『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十九節 神の完全性」（その３－３）－１
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十九節 神の完全性」（その３－３）－１（１６５－１８２頁）
引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）
「六章 神の現実 二十九節 神の完全性」
「六章 神の現実 二十九節 神の完全性」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
神はその完全な本質を、多くの、個々の、それぞれ異なった完全性の満ち溢れの中で、生き給う。それらの完全性のうちのおのおのは、それぞれそれだけで、またすべてのそのほかの完全性と共に、次のことの中で――すなわち、それが、〔その中で〕神が自由であり給うところの愛の一つの形態としてであろうと、神が愛し給うところの自由の一つの形態としてであろうと、神ご自身以外の何ものでもないということ、神の一つの単純な、神の固有な本質であるということの中で、完全である。（１２９頁）
〔この定式の詳述〕
この定式の詳述については、『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十九節 神の完全性」（その３－１）－１で行っていますので、参照してください（２０１８年４月５日論述分）。
註：「啓示の認識原理」であり「教会の宣教の批判と訂正」の規準・原理・法廷・審判者・支配者である＜三位一体論＞の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての客観的な対象として存在している「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性等々については、＜カール・バルトの『教会教義学 神の言葉』および著作全般を根本的包括的に原理的に理解するためのキーワードとその内容について――幾つかの註＞（２０１６年６月１３日作成）、を参照してください。
「二十九節 神の完全性」（その３－３）－１
「完全に穏当で……完全に開いている神の属性論」について言えば、その第二の存在の仕方（啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、インマヌエルの出来事）であるイエス・キリストにおいて自己啓示された聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の「神は、われわれにとって、その啓示の中で(≪その＜啓示の弁証法＞において事柄的に≫)、完全に顕わされている（≪神の顕現・顕われ≫）と同時に、……完全に隠されているということ（≪神の隠蔽・隠れ≫）から出発しなければならない……」、換言すればイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された神は、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」ということから出発しなければならない、それ故にわれわれは、「神の顕われと神の隠れについて証言し、弁明しなければならない……」。このような訳で、「人は、ここで、部分的に顕わされ、部分的に隠されていると言うことはできない」のであって、「まことに、完全に顕わされ、完全に隠されていると言わなければならない……」のである。したがって、単一性・神性・永遠性を本質とする「自分を覆い隠す」・隠蔽性・秘義性・「聖性」としての三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が子として「自分を自分から区別」したところの、その第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」、その「失われない差異性」の中での第二の存在の仕方（全き自由な神の愛の行為の出来事としての神の存在、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、インマヌエルの出来事）において、その存在の本質である「失われない単一性」・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示なのである、換言すれば神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事（≪イエス・キリストにおける啓示・和解の出来事、具体的には神の言葉の第二の形態の聖書的啓示証言のそれと聖霊の注ぎによる信仰の出来事、すなわち聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事≫）」・「啓示と信仰の奇蹟」に基づいて信仰の認識としての神認識を、すなわち啓示認識・啓示信仰を要求する啓示なのである。このような訳で、「われわれの人間的な直観と概念」が、「神の啓示の恵みを通して」、換言すれば神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」（「啓示と信仰の奇蹟」）に基づいて、イエス・キリストにおける神の自己啓示としての「神の真理（≪啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、具体的には神の言葉の第二の形態の聖書的啓示証言のそれ≫）にあずかるように要求され、高められ」、終末論的限界の下で「われわれのためのその存在（≪自己還帰する他在としての「われわれのための神」≫）の中での、またご自身（≪自己還帰する自在としての自存的な「ご自身の中での神」）≫）の中での」「神の実際の認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）の手段に、奇跡的にさせられている限り、完全に顕わされている」と言うことができるのである。