『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 三 自由の中での神の存在」（その３－３）－２
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 三 自由の中での神の存在」（その３－３）－２（１１０－１２８頁）
前述したところで、「われわれは、神的な内在性の形態の……豊富さにもかかわらず、一つの（その中で神が世に向かって現臨される）階級制度、秩序を認識する」のである。すなわち、われわれは、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間「イエス・キリストの名」にのみ、「神と世界との間のすべての関係と交わりの中心点と頂点」を見ると同時に、「その原理、その神内部における可能性および前提」を見るのである。「イエス・キリストの名」にのみ、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である「父なる名の＜内＞三位一的特殊性」における＜イエス・キリスト＞の父、子としての＜イエス・キリスト＞自身、愛に基づく父と子（＜イエス・キリスト＞）の交わりである聖霊ということを、また「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における「先ず第一義的に優位に立つ原理」としての起源的な第一の形態の神の言葉を、それ故に第三の形態に属する全く人間的な教会（われわれ全成員）のその存在・その思考・その実践における原理・規準・法廷・審判者・支配者を、また客観的な啓示自身（＜イエス・キリスト自身＞）が持っている啓示に固有な証明能力を、また復活した＜イエス・キリスト＞霊である聖霊の証しの力を、また神の言葉自身（＜イエス・キリスト自身＞）の出来事の自己運動を、またキリストにあっての神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」――客観的な啓示の出来事（イエス・キリスト自身の死と復活の出来事）とキリストの霊である聖霊の注ぎによる信仰の出来事に基づいて信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を授与する力を、ナザレのイエスという「人間の歴史形態」（第二の存在の仕方、神の愛の行為の出来事としての神の存在）において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性を認識し信仰する信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を授与する力を、見るのである。また、「イエス・キリストの名」にのみ、われわれ人間の類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡せ、それ故に第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教における福音がわれわれ人間によって恣意的独善的嗜好的に対象化された「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞に過ぎない」「神秘主義へと変わって行く」ことが見渡せ、それ故にまた「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受けとることができる」場所があるということを、見るのである。例えば、ヨハネ８章の「姦通の女」にある「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」（「これを聞いた者は、年長者から始まって、一人また一人と、立ち去ってしまい、イエスひとりと、真ん中にいた女が残った」）というイエスの言葉に、日々瞬間瞬間神から遠ざかり遠ざかり続けている罪に満ちたわれわれ人間（人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間）の内面の普遍性を知らされるのである、またマタイ２６・マルコ１４・ルカ２２・ヨハネ１３および１８にある「はっきりと言っておくが、あなたは、今日、今夜、鶏が二度鳴く前に、三度私のことを知らないと言うだろう」（使徒ペテロの離反予告、そして使徒ペテロが実際にそうしてしまって「『鶏が二度鳴く前に、（≪「たとえ、みんながつまずいても、わたしまつまずきません」と言った≫）あなたは三度わたしを知らないと言うだろう』とイエスが言われた言葉を思い出して、いきなり泣き出した」）というイエスの言葉に、その現にあるがままの教会論的なわれわれキリスト教的人間の、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという、不信仰・無神性・真実の罪のただ中を生き生活する現実の事実を知らされるのである。バルトは、この場所で、次のように述べるのである――「私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）」（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、（≪ただ、人間の側のそれとしては≫）現実ではない。……（≪ただ、人間の側のそれとしては≫）部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、（≪先行する神の側の真実においてのみ≫）われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」・「（前掲書）人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」（『福音と律法』）。身近な農民の幸福のために身も心も尽くした宮沢賢治が言うように、「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」（『農業芸術概論要綱』）し、『よだかの星』の主題のように全体が幸福にならなければほんとうの幸福とはならないのであるから、救済・平和・幸福は、佐藤優が『はじめての宗教論』で一面的固定的皮相的に軽薄に単純に書いた「個々人の救済」という点にあるのでは決してない、そうではなくて、個体的自己としての全人間・全世界・全人類の救済・平和・幸福にあるのである。この課題に対して、親鸞は過渡的な相対的緊急的な救済を志向し目指す「聖道の慈悲」（往相浄土）という一方通行的な信の上昇過程から再び意識的自覚的に下降していく帰りがけで、阿弥陀仏の真実としてある阿弥陀仏による究極的な総体的永続的な救済を志向し目指す「浄土の慈悲」（還相浄土）を説いたのである。「イエス・キリストの名」にのみ感謝をもって信頼し固執したバルトは、そしてバルト者の私も、神の側の真実としてのみある、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方（神の愛の行為の出来事としての神の存在）、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおける完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和・幸福にのみ立脚するのである。