カール・バルト（その生涯と神学の総体像）を理解するためのサイト

１１の１『教会教義学　神論�T／１　�~の認識』「五章　�~の認識　二十六節　�~の認識可能性」「二　人間の用意」（232-254頁）
再推敲・再整理版です。

「二　人間の用意」
　「教会史的現象」としてある自然神学には「客観的な可能性」や「客観的な生命力」は存在しないと「否定的な判断を下し」、その自然神学を包括し止揚し克服していく「決断をなしてゆく」ためには、「人は、その際に、為すところのこと、また為さないでいることが何であるかをよく」認識し自覚していなければならない。何故ならば、人がそのことを認識し自覚していない時には、「人は知らずして再び不服従に陥ってしまう」ことになるからである。すなわち、その時には、人は、「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞を後景へと退かせ捨象し、「知らずして再び」、人間中心主義的な人間の神化あるいは神の人間化という「混淆」、キリストの啓示と一般的な啓示との「混合」、「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」とそのことに信頼せずキリストの啓示から独立させたそのほかの神の認識可能性との「混合」、教会の宣教の一つの機能としての神学と人間学との「混合」、二元論的な「福音の言葉」とそれから独立させた社会的政治的な言説や法的政治的な国家の言語との混合、「神人協力」を目指す自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返す神学者や牧師や著述家たちの恣意的独断的な人間的理性や人間的欲求やが対象化し客体化したに過ぎない「存在者レベルでの神」（偶像神）、その神の啓示、「人間学の後追い知識」としての人間学的神学に対する服従という「不服従に陥ってしまう」ことになるからである。また、その時には、キリスト教に固有な類と歴史性に連帯すべき第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会（すべての成員）は、「聖書こそが、教会に宣教を義務づけている」のであるが、三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」の関係と構造（秩序性）における第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、他律的服従と自律的服従との全体性において、それに聞き教えられることをとおして教えるという仕方で、純粋な教えとしてのキリストにあっての神・キリストの福音を尋ね求める「神への愛」（そのような「神への愛」を根拠とした「神の讃美」としての「隣人愛」という連関）において、イエス・キリストをのみ主・頭とするイエス・キリストの「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を目指していないからである。このようなことは、本来的には、「教会の地盤の上では議論の余地なく……不可能」なことである。

　そのような自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階を包括し止揚し克服し、＜非＞自然神学あるいは＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階へと移行することができる「単純で、自明的な認識」は、次のような「認識」（自覚）にある――すなわち、それは、第一に、「神の認識可能性をただ神ご自身の用意の中でだけ見出すことができ」るという認識と自覚である、すなわち先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神の側の真実としてある、神の側からする神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事≫）に向かっての人間の用意が存在する」という認識と自覚である、換言すればキリストの「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、「復活され高挙されたイエス・キリストから降下し注がれる霊である」聖霊の証しの力、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事（「存在的な必然性」）と「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の中での主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事（「認識的な必然性」）――この「啓示と信仰の出来事」を前提条件とした客観的な「存在的なラチオ性」（「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性）に包括された主観的な「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないが聖霊によって更新された人間の＜理性＞性）という総体的構造における神の認識可能性という認識と自覚である。第二に、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会の宣教における思惟と語り、その一つの補助的機能としての神学（教義学）における思惟と語りが、「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、（≪全き自由な≫）神ご自身の決定事項であって、われわれ人間の決定事項（≪自由事項≫）ではない」、それ故にわれわれのその思惟と語りは、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの（≪「祈り」の≫）人間的態度に対し神が応じて下さる（≪「祈りの聞き届け」≫）ということに基づいて成立している」という認識と自覚である。