カール・バルト（その生涯と神学の総体像）を理解するためのサイト

１２の１『教会教義学　神論�T／１　�~の認識』「五章　�~の認識　二十六節　�~の認識可能性」「二　人間の用意」（254-281頁）
再推敲・再整理版です。

「二　人間の用意」
　「教会史的現象としてある自然神学の巧妙な名人芸」は、「起源的な力と独占的な立場を決して放棄することなく」、それ故に「啓示神学を意識的に自分よりも優位の立場に置きながら」、「啓示神学を根本においては……（≪人間自身の自己主張・自己表現という≫）自然神学以外の何ものでもない形成物に造りかえてしまう」という点にある。例えば、このことの卑近な例は、次のような思惟と語りにある――すなわち、それは、「新約聖書の釈義に役立つ新しい哲学的な鍵」を、前期ハイデッガーの哲学原理に見出し、それを「第一次的なもの」としたブルトマンや経済社会構成を資本制に置き自由を原理とした西欧近代を頂点とする進歩史観を展開したヘーゲルの歴史哲学と神学（「終末論的な『将来的なものの力』としての御霊」の概念）とを混合させて神学的な三段階的進歩史観を主張したモルトマン等々も同類であるが、対象化され客体化されたR・ボーレンの自己意識・理性・思惟の類的本質にしか過ぎない「聖霊論的出発」という概念を第一次的なものとして、中世的思考に退行し、「人間学の後追い知識」にしか過ぎない「神学の優位性を否定することなく」「人間学的局面にもその位置を正しく与える」とか「人間学の後追い知識」にしか過ぎない「神学の優位性を確保しつつ、人間学を正当に評価する位置を与え得る」とかと主張した小泉健や佐藤司郎の空虚で空想的な思惟と語りにある。この時、その思惟と語りは、フォイエルバッハから、客観的な正当性と妥当性とをもって、「（中略）神の啓示の内容は、神としての神から発生したのではなくて、人間的理性や人間的欲求やによって規定された神（≪「存在者レベルでの神」、「物自体」等≫）から発生した……」ものに過ぎないのである、それ故にその「対象に即してもまた」、自然「『神学の秘密は人間学以外の何物でもない！』……」ものである（『キリスト教の本質』）と根本的包括的に原理的に批判されてしまうのである、また前期と後期の総体性を生き思惟し語ったハイデッガーから、「『いわゆる存在者レベルでの神への信仰は、結局のところ神を見失うこと』」であるから、「それよりは『むしろ無神論という安っぽい非難を受け入れた方がよい』」と根本的包括的に原理的に「揶揄」・批判されてしまうのである（木田元『ハイデッガーの思想』）。したがって、バルト自身、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で思惟し語る彼らの思惟と語りよりも、「公然たる不信仰の方がまだどれだけ前途有望なものに見える」ことであろうかと述べたのである。

