本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−１）−１（１８３−２００頁）

引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）

「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」
「六章　�~の現実　三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
　神の愛の神性は、神がご自身の中で、またそのすべての業の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うことから成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１８３頁）

〔この定式の詳述〕
　神の愛の神性（≪下記の【注１】参照≫）は、神がご自身（≪全き自由の、自存性の「ご自身の中での神」、ご自身の中での神の存在、下記の【注２】参照≫）の中で、またそのすべての業（≪全き自由の、自存性の「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする「失われない差異性」の中で三つの存在の仕方において三度別様に父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在、「われわれのための神」・「世界との関係の中での神」、われわれのための神の存在、下記の【注３】参照≫）の中で、恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給うこと、まさにそれと共にまた神聖で、義しく、知恵に富み給うこと（≪神の恵み――神聖性、神のあわれみ――義、神の忍耐――知恵≫）から成り立っているし、またそのことの中で確証される。（１８３頁）

【注１】神は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である＜自由＞」の中で「愛する方であり給う」。したがって、「神の神性は、それが神の自由として理解されるべきである限り、神の愛（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の神性（≪「神ご自身においてのみ実在であり真理である＜自由＞」、自存性≫）である」。「人格的な三位一体の神として、神は自存的な神であり給う」。したがって、「神は、まさにその自由の中で愛する方であり給う」ということを「逆な順序ででも語らなければならない時」、先ず以て「人格的な三位一体の神として神は自存的な神であり給う」ということに基づいて、「愛する方として神は自由な方である」というように語らなければならない。
【注２】三位一体の根本命題に即して理解すれば、「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする「失われない差異性」の中での、起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父、父が子として自分を自分から区別した子としてのイエス・キリスト自身、三度目に父と子の二つの存在の仕方から生じる一つの存在の仕方（「父ト子ヨリ出ズル御霊」）としての第三の存在の仕方である聖霊である。したがって、この聖霊は、父と子の啓示に対する「特別な第二の啓示」ではなく、「父なる神と子なる神の愛の霊」である。すなわち、愛に基づく父と子の交わりである。ここに、聖霊の「起源」がある。この聖霊において、父と子（≪神的対関係≫）は、愛に基づく完全な共存的な関係・交わり（≪神的共同性≫）においてある（「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互＜内在性＞」）。すなわち、聖霊は、その「交わり」の中で、「父は子の父」・「言葉の語り手」（啓示者）であり、「子は父の子」・「語り手の言葉」（啓示、起源的な第一の形態の神の言葉）であるところの三位一体の神の第三の存在の仕方の業・行為（性質、働き、行動）である。したがって、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事に基づいて」終末論的限界の下で初めて、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は、われわれのところに来るのである。言い換えれば、現存するわれわれの宣教、その思惟と語りにおける「先ず第一義的に優位に立つ原理」・規準・法廷・審判者・支配者としての啓示の出来事、起源的な第一の形態としての神の言葉、神の側の真実として、それ故に「客観的現実性」として、「永遠的実在」として完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和と、聖霊の注ぎによる信仰の出来事、すなわち聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいて終末論的限界の下で初めて、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は、われわれのところに来るのである。