本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−２）−１（２００−２１５頁）

引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）

「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」
「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１２９頁）

〔この定式の詳述〕
　この定式の詳述については、>『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−１）−１で行っていますので、参照してください（２０１８年５月２１日論述分）。

註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。

「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−２）−１
　「神の恵みおよび神聖性という聖書的概念」の共通性は、両者の概念共に、三位一体の神としてのご自身の中での神（全き自由、自在性における「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互＜内在性＞」としての神）とわれわれのための神・世界との関係の中での神（自己還帰する、全き自由、自在性における他在性としての神）との「それぞれ異なった仕方においてであるが」、「特有な仕方で、神ご自身ではない（≪神とは異なる≫）すべてのものに相対して」、神と人間との無限の質的差異の下で「神の至高性を指し示しているという点にある」。ここで、「われわれが恵みと言う時、われわれは、（≪われわれのための≫）神が（≪神とは異なるすべての≫）他者に対してその寵愛、愛顧、好意を与え給う自由のことを考えている」、また「われわれが神聖性と言う時、われわれは、……（≪ご自身の中での≫）神が、そのように与え給う中で、あくまでご自分に対して忠実であり続け、ご自分を貫徹しつつ確証し給う自由のことを考えている」。われわれは、「神の恵みという概念」を、「神の神聖性の概念と一緒にまとめて考え」たのである。「われわれは、神ご自身（≪ご自身の中での神≫）を、一人の全き神を、この概念でもって言い表したのである」。「われわれは、（≪ご自身の中での神、われわれのための神という二つの系列における≫）神の愛は、したがって神の本質（≪単一性、区別を包括した単一性≫）は、徹頭徹尾、その神性のすべての深みに至るまでまさに……恵みであるということをわれわれに語らせるとき、何も思い違いをしていないであろうし、何も逸していないであろうし、また何も看過していないであろう」。「神が愛し給うということは、それが神聖であるということの中で、（≪キリストにあっての神の神的な愛とは異なる≫）そのほかの（≪すべての≫）愛することから区別された、神聖な行為と存在である」。「神は、（≪われわれのための神として、≫）交わりを求め、造り出し給うことによって、主であり、あくまで主であり続け給い」、それ故にご自身の中での「神ご自身の意志を（≪神とは異なる≫）すべてのその他の意志から区別し、すべてのその他の意志に相対して主張し給い、神の意志に反対するすべての反抗と抵抗を断罪し、排除し、絶滅し」、それ故に「この交わりの中でただご自身の、……よい意志だけをして力を奮わせ、生起させ給う」。「この特徴（≪総体性、「神の本質の単一性」、神の本質の区別を包括した単一性≫）の中でだけ、神の愛は、神の神的な愛である」。キリストにあっての神は、「ご自身の中で愛する者であり給う」ことによって、先行してわれわれのための神として「神はわれわれを愛し給う。……神はそのことをその＜自由＞（≪自存性≫）の中で為し給う」、この総体性、「神の本質の単一性」、神の本質の区別を包括した単一性が、「神の本質の聖書的概念を構成している」。この総体性、神の本質の単一性、神の本質の区別を包括した単一性としてある両者の事柄を、「どうして（≪一方だけを抽象して、すなわち一方だけを拡大鏡にかけて全体化して、≫）分離してしまってよいであろうか」。さらに、「神の恵みおよび神聖性という聖書的概念」の共通性は、両者の概念共に、「神の行為と存在に出会うところの相手側からの抵抗に相対して神の優越性を指し示している」という点にある。ここで、「われわれが（≪神の側の真実としてある≫）恵みと言う時、われわれは、被造物に相対して（≪われわれのための≫）神が身を向け給うこと」が、「その被造物の抵抗によって」、またその抵抗に対する「憤慨のあまり無に帰せられてしまうことはないということを考えている」のである、また「われわれが（≪ご自身の中での神の≫）神聖性と言う時、われわれは、逆に、神が身を向け給うことが」、その被造物による「抵抗を反駁し、破砕してしまうことを考えている」のである。この時、われわれは、「結局どちらの場合ともに、神の愛について語っている」のである。そうでないならば、「どうして他方のことなしに一方のことが、裁き（≪神聖性、律法≫）なしに赦し（≪恵み、福音≫）が、赦し（≪恵み、福音≫）なしに裁き（≪神聖性、律法≫）があり得るであろうか」。したがって、「神の愛がまだ明らかでない」場合においてだけ、換言すれば神の愛が「まだあるいはもはや信じられていないところ」においてだけ、両者の概念を、「区別」（区別を包括した単一性のおけるそれ）する代わりに、「分離」（二元論的、二元主義的なそれ）することができるのであり、「罪から抽象的ニ赦しについて、さらに断罪から抽象的ニ裁きについて語」ることができるのである、それ故に、その場合には、「あのところで（≪神の本質の区別を包括した単一性における裁きについて認識し自覚したところで≫）神の赦しについて語られず、このところで（≪神の本質の区別を包括した単一性における赦しについて認識し自覚したところで≫）神の裁きについて語られない」のである。