　「教会史的現象としてある吸収および飼いならしとして述べられた教会の領域内での自然神学（≪一般的な自然神学ではなくて、キリスト教的自然神学≫）の勝利」は、「福音のブルジョワ化の過程」のことである、換言すればそれは、徹頭徹尾、第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とはしないところの、全く人間的な教会共同性による、教派共同性あるいは学派共同性による、その指導者層として聖職者、神学者、牧師、著述家による、キリストの福音の恣意的独断的な所有化のことである、その自己増殖過程のことである。彼らは、キリストの福音を「自由に処理することができる」、自己増殖過程を持つ「自然神学以外の何ものでもない」、＜制度＞としてのブルジョワである。したがって、われわれは、「福音が宣べ伝えられるところ、伝道において、また既に成り立っている教会の内部で、教会が発生するに際して、……既に」、この「福音のブルジョワ化の危険の中に立たされている」ということを、この福音の「ブルジョワ化の……困窮のただ中に立たされているということを、確言しておくことにする」。したがって、当然にも、教会内部でだけでなく、自然科学や人文科学の自由な学問・研究の場である大学の内部、ミッション系の学校の内部、神学校の内部においても、それらが「発生するに際して、……既に」、「福音のブルジョワ化」が行われているのである。「なぜと言って、（≪われわれの≫）目が届く限り、常に」、この「福音のブルジョワ化が、起こっているからである」。「福音のブルジョワ化」を志向し目指す「ブルジョワ的人間」は、確かに一方で「恵みの宣べ伝えを拒まないでむしろ肯定し、恵みの宣べ伝えと然るべく折り合いをつける」のであるが、しかし、他方では「恵みの宣べ伝えに対して自分を保留する」人間、換言すれば神だけでなく人間の自己主張・自己表現の欲求も保留する人間、それ故にキリストの福音を恣意的独断的に「所有」し「自由に処理する」人間のことである。バルトは、次のように述べている――「私と同時代の神学者たちが試みかつ遂行した神学的企てのなかで、最も私の注意をひいて来たのは、ルドフル・ブルトマンの新約聖書の『非神話化』である。と言っても、それが提示する具体的な問題のためではなく」、それが「シュライエルマッハーによって育成されたタイプの神学の主題と方法（≪人間中心主義的な主題と方法、「人間の自己運動を神のそれと取り違えるという混淆」、「神の自由を認識していないという事態」≫）を再び採用している点で、非常に印象的であったからである」。「私はその特殊な主題について、ましてその原理的な方法について、ブルトマンに従うことはできなかった。そこでは、神学は……新しく特定の哲学にとらわれて、エジプト捕囚ないしバビロン捕囚の身になっているのを、私は見たのである」、と（『バルト自伝』）、また「『現代人』が実際に存在するのは」、「ただ教養人の間だけではない」のであるから、われわれは、ブルトマンの「容易に修得しえない」「絶対的基準」としての「先行的理解と解釈学的原理」という一方通行的に知識的に上昇する信仰・神学・教会の宣教が、近代主義的な教養人には受け入れ可能であっても、その現にあるがままの不信、非キリスト者、非キリスト教、非知に対しては閉じられていく以外にないものであるから、ブルトマン（学派）等の「実存主義への特別な拘束力が生じるべきだ」、「聖書註解者」は、「だれに対して」、「誠実と真実をささげるべきなのか？」、「責任的応答をなすべきなのか？」、「同時代の人たちの思考の前提に対してか？」、「そこから形成された理解の規準に対してか？」、否である。われわれは、「十字架につけられ・復活したイエス・キリストにおけるわれわれの実存という場所」において、「われわれの信仰より以前にも、信仰なしでも、……不信仰に抗しても、われわれために生きて、われわれを支配し、われわれを愛し給うイエス・キリストを、（≪「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、あの「存在的な必然性」に包括された「認識的な必然性」を前提条件とした「存在的なラチオ性」に包括された「認識的なラチオ性」という総体的構造に基づいて≫）認識し、持つことができることを示すということ以外の何が問題となるのだろうか？」、と（『ルドルフ・ブルトマン』）。

