『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 三 自由の中での神の存在」（その３－３）－１
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 三 自由の中での神の存在」（その３－３）－１（１１０－１２８頁）
引用文中の（≪≫）書きは、私が加筆したものである。また、既出の引用については、その文献名を省略している場合がある。
（論述における様々な重複は、今後も含めまして、それは、あくまでも、理解し易くするためのものでもありますが、私自身のその存在・その思考・その実践において、私自身のものとするためでもありますし、また私自身のためでもありますので、ご了承ください。正直に言えば、もうひとつあって、それは、バルトを、単純にしかし根本的にそして包括的に理解することを目指した拙著だけで、バルトを、根本的包括的に理解することができるのかどうかという実証的実験を行うためでもありますので、ご了承ください。また、注意はしており、見つけた場合には速やかに訂正をしておりますが、引用上の不備、勘違いによる不備、誤字脱字等の不備について、もしそうしたことがありました場合にはご容赦ください）・（しかし、その論述内容については、少なくともカール・バルトに関しては、根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます。したがって、そうした論述の積み重ねの中で、その内容についての表現の仕方の練り直しと的確化だけでなく、その内容の深化と豊富化が為されていると考えます。また、吉本隆明に関しても、まだ補充すべき点はいろいろあるとしても根本的包括的な原理的な誤謬は犯していないと考えます）・（最後に、indemについてだけは、２０１７年３月１２日以降、吉永正義訳の「……する間に」をすべて、井上良雄的に「……することによって」というように引用し直しています。なぜならば、その方がその文章内容をイメージし理解しやすいからです）
「六章 神の現実 二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在」
「六章 神の現実 二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在」について、バルトは、次のような定式化を行っている。
神はその啓示の中で、現にあるところの方であり給う。神はご自身とわれわれとの間の交わりを求め、造り出し、そのようにしてわれわれを愛し給う。しかし神はまた、われわれなしにも、ご自身からして自分の生命を持つ主の自由の中で、父、子、聖霊として、まさにこの愛する方であり給う。（３頁）
〔この定式の詳述〕
この定式の詳述については、『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 一 行為の中での神の存在」（その３－１）で行っていますので、参照してください（２０１７年１１月１６日論述分）。
「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 三 自由の中での神の存在」（その３－３）－１
前回、次のようなことが論じられていた――存在的にも・認識的にも、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方――すなわちナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、「イエス・キリストの名」、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された「神は、ご自身の中で自由であり給うという第一の命題が確実であるならば」、「その時、……神の自存性」は、「神は外からの、他者からの、一切の基礎づけ、条件づけ、規定から自由であり給う（≪「神は、一切の外的な被制約性から自由である給う」≫）という第二の命題の中でも」確実である、ということを意味している。キリストにあっての神は、このような「神ご自身においてのみ実在であり真理である」「神に固有な自由の中で存在することによって、ご自身で存在し、根拠づけ、限界づけを持ち、またご自身そのような方であり給うならば」、「その時、神は、他の存在を必要」とはしないし、「他の存在（≪自己身体を座として持つ人間の自己意識・理性・思惟の類的活動≫）による基礎づけと限界づけ」も「必要」とはしないのである。すなわち、「神は、『絶対的』であり給う」。われわれは、存在的にも・認識的にも、自覚的に、「神ご自身の存在証明」を、「神の存在（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の事実としての確証」を、「それとして尊重すること」を、また「そのようにして、神を、（≪われわれの思惟と語りにおける≫）絶対性」の「彼岸（≪外≫）においても絶対的である方として考慮すること」（自覚すること）を必要とするのである。ここで、われわれは、「直ちに、神を、ただその方だけが絶対的である唯一の方として言い換えることができる」のである。したがって、ここで絶対性は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」と言い換えることができるのである。この時、この認識と自覚において、われわれは、「容易にしのびこんでくる一切の自己神格化（≪最後的な人間の神化あるいは神の人間化≫）からわれわれ自身を守ることができれる」のである。われわれは、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」において、起源的な第一の存在の仕方である父（イエス・キリストの父、創造主、啓示者、言葉の語り手）、第二の存在の仕方である父が子として自分を自分から区別した子（イエス・キリスト自身、和解主、啓示、語り手の言葉）、第三の形態である「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊（父・隠蔽と子・顕現との愛に基づく交わり、救済主、啓示されてあること）なる神――この神の存在としての神の愛の行為の出来事において、常に、われわれに先行する神は、「ご自身の中で自由であり給うということ」を、すなわち単一性・神性・永遠性を本質とする神の「完全さ・自由さ」は、父、子、聖霊の三つの存在の仕方の「完全さ・自由さ」であるということを、「先ず第一に」、「われわれ自身に向かって語らしめた後で、……語ることができるし、語らなければならないのである」。何故ならば、われわれは、「神はご自身の中で自由であり給うということ」を、「神の事実的な現実存在の中で下された決断によって、先ず第一にわれわれ自身に向かって語らせなければならない」からであり、われわれのその思惟と語りの「対象は、いかなる概念でもあり得ず」、「まさにただその存在証明の中での神ご自身であり給うだけである認識の内容として先行しなければならないからである」、換言すれば起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している啓示の「概念の実在」）に信頼し固執し連帯したあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を「内容として先行しなければならないからである」。もしもそうでないならば、「神は一切の外的被制約性から自由であるという第二の命題」は、「われわれ自身の理想についての命題」と「区別」することができないことになる。言い換えれば、もしもそうでないならば、第二の命題の神は、キリストにあっての神ではないところの、われわれが神に先行して思惟し語る「絶対的な、一切の外的被制約性から純化された」「純粋実在」としての存在、「われわれ自身……を言い表した」存在、「われわれ自身の理想」、われわれ「人間的理性や人間的欲求やによって規定された神」、対象化され客体化されたわれわれ人間の自己意識・理性・思惟の類的本質としての「存在者レベルでの神」ということになる。このような訳で、われわれは、第一の命題も第二の命題も、自由は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」という認識と承認と自覚を必要とするのである。すなわち、われわれ人間に先行するイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された三位一体の「神ご自身の存在証明」によって、「神の存在（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）の事実としての確証」によって、われわれが「神と同等であろうとすること（≪キリストにあっての神を、自己身体を座として持つ人間の自己意識・理性・思惟の類的活動の延長線上で尋ね求めること、対象化され客体化された人間の自己意識・理性・思惟の類的本質において尋ね求めること≫）はわれわれに対して、……防ぎ守られ禁じられている」のである。
