『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」（その２－１）－２
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」（その２－１）－２（１８３－２００頁）
「三十節 神的愛の完全性 一神の恵みと神聖性」（その２－１）－２
前述した「身を向けること」は、「身を屈するとか身分を落として卑下するという形で遂行される身を向けること」、「より高い者が、より低い者に向かって身を向けること」であるが、このことは、「ギリシャ語の恵みの意味の中に、またラテン語の恵みの意味の中に、……ドイツ語の恵みの意味の中に含まれている」。この「身を向けることの中に」、「特に（その中でこの言葉が現れている）旧約聖書的な脈絡がそのことを明らかにしているように」、「神がよき業として人間に対してなし給うすべてのこと、神のまこと、神の忠実さ、神の義、神のあわれみ、神の契約（ダニエル九・四）、あるいはあの使徒の挨拶の言葉によれば、神の平和が含まれている」。「それらすべては、まず第一に、基本的に、神の恵みである」。
「神が恵み深くあり給うということ」は、神は神と人間との無限の質的差異の下で、「まことに高くいまし、実際に（≪神とは異なる≫）ほかの何ものとも同じ地盤の上に立ち給わない」のであるから、神の側の真実として、われわれのための神として「神が身分を落とし給うということ」、「まことに身分を落とし卑下することのできる唯一の方が身分を落として卑下されるということを意味している」。したがって、この「恵みそのものの概念の中には、否定的なことが」、すなわち「神が身を向け給うということは、相手方の行い、業績、ふさわしさに対する答えおよび対応ではない」ということが「含まれている」。したがってまた、「神が身を向け給うことに対して、権利主張をすることができるであろう相手方」、「神の恵みに対して、条件づけることができるであろう相手方が存在する」ということは否定されているのである、それ故に「この相手方が神と同じ地盤に立っている」ということについても否定されているのである、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという、神と人間との混淆・協働・共働も否定されているのである、総括的に言えば神と人間との無限の質的差異を後景へと退けた人間の神化あるいは神の人間化は否定されているのである。何故ならば、「神が恵み深くあり給うということこそが、神はいかなる相手方に対しても義務を負っていないということを意味している」し、「神が身分を落とし卑下されることは、自由（≪自存性≫）な、換言すれば無条件な、さらに換言すればただ（≪ご自身の中での神≫）ご自身の意志を通してだけ条件づけられたヘリくだり（≪謙遜≫）である」からである。したがって、「神が、このヘリくだり（≪謙遜≫）の中で相手方に向けるところの神の愛好、愛顧、好意」は、「この概念の厳格な意味で」、換言すれば神の側の真実として神の側からやってくる（授与される）「賜物と贈り物である」。「『あなたがたはただで受けた』（マタイ一〇・八）。『恵みの＜選び＞によって』、イスラエルのうちの残された者がおり、イエス・キリストの教会が生じたのである（ローマ一一・五以下）」。「恵みは救いを意味している。『それは、あなたがた自身から出たものではなく、神の賜物である。決して行いによるのではない。それは、だれも誇ることがないためなのである。わたしたちは神の作品であって、善い行いをするように、キリスト・イエスにあって造られたのである』（エペソ二・五以下、なおⅡテモテ一・九を参照せよ）」。「御旨のよしとするところに従い、……これは、その愛する御子によって賜った栄光ある恵みを、わたしたちがほめたたえるためである（エペソ一・五以下）」。「さらに、恵みという聖書的な概念の中には、……神から恵みを受け取る相手方が、ただ単にその恵みにふさわしくないばかりでなく、全くそれに値しないということ、それは、神が罪人に対して恵み深くあるということであり、神が恵み深くあるということは、また罪を通しても、神に対してうち出される被造物の抵抗を通しても、妨げられない寵愛、愛顧、好意であるということが含まれている」。したがって、「それとしての恵みそのもの」は、「被造物の罪、被造物によって神に対してうち出される抵抗は、神の恵みを阻むことができず、弱めることもできず、不可能にすることもできないということである」。すなわち、「それとしての恵みそのもの」は、「罪に打ち勝ち、罪に対して力強いのである」。