本当のカール・バルトへ、そして本当のイエス・キリストの教会と教会教義学へ向かって

カール・バルト『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』吉永正義訳、新教出版社に基づく

『教会教義学　神論�T／２　六章　�~の現実（上）』「二十八節　自由の中で愛する方としての神の存在　二　愛する方としての神の存在」（４８−５５頁）

「二十八節　自由の中で愛する方としての神の存在　二　愛する方としての神の存在」（その４−２）
（４）自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の三位一体の「神が愛し給うということ」は、それが、「神の存在（≪神の行為の出来事としての神の存在≫）」、「本質」――三位一体の根本命題に即して理解すれば、「父なる名の内三位一体的特殊性」の中で「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊は、「父なる神と子なる神の愛の霊である」。この聖霊において、父と子、すなわち神的な対は、愛に基づく完全な共存的な関係・交わり、すなわち神的共同性において存在する。この交わり・関係の中で、（創造主としての）「父は子の父」、「言葉の語り手」、啓示者であり、（和解主としての）「子は父の子」、「語り手の言葉」、啓示であるところの業と働きであり、（救済主としての）聖霊は、「父ト子ヨリ出ズル御霊」、「父なる神と子なる神の愛の霊」、啓示されてあることであるところの業と働きである、すなわちそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」、キリスト教に固有な類・歴史性、その関係と構造・秩序性であるところの業と働きである、ここに神は愛である・愛は神である、神は愛し給うということの根拠がある、このように「愛は神にとって、最高の法則であり、最後的な実在」である、愛は、自由・主権がそうであるように、「神ご自身においてのみ実在であり真理」である――、「本性であること」――神は愛である・愛は神であるとういう本質からして本性的に神が愛するということ、神の存在は神の愛の行為の出来事としての神の存在であるということ――が、「確かである限り必然的であるが」、それ故に「それはまた、その対象（≪愛する対象としての「われわれと世界」≫）に対しては、すべての要求から自由である」、換言すればキリストにあっての神は、「神であるために、そのような（≪愛する対象としての「われわれと世界」、すなわち≫）他者を必要とする方ではない」のである。このような訳で、「父なる名の内三位一体的特殊性」の中で存在するキリストにあっての「神は、その啓示によれば、われわれと世界を愛し給う」方であるが、「われわれと世界を、……われわれなしでも、また世界なしにも、（≪神の存在、本質、本性からして≫）愛する者であるであろう方」である。したがって、「われわれが神に愛されるということ」は、あくまでも神の側の真実として、神の側から、「永遠から永遠にわたって神ご自身であり給う」その神の「永遠の愛の交わりの中へと取り上げられるということである」。しかし、キリストにあっての神は、「神であるために、……（≪愛する対象としての「われわれと世界」、すなわち≫）他者を必要とする方ではない」が故に、「そこではまさに、（≪神の側の真実として、神の側から≫）取り上げられるということが」、換言すれば「神の行為にとって、したがって神の存在にとって」、すなわち神の行為の出来事としての神の存在にとって、神ご自身が神の自由な恵みの決断により「取り上げ」るということが問題である（したがって、第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教、その思惟と語りが、キリスト教に固有な類・歴史性に信頼し固執し連帯した「正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項」なのであって、われわれ人間自身教会自身の自由事項・裁量事項・決定事項では決してないのである。それ故に、第三の形態に属する全く人間的な教会、その牧師、その神学者、その成員の宣教およびその一つの機能である教会教義学の在り方は、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの人間的態度に対し」て、あくまでも「神が応じて下さる」ということに基づいてのみ成立しているのである。したがって、日本基督教団立東京神学大の実践神学者の小泉健のように、神学者ルドルフ・ボーレンの「神律的相互関係」の概念に依拠して、「聖霊が説教者に言葉を与え、語ることへと導く。説教者は聖霊の言葉を伝え、聖霊の言葉に導く」、と「わがまま勝手に」、恣意的独善的に、人間自身教会自身が、聖霊や聖霊の言葉を実体化することはできないのである）。いずれにしても、神は、たとえ「神とは区別されたいかなる対象をも愛されないとしても、神（≪の存在、本質、本性≫）は全く……愛する者であり給う」のである。したがって、この神は、イエス・キリストにおける自己啓示（自己顕現）を通して、「自らそのような他者を愛することへと自己規定（≪・自己認識・自己理解≫）し給うということ」、それゆえに「そのことの中で神の愛は満ち溢れる」のであるがしかし、「そのことの中で神の愛が尽きてしまうのではなく、またそのことの中で神の愛が限界づけられたり、条件づけられるのでもない」のである。聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」「イエス・キリストにおける神の愛」は、「神自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一である」（『ローマ書』）。このキリストにあっての神は、「ご自身ですべてであることによって、……また、ただご自身のためだけにすべてであろうと欲し給わず、……他者（≪「われわれと世界」≫）のためにもすべてであることを欲し給う」。