『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 一 行為の中での神の存在」（その３－３）
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 一 行為の中での神の存在」（その３－３）（２３－３３頁）
「一 行為の中での神の存在」（その３－３）
「神の行為」、神の存在の仕方（性質、業と行為）は、人間的な精神や人間的な自然との無限の質的差異の下で、「ただ（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」。もしもそうでないならば、「実際の、本来的な、まことにそう呼ばれるべき（≪創造、和解、救済という≫）神の行為の歴史はないことになる」、「出来事および決断としての神の決議もなければ、神の業もない」ことになる、「啓示もなければ和解もないことになる」、「父からのみ子の永遠的な出生もなければ、永遠にわたって聖霊が父および子から出ずるということもない」ことになる、聖書的啓示証言における全き自由の「神の内的な生」――すなわち聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である「父なる名の内三位一体的特殊性」もないことになる（換言すれば、その存在の本質は単一性にあるからその起源的な第一の存在の仕方である父は子として「自分を自分から区別」するし自己啓示する神として自分自身が根源であり、その区別された第二の存在の仕方である子は父が根源であり、愛に基づく父と子の交わりである第三の存在の仕方である「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊は父と子が根源であるという全き自由における内在的な三位一体の神は存在しないことになる、「失われない差異性」、三つの存在の仕方、性質、業と行為において「三度別様」に父、子、聖霊である神の存在、神の行為の出来事としての神の存在は、その本質を「失われない単一性」に持つという内在的な三位一体の神は存在しないことになる）、「それらすべてのことは結局例えであり、比喩であり、非本来的なことであって、それらに対して本来的なこと」は、「ただ形態のない、動きのない」、われわれ人間が対象化し客体化したところの「霊の実体化」、「霊の存在だけ」であるということになる、すなわちそれらすべてのことは、対象化され客体化されたわれわれ人間の自由な精神の無限性（≪ヘーゲルの哲学原理――「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異を止揚し後景へと退けた人間の自己還帰する対自的で対他的・他在であって自在・自由な絶対精神、神の人間化あるいは人間の神化≫）であるということになる、ちょうどルドルフ・ボーレンの「神律的相互関係」の概念に依拠した日本基督教団立東京神学大学の実践神学者の小泉健が、神の言葉自身の出来事の自己運動を、人間の精神の特性に依拠して「わがまま勝手に」恣意的独善的に、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」という事柄を後景へと退けてしまって、「聖霊が説教者に言葉を与え、語ることへと導く。説教者は聖霊の言葉を伝え、聖霊の言葉に導く」と聖霊や聖霊の言葉を実体化させたように。このような訳で、われわれは、自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返すのか、それともその段階を聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯することで包括し止揚して＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に移行していくのかというその分岐点において、「神的存在」について、「いわゆる『純粋な精神的な』解釈に組することはできないということを主張する」のである。
前述したことの明確化の後で、聖性・秘義性・隠蔽性において存在にする単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、すなわちイエス・キリストにおける神の自己「啓示の中での、また永遠にわたっての神の出来事、行為、生命の特別な自由」は、神と人間との無限の質的差異の下で神的な「自然と感覚世界」を包摂した神的な「精神の自由であるということである」。したがって、その自由は、「自然の出来事の偶然性あるいは必然性ではないし、法則性あるいは運命性でもない」のである。したがってまた、その自由は、そのことを「知り、意志し、自分自身を自分自身でないものから区別し、自分自身でないものを自分自身から区別し、自然を自由に処理して行く＜われ＞の自由である」、すなわちその自由は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」、自己還帰する神的な精神の対自的で対他的、他在であって自在、全き自由である。したがって、バルトは、『ヘーゲル』で、神と人間との無限の質的差異を止揚し後景へと退けてしまう「ヘーゲルの哲学的手法」におけるその神・啓示は、「肉であって、それゆえに神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を持っていない」われわれ人間自身の、それゆえにまた「不信仰で罪に穢れた」われわれ人間自身の自由な自己意識・理性・思惟の類的活動の無限性が「捕えた虜囚」でしかないものであるから、「受け入れ難く耐え難い」と語ったのであり、そして「受け入れ難く耐え難い」「最も重大でかつ決定的なもの」は、神の人間化あるいは人間の神化という「人間の自己運動を神のそれと取り違えるという混淆」、「神の自由を認識していないという事態」にあると語ったのであり、そしてまたこの「ヘーゲルの強力な痕跡」は、「シュライエルマッハー以外の他の人々（≪例えばブルトマン、モルトマン、ルドルフ・ボーレン、大木英夫、滝沢克己、八木誠一等、日本基督教団やカトリック教会等の教派の主張、社会的あるいは政治的な言説と実践等々≫）の所でも」すぐに見出すことができると語ったのである。