カール・バルト（その生涯と神学の総体像）

８の１『教会教義学　神論�T／１　�~の認識』「五章　�~の認識　二十六節　�~の認識可能性」「一　�~の用意」（154−177頁）
再推敲・再整理版です。

「一　神の用意」
　われわれが、「ローマ・カトリックの教説との……対決」で「示したこと」は、次の点にある――先ず第一に、「（われわれが教会の頭および牧者として信じている）�~は、（≪ご自身の中での神としての聖性・秘義性・隠蔽性において存在している「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」における内在的な「一神」・「一人の同一なる神」・「三位一体の神」としての≫）主、（≪それからまたわれわれのための神としての「外に向かって」の外在的なその「失われない差異性」における三つの存在の仕方、父、子、聖霊なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事全体、すなわち≫）創造者（≪起源的な第一の存在の仕方としての啓示者・言葉の語り手≫）、和解者（≪第二の存在の仕方としての啓示・語り手の言葉・起源的な第一の形態の神の言葉≫）、救済者（≪啓示されてあること・それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性≫）であり給う」ということである。第二には、「�~の認識可能性」は、「�~の自由な適意〔み心に適うこと〕として理解されるべき�~ご自身の用意の中でだけ見出すことができる」ということである。すなわち、それは、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事（存在的な必然性）と「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事（認識的な必然性）を前提条件とした、「存在的なラチオ性」（それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性）に包括された「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないところの聖霊によって更新された人間の理性性）にあるということである。言い換えれば、イエス・キリストにおける神の自己啓示は、その「啓示自身に固有な証明能力」を持っているということである、先行する神の用意に包摂された後続する人間の用意ができているところの、「人間に対する神の愛と神に対する人間の愛の同一」（『ローマ書』）であり、「永遠の（神との人間の）和解」（神の側の真実としてある、神の側からする神の人間との架橋）であり、神との間の「平和」（ローマ五・一）であり、それ故に神の認識可能性である「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストにおいて、「神の用意の中に含まれて、人間にとって、神に向かっての、したがって神認識（≪信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事≫）に向かっての人間の用意が存在する」いうことである。したがって、われわれは、「われわれの神認識の確実性を確かめるためには、ただ神によって遂行された介入の実在を堅くとって離さないでいるしかない」ということである、それ故に「われわれはただ神の認識可能性に対して感謝することができるだけである」ということである、それ故にまた「われわれは神の認識可能性を、……（≪人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍、人間学的な哲学原理・認識論・世界観等≫）既に存在している類比（≪存在の類比≫）の中で見出すことはできないということである」（何故ならば、その中で見出すことができるとするならば、その時、その見出されたそれは、まさにフォイエルバッハやハイデッガーによって客観的な正当性と妥当性とをもって根本的包括的に原理的に揶揄・批判された対象そのものでしかないそれだからである）。「ただ神の恵みを通して造り出されることができる類比（≪神のその都度の自由な恵みの決断による客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事とその啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事に基づいて終末論的限界の下で与えられる啓示認識・啓示信仰≫）の中で、（それに対してわれわれが、……然りを言うところの恵みと信仰の類比の中で）だけ（≪啓示認識・啓示信仰に依拠した信仰の類比の中でだけ≫）、見出すことができる」ということである。イエス・キリストにおける神の自己啓示は、その外在的な「失われない差異性」における第二の存在の仕方（子なる神の存在としての神の愛の行為の出来事、「啓示ないし和解の実在」そのもの、起源的な第一の形態の神の言葉そのもの）である「ナザレのイエスという人間の歴史的形態」、「イエス・キリストの名」において、その存在の本質である「失われない単一性」・神性・永遠性の認識（啓示認識）と信仰（啓示信仰）を要求する啓示である。したがって、総括的に言えば「〔すべての自然神学は〕議論の余地なく〔不可能である〕」ということ」である。しかし、このようなわれわれの「神の認識可能性についての洞察」は、「実際にはそれほど簡単で自明的な事柄」ではない。何故ならば、「われわれ自身…あるいは世とわれわれの関係の中にある（われわれの神認識の）根拠を尋ね求める問い」は、換言すれば自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階においてその根拠を尋ね求める問いは、それぞれの時代、それぞれの世紀、それぞれの世代において、繰り返し「繰り返しよみがえって」くるからである。その典型が、自然科学と人文科学の自由な学問・研究の場である大学において、「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「人間学の後追い知識」として現存している「すべての大学社会の神学」である（『ルートヴィッヒ・フォイエルバッハ』）。したがって、われわれは、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返さないようにするためには、それらから対象的になってそれらから距離を取らなければならないのである。