イエスが「聖霊の特別な働きとして約束」したものは、「慰め主としての霊」と「真理の御霊」であるが、聖霊は、聖書の中の「キリスト教原理を、覆いをとって明らかにする」、「キリストについて語ることができる能力」授与（ヨハネ一四・二六）であり、「上から」の「よき賜物」である。神のその都度の自由な恵みの決断による聖霊の注ぎによって「聖霊を持つ」ということは、「キリストにおいて起こった和解にあずかること」であり、「キリストと共に、死から生命への」方向転換に置かれることである――この二つの方向転換 において、「イエス・キリストにあっての神の啓示の要素としての霊の本質」は、「キリストにある自由」を意味している、この「キリストにある自由」とは、「キリストの奴隷」となること（徹頭徹尾、ただ主イエス・キリストにのみ感謝をもって信頼し固執すること）である。ここに、神は愛・愛は神であることの根拠がある。「愛は神にとって、最高の法則であり、最後的な実在」である。愛は、自由がそうであったように、先ず以て「神ご自身においてのみ実在であり真理である」。この聖霊は、三度目の最後的な第三の存在の仕方として、神にとって最高の法則、すなわち愛であって、その愛に基づく起源的な第一の存在の仕方である父と第二の存在の仕方である子の交わり（関係）であり、神と人間との交わり（関係）の根拠である。先行する、「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」の中での第二の存在の仕方（啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉）である「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神ご自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」。
【注３】「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする三位一体の神の「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方（全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在）、すなわちその起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――創造主・啓示者・言葉の語り手、その第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示・語り手の言葉（起源的な第一の形態の神の言葉）、その第三の存在の仕方である愛に基づく父と子の交わりである聖霊――救済主・啓示されてあること・それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性

註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学　神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。

「三十節　神的愛の完全性　一神の恵みと神聖性」（その２−１）−１
　前回、次のようなことが論じられていた。
　存在的にも認識的にも、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」イエス・キリストにあっての神が、ご自身の中での神として「ご自身の中で愛する者であり給うことによって」、それ故に先行してわれわれのための神として「神がわれわれを愛し給うことによって」、「神は、（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、終末論的限界の下で≫）完全に認識可能である」。しかし、存在的にも認識的にも、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」キリストにあっての神が、ご自身の中での神として「ご自身の中で＜自由＞（≪自存性≫）なる者であり給うことによって」、それ故にご自身の中での神として「神がわれわれをその＜自由＞（≪自存性≫）の中で愛し給うことによって」、ご自身の中での神としての「神は、われわれにとって完全に認識不可能である」。したがって、「ひとりの神の本質としてのこの二重」性が、「神の完全性についての教説の内容を形作らなければならない」。その「神の完全性についての教説」は、「＜神の愛＞の完全性について、それから＜神の自由＞の完全性について取り扱わなければならない」。キリストにあっての神の「顕われと隠れ」（自己顕現と自己隠蔽――啓示の弁証法）、それ故に神の「認識可能性と認識不可能性の単一性（≪啓示の弁証法から規定されてくるそれ≫）が、……神の啓示（≪「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリスト≫）の聖書的概念を構成している」。また、「神の愛と神の自由の単一性（≪ご自身の中での神は「ご自身の中で＜自由＞（≪自存性≫）なる者であり給うことによって」、それ故にご自身の中での「神がわれわれをその＜自由＞（≪自存性≫）の中で愛し給う」。このように、神は「ご自身の中で愛する者であり給う」ことによって、先行してわれわれのための神として「神はわれわれを愛し給う。……神はそのことをその＜自由＞（≪自存性≫）の中で為し給う」、この総体性・相互規定性が「神の本質の聖書的概念を構成している」。このような訳で、「われわれは、神の愛について語るときにはまた神の自由について、神の自由について語るときにはまた神の愛について……語らなければならない……」、また「ここであるいはあそこで個々の規定について語るときには、またすべてのそのほかの規定についても語らなければならない……」。
