カール・バルト（その生涯と神学の総体像）を理解するためのサイト

１１の２『教会教義学　神論�T／１　�~の認識』「五章　�~の認識　二十六節　�~の認識可能性」「二　人間の用意」（232-254頁）
再推敲・再整理版です。

「二　人間の用意」
　自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の「鍵となる立場」は、「神認識に対する人間の用意の問題の探求」に対して、神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」という「人間の局面」は「全くただキリスト論的局面だけである」にも拘らず、先行する「神の用意」としての「啓示の中での神の認識可能性」を後景へと退かせ、「人間の用意を独立した要因にまで高め」、それ故に先行する「神の用意を……唯一の用意として理解せず」、後続すべき「人間の用意」を先行する「神の用意に依存しているとは理解しない仕方で行う」という点にある。言い換えれば、その「鍵となる立場」は、「神認識に対する人間の用意の問題の探求」に対して、「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、「復活され高挙されたイエス・キリストから降下し注がれる霊である」聖霊の証しの力、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事（「存在的な必然性」）と「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の中での主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事（「認識的な必然性」）――この「啓示と信仰の出来事」を前提条件とした客観的な「存在的なラチオ性」（それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性）に包括された主観的な「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないが聖霊によって更新された人間の＜理性＞性）という総体的構造（神の側の真実としてある先行する「神の用意」）における「神の認識可能性」を理解しない仕方で行うという点にある。したがって、「自然神学は、……その啓示（≪起源的な第一の形態の神言葉であるイエス・キリストにおける啓示の出来事≫）の中での（≪具体的にはそのイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書の中での≫）神認識の可能性と並んで、第二の、ほかのところで基礎づけられた（神の）認識可能性を主張するという仕方で取り組む」のである。すなわち、それは、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異を固執するという＜方式＞を後景へと退かせ捨象してしまって、神だけでなく人間自身もという仕方で、人間の側から、主観的な生来的自然的な人間の自由な「理性と啓示」（神の側の真実としてある起源的な第一の形態の神の言葉である客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事、それ故に具体的にはイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言）、また生来的自然的な人間の自由な自己意識・理性・思惟の類的機能によって構成された「哲学と神学」（第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二形態の神の言葉である聖書を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とした神学≫）との「混淆」・「混合」、「共働」・「協働」、「神人協力」を主張するのである。「十字架につけられ、復活したイエス・キリストにおけるわれわれの実存という場所」において、「われわれの信仰より以前にも、信仰なしでも、……不信仰に抗して」も、「われわれのために生きて、われわれを支配し、われわれを愛し給うイエス・キリストを、認識し、持つことができることを示す」という課題、すなわち「神の啓示を説明するという課題のほかに、それと並ぶ（≪「人間学の後追い知識」としての≫）もう一つ『別な』神学の課題」を主張するのである。しかし、その時には、その自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階においては、その「神の啓示の内容は、（≪神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞における≫）神としての神から発生したのではなくて、人間的理性や人間的欲求やによって規定された神（≪人間的理性や人間的欲求やによって対象化され客体化された神、生来的自然的な人間の自由な自己意識・理性・思惟が神の造物主としての「存在者レベルでの神」、生来的自然的な人間の内的本質としての神≫）から発生した」ものであり、それ故に「この対象に即してもまた、『神学の秘密は人間学以外の何物でもない！』……」ものなのである（L・フォイエルバッハ『キリスト教の本質』）。

