『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 一 行為の中での神の存在」（その３－２）
『教会教義学 神論Ⅰ／２ 六章 神の現実（上）』「二十八節 自由の中で愛する方としての神の存在 一 行為の中での神の存在」（その３－２）（１３－２２頁）
「一 行為の中での神の存在」（その３－２）
前回、われわれは、次のことについて語った――すなわち、「教会の宣教」、それゆえにその一つの機能としての「教会教義学」は、「そのすべての部分、さらにそのこまかい小部分において」、その「簡単で、総括的な課題の前」で、「その問いと答え全体をもって、そのすべての聖書的、歴史的主張をもって、そのすべての形式的、内容的な考察、探究、総括をもって、先ず第一に、また最後的に、全体として、また個々の点にわたって」、「神は存在し給う」、「まさに神がいます、ということ以外のことを言おうと欲することはできない」、ということを語った。われわれは、「神をして神たらしめるところのもの、神の自我性と本来性、神のエッセンティアあるいは『本質』」――「そのようなものに」、「神がわれわれに対し、（≪その存在の仕方において≫）主として、また救い主として行動し給うところで出会う……」。聖書的啓示証言の本来的テーマは、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方である「子なる神」、すなわち「キリストの神性」を問う問いの中に、「父を問う問い」と「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊を問う問いとが包括されている点にある。この神は、イエス・キリストにおいて、インマヌエル――「神われらと共にいます」という第二の存在の仕方において、顕現、自己啓示した。このことは、「自己を覆い隠す」、隠蔽性、「聖性」としての三位一体の神が、その起源的な第一の存在の仕方において子（その第二の存在の仕方）として「自分を自分から区別」したことを意味する。したがって、このイエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」、その第二の存在の仕方において、その存在と本質の認識と信仰を要求する啓示なのである。このように、その第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおいて自己啓示する神は、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神」なのである。このような訳で、「それとしての（≪その第二の存在の仕方であるイエス・キリストにあっての≫）神の啓示の行為そのもの」は、?キリストにあっての神が、「まさにご自分をまことの存在として」、「人間に対して、彼らの困窮の克服として、彼らの闇の中での光として」、「まさにほかならぬ自分自身を、聖霊を通してみ子の中で（≪あの神の言葉自身の出来事の運動、神のその都度の自由な恵みの決断による客観的な啓示の出来事とその出来事の中での主観的側面である聖霊の注ぎによる信仰の出来事、すなわち人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において≫）父をお与えになったということを含んでいる」、②「自分自身からはただ倒錯した道を進むことができるだけである罪人としての人間」が、「まことの存在（≪聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神のイエス・キリストにおける自己啓示の中での、すなわち神の子、その第二の存在の仕方、その業と行為、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのものの中での、また永遠にわたっての、父――神の起源的な第一の存在の仕方、子――神の第二の存在の仕方、聖霊――神の第三の存在の仕方、としての存在≫）を問う問いに対して答えようとするすべての自分自身の（≪すなわち人間自身教会自身の恣意的独善的嗜好的な≫）試みから呼び戻され、この事柄において神ご自身によって与えられた答えに拘束されるということを含んでいる（≪すなわち、第三の形態に属する全く人間的な教会のその牧師・その神学者・その成員は、その宣教・その教義学・その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者であるところの、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの、具体的にはその第二の形態の直接的な最初の第一の聖書的啓示証言、客観的な啓示の「概念の実在」に拘束されるということを含んでいる）」、③「人間が、神の言葉を通して聖霊の中で（≪あの神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、それゆえに≫）、すべてのそのほかの信頼なしに、何ものによっても打ち負かされることのない信頼をもって」、「人間に……その生命の泉として、慰めおよび命令として、人間および万物を支配する力として、出会い給うところの方を存在者たらしめるということを含んでいる（≪すなわち、あの神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる、人間が人間的に所有する人間の言語を介した直観と概念を用いた信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰において存在者たらしめるということを含んでいる。「人は、次のことに注意せよ」――すなわち、ここでの認識・信仰、すなわち「存在者たらしめるということ」は、徹頭徹尾、神の側からのみやってくるということ、それゆえに徹頭徹尾、第三の形態に属する全く人間的な教会、その牧師、その神学者、その成員における宣教、その思惟と語りが、「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項」なのであって、われわれ人間自身教会自身の決定事項では決してないということに、それゆえにまたフォイエルバッハやマルクスやハイデッガーが根本的包括的に原理的に批判した人間自身が対象化し客体化した「存在者レベルでの神への信仰」、すなわち自然崇拝・人間崇拝・偶像崇拝である宗教としてのキリスト教あるいは最後的には政治的近代国家へと馳せ下る共同宗教としてのキリスト教とは決してならないということに注意しなければならない≫）。
