本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

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『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「二十八節　自由の中で愛する方としての神の存在　三　自由の中での神の存在」（その３−２）−２（９６−１１０頁）

「二十八節　自由の中で愛する方としての神の存在　三　自由の中での神の存在」（その３−２）−２
　われわれは、前述したような「背景……前提の下で、今また概念の副次的な意味における神の『絶対性』としての神の自由の一般的な解明を試みることにする」。神が神とは異なる「すべてのもの（≪神とは異なるすべての「他者の存在と現実存在」≫）との関係の中で自由であり給うということ」は、「認識的に」、神が、「『神』という要素によって考えられる」「すべての総合」（単一性）としての「存在……霊……生命……愛」と規定されようとも、そのような神とは異なる「いかなるものとも、一つの範疇……共通の種概念あるいは類概念の中に」包括されないということを意味している。したがって、「われわれが、神について、他のものとの系列および序列の中での一要素として考え語るならば、その時には、その系列および序列という概念あるいは直観」は、「『神』という概念」が「他の一切の要素」・「系列および序列そのもの」と「自立的、独立的」な質的差異（「内的な相違性」）の下にあるということを、それ故にそれらを混淆・混合・結合することに対して「根本的に妨げられる」ということを、「甘受しなければならないのである」。「神ハ類ノ中ニ存在シ給ワナイ」、「神はご自身の中で自由であり給う」、自由は「神ご自身においてのみ実在であり真理である」、イエス・キリストにおいて自己啓示された神は、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方（啓示者、創造主）である「父なる名の内三位一体的特殊性」において、父は子（第二の存在の仕方、啓示、和解主）として「自分を自分から区別」するし、そのように自己啓示する神として自分自身が根源である・それ故に、その区別された子は父が根源であり、愛に基づく父と子の交わりである聖霊（第三の存在の仕方、啓示されてあること、救済主）は父と子が根源である・この神は、子の中で「創造主として、われわれの父」として自己啓示したのであるが、単一性・神性・永遠性をその存在の本質としているから、父だけが創造主なのではなく、子と霊も創造主である・同様に、父も創造主であるばかりでなく、子に関わる和解主であり、聖霊に関わる救済主でもある・この単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神（「父なる名の内三位一的特殊性」における三位一体の神）の完全さ・自由さは、父、子、聖霊の三つの存在の仕方（神の愛の行為の出来事としての神の存在）の完全さ・自由さである。この「第一の命題の神学的帰結こそが、方法論的に極めて包括的である」。この「神ハ類ノ中ニ存在シ給ワナイが故に」、この命題に対して反対した「トマス・アクィナス」のスコラ的方法に対して、換言すれば「あらゆる機会に神と神でないものを包括する存在という概念に依拠し、根本的には神と神でないものの間の関係全体をこの一般的な存在概念の説明という形で解消できると考えるローマ・カトリックの神学の方法に対して」、「異論が唱えられなければならない」のである。したがって、聖書的啓示証言に「絶対的」に信頼し固執し連帯したバルトは、存在の類比に反対して、例えば『教会教義学　神の言葉�T／１・２』で、次のように述べている――「内被造世界での、……父という呼び名は確かに真実である」が、「非本来的なもの」であるから（ちょうど、現存するわれわれ人間の古い時間・世は、「本来的な実在」としてのキリストの死と復活の出来事において完了・成就された新しい時間・新しい世から「攻撃」され・「否定され」「失われた」「非本来的な古い時間」・古い世であるように、そうであるから）、「神の内三位一体的父の名の力と威厳に依存」しているものとして理解されなければならない、と。また、キリスト教信仰・神学・教会の宣教を「ただ（≪イエス・キリストにおける神の自己≫）啓示（≪起源的な第一の形態の神の言葉、客観的に存在している「啓示の実在」そのもの≫）の中にのみ基礎づける」ために、聖書的啓示証言に「絶対的」に信頼し固執し連帯したキリスト教信仰・神学・教会の宣教は、「罪深い曲った人間」の「究極的な限界性」を認識し自覚した人間の言語を介して、「三位一体を、世界から説明しようと欲しない」で、逆に「世界を三位一体からせん欲する」、と。また、われわれは、「三位一体の痕跡」を被造物の「想起（記憶）、知解、愛」に見たアウグスティヌスのように「被造物ノ中デノ三位一体ノ跡」というように思惟し語ることはしないで、逆に「三位一体ノ中デノ被造物ノ跡」というように思惟し語る、と。