ここに、「今これから問われなければならない」肝要なこと――すなわち「どういう教会ノ意見ノ一致が問題であるか」という問いに対する答えがある。したがって、二元論的にイエス・キリストにおける神の自己啓示から独立させた「そのほかの神の認識可能性を期待するようなすべての神学」（総括的に言えば自然神学の段階にある「すべての神学」）は、「その発端において、（≪第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言における≫）神が身を置き給うたところとは別な方を見ており、それと共に既にその発端においてキリスト教的神概念に対する暗殺計画を意味しているが故に」、「教会の地盤の上では議論の余地なく……不可能」なものなのである。

　このような訳であるから、「神認識ということ」においては、「人間の用意も理解されていないとしたら、神認識なるものはもともとないであろうから」、「自然神学の生命力を問う問い」は、「人間の用意として理解されなければならない神の認識可能性を問う問いの探求の中に含まれていなければならない」。この時、先ず以て、神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」という「人間の局面」は、「全くただキリスト論的局面だけである」ということが認識されていなければならない。言い換えれば、「神は認識可能である」ということは、「全くただひたすら神の用意、換言すれば神の啓示の恵みとあわれみの中でわれわれに対し贈り与えられる神の認識可能性であるということ」が認識されていなければならない。「神の用意の中に含まれている人間の用意」が問題である。したがって、生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間の用意」が、生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間の本質と行為」が問題なのではない。言い換えれば、「神がわれわれによって認識されるべくご自身で用意してい給うということと共に」、その先行する「神の用意」と共に、「そのことの中で、また人間も神を認識すべく用意ができているという（≪後続する≫）人間の用意」が問題なのである。「あくまで、神の用意によって包まれ、基礎づけられ、限界づけられ、規定されつつ、それであるから決して独立した仕方ではなく、むしろ間接的に」、媒介的に、先行する「神の用意の後に従いつつ（≪先行する「神の用意」に後続しつつ≫）、（≪先行する≫）神の用意を通して無から存在へと、死から生命へと、呼び出されつつ、徹頭徹尾、神ご自身から、神ご自身による、神の認識可能性に依存しつつ」、「まさにこの徹底した依存性の中で」、それ故に神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞を堅持しつつ、「被造物が神との関係の中で存在することができる限り」、「現実の仕方で、神を認識しようとする（≪後続する≫）人間の用意が存在するのである」。神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事（「存在的な必然性」）と「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の中での主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事（「認識的な必然性」）――この「啓示と信仰の出来事」を前提条件とした客観的な「存在的なラチオ性」（「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性）に包括された主観的な「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないが聖霊によって更新された人間の＜理性＞性）という総体的構造において神の認識可能性は存在するのである。しかし、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教は、この「神認識に対する人間の用意の問題の探求」を、後続する「人間の用意」を包摂した先行する「神の用意」を後景へと退かせ捨象して「人間の用意を独立した要因にまで高め、したがって……神の用意を……唯一の用意として理解せず、神の用意に依存しているとは理解しない仕方で行う」（それ故に、恣意的独断的に行う）のである。したがって、「自然神学は、……その啓示の中での（≪具体的には聖書の中での≫）神認識の可能性と並んで、第二の、ほかのところで基礎づけられた（神の）認識可能性を主張するという仕方で取り組む」のである、「理性と啓示」、「哲学と神学」との「混淆」・「混合」を主張するのである、「神の啓示を説明するという課題のほかに、（≪「人間学の後追い知識」としての≫）それと並ぶもう一つ『別な』神学の課題」を主張するのである。「われわれは、（≪自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返している≫）シュライエルマッハー以外の他の人々（≪ブルトマン、モルトマン、ルドルフ・ボーレン、滝沢克己、北森嘉蔵等々≫）の所でも」「人間の自己運動を神のそれと取り違えるという混淆」を犯している、「神の自由を認識していない」、「ヘーゲルの強力な痕跡に遭遇する……」のである（『ヘーゲル』）。したがって、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」の「問題と取り組む際」、このような「自然神学の取り組み方をわれわれは拒否しなければならない」のである。したがってまた、神認識が可能であるとするならば、「どの程度まで神は人間にとって認識可能であるかを問うことは必然的なことである」。「この問いに対する正しい答え」は、そして「ただその中でだけ」、「われわれの……自然神学の拒否は拒否として意味深く……あることができる」。何故ならば、その「正しい答え」は、「自然神学によって答えられた正しくない答えの発生と存続の可能性が、まさにそれと共にそのような答えの生命力の秘密を、必ずや明らかにする」からである、換言すればその「正しい答え」は、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教についての問題を明確に提起しているからである――「問題を明確に提起することは、その問題の解決である」（マルクス『ユダヤ人問題によせて』）。