このような訳で、われわれが、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えれる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）としての「信仰の中で語るならば」、それ故にキリストにあっての「神および神の愛と直面して」語るならば、それ故に「神の赦しと裁きについて語るならば」、「その時には、われわれは、（≪絶えず繰り返し、起源的な第一の形態の神の言葉を「先ず第一義的に優位に立つ原理」・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で≫）成長してゆく認識の中で」、「確かに神の恵みと神聖性との間の区別（≪区別を包括した単一性におけるそれ≫）をする」のである、それ故にそれら「二つのものを（≪二元論的に、二元主義的に≫）分離することは」決してしないのである。「神の恵みおよび神聖性という聖書的概念」の共通性は、両者の概念共に、ご自身の中での神とわれわれのための神としての「神の愛を、したがって契約の中でみ業を為し給う神ご自身を、神とその被造物との間の契約の主（≪聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――創造主・啓示者、父が子として自分を自分から区別した第二存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示、愛に基づく父と子の交わりとして第三の存在の仕方である聖霊――救済主・啓示されてあること≫）として、特徴づけ言い表しているという点にある」。このような訳で、「聖書の聖なる神」は、「R・オットーの『聖なるもの』それ自身戦慄すべきものとして神的なものであるあのヌミノーゼ（≪畏怖と魅惑という両義的な感情を伴う宗教的体験における聖なるもの≫）ではない」。もしもそうでないならば、「聖書の聖なる神」は、人間自身が対象化した「存在者レベルでの神」でしかないものとなる――何故ならば、「もし君が無限者を思惟するならば、そのとき君は思惟能力の無限性を思惟し且つ確証しているのである。そして、もし君が無限者を情感するならば、そのとき君は感情能力の無限性を情感し且つ確証しているのである。理性の対象とは自己自身にとって対象的な理性であり、感情の対象とは自己自身にとって対象的な感情である」（『キリスト教の本質』）からである。宗教としての天皇制に引き寄せて言えば、このヌミノーゼは、支配としての天皇（天皇族）による外来の文明や文化（大陸の農耕技術等、律令、儒教、仏教等の制度、知識）の占有と、それらから遠く隔絶された被支配との格差の関係性に基づいて、被支配は、天皇（天皇族）に対する関係意識において、天皇（天皇族）は「強力に願望の対象でありながら、恐れの対象であるという両価性」の心性（「未開の心性」）を持つこととなった、宗教としての天皇制的な意識と同じである。この「両価性」の心性（「未開の心性」）に基づいて「＜制度＞的な禁制」（共同幻想）が存在する――「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」（大日本帝国憲法）。そうではなくて、「聖書の聖なる神」について語られるべき「第一のこと、根源的なこと」は、「イスラエルの聖者であり給う」ということである。このことは、「神の神聖性が、まず第一に、決定的に」、「神は、イスラエルをご自分の民として引き受け給い、イスラエルを選び、イスラエルに対し約束を与え、助けを与え給うということを意味していることによって」、「イスラエルに対してはるかに高くいます方、イスラエルから分けられた方、イスラエルに対して出会う方、イスラエルによって畏れられるべき方、イスラエルが義務づけられている方ということを意味」している。「人はよく注意せよ。出エジプト一五・一一に出てくる『主よ、神々のうち、だれがあなたに比べられようか、だれがあなたのように、聖にして栄えあるもの、ほむべきして畏るべきもの、くすしき業を行うものであろうか』という言葉は、紅海での救出と直面して語られた賛美の歌の中に含まれている。また、�Tサムエル二・二の言葉、『主のように聖なるものはない、あなたのほかには、だれもない、われわれの神のような岩はない』は、ハンナの祈りが聞き届けられた後の彼女の賛美の歌の中に含まれている。また、詩篇七七・一四の言葉、『神よ、あなたの道は聖である』は、その民に対して行われた神のみ業に対する包括的な賛美の歌の中に含まれている。イスラエルの聖者は、イザヤ四一・一四、四三・三、一四、四七・四、四八・一七、四九・七、五四・五によれば、贖う者（≪贖い主≫）であり給う。イスラエルの民が、そのみ名を＜聖＞とするであろうということは、イザヤ二九・二三によれば、神のみ手が彼らの間で為されたこと（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）を見るであろうことに基づいている……」。「これらの聖句およびこれと似たすべての聖句からして、＜神聖性＞は、それが神を、（≪われわれのための神として≫）イスラエルのためにいまし、行動し給う方を言い表している限り、明らかにまさに恵みの代わりに述べられているということができるであろう」。これと同じことは、「この概念が新約聖書の中で用いられる際の最も重要な用い方の中で、換言すればイエス・キリストの恵みが、その教会および教会の中での個々の信者に、聖霊の現臨および賜物を通して与えられる（≪神のその都度の自由な恵みの決断による、起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリストにおける啓示の出来事と聖霊の注ぎによる信仰の出来事、すなわち聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいて与えられる≫）という言い表し方の中で、力を奮う」。「聖なるということは、……まさにここでこそ」、「まず第一に、基本的に、抜擢し、祝福し、助け、正すということを意味しており、それから、そのようにして初めて、この積極的な脈絡の中で」、「分けられ、出会い、畏るべく、義務づけられるということを意味している」。