さて、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」「神の自由」は、「起源的に、ご自身の中での神の自由として」、すなわち「神の主要な絶対性として」（神の内在的な絶対性として）、「その真理を、父が子と共に聖霊によって生き給う神の内部の三位一体的生（≪「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互内在性」における生≫）の中に持っている」から、神とは異なる「外の他者」・「造られた世界」ではないところの「神ご自身の中での他者に対する関係と交わり」における「神の自由」は、すなわち神の「副次的な絶対性」（外在的な絶対性）は、「『見えない神の形』（コロサイ一・一五）・形態である「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」み子としての神の存在様式（≪第二の存在の仕方、父が子として自分を自分から区別したところの父なる神の子≫）の中に、……その起源的な真理をもっている」。「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」、キリストにあっての神と人間との無限の質的差異、「厳格に理解された神の絶対性」（主要な絶対性）は、キリストにあっての神が、三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互内在性」、自存性、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き「自由を持ち給うということを意味している」、換言すればキリストにあっての神が、常に先行して神とは異なる一切の「ほかの存在の間での相互的な現臨、伝達、結合に関して出来事となって起こり得るすべてのことを徹底的に凌駕する仕方」において、「現臨し、自己を伝達し、ご自身をそれらのものと、それらのものをご自身と、結び合わせる自由を持ち給うということを意味している」。すなわち、イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された三位一体の神は、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動・自己展開、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」――客観的な啓示の出来事、「イエス・キリスト名」、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している啓示の「概念の実在」）と聖霊の注ぎによる信仰の出来事（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に基づいて終末論的限界の下で信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰を与える力、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性を「持ち給うということを意味している」。したがって、第三の形態に属する全く人間的な教会が、教会論的なキリスト教的人間が、徹頭徹尾常に＜先行＞する起源的な第一の形態の神の言葉、イエス・キリストの名、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している直接的な最初の第一の啓示の「概念の実在」）を、その宣教、その思惟と語りの原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的的限界の下で絶えず繰り返し、神の言葉に対する奉仕としての他律的服従と自律的服従との同時性・同在性において、徹頭徹尾常に＜後続＞して、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、＜純粋＞なキリストの福音を、＜純粋＞なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」――すなわち＜純粋＞なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法（神の命令・要請・要求）、＜純粋＞なキリストの福音をすべての人々が現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを志向し目指すということは、換言すればイエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指すということは、人間論的な自然的人間あるいは教会論的なキリスト教的人間と神との混合化・共働化・協働化・混淆化・人間の神化あるいは神の人間化を志向し目指すということでは決してなくて、あくまでもキリストにあっての神に対する感謝の応答なのである。このように「まさに正しく理解された」「神の絶対性こそ」は、「ただ単にほかのすべてのものに対する超越性への自由を意味することができるばかりでなく」、「ほかの存在（≪人間は、自己身体を座とする対自的で対他的な自由な自己意識・理性・思惟は類的活動を持っている、肉体・身体と精神・意識を介した、普遍的で実践的な全自然――すなわち自己身体、性としての他者身体、天然自然および人間化された自然である人間的自然・非有機身体――との相互規定的な対象的活動を行う、ここに肉体的身体的および精神的意識的な人間の類的な活動や生活がある、人間の類の時間累積がある≫）の間では決してあり得ないような内在性への自由を意味しなければならない」のである、内在的な自由（自存性）を意味しなければならないのである。何故ならば、「有限」で「限界を持っている」「いかなる存在も他の存在に対して内的に現臨することはできないし、内的に他の存在との交わりに入り、交わりの中にいることはできない」からである・「有限」で「限界を持っている」「いかなる存在もほかの存在を造り出し、保持することはできない」からである・「有限」で「限界を持っている」「いかなる存在もほかの存在を真剣に導き、支配することはできない」からである・「有限」で「限界を持っている」「いかなる存在も自分をほかの存在に、ほかの存在を自分に、永遠の忠実さと全き献身の中で結びつけることはできない」からである。「軽薄な明るさ」の中で「私利・私意」を主調音とするマス・メディアを通して毎日のように「中立」、「公正」、「正義のため」、「平和のため」、「住民のため」、「国民のため」とか、「絆」、「感謝」、「恩返し」とかの言葉が流され続けている中で、このことは、直視しなければならない、現存するわれわれ人間の、人間論的な自然的人間あるいは教会論的なキリスト教的人間の「存在の本質」である。バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、人間の対自的意識に関わる言葉で、「われわれ人間の間の伝達は――われわれが人間一般として互い相対立して立つ限り――事実いかに問題的であるかということを念頭におくならば」、「一体、誰が誰を知っているのであろうか」、誰が誰をその無意識の深層において知ることができるのであろうか、と述べている。「他者に対立して自分を主張するという仕方でしか自分を主張できないということが、神以外のものの存在の本質である」、「まさにそれ故にこそ、神以外のすべての存在は、互いにただ、暗示的に、すなわち基本的にまことにではなしに、ただためしにだけ、現臨し合い、自分たちを伝え合い、結びつけ合い、相互に属し合うことができる」だけである、「まさにそれ故にこそ、神以外の一切のものの間には、まことの超越がないように、まことの内在もないのである」。したがって、「まことの内在」が、キリストにあっての「神以外の存在の間ででも起こっていると主張」しようとするならば、聖書的啓示証言に即して根本的包括的に原理的に批判すべきところの、人間的理性や人間的欲求からする「汎神論あるいは万有在神論」を、総括的に言えば自然神学を、自然的な信仰・神学・教会の宣教を必要とするのである。私なりに簡潔に整理してみれば、吉本は、コミュニケーション論で、次のように述べている――（ 1 ）現実の意識は、対自的となった人間的意識（自己意識の対自的意識、言語の自己表出）と対他的となった実践的意識（自己意識の対他的意識、言語の指示表出）の構造としてある。