この「恵み」は、そのような「抵抗が存在していることを前提し、それを計算に入れ」ており、それ故に「まさに（≪そのような≫）対立の中で、抵抗を克服する」ことにおいてこそ「勝利を収めるのである」。客観的に存在している啓示は、神の側の真実としてある、それ故に客観的現実性としてある、「永遠的実在として」ある、完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和を、啓示自身に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証しの力を、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動を、あの「啓示と信仰の出来事」に基づく信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を授与する力を、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性を持っている。「一人のアダムの違反に対して、一人のイエス・キリストの恵み」は、「一人のアダムの違反に対して」、「（≪まして≫）イエス・キリストの恵みはさらに」というように、「パウロがしばしば用いた『まして……さらに』を通して表現されており（ローマ五・一五、一七）、……結局……『しかし、罪の増し加わったところには、恵みも増々満ち溢れた』（ローマ五・二〇）と語ることができた徹底的な立ち勝った姿と優越性の中に立っている」。言い換えれば、「神が恵み深くあり給うということ」は、神が「この優越性を実行に移すことなのであるが」、神が、「罪人に対してその罪をゆるされること（出エジプト記三四・九、民数記一四・一九）、すなわち神が寵愛、愛顧、好意をもって、神に対して罪を犯した者のために味方となり、この罪人に相対しての神ご自身の自由な善き意志が、ご自分にとってその罪人の悪しき意志よりも……無限に遥かにより真実な、より重要なものであり、神がその罪人を、……彼に向けられた神の善き意志にしたがって見られ、取り扱われなければならないように見、取り扱い給うということ……含んでいる」。何故ならば、「その方は、神であり、（≪われわれ罪人の≫）罪をおおい、消し去ること、この被造物を被造物の側での何の功績もなしに、善意をもって違った仕方で見、取り扱うということは、ただ単に神の力の下に立っているだけでなく、それこそ神の義であり、そのようなものとして神の尊厳なる意志であるから、彼に向けられた神の善き意志に従って見られ、取り扱われなければならないように見、取り扱い給う」からである（「詩篇一〇三・八」）。「それであるから、聖書的人間が、『わたしを恵んで下さい』と祈る時、このことが起こるように、このことがわれわれにとってまことであるようにと祈るのである。これこそが、神が身を向けてくださることが、神の寵愛、愛顧、好意が、神ご自身にとって、またわれわれにとって意味していることである」。バルトの『福音と律法』および『ローマ書新解』では、次のように述べられている――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！ 神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の『イエス・キリストの信仰』（≪の属格≫）は、明らかに主格的属格として理解されるべきものである）」・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」・「われわれは、われわれの主としてのイエス・キリストに固執することにより、またイエス・キリストがわれわれのかしらであるということに固執することにより、（中略）この主とかしらのもとで、またこの主とかしらとともに、……これからは神の義、神の子の義、神自身の義をまとっている者として生きることを許される」。
「人は、……この（≪恵みの概念の≫）最高の意味づけに際してこそ」、「ローマ・カトリックの恵みの概念と対立しつつ、この恵みの概念の根本理念を理解するにあたって」、「恵みは、ただ単に神が与えたり、与えなかったりできる神の賜物、ただ単に（神に対して帰したり、帰したりしなかったりすることができる）神の属性ではないということ」についての認識と自覚が「どんなに大切であるかに、よく注意せよ」。そうではなくて、ご自身の中での「神ご自身が恵み深くあり給う」、また神の「恵みは、それ自体、本来的に、本質的に、神的なものである。そのことが言うまでもなく、罪の許しの秘義である」。