神の「神的な出来事、行為、生命の特殊性」は、「人格の存在（≪その存在の仕方、その行為の出来事としての存在≫）の特殊性」である、すなわち神のその第二の存在の仕方の特殊性である、すなわちその「出来事の総内容は、神の言葉が肉となった（≪その第二の存在の仕方におけるその言葉の受肉であって、その本質の受肉、すなわちその神性の受肉ではない≫）ということ、そして神の霊がすべての肉の上に注がれるということから成り立っている」、それゆえに「われわれが出来事として神の存在について語る時」、すなわち神の存在を神の行為の出来事として語る時、われわれは、神のその第二の存在の仕方、「行動、……行為について語っている」のである、「聖書に従えば」イエス・キリストにおける神の自己「啓示の中でのすべての出来事の先端は、……神がわれとして語り、また語りかけられた汝によって聞かれるということ（≪神語り給う故に神語り給うことを聞くということ≫）から成り立っている」、換言すればそれは、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」・「啓示と信仰の奇蹟」・客観的な啓示の出来事とその出来事の中での主観的側面である聖霊の注ぎによる信仰の出来事（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰から成り立っている。「この出来事の中で、（≪客観的な可視的な、神的な≫）自然と感覚世界は、疑いもなく、下位に立つ奉仕する構成要素、換言すれば自分自身の故にではなく、ただそれの関連性と機能の中でだけ重要な、そのようにして確かに必要な構成要素である」、ちょうど神の側からやって来る、神の側の真実としてある、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉（第二の存在の仕方）の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての、客観的な可視的な対象として・必然性不可避性として存在している「神の言葉の三＜形態＞」（キリスト教に固有な類・歴史性）、その関係と構造・秩序性のように。このような訳で、神的な「精神と自然、内的なことと外的なこと、精神とからだを、ここで簡単に均衡状態に置き、……（≪二元論的にあるいは二元主義的に≫）ひっくり返すことのできる関係として取り扱おうとするところの実在論は、偽りの実在論である」。言い換えれば、イエス・キリストにおける神の自己「啓示そのものの中では、疑いもなく（≪神的な≫）精神が問題である。……ただ（≪神的な≫）精神の故にだけ、それからまた（≪神的な≫）自然が問題である」、その啓示の内容の故に、その啓示を内容とする啓示の形式、形態が問題である、ちょうどあの純粋なキリストの福音、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」の連環と循環における律法は、純粋なキリストの福音を内容とする福音の形式であるように。したがって、「F・C・エティンガーの『神の道の終わりは肉体性である』という言葉」は、「ただ……『＜また＞肉体性＜でも＞ある』」、すなわち「肉体性」は精神の「下位に立つ奉仕する構成要素」であると「あえて読むことによってだけ耐えられるもの」であって、それ自体としては「内容的には危険な誇張した言い方」なのである。
このような訳で、われわれは、イエス・キリストにおける神の自己「啓示の出来事に対応しつつ」、一方では「偽りの観念論」を、他方では「偽りの実在論」を「かなぐり捨てることによって」、「神の存在」を、すなわち神の行為の出来事としての神の存在を、「『人格における存在』（≪その存在の仕方、業と行為≫）として理解しなければならない」のである。このことで以て、「決して」、模範的な「人格化された存在が意味されている」のではなく（なぜならば、イエス・キリストは単一性・神性・永遠性を本質とする神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの、まことの神にしてまことの人間であるから）、「その人格（≪その存在の仕方、業と行為≫）の実在の中で、すべての存在の充実を自分自身の中で実現し、統合している存在が意味されている」のである、換言すれば神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの、まことの神にしてまことの人間イエス・キリストの中で、人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間、すなわち自主性・自己主張・自己義認を欲求する人間、それ故に「神の恩寵を嫌悪し回避」するわれわれ＜すべて＞の人間のために・＜すべて＞の人間に代わって＜すべて＞の人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を「ただ一回なし遂げ給うた」（律法の成就）出来事としての神の存在が、その神の行為の出来事としての神の存在が意味されているのである、個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和そのものとしての神の存在が、その神の行為の出来事としての神の存在が意味されているのである。このことは、「人格（≪第二の存在の仕方、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の自己顕現、「まさに顕サレタ神こそが隠サレタ神」≫）の中で」、それゆえに神的な「精神と自然のその単一性の中でのことであり」、「この単一性の中で、その精神性にふさわしい優位性の中で、その自然性にふさわしい下位性の中」で、「＜それ＞ではなく、……また被造物的な人格のような＜彼＞（≪例えば近代的個人≫）でもなく」、「本来（そのようにしてまた本来的な認識にとっても）常に（≪「神ご自身においてのみ実在であり真理である」、自己還帰する対自的で対他的・他在であって自在・全き自由の≫）＜われ＞であることによってのことである」。「われわれは、これらの定式的な言い方で以て、（父および子より出ずる）聖霊の単一性（≪換言すれば、三位一体の神の第三の存在の仕方である「父ト子ヨリ出ずる御霊」・聖霊は単一性・神性・永遠性を本質とするということ≫）の中での父および子としての神の三位一体的存在……を解釈する……」のである。