因みに、アンセルムスもアウグスティヌスと同じように、「想起、知解、愛」を「最も身近な最も高貴な認識根拠」としていたが、アンセルムスは、その場合、アウグスティヌスの立場を紙一重で超えて、「啓示、恵み、信仰」を前提条件としたのである。言い換えれば、アンセルムスの場合は、バルトの概念に引き寄せて言えば、あの神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」を前提としていたのである、それ故にアンセルムスの場合は、「教義学的な合理主義」を明確に否定していたのである。このように、神ハ類ノ中ニ存在シ給ワナイが故に、「カントの神論は堪え難いもの」なのである。何故ならば、カントの神論においては、「神の理念」は、「自由と不死という同じ程度に最高の理念の系列の中に立っており」、またそれらの理念と共に、「理性という最高理念に服させられている」からである。ヘーゲルによれば、世界史は世界精神（時間化されたところの、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・自由を原理とする絶対精神）の自己展開である、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・自由を原理とする絶対精神の頂は、感覚的な要素（理念を直観と形象によって表現する芸術の段階および理念を表象によって表現する宗教の段階）を包括し止揚した自己意識・理性・思惟によって理念を概念化した学・哲学の段階である、思惟に思惟を重ねて具体的普遍の頂へと高次化した思惟は、自然から完全に超出した精神であるから、その頂を極めた「精神は、精神自体としては神と全く同一である」、この段階は有限と無限との統一としての「究極的同一性」の段階である、神の人間化あるいは人間の神化の段階である。このような「神学的方法」における神学は、教会の一つの機能としての、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言のそれ）に対する他律的服従と自律的服従との同在性・同時性における奉仕の学としての、「教会教義としては非学問的」なのである、それ故にそれは、「非神学的（≪な方法≫）であるとして拒否されなければならない」のである。何故ならば、学問的な学業的な人間学的神学的（哲学的神学的）な「単なる知識」とあの「啓示と信仰の出来事」に基づいてのみ与えられる「認識」（信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰）との間には「厳密」な「区別」が存在するからである。神に敵対し神に服従しないわれわれ人間は、「肉であって、それゆえ神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力」を一切持ってはいないから、神の言葉は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、またその隠蔽と顕現において、終末論的限界の下で、「われわれのところに来」るのである。客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動において、「言葉を与える主」は、同時に「信仰を与える主」なのである。したがって、聖書的啓示証言の中で証しされている教会の宣教の課題である啓示、イエス・キリストの死と復活の出来事、インマヌエル、神の側の真実として・「永遠的実在として」ある完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和、「イエス・キリストの名」の宣べ伝えを志向し目指すことのない学問的な学業的な人間学的神学的（哲学的神学的）な「単なる知識」としての教義学は、「それがどんなに考え深い才知豊かな、また首尾一貫した仕方」のものであっても、その教義学は「教義学としては非学問的」なのである。したがってまた、バルトは、（『ルドルフ・ブルとマン』）においては、次のように述べている――ブルトマンは「神話的世界像と神話的人間像」は時代の経過とともに、「われわれの前から消え去ってしま」うし、われわれの「眼前存在」・現前性は「近代的な世界像、人間像」にあるから、「神話形式のままでは、新約聖書の言表」、すなわち「語られた内容の表現」は理解できないから、それは「非神話化されなければならない」、と語った（このような前期ハイデッガーの哲学原理に依拠したブルトマンに対して、ハイデッガー自身、「『今日まさにこのマールブルクでは、無理やり模造された敬虔さと結びついて、弁証法の見せかけがとくに肥大している』が、それよりは『むしろ無神論という安っぽい非難を受け入れた方がよい』、『いわゆる存在者レベルでの神への信仰は、結局のところ神を見失うことではなかろうか』」、と「揶揄」・批判した）、しかしバルトは、そのようなブルトマンに対して、「聖書註解者」は、「だれに対して」、「誠実と真実をささげるべきなのか？」、「責任的応答をなすべき」なのか？　「同時代の人たちの思考の前提に対してか？」、「そこから形成された理解の規準に対してか？」