　「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神は、「自由（≪自存性≫）なる方として愛し給う」ところの「ご自身だけでい給うひとりの神」（ご自身の中での神としてのひとりの神、ご自身の中での神の存在としてのひとりの神）と「失われない差異性」の中で三つの存在の仕方において三度別様に「愛する方として自由（≪自存性≫）であり給う」ところの「われわれのためにい給うひとりの神（≪われわれのための神としてのひとりの神、われわれのための神の存在としてのひとりの神≫）の間の＜区別＞を……分離してしま」って、それ故に、一方を抽象して、すなわち一方を拡大鏡にかけて全体化して、「それから神の本質を……（≪自存的な≫）ご自身の中での神（≪「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「三位相互＜内在性＞」における神≫）の自由とその完全性の中で、換言すれば神の永遠性、全能等々の中で尋ね求め」つつ、「しかし（≪「われわれのための神」、「われわれのためのその存在」における≫）神の愛とその完全性、すなわち神の神聖性、義、あわれみ等々を唯名論的にあるいは半唯名論的（「二十九節　神の完全性」（その３−２）−１の【注】――唯名論・半有名論の論述を参照）に単なる仕方の事柄として、非本来的に理解されるべき……規定として取り扱う」ことはできないし、そのようなことは許されないのである、「もしも神の愛（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の中でこそ神の自由（≪神の自存性≫）を認識しないならば、われわれは、神の愛を誤解することになるであろうということについて決定が下されているのである」、ちょうどイエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」(三位一体の神の第二の存在の仕方、「イエス・キリストの名」、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在) において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示であるように。
　「神的完全性」を、「神的完全性（≪神の自由の完全性と神の愛の完全性≫）の二つの系列」（「ご自身の中での神」・ご自身の中での神の存在と、「われわれのための神」・われわれのための神の存在・「世界との関係の中での神」・世界との関係の中での神の存在）の順序についての思惟と語りにおいて、われわれは、「神の愛について語ろうと神の自由について語ろうと、その満ち溢れの中での主の栄光……を持ったひとりの全き神とかかわらなければならないということは……本当である」。われわれは、啓示――われわれのための神、その存在の系列に属する、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の愛の行為の出来事としての神の存在、「イエス・キリストの名」と、本質――ご自身の中での神、その存在の系列に属する、全き自由としての神、自存性としての神という「神の啓示と本質の弁証法……と取り組んでいるという展望を曇らせることはできないし、そのようなことは許されない」のである、ちょうど聖書的啓示証言におけるイエス・キリストは「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」ということは、決してわれわれ人間の「恣意に委ねられておらず」、啓示の弁証法として事柄的にそうであるように。
　「昔の教会的な神論の神概念の事柄から言って最も憂慮すべき点」は、キリストにあっての神が、「まず第一に本来的にご自身（≪ご自身の中での神、その存在≫）の中で非人格的な絶対者」として概念規定され、「それから初めて、非本来的な仕方で、外に向かって、その知恵、義、あわれみ等々の中で愛の人格的な神」（≪われわれのための神、その存在≫）として概念規定された、その「配列の仕方」、「順序」にある。「この順序は、イエス・キリストにおいて啓示された啓示の秩序（≪三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――創造主・啓示者、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示・起源的な第一の形態の神の言葉、愛に基づく父と子の交わりとしての第三の存在の仕方である聖霊――救済主・啓示されてあること≫）にも、その啓示（≪三位一体の神の第二の存在の仕方、「イエス・キリストの名」≫）の中での認識可能な神の本質（≪三位一体の神の第二の存在の仕方において、その存在の本質である「失われない単一性」・神性・永遠性の認識と信仰が可能であるそれ≫）の秩序にも対応しない」ものなのである。「そうではなくて、まず第一に、（≪イエス・キリストにおける≫）神の啓示の中では、神の顕われが事柄的に言って第一のものおよび最後のものであり、神の道の起源であり終わり」なのである。