　このような訳で、「神が、（恵みの概念が語っているように）ご自身のよき意志を主張し、貫徹し給うことによって」、まさに「そのようにして、……神聖性が特に語っていること」――すなわち、被造物の「抵抗に対して、神がご自分を分離され、対抗し給うということ、罪に対する神の裁き」は、「まことであり、現実的である」。したがって、このことは、「神的裁きとして」、「恵みの道の上以外には明らか」にされることはないのであり、それ故に「恵みの道の上以外には」「まことに認識」し、「経験」することはできないのである。まさにこの「恵みの道の上」において、われわれは、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で、「避けることができない、見逃すことのできない仕方で」、「裁きの」、それ故に「神の恵みの神聖性の、真理と実在にまで来る」ことができるのである。『福音と律法』に引き寄せて言えば、次のように言うことができる――イエス・キリストにおける神の恵みの出来事の内容は、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で、生来人間は、神の「恵みに敵対」し、「神の恵みによって生きようとしないが故」に、「このことこそ、第一に恵みが解放しなくてはならない人間の危急」であったことを、われわれ人間に自己認識させるのである、換言すればわれわれ人間は、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で、「神の選び」を「イエス・キリストの復活」において認識し、「神の放棄」を「イエス・キリストの十字架」において認識することができるのである、またそのようにして「われわれが本当に神の啓示を認識する時」、その啓示認識・啓示信仰を通して、われわれは初めて、「神に対する人間的反抗」（神だけでなくわれわれ人間も、われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという人間的反抗）、「神の敵」、「神に相対して、自分の力を誇り、まさにそのことの中でこそ罪深い堕落した人間」（不信仰・無神性・真実の罪のただ中を生きるわれわれ人間）として自分自身を、またそのような人間の「世」を認識することができるのである。『福音と律法』によれば、罪の本質は、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求、不信仰・無神性・真実の罪にあるのであって、「余りに性急に、余りに熱心に、念頭に置いてきた」「性的リビドー」（「『死んでいる』罪の成果の一部」）にあるのではないのである（このことは、親鸞が義絶した親鸞の子・善鸞のような造悪説の容認を決して意味してはいない。キリスト復活後の律法は、キリストの福音を内容とする福音の形式として、あの「神への愛」と、その神への愛を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」――すなわち、すべての人々が純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えにあるのである、このことが「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」なのである）。「われわれは今、ローマ六・一および一五節に出てくるパウロのおごそかな異議申し立てのことを考えている」。「恵みが増し加わるために、（≪意志して≫）罪にとどまるべきであろうか」・「律法の下にではなく、恵みの下にあるからといって、わたしたちは（≪意志して≫）罪を犯すべきであろうか」・「罪に対して死んだわたしたちが、なお、（≪意志して≫）その中に生きておられるであろうか（二節）」、「断じてそうではない。わたしたちは、罪から解放され、義の僕となったのである（一八節）」――このことが、「神の恵みの神聖性である」。因みに絶対他力本願に立脚した親鸞は、造悪説に対して、それは＜自力＞本願に通底するものであるから首肯することはできないと述べている。