　前述したように神の側の真実としてある先行する「神の用意」とは先行する「神の恵み」であるから、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」は、「明らかにその（≪先行する神の≫）恵みに対する人間の用意でなければならない」。したがって、先行する「神の用意」（「神の恵み」）に包摂された後続する「人間の用意」は、人間の側の神の恵みを受入れる用意のこと、人間の側の神の恵みに対する「開放性（開かれた心）」のことである。したがってまた、先行する「神を認識しようとする（≪後続する≫）人間の用意」は、自己還帰する対自的であって対他的な（完全に自由な）聖性・秘義性・隠蔽性において存在している「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「父なる名の内三位一体的父の名」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」における内在的な「一神」・「一人の同一なる神」・「三位一体の神」として「ただ単にご自身の中で主、創造主、和解主、救済主であり給うだけでなく」、「ただ単にご自分に対して父、子、聖霊として開いてい給うだけでなく」、またわれわれのための神としての「外に向かって」の外在的なその「失われない差異性」における三つの存在の仕方（父、子、聖霊なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事全体）の中での第二の存在の仕方（子なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事、「啓示ないし和解の実在」そのもの、起源的な第一の形態の神の言葉）において「人間にとっても」「それらすべてのもので……あり給うという奇蹟」を、あの神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて人間の側が受入れるという点に、換言すればそのことに対して人間の側が心を開いているという点にある。先行する「神を認識しようとする（≪後続する≫）人間の用意」は、前述したことからして、あるいは1936年の講演『神の恵みの選び』に即して言えば、イエス・キリストにおける復活に包括された死と復活の出来事は、「生来人間は神の恵みに敵対し、神の恵みによって生きようとしないが故」に、「このことこそ、第一に恵みが解放しなくてはならない人間の危急であった」ということを、われわれ人間に自己認識・自己理解・自己規定させることからして、第一に、「恵みに対して人間が欠乏している姿」――すなわちキリストにあっての神は「この恵みの奇蹟の中で認識可能となるほかには、人間にとって認識可能となることはない」というそれ、第二に、「恵みについての人間の認識」――すなわちこの恵みの奇蹟を通してだけからしてしか、人は、「神の恵みを必要としている自分の欠乏した姿を認識することはできない」というそれ、第三に、「恵みをすすんで受入れようとする人間の乗り気」――すなわち「恵みの奇蹟」に対して心を開いているためには、�~の側からする「神的介入に対して、人間の主観的な乗り気」、換言すれば「恵みの奇蹟をあくまで堅くとって離さないでいようとする」恵みの奇蹟に対する他律的服従と自律的服従との全体性におけるそれ、から「成り立っている」。「神認識がまさに神の恵みである時」、この「三重の前提が満たされることなしには、神の認識可能性は存在しない」。したがって、「この開いていること」（「恵みの奇蹟」に対して心が開いていること」）が、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階における、直接的無媒介的に、生来的な自然的な人間の側から開いていることであるとするならば、そのことは、先行する「神の用意」に対して、人間が「完全に心を閉ざしている閉鎖性の中で起こっている」のである。何故ならば、その時、その現にあるがままの現実的な人間存在における人間は、人間論的な自然的な人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、生来的な自然的な「『自分の理性や力（≪知力、感性力、悟性力、意志力、想像力、身体的修行等≫）によっては』――全く信じることができない」し、「神に敵対し神に服従しないわれわれ人間は、肉であって、それゆえ神ではなく、そのままでは神に接するための器官や能力を持ってはいない」にも拘らず、「ただ単に偶然的、暫時的に」というだけでなく、「もともと生まれながら」に、それ故に「不断に」、「神の恵みなしにも存在することができあるいは自分で自分に神の恵みを与えることができる富んだ者」という自主性・自己主張・自己義認の欲求のただ中を、それ故に不信仰・無神性・真実の罪のただ中を生きているからである。その時、その人間は、「自然的な人間として、常に、至る所」、「客観的な不幸としてのこのできるという可能性を用いている」のである。したがって、その時、その人間は、そうした中で、先行する「神の用意に対して必然的に心を閉ざしてしまう」のである。その時、その人間は、「善悪を知る知識を所有しつつ人間は神のようであろうとし、かえってそのためにこそ不幸に陥ってしまい、まさにそのようにしてこそ神の恵みに対して疎遠となってしまう」のである、「心を閉ざす」のである。