　このような訳で、徹頭徹尾第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者としようとはしない自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の「鍵となる立場」は、「どれほど真剣に自然神学に対して（≪前述したような仕方で≫）異議申し立て」を行ったとしても、それは、「教会の場の中で」、そして「キリスト教的自然神学という形態の中でこそ」、「無気味なほど深く強固な立場として存続している」のである。したがって、われわれは、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返している「シュライエルマッハー以外の他の人々（≪ブルトマン、モルトマン、ルドルフ・ボーレン、滝沢克己、北森嘉蔵、それらに類する神学者・牧師・キリスト教的著述家等々≫）の所でも」、「人間の自己運動を神のそれと取り違えるという混淆」を犯している、「神の自由を認識していない」、人間の神化あるいは神の人間化の原理を発見した「ヘーゲルの強力な痕跡に遭遇する……」のである（『ヘーゲル』）。したがってまた、われわれは、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」の「問題と取り組む際」、このような「自然神学の取り組み方をわれわれは拒否しなければならない」のである。しかし、イエス・キリストにおける「啓示の中での神の認識可能性とは別な種類の認識可能性の考えを主張する」自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教は、一方においては神の啓示の恵みとあわれみについて語るであるが、他方においては＜人間＞中心主義に、「人間学の後追い知識」としての「混合神学」、＜人間学的神学＞中心主義に「全く深く強固な仕方で基礎づけられている」から、そのような「別な種類の認識可能性の考え」に対して、「どこから……決定的」な「有効的確実」な「攻撃」ができるのかを「見極め」ることを困難にしているのである。したがって、自然科学や人文科学についての自由な学問・研究をなすところの大学の場に規定されて、例えば「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」をなしている大学神学者の佐藤司郎や小泉健が、平然と中世的思考に退行してルドルフ・ボーレンの「聖霊論的出発が、人間的なるものと、人間がなしうることの新しい強調を可能とする」、「聖霊論的出発」は、「神学の優位性を否定することなく」「人間学的局面にもその位置を正しく与える」、「聖霊論的説教論」は、「神学の優位性を確保しつつ、人間学を正当に評価する位置を与え得るもの」という空虚な空想をしているのである。このことは、経済社会構成を資本制に置き自由を原理とする西欧近代を人類史の頂点とする進歩史観を展開したヘーゲルの歴史哲学に依存して（ヘーゲルの歴史哲学を絶対化して）神学的な三段階的進歩史観を主張したモルトマンも同じである、またメルロ・ポンティの身体性の概念に依存して（メルロ・ポンティの身体性の概念を絶対化して）歴史への関わりを主張した喜多川信等々も同じである。したがって、純粋に人間学的領域からする、フォイエルバッハやハイデッガーによる根本的包括的な原理的な自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会宣教の段階にあるキリスト教に対する揶揄・批判は、客観的な正当性と妥当性を持っているのである、ちょうど自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会宣教の段階にある共同宗教としてのキリスト教の最後的形態は政治的近代国家であるというマルクスのキリスト教に対する揶揄・批判が客観的な正当性と妥当性を持っているように。

　生来的な自然的な人間の「理性や力」（知力、感性力、悟性力、意志力、想像力、身体的修行力等）という「人間の現実と可能性における神の恵みに対して開いている姿」は、すなわち「啓示の中での神の認識可能性に対する用意」（先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」）を後景へと退けたところでの「神の恵みに対して開いている姿」は、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階における「神学的な表現以外の何ものでもない」のである。「自然神学は全く、この可視的な使者および弁護人である」。何故ならば、例えば、「理性的思惟の絶対化」、すなわち「理性万能の妄想と理性の孤立の中」で、「神的汝をあこがれ求めている（≪生来的な自然的な≫）理性を解放する」というブルンナーの「神的汝をあこがれ求めている」「自信過剰」の＜半減＞された生来的な自然的な「近代的精神」、近代的な人間の自己意識・理性・思惟は、また「啓示の中で初めて甦って来るところのものである」としても、人間に固有な「啓示に先立つ『啓示能力』」、「結合点」、「形式的な神の像」、人間の「人間性」・「理性や応答責任性や決断能力」は、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという新たな神との「共働者」関係の構築を目指すそれとして（『教会教義学　神の言葉』および『ナイン！