１の１『教会教義学 神論Ⅰ／１ 神の認識』「五章 神の認識 二十五節 神認識の実現」「一 神の前での人間」
１の１『教会教義学 神論Ⅰ／１ 神の認識』「五章 神の認識 二十五節 神認識の実現」「一 神の前での人間」（３－８頁）
再推敲・再整理版です。
カール・バルト『教会教義学 神論Ⅰ／１ 神の認識』吉永正義訳、新教出版社に基づく
「二十五節 神認識の実現」
バルトは、次のような定式化を行っている。
神認識は、神の言葉の啓示が聖霊を通して実現される中で、起こる（≪神認識は、全き自由の神のその都度の全き自由の恵みの決断による客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事とその啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事に基づいて終末論的限界の下で起こる≫）。したがって、信仰と信仰の服従の実在の中で、また信仰と信仰の服従の必然性をもって、起こる（≪したがって、それは、信仰の認識としての神認識、啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事と、あの主格的属格として理解されたギリシャ語原典「イエス・キリストの信仰」そのものとしてのイエス・キリストにのみ固着せよ、あの「神への愛」と「神への愛」を根拠とした「神の讃美」としての「隣人愛」という連関においてイエス・キリストをのみ主・頭とするイエス・キリストの「ヒトツノ、聖ナル、公同ノ教会」を目指せというキリストの福音を内容とする福音の形式としての律法、神の命令・要求・要請への服従の実在の中で……起こる≫）。神認識の内容は、われわれがすべてにまさって愛することがゆるされるが故に、すべてにまさっておそれなければならない方、またその方自身われわれに対しご自身をそのように明らかに示し、また確かなものとなし給うたが故に、われわれにとって秘義であり続ける方、の現実存在である（≪神認識の内容は、ご自身の中での神としての「父なる名の内三位一体的特殊性」・「神の内三位一体的父の名」・「三位相互内在性」における内在的な三位一体の神の、われわれのための神としての「外に向かって」の外在的なその「失われない差異性」における第二の存在の仕方、すなわち起源的な第一の存在の仕方である父なる神の子としての「啓示ないし和解」、起源的な第一の形態の神の言葉、「まさに顕ワサレタ神こそが隠サレタ神である」まことの神にしてまことの人間イエス・キリストの現実存在である≫）。
「一 神の前での人間
人は、終末論的限界の下で、絶えず繰り返し、具体的には第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身（「啓示ないし和解の実在」そのもの）を起源とする第二形態の神の言葉である預言者および使徒たちの最初の直接的な第一のイエス・キリストについての「言葉、証言、宣教、説教」（聖書――「啓示ないし和解」の「概念の実在」）を、自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で宣教をなすところの、イエス・キリストを主・頭とする第三の形態の神の言葉に属する「イエス・キリストの教会の中」において、「父、子、聖霊なる神」、その「神の恵みと真理」、「神の思い業」、「また神の約束、設定、命令」、「神の国」、「神の支配の領域における人間と生」について、「語られ、聞かれなければならないすべてのことの前提、意味、力として、徹頭徹尾、起源的に、決定的に、動かし、担い、基礎づけ、実現させるところの主体としての神ご自身」について「語り、聞くようになる」。教会教義学の「神論」――すなわち「神についての教説」は、「この主体そのものについて、……取り扱う」のである。したがって、「われわれはこの神論の中で、正しい意味で『神』という言葉を使うことを学ばなければならない」。何故ならば、先ず以て「われわれがこの主辞について正しく語らないとすれば」、「その賓辞について正しく語ること」ができないからである。それだけでなく、「この主辞について正しく語らないとすれば」、その時その神は、フォイエルバッハが客観的な正当性と妥当性をもって指摘したように、人間的理性や人間的欲求やによって対象化され客体化された神（人間が造ったに過ぎない偶像）、換言すればハイデッガー自身が前期ハイデッガーの哲学原理に依拠したブルトマン（ブルトマン学派）を根本的に原理的に批判した「存在者レベルでの神」（人間的理性や人間的欲求やによって対象化され客体化された偶像としての神）に過ぎないものだからである。