――否である、われわれは、十字架につけられ、復活したイエス・キリストにおける私たちの「実存という場所」において、私たちの「信仰より以前にも、信仰なしでも、……不信仰に抗して」も、私たちのために「生きて、われわれを支配」し、われわれを「愛し給う」イエス・キリストを、「認識し、持つことができることを示すということ以外の何が問題となるのだろうか？」、と語った。また、バルトは、『教会教義学　神の言葉�T／１・２』においては、次のように述べている――「哲学、歴史学、心理学等は、この神学的問題領域のどれにおいても、事実上、教会の自己疎外の増大以外のなにものにも役立ちはしなかった」、「神についての教会の語りの堕落と荒廃以外の何ものにも役立ちはしなかった」、またその場合、「哲学は哲学であることをやめ、歴史学は歴史学であることをやめる」、キリスト教哲学は「それが哲学であったなら、それはキリスト教的ではなかった」、また「それがキリスト教的であったなら、それは哲学ではなかった」、と。言い換えれば、「われわれが哲学的用語をつかうという事実にもかかわらず、神学は哲学的試みが終わるところから始まる」、すなわち起源的な第一の形態である神の言葉、「イエス・キリストの名」、客観的に存在している「啓示の実在そのもの」（具体的には、第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言のそれ、客観的に存在している啓示の「概念の実在」）をその宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とする神の言葉の第三の形態に属する全く人間的な教会の神学は、それも確かに理性的な知的営為ではあるが、「方法論的には、ほかの学問のもとで何も学ぶことはない」のである、と（『バルトとの対話』）。キリストにあっての「神の絶対性は、われわれに対して、（≪「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」イエス・キリストにおいて自己啓示された神は、われわれ人間によって≫）そのように括弧に入れられることを（≪すなわち、対象化され客体化された人間の自己意識・理性・思惟の類的本質であると認識され理解され規定されることを≫）決して許さないのである」。
　この「神ハ類ノ中ニ存在シ給ワナイ」という「認識的な絶対性の背後には」、この「認識的な絶対性が必然的に従わなければならない」、キリストにあっての「神の存在的な絶対性が立っている」。第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言に「絶対的」に信頼し固執し連帯したバルトのこの立場からは、自然神学的な「存在の類比」における思惟や語りはあり得ないのであって、自然神学的な段階を包括し止揚してその段階から超出した、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰（何故ならば、単一性・神性・永遠性を本質とするキリストにあっての神は、聖性・秘義性・隠蔽性において存在しており＜不把握性＞を本質としているからである）――すなわち、人間の言語を介した直観と概念を用いた人間が人間的に所有する人間の啓示認識・啓示信仰に依拠した啓示の類比・信仰の類比・関係の類比における思惟と語りがあり得るだけなのである。自由は「神ご自身においてのみ実在であり真理である」ということ、それ故に神は、人間の対自的であって対他的・自由な内面の無限性、自己意識・理性・思惟の無限性、類的機能、類的活動を含めて「神以外の一切のものとの関係において自由であり給うということ」――このことは、神が、「他の一切のものから区別され、それらに対して独立し自立してい給う」ということを、「しかも（≪対象化され客体化された人間の自己意識・理性・思惟の類的本質を含めて神以外の≫）他のいかなる本質」からも「無比な、卓越した仕方で区別され、独立し、自立してい給うということを、意味しているのである」。「神は、それら一切に対して、徹頭徹尾独立してい給う。すなわち、たとえそれらすべてが存在していないとしても、あるいは別様に存在するとしても、（≪神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての≫）神は同様に（≪神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての≫）神であり、（≪神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての≫）神以外の何ものでもあり給わない。（≪神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての≫）神は、それらとの無限の距離（≪質的差異≫）の中にあり給うのであって、……有限の距離（≪質的差異≫）の中にあり給うのではない」。したがって、「それらすべてが一つの存在を、その特定の存在を持つならば、それは、（≪神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての≫）神が、それらに（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）そのような存在を、神の自由の中で与え給うたからである」。