　ご自身の中での神とわれわれのための神との総体性（「神の本質の単一性と区別」、神の本質の区別を包括した単一性）の中で、「神は、恵み深くあり給うことによって、ご自身を、……（≪その対象としての≫）相手の手に与えてしまわれない。相手の抵抗を大目に見て、……しまわれない。また相手の抵抗を無視されず、ましてや是認し給わない」のである。「神は、恵み深くあり給うことによって、……（≪その対象としての≫）相手に対して、ご自分を主張し給う。すなわち、相手の抵抗を阻み、破砕し、いずれにしてもご自身のよき意志を相手の身に起こらしめることによって、相手に対してご自分を主張し給う」。「『主は、愛する者を、戒められる。あたかも父がその愛する子を戒めるように』（箴言三・一二）。この言葉は、新約聖書の中で、二つの個所ではっきりと取り上げられている。それは、へブル一二・六および黙示録三・一九である。また、テトス二・一一以下……『すべての人を救う神の恵みが現れた。そして、わたしたちを＜戒めている＞』」。これが、「神の恵みの神聖性である」。「まさに神は恵み深くあり給うが故に、われわれは神を畏れなければならない」。何故ならば、「もしわたしたちが、真理の知識を受けた後にも、なおことさら（≪意志して「故意に」≫）罪を犯し続けるなら、罪のためのいけにえは、もはやあり得ない。ただ、裁きと、逆らう者たちを焼き尽くす激しい火とを、恐れつつ待つことだけがある。モーセの律法を無視する者が、あわれみを受けることなしに、二、三の人の証言に基づいて死刑に処せられるとすれば、神の子を踏みつけ、自分がきよめられた契約の血を汚した者とし、さらに恵みの御霊を侮る者は、どんなにか重い刑罰に値することであろう。『復讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する』と言われ、また『主はその民を裁かれる』と言われた方を、わたしは知っている。生ける神のみ手のうちに落ちるのは、恐ろしいことである（へブル一〇・二六−三一）」からである。「おそらく……聖書全体の中で、神の神聖性についての最もはっきりとしている言葉」は、文脈から言って、「われわれに対してそのみ子をおくられた神(≪創造主なる神≫)、イエス・キリストの血(≪和解の犠牲の血≫)を通してきよめられた契約の主(≪和解主なる神≫)、恵みの霊であり給う神」(≪救済主なる神≫)――「この神のみ手に陥ること、……最後的にはただこのことだけが、おそるべきことである」というそれである。『教会教義学　神の言葉�T／１・２』に引き寄せて言えば、その死と復活の出来事における「実在の成就された時間」である「イエス・キリストにおける啓示の時間」、「時間の主の時間」は、聖書的啓示証言においては、問題に満ちた失われた非本来的な古いわれわれ人間の時間・「われわれの時間」（世）に対する、「攻撃」の時間であり、「否定的判決の時間」である。
　「ただこの対立の中でだけ、神は、まさにその本質において、愛および恵みとして、認識され給う。何故ならば、ただこの対立の中でだけ、（≪ご自身の中での≫）神は、事実（≪われわれのための神として、先行して≫）ご自分とわれわれの間の交わりを造り出し、維持し、われわれに対し身を向け給うからである」、それ故に「われわれが、その対立をそれとして身に受け、承認し、それに自分の身を服従させることによってだけ」、「神は信じられ」、「神が……そのようにしてわれわれの身に対して持ち給う権利、それからその上にわれわれが自分たちの信頼を置くことができる権利」を、「神に対して……帰」すことができるのである。もしも神が、われわれに対して、この対立の中で現臨し給わないとすれば、神は、われわれに対してそもそも現臨し給ないであろう」。したがって、『福音と律法』においては、次のように言われているのである――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のために なし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の「イエス・キリスト＜の＞信仰」（≪の属格≫）は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。 （これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」・「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」。したがって、「この契約は、その全き神聖性の中での神の律法の啓示なしには、したがって神的な対立と裁きの啓示なしには、人間のあらゆる不信心と不義とに対して天から示される神の怒りの啓示(ローマ一・一八)なしには、成り立つことはできない」、「それ故にまた、まさに神的な選びと神が身を向け給う立ち向かいの奇蹟の業（≪出来事≫）と直面して、ルカ五・八に出てくる『主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者です』というあのペテロの驚愕した叫びをあげるのではないような神を信じる信仰は起こりえない」のである。「よく理解せよ。まさに……（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）ただ信じる者だけが、そのように語るのである」。何故ならば、「まさに……恵みからしてだけ、人間に対して（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）そのように語るよう強いる裁きが出てくるからである」。したがって、「恵みを見出さなかった者」、それ故にあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「信じない者」は、「初めから全く裁きを見て取ることができないであろう。彼は、そのことに気づくことなしに、事実ただ裁かれ、裁きの下に永遠に服されられるだけであろう」、それ故に「彼は、自分の身に及ぶことに対して、心から屈することなしに、悔い改めなしに、認識なしに、それと共に助けと希望なしに、事実ただそれを身に受けるだけであろう」。この事態は、『平和に関するバルトの書簡』に引き寄せて言えば、次のように言うことができる――バルトの平和の概念は包括的な救済概念と同じである。