さて、「われわれが神についての教説」・「神論」において解明すべき「前提」は、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的なイエス・キリストを主・頭とする教会の中における「神認識の遂行」――この「神認識の問題」にある。すなわち、「われわれはどの程度まで神を認識し、それに基づいて神について語り、聞くことができるのかを認識しなければならない」。ここでは、「神は教会の中で果たして認識されるのかということが問題なのではない」。「神認識と神の存在の問題に対する基本的な態度」が問題なのである。アンセルムスは、「キリストが人間となり給うこと、キリストの贖罪死」の必然性を「理解シヨウ、理性的に論証シヨウとした」が、そのことを人は「合理主義だと批判した」が、彼は、「教義学的な合理主義を明確に否定」して、神学を「一般的真理としてではなく、啓示から得られた認識」、具体的には第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言（最初の直接的な第一の啓示の「概念の実在」）としてのイエス・キリストの「実在から」（もっと言えば、第三の形態の神の言葉である教会の＜客観的＞な信仰告白および教義から）啓示認識の可能性について考えたのである。また、アウグスティヌスは、「三位一体の痕跡」である「想起（記憶）、知解、愛」としての「人間の中での神の像」を、「最も身近な最も高貴な認識根拠」として、それを「聖書的・教会的・教義的前提」としたが、アンセルムスは、アウグスティヌスとは違って、徹頭徹尾、「教えられつつ語る」のであって、「われわれの理性に内在している神概念の再想起」において「創造しつつ神について語ろう」とはしなかったし、「認識的なラチオ性〔理性性〕」は、「啓示（≪客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事に関わる≫）、恵み（≪全き自由の神のその都度の全き自由の恵みの決断に関わる≫）、信仰（≪客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事に関わる≫）」を前提条件としていた、また神と人間との無限の質的差異の下で、われわれ人間が「神の存在を問う問い」は、神とは全く異なる被造物としてのわれわれ人間にとって、それは「考えることの対象である限り」、「対象そのものを問う問い」として、対象を「考えられたものへと解消」しないで、その「独立的に存在する対象そのものとして問わなければならない」のである、それ故に三位一体の唯一の啓示の類比としての神の言葉の実在の出来事である、それ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的可視的に存在している「神の言葉の三形態」（換言すれば、キリスト教に固有な類と歴史性）の関係と構造（秩序性）に従わなければならないのである、またアンセルムスは、「いかなる人間もほかの者に教えることができないことを教えることができ、また繰り返し教えるであろうことを信頼していた客観的な根拠」、すなわち「信仰の対象そのものの客観的根拠」の「力強さを念頭において」、換言すれば「啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力に信頼」して、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動に信頼して、「非キリスト者をキリスト者として、不信者を信者として語りかけ」、「信者と不信者の間の深淵を超え」出て、「彼が自分を不信者たちに対して不信者たちと同類の者としておき、不信者たちを自分と同類の者として受けとる」ことができたのである。何故ならば、「神の語り、行為、秘義」である啓示は、啓示に固有な証明能力を、キリストの霊である聖霊の証しの力を、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動を持っており、人間的な「証明を必要としない」からである。
さて、「イエス・キリストの教会の中でのすべての語りと聞くこととは、徹頭徹尾……神がイエス・キリストの教会の中で（≪神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいて、すなわち具体的には第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言における客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事とその啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事に基づいて、終末論的限界の下で、人間的に≫）認識されるということ、……あの主体（≪キリストにあっての神≫）が、語る者と聞く者に対して（≪啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の運動において≫）対象（≪聖霊の業である「啓示されてあること」――すなわち「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性≫）として現臨するということ、人間が教会の中で現実に神の前に立つということに基づいているし、またそのことと関わっている」。したがって、「もしも人間が現実に神の前に立っておらず、もしも神が人間のその知覚その直観と概念を用いて為す把握の対象でないとするならば、もしも人間が……神を認識しないとするならば、人間は神について語り聞くことはできない」のである。