言い換えれば、「それらが（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて≫）神に属し、また神がそれらに属し給うならば、この二重の所属性は、神の本質の必須条件ではない」。何故ならば、「神の本質は、それらが神に属しておらず、神がそれらに属し給わないとしても、同じである」からである、キリストにあっての神は、徹頭徹尾、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神だからである、神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての「神は神である」、常に神であり続けるからである。したがって、「神とそれらのものの間に関係と結びつきがあるとするならば、神は、この関係と結びつきの中ででも、それらのものに依存しない形で、現にあるところのものであり給う」、全き自由の三位一体の神の名――すなわち神の愛の行為の出来事としての神の存在、イエス・キリストの父（創造主、啓示者、隠蔽）、子としてのイエス・キリスト自身（和解主、啓示、顕現）、父と子の霊である聖霊（救済主、啓示されてあること、愛に基づく隠蔽・「言葉の語り手」・父と顕現・「語り手の言葉」・子の交わり）として、「現にあるところのものであり給う」。神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての神は、「その存在を、（≪神とは異なる≫）それらのものの存在と分有し給わない」、神とは異なる「それらのものの存在と一緒になって第三の種類の存在を構成するということを為し給わない」、神とは異なる「それらのものの存在とご自身を混同したり、取り違えることを為し給わない」、「ご自身を、それらのものの存在に変えることを為し給わない」。何故ならば、「それらの存在」は、「徹頭徹尾、神の存在によって制約されている」からである。神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての神が、神と人間とを架橋し給う、「関係と結びつきを造り出し、保ち給う」、その関係と結びつきを「支配し給う」。したがって、神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての「神は、この関係と結びつきがなくても、現にあるところのものであり給う」。神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての「神と他者との間の現に存在している一切の関係と結びつき」は、その「徹頭徹尾異なった二つの相手方同志の間で起こっており、その際その徹底的な相違性は、第二の相手方のいかなる自己規定も第一の相手方の規定を意味すること」ができないということ、「他方で、第一の相手方の自己規定は同時に、第二の相手方の自己規定を廃することはないが、しかし徹頭徹尾第二の相手方の自己規定に先立つ、主権的なあらかじめの規定であるということから成り立っている」、ちょうど先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり・「永遠の（神との人間の）和解」であり・神との間の「平和」（ローマ五・一）であり・それ故に神の認識可能性である聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の�~の第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおいて「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識に向かっての」、信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）に向かっての「人間の用意が存在する」ように、また「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異の下で「神は神である」（『ローマ書』）、「神の本質は、神の本質である」、「神の行為（≪の出来事≫）は、神の行為（≪の出来事≫）である」、「神が愛するということ（≪神が愛するという神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）は、神が愛するということ（≪神が愛するという神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）である、キリストにあっての神は、「人格として」、換言すれば「三神」、「三つの対象」、「三つの神的我（われ）」ではないところの、「失われない」単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の名、すなわち「失われない差異性」の中での三つの存在の仕方、その起源的な第一の存在の仕方としてのイエス・キリストの父――創造主（啓示者）、その第二の存在の仕方としての父が自分を自分から区別した子としてのイエス・キリスト自身――和解主（啓示）、その第三の存在の仕方としての愛に基づく父と子の交わりである聖霊――救済主（啓示されてあること）なる神として、「神のこの存在と行為の中で（≪すなわち、「父なる名の三位一体的特殊性」において自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の神の愛の行為の出来事としての神の存在の中で≫）、神は現にあるところの方であり給う」のであるから、われわれは、この先行する「神の存在を強調」することによって、後続する「その他の存在、その他の行為」、「またその他の愛する者、……その他の人格が存在する」と言わなければならないように。