この自己意識における対自的意識と対他的意識、言語の自己表出と指示表出の構造である現実的意識の外化である言語表現は、「現実的人間との関係の意識、いわば対他的意識（≪実践的意識≫）の外化である」。このようにして人間は、自己を客体化し、他者の対象となり、社会的関係に入る。このとき＜表現＞された言語は、客観的な対象として百人百様の享受の対象となり、「交通の手段」となる。外化されたその実践的意識（対他的意識、言語の指示表出）は確かに「他の人々にとって存在するとともに、そのことによってはじめて私自身にとってもまた実際に存在するところの現実の意識」という意味で、コミュニケーションによる相互理解に根拠を与える意識である。しかし、（ 2 ）他方で人間には、他者からはどうしても窺い知ることのできない人間的意識（対自的意識、言語の自己表出）があることも確かなことである。このことは、「心・精神」の働きである意識と無意識の関係から根拠づけることができる。（ア）人間の「心・精神」の世界は、「意識領域」と「無意識領域」との構造としてある。また、（イ）その無意識領域は、「核」、意識領域との境界にある「表層面」、核と表面層の間にある「中間層」との構造としてある。（ウ）無意識領域が「現実世界」と接しているという場合、それは、無意識領域の「表層面」を指している。（エ）特に無意識領域の核の出自は、胎児期と生まれてから一年間の乳児期における母親との関係の在り方によって形成される。（オ）このような構造的把握は、個体の問題や家族を扱う上で重要なものである。何故ならば、家族問題を扱う場合、そのことに自覚的でない場合、家族問題を個体の無意識の「表層面」の問題として錯誤したり、「表層面」と「核」を混同して論じてしまう錯誤に陥るからである。言い換えれば、病的な異常さを呈した個体的自己としての人間（個体における自己）の問題あるいは家族的自己としての人間（家族における自己）の問題の究極的総体的永続的な救済は、当事者の「心・精神」における無意識の「核」にある傷を治癒することにあるから、その「核」に傷を負った当事者の個体史を乳児期から胎児期にまで溯って究明していくところにある。しかし、コミュニケーション論のほとんどは、実践的意識（対他的意識、言語の指示表出）と「現実的人間との関係の意識、いわば対他的意識の外化」としての＜表現＞された言語に偏向しており、部分を全体とする錯誤と誤謬のもとにある。何故ならば、それらは、人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍あるいは臨床的研究や科学的実験によって得られた成果（知識）がすべてであると錯誤するからである。すなわち、それらは、他者からはどうしても窺い知ることのできない人間的意識（対自的意識、言語の自己表出）に対して無自覚なのである。このようにバルトや吉本が述べていることを認識し自覚しないままに（バルト翻訳者であるにも拘らずである）、ルドルフ・ボーレンの「聖霊論的説教論」を紹介していた佐藤司郎は、エンゲマンという神学者の「不安に面した」聞き手側の「理解と了解のプロセス」を重視した「聞き手の生の現実を顧慮」した「コミュニケーションの出来事としての説教」についても紹介していたのであるが、その説教論も、一部分を拡大鏡にかけて全体化した形而上学一面的固定的抽象的な「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」（『ルートヴィッヒフォイエルバッハ』）、質的には決して人間学を超えることはできないところの自然神学としての神学的人間学であったのである。
このような訳で、このキリストにあっての「神は、無からの創造者となるべく十分、ほかのすべてのものに対して彼岸的（≪「超越」的≫）であり給うことができ、同時にそれらのものの存在を部分的にもしくは全面的に変えたり、またちょうど神がそれらのものに存在を与えたように、今度はそれらのものから存在を取り上げることができるほどに、自由であり給う」のである。神がこのような方であり給うということが、「神の彼岸性」、「神の超越性」の中での「神の自由」である。神は、「それ以上のことを為し給うことができる」ほどに、「自由であり給う」。キリストにあっての神は、神とは異なる「神以外の一切のものに対して」、「神がそのものの創造者」、それ故に「その存在の与え主であることによって、また神がそのものからその存在を取り上げてしまわれないことによって」、「神ご自身の神的存在とは全く異なった」そのようなその「存在から身を引き給うことなく、またそのものに対して（それが神の意志によって生じた後、またそれが神の意志によって存続していることによって）」「疎遠」とはならず、「そのものの存在の存在として」、「いかなる被造物もほかのものに対して持つことができない」「永遠の忠実さの中で現臨されるという仕方で（≪神とは異なる「神以外の一切のもの」の≫）内側にい給うことができる」のである。ちょうど、「福音と律法の真理性」における福音の内容は、神の自由な愛によって、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方――すなわちその働き・その業と行為・その神の愛の行為の出来事としての神の存在――であるイエス・キリストが、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死――キリストにあっての神は、神の恩寵を嫌悪し回避するわれわれ人間が生きるためにのみ、その死を欲し給う）を、「全く端的に、信じ給うた」（ギリシャ語原典のローマ３・２２、ガラテヤ２・１６等の「イエス・キリスト＜の＞信仰」の＜属格＞は、目的格的属格としてではなく、「明らかに＜主格的＞属格として」、すなわちわれわれ人間に先行する「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストご自身が信じる信仰として、「理解されるべきものである」）ところに、「唯一回なし遂げ給うた」（「律法の成就」）ところにあり、それ故にこのインマヌエルの出来事は、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、徹頭徹尾神と人間との無限の質的差異の下で、「何ら価値や力や資格もない罪によって暗くなり・破れた姿」のわれわれ「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆されぬように（≪さらに混合・協働・共働されぬように≫）、統一し給うた」ように（『福音と律法』）。このように、キリストにあっての神は、「この他者、すなわち神とは全く異なったもの」を、「それにもかかわらず、そのようなものとして、神の中で生かし、動かし、存在させることができ給う」、「神とは全く異なったもの」に対して「神ご自身の存在とは異なった存在を全面的に……恵み与え、許容し給う、ことができる」のである。したがって、この神は、「まさにそのような仕方でこそ、……そのものの被造物的自由の中で、徹頭徹尾ご自身の存在によって保持し、担い、支配し、徹頭徹尾そのものの存在の初め、真中、終わりであり給うことができる」・「そのものが自分自身を理解するよりもさらによくそのものを理解し給うことができる」・「そのものが自分自身を動かすよりもさらに親密にそのものを動かし給うことができる」・「しかも、それらすべてのことを神ご自身の特性を解消しつつではなく、それを確証しつつ、また神以外のものの特性を解消しつつではなく、それを確証しつつなし給うことができる」のである。このキリストにあっての神が、「それらすべてを為し給うことができるということ」が、「神の内在性の中での神の自由である」。