イエス・キリストにおける「神の啓示（≪神の自己啓示・自己顕現≫）は、まず第一に最後的に、福音、喜ばしい使信、神の恵みの言葉および行為である」、神の存在としての神の愛の行為の出来事である。この出来事は、神の「顕われ」と「隠れ」という啓示の弁証法の下で起こっている。したがって、キリストにあっての神は、「ご自身を啓示し給うことによって」、「すべての秘義の秘義としてご自身を証明される」ということである、すなわち「神の全能と永遠性、神の隠れ、尊厳性の啓示」でもあるということである、「福音がわれわれにとって律法（≪律法はキリストの福音を内容とする福音の形式である≫）および審き（≪『教会教義学　神の言葉�T／１・２』によれば、聖書において「イエス・キリストの啓示の時間」は、「われわれ人間の失われた非本来的な古い時間」・世に対する「否定的判決」の、「攻撃」のそれ≫）となる」ということである（≪ちょうど福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」、すなわち「旧約」――「神の裁きの啓示」・律法から「新約」――「神の恵みの啓示」・福音へのキリストの十字架でもって終わる古い世」は、復活へと、神の側の真実としてある新しい世へと向かっているというように≫）、「われわれの罪と無力さ」、それ故に「神から隔たったわれわれの距離」、それ故に「神ご自身ではないすべてのものに相対しての（≪神と人間との無限の質的差異における≫）神の至高性」を啓示し給うということである。このようにして、啓示の弁証法において、「神の秘義が開示されること（≪神の自己顕現≫）によって、それは秘義（≪隠れ・隠蔽性・秘義性≫）として明らかとなる」。キリストにあっての神は、啓示の弁証法において、「初めて、……ご自身を顕わされることによって、……またご自身を隠し給う」、「初めて、……語り、行動されることによって、神の全能と永遠性がわれわれにとって実在となる」、「初めて、……ご自身をわれわれに対して愛する者（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）として与えられることによって、同時にまた神はその聖なる自由（≪自存性≫）の中でわれわれから身を引き給う」、「初めて、……福音の力の中で、われわれにとって神的なものとして拘束し、義務づける律法（≪福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請≫）があるし、われわれの罪の認識が、それと共にそれに基づいて、われわれの被造物性の、神から隔たったわれわれの距離の認識（≪神と人間との無限の質的差異の認識と自覚≫）が、そのようにしてご自身の中で（≪ご自身の中での神、その存在≫）の、そして神ご自身ではない（≪神とは異なる≫）すべてのものに相対しての神（≪われわれのための神、その存在≫）の、至高性の認識がある」。
　聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「三位相互＜内在性＞」において、イエス・キリストの父は子として「自分を自分から区別」するし自己啓示する神(言葉の語り手・啓示者)として自分自身が根源である。したがって、その区別された第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト（≪語り手の言葉・啓示・起源的な第一の形態の神の言葉≫）は父が根源であり、愛に基づく父と子の交わりである第三の存在の仕方である聖霊は父と子が根源である。この神は、子としてのイエス・キリストの中で「創造主として、われわれの父」として自己啓示する。この神は「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質としているから、父だけが創造主なのではなく、子と霊も創造主である、同様に、父も創造主であるばかりでなく、子に関わる和解主であり、聖霊に関わる救済主でもあるのである。また、イエス・キリストは、和解主として、順序的に創造主のあとに続いて、神の第二の存在の仕方(啓示・和解)において「第二の神的行為」を遂行したのである。この神の存在の仕方の差異性における「創造と和解のこの順序」に、「キリスト論的に、父と子の順序、父（≪啓示者≫）と言葉（≪啓示、起源的な第一の形態の神の言葉≫）の順序」が対応しており、「和解主としてのイエス・キリスト」は、順序的に「創造主としての父」に先行することはできないのである。しかし、父と子は共に神ご自身のその存在において「失われない単一性」・神性・永遠性を本質としているから、この従属的な関係は、その存在の本質の差異性を意味しているのではなく、その存在の仕方の差異性を意味しているのである。したがって、「神の啓示の秩序を堅くとって離さないでいる神の本質とその完全性についての認識は、この順序を堅くとって離さない」のである。このことと同じことは、「神の啓示の中で認識可能な神の本質（≪イエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、「イエス・キリストの名」、神の第二の存在の仕方において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示であるということ≫）を念頭に置いても、結果として生じてくる」。われわれは、その自存性において、その自由さ・完全さにおいて、「愛し給う者、換言すれば（≪われわれのための神として≫）われわれを愛し、しかしまた（≪ご自身の中での神として≫）ご自身の中で愛し給う者、交わりを基礎づけ、保持し、実証する者であること」が、「神の本質であるということを見た」。