三位一体の根本命題に即して理解すれば、イエス・キリストのその存在は＜神性＞を本質としているから、「啓示の出来事においてはじめて神の子」、「神の言葉」となるのではなく、「父を啓示するもの」、そして「われわれを父と和解させるもの」として（啓示・和解として）、イエス・キリストは「神の子」、起源的な第一の形態の神の言葉、三位一体の神の第二の存在の仕方なのである。このキリストの神性は、「啓示および和解におけるキリストの行為の中で認識」することができる。その啓示と和解が「キリストの神性」の根拠ではなくて、「キリストの神性」、すなわちキリストの「存在の本質」が「啓示と和解を生じさせる」のである。ここに一切合財があるのであって、 「赦す神」はたとえその人がまことの人間であっても人間に内在することは決してないのである。啓示の真理によれば、われわれ人間は、日々瞬間瞬間自主性と無神性のただ中を生きており、神の恩寵を嫌悪し回避する存在である。このようなわれわれ人間に対して、キリストにあっての神は、神の恩寵を嫌悪し回避する人間が生きるためにのみ、その死を欲するのである。しかし、われわれ人間はその神の要求（律法）に対してさえも、聞き従おうとはしない。したがって、「福音と律法の真理性」における福音の内容は、神の自由な愛によって、単一性・神性・永遠性を本質と三位一体の神の第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリスト自らが、その神の要求（律法）に対して然りと言い、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、「唯一回なし遂げ給うた」（律法の成就・完了）ところにある。このインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」の「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。言い換えれば、「福音と律法の真理性」における福音の内容は、神の側の真実としてのみある、それ故に客観的現実性としてある、「永遠的実在」としてある、主格的属格としての「イエス・キリストの信仰」（神の側において完了・成就された救済・平和）のことである。「それ故に、罪の赦しは、……一つの偶発的事件を意味しない。それ故に罪の赦しは、不確実さの対象ではあり得ない」。「それ故にまた、罪の赦しは、軽はずみに受け取られ、取り扱われることはできない。それ故に罪の赦しは、神の神聖性、義、知恵全体にもかかわらずわれわれに与えられるというのではなく」、「神の神聖性、義、知恵全体の中で、それらと共に、われわれに与えられる。それ故に、罪の赦しは、聖化し、裁き、間違いを正しつつ、われわれを要求してくる」。「それ故に、罪の赦しは、またわれわれの正しい、決定的な慰めである」。「何故ならば、神ご自身が、罪の赦しの中で、恵みのこの『満ち溢れ』の中で、徹頭徹尾（≪ご自身の中での神≫）ご自身であり給」うからである、何故ならば「神がまさに恵み深くあり、したがって罪を赦し給うということでもって示される真剣さよりももっと高い神的な真剣さは存在」しないからである、何故ならば「神はこの行為の中でご自身以下の者ではなく、ご自身以外の何者でもなく、まさにほかならぬご自身をわれわれのために差し出され、われわれの悪しき意志にもかかわらず、ご自身の善き意志をもって、自ら（≪われわれのための神として≫）われわれの事柄とわれわれのために責任を引き受け給うからであり、神はまさにこの行為において、その存在の尊厳性全体（≪ご自身の中での神の存在の尊厳性全体≫）の中で登場し給うからである」。「ちょうどわれわれが神ご自身に対して罪を犯すように、（≪ご自身の中での≫）神は、（≪われわれのための神として≫）われわれに対して恵み深くあり給うことによって、ご自身われわれの味方となり給う」。したがって、「もしわれわれが（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）神の恵みを見出し、認識し、受け取り、持つならば、われわれはまさに神ご自身以下ではなく、神ご自身以外の何者でのない方（≪「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」イエス・キリストにあっての神≫）を見出し、認識し、受け取り、持つのである」。それ故に、このような仕方で、「まさに恵みを通して」、「罪は、……その根底において攻撃され、根絶される」のである。このように、「恵みが顕わされ、力を発揮するところ、そこではあらゆる事情の下で（≪ご自身の中での≫）神ご自身が顕われ、力を発揮し給う」のである。ここでは、「われわれは、より高いもの、よりよいもの、より役に立つものを待ちもうけなければならない必要はない」。