。この時、この律法は、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質する三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリスト（啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉）、具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれを、第三の形態に属する全く人間的な教会、その宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要請・要求）――すなわちすべての人々がキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指すことなのである、そういう仕方で「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指すことなのである。このことは、「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、（≪神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な≫）教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」である。

　キリストにあっての神は、その存在の仕方である全き自由の父・子・聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在において「あわれみ深く行動し給うように」、「また（≪その存在の本質において≫）ご自身の中でもあわれみ深くあり給う」が故に、「神は、そのように愛し給う。神の愛は、あわれみ深い愛である」。このことは、「事柄の本質に属している」。何故ならば、聖書的啓示証言において「あわれみという概念は、そのようなものとして、神の態度と行為から神の存在、神の心、神の思い、そのようにして神ご自身へと遡って指し示すからである」、ちょうどイエス・キリストにおける神の自己啓示が、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、すなわち「イエス・キリストの名」（その第二の存在の仕方、その神の愛の行為の出来事としての神の存在）において、その存在の本質である「失われない単一性」・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示であるように。したがって、「あたかも恵みが神ご自身の中で永遠的でないように受け取る恵みの概念」は、「誤解」であるし、「不可能」なのである。「あわれみ深い恵みとしての神の愛は、同時に恵みの概念がそれとしてそれ自身われわれにあらわすであろうよりももっと深く地上に降り、もっと高く天井に上ってゆくのである」。