キリストにあっての「神は、自由なる者として、その自由の中で、ご自身からして、ご自分を通して、ご自身の中で存在する者として」、それ故に神とは異なるすべての「他者によって条件づけられず」、逆に神とは異なる「すべての他者を条件づけつつ自ら存在する方として、そのようなものであり給う」。したがって、「神は、尊厳性、全能、永遠性の中でそのようなものであり給う」。キリストにあっての「神は、自存的な神としてそのようなものであり給う。神は、まさにその自由の中で愛する方であり給う。したがって、神の神性は、それが神の自由として理解されるべきである限り、神の愛（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の神性（神の自由、自存性）である」。「人格的な三位一体の神として、神は自存的な神であり給う」。「神は、まさにその自由の中で愛する方であり給う」ということを逆な順序ででも語らなければならない時、先ず以て「人格的な三位一体の神として神は自存的な神であり給う」ということに基づいて「愛する方として神は自由な方である」と語らなければならない。われわれ人間の神認識について言えば、キリストにあっての神は、ご自身の中での神として「ご自身の中で愛する者であり給うことによって」、それ故に先行してわれわれのための神として「神がわれわれを愛し給うことによって」、「神は、（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、終末論的限界の下で≫）完全に認識可能である」、と同時に、キリストにあっての神が、ご自身の中での神として「ご自身の中で＜自由＞（≪自存性≫）なる者であり給うことによって」、それ故にご自身の中での神として「神がわれわれをその＜自由＞（≪自存性≫）の中で愛し給うことによって」、「神は、われわれにとって完全に認識不可能」なのである。

　「神は、み子イエス・キリストの中で、そのすべての子供たちを、そのすべての子供たちの中ですべての人間を、また人間の中で全被造物を愛し給う」・「神が存在するということは、神が愛し給うということである」・「神は、現にあるところのすべてのもの（≪父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在、起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――創造主・啓示者、第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示、第三の存在の仕方である愛に基づく父と子の交わりである聖霊――救済主・啓示されてあること、その性質・その業・その行為・その働き・その行動≫）で、愛する者としてあり給う」。したがって、「神のすべての完全性は、神の愛の完全性である」。われわれの「神認識」――すなわち信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「イエス・キリストにあっての神の自己啓示に基礎づけられており、……拘束され続けていることによって（≪何故ならば、「イエス・キリストの名」、起源的な第一の形態の神の言葉こそが、現存するわれわれの宣教、その思惟と語りにおける「まず第一義的に優位に立つ原理」・規準・法廷・審判者・支配者であるから≫）、われわれは、「特別に、ひとつひとつ順序を踏んで、神は誰であり、何であり給うかを考え、語ろうと欲する時」、「神の愛（≪あの神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の考察以外のところではじめることはできない」のである。「イスラエルのメシヤとメシヤが律法を成就されたことについての福音（下記の【注】参照）、肉となり、われわれの間に住んだ言葉についての福音、われわれの罪のゆえに引き渡され、われわれが義とされるために甦らされた方についての福音」――「この福音の中では、神の愛は第一の言葉である」。「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神ご自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。したがって、このキリストの福音によって、「神は誰であり、何であるかをわれわれに向かって語らせようとする時には、われわれは、神は愛であるということを最初の言葉として、われわれに向かって語らせなければならない」。この時、「われわれは、（≪ご自身の中での神とわれわれのための神という二つの系列の≫）神のすべての完全性を、神の愛の完全性として認識し、理解しなければならない」。何故ならば、聖書的証言の本来的テーマは、三位一体の神の第二の存在の仕方である「子なる神、キリストの神性」を問う問いの中に、「父を問う問い」と「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊を問う問いとが包括されているからである。神は、イエス・キリストにおいて、インマヌエル――「神われらと共にいます」という第二の存在の仕方において、自己啓示・自己顕現されたのである。