――エーミル・ブルンナーに対する答え』）、その「可能性と現実からは」、「必然的に」、「別な種類の神の認識可能性を問う」ことになってしまうからである。したがって、われわれは、次のように告白しなければならないであろう――「『もちろん福音をわたしは聞く、だがわたくしには信仰が欠けている』その通り――一体信仰が欠けていない人があるであろうか。一体誰が信じることができるであろうか。自分は信仰を『持っている』、自分には信仰は欠けていない。自分は信じることが『できる』と主張しようとするなら、その人が信じていないことは確かであろう。（中略）信じる者は、自分が――つまり（≪生来的な自然的な≫）『自分の理性や力によっては』――全く信じることができないことを知っており、それを告白する。聖霊によって召され、光を受け、それゆえ自分で自分を理解せず（中略）頭をもたげて来る不信仰に直面しつつ（中略）『わたくしは信じる』とかれが言うのは、『主よ、わたくしの不信仰をお助け下さい』という願いの中でのみ〔マルコ九・二四〕、その願いと共にのみであろう」（『福音主義神学入門』）、「『私がいま肉にあって生きているのは、私を愛し、私のために御自身をささげられた神の御子の信じる信仰によって、生きているのである。（これを言葉通り理解すれば、＜私は決して神の子に対する私の信仰に由って生きるのではなく、神の子が信じ給うことに由って生きるのだ＞ということである）』（ガラテヤ二・一九以下）（≪ここでも、ギリシャ語原典「神の御子の信じる信仰」の属格は、徹頭徹尾神の側の真実としてある主格的属格として理解されている≫）。（中略）（≪それ故に、≫）自分が聖徒の交わりの中に居る……罪の赦しを受けた（中略）肉の甦りと永久の生命を目指しているということ――そのことを彼は信じてはいる。しかしそのことは、現実ではない。……部分的にも現実ではない。（≪すなわち、≫）そのことが現実であるのは、ただ、われわれのために人として生まれ・われわれのために死に・われわれのために甦り給う主イエス・キリストが、彼にとってもその主であり、その避け所でありその城であり、その神であるということにおいてのみである」（『福音と律法』）。

　さて、先行する「神の用意」を後景へと退けて、換言すればあの「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的な可能性」としての存在的な必然性と「啓示の主観的可能性」としての認識的な必然性（「啓示と信仰の出来事」）を前提条件とした客観的な存在的なラチオ性に包括された主観的な認識的なラチオ性という総体的構造（先行する「神の用意」）の中で後続する「人間の用意」を後景へと退かせ捨象した自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返すところの、「神の啓示の光の中に移された人間の自分自身を保持し主張しようとする彼の試み」は、すなわち神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという人間の「自己表現」（神学者、牧師、著述家たちの自己表現）は、「神の恵みなしにも、神の恵みに常に先行しつつ、神の恵みを常に先取りしつつ」、それ故にあの総体的構造における先行する「神の用意」なしにも神を「認識することができるという主張でもって終わるしかない」のである。この彼らの「試み」は、「ただ単にそのような主張で終わっているだけでなく、実は、基本的にはまさにそのような主張でもってはじまっているのである」。何故ならば、人間の「そのような試みは、人間の自己満足の、したがって神に似た姿の、不遜さ、保持、主張によって成り立っている」からである。したがって、キリスト教会（そのすべての成員）が、「すべての自然神学の根本思想」を、すなわち「それの核心をなす」「（神の真理に相対しての独立性の中で）自ら真理であるという命題を否定したいと思うならば」、先ず以て「自分自身を否定しなければならない」のである。しかし、その自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返すことが、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会（そのすべての成員）のにおける「必然性」であるとするならば、その人間的な教会（そのすべての成員）は、「どうして……そのことをすることができようか」。したがって、「自然神学の根本思想」の問題を明確に提起することはできないところの神学者、牧師、著述家たち一人一人が「直接認識すると主張し、そのものに……直接結ばれていると主張している神」は、彼ら一人一人の「映像」、「その中で……罪、死、悪魔に、……また教会の説教と聖礼典に、神の言葉そのものに、出会い、反抗してゆく術を知っている」「自己意識」の「実体化」、「自己表現」、「存在者レベルでの神」、その偶像神の啓示以外の何ものでもないのである。その時、「人は、さらに次のことによく注意せよ」――その時、人は、「ほかの神学の中にではなく」、すなわち第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とする啓示神学の中にではなく、「自然神学の中に入って行くことになる」ということに「よく注意せよ」。