神の側の真実としてある、それ故に客観的現実性としてある、「永遠的実在」としてある、その救済概念は、「この世の神との和解」、「人間相互間の和解を直接その内に包含している和解」である・「神ご自身によって、イエス・キリストの歴史（≪イエス・キリストの時間、啓示の時間≫）において、その生涯と死において」、すでに完了・成就され、「死人からの復活においてすでに啓示されているような、和解」である・したがって、われわれ人間によって初めて「完成されねばならないような和解」ではなくて、神の側の真実として「神ご自身によって確立された和解」であり、「イエス・キリストにおいては神と人間が、しかしまた人間とその隣人が平和的」なのであり、「敵としてではなく、忠実な同伴者、仲間として、共にある」のである・イエス・キリストにおいて平和は、「神ご自身が（≪古い時間、古い世の時間としての≫）世界史のまっただ中に創造し見えるものとして下さった現実性」（神の側の真実としてある新しい時間、新しい世）である・「この贈り物はただ、われわれがこれを受けとることを待っている」・したがって、われわれが「この事実に向かって、眼と耳を閉ざして生きているということが、悲惨」なのである・そうした中で、われわれは「平和は戦争より善いものであるということを」繰り返し「断言せねば」ならないが、「それらのことは究極的に何の助けをももたらさない」ことは「明白」である(何故ならば、戦争の元凶である民族国家が存在する限り、いつでもどこでも戦争の可能性が存在しているからである)・したがって、世界が必要としている革命的認識は、「世界はイエス・キリストにおける神の愛によってすでに解放された世界である」ことに感謝をもって信頼し固執して、「世界の救いを何かある国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求めようとしない」ところにあるのである。われわれは、「ルターが、罪の認識、神の怒りに対する恐怖、悔い改めを、通常、神の恵みの啓示と切り離された特別な律法、神聖性、怒りの啓示へと」、「いや、その尊厳性と隠れの中での神の特別な本質へと遡らせたということ」（≪律法と福音という順序≫）に対して、「その点で、ルターに従うことはできない」。何故ならば、われわれは、「聖書の中では、（≪対立的に≫）律法は、福音と並んで証しされているのではなく、福音の中に証しされているのをみる」からである。事実、ルターは、『キリスト者の自由』で次のように述べている――律法と福音を対立させ、まずは「罪人を怖れさせ、その罪を暴露して、痛悔し且つ回心させるためには、誡めを説教すべきである」・しかし、それだけではいけないので、その次に「他の言、すなわち恩恵の呼びかけを説教して、信仰を教えるべき」である・「かようなときにはじめて他の言、すなわち神からの約束の告知が現われて、そして（≪「イエス・キリストの信仰」の属格の目的格的属格理解の言葉が≫）語る」・「さらばキリストを信じなさい」・「あなたが信じるならこれを得られるし、信じないなら得られない」。この言い方は、一方通行的な信の上昇過程しか持っておらず、その意識的な下降過程から見えてくる人間自身の「『自分の理性や力によっては』――全く信じることができない」ということに対する認識と自覚を欠如させているのである。人間自身の「『自分の理性や力によっては』――全く信じることができない」ところのわれわれの信は、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）に絶えず繰り返し聞き教えられることを通して教えるという仕方においてのみ可能なのである。したがって、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいてイエス・キリストが信じる信仰(ギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」の属格の主格的属格理解)による神の義を「信じる者は、自分が――つまり『自分の理性や力（≪感情、悟性、意志、自然を内面の原理とする修行等≫）によっては』――全く信じることができないことを知っており、それを告白する」(『福音主義神学入門』)のである、そのことを認識し自覚するのである。バルトは、『福音と律法』で、次のように述べている――「福音と律法の真理性」における福音の内容は、全き神の自由な愛によって、単一性・神性・永遠性を本質と三位一体の神の第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストご自身が、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、「唯一回なし遂げ給うた」（律法の成就・完了）ところにある、すなわちこのインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」の「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている、また「福音と律法の現実性」における「律法を悪用する罪に対する神の勝利」とは、イエス・キリストご自身が、われわれ人間を「罪と死との法則」である律法から解放した出来事のことである、何故ならばわれわれ人間の「不従順・不信仰に抗して、イエス・キリストにあって義とされている」が故に、律法は人間をその不従順・不信仰によって「罪に定めることは出来ない」からである、このように神の律法が人間を「真に罪に定めない」のであるから、律法は「もはや絶対に『罪と死との法則』」ではない、それ故にルターに強烈に存在したところの、人間が「律法に対して全体的に不従順であるという事実」における人間に生ずる「生の不安」は、「克服された……慰められた……癒された不安、望みと喜びの確かな岸（≪キリストの福音≫）によって取りかこまれた不安にすぎない」のである、このことは終末論的限界