「われわれが、存在し、われわれが神の愛の対象であるならば」、このことは、徹頭徹尾「われわれは、（≪一切合切を≫）神に……負うているということ」であって、決して「神がわれわれに……何かを負うているとか、負うようになるということ」ではないのである。「神がわれわれを愛し給うならば」、すなわち神が、「われわれの非存在よりもわれわれの存在を選び取り」給うたならば、また「われわれが愛されないことよりもわれわれが愛されることを選び取り給うたならば」、「そのことは、われわれにとって永遠に奇しき神の動力学である」、愛し給う神の存在、本質、本性における神の愛に固有な自己運動である。したがって、このことは、キリストにあっての神の「恵み（≪の行為の出来事としての神の存在、神の存在としての神の恵みの行為の出来事≫）であって、自然ではない」のである。したがって、このことは、「神の行為と存在の全き投入の中で出来事となって起こることが確かである限り」、換言すれば神の愛の行為の出来事としての神の存在である限り・神の存在としての神の愛の行為の出来事である限り、われわれは、「神を、この出来事以外の場所（≪個体的自己としての全人間・全世界・全人類の完了・成就された究極的包括的総体的永遠的な救済・平和である、それ故に個体的自己としての全人間の生と生活の「根拠と希望」であるイエス・キリスト、インマヌエル、イエス・キリストの死と復活、啓示・和解の出来事以外の場所≫）で尋ね求め思惟すべきでない」のである。この時、われわれは、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、われわれ人間の時間・世を、「本来的な実在としての」イエス・キリストによって完了・「成就された時間」（使徒行伝１・３「キリスト復活の四十日」）・「新しい世」から「攻撃され」・「否定され」・「失われた非本来的な古い時間」・世として認識し自覚することができるのである、またわれわれは、「攻撃され」・「否定され」・「失われた非本来的な」われわれ人間の時間・世は、全き自由のキリストにあっての神が支配するところのキリストの復活における神の「勝利の行為」（神の勝利の行為の出来事としての神の存在）によって包括され止揚され克服されて「そこにある」ということを啓示認識し啓示信仰することができるのである、またわれわれは、その啓示認識・啓示信仰に依拠して、その勝利の行為は、「敗北者もまた依然としてそこにいるところの勝利の行為」であるということを啓示認識し啓示信仰することができるのである、われわれはまさに、「福音書の中ではすべてのことが受難の歴史に向かって進んでおり、しかもまた同様にすべてのことは受難の歴史を超えて甦り・復活の歴史に向かって進んでいる」ということを、すなわち「旧約（≪「神の裁きの啓示」・律法≫）から新約（≪「神の恵みの啓示」・福音≫）へのキリストの十字架でもって終わる古い世」は「復活」へと向かっているということを啓示認識し啓示信仰することができるのである。したがって、バルトは、『福音と律法』では、次のように述べているのである――「神は、神なき者がその状態から立ち返って生きるために、ただそのためにのみ彼の死を欲し給うのである……しかし誰がこのような答えを聞くであろうか。……承認するであろうか。……誰がこのような答えに屈服するであろうか。われわれのうち誰一人として、そのようなことはしない！　神の恩寵は、ここですでに、恩寵に対する（≪人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間、≫）われわれ（≪人間≫）の憎悪に出会う（≪なぜならば、われわれ人間は、神だけでなくわれわれ人間もという、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求を手放せないからである、換言すれば人間は、無神性・不信仰・真実の罪のただ中で存在しているからである、人間は「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」からである≫）。しかるに、この救いの答えをわれわれに代わって答え・人間の自主性と無神性を放棄し・人間は喪われたものであると告白し・己に逆らって神を正しとし、かくして神の恩寵を受け入れるということを、神の永遠の御言葉が（肉となり給うことによって、肉において服従を確証し給うことによって、またこの服従において刑罰を受け、かくて死に給うことによって）引き受けたということ――これが恩寵本来の業である。これこそ、イエス・キリストがその地上における全生涯にわたって、ことにその最後に当たって、我々のためになし給うたことである。彼は全く端的に、信じ給うたのである（原典ローマ三・二二、ガラテヤ二・一六等の「イエス・キリスト＜の＞信仰」の＜属格＞は、明らかに＜主格的＞属格として理解されるべきものである）」、すなわちこの＜属格＞を旧態依然として近代主義に、近代主義的プロテスタント主義的信仰・神学・教会の宣教に、自然神学に、自然的な信仰・神学・教会の宣教に全く以て都合のよい目的格的属格として理解し訳している旧来訳や新共同訳とは１８０度違って、イエス・キリストご自身が信じ給うた信仰として理解されるべきものである、「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（≪すなわち、先行するイエス・キリストが信じる信仰によって生きるのだということである。≫）（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない（≪なぜならば、われわれ人間は、神だけでなくわれわれ人間もという、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求を手放せないからである、換言すれば人間は、無神性・不信仰・真実の罪のただ中で存在しているからである、人間は「『自分の理性や力によっては』全く信じることができない」からである、このような訳でわれわれ人間の啓示認識・啓示信仰は、あくまでも神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、終末論的限界の下で、神の側からやって来るのである、すなわち神の側からやってくる恵みの賜物なのである≫）。