　自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返す「この心を閉ざしている状態」を、人は、生来的な自然的な直接的無媒介的な「乗り気」や「理性や力」（知力、感性力、悟性力、意志力、想像力等）によっては「克服することはできない」のである――「彼の（≪生来的な自然的な≫）意志の乗り切りというものは、この弁証法の宿命的な循環を打ち破ることはないであろう」。何故ならば、そこでは人は、神だけでなく人間もというその現にあるがままの現実的な人間存在の「彼によって認識された（欠乏した姿と恵みの）弁証法に身を委ねようとする彼の用意（≪生来的な自然的な「人間の用意」≫）以外に何も持っていない」からである、換言すれば神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」とは異なった人間の自主性・自己主張・自己義認の欲求もという生来的な自然的な「人間の用意」を前提する「彼は、神の恵みと、ただあたかも彼がその神の恵みを（≪自分の自由事項や決定事項として、恣意的独断的に≫）意志的に欲しなければならないかのようにあるいは意志的に欲することができるかのように関わる」からである（この時、その最後形態においては、「神の恵みは彼にとって、彼を絶望へと突き落とす律法となるであろう」、それ故にそのただ中においても平然と「遊ぶ」人々は、先行する「神の用意に対して……心を閉ざしたままである」「律法学者とファリサイ派の人々」、それに類する人々だけであるだろう）。

　バルトは、『カント』で、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教を、総括的に「宗教とは、すべての神崇拝の本質的なものが人間の道徳性にあるとするような信仰であるとしたカントは、本源的であるゆえに、すでに前もって（≪生来的な自然的な≫）われわれの理性に内在している神概念の再想起としての神認識という点で、アウグスティヌスの教説と一致する」と述べた。神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」とは異なった、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返す生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間の用意」からする「人間的に開いていることについての表象や概念をいくら分析してみてもわれわれは、神を認識しようとする人間の実際の用意に対して、ほんの少しでも近づくことはできない」のである。したがって、「われわれは、常に……（≪生来的な自然的な直接的無媒介的な≫）人間が開いていることそれ自体は、それとしてただ単に、神の用意に対して彼が心を閉ざしていること、彼自身用意ができていないこと」、それ故にそれは「神の認識可能性ではなく認識不可能性を意味する」ということ、換言すればそれはその最初から「認識不可能性を意味する」が故に「誤謬は必然」であるということを認識し自覚していなければならない。すなわち、われわれは、神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」とは異なる生来的な自然的な・直接的無媒介的な「人間の用意」については、「必然的に『不服従の中に』（ローマ一一・三二）閉じ込められているというあの閉鎖性のことを考えることができるだけ」なのである。第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書を自らの思惟と語りのける原理・規準・法廷・審判者・支配者とする第三の形態の神の言葉である教会は、あの「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、「人間が（≪先行する≫）神に（≪後続して≫）聞くというこの一事によって―― 神が（≪先行して≫）人間に語り給うゆえに（≪後続して≫）聞き、神が（≪先行して≫）人間に語り給うことを（≪後続して≫）聞くというこの一事によって、基礎づけられ、支えられているのである。（中略）このことが起こるところ、そこではたとえ二人三人の集まりであっても、またこの二人三人が決して選り抜きの人でなくても、また高い水準にさえ達していなくても、またむしろ人間の屑に属するものであるようなことがあっても、教会は存在する」のである、「（≪それ故にそうでない場合は、）どのような大群衆をその中に擁し、どのように優れた個人をその中に擁していても教会は存在しない。またそれが、もっとも豊かな生命を示し、国家と社会において、どのように尊敬されようとも教会は存在しない」のである（『啓示・教会・神学』）。

　われわれには、神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」について、さらに究明しなければならない「要因」がある。神は「ご自身を人間に対して、現実に啓示し給うた。そして、その啓示の中で神の恵みは現実に人間のところに来たのである。まさにそのことに基づいてこそ、われわれは……神をその啓示の恵みを通して明らかにされた現実性の中で……考察してゆく権利を持つだけでなく、考察していくべき義務を持っている……神の恵みが人間の不幸を救うために助けとなることを信じることができるという前提を立てるべき権利と義務を持っている」。