と啓示の弁証法の下で語られており、それは、「生の不安」がなくなるということではなくて、イエス・キリストにおいて包括され止揚された、「克服された」、「慰められた」、「癒された」、「望みと喜びの確かさ」（≪キリストの福音≫）に取り囲まれた「不安」ということである、神の側の真実としてある、それ故に客観的現実性、「永遠的実在」としてある、主格的属格としての「イエス・キリストの信仰」において、その福音を内容とする福音の形式としての律法は、（１）われわれ人間に対して、「罪と死の法則」としての律法――すなわち「汝斯く斯くなるべし」という要求から、「生命の御霊の法則」としての律法――すなわち「汝斯く斯くならん」という約束へと回復せしめられる、（２）「遂行せよ」と求める要求から、「信頼せよ」と求める要求へと回復せしめられる、したがってわれわれ個体的自己としての全人間・全世界・全人類は、『生命の御霊の法則』としての律法によって「イエス・キリストにあって解放された」のであるから、「われわれが己の解放を与えられるためには、彼に固着し得る」だけなのである、感謝をもって信頼し固執し得るだけなのである、したがってまた現存する神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会は、われわれは、徹頭徹尾、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的は第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、その宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音を、純粋なキリストにあって神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請――すなわち「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、教会が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」、現存するすべての人々がキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）を志向し目指していかなければならないのである、そういう仕方で、「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していかなければならないのである。言い換えれば、戦争の元凶である民族国家に対する始末の仕方を明確に提起することもしないで、ただ単に外在的形式的に平和を求める祈りを公表したり、結局は最後的には観念の共同性を本質とする政治的国家に加担し、その国家を保管することになる法的言語や政策的言語によって社会的政治的言説と運動を為したりするところにはないのである。ある社会構成・支配構成・文明的文化的構成に現存するわれわれの神学的実存の在りは、それが社会的な事柄であれ政治的な事柄であれ、「かつて語った（≪キリストの福音の≫）説教の一貫した繰り返しが、（ある状況下において、その状況に抗するそれとして）おのずから実践に、決断に、行動になって行った」という在り方にある」のである。このように述べるバルトは、換言すれば常套語として教会は社会的政治的な言説と運動が必要であると声高に叫ばないバルトは、あの政治状況に＜不可避的＞に強いられて、あくまでも＜相対的＞に（何故ならば、究極像として、国家は止揚され死滅され無化されなければならないから。バルトにとって、国家は、終末においては止揚され無化される対象である）引き寄せ得る自由および直接民主制と武装永世中立の「スイスをナチズムからまもるために私は軍隊に参加」し、「両国を区分しているライン河にかかっている橋を護衛」するために、「もしもドイツのキリスト者の友人の一人が、その橋を爆破しようとしたら、私は射殺しなければならなかったであろう」・「規準はただ方向を与えることしかできない。（中略）ある特定の瞬間になした決断はおそらく、もっとも重要なキリスト教の教義よりもっと重要であるかもしれない」という決断において戦場に赴いたのである。これは、バルトの神学における還相過程からの言葉である。すなわちバルトは、往相的な教義では答えが得られない不可避的な状況、すなわち民族国家が存在する限り戦争の可能性はあるのであり、あの政治的状況に＜不可避的＞に強いられて、教義の還相過程を意識的に下降し、あのような答えと実践の決断を為したのである。因みに、親鸞は、「聖道の慈悲」（往相浄土）は困窮する者を「不憫におもい、悲しみ、助けてやることである。けれども思うように助けおおせることは、きわめて稀なことである」、それ故にこの往相過程における救済は、相対的・部分的であって、緊急的過渡的な救済でしかなく、一切の衆生を究極的総体的永続的に救済に導くことはできない、それ故に自分が現に身近に接している「食物の飢え」等々で困窮している具体的な一人の人や一部の人を施しや奉仕によって相対的・部分的に救済しようとする課題は、往相的な緊急過渡的課題に属している、それに対して「浄土の慈悲」（還相浄土）は、「念仏をとなえて、いちずに仏に成って、大慈大悲心をもって思うがまま自在に、衆生をたすけ益することを意味するはずである」――この阿弥陀仏の側の真実にのみ信頼し固執すれば、一切の衆生の究極的総体的永続的な救済は可能となるだろうと認識し信仰したのである。「称名をとなえ至心に信心」できず、「即座に救われ浄土へ往」けない、あるいはこの現世に多くの未練や執着があって速やかに浄土へ往きたいと思えないし思わない庶民的現実と庶民的課題とを自らの浄土教理に繰り込んで、多念義ではなく一念義によっても救われるという絶対他力の浄土思想を構成したのである。