何故ならば、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）において＜純粋＞なキリストの福音、＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」、このような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（＜純粋＞なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請）、被造物的な愛――これらは、先行する「イエス・キリストの名」にのみ、その意味、その標準、その目標はあるのである。因みに、往還思想において「浄土の慈悲」（還相浄土）を説いた親鸞は、聖職者・宗教家・知識人・善人・弁護士・警察官・医師・教師・奉仕家・平和主義者・道徳主義者・信仰者・誰であろうと、現実的な戦争とか愛憎問題とか利害対立とか「私利・私意」の対立等々の不可避な「機縁」さえあれば、自分が意志しなくとも、人一人だけでなく多数の人を殺し得るし、裏切ることもあり得るという究極的観点（還相的観点）において、自己欺瞞に満ちた市民的観点・市民的常識（往相的観点）から超出したのである。
総括的に言えば、先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神と人間との無限の質的差異の下で、それ故にあくまでも神の側の真実からする、神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、起源的な第一の形態の神の言葉、イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識（≪信仰の認識としての神認識、すなわち啓示認識・啓示信仰≫）に向かっての人間の用意が存在する」、すなわち先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意という「人間の局面」は、「全くただキリスト論的局面だけである」、と言うことができる。したがって、終末論的限界の下でのわれわれの「まことの信仰とその真実な神認識」（啓示認識・啓示信仰）は、徹頭徹尾、ただ神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてのみ終末論的限界の下でやって来る、与えられると言うことができる。このような訳で、われわれ人間の「被造物的な愛」は、あくまでも先行する神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおける「神の啓示の中での神の存在（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）と関わるようになる時」、第三の形態に属する全く人間的な教会（その個体的自己としての全成員）は、あの「神的なひとつの真実な愛の対象として要求されること」、すなわち先行するイエス・キリストにおける神の愛の下で、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、その宣教・その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、神の言葉に対する奉仕としての他律的な服従と自律的な服従との同在性・同時性において、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストの福音・＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」に根拠づけられた「神の賛美」としての「隣人愛」（＜純粋＞なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請、「もろもろの誡命中の誡命、われわれの浄化・聖化・更新の原理、＜教会＞が＜教会自身＞と＜世＞に対して語らねばならぬ一切事中の唯一のこと」）――すなわち、すべての人々が＜純粋＞なキリストにあっての「神の愛の至福」・＜純粋＞なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指していくところにあるのである、換言すればイエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していくところにあるのである。神は愛である・愛は神である、「神は愛し給う」――これが、「神の存在の特別な現実性」、「神の行為あるいは神の生……の内容である」、神の愛の行為の出来事としての神の存在の内容である、イエス・キリストの父（創造主）、子としてのイエス・キリスト自身（和解主）、父と子の霊である聖霊（救済主）という三位一体の「神の名の啓示の中で明らか」にされている神の「本性」、「神の本質である」。われわれは、「イエス・キリストの名」に、「その原理、その神内部における可能性および前提」を見るのである。三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事であるそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）における起源的な第一の形態の永遠なる神の言葉自身の出来事の自己運動において「イエス・キリストは、きょうも、きのうも、いつまでも変わることがない」――この「神の本質の自由の単一性の中で」、「多種多様性」を見るのである、換言すれば「多種多様性の中で」、「神の本質の自由の単一性」を見るのである。このような「神と世界との間のすべての関係と交わりの中心点」、「ピラミッド」型のただ単なる頂点でしかないような「ヒエラルキー的秩序」におけるそれとは全く異なったところの「頂点」、「その原理、その神内部における可能性および前提」としての「イエス・キリストの名」（起源的な第一の形態の神の言葉）――この「一つの（その中で神が世に向かって現臨される）階級制度、秩序」は、内在的にも外在的にも、存在的にも認識的にも、「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の完全さ・自由さであると同時に、その神の「失われない差異性の中」での三つの存在の仕方の完全さ・自由さを意味している。重複するが、再度述べてみれば、バルトは父なる神の愛と子なる神の愛との関係性について、次のように述べている――「創造された世界」における「神の愛」と「われわれの世界」における「イエス・キリストの事実の中における神の愛」との間には差異がある。すなわち、後者の神の愛は、「まさしく神に対し罪を犯し、負い目を負うことになった人間の失われた世界に対する神の愛」である。したがって、「和解ないし啓示」は、「創造の継続」や「創造の完成」ではない。この意味は、「和解ないし啓示」は、単一性・神性・永遠性を本質とする神の存在の仕方の差異性における第二の存在の仕方であるイエス・キリストの「新しい神の業」である、ということである。それは、「神的な愛の力」、「和解の力」である。イエス・キリストは、和解主として、創造主のあとに続いて、神の第二の存在の仕方（性質、働き、業と行為、神の愛の行為の出来事としての神の存在）において「第二の神的行為を遂行」したのである。