何故ならば、神の側の真実として客観的に存在している啓示自身は、その啓示に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証しの力を、神の言葉自身の出来事の自己運動・自己展開・時間累積を、あの「啓示と信仰の出来事」を、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性を持っているからである、先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」の中での第二の存在の仕方、神の子、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）に向かっての人間の用意が存在する」からである。そのことと同時に、「われわれの人間的な直観と概念（……神認識のための……唯一の手段……）それ自身は、それとして神を把握する能力を持っておらず、些少なりとも持っていない限り、（≪聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神に対して≫）完全に隠されている」のである。何故ならば、われわれ人間は、人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、「『自分の理性や力（≪感情、悟性、意志、自然を内面の原理とした禅的修行等≫）によっては』全く信じることができない」（『福音主義神学入門』）・「肉であって、それ故に神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を一切持っていない」（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）からである。このような訳で、キリストにあっての「神認識」には、「認識の服従（≪起源的な第一の形態の神の言葉を、現存するわれわれの宣教、現存するわれわれの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しその起源的な第一の形態の神の言葉へと遡るという仕方で、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる人間が人間的に所有する人間の信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を、キリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」を志向し目指していくというそれ≫）と非認識の謙遜（≪キリストにあっての神の聖性・隠蔽性・秘義性、そのことから必然的に規定されてくるわれわれ人間の側の神の不把握性に対する認識と自覚≫）」という両方のことが課せられている。そして、キリストにあっての「神の啓示は、神の真理であるが故に」、「両方のことが神ご自身」であり、「神の最も固有な実在である」。したがって、キリストにあっての「神は、その啓示の中で、われわれに対して、ご自身を全くわれわれの認識の対象とし給うた」ところの「その顕われとその隠れの中で、……両方のことの中で認識しなければならない」のである、「それ故にこそ、（≪われわれ人間は、≫）確かに（≪神の隠れの中で≫）いたる所で沈黙しなければならない」し、神の顕われの中で「いたる所で語らなければならない」のである。したがって、一方を拡大鏡にかけて全体化する神に向かっての「栄光」の「帰し方」は、「問題的」なのである。このような訳で、神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会――われわれは、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、現存するわれわれの宣教、現存するわれわれの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音を、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（純粋なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法――すなわちすべての人々が純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）を志向し目指していかなければならないのである、そういう仕方で「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していかなければならないのである。したがって、われわれは、前述したような仕方で「神を認識することが許され、認識すべきであることによって」、「われわれは、神についてのその思惟と語りでもって、神の主人となることはなく、あくまでも徹頭徹尾神の僕で、しかも徹頭徹尾無益な僕であり続け、繰り返しそのような無益な僕とならなければならないということに対して、十分」に認識し自覚しているのである、換言すれば起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、現存するわれわれの宣教、現存するわれわれの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者としなければならないということに対して、十分認識し自覚しているのである。われわれは、「神の属性論に対して、二重のこと」、すなわち前述した、神の顕われと神の隠れ、「われわれのための神」・「われわれのためのその存在」（下記【注】を参照）と自存的な「ご自身の中での神」・「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「三位相互＜内在性＞」を「語ることが課せられている」のであるが、このことは、「時間的な同時性の中で……告白することはできない」。