　このような訳で、「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、すなわち「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける「啓示の出来事」（客観的な「存在的な必然性」）に包括された「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の中での主観的な「聖霊の注ぎ」による「信仰の出来事」（主観的な「認識的な必然性」）を前提条件とした三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に可視的に存在している「神の言葉の三形態」（換言すれば、キリスト教に固有な類と歴史性）の関係と構造（秩序性）としてある客観的な「存在的なラチオ性」に包括された主観的な「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないが聖霊によって更新された主観的な人間の理性性）という総体的構造を認識し自覚していない時には、「そのように（≪前述したように「わがまま勝手に」恣意的独断的に≫）、人は、福音を取り扱うことができる」のである、「事実、人はそのように福音を取り扱うのである」。したがって、その総体的構造を認識し自覚していない時には、「目が届く限り……ここで何人も、あえて自分を例外と見なすべきではないであろう……」。この「福音のブルジョワ化」が、「教会そのものの領域の中で、自然神学の鍵となる立場と破砕することのできない力と独占的立場を形造っているのである」。したがって、それは、「多くの異端の中の一つの異端ではなく、むしろ（≪キリスト教神学における≫）一つの自然必然的な異端」（キリスト教的自然神学）であるから、「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、すなわちあの総体的構造を認識し自覚にしていない時には、われわれは、「誰」もあるいは「何」も、「自然神学」に対して、「換言すれば全く単純に、（≪生来的な自然的な≫）人間の……事柄を実行しているだけである神学」に対して、それ故に神の「恵み（≪福音≫）に逆らう抗争のために福音を利用するだけの神学」に対して、それ故に人間の生来的な「自然性の中にこそ由来している神学」に対して、「抵抗することができない」のである。この時、われわれは、バルトが、次のように述べていることをよく理解することができるのである――すなわち、教会の宣教を「より危険なものにしてしまう」のは、「正しい注釈」を、「先ず第一義的に優位に立つ原理」としての起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）に、具体的にはそのイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）に基づくことをしないところにあるし、「最終的に……教会の教職の判決に、……間違うことはありえないものとして振る舞う（≪絶対化された≫）歴史的――批判的学問の判決に、依存させてしまう」ところにあるから（『教会教義学　神の言葉』）、「あらゆるキリスト者の生が、意識するにせよ、しないにせよ、やはりひとつの証し」であり、「教会とその信仰を基礎づけている神の言葉から、提起される」「真理問題に対する責任を負う限り、いかなるキリスト者も彼自身がまた、神学者としても召されている」と述べているということを（『福音主義神学入門』）、また「教授でないものも、牧師でないものも、彼らの教授や牧師の神学が悪しき神学でなく、良き神学であるということに対して、共同の責任を負っている」と述べているということをよく理解することができるのである。

　さて、ここで、われわれは、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意として理解されるべき神の認識可能性を問う問いに戻ることにする」。われわれは、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」を、神の「恵みに対し、人間が必要としている姿、認識、進んで受入れようとしている態度として記述した」。また、「神の用意に対して心を開いた人間」を、「教会の中にいる人間として、神の言葉によって裁きの下に、しかしまた恵みの下に置かれた人間として理解した」。しかし、われわれは、教会史的現象の分析において、第三の形態の神の言葉に属する「この人間」も、徹頭徹尾、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、他律的な服従と自律的な服従との全体性において、具体的には第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とはしないが故に、「まさにこの」教会論的なキリスト教的「人間こそ」が、「神の恵みに対して、……神の認識可能性に対して、心を開いている人間ではないということを見た」のである。すなわち、われわれは、その現にあるがままの「教会の中にいる人間（≪教会論的なキリスト教的人間≫）の現実そのものの中では」、換言すればその「恵みに逆らう抗争と自己保持と自己主張の試みをなす人間の現実そのものの中では、（われわれが問うているところの）」先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意を見出すことはできなかった」のである。

　このような訳で、「もしも神が人間に対して恵み深くあり給うならば」、換言すれば「神がご自身からして人間に向かって用意してい給うならば」、「その時そのことの中に人間もまた神に向かって用意しているということが含まれていなければならない」、ちょうど「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、すなわち神のその都度の自由な恵みの決断によるあの総体的構造に基づいて、われわれ人間が人間的に所有する人間の信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事が可能であり起こるように。ご自身の中での神としての「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「三位相互内在性」における内在的な「一神」・「一人の同一なる神」・「三位一体の神」、「主、（≪われわれのための神としての「外に向かって」の外在的なその「失われない差異性」における三つの存在の仕方における≫）創造主（≪父なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事、業・働き・行為、すなわち起源的な第一の存在の仕方、啓示者・言葉の語り手・創造者≫）、和解主（≪子なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事、業・働き・行為、すなわち第二の存在の仕方、啓示・語り手の言葉・和解者≫）、救済主（≪聖霊なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事、業・働き・行為、すなわち第三の存在の仕方、啓示されてあること・「神の言葉の三形態」の関係と構造・救済者≫）であるまことの神の恵みの中で、神の恵みを通してだけ、認識可能である」。