このような訳で、「『神はいます』という命題を言い換えるわれわれの最初の決定的な言い換えは、『神は現にあるところのもので、その啓示の行為（≪その第二の存在の仕方≫）の中であり給う』ということでなければならない。それゆえに、われわれは、この命題」を、形而上学的一面的固定的に抽象した「本質」という概念をもってではなく、「神の現実」、「存在と行為を一緒に含んでいる……『神の実在』（Wirklichkeit）」という概念でもって言い表したのである」、すなわち抽象性と具象性の総体としての＜現実性＞（Wirklichkeit）という概念、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」という概念でもって言い表したのである。「人は、次のことに注意せよ」――すなわち、それは、「この命題」は、「この言い換えと総括的な言い方の中ででも、あくまで神の存在について語っており」、それゆえに「信仰のすべてのそのほかの命題の主語を問う特別な問いに対して答えているということである」、「まさに神の存在をこそ、われわれは、神の実在」、「神の現実性（Wirklichkeit）」として「言い表すことによって、……『行為の中での神の存在』として、詳しく言うならば神の啓示の行為の中での神の存在として」、「すなわち、神の存在が、その現実性を証ししている、ただ単にわれわれのためのその現実性を証しするだけでなく、……同時に、まさにそのようにしてこそ」、「その背後にも、その上にも、いかなるほかの現実性は存在しないところの」、「父なる名の内三位一体的特殊性」における「内的な、本来的な現実性を証ししている神の啓示の行為の中での神の存在として言い表」しているのである。聖書的啓示証言において、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神は、イエス・キリストの父、子としてのイエス・キリスト自身、父と子の霊である聖霊であり、このような三位一体の神として自己啓示したのである。したがって、われわれは、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、啓示・和解、三位一体論の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事であるそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの（具体的には第二の形態の直接的な最初の第一の聖書的啓示証言）の中での、永遠にわたっての、父（≪神の起源的な第一の存在の仕方≫）、子（≪神の第二の存在の仕方≫）、聖霊（≪神の第三の存在の仕方≫）の存在以外のほかの神の存在あるいは神のほかの存在を、換言すれば父なる神、創造主としての神、永遠の父、及び子なる神、和解主としての神、永遠なる子（イエス・キリスト）、並びに聖霊なる神、救済主なる神、永遠なる霊の存在以外のほかの神の存在あるいは神のほかの存在を考慮に入れることはできないのである。聖書的啓示証言において神は、イエス・キリストの父、子としてのイエス・キリスト自身、父と子の霊である聖霊であり、このような三位一体の神として自己啓示した。したがって、このイエス・キリストにおける神の自己啓示が 、第三の形態に属する全く人間的なイエス・キリストを主・頭とする教会の宣教における＜客観的＞な信仰告白および教義である三位一体論の根拠である。したがってまた、この三位一体論は、「神論の決定的に重要な構成要素」であり、「啓示の認識原理」なのである。
この時、「われわれの第一の主張は、次の確認でなければならない……」――すなわち、それは、「われわれは、（神の言葉の内容である）神の啓示の中で、実際に神の行為と関りを持たなければならないということである」。「もちろん、……神の啓示はある」。しかし、われわれは、史実史的な「かつて一度出来事として起こったが、今や過去、歴史的な事実となってしまったひとつの出来事と関りを持つのではない」。なぜならば、天と地、すべての創造者である神のイエス・キリストにおける自己啓示は、人間自身教会自身の自由事項・裁量事項・決定事項の対象として、被造物的な自然的な時空や史実史的な「歴史的な事実となってしまったひとつの出来事」に解消してしまうことはできないからである、換言すればイエス・キリストにおける「神の啓示は、同時に、現在的な、まさに今、ここで、（≪あの神の言葉自身の出来事の自己運動、客観的な啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、神のその都度の自由な恵みの決断による客観的な啓示の出来事とその出来事の中での主観的側面である聖霊の注ぎによる信仰の出来事、還元すれば聖霊の注ぎにより人間的主観に実現された神の恵みの出来事に基づいて終末論的限界の下で与えられる人間が人間的に所有する人間の言語を介した直観と概念を用いた信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰という形態で≫）起こっている出来事である」からである。したがって、この信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の出来事の個体的自己としての全人間の世代的総和が、キリスト教に固有な類なのである。したがってまた、この類の時間累積が、あのそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性におけるキリスト教に固有な歴史性なのである、歴史的連続性なのである、それゆえにある社会構成・支配構成・文明的文化的構成の時代性に規定されながらも、あのあくまでも聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯するという仕方で、イエス・キリストを主・頭とする「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を志向し目指す第三の形態に属する全く人間的な教会、その牧師、その神学者、その成員の世代的総和、類の時間累積が、第三の形態におけるキリスト教に固有な歴史性となるのである。