キリストにあっての神について、「われわれはさらにそれ以上のことを言わなければならない」。すなわち、神は、神とは異なった「他者に対して、そのものとの相違性」、そのものとの無限の質的差異の下で、「最も多岐にわたる仕方で、内側にいるべき自由であり給う」、内面性への自由であり給う。神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「われわれが聖書の証言に従って、被造物とのその関係の中で、神を見出す」ところの、すなわち信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を与えられ「神を見出す」ところの、神の言葉自身の出来事の自己運動の「満ち溢れ全体は、……非本来的に解釈されることは許されない」のである、ちょうどブルトマンの新約聖書の釈義における前期ハイデッガーの哲学原理によって見出された「原理的な方法」（自然神学的な方法）が「許されない」ように。何故ならば、例えば、第三の形態に属する全く人間的なブルトマンは、恣意的独善的に、そのような「容易に修得し得ない」「先行的理解と言語」的方法によって対象化し客体化した「意味的世界」・「想像能力・思惟能力・表象能力の本質」・「人間理性や人間的欲求やによって規定された」「神の啓示」・「存在者レベルでの神への信仰」を「第一次的なもの」として先行させ、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）の関係と構造・秩序性において先行する「先ず第一義的に優位に立つ」起源的な第一の形態の神の言葉（イエス・キリストの名、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの）、すなわち「他のすべてのものを基礎づけ、制約し、支配するキリストの出来事としてのキリストの出来事」を聖書的啓示証言から「取り去」り、さらにその「啓示の実在」そのものを取り去った聖書的啓示証言を、あの自然神学的な方法によって対象化し客体化した「第一次的なもの」に従事する限りにおいてのみ「第二次的なもの」として「真であり、重要なものに形式変換し、転釈した」からである。このような神学的な方法は、総括的に言えば自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教におけるこのような解釈の方法は、先ず以て聖書的啓示証言によって「許されない」のである。それだけでなく、そのようなブルトマン的な新約聖書の釈義における前期ハイデッガーの哲学原理によって見出された「原理的な方法」における「人間理性や人間的欲求やによって規定された」「神の啓示」・「存在者レベルでの神への信仰」は、総括的に言えばそのような自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教は、フォイエルバッハやマルクスやハイデッガーの根本的包括的な原理的なキリスト教批判の対象そのものであるという意味でも「許されない」のである。いずれにしても、神の言葉自身の出来事の自己「運動」は、「最も厳密な意味で、現実として解釈されることができるし、解釈されなければならない」のである。何故ならば、キリストにあっての神は、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である証しの力、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」、神の言葉自身の出来事の自己「運動の中でこそ、（≪「人間的理性や人間的欲求」によって対象化され客体化された≫）偶像と区別され」、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の「神として、……自由な方として、証しされるからである」、すなわちキリストにあっての神は、「たとえそれがどれほど最高の属性を身に帯びていようと、……被造物的存在として自分の正体を暴露する……存在」の「被拘束性と区別され」、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の「神として、……自由な方として、証しされるからである」、また、キリストにあっての神は、「世界との関係において」、「決してそれ以外の仕方でではなく」、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方であるイエス・キリストの父（創造主、啓示者、言葉の語り手、隠蔽）、第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身（和解主、啓示、起源的な第一の形態の神の言葉、語り手の言葉、顕現）、第三の存在の仕方である父と子の霊としての聖霊（救済主、啓示されてあること、愛に基づく父・隠蔽と子・顕現の交わり、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」、すなわちキリスト教に固有な類・歴史性の関係と構造・秩序性の現存）という「神の存在と本質に対応する仕方で、……神の自由の中で（≪神の自存性の中で≫）、決定し意志される仕方で、態度をとり給うことができる」からである。神の側の真実としてある「神の忠実さは、あくまでも神の忠実さであって、被造物の存在の通常の規定された姿にうちのどれかひとつの姿の（≪すなわち、その一つを抽象した≫）形而上学的（≪一面的固定的相対的≫）対応ではない。世界の存在と生の中に神がいます現臨は、神の人格的な、したがって現実の、……その主権的な決断の中でその都度、それぞれの形をとっての現臨である」、神の言葉自身の出来事の自己運動における現臨である。
イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された「神は、被造物に対して」、「神が被造物に対してご自身を贈り与え、開示することの中で、しかしまた神が被造物に向かって身を隠し、被造物から身を引くことの中で、現臨すべく自由であり給う」。このように、イエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された神は、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」、「神は、被造物世界の中で無条件的に存在し、業を為すべく……自由であり給う」、「しかもまた被造物世界の中で条件づけられつつ存在、業を為すべく自由であり給う」・「神は、われわれが世界の出来事の法則と看做すものの中でその業を為すべく……自由であり給う」（何故ならば、「自然の光の中でではなく、恵みの光の中で、それ自身で閉じられ、かくまわれた世俗性は存在せず、ただ神の言葉、福音、神の要求、判定、祝福によって問いに付され、ただ暫時的にだけ、ただ限界の中でだけ、それ自身の法則性とそれ自身の神々に委ねられた世俗性があるだけ」だからである）、「しかしそれと全く同様にまた奇蹟（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の奇蹟」・「啓示と信仰の出来事」に基づく信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の授与≫）の中ででも業を為すべく、自由であり給う」、「神は、神が世界の出来事そのものの深みの中に存在することによって、あるいはまた世界の出来事を超えてはるかに高く存在することによって、世界の出来事に対して神の内在性を恵み与えるべく自由であり給う」、「神は、その神性の中で被造物に相対して身を隠すべく、自由であり給う」・それと同時に「ご自身被造物になるべく自由であり給う」（キリストにあっての神は、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」）、「神は、被造物に相対して、神としてその距離を保つべく自由であり、また同様に被造物との契約に入るべく、それどころか被造物自身を、最も厳格な、最も完全な意味で、神ご自身の神的存在との単一性へと、ご自身との単一性へと高めるべく自由であり給う」（このことは、『福音と律法』の中の「福音と律法の真理性」における「福音の内容」としてすでに述べたように、イエス・キリストご自身が、われわれ人間のためにわれわれ人間に代わって、われわれ人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を、「唯一回なし遂げ給うた」ということ――すなわち「律法の成就」・完了ということ、われわれ人間からは「何ら応答を期待せず・また実際に応答を見出さず」とも、「神であることを廃めず」に、「何ら価値や力や資格もない罪によって暗くなり・破れた姿」のわれわれ「人間的存在を己の神的存在につけ加え、身内に取り入れ、それをご自分と分離出来ぬよう」に、「しかも混淆されぬように、統一し給うた」ということである）、「神は、世界に対して、全く制限されない仕方で存在すべく自由であり給う」、「世界の有限性によって拘束されず、また世界の無限性に縛りつけられることもなく、世界の空間と世界の時間全体の中に編み込まれないで、何らかの個々の空間、個々の時間の中に編み込まれることもなしに、全く制限されない仕方で、世界に対して存在すべく神は自由であり給う」。