　われわれは、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」（換言すれば、キリスト教に固有な類と歴史性）の関係と構造（秩序性）における第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とする第三の形態の神の言葉である全く人間的な「教会の中での人間」、「一方で罪、死、悪魔、他方において説教、聖礼典、神の言葉によって、強力に挟み撃ちにされている人間について語っている」のであるから、カントの道徳哲学のような「何かある一つの自然神学と取り組んでいるのではなく」、「まさにキリスト教的自然神学と取り組んでいる」のである。言い換えれば、われわれは、ここで、「巧妙な名人芸」によって、一方で、外見的に「見たところ、至極要求がましくなく、謙遜な態度で登場」し、「断言的に語らず仮説的に語り」、「啓示、恵みをただ単に承認するだけでなく、啓示、恵みに対して内容的にも形式的にも優先権を与えている」、「いや、無条件的にさらに大きな重要性と正しさを認めている」ところの、しかし他方では、神だけでなく人間も、人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求も、人間学的な哲学原理・認識論・世界観、歴史学・心理学・教育学等もという志向性を手放さないところの、それ故に徹頭徹尾第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者としないところの「自然神学と、……取り組んでいるのである」。神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞の下での「神としての神から発生したのではなく、人間的理性や人間的欲求やによって規定された神から発生した」「啓示」（一般啓示）および「自然神学」と、イエス・キリストにおける神の自己「啓示」（特別啓示）および「啓示神学」との併存は、「全く別な次元の光」によって、すなわち啓示自身によって限界づけられているのである（≪「副次的可能性」は、「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、あの総体的構造において純粋な教えとしてのキリストにあっての神を尋ね求める「神への愛」、そのような「神への愛」を根拠とした「神の讃美」としての「隣人愛」という連関における「神への愛」にある≫）。したがって、トゥルナイゼンは、『ドストエフスキー』で、神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞の下で「神は神である。これがドストエフスキーのただ一つの中心的認識である。（≪したがって、≫）この神がどんなに偉大な高みに坐していようとも、一つの人神としようとはせず、またどんなに理想的であるにせよ、人間の魂の現実あるいは世界の現実の一片としようとしないこと、それが彼の唯一つの努力なのである」。しかし、自然神学は、一方で、「啓示あるいは啓示の神学に対して特別な場所を空けておく」ことによって、「啓示」および「啓示の神学」の「優位性を認めることによって」、しかし他方で、人間の自由な自己意識・理性・思惟の類的機能を駆使して「啓示に対しても手をつけ」、「啓示をも自由に処理」しようとするのである。すなわち、それは、「巧妙な名人芸」を駆使して、「恵みに逆らう抗争」をなすのである。「啓示から独立した自然と並んでその傍らに存在する恵み」は、「（たとえその場合恵みが自然に対してどれほど優越した仕方で位置づけられていようと）明らかにもはや恵みではなく」、すなわちそれは先行する神の側の真実としてある恵みではなく、生来的な自然的な「人間自身によって（≪恣意的独断的に≫）人間に与えられた恵み」なのである。生来的な自然的な「人間自身に固有な神認識」、「人間自身に固有な神認識と並んで存在する啓示」は、「明らかにもはや」「神としての神」ではないし、それ故に「神としての神」の「啓示ではない」のである。したがって、例えば、人間学的領域における前期と後期の総体を生き思惟し語ったハイデッガーは、「新約聖書の釈義に役立つ新しい哲学的な鍵」を、前期ハイデッガーの哲学原理に見出したキリスト教神学者のブルトマン（ブルトマン学派）における生来的な自然的な「人間自身に固有な神認識」、「人間自身に固有な神認識と並んで存在する啓示」に対して、「それよりは『むしろ無神論という安っぽい非難を受け入れた方がよい』」、『いわゆる存在者レベルでの神への信仰は、結局のところ神を見失うこと』」である、と客観的な正当性と妥当性とをもって根本的包括的な原理的な「揶揄」・批判したのである（木田元『ハイデッガーの思想』）。