ここで、われわれは、「神話」――すなわち「いわゆる汎神論あるいはまた万有在神論の線上にある神についてのすべての表象と理念は、……直チニ、また決定的に脱落」しなければならない、と言わなければならない。神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての神は、「たとえ神が事実、他のものと一緒に存在される時にも」、神はこの「いかなる他のものとも一緒になって一つの全体を形成されることはない」。したがって、われわれは、神と人間との無限の質的差異に下で、キリストにあっての神と「宇宙との同一性という表象も」、また神と「宇宙を構成している一つの根本存在」（宇宙の根源・原理）との「同一性という表象も」――そのような表象からイオニアにおいて、（≪自然哲学という≫）西洋哲学の歴史が始まったのであるが――、また神と「生命力として宇宙を貫通しあるいは還流している世界精神あるいは世界理性」との「同一性という表象」も、また神と「宇宙の精神的実在の総内容」との「同一性という表象」も、「受け入れ難いものである」、と言わなければならない。このような「神と世界との……単に部分的な、いわば選択された同一性という神話」（万有在神論）は、「汎神論の神話よりもさらに悪質である」。何故ならば、それは、「キリスト教的神概念へと連れ戻すのに適しているかのように、（≪自然を原理としているそれか・精神を原理としているそれかは別として≫）観念論に対して余りに大きな優先権を与えたからである」。そのような訳で、「十九世紀の後半において」、万有在神論を主張する「粗野な……唯心論」者たちが、「すべての自然性から純化された」「精神、魂、理性」を代表する「神話的要素を選び」、それを「最高存在あるいは神性と同一視しようとした」ように、万有在神論を主張する「粗野な……唯物論」者たちは、「いわゆる（≪すべての精神性から純化された≫）質量、原子、あるいは他の宇宙の自然的側面を代表する神話的要素を選び」、それを「最高存在あるいは神性と同一視しようとした」のである。両者が、「この同一視を、汎神論と違ってただ部分的にだけあえてしようと欲した時」、「神は、（≪自然的要素、精神的要素の≫）選ばれた同一視を超えて他のものとも混同せざるを得なかった」。この両者は、「『粗野』な汎神論に対してそれほど非難することができる資格は持っていなかった」のである、何故ならば自ら「粗野」だったからである。神の言葉の第二の形態に属する聖書的啓示証言（起源的な第一の形態の神の言葉の具体的形態）は「絶対的な神について語っている。まさにそれ故にこそ、聖書は、誠実に、真剣に、神について語っている。まさにこのことこそが」、すなわちまさにこの聖書的啓示証言の中で起こっている出来事こそが、その聖書的啓示証言を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返しそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、イエス・キリストをのみ主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指す、第三の形態に属する全く人間的な「キリスト教会の中」において、「すべての偽りの神々に反対する証言として（≪聖書的啓示証言に「絶対的」に信頼し固執し連帯した教会の＜客観的＞な信仰告白および教義として≫）、同じように起こらなければならないこと」なのである。
　因みに、観念論か唯物論かという二元論的な問題の提起の仕方は、一面的固定的相対的抽象的形而上学的なそれでしかないのであって、思想的な問題は、自らの立場において、両者を包括し止揚しなければならないという点にあるのである、両者を架橋しなければならないという点にあるのである（それ故に、二元論や多元主義や折衷論や混淆論や混合論の容認にあるのではない）。吉本隆明は、人間の固有性について、「根源的にそして単純に答えられるべき」だとして、�@「脳髄が脳髄について考える」個体の内部過程と、�A「生理過程から、対象の形や色や全体像が構成され、＜この対象は茶碗だ＞とか＜この対象は森だ＞とか了解される」個体の知覚作用を例にとって次のように述べている――�@の認識が成立するためには、「生理（自然）過程」の「信号、反応、刺激、伝播」という「自体的な識知」・「生理過程の＜変容＞」と、脳髄が脳髄を生理過程の外部から認識する「対象的識知」の過程が必要である。