これらのことを認識し自覚したならば、神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会のわれわれは、その宣教、その思惟と語りにおいて、次のように言わざるを得ないのである――「世界の救いを何かある国家的、（≪法的≫）政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念や体制の内に求め」ようとしないで、「私たちの主であり、救い主であるイエス・キリストを、いっさいのものにまさって恐れ、かつ、愛すること、神を、大きな問題においても、小さな問題においても、彼がかってあり、いまあり、やがてあり給う権威のままに肯定し、是認すること、私たちの個人的、社会的生活を敢えて律して、すべての善きものを神から、神からすべての善きものを期待」するべきである（『共産主義世界における福音の宣教 ハーメルとバルト』）、「福音が純粋ニ教エラレ、聖礼典が正シク執行サレルということ」が為されないままに、礼拝改革とか、社会的政治的な言説・実践とか、キリスト教教育とか、教会と国家および社会との関係とか、国際間の教会的な相互理解というような領域で、「何か真剣なことを企て遂行してゆくことができると考える」ことはすべきではない、すなわち教会の宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者を、起源的な第一の形態の神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、イエス・キリストによって直接的に唯一回的特別に召され任命された預言者および使徒たちのイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、その人間性と共に神性を賦与され装備された聖書的啓示証言、その直接的な最初の第一の客観的に存在している啓示の「概念の実在」）と同時に、二元論的・二元主義的にあるいは多元主義的に、主観的恣意的に「最上の仕方で基礎づけられ、熟慮に熟慮を重ねられた人間的な判断」、「哲学」、「道徳」、法・「政治」等に置くべきではない、と。キリストにあっての神は、「同時に、……（≪その自存性において≫）ご自身を制限すべく自由であり給う」、すなわち神は、「われわれの星空、あるいはまわわれわれの概念性、の小さな無限性の中で永遠に存在すべく自由であり給う」、「しかしまた、われわれの有限性の中で、われわれの空間――時間性全体の中に編み込まれて、……（≪神の第二の存在の仕方である≫）全くの謙譲の姿（≪「神性の放棄」や「神性の減少」では決してないところの、言葉の受肉としての「神が人間となる」こと、僕の姿、「自分を空しくすること、受難、卑下」≫）の中でほかの空間――時間性の中に編み込まれて、永遠に（≪単一性・神性・永遠性を本質として≫）存在すべく自由であり給う」。「神は、被造物に向かって全く内的に存在すべく自由であり、同時にまた神ご自身として全く外的に存在すべく自由であり給う」。「よく理解せよ」――「それらすべては、（≪徹頭徹尾常に先行する≫）神の内在性、神の現臨、神と被造物の間の神ご自身によって選ばれ、意志され、造り出された関係と交わり、の形態である」。このように、神は、「イエス・キリストの中で……われわれに出会い給う」。したがって、「それらすべてはイエス・キリストの可能性である」。ちょうど、先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり・「永遠の（神との人間の）和解」であり・神との間の「平和」（ローマ五・一）であり・それ故に神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおいて「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の奇蹟」・「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる≫）神認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰≫）に向かっての人間の用意が存在する」ように。このような訳で、「もしも人が、それらの可能性の内の一つでもイエス・キリストに対して否定するならば、人は、（≪神の第二の存在の仕方である≫）イエス・キリストを、それと共に（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の≫）神ご自身を否定するであろう」（何故ならば、イエス・キリストは、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるからである）。その場合、「人は、神を認識し崇拝する代わりに、自分自身を偶像にしてしまったのである」。何故ならば、その場合、人は、キリストにあっての神を、「自分自身を神の立場に置きたいと願う」自分自身の「勝手な思い」によって規定された神、「人間的理性や人間的欲求やによって規定された神」、すなわち偶像にしてしまったからである。神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「神の言葉が、われわれ人間のこの勝手な（≪恣意的独善的嗜好的な≫）思いの壁を突き破るならば、その時、その内在性の中で実証された神の自由への賛美は、いかなる意味でも限界を持つことはできない」のである。したがって、その時には、「すべての汎神論と万有在神論（≪前回（３－２）－２で論じている≫）は、初めて、その全くの貧弱さ」を自己暴露するのである。何故ならば、その「思想体系の中」での神と神崇拝は、フォイエルバッハやマルクスやハイデッガーが根本的包括的に原理的に揶揄・批判したところの、人間自身が対象化し客体化した「存在者レベルでの神」への信仰、「偶像」崇拝でしかないだろうし、それ故にそこでの人間の世界、人間の類、世界史、人間の類の時間は、「依然として」、「われわれ人間の（≪「問題に満ちた」≫）失われた非本来的な古い時間」・世でしかないからである。政治的解放は人間にとって、現実的な「私意・私利」に基づく利己主義的な他者との対立・争いあるいは利害共同性との対立・争いから生じる上からのあるいは下からの権力闘争に基づくあるいは構造改革に基づく過渡的緊急的部分的相対的な法的政治的な＜観念的＞解放でしかなく、観念の共同性を本質とする国家の無化を伴う究極的永続的包括的総体的な社会的な現実的な＜人間的＞解放ではないのであるから、マルクスが国家論を、すなわち革命論を、政治的解放と社会的解放（人間的解放）との総体に置いて構想した時、相互認識・相互了解・相互承認・相互自覚・相互意志することができる人間精神の頂にまで到達した個体的自己としての全人間の高次の精神を前提しているのは明白である。吉本が１０００年に一度しか出ないであろう世界思想家と述べたマルクスのこの革命構想のことを考えれば、「すべての汎神論と万有在神論」の「その全くの貧弱さ」を実感的に認識できるであろう、身近なところでは「私利・私意」を精神とする近代市民社会の疎外態しての観念の共同性を本質とする法的政治的近代国家や戦争の元凶である民族国家への愛国心を標榜しつつ為された「戦争責任の告白」や「平和を求める祈り」を為す日本基督教団の指導層およびバルト研究者たち並びにそれに即自的に賛同していく牧師たちの情緒性と曖昧性、それ故に全くの国家主義者である佐藤優や富岡幸一郎を根本的包括的に原理的に批判できないあるいは批判しない彼らの情緒性と曖昧性、「その全くの貧弱さ」を実感的に認識できるであろう。キリストにあっての神は、起源的な第一の形態の神の言葉、啓示・和解、「イエス・キリストの名」（インマヌエル）、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの（具体的には、第二の形態の聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している啓示の「概念の実在」）において、われわれ人間の、その類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡せ、また「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受け取ることができる」場所を与え給う。