このことは、「失われない単一性」・神性・永遠性を存在の本質とする「自己を覆い隠す」・隠蔽性・「聖性」・秘義性としての三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が、「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方のその第二の存在の仕方において子として「自分を自分から区別」したことを意味する。したがって、このイエス・キリストにおける神の自己啓示は、第二の存在の仕方であるナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、すなわち「イエス・キリストの名」において、その存在の本質である「失われない単一性」・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示である。「尤もわれわれは、神的な存在の神的なことを、（≪その神の存在の本質から言えば、≫）一見、より多く神の自由の中に（≪神の自存性の中に≫）、換言すれば神の「単一性、普遍性、永遠性、神の遍在、全能、栄光の中に尋ね求めるべきだと考えることできるであろうが。この神の自由については、次節（≪「三十一節　神の自由の様々な完全性」≫）で語られる」。「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の自由さ・完全は、「失われない差異性」の中での父、子、聖霊の三つの存在の仕方の自由さ・完全さであり、前回も述べられていたように、「神の自由は、事実、神の愛と比べて少しも劣らず神的」であり、「神の愛は、事実、ただそれが神の自由の中での神の愛である限りにおいて、神的である」。「同様にまた、神の自由は、ただそれが神が愛し給う自由である限りにおいて、神的である」。このことは、「神が神であり給う」神の側の真実として、「神的な＜生の秩序＞の意味」でそうである。すなわち、「神はまず第一に愛する方であり、それから、そのような方として自由な方である」。イエス・キリストにおける神の自己啓示は、神は愛する方であるという神の愛の行為の出来事としての神の存在において、神の全き自由（自存性）の認識と信仰を要求する啓示なのである。したがって、「われわれがまず第一に、暫時的に神の自由を度外視して、一面的に（≪その一面を抽象して、その一面を拡大鏡にかけて全体化して≫）それとしての神の愛に身を向け」、「その後、同じように一面的に（≪その一面を抽象して、その一面を拡大鏡にかけて全体化して≫）神の自由に身を向けるということを意味していない」のである。「そのような（≪その一面を抽象した、その一面を拡大鏡にかけて全体化した≫）静的な体系化をもってしては、……神の本質の中での秩序（≪その本質と本質的な性質の秩序≫）に対して決して公正な態度をとること」はできないのである。すなわち、「それとしての神の愛そのものは存在しない」、ちょうど「それとしての神の自由そのものが存在しないように」。「神の存在は、自由の中で愛する方としての神の存在である」、神の存在の本質とその本質的な性質の総体性におけるそれである。このような訳で、われわれは、「神の愛について考察しつつ、絶えず神の自由についても」、「そして後で、神の自由について考察しつつ、絶えず神の愛についても、＜一緒に＞考察しなければならない……」。
　「われわれは、神的愛の完全性でもってはじめることにする。まさにそのようにしてこそ、間接的にではあるが、また神的自由でもってはじめるという意図と信頼をもって」、「神的愛の完全性でもってはじめることにする」。キリストにあっての神は、ご自身の中での神として「ご自身において」、またわれわれのための神として「そのすべての業において」、すなわち父（創造主・啓示者）、子（和解主・啓示）、聖霊（救済主・啓示されてあること）なる神の愛の行為の出来事としての神の存在において、「恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給う」――このことが、「神の愛である」。「まさにそれと共に、……神の愛は（≪ご自身の中での神としての≫）その自由の中で起こるのであるから……、また聖で、義しく、知恵に富み給う……という仕方で」、「恵み深く、あわれみに富み、忍耐強くあり給う」。何故ならば、このことこそが、「神が愛する者であり給う自由であるからである」。このような訳で、「神の愛は、（≪その本質的な性質としての≫）恵み、あわれみ、忍耐であり、まさにそのようにしてこそ、それと共に、（≪その本質としての≫）神聖性、義、知恵であるということから」、「神の愛の神性」、「神の愛の完全性」は「成り立っているし、そのことの中で」、「神の愛の神性」、「神の愛の完全性」は「確証される」のである。「聖書は、この事柄において、どこにおいても決して拘束的な提示を与えてはいない……」。したがって、「方法ハ任意デアル」。したがってまた、「われわれが今試みなければならないようなすべての選択とすべての総括は、原則的にはただ試みと提案という性格を持つことができるだけである」。しかし、そうであるからといって、「それは、恣意的（≪独善的嗜好的≫）なもの、換言すれば意味のないものあるいは勝手なものであってはならないし、そのようなものであることは許されない」のである。