言い換えれば、その時には、第三の形態に属する全く人間的な教会（その牧師、その神学者、その成員）において、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事であるそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性における起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのものを、具体的には第二の形態のその直接的な最初の第一の聖書的啓示証言におけるそれ、客観的な啓示の「概念の実在」を、教会の宣教、その教会教義学、その思惟と語りの原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、神の言葉に対する奉仕としての他律的な服従と自律的な服従との同在性・同時性において、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、あの＜純粋＞なキリストにあっての神、あの＜純粋＞なキリストの福音を尋ね求める「神への愛」と、そのような「神への愛」を根拠とした「神の賛美」としての「隣人愛」（＜純粋＞なキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要請・要求、すべての人々が＜純粋＞なキリストの福音を現実的に所有することができるために為すキリストの福音の告白・証し・宣べ伝え）の出来事が起こっているのである、それゆえにキリスト教に固有な歴史性に連帯することができる教会の＜客観的＞な信仰告白および教義（キリスト教に固有な類）が存在しているのである。バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、次のように述べている――神語り給う故に神語り給うことを聞くという出来事、この神の言葉の出来事は、「偶発的な（≪何故ならば、「啓示と信仰の出来事」、「啓示と信仰の奇跡」は、あの神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による出来事であるから、換言すればそれは第三の形態に属する全く人間的な教会自身の自由事項・裁量事項・決定事項では決してないから≫）同時性」、すなわちあの神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて「特定のアノトコロデアノ時ニが、特定のココデイマ」となる出来事である、すなわち神の側からやってくる信仰の認識としての神認識の出来事、啓示認識・啓示信仰の出来事である。したがって、神の言葉は、「その都度、全く特定の一回的な、独一無比な」言葉である。しかしまた、神の言葉は、「神の口を通して語られて、同時的」である。このことは、「時の全くの厳格な相違性の中で、神の言葉は一つであり、同時的である（イエス・キリストは、きょうも、きのうも、いつまでも変わることがない）」ということ、起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリストにおける連続性ということを意味している。この連続性における「一つ」・「同時性」が、「特定のアノトコロデアノ時ニが、特定のココデイマ」となる出来事の時間・空間のベクトル変容を可能とするのである。すなわち、そのイエス・キリストの「特定のアノトコロデアノ時ニ」において、バルトの「特定のココデイマ」は、預言者および使徒たちの特定の時空と交点を結び得るのである。したがって、このバルトは、『ローマ書』では、次のように述べている――「パウロはその時代の子としてその時代の人々に語った。けれどもこの事実よりはるかに重要な事柄は、いま一つの事実、すなわち彼は神の国の預言者ならびに使徒としてあらゆる時代のあらゆる人々に語っている、ということである。（中略）聖書の精神は永遠の精神なのである。かつての重大問題は今日もなお重大問題であり、今日の重大問題で単なる偶然や気まぐれでない事柄は、またかつての重大問題と直結している」。パウロの使徒としての（第二の形態の神の言葉であるキリスト教に固有な類としての）その存在・その思惟・その実践を形而上学的一面的に抽象してあの時代性に固定・解消・解体させてしまうことは、バルトが述べているように、全く以て誤謬なのである。ましてや第三の形態に属する全く人間的な教会の宣教、その教会教義学においては、第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言を、人間自身教会自身が形而上学的一面的に抽象して恣意的独善的嗜好的にあの時代性に固定・解消・解体させてしまうことは、全く以て誤謬なのである。バルトは、『説教の本質と実際』で、次のように述べている――「説教者が、実際の生活にはなお多くのことが必要であって聖書は生きるために必要なことを言いつくしていない（≪近代主義的な人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍、情報が不足している≫）と考えるようなことがある限り、彼は、（≪「聖書への絶対的信頼」――≫）この信頼、信仰を持っておらず、真に信仰によって生き」ようとしていないのである・キリストの福音は、「われわれの思考や心情の中にあるのではなく、聖書の中にある」から、われわれは、「思想」、「最高の習慣、最良の見解、そのようなものいっさい」を、聖書に「聴従」することの前で、「放棄」しなければならない・あの神の言葉自身の出来事の自己運動において、「聖書は神の言葉となる」ところで、「聖書は神の言葉なのである」、と。
さて、現実の意識は、対自的となった人間的意識（自己意識の対自的意識、言語の自己表出）と対他的となった実践的意識（自己意識の対他的意識、言語の指示表出）の構造としてある、この自己意識における対自的意識と対他的意識、言語の自己表出と指示表出の構造である現実的意識の外化である言語表現は、「現実的人間との関係の意識、いわば対他的意識（≪実践的意識≫）の外化である」、このようにして人間は、自己を客体化し、他者の対象となり、社会的関係に入る、このとき＜表現＞された言語は、客観的な対象として百人百様の享受の対象となり、「交通の手段」となる、外化されたその実践的意識（対他的意識、言語の指示表出）は確かに「他の人々にとって存在するとともに、そのことによってはじめて私自身にとってもまた実際に存在するところの現実の意識」という意味で、外在的なコミュニケーションによる相互理解に根拠を与える意識であるのだが、吉本隆明は、『言語にとって美とは何か』の「表現転移論」で、次のように述べている――一方で、「ひとつの作品は、ひとりの作家をもっている。ある個性的な、もっとも類を拒絶した中心的な思想をどこかに秘しているひとりの作家を。そして、ひとりの作家は、かれにとってもっとも必然的な環境や生活をもち、その生活、その環境は中心的なところで一回かぎりの、かれだけしか体験したことのない核をかくしている。まだあるのだ。あるひとつの生活、ひとつの環境は、もっとも必然的にある時代、ひとつの社会、そしてある支配の形態のなかに在り、その中心的な部分は、けっして他の時代、他の社会、他の支配からはうかがうことのできない秘められた時代性の殻をもつ」・「このようにして、ある時代、ある社会、ある支配形態の下でのひとつの作品は、単に異なった時代のちがった社会の他の作品にたいしてばかりでなく、同じ時代、同じ社会、おなじ支配の下での他の作品にたいして決定的に異質な中心をもっている。そればかりでなく、おなじひとりの作家にとってさえ、あるひとつの作品は、べつのひとつの作品とまったく異なっている。