この神の三つの存在の仕方の差異性における「創造と和解のこの順序」に、「キリスト論的に、父と子の順序、父（≪啓示者、言葉の語り手、隠蔽≫）と言葉（≪啓示、語り手の言葉、顕現≫）の順序」が対応しており、「和解主としてのイエス・キリスト」は、創造主・父に先行することはできないのである。しかし、父と子は共に神という存在において単一性・神性・永遠性を本質としているから、この従属的な関係は、その存在の本質の差異性を意味しているのではなく（存在の本質の差異性はあり得ない――何故ならば、イエス・キリストにおいて自己啓示された三位一体の神は、「失われない」＜単一性＞・神性・永遠性を本質としているからである）、その三つの存在の仕方の「失われない」差異性を意味しているのである。われわれは、前述した「多種多様性の中」での「神の本質の自由の＜単一性＞」を、「神のみ子イエス・キリストから由来し、イエス・キリストを証しし、イエス・キリストに仕え、イエス・キリストに導くものとして理解するならば」、それは、「われわれを慰め、訓戒し、われわれに喜びを与える」のである。キリストにあっての「神の自由は、決して恣意ではない」し、キリストにあっての「神の忠実さ」は、神の側の真実としてある「神がその自由の中で、その被造物に対して証明し、確証される」「神の忠実さである」、それ故にそれは、「何らかの宇宙的な恒常性の公分母に還元されることはできない」のである。神と人間との無限の質的差異の下で、キリストにあっての神は、決して、天然自然、人間の自己意識・理性・思惟の無限性、人間の身体的精神的な類的活動、人間化された自然である人間的自然・非有機的身体に還元されることはないのである。われわれが、「神がその自由の中で、その被造物に対して証明し、確証される」「神の忠実さ」を、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて「信仰の中で肯定し、把握する時」には、またそのようにして「その忠実さに向かって呼びかけ、その忠実さによって慰められ、その忠実さを呼びも止めようとする時」には、またそのようにして「神はイエス・キリストであり、イエス・キリストは神であるということ」・「すべてのその可能性と形態の中での神の内在性はイエス・キリストの中にその起源を持っており、それ故に……イエス・キリストの中にだけ、（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父――創造主・啓示者・言葉の語り手、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示・語り手の言葉・成就され完了された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和、「父ト子ヨリ出ズル」第三の存在の仕方である聖霊――救済主・啓示されてあること・愛に基づく父と子の交わりにおける≫）さまざまな行動と段階の中での単一性を持っているということ」・「それ故にこそ、神をただイエス・キリストの中でだけ認識し、イエス・キリストの中で唯一の神を認識する時」には、「神が創造主、教会の主、われわれの心と良心の主人、最後の日の裁き主以外の何ものでもあり給わないということを、あなたにとってもわたしにとっても別な方でなく、天使や天使の長、天の群衆にとっても別な方であり給わず、昨日も今日も明日も別な方ではなく、今、ここでと、遠くの国々およびそれぞれの時代において別な方でなく、神の自由の中で常に別な仕方で、しかしまさにこの自由の中でこそ決して別な方ではあり給わないということは確かなこと」なのである。「このこと」は、「教会の中で、また教会を通して世界の中で、どれほど急を要することとされるとしても十分すぎることはない」、それ故に「すべての決断は、最後的には常にただこの事柄における決断であることができるだけである」（例えばすでに論じたのであるが、バルト自身の発言である「平和に関するバルトの書簡」参照）。したがって、このような「決断」から、「ここへあるいはあそこへと逸れていくすべての逸脱」、唯一回的唯一無比な特別な啓示である「イエス・キリストを避けて、……表向きだけ神の現臨と言われていることの方に視線を向けること」・「イエス・キリストにあっての神の現臨の完全性を消し去ろうとするすべて」のことは、「神の自由の中に基礎づけられている神の現臨の豊富さと直面して」、「見分けのつかない暗闇へとわれわれを突き落してしまう」こととなるのである。何故ならば、その時、その神は、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性におけるキリストにあっての神ではなく、ただ単に人間自身が（神学者が、牧師が、キリスト教的著述家が）恣意的独善的嗜好的に対象化し客体化した「存在者レベルでの神」（偶像）にしか過ぎないものだからである。
このような訳で、バルトは、『説教の本質と実際』でも、当然にも、一貫性をもって次のように述べている。そのバルトに対して、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」の常として為された皮相的自然神学的なバルト批判――すなわちバルト研究者・佐藤司郎の「 R ・ボーレン以後の説教学（≪聖霊論的説教論≫）の動向」および東京神学大学実践神学者・小泉健の「 R ・ボーレンの説教学（≪聖霊論的説教論≫）の教会論的基礎づけ」の論点は、バルト神学においては人間の経験の位置づけが弱いから」、「人間的なるもの、（人間が）なしうること」を・「人間の経験」を・中世的思考に移行した神学の優位性を確保した人間学との共働・協働・混合神学を・近代主義的な人間の感覚と知識を内容とした経験的普遍を情報を・総括的に言えば自然神学を、すなわち自然的な信仰・神学・教会の宣教を尊重すべきである、という点にあるのである。それだけではなく、バルトは、説教や教会教義学の思惟と語りがキリスト教的な思惟と語りの「正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それと怠惰な思弁でしかないということ」は、徹頭徹尾「神ご自身の決定事項である」から、それ故に説教や教会教義学の在り方はあくまでも徹頭徹尾マルコ９・２４にある「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの人間的態度に対して神が応じて下さるということに基づいて成立している」（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』、『福音主義神学入門』）と述べているのに対して、小泉の場合は、第三の形態に属する全く人間的なボーレンの「神律的相互関係」の概念に依拠して恣意的独善的に聖霊や聖霊の言葉を実体化し、無媒介的に「聖霊が説教者に言葉を与え、語ることへと導く。説教者は聖霊の言葉を伝え、聖霊の言葉に導く」と述べているのである。彼らに対して聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したバルトの説教論は、一貫性を持っていて明確である――説教の無条件的な出発点と目的は、「新約聖書において聞く啓示、和解」、イエス・キリストの死と復活の出来事における啓示、その内容である「インマルエル、神われらと共にいます」である・したがって、われわれは「キリストからすべてのことを期待しなければならない」・このことが「終末論」である・したがってまた、「キリスト教的終末論とは、キリスト論にほかならない」・ここで説教は、「感謝と確信と共に期待の態度と行動」である・「第一の来臨（≪誕生・死と復活≫）と第二の来臨（≪終末、復活したキリストの再臨、「完成」≫）との間（≪聖霊の時代≫）に、説教と、また同時にキリスト者の生活全体」とがある・説教は、説教者の決定事項・自由事項・裁量事項・独占事項ではないのであるから、自分自身の言葉から由来すべきではなく、どのような場合であれ、その形式と内容において、「聖書への絶対的信頼」に基づく、「聖書講解であることの義務」を負っている、と述べている。