したがって、「ここで為されるわれわれの試みと提案」は、「イエス・キリストの名」――その「一つの事柄に仕えなければならない」という「自分の立場」において、「どのような規定の下で神の愛は、（愛についての一般的な概念に従ってではなく、聖書の中で証しされているイエス・キリストにあっての神の愛として）出来事として起こり、実在となるのか、それであるからそのことに基づいてわれわれはそれを神の本質の規定として理解することが許され理解しなければならないのかという問いの考察に基づいている」のである、「第一の系列、（≪その本質的な性質としての≫）恵み、あわれみ、忍耐は、この問いに対して答えようとするのである」、と同時に「ここで為されるわれわれの試みと提案」は、「どのような規定の下で神の自由は、（ここでもまた一般的な自由ではなく、イエス・キリストにあって実証され、聖書の中で証しされた神の自由、その中で神の愛が出来事となって起こり、現実となる神の自由）は立っているのかという問いの考察に基づいている」。「この問いに対して、もう一つの系列、（≪すなわち、その本質としての≫）神聖性、義、知恵は、答えようとしているのである」。「これらの答えが正しく、満足のゆくものであり、拘束的なものであるかどうか」、それ故に「われわれの提案が有用なものであるかどうかは、ただ……聖書的啓示証言との関係から明らかになってくることができるだけである」。「ここで避けることができない体系化として可視的になってくるであろうことは、あくまでも目的のための手段であるということに、人はよく注意せよ」、すなわち体系化そのものが目的ではない。したがって、「目的は、可能な限り、具体的な、換言すればその自己啓示の中での生ける神にでき得る限りしたがっており、対応している（神は誰であり、何であるかという問いに対する）答え」にある、「手段は、（≪「�Tコリント一四・三三」にあるように、キリストにあっての神は、「無秩序な神ではなく、平和の神」であるから、≫）その自己啓示の中でのこの対象を通してできる限り秩序づけられ、その対象からのできる限り明瞭な、展望のきく概念の展開である。まさにこの手段とわれわれの提案はかかわっている」。

【注】『福音と律法』によれば、「福音と律法の真理性」における福音の内容は、全き自由の神の愛によって、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストご自身が、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、然りとして、「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」・完了）というところにある。すなわち、このインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、神と人間との無限の質的差異の下で、神の側の真実としてのみ、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」のわれわれ「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。したがって、バルトは、次のように述べたのである――「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」。

　「われわれは、神的愛についての考察」を、＜われわれのための神・世界との関係の中での神、その存在＞の系列に関わる「恵みの概念の考察でもって」、「換言すればこの概念」を、＜ご自身の中での神、その存在＞の系列に関わる「神の自由（≪自存性≫）についての概念から規定し説明している神聖性の概念と直接対置させつつ、恵みの概念を考察することでもって……はじめることにする」。
　われわれのための「神が愛し給う時、また神が愛するということ」、すなわち「交わりを求め造り出すことの中で現にあるところの者であり給う時」、このことは、「神の恵みが愛である限り、（≪「すべてのそのほかの愛とは違った」≫）神的な行為および存在である」。神的な行為および存在としての「恵みは、……神の（交わりを求めて造り出す）行為を、（相手方のいかなる能力を通しても、いかなる権利主張を通しても条件づけられず、……またこの相手方のいかなるふさわしくない姿および抵抗によっても妨げられず、……相手方のすべてのふさわしくない姿および抵抗を克服する強力な）神ご自身の、自由な愛好、愛顧、好意を通して規定されたものとして特色づけている神の存在と態度のことである」、ちょうどキリストにあっての神は、客観的に存在している啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下でわれわれ人間に対して信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を授与されるように、そして起源的な第一の形態の神の言葉に信頼し固執し連帯したキリスト教に固有な類の時間累積を授与されるように。「まさにこの意味の特色づけの中でこそ、われわれは、神の愛の神性を認識する」。「聖書の（≪支配的な≫）用語法」によれば、「恵みという言葉」は、「神ご自身の内的存在と行動のことである」から、「われわれは、先ず」そのことを「確認する」。「『わたしは恵もうとする者を恵み』（出エジプト三三・一九）。恵みを約束し、与え、施し、あるいは実際に示すということ、恵みをもって満たし、あるいは最後を飾るということ」――これらすべては、ご自身の中での神として「神ご自身の中で恵み深くいまし、それ故にまた（≪われわれのための神として≫）ご自身を恵み深い者として認識すべく与え、恵み深く行動されることに基づいて出来事となって起こる神の業である」、ちょうど神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は人間的主観に実現された神の恵みの出来事であるように。