「そのようなものとしての、その全体性の中でのこの存在が、神の存在、神性の本質であり」、それゆえに「この神性についてさらに何が語られようと、それはあくまでこの存在の定義として理解されなければならない……」のである、それゆえにまた「この存在の定義を念頭において、ヨハネ福音書四・二四のあの有名な定義、『神は霊である』が理解されなければならない」。したがって、「正統主義の教義学で普通なされている定義、神ハ自主独立ノ霊デアル、あるいは自ラ存在スル霊デアル等々」の定義が、神の三位一体的存在の全体性の一部分を形而上学一面的固定的に抽象した定義ではなく、換言すれば「三神」、「三つの対象」、「三つの神的我」を「念頭において語られた」定義ではなく、前述したように「（父および子より出ずる）聖霊の単一性の中での父および子としての神の三位一体的存在」を、その「全体性」を「念頭において語られた」定義である場合に限ってだけ、われわれは「それらの定義に賛成することができる……」のである。
したがって、「イエスは別段自分を超人間的存在として自覚していたわけではなく、『人の子』語句でもって人間存在の根底を語り続けた」「ただの人であり、ただの人として自らを自覚し、ただの人の真実のあり方を告げた」と、その単一性・神性・永遠性を本質とする神的存在を止揚し後景へと退けてしまって、またさらにはその第二の存在の仕方の神の子性、啓示・和解性、起源的な第一の形態の神の言葉性、客観的な「啓示の実在」性を止揚し後景へと退けてしまって、ただ単にその人間的側面だけを形而上学的一面的固定的に抽象した八木誠一の『イエス』におけるイエスは、『現代思想１１ 一九七五年』「＜新約聖書をどうとらえるか＞吉本隆明／八木誠一」で吉本隆明が「だけど今の八木さんの説明では、……あらゆる認識が、もし自分自身の体験、それから自分自身の資質というか、そういうものを全部根こそぎ動員して、認識と言うものを追究していくと出てくる問題と、あまり違わない」・「それ宗教（≪信仰≫）と関係あるかな、ということですね。やはり納得できるように思いません」と疑義を投げかけたように、その最初から自然神学、すなわち人間学的神学あるいは哲学的神学を志向し目指したものなのである。八木の師匠とも言える、「もはやいかなるキリスト者も、『聖書』や『イエス・キリスト』という名を記憶している人たちさえも、もはやこの地上のどこにも残っていないとしても、それでもなお、『神われらとともに』という事実（≪「根本的事実」、「インマヌエルの事実」≫）にわたしたちが堅く結びつけられているということそのことは、神において永遠に決定されていることなのだ」（これが、滝沢の哲学的神学あるいは人間学的神学の原理である――『カール・バルト研究』）ということを主張したバルトに師事し人類史のアジア的段階における自然を内面の原理とする西田哲学や天台本覚論を、またヘーゲル運動論やマルクス自然哲学を媒介したような滝沢克己も、その最初から自然神学を志向し目指したのである。聖書的啓示証言でイエス・キリストにおいて自己啓示された神は、「失われない差異性の中」で三つの「存在の仕方」（性質、働き、業、行為、行動）において「三度別様」に父、子、聖霊なる神であって、その存在は「失われない」単一性・神性・永遠性を本質とする「一神」、「一人の同一なる神」である・したがって、「三神」、「三の対象」、「三つの神的我」ではなく、父、子、聖霊の三つの存在の仕方の、単一性・神性・永遠性を存在の本質とする「一人の同一なる神」、すなわち「三位一体」の神なのである（『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』）、バルトは、この「三度別様」の「三つ」を、「他との関係なしにそれ自身で存在している」近代的な「個体」と区別させるために、「人格の名で呼ぶことを避け」て、「存在の仕方」、「存在の様態」とも呼んだのである（エーバハルト・ブッシュ『バルト神学入門』）。
われわれは、一方で「偽りの観念論」を、他方で「偽りの実在論」を「かなぐり捨てることによって」、「神が、このように（≪神的な≫）精神であるということ自体について、……特に強調しなければならない」。言い換えれば、われわれは、「神の存在」、神の行為の出来事としての神の存在は、「自分自身で知り、意志し、区別する存在」、自分自身で自己認識・自己理解・自己規定する存在、「神の行為（≪その存在の仕方≫）から成り立っていることによって」、「自分自身を通して動かされた存在である」ということを、すなわち自己還帰する対自的で対他的・他在であって自在・全き自由の存在であるということを強調しなければならない。このような訳で、「神の存在」、「（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」神の行為の出来事としての神の存在は、「抽象的に見られた自然の存在からも、抽象的に把握された精神の存在（≪停滞と循環を繰り返すだけの自然を自由に享受するためには、「生ける自然としては」、自然の一部である個体的自己としての全人間は、その自然を、身体・肉体と精神・意識を介した普遍的で実践的な全自然との相互規定的な対象的活動を行うことによって、全自然を人間化する以外にはない。抽象的に把握された精神の存在、「動きのない」「総内容、法則、理念」は、身体を座とする精神において、換言すれば身体を座とする観念において、「個体から個体へのその関係」において時間累積していくという仕方でだけ「動きを持つ」ことができる、「思想は物質ではなく外化された観念であるから」、その「観念の運動」は、観念によって根本的包括的に原理的に止揚し克服していくという仕方でだけ、観念によって否定的に媒介するという仕方でだけ、未来に生きる仕方で時間累積させていくことができる≫）からも区別される」のである。それらに対して、「われわれが（≪「きょうも、きのうも、いつまでも変わることがない」イエス・キリストにおける≫）神の啓示からして知るところの神の存在」、「（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」神の行為の出来事としての神の存在、神の三位一体的存在は、その「全体性」「それ自身の中で動いている、またそのようにして動かしていく存在である」。聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の起源的な第一の存在の仕方である「父なる名の内三位一体的特殊性」において、父は子として「自分を自分から区別」するし自己啓示する神として自分自身が根源であり、その区別された子は父が根源であり、愛に基づく父と子の交わりである「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊は父と子が根源であるのだが、この神は、子（その第二の存在の仕方、業と行為）の中で「創造主として、われわれの父」として自己啓示、自己顕現する。このように自己認識・自己理解・自己規定した三位一体の神は、その第二の存在の仕方における、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で人間が人間的に所有する人間の言語を介した人間の直観と概念を用いた信仰の認識としての神認識を、啓示認識・啓示信仰を与えるところの、「それ自身の中で動いている、またそのようにして動かしていく存在である」。したがって、『カール・バルト教会教義学 和解論Ⅰ／１ 和解論の対象と問題』に引き寄せて言えば、単一性・神性・永遠性を本質とするイエス・キリストにおける「『神われらと共に』という言葉」、「キリスト教使信の中心」は、その全き自由の動きそれ自体において、すなわち第三の形態に属する全く人間的な教会共同性・教団共同性のような「狭い共同体」から「その事実をまだ知らぬ」「すべての他の人々」「広い共同体」に向かってのその神の言葉自身の出来事の自己運動において、その現にあるがままの不信、非キリスト者（教）、非知、個体的自己としての全人間・全世界・全人類に対して完全に開かれているのである。「ここのところからして」、形而上学的一面的固定的に抽象された「抽象的な自然観」あるいは「抽象的な精神概念」を「万物の尺度」（「神」）とする、動きのない「自然主義的あるいは精神主義的な理神論の……もろもろの主張」、それに接近した「神秘主義的な汎神論の主張」における対象的なあるいは非対象的な「最高存在」あるいは「まことの存在」あるいは「超世界性」は、「不可能となる」のである。「神の存在」は、「出来事である」ということ、すなわち「神の行為（≪第二の存在の仕方≫）の出来事であるということ」――「この神の存在」は、「ただ単に動かされた存在であるというだけでなく、自分自身を通して動かされた存在である……」、すなわちそれは、「それ自身の中で動いている」、また「動かしていく存在である」。それに対して、「具体的な自然＜観＞と具体的な精神＜概念＞、すなわち自然の、また精神の動かされている存在についての知識」の運動の場所は、その知的世界の外・「第三の場所」にあるのだが、それは、前述したように自然や精神を対象的に了解する、「認識する、意志する、評価する、行為する」、時間化するところのわれわれ「人間である」、われわれ人間の観念過程である。ここにわれわれ人間が具体的に把握した「生ける自然、生ける精神が存在する」。「このわれわれの働きの中で、……精神が先行し自然が後に従い、精神が主体であり自然が客体であり、自然が質量を形成し精神が形相を形成する」という人間学的哲学的な「特有な秩序づけ」が行われる。しかし、聖書的啓示証言における「その中で神が人間の主としてわれわれに出会い給う」イエス・キリストにおける神の自己啓示を通して、「神の存在」を、「（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」神の行為の出来事としての神の存在を、人間のそのような働き（≪観念作用、自己意識の構造としてある空間的な自己意識と時間的な自己意識あるいは自己関係づけの自己意識と自己抽象づけの自己意識、自己対象了解と自然対象了解、思惟に思惟を重ねて具体的普遍の頂へと高次化する思惟、最後的には学、哲学≫）と混同したり、等置したりすることは禁じられ、阻止されている」のである。なぜならば、神は神であるから、神と人間との無限の質的差異の下で、神は、このようなわれわれ人間の観念作用の中で、「われわれを通して動かされた存在……ではあり給わない」からである。したがって、「神の存在」、神の行為の出来事としての神の存在は、「ただ単に動きのない自然、また動きのない精神に対してばかりでなく」、われわれ人間の観念作用における「われわれの動かされ、動かしてゆく存在に対しても」、「自分自身を通して動かされたひとつの唯一の存在として相対して立っている」のである。人は、人間の観念作用の無限性において、人間の自由な自己意識・理性・思惟の類的活動の無限性において、「人間についての言説を、最も深い形而上学的な背景の前に置くことができる。しかし、人は、その時、キリストにあっての「神とは違った」、キリストにあっての「神と対立している『人間』」、すなわちキリストにあっての神だけでなくそれとは独立した幻想としての「高貴」な人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求をかなぐり捨てることができない「『罪深い人間』のことを語」っているのである。なぜならば、聖書的啓示証言によれば、すなわちイエス・キリストにおける神の自己「啓示に従えば」、われわれ人間が「自分自身を過度に高めつつ、自分自身の活動の中に（≪自ずと自然神学的な知識的世界を知的に上昇していく観念の＜自然＞過程の中に、また反体制的体制主義において、すなわち上からの・支配の側からの構造改革主義に対して下からの構造改革主義に過剰な価値性を置いて社会的あるいは政治的な実践に邁進することの中に、総括的に言えば人間自身の不信仰・無神性・真実の罪としての自主性・自己主張・自己義認の欲求の中に≫）、神の存在を、「（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」神の行為の出来事としての神の存在を見て取り力を奮わしめることができると考えるところのもの……こそが、罪深い人間であるからである」。