したがって、バルトは、「説教者が、実際の生活にはなお多くのことが必要であって聖書は生きるために必要なことを言いつくしていない（≪近代主義的な人間の感覚や知識を内容とする経験的普遍や情報が不足している≫）と考えるようなことがある限り、彼は、この信頼、信仰を持っておらず、真に信仰によって生き」ようとしていないのである・しかし、キリストの福音は、「われわれの思考や心情の中にあるのではなく、聖書の中にある」から、われわれは、「思想」、「最高の習慣、最良の見解、そのようなものいっさい」を、聖書に「聴従」することの前で、「放棄」しなければならない、と述べている。このように徹頭徹尾一貫性をもって思惟し語ることは、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の神の言葉、直接的な最初の第一の聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している啓示の「概念の実在」）を、教会の宣教、その説教、その思惟と語りにおける＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者として認識し自覚していたバルトにとっては当然なこと、不可避的なことであった。そうでないならば、「われわれは、世界における神の現臨を、（≪われわれ人間の≫）最上の知識と良心に従って、われわれから、われわれの（≪人間の恣意的独善的な≫）判断に従って、どこか別な点から何かある（≪われわれ人間が対象化した≫）別な単一性を帰するよう指示されている」に違いないからである。このようにして、「さまざまな異教主義が、……さまざまなキリスト教が、……異端的なキリスト教が生じてくるのである」。「異教主義」は、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における客観的に存在している起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には、第二の形態の客観的に存在している聖書的啓示証言のそれ）を、その宣教、その説教、その思惟と語りにおける＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方を知らないところの「人間が、（≪「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間≫）イエス・キリストにあっての神の現臨の単一性について、そもそも知らず、あるいは知ろうとしないところで発生する」。「異端的なキリスト教」は、「人間が、（≪三位一体の啓示の唯一の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」・キリスト教に固有な類・歴史性の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態である≫）イエス・キリストにあっての神の現臨の認識された単一性を真剣に受けとらず、また……まさにその啓示からして、イエス・キリストとイエス・キリストの中での全体を把握する代わりに、勝手に、（≪一面を、一部分を抽象して、拡大鏡にかけて全体化して、「創造そのもの、あるいは聖礼典そのもの、魂の生命、あるいは神の国そのもの、人間の生まれ変わりそのもの、また信仰告白そのもの、教えそのもの」、「異教主義」としての自然神学的な「下からの半身」、「超人」、人間の「最深の本質」、「最高の理想」、人間的実存の範型、「世の原理に仕える奉仕」としての社会的政治的な言説と実践の範型というような≫）このことあるいはあのことを取り出して、副次的な中心にするところで発生する」。このように「イエス・キリストの外で（≪唯一回的唯一無比のイエス・キリストにおける神の自己啓示から独立して≫）」、すなわちそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、その第二の形態の神の言葉、聖書的啓示証言のそれ、その直接的な最初の第一の客観的に存在している啓示の「概念の実在」）をその思惟と語りにおける＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者とすることを蔑ろにし放棄して、「イエス・キリストと並んで尋ね求められ」た・外皮的に「表向き見出された」「神的な内在性の自由」は、「実際には常にただ、何らかの神ならぬもの」――すなわちそれは、人間が対象化し客体化した「存在者レベルでの神」、「人間の想像能力・思惟能力・表象能力の本質が現実化され対象化された本質」（存在者）」のそれでしかないものであるから、「全くただイエス・キリストだけが現臨し給う神として」、人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間における「異教徒たちに対して宣べ伝えられなければならない」。このような訳で、イエス・キリストにおける神の自己啓示（聖書的啓示証言のそれ）によれば、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である・それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての・客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動に基づいて客観的に存在している必然的な不可避的な対象としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性――「まさにイエス・キリストの中でこそ、……ただイエス・キリストの中でだけ、神的な現臨の富の満ち溢れが含まれ開示されている」、類の時間累積が為されている）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には、第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）が教会の宣教、その思惟と語りにおける＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者である限り、第三の形態に属する全く人間的な「教会の中で、すべてがイエス・キリストからして（≪このことは、具体的には聖書的啓示証言から強いられる不可避性であるから、「キリスト教的絶対主義とは何の関係もない」≫）、イエス・キリストからしてすべてが（≪このことは、具体的には聖書的啓示証言から強いられる不可避性であるから、「キリスト教的な狭量さとは何の関係もない」≫）、待ち望まれ続けるということ、イエス・キリストが道、真理、生命（ヨハネ一四・六）として認識され、認識され続けるということについて、厳格に目覚めさせられていなければならない」。