「『恵みを見出す者』、その者は『神の目の前で』、したがって神の下に恵みを見出すのである。それは、『しばの中におられた者』の恵み（申命記三三・一六）であり、したがってイスラエルと契約を結ばれた主の恵みであり、まさにそのようなものとして、『とこしえの恵み』（イザヤ五四・八、詩篇八九・三）であり、『天にまで』（詩篇一〇八・五。詩篇一〇三・一一参照）およぶ」、「それは、パウロの絶えず出てくる定式的な言い方によれば、われわれの主イエス・キリストの恵み、換言すればイエス・キリストご自身の中に人格的に宿り、顕われ、認識可能であり、力を発揮しつつ働き、伝達される恵みである」。このような訳であるから、「ローマ・カトリックの教義学（例えばバルトマン）と共に恵みをはじめから、決定的に神の『超自然的な賜物』として定義し、それから（≪恵みを≫）……神と被造物の間の『第三のもの』（≪「神が恵み深くあり給うことを通して生じてくる『超自然的なもの』」≫）として」規定することが「大事なことなのではない」。恵み（「神的な賜物……の総内容」――すなわち「啓示者である父に関わる創造、啓示そのものである子に関わる和解、啓示されてあるものである聖霊に関わる救済」、父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在）は、「確かにきわめて『超自然的な賜物』でもあるが」、それを「与える方自身が」、すなわちご自身の中での「神ご自身が、（≪神の側の真実として≫）自分自身を賜物とすることによって、自分自身、（≪われわれのための神として、神とは異なる≫）他者との交わりの中に赴き」、それ故に「自分自身を他者に相対して愛する者として示し給う限り」、先行してわれわれのための神が「ご自身と……被造物の間に直接交わりを造り出し、保ってゆくこと」であるから、「そのような賜物なのである」。「神が恵みを与え給うことの原型は、神の言葉の受肉、神と人間がイエス・キリストにあって一つであることである」。単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神ご自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。ここでは、「神と人間の間の第三のものは発生しなかった」。ここでの「恵みの秘義（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰としてだけ認識可能なそれ≫）と本質」は、次の点にある――「二つのものが、（徹頭徹尾第一のものの意志と力を通して）直接一つのものとなり、神と人間の間のあの直接的な『平和』、パウロが『恵み』という言葉と関連させて、……その内容的な定義として、……しばしば名指すのを常としている『平和』が樹立されるという」点にある。「恵み深い神（≪ご自身の中での神、その存在≫）」と、われわれのための神として「恵み深くあり給う」神との間には、中間的な領域としての恵みについてのグノーシス主義的に受け取られた考え方が介在することは許されない」。「ここではすべてのことは直接性に」、それ故に「神の存在と行為が実際に神の本質的ナ独自ノ性質として、換言すれば神ご自身として、すなわち神ご自身（≪ご自身の中での神、その存在≫）であり、自分自身を確証（≪自己認識・自己理解・自己規定≫）することによって（≪われわれのための神、その存在として≫）恵み深くあり給う方として、理解されるということによってもってかかっている」。したがって、「旧約聖書と新約聖書の中で、……力を込めて神を指し示しつつ、『わたしの』、『あなたの』、あるいは『彼の』恵みについて語られているのである」。したがってまた、「聖書的な人間は、ただ単に『あなたの恵みにしたがって、わたしをお救いください』（詩篇一〇九・二六）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを覚えてください』（詩篇一〇六・四）、『あなたの恵みにしたがって、わたしを生かしてください』（詩篇一一九・八八）、『あなたの恵みを聞かせてください』（詩篇一四三・八）等々について語られているだけでなく、ほとんどのところで直接、単純に、『わたしに対し恵み深く＜あってください＞』と言われている」。「それに対して、わたしの知る限り、わたしに恵みを＜与えてください＞という言い方はどこにも出てこない」。このような訳で、「使徒たちがその教会に対して臨んでいるすべてのことは、よく知られている挨拶の言葉でもって総括」することができる――すなわが、「恵みがあなたがたにあるように」。したがって、「神の言葉は、使徒行伝一四・三、二〇・三二によれば、単純に『恵みの言葉』」と呼ぶことができる。「パウロにおいては、恵み、彼自身の回心、彼の使徒職とその行使、それと共に福音の宣教は、一つのまとまった全体を形作っている」――「神の恵みによって、わたしは今日あるを得ているのである。そして、わたしに賜った神の恵みは無駄にならず、むしろ、わたしは彼らの中の誰よりも多く働いてきた。しかしそれは、私自身ではなく、わたしと共にあった神の恵みである（�Tコリント一五・一〇）。なお、ローマ一・五を参照せよ」、「まさに恵みこそが、包括的に、神が現にあるところの方として、（≪われわれのための神として≫）われわれに身を向け給う際の向け方を特徴的に言い表している」。