�Aの認識が成立するためにも、まず「対象物から眼に到達する光作用」に対して、生理過程として網膜の背後にある「色彩」「明暗」「形態」を弁別できる諸神経の「刺激の継続と強弱」・「刺激の質量」の度合という「自体的な識知」・「生理過程の＜変容＞」と同時に、そうした「対象物からうけとる神経刺激」という生理過程の外部に出て、「対象物を全体的に構成」し「了解」する対象的認識の過程が必要である。これら�@と�Aにおける後者の対象的認識の過程は、生理（自然）過程にとっては絶対的な自己矛盾であるから、人間に固有な「心的領域」あるいは観念という概念を疎外する以外に、そのような自己矛盾を包括し止揚することはできない。ここで、疎外とは疎外の止揚である。したがって、「生理学が＜観念＞という概念と命名を拒否」しても、「＜観念＞という言葉でいいあらわされるものと、おなじ実体を想定せざるを得ない」のである。「人間は、対象を再構成し、了解するところまでやらなければ、対象物にたいして、どう行動するか、どう行動しないか」さえできない。このように、人間に固有な心的領域・観念という概念は、生理（自然）過程の絶対的な自己矛盾を止揚するために疎外されたものであるから、前述した例における人間と自然との普遍的で実践的な対象的活動は第一次的に唯物的である、ということができる。ここで自然とは、自然の一部である自己身体であり、性としての他者の身体であり、外界としての自然（天然自然、人間化された自然である人間的自然・非有機的身体）である。そして、そうしていったん疎外され生み出された観念は、その観念自体の自己展開過程と自己増殖過程（時間累積）を持つことになる。「人間の心的な過程が存在するためには、身体の存在は絶対的条件である。それにもかかわらず、人間の心的な過程の内容は必ずしも身体の存在の反映ではない」とは、このことである。マルクスが『資本論』「第１版の序文」で述べているように、科学・技術や生産様式の発達は、自然史の一部である人類史の自然史的過程における自然史的必然に属しているから、遅延させることはできても逆行させたり後退させたりすることはできない。この意味で、エコロジーの極限に想定される天然自然主義は錯誤でしかないものである。と同時に、人間存在の総体性にとっては、「経済的範疇というものもまた部分」にすぎず、科学主義における「科学が発達し、技術が発達し、未来が描けるというような考え方」は、部分でしかない科学を全体として錯誤するところにある。「社会の経済的な、あるいは生産的な、あるいは技術的な発達」に対して、情念や非感覚的部分や喜怒哀楽の感情は、それに伴って発達するわけではない。マルクスが、人類の歴史において、経済的範疇は「第一次的に重要なもの」である、「そしてその他のものはそれに影響される」と述べた時、観念領域・「幻想領域の問題は、そういう経済的範疇を扱う場合には大体捨象できるという前提」に立脚して述べているのである。したがって、マルクス自身は、経済決定論者ではないし、唯物主義者ではないし、観念諸形態の自己展開過程と自己増殖過程（時間累積）を否定したわけではないのである。そのことをマルクスは、ギリシャ古典芸術の「永遠の魅力」に言及しながら、「困難は、ギリシャの芸術や叙事詩がある社会的な発展形態とむすびついていることを理解する点にあるのではない。困難は、それらのものがわれわれにたいしてなお芸術的なたのしみをあたえ、しかもある点では規範としての、到達できない規範（≪人類史的成果、歴史的現存性≫）としての意義をもっているということを理解する点にある」と述べている。その認識と自覚の下で、人類は、経済的社会構成と観念諸形態において、歴史的段階に対応したさまざまな文明と文化の諸形態を持つ、と述べたのである。そして人類は、「人間のつくる観念と現実のすべての成果（それが＜良きもの＞であれ、＜悪しきもの＞であれ）を、不可避的に蓄積していくよりほかない」ものである。歴史的現存性とは、それが良きものであれ悪しきものであれ、人類がそれらを人類的成果として歴史的に蓄積させてきたものの現存性のことである。したがって、そうした不可避的な歴史的現存性のただ中に自分の意志とは無関係にある親の下に生誕した個体的自己としての人間は、そうした人類史的成果としての制度や社会を不可避に生きる以外にないのである。したがってまた、個体的自己としての人間の「意志、判断力、構想」が通用するのは「ただ半分だけ」であって、いったんそうした「現実に衝突してからは」、人は、「何々させられる」、「何々せざるをえない」、「何々するほかない」というように生きる以外にはないのであって、そのようにして個の現存性を刻んでいくのである。すなわち、人間の歴史は、「すべての個人としての＜人間＞が、或る日、＜人間＞はみな平等であることに目覚め、そういう倫理的規範にのっとって行為すれば、ユートピアが＜実現する＞という性質のものではないのである、ちょうど政治的解放は人間にとって事実的には上からのあるいは下からの構造改革に基づく過渡的緊急的部分的な法的政治的な観念的解放でしかなく、観念の共同性を本質とする国家の無化を伴う人間の究極的永続的総体的な社会的な現実的解放ではないように（『思想の規準をめぐって』、『行動の内部構造』、『共同幻想論』、マルクス『経済学批判序説』）。