何故ならば、キリストにあっての神は、「まさにそのように……イエス・キリストにあってご自身を啓示し給うたからである」。キリストにあっての神は、聖性・秘義性・隠蔽性（それ故に、われわれ人間は神の不把握性の下にある）において存在する「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「失われない差異性」の中で起源的な第一の存在の仕方である父（イエス・キリストの父）が子（イエス・キリスト自身）として「自分を自分から区別」した第二の存在の仕方において、自己啓示・自己顕現されたからである。したがって、われわれは、一方を抽象して、すなわち一方を拡大鏡にかけて全体化して、「われわれの認識」（≪われわれ人間の神認識の可能性≫）を、「表向きは本来的」なものとしつつも、「最後的には非認識（≪われわれ人間の神認識の不可能性≫）の中に解消させてしまったり」、「それと反対に、われわれの非認識（≪われわれ人間の神認識の不可能性≫）を、表向きは本来的」なものとしつつも、「最後的には認識（≪われわれ人間の神認識の可能性≫）の中に解消させてしまうことはできないし、そのようにすべきではないのである」。何故ならば、イエス・キリストにおける「神の啓示の中には、したがって神の実在の中には、……永遠的な同時（≪「失われない単一性」≫）と非同時（≪「失われない差異性」≫）があるということが、神の現実だからである」。このような訳であるから、「ここでも、神の属性論の中には両方のこと」――すなわち「神の顕われと神の隠れ」が「並んで、……相前後して、……特別に力を奮うようにならなければならないとわれわれが言う時、われわれは（≪一方を拡大鏡にかけて全体化して≫）われわれの認識の限界に立ち戻るように強いられてはおらず」、「われわれはただ対象そのものの現実（≪「神の顕われと神の隠れ」の総体性・全体性≫）を念頭に置いて語っているのである」、それ故にわれわれは、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、現存するわれわれの宣教、現存するわれわれの思惟と語りの原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音を、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」（このような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」――キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、この総体性）を志向し目指すのである。
【注】『福音と律法』によれば、次のように言うことができる――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！ 神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対するわれわれの憎悪に出会う。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである」・「ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の『イエス・キリストの信仰』は、明らかに（≪神の側の真実としてのみある≫）＜主格的＞属格（≪イエス・キリストが信じる信仰≫）として理解されるべきものである」（因みに、旧来訳聖書においても新共同訳聖書においても＜目的格的＞属格として理解されている。「人間の自己運動を神のそれと取り違えるという混淆」・混合を志向し目指すところの人間の自由を認識し自覚した近代以降の近代主義者は、必然的に、少なくとも半分は人間の側からの介在を要求できるこの＜目的格的＞属格理解を手放すことはない――「われわれは、シュライエルマッハー以外の他の人々（≪「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」者、それに類する人々≫）の所でも、……ヘーゲルの強力な痕跡に遭遇するであろう」）。啓示の真理によれば、われわれ人間は、自主性・自己主張・自己義認の欲求を手放すことができず、無神性・不信仰・真実の罪の只中に現存しており、神の恩寵を嫌悪し回避する存在である。このようなわれわれ人間に対して、神は、神の恩寵を嫌悪し回避する人間が生きるためにのみ、その死を欲するのであるが、われわれ人間はその神の要求（律法）に対してさえも聞き従おうとはしないのである。これが、われわれ人間すべての現実の事実であるだろう。したがって、「福音と律法の真理性」における福音の内容は、全き自由の神の愛によって、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とするまことの神にしてまことの人間イエス・キリストご自身が、その神の要求に対して然りと言い、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」・完了）というところにある。すなわち、このインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、神と人間との無限の質的差異の下で、神の側の真実としてのみ、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない」「罪によって暗くなり・破れた姿」のわれわれ「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆（≪混合・協働・共働≫）されぬように、統一し給うた」ということを内容としている。したがって、バルトは、次のように述べたのである――人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間、誰であれ、「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかし それと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」・「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」。