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」・「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」。このような仕方で、キリストにあっての神は、「われわれの非存在よりもわれわれの存在を選び取り」、「われわれが愛されないことよりも、われわれが愛されることを選び取り給うた」のである。このような訳で、「われわれが事実まさにそのことを堅くとって離さないでいることが許される時」、そのこともまた「神の愛の満ち溢れに基づいているということ」である。このように、キリストにあっての「神の啓示の中で明らかとなるところの神とわれわれとの間の永遠の相互関係は、ただ神の中にだけ基づくものであって、決してわれわれ（≪人間≫）の中に基づいているのではない」のである。このことは、神に、「われわれが拘束されているということを意味しているのであって」、それゆえに神が、「われわれに拘束されるということを意味していない」のである。「それと共に、……（≪神と人間との無限の質的差異の下で、また自由・主権がそうであるように愛は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」――この全き自由の≫）神の愛の概念」は、われわれの「すべての一般的な愛の概念を、最高度に、また最後的に、粉砕し、凌駕するのである」。したがって、われわれは、われわれの「一般的な愛の概念に基づいて神の愛を定義してゆくことに対して用心しなければならない」のである、すなわちわれわれ人間による恣意的独善的嗜好的な神の愛の人間化に対して用心しなければならないのである。言い換えれば、われわれは、徹頭徹尾起源的な第一の形態の神の言葉（イエス・キリストの名、神の子、啓示・和解）に、具体的にはその第二の形態の直接的な最初の第一の神の言葉である聖書的啓示証言に感謝をもって信頼し固執し連帯しようとするならば、将来的にも通用し得る歴史哲学・世界認識の方法を明確に提起することもしないままに、また人間におけるあるいは人間の類におけるあるいはその時間性におけるその現在的課題（現在を止揚し克服する課題）やその過渡的究極的な課題を明確に提起することもしないままに、ただ人間自身教会自身が恣意的独善的嗜好的に対象化したに過ぎないさまざまな「存在者レベルでの神」（神の人間化あるいは人間の神化としての神、偶像）の名と呼びかけによる救いと平和の企てに基づいた「無思慮」な即事的場当たり的な社会的政治的実践（奉仕）に対して、「盲目的に」仕事へと没頭することに対して、また「人目をひくような簡素さと寡欲さに沈潜する」ことに対して、また「その時代の人間中の様々な敗残者に対して、熱心に博愛的配慮……教育的配慮を行う」ことに対して、また「大規模な世界改良の偉大な計画」に邁進することに対して、また「大衆や時代の傾向と手をたずさえて、ある種の正義」に邁進することに対して、またある特定の「国家的、政治的、経済的または道徳的な諸原理や理念」に加担することに対して、またある特定の「人種や民族」に加担することに対して、これが「神の愛」（神の存在、本質、本性）だと解釈されて行くことに用心しなければならないのである。しかし、そのように解釈している、例えば説教と社会的政治的実践・奉仕とか福音と社会的政治的実践・奉仕とか宣教Aと宣教Bとか二元主義的宣教論を展開している、日本基督教団等やカトリックの教会、その牧師、その神学者等は、次のことを全く認識し自覚していないのである――すなわち、西洋近代を「骨肉にまで受け入れた」現在の日本は、一方で西欧と同時代的に、「西欧の危機」、世界普遍性として流通していた西欧的なマルクシズム、思想、革命、人間、社会の概念の危機に陥っているということ、他方で人類史のアジア的段階という概念で括られる「思想的伝統、習慣、風俗、社会構成、文化を引きずって」いるということを、全く認識し自覚していないのである、それゆえに彼らは、このような二重の状況下に現存している身近な日本の一般大衆の現実的な解放の課題、現在的課題、すなわち現在を止揚し克服する課題（この課題を考えることは、アジア的段階の前の人類史の原型・母胎・母型である縄文的段階にまで時間を遡って考えることである）、個体的自己としての全人間の社会的な、すなわち現実的な究極的総体的永続的な解放の課題（この課題を考えることは、観念の共同性を本質とする法的政治的国家を無化することを考えることである）、その過渡的・究極的な課題について明確に提起しなければならないということを、全く認識し自覚していないのである、それゆえにまた、イエス・キリストを主・頭とするイエス・キリストの教会の宣教にとって、その思惟と語りにとって、すべての人々に「語らなければならない彼ら自身に関する真理」は、イエス・キリストにおいて「神がすでに為した」、完了・成就した「わたしの前にいるこの人々のために、キリストは死に、甦られた」――＜神、罪深きわれらと共にいます＞ということであるのだが、彼らは、その宣教、その思惟と語りにおいて、いまだにただ一面的固定的に抽象された政治的な道徳的な戦争責任（「第二次大戦下における日本基督教団の責任についての告白」にある「国を愛する故にこそ、キリスト者の良心的判断によって」という文言を参照）の呪縛から解放されていないのである、それを免罪符だと考えているのである、戦争責任の問題をいまだに聖書的にそして思想的に総括でき得ていないのである、それ故に身近な日本の一般大衆の生活的現実だけでなく、身近なアイヌの問題や南島の問題と天皇制的なものの相対化の問題とを引き寄せることができ得ていないのである、社会的政治的な現在的問題（この現在を止揚し克服する課題を考えることは、人類史の原型・母胎・原型にまで時間を遡って考えることである、それゆえに交換価値論ではなく贈与価値論について考えることである）、その過渡的究極的な課題、その究極的総体的永続的な課題（個体的自己としての全人間の社会的な、すなわち現実的な解放の問題、それ故に観念の共同性を本質とする法的政治的国家の無化の問題）を引き寄せることができ得ていないのである（例えば、身近な問題に引き寄せて論じた私の１２／２１付更新記事＜派遣社員に「突然来た契約終了の通告」を読んで思ったこと＞等参照）。