何故ならば、「もしもイエス・キリストを持たないならば、その時人は、決して神的現臨の豊かさを持たず、まさに神的現臨の豊かさを欠くことになるであろう」からである。キリストにあっての「神の自由は、（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の≫）神の自由として認識されることを欲している」、自由・主権はその「神ご自身においてのみ実在であり真理である」という認識と自覚を欲している。「神の自由」は、「神の中で成り立っており、神がそれを実証されるような仕方で認識されることを欲している」。この「神の自由は、神の中で、そのみ子イエス・キリストから成り立っており、まさにイエス・キリストの中で神はその自由を実証されたのである」。「神の自由」は、「そのすべての可能性と形態の中で、イエス・キリストから成り立っており、イエス・キリストの中で確証された一つの自由である」。したがって、われわれは、この「神の自由を認識し賛美することによって、イエス・キリスト以外のところから来ることはできず、イエス・キリスト以外のところへ行くことはできない」のである。このような訳で、神的な「内在性の中での神的自由の認識と理解にとって前提と標準を形成し、また前提と標準であり続けなければならないものは、キリスト論である」。「人は、神と人間、あるいは神と世界の関係についてのすべての命題」を、「それがイエス・キリストの中で造り出され保持される関係と交わりの解釈として理解されることができるかどうか」、またあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）に依拠した・その認識から喚起される「信仰ノ類比としての」「キリストの人格と業についての（≪具体的には第二の形態の聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯した≫）教会の根本認識に照らして測られることに耐えることができるかどうか」、「それが正当なものであるかどうか」を、それらすべての命題の思惟と語りにおける＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者としての起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（第二の形態の神の言葉、聖書的啓示証言のそれ、その直接的な最初の第一の客観的に存在している啓示の「概念の実在」そのもの）に信頼し固執し連帯することによって「吟味することができる」。「厳密に受けとるならば、キリスト論に相対しての独立したキリスト教の主題はない」のである。したがって、第三の形態に属する全く人間的な「教会」の宣教は、その説教と聖礼典は、その思惟と語りは、「世に向かって、厳格に受けとるならば、そもそもキリスト論に相対して独立した主題は存在しないということを代表しなければならない」のである、キリスト論的集中を志向し目指さなければならないのである。それは、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の神の言葉、聖書的啓示証言、客観的に存在している直接的な最初の第一の啓示の「概念の実在」）を＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストの福音、＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の讃美」としての「隣人愛」（すべての人々が＜純粋＞なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）を志向し目指していくことを「代表しなければならないのである」、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していくことを「代表しなければならないのである」。言い換えれば、「神とその自由を引合に出しつつ、人は、直接あるいは間接、最後的にはただこの一つの主題」、すなわちキリスト論の「主題を展開し、説明してゆくことができるだけ」なのである。このことでもって、「自由の中での神の存在」および「本節全体の結論として……語られるべきことが決定的に語られたことになる」のである。われわれは、「神の自存性について、神の主要な（≪内在的な≫）また副次的な（≪外在的な≫）絶対性について語った」のであるが、そのことで、「神的性質を持った賓辞、一般的な神概念（≪対象化された人間の自由な自己意識・理性・思惟の無限性、類的本質、存在者、「すべての偶像の内の最も質の悪い偶像」としての一般的な神概念≫）を述べたのではなく」て、「まさに啓示された（≪キリストにあっての≫）神の深み、（≪キリストにあっての≫）神の自存性、（≪キリストにあっての≫）神の主要なまた副次的な絶対性を述べたのである」。「神は＜自由＞であるのではなく、＜神＞は自由であり給う」。何故ならば、聖書的啓示証言によれば、「自由」は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」からである。したがって、「自由とは何であるかということ、どのような正当な意味で神は自由の中で存在する方として認識され理解されるべきであるかということ」は、「ただ神ご自身を尋ね求める問いの形式の中でだけ、また神ご自身によって与えられる答えを聞きつつだけ（≪起源的な第一の形態の神の言葉、第二の形態の聖書的啓示証言のそれを＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者とした、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰に依拠しつつだけ≫）、明らかにされることができたし、明らかにされることができる」のである。したがって、「われわれは、神が生きることと神が愛し給うことから出発した」。したがってまた、われわれは、そのように神が「神的に生きることと愛することの自存性、自由こそ」が、その内在性こそが、「ただその限りこの生きることと愛することの……神の神性こそ」が、「この最後の分節においてもわれわれが取り組んだことであった」。何故ならば、第三の形態に属する全く人間的なわれわれは、「ただ、（≪常に先行する≫）神ご自身だけが（≪イエス・キリストにおける神の自己啓示・自己顕現の中で≫）われわれに向かって語ることができること」、「神ご自身が現にまたわれわれに向かって語られたこと」――「すなわち、神は誰であるかということを（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰に依拠して≫）われわれに語らせ、それに基づいて（≪後続して≫）その後に続いてそれを語ろうと努めることができるだけである」からである、神の言葉に対する他律的服従と自律的服従との同在性・同時性において神の言葉に奉仕することができるだけだからである。