このことは、「教会の説教と聖礼典の中でなされる宣教からして、教会を基礎づけ、保持する神の言葉からして、前提されなければならない……」、換言すればそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」（換言すれば、キリスト教に固有な類と歴史性）の関係と構造（秩序性）における教会の宣教の思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者としての起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）、具体的には「教会に宣教を義務づけている」その第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）からして、前提されなければならない。このように、「現実に恵みを人間にもたらし、提供する神の言葉を念頭においてだけ、……人間の用意について語ることができる」。したがって、「神の恵みの現実的な言葉の光の中で明らかになってくる困窮と救助の現実性全体」――すなわち、「神の恵みに対して開いている人間についての思想」・先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」を念頭に置いた神の恵みに対して心を開いている人間についての思想とは異なった、生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間の用意」を前提としている思想・生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間の本質と行為」を前提としている思想は、「現実的な啓示を考えることをもってしても、神に対する現実的な人間……の用意にまで到達しはしなかった」のである、すなわちそこでの人間は、「神の用意に対して心を閉ざした不従順の中に閉ざされた人間であることができただけだった」のである。言い換えれば、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」について語るとしても、われわれが、「人間の現実」を、生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間自身の内的な現実として理解する」限り、またそのような「人間そのものについて語っている時、また語っている限り」、「たとえ彼が、その最後的な失われた滅びに陥った姿の中で見抜かれた人間であり、教会の説教と聖礼典を通して、したがって最後的には神の言葉そのものを通して語りかけられ、したがって（≪イエス・キリストを≫）信じる人間であっても、それとしての彼自身は、依然として、（≪先行する≫）神の用意に対し心を閉ざした人間である」と言うことができるのである。すなわち、「人間が、罪の負い目を負うており、限界づけられており、最後に死ぬことができ、したがって失われ滅びに陥った者であり得る現実」、「その中で彼が恵みを必要としており、恵みを認識し、恵みを進んで受入れようと乗り気でいることができる現実」、「しかしまた、その中で彼がそのみ言葉の中での神の恵みの受領者であり、その中で彼が（≪イエス・キリストを≫）信じる者であることができる現実」――この「現実自身」は、「それとして、決して既に（≪先行する≫）神の用意に対する彼の閉鎖性を打ち破るものではない」のである。したがって、先行する「神の用意」に対する人間の「閉鎖性を打ち破」り、心を開く開放性について「真剣に語ることができるとすれば」、常に、そのような「人間の現実」の「外」・「彼岸」から「全く別なことが……付け加わってこなければならない」のである。すなわち、その時には、「人間の現実」は、「既に人間の外に（≪彼岸に≫）ある全く別なものに基づいており、根ざしていなければならない」のである、「換言すれば、その人間の現実が全く別なものから生き、その別なものから実在であるという仕方で、その別なものに基づいており、根ざしていなければならない」のである。すなわち、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」という「人間の局面」は、「全くただキリスト論的局面だけである」ということが、神の側の真実としてある主格的属格として理解されたギリシャ原典「イエス・キリストの信仰」（イエス・キリストが信ずる信仰）による「律法の成就」・完了、すなわち「神の義、神の子の義、神自身の義」ということが、その「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」――すなわち、あの神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて啓示認識・啓示信仰を与えることができる授与能力ということが付け加わってこなければならないのである。その時には、「まさに啓示の恵みを通して正体を暴露された人間存在の現実の姿こそが、われわれに対して、人間自身はそれとして平和の中にいるのではなくむしろ恵みに対する抗争の中にいるということを示すのである」、ちょうどあの「啓示と信仰の出来事」に基づいて与えられる啓示認識・啓示信仰（人間的主観に実現された神の恵みの出来事）に依拠した信仰の類比を通して、「神に対する人間的反抗」、「罪深い堕落した人間」、そのような「人間の世」・時間を自己認識・自己理解・自己規定できるように（その現にあるがままの現実的な人間存在におけるわれわれ人間の、恵みに対する抗争が「必然性」としてあるということは、「第一に恵みが解放しなくてはならない」「人間の不幸」であり、「人間の危急」である）。しかし、人間は、「それらすべてのことの中で終始、自分を保持し、自分を主張ことができるのである」、すなわち神に対して自分の自主性・自己主張・自己義認の欲求を求めるのである、「神に似た姿」、「富んだ者の役割」、「神人協力」を「夢を見る」のである。