言語の指示表出の中心これに対応する。言語の指示意識は外皮では対他的な関係にありながら中心では孤立している」・他方で、「……これにたいしては、おなじ論拠からまったく相反する結論にたっすることもできる。つまり、あるひとつの作品は、たんにおなじ時代のおなじ社会のおなじ個性がうんだ作品にたいしてではなく、異なった時代の異なった社会の異なった個性にたいして決定的な類似性や共通性の中心をもっているというように。この類似性や共通性の中心は、言語の自己表出の歴史として時間的な連続性をなすと考えられる。言語の自己表出は、外皮では対他的関係を拒絶しながらその中心では連続している」・前者を論拠として、「人は人に影響を与へることもできず、また人から影響を受けることもできない（太宰治『或る実験報告』）」と言うことができる・後者を論拠として、「……もともとオリジナルな文人なぞは、在りはしないのだ。真にこの名に値する人々は世に知られていないばかりでなく、知ろうとしても知り得ない。しかし、わしはオリジナルな文人だぞ！ という顔をする人間はある（ヴァレリー『文学論』）」と言うことができる・前者と後者を論拠として、「つまり、人間は現実においてばらばらにきりはなされた存在であることを認識したとき、ほんとうは連環と共通性を手に入れ、また不幸にしてこの現実で連環のなかにある存在だとみとめたとき孤立しているのだ」と言うことができる。人類は、経済社会構成と観念諸形態において、歴史的段階に対応したさまざまな文明と文化の諸形態を持ち、先行するすべての世代からゆずられた経済的、性・家族的、言語的な成果を媒介・反復する、この「人間のつくる観念と現実のすべての成果（それが＜良きもの＞であれ、＜悪しきもの＞であれ）を、不可避的に蓄積していくよりほかない」、それゆえに「歴史的現存性」とは、それが良きものであれ悪しきものであれ、人類がそれらを人類的成果として歴史的に蓄積させてきたものの現存性のことである。したがって、人は誰であれ、一方で、ある親のもとで、不可避的にある歴史的現存性のただ中に自分の意志とは全く無関係に生誕し、それが良きものであれ悪しきものであれ・あるいは受け入れても良いものであれ受け入れ難いものであれ、その人類史的成果としての制度や社会のただ中を生きる以外にはないものである、すなわち「何々させられる」、「何々せざるをえない」、「何々するほかない」というように生きる以外にないものである、しかし他方で、個体的自己としてのその意志、判断力、構想力を駆使してその生誕から死までの現実的現存性を刻んでいくものでもある、すなわちそのような仕方でその生誕から死までの自己史を刻んでいくものでもある。バルトは、『証人としてのキリスト者』では、最後的に離脱した宗教的社会主義における人間の困窮やその救いに対する理解の度合いについて、「そこでの人間の困窮と人間に対する助けとが、聖書が理解しているほどには、真剣に理解されておらず、深く理解されて」いなかったと体験の思想化をしたのであるが、すなわち宗教的社会主義運動の総括をしたのであるが、このことで、バルトは、キリスト教に固有な類の歴史性における第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言を媒介・反復することで、人間の困窮とその救いについて、形而上学的一面的固定的抽象的空論的にではなく、換言すれば経済的、法的政治的国家的、道徳的にではなく、イエス・キリストにおいて完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和の中で、「真剣に……深く理解」することができるということを述べたのである。神の啓示は、「同時に一度にすべてにわたって力を奮う仕方で完結した出来事、また完了した事実である。……同時にまた未来である。すなわち徹頭徹尾われわれの前に立っており、まだ起こっていない、むしろ純粋にわれわれの方にやってくる出来事である。それと共に、歴史的に完結したというその性格と完全な現在性が、ほんの少しでもなくなってしまうといった具合ではない」。「まさにその歴史的な完結性と完全な現在性の中でこそ、同時に、神の啓示は（≪あの神のその都度の自由な恵みの決断による客観的な啓示の出来事と聖霊の注ぎによる信仰の出来事に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の中で≫）まことに未来的である」。「イエス・キリストは、きのうも、きょうも、いつまでも変わることがない（へブル十三・八）」。バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、次のように述べている――平和を包摂した救済（復活したキリストの再臨、終末、完成）を「信仰の中で持つ」ことは、「約束として持つ」ことである。「われわれはわれわれの未来の存在を信じる。われわれは死の谷のさ中にあって、永遠の生命を信じる」、「この未来性の中で、われわれは永遠の生命を持ち所有する」、この「信仰の確実性」は、「希望の確実性」である、新約聖書によれば、神の恵みの賜物である「聖霊を受け」・「満たされた人」は、「召されていること、和解されていること、義とされ、聖とされ、救われていることについて語る時」、「すでに」と「いまだ」の神の側の真実としてある啓示の弁証法において「終末論的に語る」のである、ここで「終末論的」とは、「われわれの経験と感性」（人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍）にとっての＜いまだ＞であり、神の側の真実としてある啓示の客観的現実性・客観的実在、完了・「成就と執行」、「永遠的実在」として＜すでに＞ということである。ここでは、「常に、イエス・キリストの誕生、死、甦りが問題である。常に、イエス・キリストが信仰によって義としてくださること」・「イエス・キリストが（≪イエス・キリストを主・頭とする≫）教会を（≪起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのものを、教会の宣教、その思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として≫）支配し給うこと」・復活した「イエス・キリストの再臨（≪終末、救贖、完成≫）が、そのようにしてわれわれの希望としてのイエス・キリストが問題である」。われわれは、「啓示と共に、……必然的にその出来事の圏内に立つ、いや、その出来事の圏内で動くのである」。「聖書的に言うならば、イスラエルの民の圏内で動くのである。まさにこの出来事の中でこそ、神は現にあるところのものであり給う」。