何故ならば、「神が恵み深くあり給うところ、そこでは神の約束が、……また神の命令が、神の真理が、……神の力が、神の裁きが、……神の矯正が、欠けることはあり得ない」からである。「そしてまた、神が啓示され、力を発揮し給うところ、そこでは神はあらゆる事情の下で、恵み深い神として啓示され、力を発揮し給う」。「神ハマコトニ、ソノ固有ノ本質カラシテ、恵ミ深クアリ給ウ」。また、キリストにあっての神は、（≪ご自身の中での神として≫）「われわれにとって知られていない隠れた神としても、恵み深くあり給う」。また、キリストにあっての神は、「われわれによって否定され、憎悪され、それ故にわれわれに対し怒りをもって臨まれる神としても、恵み深くあり給う」。また、キリストにあっての神は、「その方に対してわれわれが罪を犯し、それ故にわれわれを裁き、罰し給う神としても、恵み深くあり給う」。このような訳で、われわれは、「われわれの罪」を、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「まさに神の恵みに対する敵意（≪われわれ人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求、それ故に無神性・不信仰・真実の罪≫）として認識し、理解した時、はじめて認識し、理解する」ことができるのである。この時、われわれは、「われわれの罪から身を背けて回心する」ことができる。キリストにあっての神、「実在の神」、「まことの生ける神」は、「根本的、決定的に、その恵みの中で、……ご自身を被造物と区別し給う」。言い換えれば、われわれ人間に対して、神と人間との無限の質的差異の認識と自覚を要求し給う。神と人間との無限の質的差異は、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」（『ローマ書』）。このような訳で、「根本的に、決定的に、その恵みから神の神性は成り立っているし、その恵みの中で神の神性は確証される」。
キリストにあっての神は、前述したように「愛し給う」、前述したようにわれわれのための神として「ご自分とわれわれとの間の交わりを尋ね求め、造り出し給う」。「この特色の中で、われわれは、神の愛の神性を認識するのである」。何故ならば、キリストにあっての神は、前述したように恵み深く、「ただ単に（≪われわれのための神として≫）外に向かってその被造物に対して＜働きかけ給う＞だけでなく、また永遠から永遠にわたって、ご自身の中で、（≪ご自身の中での神として≫）そのように恵み深く＜あり給う＞からである」。確かに、この「恵み」は、「神ご自身の中で、神ご自身として（≪ご自身の中での神、その存在として≫）、現実のものである際の形態（≪「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互＜内在性＞」≫）の中ででは、恵みはわれわれにとって事実隠されており、理解を絶したものである」。したがって、「恵みは、われわれにとっては言うまでもなく」、「われわれにとっての、われわれの身に対してのその啓示と働きの中ででも秘義」であり、それは「秘義として認識」することができるだけであり、それ故にそれはあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）の中でだけ「認識」することができる「秘義」なのである（「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現は、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるナザレのイエスという「人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示である）。「まさにそれだからこそ、恵みは、われわれに対して、ただ恵みを通してだけ（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてだけ≫）啓示されるようになり、与えられることができるのである」、神の恵みの出来事を人間的主観に実現させることができるのである。「まさにこの秘義の中で恵みは、言うまでもなく神的な存在および行為としてわれわれのただ中で啓示され、有効に力を発揮しつつ働くのである」。