したがって、バルトは、カントについて、「神のことを、純粋理性の限界と目標の必然的に要請されるべき理念として、また実践理性の立法者および保証人の同じように必然的に前提されるべき理念として定義した時に、……人間について（人間の理性能力の本性の深みについて）力強く……語ったということ以外に何を為したのであろうか」と述べたのであるが、そのバルトは、同じように、『カント』では、自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教に対する根本的包括的な原理的な批判を念頭において、次のように述べたのである――「宗教とは、すべての神崇拝の本質的なものが＜人間の道徳性＞にあるとするような信仰である」とした「カントは、本源的であるゆえに、すでに前もってわれわれの理性に内在している神概念の再想起としての神認識という点で、アウグスティヌスの教説と一致する」。この時、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』にある人類史の原型・母型・母胎である縄文期における内在的精神を残していたアイヌ人について述べた「わが西洋の大都会に何千という堕落した大衆がいる――彼らはキリスト教徒として生れ、洗礼を受け、クリスチャン・ネーム名をもらい、最後には聖なる墓地に葬られるが、アイヌ人の方がずっと高度で、ずっとりっぱな生活を送っている」・「明治期の日本人たちを『見て感じるのは堕落しているという印象である』・アイヌ人は、雨宿りを頼むと、どんな貧乏な家でも、一番よい席を提供してくれる・アイヌ人には互いに殺し合う激しい争乱の伝統がない、すなわち、軍事部門を立ち上げようとする意志、国家形成の意志をもたない・アイヌ人は善悪・道徳の観念、高度な宗教をもたないが、誠実、高貴、立派な生活を送っている、総体として「アイヌ人は純潔であり、他人に対して親切であり、正直で崇敬の念が厚く、老人に対して思いやりがある」という言葉は意味深く響いてくるのである。また、神と人間との無限の質的差異を止揚し後景へと退けた、神の人間化あるいは人間の神化を哲学原理とするヘーゲルは、「神を、永遠に自分のもとにあり、永遠に自分自身から発出し、自分自身の中で、また自分自身の外で、存在しつつ永遠に同一のものところの（≪自己還帰する他在であって自在・全き自由の≫）絶対精神の過程として記述した時、そのことは、確かにわれわれ自身の中に基礎づけられた、われわれ自身から発している、またわれわれ自身のところに戻って来る（≪自己還帰する≫）自然と精神の運動の力強い意味深い記述である」が、「しかしまさにそれ故にこそ、決して神の記述ではないのである」、換言すればヘーゲルは、西洋近代を人類史の頂点としたところで、また自己への信頼としての「自信自恃の哲学」、「人間の時代の哲学」、人間中心主義において、神と人間との無限の質的差異を止揚し後景へと退けたところで、人間の自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由な精神（絶対精神）を発見し認識し自覚したのである、それゆえにまた「人間の自己運動を神のそれとを……混淆」したのである、聖書的啓示証言における「神の自由を認識」し自覚しなかったのである。また、「神をわれわれの絶対依存の意識の由来として、それと共にただ単にすべての宗教の根拠としてだけでなく、……われわれの自己意識全体の彼岸的な根拠として、われわれの認識し行為する現実存在の秘義に満ちた中心として記述した」ところの「ヘーゲルの強力な痕跡」を持ったシュライエルマッハーは、「特別な神概念など必要とせず」、それゆえにその「信仰論」は、「自分自身の中で動いているキリスト教的――宗教的な自己意識の純粋な記述」、すなわち「自分自身の歴史」と「現在の解釈」を表現しようとする「自己表現としての宣教」、自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指すそれであったのである。また、われわれは、「神理念の実践的な、宗教的・倫理的な意味づけを目指した」A・リッチュルの「『世界の中に、世界の上に』（！）います神は、『それが自然からの妨害に対して人間の精神的な自己意識を保ってくれるが故に、人間が尊重する』力である」という言葉をそのまま鵜呑みにしたり模倣したりする時には、換言すればその思惟と語りから対象的になって距離を取ることができない時には、「小難を免れて、大難に出会う」ことになるのである。「宗教においては、……『人間が、自然の世界の一部として、しかもまた世界を支配するという主張をかかげる精神的人格として、身を置いている』矛盾の解決が問題である」・「キリスト教は最高の宗教として、人間に対して、最高善を獲得するよう定められた精神的な人格的存在として自分自身を確実に評価すると共に、また世界をまとまった『全体』として評価するよう取り持つ」・このようにして「キリスト教的神理念（≪キリストにあっての神から独立したところで、リッチュル自身が恣意的独善的に対象化し客体化したキリスト教的神理念≫）は、あの自己意識とこのわれわれ世界観との間の『理念的なきずな』である」――この自然神学的な思惟と語りをそのまま鵜呑みにしたり模倣したりする時には、換言すればこの自然神学的な思惟と語りから対象的になって距離を取ることができない時には、われわれは、「小難を免れて、大難に出会う」ことになるのである。
全き自由の「神の存在」は、「出来事である」ということ、すなわち「（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」「神の行為（≪第二の存在の仕方≫）の出来事であるということ」――「この神の存在」は、「それ自身を通して動かされた存在として」、神の第二の存在の仕方（業と行為）であるまことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおける神の自己「啓示の中で出来事として起こっており、啓示を通して惹き起こされた（≪神的な≫）自然と（≪神的な≫）精神の（≪自己≫）運動」として「理解されるということに……よってもってかかっている」ということに「人はよく注意せよ」。したがって、イエス・キリストにおける神の自己「啓示は、その権威と信頼に値する性質を、（≪徹頭徹尾、常に、≫）すべての人間的な基礎づけの彼岸（≪・外≫）において、それ自身の中に基礎づけられている」のである。