「失われない」単一性・神性・永遠性を本質とする「神は、この出来事の中」で、換言すれば「失われない差異性の中で」、「主義、述語、客語であるところのもの、啓示者（≪神の起源的な第一の存在の仕方≫）、啓示（≪神の第二の存在の仕方≫）、啓示されたもの（≪神の第三の存在の仕方、それ自身が「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊の業であり啓示の主観的可能性としての「神の言葉の三形態」、その関係と構造・秩序性≫）、父、子、聖霊であり給う」。言い換えれば、「父は子の父」・「言葉の語り手」であり、「子は父の子」・「語り手の言葉」である、それゆえに「父ト子ヨリ出ズル御霊」・聖霊（キリストにあっての神においてのみ「実在であり真理である」神的愛に基づく神的共同性）はその「交わり」の中で「父は子の父」・「言葉の語り手」であり、「子は父の子」・「語り手の言葉」であるところの第三の存在の仕方、業と行為である。したがって、聖書的啓示証言の中でのこの「神的行動」、「神の行動を越えてゆく超越」は、「存在しない」し、それゆえにそれを尋ね求めることは「無意味である」。「神の神性は、……われわれが神の啓示の中で参与させられるところの神の行為の出来事である」。言い換えれば、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」・「イエス・キリストの名」（三位一体の神の第二の存在の仕方、業と行為、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの）において、その「存在の本質」である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示なのである。
さて、「われわれがここで始めなければならない定義」は、「神の存在」――すなわち聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおいて啓示された、父、子、聖霊としての神の存在は、「生命であるという定義である」。「ただ（≪その存在の仕方、業と行為における≫）生ける方だけが、神であり給う。ただ（≪その存在の仕方、業と行為における≫）生ける方の声だけが神の声である。ただ（≪その存在の仕方、業と行為における≫）生ける方の業だけが神の業であり、ただ（≪われわれは、その存在の仕方、業と行為における≫）生ける方を（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の中で≫）伏し拝み、（≪その存在の仕方、業と行為における≫）生ける方との交わりだけが、（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の中で≫）神礼拝および神との交わりである。そのようにしてまた、ただ（≪その存在の仕方、業と行為における≫）生ける方の（≪その都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいた≫）認識だけが（≪信仰の認識としての≫）神認識（≪啓示認識・啓示信仰≫）である」。「神を『生ける神』として強調」しつつ描いている旧約および新約聖書の記述の仕方」は、「単に世界に対して、あるいはわれわれに対して、神が〔ある〕態度をとり給うことを言い表しているだけでない」のであって、「そのようなものであることによって、同時に、神ご自身を、神が（≪啓示者、啓示、啓示されてあることの中で≫）現にあり給うところの方として描いている」のである。「わたしは生きる」、「主（あるいは神、あるいはイスラエルの神）は生く」は、「旧約聖書の特徴的な誓いの定式である」。「神は『生ける水の源』（エレミヤ二・一三、一七・一三）、「父はご自分に生命をもち給う（ヨハネ五・二六）」、「キリストは『いのちの君』である（使徒行伝三・一五）、いや『生命』である（ヨハネ一四・六、ピリピ一・二一、コロサイ三・四、Ⅰヨハネ一・二）、いや永遠の生命（Ⅰヨハネ五・二〇）、『世々限りなく生きている者』（黙示録一・一八）である」。「聖霊は生命である（ヨハネ六・六三、ローマ八・一〇）」。これらすべては、「明らかに、『生命を持たない』神々や偶像たち（エレミヤ一〇・一四、使徒行伝一四・一五）と対立」させて述べられている。このような訳で、「昔の神学が、神の本質を、生命として、……また活動性としてあるいはもっと端的に活動（≪すなわち存在の仕方、業と行為≫）として言い表した時、そのことは確かに正しいこと」である。「主ヨ、アナタニトッテハ、存在ト生トハ別デハナイ。最高度ノ存在ト最高度ノ生トハ、マサシク同ジモノナノデス……（アウグスティヌス）」。神の本質においては、「徹頭徹尾……われわれが活動として知っていると考えるすべてのこと」とは無限の質的差異の下にある「啓示の中で起こっている神の活動（≪業と行為≫）……が問題である」。したがって、「われわれが神を活動として、あるいは生ける者として言い表す時」、「そのことでもってもわれわれが神について語らなければならないすべてのことが語られているわけではない」としても、われわれは、「あらゆる事情の下で」、「そして神はどなたであるかを理解することが問題である時には」、神について、「先ず第一に」、「神は活動あるいは生ける方であるということ（≪神のその存在の仕方、業と行為≫）を……語らなければならない」。「まさに神こそが、生き現在し給う」。したがって、われわれは、神を、その第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおける神の自己「啓示に基づいて、……出来事として、行為として、生命として理解することによって」、「神を、一般的な意味での出来事、行為、生命の総和あるいは総内容と同一視した」わけではないのである。なぜならば、キリストにあっての神は、「一般的」な、天然自然や人間における「出来事、行為、生命」を抽象し、抽象に抽象を重ねた果てに得られる「完全さ……と結論づけ処理してゆくことができる」対象ではないからである、換言すればイエス・キリストにおいて自己啓示された神は、その存在と本質は隠されたままで、その第二の存在の仕方（業と行為、啓示・和解、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの）において顕現されたからである、「まさに顕サレタ神こそが隠サレタ神である」からである。