キリストにあっての神の「恵み」は、「極め難い形態の中で、神ご自身（≪ご自身の中での神≫）の中に、神的な実在を持って」いるが故に、「恵み」は、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の中で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）において「われわれに知られた形態（≪単一性・神性・永遠性を本質とする全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在、われわれのための神の存在、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方（性質、働き、業、行為、行動）であるイエス・キリストの父――創造主・啓示者、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示・起源的な第一の形態の神の言葉、愛に基づく父とこの交わりとしての第三の存在の仕方である聖霊――救済主・啓示されてあること≫）の中で、神的な実在を持ち、また神的な実在であることができる」のである。この時、「恵み」は、「父を子と、子を父と、聖霊を通して結びつける」「純粋な寵愛、愛顧、好意」となる、「われわれに知られた形態の中で、現にあるところのもの、身を向けること、身を落として合わせること、克服となる」。
「われわれは今」、「神の恵みというこの概念」を、「神の神聖性の概念と一緒にまとめて考えることにする」。「われわれは、神ご自身（≪ご自身の中での神≫）を、一人の全き神を、この概念でもって言い表したのである」。「われわれは、（≪ご自身の中での神、われわれのための神という二つの系列における≫）神の愛は、したがって神の本質は、徹頭徹尾、その神性のすべての深みに至るまでまさに……恵みであるということをわれわれに語らせるとき、何も思い違いをしていないであろうし、何も逸していないであろうし、また何も看過していないであろう」。しかし、この神の「恵み」が、「何であるかということ」は、「われわれの認識の中ででは、それが神の真理（われわれがこの概念の中で、……われわれ人間が神を信仰の中で認識する仕方で、換言すればわれわれの認識が先に進み、成長し、増し加わることが許され、またそうしなければならないという仕方で、認識するところの神の真理）」の中においても、換言すれば起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、われわれの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で純粋なキリストにあっての神（純粋なキリストの福音）を尋ね求める「神への愛」（このような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」、この総体性）を志向し目指すという仕方で、「認識するところの神の真理」の中においても「そうであるように、完全な、少しも曖昧さがない形で明らかであるわけではない」し、「またそのように豊かで、深いものでもないのである」。神の「恵みというわれわれの概念は、（≪われわれが人間である限り、それが人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、≫）恵みが神ご自身（≪ご自身の中での神、その存在≫）の中で現にある通りの明瞭さと豊かさを把握することはできない」のである。したがって、「徹頭徹尾恵みであり給う神の真理が、われわれにとって問題であるとするならば、その時、われわれは、……われわれの概念（≪恵みの概念≫）でもって神に対する支配権」を獲得しようとしたり・獲得したかのように「われわれの概念にしがみついていることはできないし、しがみついていることは許されない」のである。言い換えれば、「神の本質についてのわれわれの認識の中においては、ただわれわれが繰り返し新たに、いかに神がわれわれを支配し給うかということを明らかにすることだけが問題であることができる」。すなわち、われわれの宣教、われわれの思惟と語りにおける「先ず第一義的に優位に立つ原理」・規準・法廷・審判者・支配者を、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）として認識し自覚し、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに信頼し固執し連帯することが重要である、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」を志向し目指していくことが重要である。したがって、「われわれは、絶えず、われわれの概念を限界づけ、補充させることに対して開いて」おかなければならない。