キリストにあっての神は、「被造物に対するご自身の意図の中で、決定的に、無限に違った仕方で現臨すべく自由であり給う」。したがって、「神と世界との関係と交わり」は、三位一体の「神がその永遠の存在の中で」、すなわち「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」における内在的な単一性・神性・永遠性を本質とするその永遠の存在の中で、その完全さ・自由さ・自存性の中で、「また、外に向かってのその行為の中で」、すなわちイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方（性質、働き、業と行為、神の愛の行為の出来事としての神の存在）であるイエス・キリストの父（創造主、啓示者、言葉の語り手）、第二の存在の仕方である子としてのイエス・キリスト自身（和解主、啓示、語り手の言葉）、第三の存在の仕方である「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊（救済主、啓示されてあること、愛に基づく父と子の交わり、それ故にこの聖霊の証しによればイエス・キリストは「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」）の中で、その完全さ・自由さ・自存性の中で――このような三つの存在の仕方の「失われない差異性」の中で「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「一神」、「一人同一なる神」である（それ故に、「三神」、「三つの対象」、「三つの神的我」ではない）ことによって、「現にあるところの方」である。このキリストにあっての神は、神性の受肉では決してないところの起源的な第一の形態の神の言葉として「言葉の受肉の中で、人間性を神の永遠のみ子との一致の中へと、み子の神的な存在との交わりの中へと、一回的に無比な仕方で取り上げることの中で」、先ず以て「神の恵みのより広いみ国の中で、……教会と神の子らの生の中で」、すなわちイエス・キリストによって直接的に唯一回的特別に召され任命された神の言葉の第二の形態である予言者および使徒たちのその人間性と共に神性を賦与され装備されたイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」（聖書的啓示証言）の中で、あくまでもこの神の言葉に信頼し固執し連帯した教会の宣教としての「説教と聖礼典の力の中で」、「聖霊によって」、すなわち神のその都度の自由な恵みの決断による客観的な啓示の出来事（起源的な第一の形態の神の言葉、具体的には第二の形態の聖書的啓示証言のそれ）と聖霊の注ぎによる信仰の出来事（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に基づいて終末論的限界の下で「人間が信仰へと新たに生まれる力の中で」、「また世界と人間の現実存在と具体的存在の」「中立的な実在であるところの」「創造、保持、支配の中で」、「さらにまた未来における完成（≪終末≫）の中で、（≪復活した≫）キリストの再臨の中で、死人の甦りの中で、最後の審判の中で」、それら個別的なすべての時空におけるイエス・キリストご自身の「それぞれ別な関係と交わりである」。「神は、預言者たち……使徒たち（≪その人間性と共に神性を賦与され装備された聖書的啓示証言、神の言葉の第二の形態≫）……説教」・「聖礼典（≪全く人間的な教会の宣教、神の言葉の第三の形態≫）の中で」、「聖書……教会の教父たち、（≪教会の客観的な≫）信仰告白の中で」、「それぞれ違った仕方で行動し、語り給い、また昨日と今日と明日とではそれぞれ違った仕方で行動し、語り給う」。「神は、天使たちとの関係と交わりの中では、……ほかの世界との関係と交わりの中でとは違った仕方で存在し、人間との関係と交わりの中では、そのほかの精神、自然の世界との関係と交わりの中でとは違った仕方で存在し、信仰者たちとの関係と交わりの中では、一般に人間との関係と交わりの中でとは違った仕方で存在し、教会史の中でと世界史そのものの中でとそれぞれ違った仕方で存在し、最後に天使一人一人、事物一つ一つ、人間一人一人、信仰者一人一人に対して、すべてのそのほかのものに相対する場合と、違った仕方で存在し給う」。これらは、そのすべての時空におけるイエス・キリストご自身の「それぞれ別な関係と交わり」における神の愛の行為の出来事としての神の存在である。しかし、このような「外に向っての神の行為の……無制限な個別的な取り扱い方だけが存在するのではなく、その根拠として」、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の「神ご自身の存在と意志の中に、そのみ心の中に」、「父なる名の内三位一的」な、内在的な、すなわち起源的な第一の存在の仕方である父は子として自分を自分から区別するし、自己啓示する神として自分自身が根源であり、それ故にその区別された子は父が根源であり、愛に基づく父と子の交わりである聖霊は父と子が根源であるというように、「神の決定と遂行の階級制度全体が存在している」のである。しかし、この場合、「神の決定と遂行の相違性」は、単一性・神性・永遠性を本質とする「神の単一性を廃棄」しないのである。すなわち、その場合、それは、「自然力あるいは精神原理の単一性と区別された神的な単一性としての単一性を確証しているのである」。ちょうど、次のようにである――「創造された世界」における「神の愛」と「われわれの世界」における「イエス・キリストの事実の中における神の愛」との間には差異性がある・すなわち、後者の神の愛は、「まさしく神に対し罪を犯し、負い目を負うことになった人間の失われた世界に対する神の愛」である・したがって、「和解ないし啓示」は、「創造の継続」や「創造の完成」ではない・この意味は、「和解ないし啓示」は、神の三つの存在の仕方の「失われない差異性」における第二の存在の仕方であるイエス・キリストの「新しい神の業」である、ということである・それは、「神的な愛の力」、「和解の力」である・イエス・キリストは、和解主として、創造主のあとに続いて、神の第二の存在の仕方において「第二の神的行為を遂行」したのである、すなわち神の存在としての第二の神的愛の行為の出来事を遂行したのである・この神の三つの存在の仕方「失われない差異性」における「創造と和解のこの順序」に、「キリスト論的に、父と子の順序、父（≪啓示者、言葉の語り手≫）と言葉（≪啓示、語り手の言葉≫）の順序」が対応しており、「和解主としてのイエス・キリスト」は、「創造主としての父」に先行することはできないのである・しかし、父と子は共にその存在において「失われない単一性」・神性・永遠性を本質としているから、その従属的な関係は、存在の本質の差異性を意味しているのではなく、存在の仕方の差異性を意味しているのである、というように。したがって、人は、そのような「区別の満ち溢れの中で現にあるがままの一人の方である」という「神の自由」と「神の自己区別」に対して「拒否したり」・「反抗していないかどうかよく注意せよ」。何故ならば、「教会の教えの純粋性と充実のために中止されてはならない」ところの、そのことに対して拒否したり反抗したりした・する教会教義学における思惟と語りは、「思弁」であり、「許されざる単純化、神の偶像化を意味する」からである、「また、神の内在性のあの啓示された多様性の内の一つでも見逃し、否定し、消し去り、何らかの一般的なもの……に平均化することは、教会にとって、個々人の信仰にとって、またそのものの永遠の救いにとって、致命的なこと」だからである。そこでの神は、人間自身が対象化し客体化した「存在者レベルでの神」ではあっても、聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯したキリストにあって神ではないからである。前述したことを、バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』では「偶発的な同時性」という概念を使って、次のように述べている――起源的な第一の形態の神の言葉は、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「偶発的な同時性」、すなわち「特定のアノトコロデアノ時ニが、特定のココデイマ」となる。神の言葉は、「その都度、全く特定の一回的な、独一無比な」言葉である。しかし、神の言葉は、「神の口を通して語られて、同時的」である。このことは、神の言葉は一つであること、すなわち「きょうも、きのうも、いつまでも変わることがない」イエス・キリストにおける連続性を意味している。この単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストの連続性における「同時性」が、「特定のアノトコロデアノ時ニが、特定のココデイマ」となる出来事の時間・空間のベクトル変容を可能とするのである。すなわち、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいた起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリストの「特定のアノトコロデアノ時ニ」において、バルトの「特定のココデイマ」は、預言者や使徒たちの特定の時空と交点を結び得るのである。「時の全くの厳格な相違性の中で、神の言葉は一つであり、同時的である（イエス・キリストは、きょうも、きのうも、いつまでも変わることがない）」。また、『ローマ書』では次のように言われている――「パウロはその時代の子としてその時代の人々に語った。