　バルトは、前述したような教会（ドイツだけの問題ではない）に対して、次のように述べている――（１）「（１９４８年に次のように書いている）六〇〇万人のユダヤ人が殺され……ありとあらゆる恐怖と困窮が人間を襲い、しかもすべてはちょうど風が……花の上を吹くように来て、また去って行った。……草や花は（≪戦争に加担したキリスト教会、その牧師、神学者、著述家たち等々は≫）しばらく身を曲げる。しかし風が静まれば、また（≪その牧師、神学者、著述家たち等々は≫）身を起こす。……ある近代劇（≪キリストにあっての神だけでなくわれわれ人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指す、総括的に言えば人間の神化あるいは神の人間化を志向し目指すそれ≫）」が『私たちはまた逃げおおせた』という言葉でこれを言い直しているように」（エーバハルト・ブッシュ『バルト神学入門』）・「（≪同じく第二次世界大戦後に次のように書いている≫）私は教会のなかに、破滅に急ぎつつあった一九三三年当時と同じ構造、党派（あるいは党派的多元主義）、支配的傾向を見出した」、「公然たる信条主義や教権主義、およびいろいろ賑やかな姿で現われている典礼主義への興味によってよびおこされた関心」を見出した、「私は、前よりももっと明瞭に人間――キリスト者もまた、そしてキリスト者こそ！――がもともと頑なであり、容易に悔改めに導かれえないということを認識したのである」（『バルト自伝』）、（２）「教会の存在と現状が、……（≪キリストの≫）福音から考え・行動し・処理されているということを語っていないならば、教会の説教も福音宣教も虚しいものとなるであろう。教会みずからが、……その行為と態度によって、自己の内なる政治をこの使信に合わせてゆくこと（≪イエス・キリストをのみ主・頭とすること、それ故に一切の観念の共同性を本質とする法的政治的支配を無化すること≫）を全然考えないとしたならば、どうして世は、王とその御国の使信を信ずるであろうか（『キリスト者共同体と市民共同体』）、「（中略）キリスト者は、政治生活において神の正義が人間によって誤認され・蹂躙される場合にも、（≪キリストにあっての≫）神の正義は、……天地の一切の力が与えられているイエスの苦しみのゆえに、優越しているということを確信している。悪しき矮小なピラトが、結局は無駄骨折をするというように、配慮がなされているのである。その場合、キリスト者が、どうして、ピラト（≪一切の観念の共同性を本質とする法的政治的な集団・法的政治的な共同性・国家、法的政治的近代国家≫）のともがらと成ることができようか」（『教義学要綱』）、（３）「私は、（≪聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯した≫）福音宣教から独立し、それと接触しない、『自己決定の権利』を国家（≪観念の共同性を本質とする法的政治的共同性・国家≫）に与えている、いまわしいルター派の教説をこれまで決して承認しようとはしなかった。（中略）私の神学的思惟は、神の主権と、キリスト教の使信全体の終末論的性格と、キリスト教会の唯一の課題としての（≪それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性に信頼し固執し連帯した≫）純粋な（≪キリストの≫）福音の宣教の強調に中心があり、またそれにこれまで中心をおいてきた。現実の人間を考慮しない（『神はすべてであって人間は無である！』）抽象的な超越神、現代にとっての意義を伴わない抽象的な終末の待望、この超越的な神にのみに専念し、深淵によって国家や社会から分離された同様に抽象的な教会――それらすべては、私の頭に存在したものではなくて、私の本を（≪理解できずに、あるいはパンネンベルクのように意識的にか無意識的にか曲解して≫）読んだ多くの人々の頭のなかに、また特に私についての評論をしたり、一冊の本を書いたりした人々（≪根本的包括的な原理的な誤謬に普遍性や組織性の後光をかぶせて語った神学者、牧師、著述家たち≫）の頭のなかにのみ存在していたのである（『バルト自伝』）。吉本隆明は、知識人として、自らの戦争体験を自省することによって得られた知識人の＜敗北＞の在り方を、「国家の政策を、知識人があらゆるこじつけを駆使して合理化し、それを大衆が知的に模倣し、行動では国家以上に国家を推進」し、支配（法的政治的権力）に直通していく大衆の存在様式を把握できなかった点においた。この体験思想を介した吉本の自立的知識人論は、次の点にある――（１）世界をトータルに把握できる「世界認識の方法」を持つことが必要である、（２）庶民が出征時に町内会の見送りを受けて「＜家＞からでてゆくとき、元気で御奉公してまいります」と挨拶する「紋切型」の重たさの意味を把握できる往還思想の構成が必要である、（３）「支配の制度」・システムがある限り、知識（人）の自立の根拠である思想にとっての普遍的な価値基準を、時代とともに変容する社会的存在の自然基底としての大衆原像（常民概念）に置くことが必要である、なぜならば、知識（人）は、この価値としての大衆原像から、一方通行的に、それゆえに知識・観念の頂から再び価値としての大衆原像（常民概念）にまで意識的に下降して行く還相過程を構造として持たずに、知識・観念の自然過程を知識的・観念的に上昇しその価値から逸脱していく知識・観念の往相過程に成立する概念だからである。このような訳で、知識（人）の自立的思想は、意識的に下降する知識・観念の還相過程において、価値としての大衆原像（常民概念）を、すなわち大衆の生活基盤である社会構成・支配構成・文明的文化的構成の時代水準を確定し、その時代水準によって変容していく大衆像と大衆的課題を、自らの知識・観念に繰り込み包括していくところに成立するのである。