　したがって、「われわれは、この状況と直面して」、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意に対する積極的な答え」を、「人間論的な要請をもってきて」、また人間の生来的な自然的な「本質と動き」をもってきて、「探求を続けることはできない」のである。したがってまた、人間論的な自然的な人間も、教会論的なキリスト教的人間も、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意に対する積極的な答え」を尋ね求める「われわれを助けて先に進ませてはくれない」のである。何故ならば、「人間は、神の言葉と霊（≪「啓示と信仰の出来事」≫）を通して生まれかわって、確かに彼が自分自身ではないところの者」となり、それ故に「神の従順な子ども、神の恵みに対する従順な子どもとなるということは正しい断言であり事実である」としても、その出来事は、神のその都度の自由な恵みの決断によるものであって、それ故に神の側の「決定事項」であって、教会（その聖職者、その牧師、その神学者、その著述家、その成員）の「決定事項」ではないからである、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会（その聖職者、その牧師、その神学者、その著述家、その成員）は、それ自体としては、「決して、世を克服したところのものではない」からである、それ故に「もしもそのようなことを空想するとすれば」、教会（その聖職者、その牧師、その神学者、その著述家、その成員）は、「まさしくもって世と共に滅んでしまうであろう」。このような訳で、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意に対する積極的な答え」は、「人間論の地盤」や「教会論の地盤」からは得ることはできないのである、「人間論の地盤」や「教会論の地盤」からは「何の成果も」得られないのである。

　さて、人間は「神の裁きと恵みを通して」、「神の言葉と霊（≪「啓示と信仰の出来事」≫）を通して生まれかわって、確かに彼が自分自身ではないところの者」となり、それ故に「神の従順な子ども、神の恵みに対する従順な子どもとなるという」命題、「キリスト教的――人間論的な要請」は、「正しい断言であり事実である」が、生来的な自然的な人間の「本質と動き」は、その生来的な自然的な人間の「理性や力」（知力、感性力、悟性力、意志力、想像力等）は、その生来的な自然的な人間の自由な自己運動は、「神の恵みに対して開かれた姿、開かれた態度の可能性を持ってはいない」のである。したがって、教会論的なキリスト教的人間の「本質と動き」であっても、その生来的な自然的な人間の「理性や力」は、その生来的な自然的な人間の自由な自己運動は、キリスト教神学における「一つの自然必然的な異端」、すなわちキリスト教的自然神学を生み出すのである、生み出し続けるのである。したがってまた、「この事情を正確に念頭に置いておくこと」（この事情を正確に認識し自覚していること）は、「ただ単に教義学においてばかりでなく、また説教にとっても、教会の教育と牧会的配慮にとっても、すすめられるべきことであると言ってよい」のである、すすめられるべきことである。したがってまた、「人は、人間それ自身（≪人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間それ自身≫）に対して、神の用意に対応する人間の用意を帰することはできない」のである、「人は、神の用意の中に、人間それ自身の用意が……どの程度まで含まれているかということを示すことはできない」のである、「神人協力説」はあり得ないのである。このような訳で、「神の認識可能性は、人間それ自身の賓辞として……理解することはできない」。「人は、（≪神の≫）恵みの敵である人間を恵みの友として曲解することはできない」。しかし、にも拘らず、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会（その聖職者、その牧師、その神学者、その著述家、その成員）は、教会論的な「キリスト教的な人間の形姿の中で、結局は（≪生来的な≫）自然的な人間それ自身が……神に向かって用意のできている人間となることができるあるいはそのような人間でもあるということを保証するために」、「神の言葉の裁きと恵みを取り上げる」のである。このことが、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会（その聖職者、その牧師、その神学者、その著述家、その成員）において、その「見渡すことができないほどの莫大な量の神学的な反省と宣教の情熱」において、結局は人間中心主義的な人間崇拝を志向し目指す自然神学の「巧妙な名人芸」を、「神の言葉の裁きと恵み（≪「キリスト教的な基礎づけ」、「キリスト教的な手段」≫）の下に押し隠しながら、毎年のように……教会（≪聴衆≫）と世に対して」行われているのである。このような教会における自然的な神学と宣教は、「キリスト教的な基礎づけなしにするよりも、キリスト教的な基礎づけをもって、自分の事柄（≪自然的な神学と宣教≫）をなし遂げてゆく方が、……よりよくことをなすことができるということをよく心得ている」のである、それ故に人間論的な自然的人間ではなくて教会論的な「自然的人間」（生来的な自然的なキリスト教的人間）は、「常に、キリスト教的基礎づけをもってする可能性の方を選ぶ」のである。したがって、聴衆の側は、前述した認識と自覚を持たない時、「欺かれて」しまうのである。