前述したわれわれの神認識（信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰）における「単一性」と「区別」は、「神の本質の中での単一性（≪その存在の本質における「失われない単一性」≫）および区別（≪その本質の性質としての存在の仕方における「失われない差異性」≫）と合致する」。言い換えれば、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の＜起源的＞な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互＜内在性＞」（その三位一体の神の＜起源的＞な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父、父が子として「自分を自分から区別」した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身、愛に基づく父と子の交わりである第三の存在の仕方である「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊）における「神の愛（≪父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）と神の自由（≪神の自存性、神の自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在としての全き自由≫）の間の単一性および区別と合致する」。存在的にも認識的にも、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」キリストにあっての神が、「ご自身の中で愛する者であり給うことによって」、それ故に先行して「神がわれわれを愛し給うことによって」、「神は、（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて、終末論的限界の下で≫）完全に認識可能である」。しかし、存在的にも認識的にも、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」キリストにあっての神が、「ご自身の中で＜自由＞（≪自存≫）なる者であり給うことによって」、それ故に先行して「神がわれわれをその＜自由＞（≪自存≫）の中で愛し給うことによって」、「神は、われわれにとって完全に認識不可能である」。キリストにあっての「神は、われわれを愛し給う。……神はそのことをその＜自由＞（≪自存性≫）の中で為し給う」、ちょうど「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」キリストにあっての神は、その都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、われわれ人間に対して、終末論的限界の下で人間が人間的に所有する人間の信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を授与されるように。あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる啓示認識・啓示信仰において「神の啓示が神の真理であるとするならば、その時には神はまことに単一性と区別の中で両方のものであり、自由の中で愛する者であり給う」。したがって、「ひとりの神の本質としてのこの二重」性が、「神の完全性についての教説の内容を形作らなければならない」。その「神の完全性についての教説」は、「＜神の愛＞の完全性について、それから＜神の自由＞の完全性について取り扱わなければならない」。キリストにあっての神の「顕われと隠れ」（自己顕現と自己隠蔽――啓示の弁証法）、それ故に神の「認識可能性と認識不可能性の単一性（≪啓示の弁証法から規定されてくるそれ≫）が、……神の啓示（≪「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」三位一体の神の第二の存在の仕方イエス・キリスト≫）の聖書的概念を構成している」。また、「神の愛と神の自由の単一性（≪神は「ご自身の中で＜自由＞なる者であり給うことによって」、それ故に先行して「神がわれわれをその＜自由＞の中で愛し給う」。神は「ご自身の中で愛する者であり給う」ことによって、先行して「神はわれわれを愛し給う。……神はそのことをその＜自由＞の中で為し給う」、この総体性・相互規定性≫）が神の本質の聖書的概念を構成している」。このような訳で、「われわれは、神の愛について語るときにはまた神の自由について、神の自由について語るときにはまた神の愛について……語らなければならない……」、また「ここであるいはあそこで個々の規定について語るときには、またすべてのそのほかの規定についても語らなければならない……」。「近代の神学者」の中でも「……上手に取り組んだ……ヘーリングは、一方において単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の『絶対的な人格性（≪「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方≫）』について、他方において（≪「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の≫）『聖なる愛』（≪「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方、父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）について語」った、すなわち「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方としての「人格的な神の性質」は、「失われない単一性」を本質とする「自存的な神の性質であり」、「われわれが（≪父、子、聖霊という≫）この名の下でも・あの名の下でも、ただ一人の同じ神について語ることができるように」、「またそれと逆のことも成り立つ」というように述べた。