　このような訳で、第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者としないところの、換言すれば「人間によって承認され考慮に入れられ、人間によって世のほかのもろもろの現象の傍らに並べて置かれた」ところの、生来的な自然的な人間的理性や人間的欲求やによって恣意的独断的に対象化され客体化された「霊感を受けた聖書の奇跡あるいは絶対無謬性をもって語る教会の奇跡」は、「明らかにもはや神の奇跡ではなく、むしろ人間的な世界観および自己理解の驚くべき要因」であり、そのような「超自然主義も、それが、結局、人間によって選ばれたものとしては、最後的にはただ、より高度な、仮面をつけた自然主義でしかない」のである。言い換えれば、キリスト教的自然神学は、「あたかも啓示」が、「選ぶ可能性ではなく、選ばれるべき可能性であるかのように」、あの神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる信仰の認識としての神認識の、啓示認識・啓示信仰の、人間的主観に実現された神の恵みの出来事の「唯一の可能性ではなく、一つの可能性であるかのように」、「啓示と関わることによって、そのすべてのおそれおののきと謙虚さにもかかわらず」、「啓示を、キリスト教的自然神学自身の技術の新しい形成物に造りかえてしまう」のである。この時には、「既にその発端において啓示を啓示でないものにしてしまう」のである。しかし、�~の側の真実としてある「神の現実の啓示は、人間が選ぶことはできない」のである。それは、その「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」に基づいて向こう側からやってくる徹頭徹尾神の恵みの賜物なのである。したがって、「われわれが哲学的用語をつかうという事実にもかかわらず、神学は哲学的試みが終わるところから始まる」し、神学も理性的な知的営為ではあるが、「神学は方法論的には、ほかの学問のもとで何も学ぶことはない」のである（『バルトとの対話』）、教会の宣教における思惟と語り、その一つの補助的機能としての神学における思惟と語りが、「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項であって、われわれ人間の決定事項ではない」のである、それ故にその思惟と語りは、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの（≪「祈り」の≫）人間的態度に対し神が応じて下さる（≪徹頭徹尾自存性と独立性との全体性における神の完全な自由における「祈りの聞き届け」≫）ということに基づいて成立している」のである（『教会教義学　神の言葉』）。

　ここで、われわれは、自然神学の段階にある哲学的神学・人間学的神学・混合神学における思惟と語りの典型と、第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とする自分の立場において自然神学の段階を包括し止揚し克服した＜非＞自然神学の段階にある啓示神学における思惟と語りの典型を提示することができる。
　近代主義者としておそらくはマルクスの自然哲学に依拠したであろう前者の典型な思惟と語り――「もはやいかなるキリスト者も、『聖書』や『イエス・キリスト』という名を記憶している人たちさえも、もはやこの地上のどこにも残っていないとしても、それでもなお、（≪未だ区別や分節化がされていない未分化のままの総合や自然や宇宙の概念と呼んでもよいところの≫）『神われらとともに』という事実にわたしたちが堅く結びつけられているということそのことは、神（≪おそらくは人類史のアジア的段階において世界普遍性を持ち得た自然を内面の原理とする「草木・……・山河・大地・大海皆是れ……仏なり」、草木国土悉皆仏性、「草木国土悉皆成仏」、山川草木悉皆仏性を説いた天台本覚論におけるような神概念≫）において永遠に決定されていることなのだ」（『滝沢克己著作集第二巻　カール・バルト研究』）。
　後者の典型的な思惟と語り――「『神がそこでわれわれに出会い給うその恵みの御言葉（≪起源的な第一の形態の神の言葉≫）は、イエス・キリスト（≪ご自身の中での神としての内在的な「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「三位相互内在性」における三位一体の神の、われわれのための神としての外在的な「失われない差異性」における第二の存在の仕方、「ナザレのイエスという人間の歴史的形態」、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」、子なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事、「啓示ないし和解の実在」そのもの≫）と呼ばれる。すなわち、神の子にして人の子、真の神にして真の人、インマヌエル、この一つなる方におけるわれらと共なる神である』と、答えうるにすぎない。キリスト教信仰は、この『インマヌエル』との出会いである。イエス・キリストとの出会いであり、イエス・キリストにおける神の活ける御言葉との出会いである。われわれが（≪第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉、その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」である≫）聖書を神の御言葉と呼ぶ場合……、われわれは、それによって、聖書を、この神の唯一の御言葉についての（イエス・キリストについての、神のキリストであり永遠にわれわれの主にして王なるイスラエルから出たこの人についての）預言者・使徒の証しとして、考えているのである。そして、われわれがそのことを告白する場合、われわれが（≪聖書を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とした第三の形態の神の言葉である全く人間的な≫）教会の宣べ伝えを神の御言葉と敢て呼ぶ場合、それによってイエス・キリストの宣べ伝えが理解されていなくてはならない」（カール・バルト『教義学要綱』）。