　このように、人間論的な自然的人間、教会論的なキリスト教的人間、誰であれ、生来的な自然的な直接的無媒介的な人間は、「現実には、（キリストにあっての神の恵みに）担われることを決して望みはしないのである」。われわれが、生来的な自然的な直接的無媒介的な「人間の用意」、「人間の本質と行為」を前提としている限り、そのことは、「われわれが人間を神の言葉の光の中で考察する時でも変わらない」のである。したがって、われわれ人間は、常に、神の側の真実としてある「外」から・「彼岸」から・先行する「神の用意」の側から更新されなければならないのである。確かに、人間は、恣意的独断的に、「恵みを信じるであろう」、「恵みを感じるし、恵みを喜んでいると主張するであろう」、「恐らく恵みを讃美するであろう」、「恐らく恵みを教え、……恵みを弁護し、またそれらすべてのことを全くの誠実さをもってなすであろう」。しかし、「彼は、それらすべてのことの中で、終始、恵みから生きないであろう」、先行する神の恵みに後続して生きないであろう。また、人間は、「恐らく恵みに対する彼の熱心さによって生きるかもしれないし、恐らく恵みについての彼の認識によって生きるかもしれない」、「また、恵みを進んで受入れようとする彼の意欲によって生きるかもしれない」。しかし、「彼は、恵みそのものによって生きはしないであろう」、神の側の真実としてある先行する神の恵みによって生きはしないであろう、「むしろ……恵みに逆らって生きるであろう」。第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書（その最初の直接的な第一の「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を、徹頭徹尾自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者としないであろう。したがって、「キリスト教的な、教会的な、また全くプロテスタント的――教会的なキリスト者の生の現実も、教会の生の現実も、それとして、どこにおいても決して、恵みに対して開いている人間の姿について証ししてはいない」のである。総括的に言えば、質的・量的な差異があるにせよ、「キリスト教的な、教会的な、また全くプロテスタント的――教会的なキリスト者の生の現実も、教会の生の現実も」、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階に埋没しているのである。自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階における神認識と、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて終末論的限界の下で与えられる神認識との間には、「依然として越えることのできない深淵」があるのである。神の側の真実としてある先行する「神の用意」に包摂された後続するわれわれ人間が人間的に所有する人間の信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事は、「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力」、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、キリストの霊である聖霊の証しの力、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事（「存在的な必然性」）と「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の中での主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事（「認識的な必然性」）――この「啓示と信仰の出来事」を前提条件とした客観的な「存在的なラチオ性」（「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性）に包括された主観的な「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないが聖霊によって更新された人間の＜理性＞性）という総体的構造においてのみ可能なのである。そして、この「神認識」についての思惟と語り（神学における思想）こそが、客観的な正当性と妥当性とをもって根本的包括的に原理的に揶揄・批判したフォイエルバッハやハイデッガーのキリスト教批判を包括し止揚し克服できる「神認識」の水準にあるものと言うことができる、＜非＞自然神学あるいは＜非＞自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階へと移行した思惟と語り（神学における思想）と言うことができる。何故ならば、その思惟と語り（神学における思想）は、教会の宣教（その一つの補助的機能としての神学、教義学）における思惟と語りが「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項であって、われわれ人間の決定事項ではない」ということ、それ故にその思惟と語りは「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの人間的態度（≪祈り≫）に対し神が応じて下さる（≪祈りの聞き届け≫）ということに基づいて成立している」それであるからである。したがって、先行する「神の用意」に包摂された後続する「人間の用意」において、徹頭徹尾、その先行する「神の用意」に対して理性や心を「開いた態度」とは、神のその都度の自由な恵みの決断に基づいた聖霊によって更新された理性や心の「開いた態度」における、「神の認識可能性の再発見」ということになる。したがってまた、その「開いた態度」は、存在的なラチオ性に包括されているであろう、その存在的なラチオ性に包括された聖霊とは同一ではないが、聖霊によって更新された神の恵みの奇蹟に対して「開いた態度」の人間の理性性（認識的なラチオ性）は、存在的な必然性と認識的な必然性（「啓示と信仰の出来事」）を前提としているであろう。