論述を元に戻せば、われわれは、「神の神聖性」を、「神の恵みと並んでではなく、神の恵みの中に……証しされているのを見る」、すなわち神の神聖性を、神の恵みとの総体性（神の本質の区別を包括した単一性）の中に証しされているのを見る、「また神の怒り」を、「神の愛と並んでではなく、神の愛の中に証しされているのを見る」、すなわち神の怒りを、神の愛との総体性（神の本質の区別を包括した単一性）の中に証しされているのを見る、ちょうどキリストにあっての神の隠蔽をイエス・キリストにおける神の顕現の中に証しされているのを見るように、すなわちキリストにあっての神の隠蔽を、イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現との総体性（神の本質の区別を包括した単一性）の中に証しされているのを見るように――イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現は、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」というそれである。
　さて、『キリスト者の自由』において対立的に「律法と福音」という順序に立脚したルターも、その「自分自身の立場と衝突して」・違って、「義について（換言すればイエス・キリストの甦りの中で）、裁きについて（この世の君について）世の人の目を開くところの同じ」「聖霊こそが……また罪についても、同じ世の人の目を開くであろう（ヨハネ一六・八以下）、と結局ルター訳聖書の中で力強く語」っているのである。このルターは、「ペテロの漁り（ルカ五・四−一一）についての説教の中で」――「人間の罪についての指摘と説教の中で、神のみ子キリストの苦しみと死よりももっと真剣な、もっと恐ろしい指摘と説教があるであろうか……。そのことから、キリストの苦しみがまさに人間の心を動かす時、彼は自ずとそのことの中に罪に対する神の耐えられないほどの怒りを見、感じとり、苦境に立ちつつ恐怖の念を抱くに至るであろう。（中略）そのようなわけで、主キリストのやさしい切諫と警告を聞かず、彼に対して為すであろうことをよく考えずにいた裏切者ユダも、最後にはこの光景によっておそろしい恐怖へとかりたてられ、その光景自身がユダに対して律法と永劫の罰を説いた。そこで、彼はこう言ったのである、『わたしは罪のない人の血を売った』（マタイ二七・四）。また聖ペテロ自身も、彼の罪と神の怒りについての律法を、まさにこのキリストの大いなる良きみ業（≪恵みのみ業、恵みの出来事、福音≫）から説いている」、福音と律法という順序で説いている。

　「神の神聖性は、神の裁きが神の恵みと一つであることである。神は、その恵みが裁きであり、しかしまたその裁きが恵みであるということの中で（≪その単一性と区別の中で、その区別を包括した単一性の中で、≫）、聖であり給う」、ちょうど福音（恵み）と律法（裁き）が、その単一性と区別の中で（その区別を包括した単一性の中で）聖であるように、換言すればその単一性と区別の中で（神の本質の区別を包括した単一性の中で）、律法はキリストの福音を内容とする福音の形式（あの「神への愛」と、その「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」――純粋なキリストの福音をすべての人々が現実的に所有することができるために為す、キリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）であるように。「まさにこの意味で、イエス・キリストご自身は、『神の聖者』であり給う（マルコ一・二四。なお、使徒行伝三・一四、黙示録三・七を参照せよ）。旧約および新約聖書の単一性（区別を包括した単一性）は、まさにここでこそ看過したり、抗弁することのできないものである」。「まさに、第二イザヤのあの『イスラエルの聖者』こそが、言うまでもなく……イスラエルの歴史全体を規定しているヤハウェの名を最も正確に言い換えたものであることによって、同時にイスラエルに与えられた約束、その希望と待望の総内容である」。旧約および新約聖書の単一性（区別を包括した単一性）について、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』においては、次のように述べられている――単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストの現臨の出来事、イエス・キリストにおける啓示の時間、「われわれのための神の時間」――それは、イエス・キリストの受難と死および「成就された時間（キリスト復活の四〇日）」（下記の【注】参照）であり、「待望の旧約聖書的時間」、「想起の新約聖書的時間」、「この出来事についての証しの時間」である、換言すれば「成就された時間」の以前とは、先ず「出来事として起こっている特定の歴史の時間」、「旧約聖書の時間」、「啓示の待望についての証言の時間」のことである、また「想起の時間」とは、新約聖書における啓示証言の時間、新約聖書の時間、使徒の時間であり、「既に出来事として起こった啓示から……由来していた歴史」のことであり、「成就された時間 （キリスト復活の四〇日）」と切り離せない仕方で結びついている時間のことである、また新約聖書における啓示証言の時間、新約聖書の時間、使徒の時間の後に続く時間とは、「成就の時間（キリスト復活の四〇日）」に属した「新約聖書の信仰」における「想起の時間」、すなわち「聖霊降臨日のあとの時代」である、この「想起の時間」、聖霊降臨日以降の時間は、「成就された時間（キリスト復活の四〇日）」ではないが、しかしその「想起の時間」は、「甦えられた方」、復活のイエスをおぼえる「想起の時間」として、必然的に「甦えられた方を待ち望む待望の時間」、すなわち復活したキリストの再臨、終末、救贖、完成を待望する時間であり、そのようにしてそれは、「成就された時間（キリスト復活の四〇日）」に参与するのである、それ故に「キリストの死」とともに終わる「まことの過去」は、「成就された時間（キリスト復活の四〇日）」を待望する形においてあるし、まことの「未来」は、キリストの復活とともに初まり、ただキリストの復活を想起する形においてのみあるのである、ここで「すべての以前と以後においても」「同一の方であり給う」イエス・キリストにおいて、未来（復活したキリストの再臨、終末、救贖、完成）を考えること、待望することは過去（キリストの復活）を考えること、想起することであり、過去（キリストの復活）を考えること、想起することは未来（復活したキリストの再臨、終末、救贖、完成）を考えること、待望することであると同時に、「成就された時間（キリスト復活の四〇日）」の前の過去を考えることでもあるのである。論述を元に戻せば、「神は、先祖たちの日以来、モーセおよびダビデを通って捕囚からの帰還にいたるまで」、「神がいつの日にかイスラエルの聖者として、換言すればイスラエルの中でご自分の意志を主張され、貫徹されるであろう方として、ご自分を啓示され、確証し給うであろうということに基づいて、イスラエルの対して働きかけ給う」。神の「隠れと啓示は、確かに既に旧約聖書の中で区別されてはいるが」、しかし二元論的に、二元主義的に「切り離されることはできず、そのようにまた神の恵みと神の神聖性も区別されるべきであるが」、二元論的に、二元主義的に「切り離すことはできない」のである、すなわちその単一性と区別の総体性（区別を包括した単一性）の認識と自覚が重要なのである、ちょうど律法が福音を内容とする福音の形式であるように。キリストにあっての「神は、ご自身を啓示し給うことによって、ご自身を隠れた方として啓示し給う」のである。したがって、イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現は、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、すなわち「イエス・キリストの名」において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示なのである。「またまさに、神が恵み深くあり給うことによって、神はその神聖性を証明し給い、まさに聖なる者としてこそ神は恵み深くあり給う」のである。「まさにこの（≪区別を包摂した≫）単一性の中で神は、また新約聖書の証言にしたがっても、語り行動し給う」のである。「�Tペテロ一・一五以下によれば」、「きずもしみもない小羊のようなイエス・キリストの尊い血によって贖いだされたもの」、「そのようなものとして自分たちの希望を全く恵みの上に置くことがゆるされるもの」としての「教会を、……召し集められた神こそが、聖なる方であり給う」。「イエスは、ヨハネ一七・一一によれば、……ちょうど父と子が一つであり給うように、彼らも（≪弟子たちも≫）一つになるために」、「父がイエスに賜った」「そのみ名によって守り給う方を、『聖なる方』と呼び給う」（何故ならば、子は、三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方であるから）。愛に基づく父と子の交わりとしての第三の存在の仕方である「＜聖＞霊は、�Tヨハネ二・二〇によれば、キリスト者たちが油を注がれ、キリストにあっての自分たちの存在を持っているところの方である」、換言すればあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、人間的主観に神の恵みの出来事を実現される方である、その可視性は、客観的に存在している啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）、啓示されてあることにある。「その方は、（われわれは、既にそのことを指し示したのであるが）そのような方として、まさに神と人間の間のすべての現実に為された交わりの総内容であり、�Tコリント二・一〇によれば、同時にまた、まさに『神の深み』の総内容である」。「新約聖書の中で最もはっきりと神の神聖性を指し示している指示は、しばしば旧約聖書的な言明を伴った脈絡の中で為されているという事実は、結局ただ、新約聖書の証人たちは、まさにこの事柄において、意識的に、旧約聖書との（≪区別を包括した≫）単一性の中で語ろうと欲し、実際に語ったことを示している」。したがって、われわれは、「すべての言葉の使い方を度外視するとしても」、「新約聖書の使信の中心の個所を、換言すれば受難の歴史とあれほど多くの使徒書の個所で直接的間接的に証しされている（キリストの死と甦りの間の切り離すことができない）関連性」を看過することはできないし、「まさに神の裁きの中でのその恵みを、そのようにしてまたその恵みの中での神の裁きを認識しなければならない必然性から身を引くこと」はできないのである。

【注】「旧約聖書的な待望の時間」と「新約聖書的な想起の時間」との間の「成就された時間」とは、「イエスがご自分をお示しになった」復活の「あの四〇日（使徒行伝一・三）」 のことである。「新約聖書の証人たち」は、このキリスト復活の４０日をおぼえる想起において、「キリストの死」と「キリストの生涯」を想起する時、「光を得」たのである。彼らは「甦えりの証人」である。そして彼らは、「既に来た方」――イエス・キリストは「またこれから来たり給う方」であること（復活したキリストの再臨）を語るのである。