したがってまた、「神の命令、神の恵み、神の約束」は、神の側の真実としてのみあるが故に、すなわち徹頭徹尾、常に、「人間的な力あるいは弱さ」の彼岸・外にあるが故に、神と人間との無限の質的差異の下で「比べものがないほど力強い」のである。神の側の真実としてのみある神の第二の存在の仕方における「神の業は、……われわれの業に拘束されておらず……それ自身の在り方の中で、われわれの業に先行し、また（≪第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として≫）後に続くが故に、勝利に満ちたものである」。このように、「人間に対する神の権利と人間と結ばれた契約の中での神の真実は、それらを確証するためにはただ神ご自身を必要としているだけ」なのである。バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、次のように述べている――「最も単純な形」において「神の啓示の実在を問う」問いに対する「新約聖書の答え」、すなわち聖書的啓示証言における答えは、「永遠なる神性」を存在の本質とする「まことの神」にして「まことの人間」「イエス・キリストの名」（神の第二の存在の仕方、神の子、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの）だけである・三位一体の根本命題に即して理解すれば、イエス・キリストのその存在は単一性・神性・永遠性を本質としているから、「啓示の出来事においてはじめて神の子」、「神の言葉」となるのではなく、「父を啓示するもの」、そして「われわれを父と和解させるもの」として、「イエス・キリストは神の子」、起源的な第一の形態の神の言葉、神の第二の存在の仕方なのである・したがって、このキリストの神性は、「啓示および和解におけるキリストの行為（≪存在の仕方≫）の中で認識」することができるのである（それ故に、このイエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」、すなわち「イエス・キリストの名」、「第二の存在の仕方」、その業と行為において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性の認識と信仰、啓示認識・啓示信仰を要求する啓示なのである）・このような訳で、その啓示と和解（第二の存在の仕方、業と行為、性質）が「キリストの神性」の根拠ではなくて、単一性・神性・永遠性を本質とするイエス・キリストのその「神性」が「啓示と和解を生じさせる」のである・すなわち、ここに一切合財があるのであって、「赦す神」はたとえその人がまことの人間であっても人間に内在することは決してないのである・このイエス・キリストが、すなわちそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉（具体的には第二の形態のその直接的な最初の第一の聖書的啓示証言）が、第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教、その思惟と語り、その＜客観的＞な信仰告白および教義における原理・規準・法廷・審判者・支配者であり、それゆえに「一切の思惟、洞察、解釈、省察の前提」である・したがって、第三の形態に属する全く人間的な教会の「教義」は、われわれに対して「人間的な教育的な威厳」はあるとしても、決して「いかなる神的な威厳」も持ってはいないのである。全き自由の「神の存在」は、「出来事である」ということ、すなわち「（≪神的な≫）精神と（≪神的な≫）自然の単一性の中でだけ出来事となって起こる」「神の行為（≪第二の存在の仕方≫）の出来事であるということ」――このことは、「われわれが、神の存在について語る時に」、イエス・キリストにおける神の自己「啓示以外のところに視線を向けようと欲しないとした」ならば、すなわちキリストの啓示にのみ信頼し固執し連帯するとしたならば、「神の存在は、（≪全き自由の≫神ご自身の、意識的な、意志され、実現された決断であるということを意味」するのである。したがって、「それは、われわれが自分の現実存在を実現してゆく際に為す決断から独立したもの」、すなわちそれは、徹頭徹尾、常に、われわれ人間の決断の彼岸・外にあるものである、すなわちそれは、「永遠の中で一度ですべてにわたって力を奮う仕方で、またわれわれの時間の各瞬間ごとに新たに実現され」、それゆえに「常にそのような神的存在でないところのものに対して完結した、自分を完結させてゆく現実として相対して立っている」のである。言い換えれば、その第二の存在の仕方におけるイエス・キリストにおける神の自己啓示は、神の側の真実として、それ故に客観的現実性として、永遠的実在として、人間の「神の恩寵への嫌悪と回避」に対する神の答えである刑罰（死）を「唯一回なし遂げ給うた」律法の成就を、完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和を、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証しの力を、神の言葉自身の出来事の自己運動を、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」を、それに基づく終末論的限界の下での信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の授与を、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事であるそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」（キリスト教に固有な類・歴史性）を、その関係と構造・秩序性を持っているのである。「この自己運動の中での（≪単一性・神性・永遠性を本質とするその第二の存在の仕方における出来事としての三位一体の≫）神の存在」は、「＜神的＞精神である」。しかし、それはまた、「＜神的＞自然（≪その存在の本質である神性の受肉ではなく、第二の存在の仕方における言葉の受肉、身体化におけるそれ≫）である」。