われわれは、「既に、神の愛および自由という二つの主要概念」について、「神の中での分離や二重性を確立したわけではなく」、「啓示（≪われわれのための神、その存在の系列に属する、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の愛の行為の出来事としての神の存在、「イエス・キリストの名」≫）と本質（≪ご自身の中での神、その存在の系列に属する、全き自由としての神、自存性としての神≫）の明瞭さと内容充実の中での神の単一性（≪総体性≫）を尊重しようと欲するところの相互の限界づけ合いと補充し合いの前提でもって承認したのである」。「まさにこの運動」を、「われわれは……一歩毎に、また個々の点にわたっても、遂行して行かなければならない。したがって、われわれは、今、神の神聖性について語る時、いかなる方向転換もいかなる主題変更もしているわけではない。われわれは、……ただ引き続いて神の恵みについて語るのである」。したがって、「われわれはまた、本節および次節でこれから先さらに取り組むであろうすべてのそのほかの概念でもっても、ただ引き続いて神の恵みについて語るだけであろう。しかし、われわれは、もしも引き続いて一人の豊かな神の恵みについて語りたいと願うならば」、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、「神は徹頭徹尾恵みであり給うという中心点から」、「事実さらに他の概念を用いて語り続けなければならないであろう」。
「神が愛し給うということは、それが神聖であるということの中で、（≪キリストにあっての神の神的な愛とは異なる≫）そのほかの愛することから区別された、神聖な行為と存在である」。「神は、（≪われわれのための神として、≫）交わりを求め、造り出し給うことによって、主であり、あくまで主であり続け給い」、それ故にご自身の中での「神ご自身の意志を（≪神とは異なる≫）すべてのその他の意志から区別し、すべてのその他の意志に相対して主張し給い、神の意志に反対するすべての反抗と抵抗を断罪し、排除し、絶滅し」、それ故に「この交わりの中でただご自身の、……よい意志だけをして力を奮わせ、生起させ給う」。「この特徴（≪総体性、「神の本質の単一性」≫）の中でだけ、神の愛は、神の神的な愛である」。
「ポラーヌス」は、「神ノ神聖性」について、「ソレニヨッテ神ノ性質ガ普遍的ニ、最モ完全ニ、正シイモノデアルコトガ知ラレ、ソノ中デ不正、悪、汚レハ全ク微塵モナク、同時ニマタ最高ノ純粋ナ、貞潔ナ愛ト（理性的被造物ノ中ニアル）純粋サト貞潔ノ基礎ガアリ、ソレニ対シテ外的ニシロ内的ニシロスベテノ不純ト不潔ヲ最高ニイミ嫌イ、ソレヲ最モ厳格ニ忌避シ、罰スルトコロノ神ノ本質的ナ属性デアル」、と述べている。また、「クエンシュテット」は、「神ノ神聖性」について、「イカナル汚レヤ悪トモカカワラナイ神ノ中ニアル純粋サ――被造物カラ当然、清潔サト純粋サヲ要求シ、アルイハ神ガ最高ニ純粋デ、清潔デ、聖クアリ、被造物ノ中デノスベテノ純粋サト聖サト創始者デアリ給ウ神ノ中ニアル純粋サ――ノコトデアル」、と述べている。両者の「定式的な言い方は、個々の点でのそのすべての正しさにもかかわらず」、それらが、「神の恵みを念頭に置いて、神の本質の単一性をはっきりさせずに、ただ神聖性を神の中での第二のものあるいは第三のものとして、恵みの傍らに置いているということによって」、彼らの定式は「宿命的な仕方で病んでいる……」ものなのである。このことは、「ペトルス・マストリヒトの洞察力ある記述についても言える……」ことである。神的自由の一要素としての神聖性を抽象して、「神的自由の＜要素＞としての神聖性の特徴づけ」を為した「マストリヒトは、神の神聖性の概念の中で」、「その中で神が、すべての一般的なものおよびそれとして『世俗的なこと』からご自分を区別される＜分離＞」、また「その中で神が、ご自身の故に、ゴ自身ヲ献ゲラレ、シカモゴ自身ヲ確立シツツ為すことを為し給う＜献身＞」、また「その中で神が、その律法の創始者であると同時に律法の成就者であり給う＜表示＞」、また（＜忌避＞）としての「神によってそれとして特徴づけられ、拒否される悪に対する神の徹底的な疎遠さ」という「四つのことを区別しようとした」。しかし、「もしわれわれがこの事柄について、聖書から教えられるとするならば、われわれはここで区別をすることはしないであろう」。何故ならば、われわれの課題は、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、その総体性（「神の本質の単一性」）において、「神はまさに恵み深い方として神聖であり、さらにまた神聖なる方として恵み深いということ、またどの程度までそうであるのかということを示す」点にあるからである。