したがって、バルトは、『教会教義学 神の言葉Ⅰ／１・２』で、次のように述べたのである――（１）「存在するものそのもの」、「その純然たる造られた存在」に依拠したアウグスティヌスの「造ラレタモノヲトオシテ、知解サレタ創造主ヲ認識シテ、私タチハ三位一体ナル神ヲ知解スルヨウニシナケレバナラナイ、ソノ跡ハフサワシイカタチデ被造物ノウチニ顕レテイルノデアル」（「被造物ノ中デノ三位一体ノ跡」）という思惟と語りに対して、バルトは、そのような三位一体の跡は、神と人間との無限の質的差異の下で「世界に対して超越する創造神の跡」として理解することはできない、すなわちそのようなものは、ただ単なる人間の自己意識・理性・思惟によって対象化された人間自身の「内在的に理解」された「宇宙の諸規定・人間的な現実存在の諸規定」・「単なる宇宙論や人間論」でしかないし、人間自身に基づく「人間の世界理解の、最後的には人間の自己理解」、「神話」に過ぎないものであると語った、またバルトは、教会の宣教・「神学をただ啓示の中にのみ基礎づけ」るために、客観的な「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」に、またその客観的な「啓示は例証されようとせず、解釈されることを欲する」ということに、「解釈する」とは「別の言葉で同一のことを言うこと」であるということに、また聖書的啓示証言に信頼し固執し連帯して、「罪深い曲がった人間」の「究極的な限界性」を自覚した人間の言語を前提として、「三位一体を、世界から説明しようと欲」しないで、「世界を三位一体から説明せんと欲する」と語った、すなわち「三位一体ノ中デノ被造物ノ跡」というように語った、（２）アウグスティヌスやハイデッガーにおいては、自然時間でもなく、歴史的時間でもなく、内在的な個の現存性に固有な時間を「自分で創造」し持つのだが、彼らの時間概念は、聖書においては「『失われた』時間」、「否定された時間」、「否定的判決の時間」であり、「実在の時間」である「イエス・キリストにおける啓示の時間」から「『攻撃』された時間」である、それに対して、イエス・キリストの時間・「時間の主の時間」は、問題に満ちた非本来的な失われた「われわれの時間」の中で、「実在の成就された時間」（「キリスト復活の四〇日」）である、ここに、「まことの現在」まことの「過去と未来が存在する」し、起源的な第一の形態の「神の言葉」がある、したがって「キリストの死」と共に終わる「まことの過去」（「旧い世」・時間）は、完了・「成就された時間」（「キリスト復活の四〇日」）を待望する形においてある、またまことの「未来」（「新しい世」・時間）は、キリストの復活とともに初まり、ただキリストの復活を想起する形においてのみある、と語った。このような訳で、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、「特別な出来事である。それは、決して（≪一般的な≫）そのほかの出来事の総和と同一ではない。あるいは（≪一般的な≫）そのほかの出来事の何らかの総内容と同一ではない」のである。（≪一般的な≫）自然の中での出来事の総和あるいは総内容と同一でないし、また（≪一般的な≫）人間的歴史の総和あるいは総内容と同一でもない」のである。したがって、イエス・キリストにおける啓示こそが、われわれ人間の、その類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡すことを、それゆえに「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受け取ること」を、それゆえにまた教会の宣教における福音が、「理念へと、有神論的形而上学へと、われわれに管理されるプログラムへと」、「鋭さをなくした」「十字架象徴論へと」、「イエス・キリストはたかだか＜暗号＞にすぎ」ない「神秘主義へと変わって行く」ことが見渡すことを可能とするのである。したがって、神の側の真実としてあるイエス・キリストにおける啓示は、徹頭徹尾、全く以て、西洋近代を頂点としたヘーゲルの歴史哲学を神学的に適用したモルトマンの神学的な三段階的進歩史観と同一ではないのである、またそれは、「近代の未完のプロジェクト」の完成を目指した社会学者ユンゲル・ハーバーマスの後追い知識（神学的適用）でしかないエーバーハルト・ユンゲルの「近代的な自由および自律の意識の加工処理」、「近代的自律の神学的加工処理」と同一ではないのである。このような訳で、「また啓示の中で出来事として起こっている神の行為も」、「特別な、そのほかの出来事とは区別された、いや、そのほかの出来事と矛盾衝突する行為」なのである。聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の第二の存在の仕方、業と行為、起源的な第一の形態の神の言葉、客観的な「啓示の実在」そのもの、啓示・和解、イエス・キリストにおける完了・成就された個体的自己としての全人間・全世界・全人類の究極的包括的総体的永遠的な救済・平和（それら総体としての「一つの事柄」）は、「この行為がすべてのそのほかの出来事と違っているその分離の中でだけまこと」であり、「純粋ナ行為」、「ソシテ特殊ナ」行為である。この「神の働きの特殊性は、それと共に神としてのその存在は、この弁証法的な超越（≪の規定≫）……の中で尽くされてしまわない」。なぜならば、神と人間は、徹頭徹尾、元々からして、無限の質的差異の下にあるからである、「神は神」であり、「神は天にいまし」、被造物としての人間は「地に在る」からである。この単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神の「完全さ・自由さ」は、父、子、聖霊の三つの存在の仕方（業と働き）の「完全さ・自由さ」である。このような訳で、この「神の働きの特殊性」は、常に、「神の行為」と「そのほかの（≪天然自然や人間における一般的な≫）出来事」との「彼岸」性、「外」性、「無限の質的差異」性を意味しているのである。したがって、神は、神と人間との無限の質的差異の下で、「神の外での出来事、活動、生命であるところのものと神との関係の彼岸（≪外≫）において、またその関係を損なうことなしに」、「またその関係に依存することなしに」、「ご自身の中で自由な出来事、自由な活動、自由な生命であり給う」。このように、「われわれは、神を『生ける神』として言い表す聖書的な言い表し方を、例えとして理解しないように用心し気を配った」のである。すなわち、「聖書の中で」、「神に対して」、「怒り、いつくしみ、後悔、み心にかなうこと、苦痛等々が帰せられている時」、「あるいは……忘れること、語ること、沈黙すること、来ること、行くこと、その場にいること、その場にいないことが帰せられている時」、「また神の行為が聖書の証言によれば事実記述するためにそのような概念を適用しなければならない行為である時」、「そのこともまた決して例えではないのである」、換言すれば「ただ単にあるいくつかの人間的な直観と概念だけでなく、すべての直観と概念、また聖書によって用いられているすべての人間的な直観と概念」は、「『擬人論』である」ということである。「それらのものは、まさにその含蓄に富んだ意味」においてこそ、「神の特別な生と存在を表示するのに特に適しているのである」、換言すればそれらのものは、プラトンの形而上学的な「最高理念」とか、アリストテレスの形而上学的な「第一原因」を表示するのに適していないのである。