「神が生きることあるいは行為すること（≪神の存在としての神の行為の出来事≫）」は、「神の愛の生きることと行為することである」から、すなわち単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父（創造主、啓示者、言葉の語り手）、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身（和解主、啓示、語り手の言葉）、「父ト子ヨリ出ズル」第三の存在の仕方である聖霊（救済主、啓示されてあること、愛に基づく父と子の交わり）における神の愛の行為の出来事としての神の存在であるから、キリストにあっての「神は、愛する方として、現にあるところの者であり給う」のであって、「決して何かある一つの実体（≪例えば、一般的な運動する概念と実在性との統一としての愛の理念の実体化されたそれ≫）……の中で現にあるところの者であり給うのではない」のである。キリストにあっての「神は、まず第一に生き、それからまた愛し給う」のではない、すなわちキリストにあっての「神は、愛し給う、そのようにして神は生き給う」、単一生・神性・永遠性を本質とする全き自由の三位一体の神の愛の行為の出来事としての神の存在であり給う。「神が愛し給うこと」は、内在的な自存性として、「自由な、それ自身の中で基礎づけられた」ところの、「いかなる他者を必要としない」、「それでいてどうしても他者なしにすませられない、他者に対して主権的な仕方で向けられ、（≪客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で≫）自分を贈り与える愛することである」。「この自由の中で、この愛することは、神的な愛することである。しかし、われわれはまた、逆に、……この神的な愛することの中でだけ、われわれによって記述された自由は、神的な自由であると言わなければならない」、何故ならば、「われわれによって記述された自由」は、先行するイエス・キリストにおける客観的な啓示の出来事（具体的には聖書的啓示証言のそれ）とその啓示の出来事における主観的側面である聖霊の注ぎによる信仰の出来事（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に基づいて終末論的限界の下で与えられる後続する信仰の認識としての神認識、人間の言語を介した直観と概念を用いた人間が人間的に所有する人間の啓示認識・啓示信仰におけるそれであるからである。「試みに、神の愛を、したがって神の人格（≪存在の仕方≫）を除いて考えてみよ」、換言すれば単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父（創造主、啓示者、言葉の語り手）、父が子として自分を自分から区別した第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身（和解主、啓示、語り手の言葉）、「父ト子ヨリ出ズル」第三の存在の仕方である聖霊（救済主、啓示されてあること、愛に基づく父と子の交わり）における神の愛の行為の出来事としての神の存在を除いて考えてみよ――この時には、「ただ世界原理について記述したに過ぎないことになる」のである。「＜神＞は自由であり給う。……それ故にこそ結論として、神の自由は、神のみ子、イエス・キリストから成り立っており、イエス・キリストの中で実証された自由であるということが、はっきりと言葉に出して語られなければなら」ないのである。「イエス・キリストの中で神は永遠からしてご自身」を、また「イエス・キリストの中で神は世」を、個体的自己としての全人間を、「愛された」のである。「イエス・キリストの中」で、すなわち「その生を神的な生に、それと共に栄光に輝く・勝利に満ちた・助けに満ちた生とする自由の中で、神は永遠からしてご自身を、また世を、（≪個体的自己としての全人間を、≫）愛されたのである」。
最後に、バルトは、すでに次のように論じていた――われわれが、「まず第一に、神は生き給うということについて、それから神は愛し給うということについて、……行為の中での神の存在について、それから愛する者としての神の存在について語った時」、すなわち「神は愛し給う」という神の愛の行為の出来事としての神の存在について語った時、「神は生きるということ自体は、それとしてそのすべての深みに至るまで、神は愛し給うことである」ということを語ったのである。そして、「ただこの認識を準備するためにだけ」、「『神は行動する主体である』という論理的前提を展開しつつ、……われわれは……事柄的にまさにただ一瞬だけ……行為（それも一般的な行為ではなく、神は（≪イエス・キリストの父――創造主・啓示者、子としてのイエス・キリスト自身――和解主・啓示・起源的な第一の形態の神の言葉、父と子の霊である聖霊――救済主・啓示されてあることとして≫）愛し給うという具体的な特別な行為）の中での神の存在（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）のところに留まったのである」。このような訳で、われわれは、「神の神性を、神の本質の特有な深みそのものを、問う時」には、起源的な第一の形態の神の言葉の現実性である第二の形態の聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯して「『神は＜誰＞であるか』と」問うのである、すなわち「抽象的ニ『神は＜何＞であるか』と問う」ことはしないのである。言い換えれば、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」（三位一体の神の第二の存在の仕方、働き、業と行為、神の愛の行為の出来事としての神の存在）において、「全く信じることができない」われわれ人間自身の「理性や力（≪感情、悟性、意志、自然を内面の原理とした修行等≫）によって」ではなくて、あくまでも神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神を啓示認識し啓示信仰するのである。徹頭徹尾、聖書的啓示証言におけるキリストにあっての「神は神である」ところの神は、全き自由な方として、「いかなる意味でも、＜それ＞ではなく＜彼＞であり給うように、神はまた、この＜彼＞であるために、何らかの＜それ＞（≪人間の想像能力、思惟能力、表象能力における＜それ＞、人間の自己意識・理性・思惟が対象化し客体化した「存在者レベルでの神」≫）に先ず共にあずからなければならない」ところの「＜彼＞ではあり給わない」。何故ならば、キリストにあっての「神の中には、彼自身でないような＜それ＞はないし、また神の特別なもの、神の行為、したがって神の生きること、また神の愛することの特別なものでないような一般的なものは存在しない」からである。したがって、われわれは、「今、『神は何であるか、神の神的なこと、したがって神を神として区別するものは＜何＞であるか』と問うことによって」、結局は再度「（≪「現にあるところのもの」としてのキリストにあっての神に、イエス・キリストにおいて自己啓示された神に、具体的には聖書的啓示証言のそれに信頼し固執し連帯して≫）神は＜誰＞であるかと問うことができるだけ」なのである。「厳密に言えば、神は＜何＞であるかを特別にその内容として持つことのできるいかなる『神的な賓辞』の『神概念』も存在しない」し（何故ならば、神と人間との無限の質的差異の下で、「神は神である」し、「人間は人間である」から。