また、この時はじめて、知識・観念は、そのリアリティを獲得することができるのであり、反体制的でもあり得るのである。したがって、この知識・観念の＜往還＞は、大衆迎合や大衆同化や大衆啓蒙とは全く違う位相にあるものなのである、（４）現在的問題を、同時代的にある「西欧の危機」の問題を、すなわち現在を止揚し克服する課題を考えることは、アジア的段階の前の人類史の原型・母胎・母型（アフリカ的段階、縄文的段階、白人進出以前の二万年前から先住するところの征服併合された北米インディアン等）にまで時間を遡及して考えることである、交換価値論ではなく贈与価値論について考えることである、という方法を持たなければならない。このような訳で、ただ即事的場当たり的な日本基督教団やカトリックにおける社会的政治的実践（奉仕）は、本当は、既に、聖書的にはもちろんのこと、革命論的にも、１８０度の大転換を強いられているのである。論述を元に戻せば、「人がもしここで注意を怠るならば、その時、結果として神の非神化（≪神の人間化、人間の神化≫）が起こることを避けることは困難であろう」、なぜならばその場合、フォイエルバッハが『キリスト教の本質』で指摘しているように、「（中略）神の啓示の内容は、神としての神から発生したのではなくて、人間的理性や人間的欲求やによって規定された神から発生した……」ものでしかなくなるからである、それゆえにその「対象に即してもまた、『神学の秘密は人間学以外の何物でもない！』……」のである、換言すれば神学と人間学との混合学、すなわち自然神学、キリストにあっての神だけでなくわれわれ人間もという人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求を十分に混在させた自然的な信仰・神学・教会の宣教以外の何物でもなくなるからである、ちょうどすべての人々が純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すところの「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性に信頼し固執し連帯したキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え（このことが、純粋なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、キリストの福音における神の命令・要求・要請である、先行する神の愛の下でのあの「神への愛」と「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」である）と、それとは区別され独立した人間自身教会自身が対象化した救いと平和の企てによる社会的政治的実践・奉仕という二元論的宣教論は、あるいは福音と社会的政治的実践・奉仕という二元論的宣教論は、あるいは宣教Aと宣教Bという二元論的宣教論は、聖書的にはもちろんのこと、革命論的にも、恣意的独善的嗜好的な宣教論でしかないように。おそらくは彼らは、その時、「実際の生活にはなお多くのことが必要であって聖書は生きるために必要なことを言いつくしていない（≪近代主義的な思惟と語りが不足している、近代的な人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍、情報が不足している、具体的に人間を救う何かが不足している≫）と考え」、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる「聖書への絶対的信頼」、「信仰（≪「聖書への絶対的信頼」に基づく啓示認識・啓示信仰、イエス・キリストにおいて完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和という啓示認識・啓示信仰≫）を持っておらず、真に信仰によって生き」ようとしていないのである。したがってその時、彼らは、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求を、われわれの人間の「思想（≪フーコーが言うように「西欧哲学の時代の終焉である」現在、「時代を画する哲学者は一人もいない」し、世界普遍性を持った思想もないのであるが、それゆえに世界普遍性を持っていだろうと思い込まれている思想、例えば神学的世界について言えば時代状況が全く許さないから自然時空に死語化してしまったモルトマンの神学的三段階的進歩史観に対してそう思い込んでいる者たちがまだいるのである≫）、最高の習慣、最良の見解」を決して手放さそうとはしないのである。総括的に言えば、彼らは、バルトと違って、次のことを認識し自覚していないのである――「パウロはその時代の子としてその時代の人々に語った。けれどもこの事実よりはるかに重要な事柄は、いま一つの事実、すなわち彼は神の国の預言者ならびに使徒としてあらゆる時代のあらゆる人々に語っている、ということである」・「（≪起源的な第一の形態の神の言葉、啓示・和解、客観的な「啓示の実在」そのもの、神の子イエス・キリスト――この第二の形態の神の言葉、聖書的啓示証言、預言者および使徒たちの直接的な最初の第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、客観的な啓示の「概念の実在」である≫）聖書の精神は永遠の精神なのである。かつての重大問題は今日もなお重大問題であり、今日の重大問題で単なる偶然や気まぐれでない事柄は、またかつての重大問題と直結している」（『ローマ書』）。