　総括的に言えば自然神学の段階あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返す「人間のこころみ」（企て）は、「彼の現実存在および世の現実存在に関するある種の答えを通して（≪人間の感覚と知識を内容とする経験的普遍、人間学的な哲学原理・認識論・世界観等を通して≫）、自分自身および世と決着をつけようとするこころみ、（≪世から――ある社会構成・支配構成・文明的文化的構成から取り残され孤立化することに対する恐れによって≫）自分と世の間に均衡状態を造り出そうとするこころみ、あるいは彼の答えの目標あるいはまた彼の問いの起源を第一のものおよび最後のものとして」、そのような人間の試み（人間的理性や人間的欲求やに対象化され客体化された「救い（≪平和≫）の計画と救い（≪平和≫）の方法」の企て）を「自分の神（≪「存在者レベルでの神」、偶像≫）として、見なそうとしながら、その方向にそって問いを立てようとするこころみ」である。したがって、その時には、次のように客観的な正当性と妥当性とをもって、「（中略）神の啓示の内容は、（≪キリストにあっての≫）神としての神から発生したのではなくて、人間的理性や人間的欲求やによって規定された神から発生した……。（中略）こうして、この対象に即してもまた、『神学の秘密は人間学以外の何物でもない！』……」と根本的包括的に原理的に批判されてしまうのである（フォイエルバッハ『キリスト教の本質』）。したがってまた、この時には、第三の形態の�~の言葉に属する全く人間的な教会の成員のわれわれは、『福音と律法』に即して言えば、「神の要求」を、人間的な「自分自身の要求」に、「自分で満足させ得る要求」に変えるのである、「神的な『汝は斯くなすであろう』を変じて」、「人間的な余りに人間的な『汝は斯くなすべし』」をつくり上げるのである。具体的には、ある者は「盲目的に」仕事へと没頭し、ある者は「人目をひくような簡素さと寡欲さに沈潜」し、ある者は「その時代の人間中の様々な敗残者に対して、熱心に博愛的配慮……教育的配慮を行」い、ある者は「大規模な世界改良の偉大な計画に邁進」し、ある者は「大衆や時代の傾向と手をたずさえて、ある種の正義に邁進する」のである。このような神に対する「熱心さの無知」は、「罪」に「勝利を収め」させる熱心さであり、「不従順」であり、「虚偽」なのである。何故ならば、その「無数の儀文」は、「偶像崇拝」、「神冒涜」を生じさせるからである。

　このような訳で、それらの「こころみ」（企て）は、人間論的な自然的人間だけでなく、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、その「自然的な人間的な生の意味であり、内容であり、自然的な人間は（異なったいろいろな精神を持って、ひどく異なった形式においてであるが）絶えずこのことと取り組んで従事している」、「人類の歴史と個人の歴史は、すべての失敗と並んでまた部分的に……こころみの成功を表示して」いるから「�~なしに自分自身を理解し、支配することができると考えている」「自然的な人間は、自分自身および世と決着をつけ、この彼の努力の目標および起源（「彼の生の意味および内容」）」を、「第一のことおよび最後のこととして」、それ故に「自分の神として見なそうとすることであると言うことができる」。したがって、その時には、人間論的な自然的人間であれ、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、人は、「聖書が神と人間との同一視に対して反対していることを聞き逃し」（神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞が「聖書の主題であり、同時に哲学の要旨である」ことを聞き逃し）、「聖書から、それと共に」第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者とする第三の形態の神の言葉であるイエス・キリストをのみ主・頭とするイエス・キリストの「教会の根拠および存在から、遠ざかり」、それ故に「聖書が『神』と呼んでいる」キリストにあっての神から遠ざかり、それ故にまた生来的な自然的な人間的理性や人間的欲求やが対象化し客体化した「存在者レベルでの神」を追い求め、「わがまま勝手に」、「聖書が神と偶像との同一視に対して反対していることを聞き逃している」のであるから、「いずれにしても、聖書が帰していないところの」「自然的な人間」の理性や意志等の「能力と信頼性」は、換言すればそのような「彼の生の営みが為している証言」は、「持続的に、意見の一致を保ちつつ、明確に、人を確信させつつ、力を奮ったためしはない」のである。その証拠に、「新約聖書の釈義に役立つ新しい哲学的な鍵」を前期ハイデッガーの哲学原理に見出したブルトマンやその学派は、その前期と後期の全体性を生き思惟し語ったハイデッガー自身から、客観的な正当性と妥当性とをもって、「『今日まさにこのマールブルクでは、無理やり模造された敬虔さと結びついて、弁証法の見せかけがとくに肥大している』が、それよりは『むしろ無神論という安っぽい非難を受け入れた方がよい』、『いわゆる存在者レベルでの神への信仰は、結局のところ神を見失うことではなかろうか』」と根本的包括的に原理的に揶揄され批判されてしまった。しかも、この時、非常に惨めで悲惨なことは、そのことを認識し自覚していないのが、あるいはそのことを認識し自覚でき得ていないのが、自然神学あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の段階で停滞と循環を繰り返している神学者やそれに類する者たちだけであるという点である。「人間学の後追い知識」を追い求めているところの「何らかの抽象を以て始められ何らかの空論に終わるところの」「すべての大学社会の神学」者およびそれに類する者たちだけであるという点である。