このような訳で、「われわれは、神は神の言葉（≪聖霊自身の業である「啓示されてあること」――すなわち「神の言葉の三形態」の関係と構造・秩序性≫）を通して認識され、繰り返し認識されるであろうということから出発する」。したがって、第三の形態の神の言葉に属する全く人間的な「キリスト教会という場所における神認識」は、啓示自身が持っている啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による「啓示と信仰の出来事」に基づいてだけ、「ただそれによってだけ神認識は実在であり、実在を持っており、ただそれに基づいてだけ神認識が遂行され得る神の言葉（≪起源的な第一の形態の神の言葉、具体的には第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言における神の言葉≫）を通して基礎づけられており、その限り（≪神認識は、教会の宣教の、それ故に教義学の原理・規準・法廷・審判者・支配者としての≫）神の言葉（≪具体的には、第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言≫）を通して問いに付されている……」のである。「そのようなわけで、神は果たして認識されるのかということは問うことができない」のである。「それと共に既に、（中略）神が認識されるところ、そこではそれに対応する可能性があるのである」。この「可能性を問う問い」は、「抽象的ニ問」うことはできず、「具体的ニ問う」ことができるだけであり、「先験的ニ問」うことができず、「経験的ニ問」うことができるだけである。何故ならば、神認識を「抽象的ニ」、「先験的ニ」問う問いは、「神の言葉の真理、威厳、権能」を後景へと退けてしまうところの「神認識そのものの外部にあるひとつの場所が存在することを前提している」からである、換言すればそれは、人間の側からする神との「混淆」・「混合」、神との「共働」・「協働」、「神人協力」、また人間学と神学との「混合」という自然神学の場所あるいは自然的な信仰・神学・教会の宣教の場所が前提されているからである。
このような訳で、「イエス・キリストにあっての神の言葉の実在が、またその中での神の言葉が人間のところに来る聖霊の実在」が、「その可能性を自分自身の中に持っているように」、換言すれば啓示自身が、啓示に固有な証明能力、キリストの霊である聖霊の証しの力、起源的な第一の形態の神の言葉自身の出来事の自己運動、神のその都度の自由な恵みの決断による客観的なイエス・キリストにおける啓示の出来事とその啓示の出来事の主観的側面としての「聖霊の注ぎ」による信仰の出来事に基づいて終末論的限界の下で信仰の認識としての神認識（啓示認識・啓示信仰、人間的主観に実現された神の恵みの出来事）を与えることができる授与能力を持っているように、「神認識の可能性」は、その「現実の認識そのものから問う」ことができるだけなのである。第三の形態に属する全く人間的なキリスト教会という場所における神認識の可能性は、具体的にはそれ自身が聖霊の業であり啓示の主観的可能性として客観的に存在している「神の言葉の三形態」（換言すれば、キリスト教に固有な類と歴史性）の関係と構造（秩序性）における第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界において絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、問うことができるだけなのである。したがって、前述したような意味での神の言葉から、「どの程度まで神は認識されるのか、またどの程度まで神は認識可能であるのか」という問も立てることができるだけである。「これらの問い」は、「正当であり、意味深い」のである。何故ならば、それらの問いが、「教会の宣教のまことの問いであり」、それ故に「教会の宣教における補助的奉仕」であり「一つの機能」である「教義学のまことの問いであり、教義学の形式的および実質的課題のまことの対象であるからである」。
このような訳で、「そのように立てられた問いを持っている人は、（≪第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言を自らの思惟と語りにおける原理・規準・法廷・審判者・支配者として、終末論的限界の下で絶えず繰り返し、それに聞き教えられることを通して≫）教える教会においても、（≪「新しく証言して行くよう呼び出されるために」≫）聞く教会においても、（≪第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト自身を起源とする第二の形態の神の言葉である聖書的啓示証言を媒介・反復することを通して、すなわちそれに聞き教えられることを通して教えるという仕方で、起源的な第一の形態の神の言葉であるイエス・キリスト――「啓示ないし和解の実在」そのものと間接的媒介的反復的に同一となることによって≫）神の言葉の轍の上を進み行く」のである。このようにして、それぞれの世代、それぞれの世紀において、キリスト教に固有な類の時間累積を為していくのである、キリスト教に固有な類の歴史性に連続していくのである。「それ以前に語られた神ご自身の言葉……と自分を関わらせている…… 時、正しい内容を持っている」ということであり、「われわれ以前の人々によってなされた教義学的作業の成果」は、「根本的には……真理が来るということのしるし」である（『教会教義学 神の言葉』）。