われわえ人間は、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する神の不把握性の下にあるから、あの「啓示と信仰の出来事に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、人間の言語を介した直観と概念を用いた神概念も、終末論的限界の下にあるから」）、「ただ神的な主辞自体と、その主辞の中での神の神的な賓辞の充満が存在するだけである」し、それ故にあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）における「神概念」は、「ただこの神的な主辞そのものをその内容として持つことができるだけ」のそれであり、「この主辞の＜外＞では決して存在すること」ができないそれであり、人間の自己意識・理性・思惟の類的活動における「概念の内容（≪「存在者レベルでの神」≫）とはなり得ない」それであって、それ故にあくまでもあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる「神的な賓辞を持つことができるだけ」のそれなのである。われわれは、「神が生き愛し給うことについて、特別なこととして語る時に、何を言おうとしており、何を為しているかを知ることができる」のであるから、「まさにこの（≪神的に≫）生きることと愛することの特別なこと」を、「問わなければならないということ、そしてそのことを何らかの（≪人間の恣意的独善的嗜好的な≫）一般的な標準と観点の下で問うのではなく」、あくまでもイエス・キリストにおける神の自己「啓示によって明らかにされたその実在を念頭に置いて問わなければならないのである」、換言すればわれわれは、そのことについて、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的な「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の直接的な最初の第一の聖書的啓示証言のそれ、客観的な啓示の「概念の実在」）を、われわれの宣教、その思惟と語りにおける＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で問わなければならないのである。
われわれは、「神の存在」を、換言すれば神の愛の行為の出来事としての「神の存在」を、自己運動する「自分自身から生きる存在として理解した」。したがって、自己運動する神の愛の行為の出来事としての神の存在を、「神が愛し給うことを、それ自身の故に愛する愛として」、「無条件的な、自分で自分の根拠と目的を措定する、徹頭徹尾主権的な愛することとして、理解した」のである、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の自己運動する愛として理解したのである、「自存性」における愛として理解したのである。「この精密規定なしには」、すなわちキリストにあっての神は「生き、愛し給う」という「独一無比性についての表示なしには」、われわれは、「神が生き、愛し給うことではなく」、人間の想像能力・思惟能力・表象能力によって「一般的に生きることと愛することについて語っているのであって」、それ故に具体的には聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したところのキリストにあっての「神については語っていない」ことになるのである。まさに「この精密規定は、……自由という概念によって与えられている」。「生きる方、愛する方としての神の存在は、自由の中での神の存在である」。そのように「自由に、神は生き愛し給う。神は、自由の中で生き、愛し給うという仕方で、またそのことの中で、神であり、ご自身をそのほかの生ける者、愛する者から区別し給う。そのような仕方で、自由な人格」、＜われ――存在＞として「神はご自身をその他の人格から区別し給う」。聖書的啓示証言によれば、「自由」・「主権」は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」。われわれ人間の「『理性や力によっては』全く信じることができない」われわれ人間における信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）は、あくまでも、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」、すなわち客観的に存在している起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には、第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）と、その出来事の中での主観的側面である聖霊の注ぎによる信仰の出来事（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に基づいて、終末論的限界の下で与えられるのである。このような訳で、このことも重複するのであるが、再度述べれば、教会の宣教、その思惟と語りが、キリスト教的な思惟と語りの「正しい内容の認識として祝福されきよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということ」は、「神ご自身の決定事項」であって、われわれ人間の自由事項・裁量事項・「決定事項」ではないのである。したがって、教会の宣教、その思惟と語りの在り方は、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けてください』（マルコ９・２４）というこの人間的態度に対し神が応じてくださるということに基づいている」のである。キリストにあっての神は、「ただその創造者としての力と意志によってだけ、その他の人格が存在し、保持される」ところの、単一性・神性・永遠性を本質とする三つの存在の仕方、働き、業と行為、全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在――創造主・啓示者、和解主・啓示、救済主・啓示されてあること、ということである。このように、「われわれは、自由という概念でもって、全くただ神は、主であり給うと言い表す時に語るであろうこと以外の何事も語ってはいない」のである。このように、「まさに、神の主権とは、いかなる場合においても、神が生き、愛し給うことの主権である」。このような訳で、「徹頭徹尾神ご自身」が、「神ご自身の選びと決心、意志と行為」が、「どのように」、「生き、愛し給う」のかということが「問題である」、「換言すれば神が生き給う方、愛し給う方として主である精密規定が問題である」。「もしもわれわれが、イエス・キリストの中での神の啓示に従えば、何が神の主権を神的な主権として、他の主権から区別するのかを問うならば」、それは、「神の主権は自由な主権である」と答えなければならない。この「積極的、本来的に自分自身を通して、自分自身の中に基づいており、自分自身によって規定され、動かされている」「自存性」「自由」・「主権」は、自存性は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」と答えなければならない。「まさにこのことが、神的な生きることと愛することの自由である。この積極的な自由の中」で、積極的な自存性の中で、キリストにあっての「神は、……外に向かっても制限がなく、妨げを受けず、条件づけられてい給わない」のである。「神は、自由な創造主（≪啓示者、イエス・キリストの父≫）、自由な和解主（≪啓示、子としてのイエス・キリスト自身≫）、自由な救済主（≪啓示されてあること、愛に基づく父と子の交わりである聖霊≫）であり給う」。