けれどもこの事実よりはるかに重要な事柄は、いま一つの事実、すなわち彼は神の国の預言者ならびに使徒としてあらゆる時代のあらゆる人々に語っている、ということである。（中略）聖書の精神は永遠の精神なのである。かつての重大問題は今日もなお重大問題であり、今日の重大問題で単なる偶然や気まぐれでない事柄は、またかつての重大問題と直結している」。因みに、前述した「中立的な実在」とは、例えば、次のように言うことができるであろう――神の言葉の第二の形態である聖書に対する「中立的な観察者」は、「聖書の中に証しされている啓示の『史実的な（historisch）』な確かさを問う」だろう、歴史主義を志向し目指すだろう、すなわち「啓示を問おうとしない」で、人間の類の「歴史の枠にはめ込まれてしまうような歴史的出来事ではない」ところの、イエス・キリストについての「証言として」の聖書の中でも人間精神が生み出したもの・「神話を問う」ことをするだろう。しかし聖書的啓示証言をあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて「聞く者、見る者、信じる者」である「非中立的な観察者」にとっては、啓示・聖書、それに信頼し固執し連帯した教会の宣教の中に「同時に啓示の秘義があったし、あり続けた」のである、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰があったし、あり続けたのである。「聖書の中で物語られているもろもろの歴史」は、史実史や神話ではなく、「ただ、（一人、あるいは何人かの）物語者が物語られた歴史に対して、多かれ少なかれ（主観を交えて脚色しており、そういう意味で）干渉し、関与する」という「歴史物語あるいは古譚の要素を持ったもの」である・聖書的啓示証言においては、史実的に正しい内容が重要なのではなく、重要なことは、聖書が、「シリアの総督のクレニオ」と「聖降誕の出来事」、「ポンテオ・ピラト」と使徒信条というように、神の啓示に対してその都度ごとに、一つの年代的・時間的と地誌的・空間的・地域的との限定性において、「出来事として起こったもろもろの歴史（ Gschichten）」について語っているという点にある・キリストの復活の出来事は、無空間的無時間的な神話としてでもなく、史実時空においてでもなく、歴史物語時空において起こっている、と語ったバルトは、学問的「世俗的真理をも正直に受けとること」ができている――「（中略）確かに受肉は中心的にして重要なものではあるが……新約聖書の本来的内容であるというふうには言ってはならないのである。（中略）それはおよそすべての他の宗教世界の神話や思弁の中にも見出されるものである。（中略）人は、聖書が語っている受肉を、ただ聖書からのみ、換言すればイエス・キリストの名からのみ……理解することができる。……神人性それ自体もまた新約聖書の内容ではない。新約聖書の内容とは、ただイエス・キリストの名だけであり、そのイエス・キリストの名がたしかにまた、そしてとりわけ、彼の神人性の真理をその名に含んでいるのである。ただまったくこの名だけが、啓示の客観的現実を言いあらわしている」（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）。人類史のアジア的段階における農耕を経済的基盤とした日本で、天皇を含めて非農耕民は神人と呼ばれた。吉本は、世界のどの地域にもあてはまる未明の社会に世界普遍的にあった「風俗や生活」について、次のように論じている――大和朝廷の側から神話の形で書かれた支配の歴史である『古事記』や『日本書紀』の初期神話には、場所と時間が特定できない記述がある。すなわち、日本列島のどの地域・地勢・自然風土なのか場所が特定できない記述や、世代的継承・親子関係や兄弟姉妹関係と関わりのない無時間的な「ひとり神」の概念の記述がある。例えば、初代天皇の神武天皇・「カムヤマトいわれひこ」は、「地名を名前とする日本列島に特徴的な呼称」である。しかし、その祖先神である「ヒコなぎさたけうがやふきあえずのみこと」（「波うち際に建てた産屋の屋根を葺くのが間にあわないうちに生まれた」）は、「日本語の人名とは思われない名称を持った」その場所を特定できないものである。このように、人類は、農耕社会の段階において「男・女神」を要請したが、自然生を主とした狩猟採取の原始社会（アフリカ的あるいは縄文的段階）においては、「無＜性＞神」としての「独神」（ヒトリカミ）という幻想性（観念）しかなかった。このようなことは、「未明の社会の有力な人物」の場合には、世界普遍的にあり得た、と。
前述した「その内在性の中での神の自由」は、「神とは異なった存在に対する関係の中で」、「神の存在と行為（≪神の存在としての神の愛の行為の出来事≫）の（≪前述した≫）あの階級制度」において「勝利を収める」のである。聖書的啓示証言によれば、「神的な現臨と働きのこれらすべての可能性」は、「イエス・キリストの中に」、「一つの全く特定の中心を、……その根拠、先端、意味、標準、法則を持つ」のである。われわれに対して常に先行するところの、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉である、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストこそ（具体的には、第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している直接的な最初の第一の啓示の「概念の実在」）が、「先ず第一義的に優位に立つ」、われわれの宣教、その思惟と語りにおける、その存在・その思考・その実践における原理・規準・法廷・審判者・支配者である。「イエス・キリストの中で遂行された神的な存在と人間的な存在の間の一致」は、「確かに……（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の存在の仕方である父、子、聖霊という≫）「神的な内在性」の「神的な現臨と働き」の「可能性の内の一つであるが」、「しかしそのことを超えてその一回性と独一無比性の中で」、「すべてのそのほかの可能性の中の可能性である」。何故ならば、起源的な第一の形態の神の言葉である「イエス・キリストの中で肉となった神のみ子は、神ご自身の永遠の存在様式（≪単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方≫）として、まさに神の世界内在性すべての原理以外の何ものでもなく」、それ故にみ子は、われわれが、神とは異なる「外の他者」・「造られた世界」ではないところの「神ご自身の中での他者に対する関係と交わり」における「神の自由」、すなわち「神の副次的な絶対性」（外在的な絶対性）と「呼んだものの原理以外の何ものでもないからである」。「神ご自身においてのみ実在であり真理である」「神の自由」は、「起源的に、ご自身の中での神の自由として」、すなわち「神の主要な絶対性として」（神の内在的な絶対性として）、「その真理を、父が子と共に聖霊によって生き給う神の内部の三位一体的生（≪「父なる名の＜内＞三位一体的特殊性」、「三位相互内在性」における生≫）の中に持っている」から、神とは異なる「外の他者」・「造られた世界」ではないところの「神ご自身の中での他者に対する関係と交わり」における「神の自由」は、すなわち「副次的な絶対性」（外在的な絶対性）は、「『見えない神の形』（コロサイ一・一五）であるみ子としての神の存在様式（≪第二の存在の仕方、父が子として自分を自分から区別したところの父なる神の子≫）の中に、……その起源的な真理を持っている」。したがって、われわれが、もしも聖書的啓示証言とそれに信頼し固執し連帯した全く人間的な教会の宣教を通して、神の言葉自身の出来事の自己運動、あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）を与えられたならば、すなわちイエス・キリストがわれわれと「同時的となる時と所」・「『神われらと共に』が神ご自身にわれわれに語られるところ」においては、「われわれは神の支配の下に入る」ということを、それ故に「世、歴史、社会」は「その中でキリストが生まれ、死に、甦られたところの世、歴史、社会」であるということを、それ故にまた「自然の光の中でではなく、恵みの光の中で、それ自体で閉じられ、かくまわれた世俗性（≪社会構成・支配構成・文明的文化的構成≫）は存在せず、ただ神の言葉、神の要求、神の判定（≪法廷、審判、裁き≫）、神の祝福によって問いに付され、ただ暫時的にだけ、ただ限界の中でだけ、それ自身の法則性とそれ自身の（≪人間自身が対象化した≫）神々に委ねられた世俗性があるだけである」ということを、認識し自覚し、承認し確認するのである。