　「ここで避けるべきことを、人は、アンゲルス・シレシウスの有名ないくつかの格言に照らして、その粗野な形で明らかにすることができる」。「敬虔な冒涜的な言葉が書かれている」が「ローマ・カトリックの司教の出版許可を得て出版」された『ケルビムのさすらい人』を著したアンゲルス・シレシウスは、その「避けるべきこと」に基づいて、すなわちフォイエルバッハのキリスト教批判の対象そのものである「人間の内的生活は、自分の類・自分の本質に対する関係における生活である。人間は思惟する、すなわち人間は会話をする、人間は自分自身と話をする。動物は自分以外の他の個体がいなければ類の機能をひとつもはたすことはできない、しかし人間は他人がいなくとも考えるとか話すとかという類的機能……を果たすことができる」し、「（中略）神の意識は人間の自己意識であり、神の認識は人間の自己認識である」ということに基づいて、すなわち神の人間化あるいは人間の神化に基づいて、「わたしは、神（≪神の意識、神の認識≫）がわたし（≪わたしの自己意識、わたしの自己認識≫）なしにはたちどころに生きることができなくなることを知っている。わたし（≪わたしの自己意識、自己認識≫）が無に帰するなら、神（≪神の意識、認識≫）も必ずや滅びなければならない」・「神が永遠の中で、熱望し欲求し給うこと、それを（≪その欲求を≫）神は神の似姿であるわたし（≪わたしの人間的な欲求≫）の中で見てとられる」・「（≪そのような≫）わたしと（≪そのような≫）あなた以外には何もない。もし（≪そのような相互規定的な≫）われわれ二人がいないならば（≪最後的にはそのようなわたしがいないならば≫）、神はもはや神でないし、天は天でくずれ落ちるであろう」と書いている。このように書いたアンゲルス・シレシウスは、「父なる名の内三位一体的特殊性」における内在的な神の愛を、すなわち自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の「神の愛」を、一般的な「人間の愛にとって……不可欠な」「他者との関係」性における愛へと「解消させてしまおうと欲」したのである。したがって、「人はこう問うことができるであろう」――すなわち、「出版許可」を出した「この司教は、頭が弱かったのか、それとも現代的なならず者とひそかに結託していたのであろうか」、と。A・E・ビーデルマンが「神の愛とは、『絶対的な世界の経過を外に措定してゆくために自分自身によって規定されていることであり、また絶対的な神が、そのことに対して、その根拠として、内在的であることであるという定義』」も、「疑わしいものである……」、ちょうど内在的である「絶対的な神」を根拠とした神の愛が、人間の、他在であって自在、すなわち自由を本質とする絶対精神（知の頂としての最高概念・学・哲学、時間性としての世界精神）の自己展開としての絶対的な世界を外在的に措定するということが「疑わしいものである」ように。「絶対的な神と絶対的な人間」を「『絶対的なもの』というしるしのもとで等置する」時、換言すれば神を「世界の経過として理解」し、「世界の経過」を神として理解する時、キリストにあっての「神の啓示の中で可視的な神の愛の現実性が、……看過され、忘れられる」ことになるのである、すなわち自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由の、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、起源的な第一の形態の神の言葉、イエス・キリストにおける神の愛、イエス・キリストの死と復活の行為の出来事としての神の存在、啓示・和解、イエス・キリストにおいて完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和、このような神の側の真実としてのみある、神の側からやって来る神の愛の現実性、神は愛し給うという神の存在、本質、本性の現実性が、「看過され、忘れられる」ことになるのである、すなわちその時には、「一般的な愛の概念」、「また自分自身の中で論難の余地がないわけではないヘーゲル的な愛の概念（≪神と人間との相互承認による和解の感情としての愛の概念≫）」の陥穽に陥ることになるのである。このような訳で、A・E・ビーデルマンの定義は「疑わしいものである……」。したがって、次のようなE・ベールの定義も、「神に対して適用されるならば（≪すなわち、それが神と人間との無限の質的差異を恣意的独善的に止揚し後景へと退けてしまったところでのそれであるならば≫）、疑わしいものである……」――「ベールは言う、愛とは、『ひとつの存在が他の存在に向かって心を傾け、切望し、欲求することである。換言すれば、ひとつの人格（≪神≫）が、他の人格（≪人間≫）の中へと移り行こうとするあるいは他の人格（≪人間≫）を自分自身（≪神≫）の中へ取り上げようとする望み（≪両者を混淆・混合・混在させようとする望み≫）を持って、自分自身から外へ出て行くことである（≪自分自身を贈り与えることである≫）』」。しかし、このように言うベールも、「その他の点では」、次のように「正しく見、また語っ」ている――すなわち、神と人間との無限の質的差異を認識し自覚したところで、「神の人格がわれわれの人格へと移行することあるいはわれわれの人格が神の人格へと移行することと結びつけられていないということ、また神がご自身に対して忠実であり続けるということによってわれわれを愛し給うということ、また神はまさにわれわれを愛し給うということの中でこそご自身に対して最も忠実であり続け給うということ」――このような愛こそが、「神の愛、……われわれすべての概念（≪われわれ人間のすべての「一般的な愛の概念」≫）を超えた真実の愛である」。また、H・クレーマーが「われわれは永遠に神の愛の対象である。……全く……ただわれわれのためにだけ、永遠にご自身意志し、自分自身であるということが、自分をわれわれに告げ知らせる神の本質である」と述べている時、「次のことがよく注意されなければならない」。すなわち、神は、「われわれをご自身のみ子の中で愛されたし、また現に愛し給い、愛されるであろうということ」、「神は、われわれを愛する時、ご自身をわれわれに贈り与えられたし、贈り与え給うということ、しかもまさにこの愛することが、神の最も固有な存在（≪固有な神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）と本質（≪「父なる名の内三位一体的特殊性」において、「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊は、「父なる神と子なる神の愛の霊である」、それゆえにこの聖霊において、父と子は、愛に基づく完全な共存的関係・交わり・神的な共同性において存在している。