　人間論的な自然的人間だけでなく、教会論的なキリスト教的人間であれ、誰であれ、その生来的な自然的な「人間（≪の「能力」≫）が考え出す神の像と神認識」、「それらは確かに（≪人間的理性や人間的欲求やが対象化し客体化した人間的自然として≫）存在するのであるが」、それらは、「われわれに知られている人間の歴史の範囲全体の中で」、神と人間との無限の質的差異を固守するという＜方式＞を「主題」とする「聖書が『神』と呼んでいる」キリストにあっての神「であったたしはない」のである。「『自然』神学の成果」と言われるものが示したことは、「そのどの形態においても、われわれが、その成果に圧倒されて、実在の『神』は『自然的』に認識可能であるということを」、換言すれば聖書の神と同一視できることを「認めざるを得ない」水準のものでは全くなかったということである。したがって、われわれは、次のように思惟し語るのである――「『もちろん福音をわたしは聞く、だがわたくしには信仰が欠けている』その通り――一体信仰が欠けていない人があるであろうか。一体誰が信じることができるであろうか。自分は信仰を『持っている』、自分には信仰は欠けていない。自分は信じることが『できる』と主張しようとするなら、その人が信じていないことは確かであろう。（中略）信じる者は、自分が――つまり（≪生来的な自然的な≫）『自分の理性や力（≪知力、感情力、悟性力、意志力、自然を内面の原理とする禅的修行等≫）によっては』――全く信じることができないことを知っており、それを告白する。聖霊によって召され、光を受け、それゆえ自分で自分を理解せず（中略）頭をもたげて来る不信仰に直面しつつ（中略）『わたくしは信じる』とかれが言うのは、『主よ、わたくしの不信仰をお助け下さい』という願いの中でのみ〔マルコ九・二四〕、その願いと共にのみであろう」（『福音主義神学入門』）。第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会の成員のわれわれの思惟と語りが、「キリスト教的語りの正しい内容の認識として祝福され、きよめられたものであるか、それとも怠惰な思弁でしかないかということは、神ご自身の決定事項なのであって、われわれ人間の決定事項ではない」のである。したがって、われわれの思惟と語りは、「『主よ、私は信じます。私の不信仰を助けて下さい』というこの（≪祈りの≫）人間的態度に対し神が応じて下さる（≪祈りの聞き届け≫）ということに基づいて成立している」のである。もしもそうでないならば、それは、まさに客観的な正当性と妥当性とをもって根本的包括的に原理的に揶揄・批判したフォイエルバッハやハイデッガーのキリスト教批判の対象そのものでしかないそれであるだろう。

　イエス・キリストにおける神の自己啓示は、その「啓示自身に固有な証明能力」を持っており、「�~の認識可能性」は、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示の客観的可能性」としての客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事（存在的な必然性）と「啓示の主観的可能性」としてのその啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事（認識的な必然性）を前提条件とした、「存在的なラチオ性」（それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性）に包括された「認識的なラチオ性」（聖霊と同一ではないところの聖霊によって更新された人間の理性性）にあるのであるから、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な教会の成員のわれわれは、「�~を認識しないことから……認識することへ」の、「それと共に滅びから救いへ」の「招きと導きの業」を、換言すれば純粋な教えとしてキリストにあっての神・キリストの福音の告白・証し宣べ伝えを、何度も述べてきたあの「神への愛」と「神への愛」を根拠とした「神の讃美」としての「隣人愛」という連関において為して行くことが肝要なことなのである。このことが、全く同じ人間的な「教会と世の間の、信仰と不信仰の間の、共通の対話の地盤」・「基礎」である。何故ならば、神の側の真実としてのみある主格的属格として理解されたローマ3・22およびガラテヤ2・16等のギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」（イエス・キリストが信ずる信仰）こそが、人間論的な自然的人間だけでなく、教会論的なキリスト教的人間であるわれわれにも内在する＜不信＞を包括し克服した＜信＞であり、それ故に信と不信を架橋する信であり、キリスト者と非キリスト者を架橋する信であり、キリスト教と非キリスト教を架橋する信であり、知と非知を架橋する信であるからである。ここには、最後的には結局は現実的な諸利害の対立・争いによって破綻してしまうであろう、理性主義、寛容主義も不必要である、それ故に理性的な対話・討議の可能性を前提とした党派的多元主義も不必要である。ご自身の中での神としての「失われない単一性」・神性・永遠性を本質とする「三位相互内在性」における内在的な三位一体の神の、われわれのための神としての「外に向かって」の外在的なその「失われない差異性」における第二の存在の仕方（子なる神の存在としての神の自由な愛の行為の出来事、「啓示ないし和解の実在」そのもの、起源的な第一の形態の神の言葉）であるイエス・キリストにおける「『神われらと共に』という言葉」、「キリスト教使信の中心」は、教会共同性、教団共同性のような「狭い共同体」から「その事実をまだ知らぬ」「すべての他の人々」、「広い共同体」に向かっての運動において、その現にあるがままの不信、非キリスト者、非キリスト教、非知、個体的自己としての全人間・全世界・全人類に対して完全に開かれているのである（『カール・バルト教会教義学　和解論�T／1　「和解論の対象と問題」』）。