「神ご自身の中での他者に対する関係と交わり」における「神の自由」は、すなわち「その副次的な絶対性」（外在的な絶対性）は、神とは異なる「神の外の他者、すなわち造られた世界に対する関係と交わりではない」。したがって、もしも「人が、神のみ子を、この世界と同一視し、そのようにして世界をいわば必然的な要素として」、「神的な存在様式として」、「神性そのものの中に移しかえようとするならば」、「最初の数世紀の教会によって直ちに拒否されたフィロンとグノーシス主義の誤謬」に陥ることになるのである。何故ならば、この場合、人間「世界」に対して、神と人間との無限の質的差異の下における「神の自由」を語ることができなくなるからである。「神のみ子は、神ご自身の中で他者の原理的な真理であり給う（≪何故ならば、神のみ子は、神の全き自由な内在性において、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である父が子として自分を自分から区別した子・父自らが対象化した子・対象化された父自身であり、そのように自己啓示する神として自分が根源であり、その区別された子は父が根源であるからである≫）。この他者は（≪内在的な≫）神のみ子としての神ご自身である。しかし、まさに神ご自身が、（≪自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、存在様式である≫）み子の中で自分自身にとって他者となり給う」。ヘーゲルを否定的に媒介したフォイエルバッハは、『キリスト教の本質』と『宗教の本質にかんする講演 下』で、人間の自由な対自的で対他的な自己意識・理性・思惟の類的機能について、次のように述べている――「人間の内的生活は、自分の類・自分の本質に対する関係における生活である。人間は思惟する、すなわち人間は会話をする、人間は自分自身と話をする。動物は自分以外の他の個体がいなければ類の機能をひとつもはたすことはできない、しかし人間は他人がいなくとも考えるとか話すとかという類的機能……を果たすことができる」、と。自然の一部である自己身体を座とする人間の自由な自己意識・理性・思惟の類的活動は、地図上で世界を巡り歩くことができる、科学・技術が発達すればさらに加速されるのであるが、人間の身体の細部にまで奥深く入って行くことができる、宇宙の細部にまで奥深く入って行くことができる、その知識を増大することができる。自然の一部である人間は、人間の類的活動や生活として、身体・肉体と精神・意識を介して、普遍的で実践的な全自然（自己身体、性としての他者身体、天然自然あるいは人間化された自然である人間的自然・非有機的身体）との相互規定的な対象的活動を行うことができる。このことが現実の事実である限り、「聖霊論的説教論」を展開したルドルフ・ボーレンやそれを首肯するバルト研究者の佐藤司郎や東京神学大学実践神学者の小泉健の言う、中世的思考に退行した人間学に対する神学の優位性に基づく人間学的神学の主張は、客観的には、その最初から、「何らかの抽象を以て始められた」「何らかの空論に終わるところの」、「非学問的」な「教義学」でしかないものなのである、質的には決して人間学を超えることはできないところの神学的人間学なのである、ちょうどブルトマンの例を見ればすぐに分かるように、神学的方法において、起源的な第一の形態の神の言葉である「イエス・キリストの名」、具体的には神の言葉の第二の形態の聖書的啓示証言のそれを「先ず第一義的に優位に立つ原理」とするのではなく、前期ハッデッガーの哲学原理・人間学をまず第一に優位に立たせた混合神学としてのブルトマン神学のように、ハイデッガーから「『今日まさにこのマールブルク（≪ブルトマン、その学派≫）では、無理やり模造された敬虔さと結びついて、弁証法の見せかけがとくに肥大している』が、それよりは『むしろ無神論という安っぽい非難を受け入れた方がよい』、『いわゆる存在者レベルでの神への信仰は、結局のところ神を見失うことではなかろうか』」と揶揄されたように。したがって、聖書的啓示証言に徹頭徹尾「絶対的」に信頼し固執し連帯したバルトは、今回の箇所では「神にとって別様性が存在するために、別に世界が必要であるということはない」と述べている、それだけでなくフォイエルバッハの根本的包括的な原理的なキリスト教批判を「有効に防御するためには」、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異の認識と自覚が必要であると述べている（『ローマ書』）、また「神と人間を同一視する神学（中略）『人間の内なる神について』の議論が根絶され」なければならないと述べている（『ルートヴィッヒ・フォイエルバッハ』）、またわれわれ人間の「『自分の理性や力（≪感情力、意志力、想像力・表象能力、修行力等≫）によっては』……全く信じることができない」と述べている（『福音主義神学入門』）、そして「自由・主権」は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」と述べている（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）。全被造物に対して常に先行するイエス・キリストにおいて自己啓示・自己顕現された「神は、すべての世界に先立って、そのみ子の中で、永遠から永遠にわたって、ご自身の中」で、イエス・キリストの父（創造主、啓示者、言葉の語り手）、子としてのイエス・キリスト自身（和解主、啓示、語り手の言葉）、父と子の霊である聖霊（救済主、啓示されてあること――それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」・キリスト教に固有な類・歴史性の関係と構造・秩序性、愛に基づく父と子の交わり）という「別様性を持ち給う」。「まさに事情がそうであるが故に、世界の創造と保持、神と世界との関係と交わり」――このことが「神の完全な自由の中で、何の強制もなしに、否、何の必然性もなしに出来事となることが確かである限り」、そのことは、「神の本質」の「外に向かっての……異質な、矛盾に満ちた確証ではなくて」、内在的な「神の本質」の「自然な（その本質の）確証である」、すなわち神と人間との無限の質的差異の下で、被造物的なそれとは全く異なる神の「愛は、神にとって、（≪内在的な≫）最高の法則であり、最後的な実在である」ということの確証である。バルトや宮沢賢治や親鸞が述べているように、煩悩や天災や飢餓や生老病死等で困窮し疲弊する他者を「不憫に思い、悲しみ、助け」るという、われわれ人間の往相的な部分的一面的固定的相対的過渡的緊急的な救済・平和、幸福追求における思惟や言葉や実践は、その拡大と時間累積を含めて、徹頭徹尾常に限界づけられており、それ故に還相過程において認識され意識され自覚されてくるところの究極的包括的総体的永遠的な救済・平和、全体の幸福に繋がることは決してあり得ないのである（マタイ二六・六－一三、マルコ一四・三－九）。バルトは、『証人としてのキリスト者』で、最終的に離脱した宗教的社会主義における「そこでの人間の困窮と人間に対する助け」について、「聖書が理解しているほどには、真剣に理解されておらず、深く理解されていなかった」、と述べている。「世界は、神のみ子が存在するが故に、存在することによって、存在する」のである。「すべてのものはこれによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった（ヨハネ一・三）。世は彼によってできた（ヨハネ一・一〇）。そのことを超えて同じ神のみ子に関して肉となった（ヨハネ一・一四）と言われているのを聞く時」、それ故に「み子は創造主であることを超えて、ご自身被造物（≪まことの神と架橋されたまことの人間≫）になり給うたということを聞く時」、そのことは、「この特別な、最高の、（≪神性の受肉ではなく、あくまでも言葉の≫）受肉の中で打ち立てられた神と人間の間の関係と交わりの中」で、「そもそも問題となってくるすべての関係と交わりそのものの本質と総内容を持っているということ……である」、またそのことは、「ここで実証されている神の自由の中に、同時に……神がその自由をこの関係と交わりの中で実証されるすべての形態の＜原＞形態と法則を持っているということである」。常に先行する「神のみ子がほかのすべての被造物の系列の中に歩み入り給うことによって、神のみ子が必然的に全体を支配するこの＜先頭＞に歩み入り給うことによって、み子は必然的にすべての造られたものに先立って生まれた方（コロサイ一・一五）であり、そのほか造られたものすべては、み子によって造られ、み子のために造られたのである」。したがって、われわれは、「神が被造物世界のこの領域の中で」、「ただ……神の自由を実証される形態の中でだけ、同時に……すべてのほかの形態の意味、標準、目標を認識しなければならない」。