このような訳で、われわれが、それら人間の言語を介した「直観と概念でもって証しされているもの」について――すなわち「あらゆる事情の下で、……あくまでもわれわれが（≪イエス・キリストにおける≫）その啓示の中での三位一体の神の存在について語るべき」であり、それゆえに「そのほかの存在について語るべきでないとしたら」、「観念論的に曲解」し「ごまかして取り除」いてしまってはならないもの――それは、イエス・キリストにおける「啓示の中で起こっているもの、神の救いとなる抵抗」であり、「それと共にすべてのそのほかの出来事のただ中での（≪イエス・キリストにおける≫）啓示の特殊性であり、すべてのそのほかの活動に相対しての神的活動の特殊性であり、神的存在の非弁証法的な超越性（≪何故ならば、単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神と人間は、徹頭徹尾、元々からして、常に、神と人間との無限の質的差異の下にあるから≫）」、神的存在の「自由な出来事、自由な行為、自由な生である」。
さて、イエス・キリストにおける啓示の中での「神の出来事、行為、生の特別な（≪「特殊ナ」≫）自由とは何」か？ 聖書的啓示証言における啓示の出来事は、「終始、自然的な、身体的な、外的な、可視的な構成要素を持っている」、自然的な、身体的な外的な、可視的な時空性を持っている。「天の創造」・「地の創造」――この「創造」から「パレスチナにおけるイスラエルの民の具体的な現実存在を通って、イエス・キリストの誕生、その肉体的な奇蹟、ポンテオ・ピラトの下での苦しみと死、さらにその身体をもっての甦りを通ってその再臨（≪終末、救贖、完成≫）、肉の甦りに至るまで、いつも事情はそうである」。バルトは、『バルトとの対話』で、キリストの福音は「魂と体、天と地、内的と外的いのちのため」にあるから、われわれは身体的存在と理性的存在という全体的人間を考えなければならない、終末、復活したキリストの再臨、救贖、完成は全的人間のそれであるから、身体的復活であると述べている。このような訳で、「人は、（≪聖書的啓示証言における啓示の出来事の中の≫）これらの構成要素を、この啓示の特別な（≪「特殊ナ」≫）意味を、それと共に啓示そのものを、曲解し……取り除いてしまうこと」はできないのである、それゆえに「また、教会の基礎および使信とは疎遠な別の反省的思弁の領域に赴くこと」はできないのである。したがって、人が、「自然世界の実在（≪例えば信仰の対象としての自然――すなわち山、岩、湧水、樹木、海の彼方の島等≫）」を「神の実在」と「混同し」てしまう時には、またそれとはまったく対照的に「神的存在を（≪思惟に思惟を重ねて思惟の頂を極めた自然から完全に超出した、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・自由な≫）絶対『精神』」と――すなわち人間の「精神世界の実在と混同してしまうという」時には、人は、「最高に原則的な、最高に重大な結果を伴う誤解に陥って」いるのである。この後者の典型を、次のような思惟と語りに見出すことができる――「神ガ霊デアリ給ウ限リ、神ニツイテハ土カラ出タモノアルイハ肉的ナノモハ考えられ得ナイ」、それゆえに人間の「霊的ナ、マタ単純ナ本質ノ類比カラ、神ノ性質ニツイテ何ラカ判断シテユクコトガデキル（ポラーヌス）」、ここでは、「混同」が、「既に起こっているか」、「不断に来たりつつあるのである」。すなわち、「天、超自然な、感覚的でない、精神的な実在は、聖書によれば、その最高の純化と頂点においても、……決して神と同一ではない」のである。それは、「原則的に、地と同様、神の被造物である」。それは、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異の下で、ただ「被造物世界の内部で、被造物について語ることができるところの全く制限された、相対的な、非本来的な意味」で、「神の被造物である」。なぜならば、自己還帰する対自的であって対他的・他在であって自在・全き自由は、「神ご自身においてのみ実在であり真理である」からである。言い換えれば、人間の対自的であって対他的、自由な自己意識・理性・思惟の類的活動の無限性から、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する単一性・神性・永遠性を本質とする三位一体の神のそれを類比することはできないのであって、それであるから人間のそれは「非本来的なもの」であり、神のそれに「依存しているもの」として理解しなければならないのである。この時、何度も述べているように、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、われわれ人間の、その類・歴史性と個・現存性の生誕から死までのすべてを見渡せ、また「この世の偽り、通俗の偽りを偽りと呼び、世俗的真理をも正直に受け取ることができる」場所なのである。したがって、「人が、神学と形而上学とを混同する精神・自然体系の迷信に束縛されていないならば、換言すればわれわれが精神として知っていると考えるところのものそのものは、それ自体……自然……と同じように被造物であるということを理解するならば」、人は、「神の本質」を「精神として言い表す時」、「それだからといって（天使の本質と同様）自然を排除し否定し……てはならないということである」。「聖書は、（≪あの神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」・「啓示と信仰の奇蹟」に基づいて終末論的限界の下で与えられる人間が人間的に所有する人間の言語を介した直観と概念を用いた信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰の中で≫）ただ単に神の怒り、いつくしみ等々について語っているだけでなく、すべての観念論者にとってさらにひどく不愉快なことであるが、……極めて自明的に、強調しつつ、神の顔、神の眼、神の口、神の耳、神の鼻について」、「また神の背中、神の腕、神の手、神の右手、神の指、神の足についても語っている」のである。したがって、「神を、『父』および『子』として定義する、あの決定的に、また至極感覚的な、三位一体論的神の定義は、『神学的ニ』……理解されるべきもの」なのである、すなわちあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰に依拠して理解されるべきものなのである。したがって、「人が、これらすべての直観や概念を非本来的なものとして取り扱い、それらに対して（≪形而上学的に抽象された≫）ある『純粋に精神的なもの』」を対峙させる時には、「聖書を解明していると考えること」はできないのである。