ここに、本質的に本性的に神は愛である・愛は神であるということ、神は愛し給うということの根拠がある≫）であることによって、完全にご自身を贈り与え給うということ」――このことは、「いくらはっきりと見、また強調しても十分過ぎることはないということである」。われわれが「神の愛」について語ろうとするならば、「われわれに対する神の愛の中での神の存在の完全性」は、すなわち神の愛の行為の出来事としての神の存在の完全性は、その神の「愛に固有」な自己「運動」（内在的な、神は愛である・愛は神である、神は愛し給うという神の存在、本質、本性における神の愛に固有な自己運動）であるということについて語らなければならないということである。「その際、あくまで事情は次のようであり続けなければならない」――すなわち、それは、「神は、すべての人々に命と息とその他すべてのものとを与え」、それゆえに神は「神であるために、人の手によって仕えられる必要のない方（使徒行伝一七・二五）であり、あらゆる良い贈り物、あらゆる完全な賜物が上から下ってくる光の父（ヤコブ一・一七）であり、また祝福に満ちたただひとりの力ある方（�Tテモテ六・一五）であり、その方の言葉はそれ故に『祝福に満ちた神の栄光の福音』として理解されることを欲しているということである」。このような訳で、「昔の神学」は、「まさにこれらの聖書の言葉を念頭に置いて」、「ただ単に愛についてだけでなく、……それを超えて、神の祝福に満ちた姿」、すなわち「神が何モ乏シイモノガナク、スベテノヨキモノノ充実デ楽シミ、ゴ自身ノ中デ安ラギ給ウ祝福サレタ姿」について「強調しつつ語ったのである」、「ナゼナラバ、ゴ自身ヲ通シテ、ソノモトモトノ性質カラシテ、常ニスベテノ悪カラ自由デ、常ニスベテノヨキモノヲアフレ出サセ、常ニコノゴ自身ノ幸福ヲ完全ニ知り、常ニ自足シ、ゴ自身で満チ足リ、常ニ満足シ、ワレワレノ何モノヲモ欲シ求メ給ワズ（ここで好んで詩篇五〇・七以下が思い出された）ゴ自身以外ノ何モノモ熱望サレナイカラデアル」（ポラーヌス）。「既にアウグスティヌス」は、「神の愛」が「神とは違ったほかのものを対象として持っている限り」、「（受身的に）享受スル」「われわれの愛」と「（積極的に）喜ぶ」「神の愛」（「タダ神ノ善意ト関連シテイル」「ワレワレニ関シテ神ガ喜ビ給ウト言ワレルアノ喜ブコトハ、神ゴ自身ノ益ノタメデハナク、タダワレワレノ益ノタメデアル」ところの神の愛）とを区別している。「『至福は行為ノ中ニアル』（ポラーヌス）。しかし、「その神の行為は神の愛である。そのことがわれわれなしでも神の（≪内在的な≫）本質である限り、すなわち至福を「神がただご自身のためだけでなく、神がそれをご自身のために持たれることによって、またわれわれとの交わりの中ででも持とうと欲し給う同じ」神の（≪内在的な≫）本質である限り、「それが神の至福である」。この「神の愛の至福」は、神の愛の行為の出来事としての神の存在の中にある。この内在的な「神の本質」の、それゆえに「神の愛の完全性」の「満ち溢れの中でこそ」、神は、「われわれに対して身を向けつつ、神の愛の中で、神の愛と共に」、「またこの至福をわれわれに贈り与えようと欲し給うのである」。この「神の愛の至福」は、「神が父・子・聖霊であり、そのような方としてわれわれを愛し給うということ、すなわちわれわれの創造者、和解者、救済者として、……まさにそのような方として愛そのものであり、永遠に愛し給う方であるということ」に基づいている。このことが、われわれ人間に対して、われわれ人間の「すべての考えを越えた神の愛の秘義」、「その他のすべての愛から区別された」神の愛、それゆえにその他の「すべての愛を限りなく凌駕する神の神性」を想起させるのである。言い換えれば、われわれが、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてイエス・キリストにおける「神の啓示の中での神の存在と関わるようになる時」、すなわちイエス・キリストにおける神の自己啓示の中での神の愛の行為の出来事としての神の存在と関わるようになる時、われわれは、あの「ひとつの真実な愛」について「その他のすべての愛はただ証しすることができるだけであり、しかもその証は自分からするのではなく」、すなわち人間に内在する「証明能力によってするのではなく」、われわれ人間の「被造物的な愛」が、イエス・キリストにおける神の自己啓示の中で、神の言葉自身の出来事に自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、あの「ひとつの真実な愛と直面させられ、われわれ被造物として愛する者」が、あの「神的なひとつの真実な愛の対象として要求されることに基づいて証しすることができるだけである真実な愛と関わるようになるということ」を想起することができるのである。このような訳で、われわれ人間の「被造物的な愛」は、先行する神の愛の下でのあの後続する「神への愛」とその「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」――すなわち、すべての人々が純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えとは区別され独立した二元論的なあるいは二元主義的なあるいは混合主義的あるいは混在主義的な即事的場当たり的な社会的政治的実践（奉仕）にはないのである、そうした宣教論は、ちょうど「哲学、歴史学、心理学等」が、教会の「神学的問題領域のどれにおいても、事実上、教会の自己疎外の増大以外のなにものにも役立ちはしなかった」ように、また「神についての教会の語りの堕落と荒廃以外の何ものにも役立ちはしなかった」ように、またその場合「哲学は哲学であることをやめ、歴史学は歴史学であることをやめ」たように、またキリスト教哲学は「それが哲学であったなら、それはキリスト教的ではなかった」し・「それがキリスト教的であったなら、それは哲学ではなかった」ように、必然的にそのようになってしまうのである（『教会教義学　神の言葉�T／１・２』）。