このような訳で、「われわれにとって、神の性質については、二重の系列の中で語らなければならない必然性が生じてくる」。何故ならば、キリストにあっての神の「顕われと隠れ」（神の自己顕現と自己隠蔽――啓示の弁証法）、それ故に神の「認識可能性と認識不可能性の単一性(≪啓示の弁証法から事柄的に必然的に規定されてくるそれ≫)」が、「神の啓示（≪単一性・神性・永遠性を本質とする「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」三位一体の神の第二の存在の仕方、まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト≫）の聖書的概念を構成している」（下記の【注】参照）からである。また、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の「神の愛と神の自由の単一性が神の本質の聖書的概念を構成している」からである。イエス・キリストにおける神の自己「啓示の中でのひとりの神の完全な顕われと完全な隠れ」における「キリスト教の神認識」の「道以外の道を不可能にするもの」は、キリストにあっての「神が＜自由＞（≪自存≫）なる方として愛し給い、愛する方として＜自由＞（≪自存≫）であり給う」という点にある。われわれは、「ここではもはやわれわれの神認識そのもの分析が問題ではなく」、聖書的概念を構成している「神の本質の……その単一性と区別の中での神の愛と神の自由」に即して、「神的愛の完全性および神的自由の完全性と取り組まなければならない」ということが問題である。「ここで決定的に三つの点が問題である」。
【注】バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、「人の子」語句について次のように述べている――「人々は人の子（あるいはわたし）は誰であると言っているか」 （マタイ一六・一三）と聞かれ、ペテロ（教会の信仰告白）は「あなたは生ける神の子キリストです」と答えた。「メシヤの名」に対する「『人の子』というイエスの自己称号」は、「（覆いをとるのではなくて）覆い隠す働きをする要素として、理解する方がよい」。「逆に使徒行伝一〇・三六でケリグマが直ちに、すべての者の主なるイエス・キリストという主張で始められている時、それはメシヤの秘義を解き明かしつつ述べている」と いうように理解した方がよい。受肉・「神が人間となる」・「僕の姿」・「自分を空しくすること、受難、卑下」は、その存在の本質である＜神性＞の「放棄」や「減少」を意味するのではなく、「神的姿の隠蔽」・「覆い隠し」を意味している。
因みに、近代主義的な、それと共に人類史のアジア的段階における自然を内面の原理とした八木誠一は、『イエス』で次のように述べている――「イエスは別段自分を超人間的存在として自覚していたわけではなく、『人の子』語句でもって人間存在の根底を語り続けた」「ただの人であり、ただの人として自らを自覚し、ただの人の真実のあり方を告げた」と述べている。すなわち、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」者(人間学的神学者)の八木は、イエスに本来的な人間存在の在り方だけを見て、イエス・キリストの存在の本質である＜神性＞性を揚棄するだけでなく、その存在の仕方である神の子性、神の言葉性も揚棄してしまって、滝沢克己のインマヌエル論に同調している（１９８２年の南山大学主催滝沢講演後討論会）。
(１) 次のようなことを「意味することはできないし、そのようなことは許されない」――すなわち、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「自由（≪自存≫）なる方として愛し給う」「ご自身だけでい給うひとりの神」と単一性・神性・永遠性を本質とする「失われない差異性」の中で三つの存在の仕方において三度別様に「愛する方として自由（≪自存≫）であり給う」「われわれのためにい給うひとりの神の間の＜区別＞を……分離してしま」って、それ故に、一方を抽象して、すなわち一方を拡大鏡にかけて全体化して、「それから神の本質を……（≪自存的な≫）ご自身の中での神（≪「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」・「三位相互＜内在性＞」における神≫）の自由とその完全性の中で、換言すれば神の永遠性、全能等々の中で尋ね求め」つつ、「しかし（≪「われわれのための神」、「われわれのためのその存在」における≫）神の愛とその完全性、すなわち神の神聖性、義、あわれみ等々を唯名論的にあるいは半唯名論的に単なる仕方の事柄として、非本来的に理解されるべき……規定として取り扱う」ことはできないし、そのようなことは許されないのである、それ故に「神論の最後の決定的な言葉」を、「非人格的な絶対者としての神についての命題」とすることはできないし、そのようなことは許されないのである。