すなわち「そのような直観と概念によって規定されているすべての文脈の理解」には、「神的存在」の「自然的な構成要素」と「精神的な構成要素」とを、その構造性・同在性・同時性において引き寄せることが必要なのである。ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」――すなわち「イエス・キリストの名」、また「キリストの永遠のまことの神性の告白」、神と人間との無限の質的差異、その人間性と共に神性を賦与され装備された聖書的啓示証言、人間の言語を介した直観と概念を用いた信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰）等が、形而上学的神学、敬虔主義、啓蒙主義的神学、ヘーゲルの哲学原理、近代主義的プロテスタント主義神学、自然神学、自然的な信仰・神学・教会の宣教に対する、信仰・神学・教会の宣教における「思想的な武器」なのである。このような訳で、ここでは、「当然のことながら」、「神の思いはわれわれの思いではなく、神の霊（≪聖霊≫）はわれわれの霊（≪人間精神≫）ではない」し、「神の眼は人間の眼ではなく、神の手は人間の手ではない」のであるから、「創造者と被造物とを……混同したり、混合してしま」うということ、「神に対してわれわれの被造物的性質を帰してゆく（≪人間の神化あるいは神の人間化≫）ということが問題ではない」のである。言い換えれば、「神に関して自然的に語られていることを、勝手に精神的なものへと解釈し曲げないで（≪すなわち形而上学的に一面的固定的に精神的なものへと抽象することはしないで≫）」、神と人間との無限の質的差異の下で被造物としての「精神」と「自然」に「優越した」「神的存在に対して」、「精神」と「自然」の両者の創造者として、「両者を忌避」しなで「両者を自分の中に含み入れている本質を帰するということ」が、すなわち「聖書の証言によれば」、「神的本質が、その啓示（≪その第二の存在の仕方≫）の中で、……自分自身の証ししたその本質を帰する（≪ナザレのイエスという「人間の歴史的形態」・「イエス・キリストの名」・第二の存在の仕方において、その存在の本質である単一性・神性・永遠性を帰する≫）ということ」が問題なのである。なぜならば、聖性・秘義性・隠蔽性において存在する三位一体の神の第二の存在の仕方であるイエス・キリストにおける神の自己啓示は、その第二の存在の仕方において、すなわちナザレのイエスという「人間の歴史的形態」・「イエス・キリストの名」において、その「存在の本質」である単一性・神性・永遠性の認識と信仰を要求する啓示だからである。したがって、「神の出来事、行為、生命」を、「被造物世界全体に対」する「超越性の中で（≪神と人間との無限の質的差異の下で≫）、その事柄にふさわしい秩序の中で」尋ね求めると同時に、「われわれが『自然』の出来事として知っていると考えることの線上において尋ね求めることが問題」なのである。「もしもわれわれが神を……ただあの観念論的な抽象の助けをかりて理解することができるだけであるとするならば（≪ヘーゲルの哲学原理における神であるとするならば、それゆえにフォイエルバッハやマルクスやハイデッガーが根本的包括的に原理的に批判した神であるとするならば≫）」、神を、「天と地の主、精神と身体の主、人間全体の神として……全く理解されていないことになる……」、聖書的啓示証言におけるキリストにあっての神ではないことになる。「人はよく注意せよ」――「自分自身を組織的に絶対化し、自ら神性にまで……のし上がろうとしている観念論（≪ヘーゲルの哲学原理――神の人間化あるいは人間の神化≫）に対して……」。「ポラーヌスの……命題」――すなわち「アル者ガヨリ精神的デアレバアルホド、彼ハヨリ活動的である」は、「『精神』は確かにすべての行為の原理であり、行為はそれが精神の行為である時にそれだけ多くの行為である（≪なぜならば、精神は、自然的な時空の制限性を打ち破ることができるから。例えば、身体は東京にあるとしても、その精神は東京から超出してニューヨークにも北京にも行き考えることができる、宇宙にも行き考えることができる、歴史を遡って縄文期にも行き考えることができる、先端的な医療技術を介して身体の細部にまで行き考えることができる≫）という意味でだけ正しくあることができる」。しかし、ポラーヌスの「その命題は、自然なしの精神について語られる時、いつでも直ちにすべての正しさを失ってしまうのである」。
したがって、人は、人間的領域においては、マルクスのように、次のよう言う以外にはないのである――人間は自然の一部である。この場合、自然は、自然としての自己身体であり、 他者身体であり、外界としての自然（第一次的に天然自然および人間化された自然である人間的自然）である。人間はこの場所で、身体と精神を介した、普遍的で実践的な全自然との相互規定的な対象的活動を行うのである。ここに、肉体的身体的および精神的意識的な、人間の類的な活動や生活がある。それは、人間諸個人による全自然の対象化であり、非有機的身体化であり、人間化であり、そのことによってまた人間は、人間の自然化、人間的自然として有機的自然となる出来事である。それは、人間の歴史的行為である。諸個人の全自然の非有機的身体化によって生み出された人間的自然は、それが感覚的客体としては孤立しているのであるが、現実的な生活過程においては媒介的に他の人間と関係づけられているから、それは協働関係としての社会を構成する。そして、その時間累積は、人間の類として自然史の一部としての人類史の自然史的過程を構成する。この人類史の自然史的過程における経済社会構成の拡大・高度化、科学・技術の発達やその知識の増大、生活的利便性の向上は、自然史的必然に属しているから、さまざまな規制等によって遅延させることはできても、停滞させたり逆行させたり後退させたりすることはできない位相のものである。また、その経済社会構成の発達段階においてさまざまな観念諸形態が生み出される。その観念諸形態は、それ自体の展開過程と増殖過程を持ち時間累積されていくのであるが、その本質は観念にあるから、停滞させたり逆向させたり後退させたりすることができる位相にあるものである。「歴史とは個々の世代（≪個体的自己の成果の世代的総和、類≫）の継起にほかならず、これら世代のいずれもがこれに先行するすべての世代からゆずられた材料、資本、生産力（≪あるいは言語、性・家族≫）を利用（≪媒介・反復≫）する」、「私の立場は、経済的な社会構造の発展を自然史的過程として理解しようとするものであって、決して個人を社会的諸関係に責任あるものとしようとするものではない。個人は、主観的にはどんなに諸関係を超越していると考えていても、社会的には畢竟その造出物にほかならないものであるからである」（『経済学・哲学草稿』および『ドイツ・イデオロギー』ならびに『資本論』）。