思想の往還に依拠した親鸞も、そうした宣教論を批判して、次のように述べている（かつて論じた「吉本隆明の親鸞論」参照）――「聖道の慈悲」（往相浄土）は困窮する者を「不憫におもい、悲しみ、助けてやることである。けれども思うように助けおおせることは、きわめて稀なことである」。この往相過程における救済は、相対的・部分的であって、緊急的過渡的な救済でしかないから、一切の衆生を究極的総体的永続的な救済に導くことはできない。したがって、自分が現に身近に接している「食物の飢え」で困窮している具体的な一人の人や一部の人を施しや奉仕によって相対的・部分的に救済しようとする課題は、往相的な緊急過渡的課題に属しているのである。それに対して、「浄土の慈悲」（還相浄土）は、「念仏をとなえて、いちずに仏に成って、大慈大悲心をもって思うがまま自在に、衆生をたすけ益することを意味するはずである」――この阿弥陀仏の側の真実にのみ信頼し固執すれば、一切の衆生の究極的総体的永続的な救済は可能となるだろう。したがって、当時の庶民像や庶民的課題を繰り込みながら辿り着いた親鸞の三願転入・選択本願による救いは、次のように理解することができる。ア）その救済が確実かどうかは「総じてもて存知せざるなり」とか、その信仰を「面々の御計なり」と述べて、往相的な信の上昇過程へ向かう宗教（知識・観念）の相対化をしたのである、換言すれば信と不信の枠組みを取り 除き、両者を架橋したのである、イ）多念仏ではなく一念仏でもよいという思想に辿り着いた、 ウ）宗教者・聖職者・知識人・善人・警察官・弁護士・裁判官・医者・教師・誰であろうと、現実的な戦争とか愛憎問題とか利害対立とかの不可避な「機縁」さえあれば、自分が意志しなくとも、人一人だけでなく多数の人を殺し得るという究極的観点（還相的観点）において、自己欺瞞に満ちた市民的観点・市民的常識（往相的観点）から超出した、エ）往還思想を構成した、換言すれば「称名をとなえ至心に信心」できず、「即座に救われ浄土へ往」けない、あるいはこの現世に多くの未練や執着があって速やかに浄土へ往きたいと思えないし・思わない庶民的現実と庶民的課題とを自らの浄土教理（知識・観念）に繰り込んで、一念義によっても救済されるという思想を構成した、すなわち還相的な課題は、偶然に出会った個別の衆生を助けるという往相的な相対的・部分的な、過渡的緊急的な救済にはないのであって、煩悩や生老病死等々で困窮し疲弊する「一切の衆生」の救済という還相的な究極的総体的永続的な救済にあるという思想を構成したのである。このように、親鸞は、天災・ 飢餓・病気・餓死・煩悩等々で苦悩し疲弊する「一切の衆生」の究極的総体的永続的な救済の課題に対して、一方通行的に知識・観念の自然過程を上昇していく往相的な宗教的学問的知識的言葉ではなく、その知識・観念の自然過程を意識的に下降して行くところに想定される還相的な思想の言葉で答えていくことを眼目としたのである。したがって、親鸞は、「善」の自覚よりも「悪」の自覚の方が阿弥陀仏による救済に近づきやすいように、「知」よりも「愚」（「南無阿弥陀仏」の称名念仏）の方が阿弥陀仏による衆生の究極的総体的永続的な救済に近づきやすいというように、意識的に自覚的に、往相的な知識・観念の自然過程から下降することによって、還相的に思想したのである。いずれにしても、「われわれが哲学的用語（≪あるいは経済的、法的、政治的、道徳的等々の概念≫）をつかうという事実にもかかわらず、神学は哲学的（≪等々の≫）試みが終わるところから始まる」のであり、神学も理性的な知的営為ではあるが、「神学は、方法論的には、ほかの学問のもとで何も学ぶことはない」のである（『バルトとの対話』）。
　このような訳で、聖書的啓示証言におけるわれわれ人間の「被造物的な愛」は、次のように言うことができる。すなわち、あくまでも、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてイエス・キリストにおける「神の啓示の中での神の存在（≪神の愛の行為の出来事としての神の存在≫）と関わるようになる時」、第三の形態に属する全く人間的な教会（その牧師、その神学者、その成員）は、あの「神的なひとつの真実な愛の対象として要求されること」、すなわち先行する神の愛の下で、起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言におけるそれ）を、その宣教・その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、神の言葉に対する奉仕としての他律的な服従と自律的な服従との同在性・同時性において、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音・純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」に根拠づけられた「神の賛美」としての「隣人愛」――キリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請、すなわちすべての人々がキリストにあっての「神の愛の至福」・純粋なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝えを、すなわちわれわれ人間の「被造物的な愛」を志向し目指すのである、換言すればイエス・キリストを主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指すのである、と。神は愛である・愛は神である、「神は愛し給う」――これが、神の「本質、本性」、「神の存在の特別な現実性」、「神の行為あるいは神の生……の内容である」、神の愛の行為の出来事としての神の存在の内容である、イエス・キリストの父（創造主）、子としてのイエス・キリスト自身（和解主）、父と子の霊である聖霊（救済主）という三位一体の「神の名の啓示の中で明らか」にされている「神の本質である」。