　それに対して、フォイエルバッハ、マルクス、ハイデッガー等人間論的な「自然的人間」は、客観的な正当性と妥当性とをもって、キリスト教会に教会史的現象として存在している自然的な「神学と宣教が信じるに値しないものであることを、嗅ぎつける」のである。そのようなキリスト教会の自然的な神学や宣教における神や啓示は、「真実でない事柄」、「幻想でしかない主張」、「虚構の作り話でしかない」ということを見抜くのである。彼らは、「彼自身の無神性と……教会の場の内部にいる者たちの敬虔性および道徳の間に、……ある種の類似性が成り立っていることを主張」し、「彼は……しばしば『……われわれ……の方が、結局よい人間である』と勝ち誇った叫び声をあげるべき契機を持っていた」のである。何故ならば、「宗教とは、すべての神崇拝の本質的なものが人間の道徳性にあるとするような信仰であるとしたカントは、本源的であるゆえに、すでに前もってわれわれの理性に内在している神概念の再想起としての神認識という点で、アウグスティヌスの教説と一致する」（『カント』）からである。それだけでなく、『日本奥地紀行』を著わしたイザベラ・バードは、その書の中で、次のように述べている――明治期の日本人たちを「見て感じるのは堕落しているという印象である」、「わが西洋の大都会に何千という堕落した大衆がいる――彼らはキリスト教徒として生れ、洗礼を受け、クリスチャン・ネームをもらい、最後には聖なる墓地に葬られるが、彼らよりも（≪「善悪・道徳の観念、高度な宗教をもたない」が、人類史の原型・母型・母胎である縄文的段階・アフリカ的段階の内在の精神性を残していた≫）アイヌ人の方が、「誠実、高貴、立派な生活を送っている」、総体として「アイヌ人は純潔であり、他人に対して親切であり、正直で崇敬の念が厚く、老人に対して思いやりがある」、と。また、独立革命以前のイングランド系移民である「コロニスト」（植民者）や「セトラー」（定住者）は、インディアンや同国人の死体を食すくらいに飢餓や疫病の流行等の困難を極めた植民であったが、白人進出以前の二万年前から先住する征服併合された被支配民であり、人類史の原型・母型・母胎であるアフリカ的段階の内在の精神性を残していた北米インディアンは、そうした彼らに対して平和的で親切であった。しかし、北米インディアンや黒人等に対するその支配の側（西欧近代）の支配の様式は、初期入植者の子孫である白人主義・アングロサクソン・プロテスタント（正当なアメリカ人としてのWASP）に基づいていた（『民族で読むアメリカ』）。一体どちらが聖書的であるといえるだろうか。したがって、バルトは、「われわれが最も激しく非難する全体的、非人間的強制にしても、遠い昔から西方の自称自由社会や自由国家にもほかの形で出没したことはなかったであろうか」と述べている（『バルト自伝』）、「先行する他のもろもろの時代のその問題意識にも……、真に耳を傾けることが出来るようになるために」、われわれは、西欧近代を頂点とした歴史の直線的な進歩・発展という「ヘーゲルの思想を、直ちに全面的に放棄しなければならない」と述べている（『ヘーゲル』）。