さて、神の行為（≪神の行為の出来事としての神の存在≫）は神の愛である。そのことがわれわれなしでも神の（≪内在的な≫）本質である限り、すなわち至福を「神がただご自身のためだけでなく、神がそれをご自身のために持たれることによって、またわれわれとの交わりの中ででも持とうと欲し給う同じ」神の（≪内在的な≫）本質である限り、「それが神の至福である」。この「神の愛の至福」は、神の愛の行為の出来事としての神の存在の中にある。この内在的な「神の本質」の、それゆえに「神の愛の完全性」の「満ち溢れの中でこそ」、神は、「われわれに対して身を向けつつ、神の愛の中で、神の愛と共に」、「またこの至福をわれわれに贈り与えようと欲し給うのである」。この「神の愛の至福」は、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の「神が、父・子・聖霊であり、そのような方としてわれわれを愛し給うということ、すなわちわれわれの創造者、和解者、救済者（≪「三位一体の神の名」、イエス・キリストの父、子としてのイエス・キリスト自身、「父ト子ヨリ出ズル御霊」としての聖霊≫）として、……まさにそのような方として愛そのものであり、永遠に愛し給う方であるということ」に基づいているのである。このことが、われわれ人間に対して、われわれ人間の「すべての考えを越えた神の愛の秘義」（神の愛の行為の出来事）、「その他のすべての愛から区別された」神の愛、それ故にその他の「すべての愛を限りなく凌駕する神の神性」を想起させる神の愛である。聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第三の存在の仕方である聖霊は、起源的な第一の存在の仕方である「父なる神」と第二の存在の仕方である「子なる神」の「愛の霊」であって、ここに聖霊の「起源」がある――この聖霊において、父と子（神的な対）は、愛に基づく完全な共存的な関係・「交わり」（神的な共同性）において存在するのであるが、そのような愛に基づく完全な共存的な関係・「交わり」の中で聖霊は、「父は子の父」、「言葉の語り手」（啓示者）であり、「子は父の子」、「語り手の言葉」（啓示）であるところの業と「行為」・性質（「啓示されてあること」）、すなわち三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事であり、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性である、ここに神は愛である・愛は神である、神は愛し給うということの根拠がある。言い換えれば、われわれが、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてイエス・キリストにおける「神の啓示の中での神の存在と関わるようになる時」に、すなわちイエス・キリストにおける神の自己啓示の中での神の愛の行為の出来事としての神の存在と関わるようになる時に、われわれは、先行するあの「ひとつの真実な愛」について「その他のすべての愛はただ証しすることができるだけであり、しかもその証は自分からするのではなく」、すなわち教会論的なキリスト教的人間を含めて人間論的な自然的な人間に内在する「証明能力によってするのではなく」、また自然的な人間に内在する相互扶助意識や愛の奉仕の意識によってするのではなく、われわれ人間の「被造物的な愛」が、イエス・キリストにおける神の自己啓示の中で、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、先行するあの「ひとつの真実な愛と直面させられ」、「われわれ被造物として愛する者」が、あの「神的なひとつの真実な愛の対象として要求されることに基づいて、証しすることができるだけである真実な愛と関わるようになるということ」を想起することができるのである。このような訳で、われわれ人間の「被造物的な愛」は、先行するイエス・キリストにおける神の愛の下で、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には、その第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）を、その存在、その思惟、その実践における＜客観的＞な原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返し、それに聞き教えられるということを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストの福音、＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求めるという後続する「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（＜純粋＞なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要請・要求）――すなわち、すべての人々が＜純粋＞なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指していくところにあるのである、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指していくところにあるのである。したがって、このような聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したわれわれ人間の「被造物的な愛」とは区別されたところの、それ故にそれとは独立的に二元論的にあるいは二元主義的にあるいは多元主義的に考え出されたところの宣教論や、また革命論の課題を明確に提起できないままに、それ故にその課題を明確に提起しないままに為されるところの場当たり的な社会的政治的な言説や実践にあるのでは決してないのである。そのような宣教論、社会的政治的な言説や実践は、ちょうど「哲学、歴史学、心理学等」が、教会の「神学的問題領域のどれにおいても、事実上、教会の自己疎外の増大以外のなにものにも役立ちはしなかった」ように、また「神についての教会の語りの堕落と荒廃以外の何ものにも役立ちはしなかった」ように、役立ちはしないのである（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）。そのことは、そのような宣教論や社会的政治的な言説や実践を主張する第三の形態に属する全く人間的な教会の生と生活、社会的政治的な言説と実践――これらと、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』におけるアイヌの生・生活、思考・実践の在り方とを、あるいは宮沢賢治の思惟・語り・実践とを、あるいはミシェル・フーコーや吉本のその存在・その思考・その実践とを比較考量してみればすぐに分かることである。神は愛である・愛は神である、「神は愛し給う」――これが、「神の存在の特別な現実性」、「神の行為あるいは神の生……の内容である」、神の愛の行為の出来事としての神の存在の内容である、イエス・キリストの父（創造主）、子としてのイエス・キリスト自身（和解主）、父と子の霊である聖霊（救済主）という三位一体の「神の名の啓示の中で明らか」にされている神の「本性」、「神の本質である」。