このような訳で、「いかなるそのほかの存在も、徹頭徹尾」、「その行為の中にあるわけではない」し、「それ自身の、意識的な、意志され、実現された決断ではない」のである、それ故に「ただ罪の幻想の中でだけ」、「人間は、自分自身に対して、あるいは自分自身の投射としての世界の総内容（≪人間の身体と精神を介した普遍的で実践的な全自然との相互規定的な対象的活動において対象化された人間的自然、人間化された自然、人類史的成果≫）に対して、そのような存在を帰することができる」だけである。しかし、そのような人間に対して、神が、イエス・キリストにおける神の自己「啓示の中で出会い給う時、彼のその幻想は破壊され、人間から、全世界から、そのような存在」は「否定」されてしまうのである。なぜならば、人間、個としての人間、類としての人間、人間の時間、その現存性、その歴史性は、聖書的啓示証言において「失われた非本来的な古い時間」・世、「『失われた』時間」・世、「否定された時間」・世、「否定的判決の時間」・世であり、「イエス・キリストにおける啓示の時間」（「実在の成就された時間」、「本来的な実在としてのイエス・キリストの新しい時間」、「新しい世」）から「『攻撃』された時間」・世だからである。バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、次のように述べている――イエス・キリストが、われわれ人間に対して、聖書およびその聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯した教会の宣教を通して「同時的となる時と所」、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて「『神われらと共に』が神ご自身によってわれわれに語られるところ」においては、（１）「われわれは神の支配のもとに入る」ことを、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において承認し確認するのである、（２）「世、歴史、社会を、その中でキリストが生まれ、死に、甦られたところの世、歴史、社会」として、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において承認し確認するのである、「自然の光の中でではなく、恵みの光の中で、それ自身で閉じられ、かくまわれた世俗性は存在せず、ただ神の言葉、福音、神の要求、判定、祝福によって問いに付され、ただ暫時的にだけ、ただ限界の中でだけ、それ自身の法則性とそれ自身の神々に委ねられた世俗性があるだけである」ことを、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において承認し確認するのである。言い換えれば、神の側の真実としてのみあるイエス・キリストにおける神の自己啓示は、われわれ人間が、（１）われわれ人間の、その類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡せ、また「この（≪われわれ人間の≫）世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、（≪われわれ人間の≫）世俗的真理をも正直に受け取ることができる」場所なのである、（２）われわれ人間の自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教における福音が、「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞にすぎ」ない「神秘主義へと変わって行く」ことが見渡せる場所なのである。このように、われわれ人間が、もしもあの神の言葉の出来事の自己運動、すなわち神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられるイエス・キリストにおける神の自己「啓示の中で人間に出会う裁きと恵みを（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において≫）承認するならば、人間はそのような存在を」、すなわち「自分自身で知り、意志し、区別する存在」を、自分自身で自己認識・自己理解・自己規定する存在を、「自分自身を通して動かされた存在」を、自己還帰する対自的で対他的・他在であって自在・全き自由の存在を、近代的個人としての人格ではないところの「人格（第二の存在の仕方、業と行為）における存在」（行為の出来事としての存在）を、「神にのみ帰」するのである。したがって、われわれは、「自分自身の、意識的な、意志され、実現された決断の中での存在」である「人格的存在」を、「厳格に本来的に受け取るならば」、「ただ（≪神の行為の出来事としての≫）神の存在」においてだけ「理解」するのである、それ故にイエス・キリストにおける神の自己啓示を通した「父、子、聖霊の存在の仕方の中での神の存在」においてだけ「理解」するのである。したがって、「起源的に、本来的に、そのような神の存在……の外にあるそのほかどの存在も、今述べた意味での存在、人格存在ではない」のである。したがってまた、「そのような神の存在……の外にあるそのほかどの存在も、ただ副次的な意味で、ただその恵み深い創造と保持に基づいてだけ（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の中でだけ≫）、そのような存在、人格存在である」のである。すなわち、このことは、「神が罪人をご自身と和解させ給う恵み深い和解を通して条件づけられ、その未来的な救済を念頭に置いてのことであり、またこれらすべては、ただ神の言葉と啓示を通してだけ（≪あの「啓示と信仰の出来事」に基づいてだけ≫）認識」することができるのである。このような訳で、「人間が本来的に人格的存在であるのではなく、神が本来的に人格的存在であり給う。神が非本来的な人格的存在であるのではなく、われわれ（≪人間≫）が（≪例えば私利・私意を精神とする近代市民社会の近代的な個人として≫）非本来的な人格的存在である」。すなわち、イエス・キリストにおいて自己啓示された三位一体の「神が、その行為（≪存在の仕方≫）の中で存在し給う」、その「神がご自身の決断であり給う」、その「神が自分自身から、自分自身を通して、生き給う」。