われわれは、キリストにあっての神を、「神がご自身をわれわれに向かって自らその恵みの奇蹟（≪出来事≫）の中で開示され、贈り与えられたということに基づいてだけ（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいてだけ≫）認識し持つ」ことができるということと共に、「神は、われわれに対し最も厳格な尊厳性と区別（≪「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異≫）の中で相対して立ち給うということ」、また「もしも神の愛（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の中でこそ神の自由（≪神の自存性≫）を認識しないならば、われわれは、神の愛を誤解することになるであろうということについて決定が下されているのである」、ちょうどイエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」(三位一体の神の第二の存在の仕方、「イエス・キリストの名」、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在) において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示であるように。したがって、「神の尊厳性についての認識」は、「『本来的に』動きのない、言葉のない、行為のない一者および絶対者という偶像を打ち立てるために誤用されてはならない」のである。「また神の謙遜についての認識」は、「神をただ、……その中にわれわれは立たなければならず、それをわれわれはそのようなものとして理解しなければならないある関係の中でだけ尋ね求めるように誤用されてはならない」のである、何故ならば、「神の謙遜についての認識」をそのような仕方で尋ね求める時、「イエス・キリストが信ずる信仰による神の義」を、すなわちイエス・キリストが「律法の終わりとなられた方」であることを聞かず承認せず、神だけでなく人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという神との「共働者」・「協働者」であることを尋ね求め、そのような神に対する「熱心さの無知」において、「神の要求」を、人間的な「自分自身の要求」に、「自分で満足させ得る要求」に変えて、「神的な『汝は斯くなすであろう』を変じ」、「人間的な余りに人間的な『汝は斯くなすべし』」をつくり上げ、人間によって恣意的独善的嗜好的に曲解された「十誡・預言者の言葉・ソロモンの処世上の知恵・山上の垂訓また使徒の報告」に過ぎないものへと変えるからである。この時、人間のその存在・その思惟・その実践は、「罪」に「勝利を収め」させる熱心さ、「不従順」、「虚偽」となる。何故ならば、その「無数の儀文」は、「偶像崇拝」・「神冒涜」を生じさせるからである。その時、神に対する「熱心さの無知」において、ある者は「盲目的に」仕事へと没頭し、ある者は「人目をひくような簡素さと寡欲さに沈潜」し、ある者は「その時代の人間中の様々な敗残者に対して、熱心に博愛的配慮……教育的配慮を行」い、ある者は「大規模な世界改良の偉大な計画」や「大衆や時代の傾向と手をたずさえて、ある種の正義」に邁進するからである(『福音と律法』)。「神はあのところで、高所において」、「ご自身の中での」神として、「またわれわれのためにあり給う者」――この者として、「神はここで、低所において」、「世界との関係の中での神」として、「またご自身であり給う」。「神がわれわれにとって認識可能でありまた認識不可能であるということ、（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在として≫）神は愛する方でありまた自由な方（≪自存的な、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする存在≫）であるということ」――このことは、自明的なことではなく、「われわれにとって、（≪自存的な、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、起源的な第一の形態の神の言葉――「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおける神の自己啓示における≫）その区別の中で可視的となる」のである、すなわち神「ご自身の中での神の存在からわれわれと共にいます神の存在に向かっての歩みを為し給い、まさにそれと共に、両者をまことであるとして可視的にする啓示（≪キリストの死と復活における啓示の出来事、「イエス・キリストにおける神の愛は、神自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」≫）」、換言すれば「二つの区別されるべき姿(自存的なご自身の中での神と「われわれのための神」・「われわれのためのその存在」)の中での同一のものとして可視的にする啓示の出来事の中でまことである」。したがって、重複するのであるが、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」(三位一体の神の第二の存在の仕方、「イエス・キリストの名」、起源的な第一の形態の神の言葉、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在)において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示なのである。したがって、「＜神の愛＞は、ご自身の中であり給うところの神が、（≪あくまでも神と人間との無限の質的差異の下で、それ故に神が人間と「混淆されぬように」して、それ故に神の側の真実としてのみ≫）われわれのための神であろうと欲し給うことの中で、(≪「失われない差異性」の中で三つの存在の仕方において≫)……認識可能とならなければならない」、「＜神の自由＞は、神はご自身の中である方と別な方でわれわれのためにあることを欲し給わず、またあることができないということの中で、（≪「失われない単一性」の中で≫）認識可能とならなければならない」。この時、「それと共に、神的性質の区分（≪「失われない差異性」の中で三つの存在の仕方において三度別様に父、子、聖霊なる神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）が認識可能となる」。「われわれは、神は、両方のもの、しかも相互的関係、この区別された単一性の中で両方のものであり給うということを知る時にだけ、神について語っている」。