　自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階においては、「その時にはまだ」、復活に包括された「キリストの十字架は……全く宣べ伝えられていないのである」、復活に包括された「キリストの十字架の躓きが問題になっていない」のである、復活に包括された「キリストの十字架の中で啓示される救いが、問題となっていない」のである。したがって、「彼らは、実際には保証されていないのである」。自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教は、「罪であり、災いであるであろう遊びなのである」。何故ならば、「この人間自身は、神の恵みに対して、事実、然りを語っておらず」、むしろ「神の恵みに対して」、人間的理性や人間的欲求やが恣意的独断的に対象化し客体化した意味的世界を、物語世界を、「彼の現実存在のすべての要請と現実」を貫徹することで、「それとして（≪神の恵みに対して≫）否を語っている」からである。このような訳で、「人は、（≪自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教に≫）欺かれてはならない」のである。したがって、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の問題を明確に提起しなければならないのである。

　さて、「われわれは、……神に向かっての用意のできている人間を知っている」。先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」を生きたまことの人間を知っている。すなわち、その「まことの人間」は、ご自身の中での神としての「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「三位相互内在性」における「一神」・「一人の同一なる神」・「三位一体の神」の、われわれのための神としての「外に向かって」の外在的なその「失われない差異性」における第二の存在の仕方である「神自身の人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」であり、「啓示ないし和解の実在」そのものであり、起源的な第一の形態の神の言葉そのものであり、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストである、「イエス・キリストの名」――すなわち人間の歴史的形態である「ナザレのイエス」である。したがって、われわれが、そのことから、その単一性と区別を後景へと退け捨て去ってしまって、人間イエスだけを抽象し固定化し全体化して、生来的な自然的な「それとしての（≪われわれ≫）人間自身に関する結論を引き出すことをするならば、われわれは間違いを犯すことになる」のである。神の側の真実としてある先行する「�~の用意」に包摂された後続する「人間の用意」のできている人間、すなわち「神に向かって用意のできている人間」は、「真理であり、生命である」イエス・キリストである。したがって、「その方」は、生来的な自然的な「それとしての（≪われわれ≫）人間自身と同一ではない」のである、人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間としてのわれわれ「人間自身と同一ではない」のである。聖書的啓示証言は、先行する「�~の用意」に包摂された後続する「人間の用意」のできている人間、すなわち「神に向かって用意のできている人間」ということにおいて、人間論的な自然的な人間や教会論的なキリスト教的人間のことを言おうとしているのではなくて、教会論的な「キリスト教的人間自身の彼岸」・外にある、すなわち教会論的な「キリスト教的人間自身に超越している」、「まことに生命のある仕方で神に向かって用意のできている人間のことを言おうとしている」のである、すなわちイエス・キリストのことを言おうとしているのである。したがって、「もしもその方が啓示され給うとすれば、もしもその方が（≪神のその都度の自由な恵みの決断により教会論的な≫）キリスト教的人間の領域の中で主であり給うならば、その時には、キリスト教的人間もその方によって彼の疑わしい曖昧さから解放され、その内在性の中で選ばれ、分かたれ、義とされ、栄光あるものとされるであろう（ローマ八・二九以下）」。したがってまた、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリスト――「この方からして見、この方との関連の中で語られる時、……それはまた真実で、生命あるものであることができる」。何故ならば、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、「ナザレのイエスという人間の歴史的形態」、すなわち「イエス・キリストの名」（その外在的な「失われない差異性」における第二の存在の仕方）において、その「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「三位相互内在性」における内在的な三位一体の神の認識（啓示認識）と信仰（啓示信仰）を要求する啓示だからである。したがって、「キリスト教的神学と宣教」は、「神に向かって用意ができている人間について語る時」には、すなわちイエス・キリストについて語る時には、「作り話を考え出すことをしてはいない」のである、「作り話を述べようとはしていないのである」。

　このような訳で、われわれは、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神の側の真実としてある、神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性であるイエス・キリストにおいて、先行する「神の用意の中に含まれて、（≪後続して≫）人間にとって、神に向かっての、したがって神認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事≫）に向かっての人間の用意が存在する」と言わなければならないのである、すなわち先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意という「人間の局面」は、「全くただキリスト論的局面だけである」と言わなければならないのである。