「神が何であり給うかについてのすべての言明、あるいは神はどのようであり給うかについてのすべての説明は、あらゆる事情の下で、神がその行為と決断の中で何であり、どのようであり給うかということを述べ説明しなければならない」。したがって、われわれは、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」（聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方）において、その神の存在の本質である単一性・神性・永遠性を認識し信仰しなければならない、あの神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてそのように信仰の認識としての神認識を、啓示認識・啓示信仰をしなければならない。言い換えれば、われわれは、イエス・キリストにおける神の自己「啓示の中で、神は生き給う」・「神は存在し給う」という「事実によってとらえられることに基づいて」、すなわち神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において、「神は生き給う」・「神は存在し給う」という「事実を把握することができるのである」。このことでもって、「神は生き給う」・「神は存在し給う」という「事実は、ただ単に最高の生、ただ単に無比な生であるだけでなく、むしろ起源的、本来的に、ただ一つの唯一の生であるということが言われている」のである――「最モ本来的ナ仕方デハタダ神ダケガ生キテイルト言ワレルコトガデキル」。したがって、われわれが、「その創造に基づき、イエス・キリストの甦りに基づく希望の中で生命を持つとするならば、このわれわれが生きるということは、神が生き給うということと決して混同されてはならない」のである――「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）。（中略）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」・「人間の人間的存在がわれわれの人間的存在である限りは、われわれは一切の人間的存在の終極として、老衰・病院・戦場・墓場・腐敗ないし塵灰以外には、何も眼前に見ないのであるが、しかしそれと同時に、人間的存在がイエス・キリストの人間的存在である限りは、われわれがそれと同様に確実に、否、それよりもはるかに確実に、甦りと永遠の生命以外の何ものも眼前にみないということ――これが神の恩寵である」（『福音と律法』）。このような訳で、「神についてのさらに引き続いてのすべての言明の正当性」は、「その言明が、生ける神についての言明であることによって」、「神は生き給う」・「神は存在し給う」ということと「われわれが生きる」ということとの「混同を中止し」、「神の生命とわれわれの生命の間」のそのような「等置と対立を回避する……ということによってもってかかっている」のである。総括的に言えば、その「言明の正当性」は、神と人間との無限の質的差異の一貫した認識と自覚の下での言明にあるのである。言い換えれば、その「言明の正当性」は、その「すべての言明」が、常に神は神であり続けるから、全き自由の「神は、ただその行為（≪存在の仕方≫）の中で、現にあるものであり給うが故に、ただその行為（≪存在の仕方≫）の中でだけ見出されるべきであるということに（≪われわれが≫）拘束され続ける時に、自ずと起こる」のである。言い換えれば、「われわれは、まさに神の行為（≪存在の仕方≫）の中でこそ（≪神の行為の出来事としての≫）神の存在と関わらなければならないが故に」、「すべてのわれわれの思想が、神の行為を通して捕らえられ続けるならば（≪神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に捕らえられ続けるならば≫）、それ故に神の言葉に対する奉仕としての他律的な服従と自律的な服従との同在性・同時性におけるそれであるならば、それ故にまたそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの（具体的には第二の形態の聖書的啓示証言におけるそれ、客観的な啓示の「概念の実在」）を、そのすべての思想における原理・規準・法廷・審判者・支配者として、絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、純粋なキリストの福音を、純粋なキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」というその連環と循環に捕らえられ続けるならば、「その時は、われわれの思想は誤りに陥ること」はないし、それゆえにそのわれわれの思想は、「おおっぴらにあるいはひそかに（≪自己表現としての自然的な信仰・神学・教会の宣教を志向し目指す≫）われわれ自身についての思想となることはあり得ない」のである。「神はその啓示の中で」、すなわち聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、神の子、起源的な第一の形態の神の言葉、啓示・和解、客観的な「啓示の実在」そのもの、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストの中で、「現にあるところの方であり給う」。言い換えれば、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト、客観的な「啓示の実在」そのもの、具体的にはその第二の形態の神の言葉――すなわちイエス・キリストによって直接的に唯一回的特別に召され任命された預言者および使徒たちのその人間性と共に神性を賦与され装備された直接的な最初の第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」、聖書的啓示証言におけるイエス・キリスト、客観的な啓示の「概念の実在」の中で、「現にあるところの方であり給う」、それ故にこの神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」、すなわち客観的な啓示の出来事とその出来事の中での主観的側面である聖霊の注ぎによるに信仰の出来事（聖霊の注ぎによる人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の中で、「現にあるところの方であり給う」。